鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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第六十七話 ― 分かたれた道

⸻

 

首が、落ちている。

 

小さく、

頼りなく、

今にも消えそうなほど弱々しいそれが――

 

確かに、

この戦場の終わりだった。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

炭治郎が息を吐く。

 

肺が焼けるように熱い。

 

腕が重い。

 

それでも、

視線は逸らさない。

 

半天狗の匂いが、

崩れていく。

 

終わる。

 

今度こそ。

 

(やった……)

 

その瞬間だった。

 

ゾワッ――

 

空気が揺れる。

 

「……!」

 

炭治郎の鼻が反応する。

 

違う。

 

終わりじゃない。

 

何かが、

まだ残っている。

 

バキ……ッ

 

遅れて、

音が響いた。

 

崩れる音。

 

遠く。

 

重い何かが、

一気に崩れ落ちていく。

 

「……っ!」

 

善逸が顔を上げる。

 

「まだ……終わってない……!?」

 

伊之助が低く唸る。

 

「臭ぇのが……消え切ってねぇ……!」

 

その時――

 

ドゴォォン!!

 

地面が揺れる。

 

空気が震える。

 

憎珀天。

 

その気配が、

一気に乱れた。

 

「……崩れてる」

 

炭治郎が呟く。

 

支えを失った。

 

本体を断たれた。

 

だから――

 

あの鬼もまた、

終わりへ向かっている。

 

だが。

 

同時に。

 

風が変わる。

 

「……朝だ」

 

善逸の声が、

震える。

 

夜の匂いが、

消えていく。

 

冷たい空気の奥に、

わずかに混じる熱。

 

光が来る。

 

確実に。

 

⸻

 

「まずい……!!」

 

炭治郎が振り返る。

 

禰豆子。

 

そこにいる。

 

崩れた瓦礫の間。

 

開けた空間。

 

逃げ場のない場所。

 

光が、

差し込もうとしていた。

 

「禰豆子!!」

 

駆ける。

 

足がもつれる。

 

間に合わない。

 

(やばい――)

 

⸻

 

その瞬間。

 

ドゴォッ!!

 

地面が弾ける。

 

崩れた木材が、

横から倒れ込んできた。

 

「っ!!」

 

炭治郎が足を止める。

 

視界が塞がれる。

 

瓦礫の壁。

 

ほんの一瞬。

 

それだけで――

 

距離が開く。

 

「禰豆子!!!」

 

叫ぶ。

 

手を伸ばす。

 

届かない。

 

⸻

 

光が、差す。

 

細い線だった。

 

だが――

 

確実に、

そこにある。

 

禰 豆子の足元へ、

触れようとしていた。

 

「っ……!!」

 

炭治郎の呼吸が乱れる。

 

(間に合わない)

 

分かる。

 

もう分かってしまう。

 

このままじゃ――

 

⸻

 

その時だった。

 

禰豆子が、

 

炭治郎を見た。

 

まっすぐに。

 

何も言わない。

 

ただ――

 

一歩、前へ出る。

 

「……!」

 

炭治郎の目が見開かれる。

 

違う。

 

逃げていない。

 

避けていない。

 

むしろ――

 

光の方へ寄っている。

 

「なにしてる……!!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「来い!!こっちに来い!!」

 

必死に手を伸ばす。

 

だが。

 

禰豆子は動かない。

 

その代わり――

 

ぐっと、

 

地面を踏んだ。

 

そして。

 

炭治郎の方へ――

 

押した。

 

「っ――!?」

 

見えないはずなのに、

 

はっきり分かった。

 

“押された”

 

空気ごと。

 

流れごと。

 

炭治郎の身体が、

 

前へ出る。

 

瓦礫を越える。

 

道が開く。

 

⸻

 

その先。

 

半天狗の胴が、

 

まだ僅かに蠢いていた。

 

「っ……!」

 

炭治郎の足が止まる。

 

振り返る。

 

禰豆子。

 

そこにいる。

 

光の中に。

 

⸻

 

「禰豆子……!!」

 

声が裂ける。

 

足が動かない。

 

行かなきゃいけないのに。

 

助けなきゃいけないのに。

 

(どっちだ……)

 

頭が揺れる。

 

禰豆子か。

 

鬼を終わらせるか。

 

(どっちも……)

 

無理だ。

 

分かっている。

 

どっちもは、

 

無理だ。

 

⸻

 

「……っ」

 

炭治郎の歯が鳴る。

 

その時。

 

禰豆子が、もう一度見た。

 

まっすぐに。

 

焦る兄を。

 

揺れる兄を。

 

そのまま――

 

一歩、踏み出す。

 

光の中へ。

 

⸻

 

ボッ

 

炎が揺れる。

 

爆血。

 

自分の身体に灯した。

 

焼ける。

 

焦げる。

 

それでも――

 

動かない。

 

逃げない。

 

その姿が、

 

はっきりと伝えていた。

 

“行け”

 

炭治郎の呼吸が止まる。

 

「……っ」

 

涙が滲む。

 

それでも。

 

目を逸らさない。

 

思い出す。

 

全部を抱えるな。

 

繋げるものを選べ。

 

炭治郎の足が、

 

震えながらも――

 

前へ出る。

 

「……ごめん」

 

小さく、

 

呟く。

 

そして――

 

「行く」

 

 

 

踏み込む。

 

半天狗へ。

 

完全に終わらせるために。

 

背後で、

 

光が強くなる。

 

⸻

 

第六十七話 終

 

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