鬼滅の刃 ― 礎 ―   作:【規制済み】

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幕間 ― 基礎(当然)

 

 

朝は、早い。

 

まだ陽も昇りきらない時間。

 

他の柱稽古で脱落、辞退した隊士たちは、すでに並んでいる。

 

空気が張り詰めている。

 

ここに集められているのは、柱稽古から零れた者たちだ。

 

 

 

「本日より、君達の稽古を見る」

 

低く、声が落ちる。

 

視線が集まる。

 

前に立つ男。

 

柱を除く、最上級――

 

甲隊士――真壁 堅。

 

 

 

「基礎をやる」

 

 

 

それだけだった。

 

沈黙。

 

「……以上だ」

 

 

 

ざわつく。

 

 

 

「え、えっと……それだけですか?」

 

一人の隊士が恐る恐る聞く。

 

「それだけだ」

 

即答。

 

 

ざわつきが、大きくなる。

 

 

 

横で、不死川が舌打ちする。

 

「雑にも程があんだろ……」

 

一拍。

 

「……間違ってねぇのがムカつくが」

 

伊黒が続く。

 

「説明になっていない」

 

一瞬の間。

 

「が、理屈は通っている」

 

「だから厄介だ」

 

 

 

甘露寺が少し困ったように笑う。

 

「やっぱり私達も見に来て良かったかも……」

 

「もう少し優しく説明してあげもいいんじゃないかな…」

 

 

 

真壁は、少しだけ考える。

 

 

 

「……では」

 

 

 

全員が息を呑む。

 

 

 

「走る」

「受ける」

「崩れない」

 

 

 

 

 

 

「崩れない者だけが、崩れない」

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

「当然だ」

 

 

 

空気が、止まる。

 

 

 

「走れ」

 

 

 

山へ向かう。

 

遠い。

 

「往復だ」

 

ざわつきが戻る。

 

「頂上まで」

 

「往復だ」

 

二度目。

 

「制限時間は」

 

「設けない」

 

一瞬の安堵。

 

「ただし」

 

「全力を維持しろ」

 

 

沈黙。

 

 

「……はい?」

 

 

 

「落とすな」

 

 

それだけ。

 

 

 

 

走り出す。

 

最初は、全員が速い。

 

だが。すぐに崩れる。

 

呼吸が乱れる。

 

足が止まる。転ぶ。

 

一人、膝をつく。

 

「……っ、くそ……!」

 

(やっぱり……無理だ)

 

一度、外れた。

 

柱稽古から。

 

 

ここでも駄目なら。

 

もう――

 

その横を、真壁が通る。

 

同じ速度で。

 

変わらない。

 

 

 

「……違う」

 

 

 

足が、止まる。

 

 

 

「配分が甘い」

 

 

 

「最初から出し過ぎだ」

 

「維持できる全力に落とせ」

 

(……全力???)

 

 

顔を上げる。

 

 

 

真壁は、もう見ていない。

 

ただ前にいる。

 

崩れない。

 

「崩れない速度だ」

 

息を吸う。

 

もう一度、踏み出す。

 

遅い。

 

だが。

 

止まらない。

 

やがて。

 

 

「ここまで」

 

 

崩れるように止まる。

 

 

「次だ」

 

また空気が、固まる。

 

 

〜水柱稽古場〜

 

「受ける」

 

沈黙。

 

「……誰からやる」

 

誰も動かない。

 

その中で。

 

 

 

一人、前に出る。

 

さっきの隊士。

 

足は震えている。

 

「……俺が」

 

「小守…大丈夫かよ…」

 

同期の隊士が心配そうに声をかける。

 

実弥が笑う。

 

「……へぇ」

 

真壁が一歩前へ出る。

 

「構えろ」

 

――ドンッ!!

 

吹き飛ぶ。

 

 

「……違う」

 

「受けるな」

 

沈黙。

 

「崩れるな」

 

(何が違うんだ……)

 

立つ。

 

もう一度構える。

 

 

――ドンッ!!

 

 

 

後ろに滑る。

 

だが。

 

倒れない。

 

一歩。踏みとどまる。

 

 

「……それだ」

 

 

「せっかくだァ、俺もやる」

 

不死川が前に出る。

 

 

「受けてみろよ」

 

 

――ザンッ!!

 

速い。重い。

 

「遅ぇ」

 

――ドンッ!!

 

「荒れて見えんだろ」

 

「外してねぇだけだ」

 

 

伊黒が前に出る。

 

「次」

 

――ヒュン

 

「っ!?」

 

見えない。

 

「無駄が多い」

「削れ」

「最短で届く形だけを残せ」

 

 

「じゃあ私も少しだけ……」

 

甘露寺が笑う。

 

――ヒュンッ!!

 

「えっ!?」

 

受けたはずの刃が、滑る。

 

「力まないで」

 

「でも、抜かないで」

 

 

(どっち!?)

 

 

――ドンッ!!

 

弾かれる。

 

「合わせて」

 

気づけば。

 

 

全員、息を切らしている。

 

違う。

 

 

やられ方が違う。

 

 

だが。

 

全員、立っている。

 

真壁が、それを見る。

 

 

「……良い」

 

 

「崩れていない」

 

「続ける」

 

 

逃げ場はない。

 

だが。止まらない。

 

幕間 前編 終

 

 

 

 

 

 

幕間後編⸻未満

 

静かだった。さっきまでの音が、嘘のように消えている。地面に座り込む者、横たわる者、動けない者。誰も、口を開かない。息だけが、荒い。

 

「……無理だ」

 

ぽつりと、誰かが呟く。否定は、ない。できない。分かっている。ここが、どこか。自分たちが、何なのか。

 

「俺たち……」

 

言葉が、続かない。柱には、なれない。あの背中には、届かない。

 

 

沈黙。

 

 

一人が、立つ。足は震えている。だが、向く先は決まっている。

 

「……俺、降ります」

 

声は小さい。だが、はっきりしている。何人かが目を逸らし、何人かが俯く。責める者はいない。責められない。それが、“現実”だからだ。

 

「……そうか」

 

真壁の声。短い。止めない。引き止めない。それだけで、十分だった。

 

一拍。

 

「他に出来ることはある」

 

誰も、否定しない。

 

「だが」

 

「ここは違う」

 

視線が、残った者へ向く。

 

「残るなら」

 

「甘えるな」

 

空気が、締まる。優しさは、ある。だが、逃げはない。

 

立っていた隊士が、頷く。

 

「……はい」

 

そのまま、去る。振り返らない。

 

残った者たちの呼吸が、揺れる。

 

「……俺は」

 

小守と呼ばれた隊士。膝をついた男。拳を握る。

 

「残ります」

 

声は震えている。だが、折れていない。

 

真壁は、見る。長くは見ない。

 

「なら、立て」

 

それだけ。

 

誰も、楽にはならない。それでも、残る者がいる。それで、十分だった。

 

 

幕間 終

 

 

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