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刀鍛冶の里は、
鬼殺隊にとって決して失ってはならない場所だった。
上弦討伐の報が届いた後、
いくつかの重要拠点には
密かに警戒が敷かれていた。
真壁堅がこの里にいるのも、
その一つに過ぎない。
前へ出るためではない。
崩れてはならない場所で、
最後まで立つために。
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朝の空気は、
冷たく澄んでいた。
だが炭治郎の身体は、
昨日の疲労をそのまま引きずっていた。
足が重い。
踏み込むだけで、
筋肉が鈍く軋む。
それでも――
「お願いします」
迷いなく、
構えた。
小鉄は何も言わない。
ただ静かに、
絡繰人形・縁壱零式を動かす。
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一撃目。
受ける。
押される。
戻す。
二撃目。
足を置く。
三撃目。
沈む。
四撃目。
戻す。
――昨日と同じだ。
身体が覚え始めている。
ほんのわずかだが、
確実に。
「……いける」
小さく、
そう思った。
その瞬間だった。
五撃目。
わずかに、
踏み込みが強くなる。
早く。
もう一歩。
通したい。
その意識が、
ほんの少しだけ前へ出た。
――ズレた。
足が、
遅れる。
六撃目。
対応が遅れる。
「っ!」
受ける。
だが、
戻しが間に合わない。
七撃目。
完全に崩れる。
「がっ……!」
胴へ直撃。
身体が浮く。
地面に叩きつけられる。
肺の空気が、
一気に抜けた。
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「……今のです」
小鉄の声。
炭治郎は地面に倒れたまま、
その言葉を聞く。
「戻れていました」
「でも、崩れました」
炭治郎は歯を食いしばる。
分かっている。
原因も、
はっきりしている。
「……焦りました」
「はい」
即答だった。
容赦がない。
だが、
それでいい。
小鉄は続ける。
「通そうとした瞬間、
足が死にました」
その言葉が、
胸に刺さる。
炭治郎はゆっくりと起き上がる。
息が苦しい。
身体も重い。
それでも、
もう一度立つ。
「……もう一回」
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零式が動く。
一撃目。
受ける。
戻す。
二撃目。
置く。
三撃目。
沈む。
四撃目。
戻す。
ここまではいい。
だが――
五撃目。
また、
ほんの少しだけ意識が前に出る。
「……!」
止める。
今度は無理に行かない。
その瞬間――
六撃目が来る。
遅れない。
受ける。
戻す。
七撃目。
足を置く。
八撃目。
沈む。
「っ……!」
続く。
だが、
今度は崩れない。
通していない。
押し返してもいない。
ただ、
残っている。
その状態が、
数瞬続いた。
――初めてだった。
炭治郎の目が、
わずかに開く。
だが次の瞬間、
九撃目で完全に崩される。
「がっ……!」
再び、
地面へ。
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荒い息の中で、
炭治郎は空を見上げる。
悔しい。
さっきより、
明確に分かる。
「行こうとすると崩れる」
それが、
はっきり見えた。
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「……まだです」
小鉄の声。
炭治郎は苦笑する。
「分かってる」
短く返して、
ゆっくりと立ち上がる。
脚が震える。
だが、
止まらない。
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少し離れた場所。
「また転がってる……」
善逸が顔をしかめる。
「昨日よりひどくない……?」
「違ぇだろ」
伊之助が即座に言う。
「あいつ、
自分で崩してる」
善逸が眉をひそめる。
「え?」
伊之助は腕を組む。
「昨日は、
何もできずに崩されてた」
「今は違う」
「“行こうとして崩れてる”」
その言葉に、
善逸は黙る。
確かにそうだった。
さっきの一瞬。
炭治郎は、
確実に残れていた。
だが同時に、
自分で崩していた。
「……めんどくさい段階入ったな」
善逸が小さく呟く。
伊之助は笑う。
「そこ越えたら強ぇぞ」
短い言葉だった。
だが、
妙に重かった。
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炭治郎は再び構える。
足元へ意識を落とす。
通さない。
決めない。
まずは――崩れない。
それだけに絞る。
「……お願いします」
零式が動く。
一撃目。
二撃目。
三撃目。
続く。
だが今度は、
意識が前へ出ない。
通したい気持ちを、
抑える。
押し込まず、
残る。
その状態が、
少しずつ伸びていく。
四撃。
五撃。
六撃――
「……!」
また一瞬、
通せる形が見える。
だが、
行かない。
行けば崩れると、
もう分かっている。
その判断だけで、
さらに一拍、
残れる。
だが――
七撃目で、
やはり崩される。
「ぐっ……!」
転がる。
息が切れる。
だが今度は、
悔しさよりも先に
確信があった。
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「……順番だ」
炭治郎が小さく呟く。
小鉄の目が、
わずかに動く。
「通すのは後だ」
「まず、
崩れない」
「その上で、
繋ぐ」
その言葉に、
小鉄は短く頷いた。
「はい」
初めて、
完全な肯定だった。
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夕方が近づく。
炭治郎は、
何度も崩れた。
何度も転がった。
それでも――
昨日とは違う。
崩れ方が違う。
戻り方が違う。
そして何より――
「崩れる理由」が、
自分で分かる。
それが、
一番大きかった。
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最後の一回。
炭治郎は静かに構える。
足を置く。
重心を落とす。
呼吸を整える。
「……お願いします」
零式が動く。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
五撃。
六撃。
続く。
だが、
行かない。
通さない。
ただ、
残る。
七撃。
八撃。
九撃――
「っ……!」
ここで初めて、
限界ではなく
“判断”で止まる。
自分から崩れず、
止めた。
その瞬間、
零式の動きが止まる。
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炭治郎は、
その場に立ったまま
息を吐く。
苦しい。
だが――
今までとは違う。
小鉄が静かに言った。
「それです」
短い一言。
だが、
はっきりしていた。
炭治郎は、
ほんの少しだけ笑う。
「……はい」
まだ足りない。
まだ通せない。
だが――
崩れない時間は、
確実に伸びている。
そしてその上に、
次が積まれる。
夕暮れの風が吹く。
木々が揺れる。
その中で、
炭治郎は静かに立っていた。
崩れない足で。
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第四十七話 終