鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第四十三話 ― 隠れ里

 

移動は、

静かに進んだ。

 

炭治郎は、

ほとんどの時間を

眠ったまま運ばれていた。

 

目隠し。

 

耳栓。

 

鼻栓。

 

人から人へ。

 

担がれ、

渡され、

また担がれる。

 

途中で一度だけ目を覚ました時、

すでに場所は大きく変わっていた。

 

空気が違う。

 

湿り気がある。

 

山の匂いが濃い。

 

だが――

 

それだけじゃない。

 

何かが、

“外と切り離されている”ような感覚。

 

炭治郎は、

ぼんやりとした意識の中で

それだけを感じ取っていた。

 

 

「……着きましたよ」

 

静かな声で、

炭治郎は目を覚ます。

 

目隠しが外される。

 

光が差し込む。

 

一瞬だけ視界が白くなる。

 

そして――

 

そこには、

里があった。

 

山の中。

 

深く、

外からは決して見えない場所。

 

小さな家々が並び、

煙が上がり、

鉄を打つ音が響いている。

 

刀鍛冶の里。

 

それが、

目の前にあった。

 

「わぁ……」

 

思わず、

小さく声が漏れる。

 

静かだ。

 

だが、

完全な静寂ではない。

 

生活の音がある。

 

火の音。

 

鉄の音。

 

人の動く気配。

 

それらが、

不思議な調和でこの場所を満たしていた。

 

だが――

 

炭治郎はそこで、

ほんのわずかに眉を寄せる。

 

匂いが違う。

 

鉄の匂い。

 

炭の匂い。

 

硫黄の匂い。

 

人の匂い。

 

それらが混ざっているのに――

 

どこか、

“整いすぎている”。

 

自然ではない。

 

作られた空間の匂い。

 

そんな違和感が、

鼻の奥に引っかかった。

 

「どうした?」

 

伊之助が横から顔を出す。

 

炭治郎は少し考えてから、

首を振る。

 

「……いや、大丈夫」

 

言葉にはできない。

 

だが、

何かが少しだけ違う。

 

その感覚だけが残った。

 

 

「おい」

 

低い声が飛ぶ。

 

振り向くと、

一人の男が立っていた。

 

顔は覆面。

 

身体つきは細い。

 

だが、

ただの里の人間ではないと

一目で分かる気配。

 

「お前が竈門炭治郎か」

 

「はい」

 

炭治郎はすぐに頷く。

 

男は腕を組み、

露骨に不機嫌そうな声で言った。

 

「刀、壊したらしいな」

 

「……はい」

 

「“かなり”らしいな」

 

「……はい」

 

間があった。

 

善逸が横で

小さく笑いを堪えている。

 

伊之助は普通に笑っている。

 

炭治郎は視線を逸らした。

 

男はため息をつく。

 

「鋼鐵塚がキレてる」

 

「……はい」

 

「覚悟しとけ」

 

「……はい」

 

完全に、

怒られる流れだった。

 

だがそのやり取りの奥で、

炭治郎はもう一つの違和感を感じていた。

 

この里の人たち。

 

普通に見える。

 

だが――

 

“隙がない”。

 

歩き方。

 

立ち方。

 

視線の動き。

 

どれもが、

妙に整っている。

 

戦う人間ではない。

 

だが、

戦場を知っている動き。

 

炭治郎の中で、

その感覚が静かに残る。

 

 

「すげぇなここ!!」

 

伊之助が勝手に歩き回る。

 

「鉄の匂いだらけじゃねぇか!!

ここ全部刀か!?」

 

「違うよ!!」

 

善逸が慌てて引き戻す。

 

「勝手に触るなって絶対怒られるって!!」

 

「怒られたら逃げりゃいいだろ!!」

 

「なんでそうなるんだよ!!」

 

いつもの騒がしさ。

 

だが、

里の人間たちは

それを見ても大きく反応しない。

 

ちらりと見る。

 

それだけで終わる。

 

過剰に関わらない。

 

その距離感が、

炭治郎には少しだけ不思議だった。

 

 

炭治郎は一歩、

里の中へ足を踏み入れる。

 

地面は固い。

 

踏み固められている。

 

無駄な段差がない。

 

道も、

家の配置も、

すべてが“機能的”に見える。

 

生活の場所でありながら、

どこか――

 

“崩れないように作られている”。

 

炭治郎の胸の奥で、

何かが静かに重なる。

 

遊郭で感じたものとは違う。

 

だが――

 

似ている。

 

崩れない。

 

崩させない。

 

そのための形。

 

「……」

 

炭治郎は、

もう一度周囲を見る。

 

この里は、

ただの隠れ里じゃない。

 

守られている。

 

意図的に。

 

徹底的に。

 

そう感じた。

 

 

その時だった。

 

ふと、

炭治郎の視線が止まる。

 

少し離れた場所。

 

一軒の家の前。

 

誰かが立っていた。

 

隊服。

 

派手さはない。

 

だが、

立ち方が違う。

 

重心が低い。

 

無駄がない。

 

崩れない立ち方。

 

炭治郎の目が、

わずかに見開かれる。

 

あの立ち方を、

知っている。

 

一瞬だけ、

その人物がこちらを見る。

 

視線が合う。

 

だが次の瞬間には、

何事もなかったように

視線が外れる。

 

そして、

そのまま里の奥へ消えていった。

 

「……今の」

 

炭治郎は思わず呟く。

 

「ん?どうした?」

 

善逸が振り向く。

 

炭治郎は、

少しだけ迷ってから言う。

 

「……いや、なんでもない」

 

気のせいかもしれない。

 

だが――

 

確かに今、

見た。

 

“崩れない立ち方”をする人間を。

 

 

 

里の奥で、

鉄を打つ音が響く。

 

カン、カン、カン。

一定のリズム。

 

その音は、

どこか心地よくもあり、

同時に緊張を含んでいた。

 

ここは安全な場所だ。

 

だが――

 

完全に安心できる場所ではない。

 

そんな、

不思議な感覚。

 

炭治郎は静かに息を吸う。

 

遊郭とは違う。

 

だが、

ここにも“戦いの形”がある。

 

まだ見えていないだけで、

確実に存在している。

 

そしてその中心へ、

自分たちは向かっている。

 

炭治郎は一歩、

さらに奥へ進む。

 

その背中に、

わずかな緊張が宿る。

 

刀鍛冶の里。

 

ここで何が起きるのかは、

まだ分からない。

 

だが――

 

ただの休息では終わらない。

 

その予感だけは、

はっきりとあった。

 

 

第四十三話 終

 

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