華麗なる逆転劇が起こった。
どうやら俺は入団審査を選外されたのではなく、最初から特別枠での出場が予定されていたらしい。
そのためどこのパーティーにも配属されなかったのだとヴィオレットさんから聞かされた。
同時に不安を抱かせてすまなかったと頭を下げられたのだが、こちらは謹んで辞退した。天高き頂に住まうお方が地上の勘違い甚だしい下賤な輩に頭を垂れるなど、あまりにも恐れ多かったからな。
現在俺たちが向かっているのは、客間にある応接室である。
そこに俺が担当することになるパーティーメンバーを待たせているのだそうだ。
どうしてそんなところで待機をさせているのかと尋ねると、「説明会は退屈だから出たくないと駄々をこねるから」との返答が。王国探検隊のトップを捕まえておきながらなんてわがままな奴らなんだ。まるで子供のような振る舞いに憤る。
だがちょっと待てよ。
ということはその冒険者たちはもしかしてそんな横暴が許される大物なのだろうか。
多少のわがままには目をつむってやるほど優秀な人材なら、あるいはそのような無礼を見逃してもらえるのではないだろうか。
「ところでそのパーティーのメンバーってどんな人たちなんですか?」
ああだこうだと一人で考えても埒があかないので、ここは一つ正解を知っている人物に伺うことにする。
というのは建前で、本当は少しでもヴィオレットさんと話がしたくて適当な話題を探していただけなのだが。
ああそうだとも、俺は分かりやすく舞い上がっていた。
「それはあってからの楽しみだ」
肝心の答えはというと、はぐらかされた。
つまりよくない可能性の方が上であるということだ。もちろん反対の可能性だってあるが。
ここは彼女の言う通り、とりあえず会ってみれば分かるか。話を聞く限りだと、どうも問題児みたいだが。
「着いたぞ。この部屋だ」
花刺繍で縁取られた豪奢な扉の横にヴィオレットさんが立つ。
どうやら先に入室しろとのことらしい。
俺は彼女に失礼して輪っか状の取っ手を掴んだ。
軽く後ろに引くと、余計な負荷がかかっていないため音もなくするりと扉が開いた。
その先から顔を覗かせた部屋の中央にはガラスで出来た巨大な円卓があり、その周りを囲うように黒光りのするソファーが三脚置かれていた。
また、天井からずり下がる金色のシャンデリアは派手さを醸し出させるのに一役買っている。
そんな庶民には到底縁のないであろう豪華な部屋にいたのは、ひーふーみー、全部で五人の幼女たちだった。
……幼女?
どうやら、俺はいつのまにか幻覚魔法でもかけられていたらしい。でなければこの場に似つかわしくない幼女の姿など幻視するわけがない。魔法を解くため目をごしごし擦る。
しかし目の前の光景は変わらない。
視界の先には、いつまで経っても消えない五人の幼女の姿があった。つまりはあの幼女たちは本物ということだ。
俺は無言で扉を閉めた。
「なぜ閉める」
いやだって、そりゃあねえ?
「つかぬことを聞きますけど、この部屋に俺が担当するパーティーがいるんですよね?」
「そうだが?」
「……それってもしかしてあの五人の子供だったりしませんよね?」
「そうだが?」
なにを当たり前のことを聞いているんだみたいな感じでヴィオレットさんからあっさりと肯定され、目の前が暗くなる。間違いであってほしいという俺のささやかな願望は残念ながら潰えたようだ。
ということはなに、俺の役目って文字通り子守りってこと?
えっマジで?
せっかく逆転劇が起こったかと思ったら、とんだぬか喜びだったよ!
「悪いがあまり時間がないんだ」
悲観する俺を尻目にヴィオレットさんは手ずから扉を開き、強引に応接室に押し込めてくる。
無理やりとはいえ今度こそ室内に足を踏み入れた瞬間、五人の幼女の十の瞳が俺たちを捉えた。
「みんな、待たせたな」
開口一番ヴィオレットさんがお詫びの台詞を口にすると、即座に返事が戻ってくる。
「あーもう、ヴィオ子遅すぎー。おかげであーし肩がこっちゃったぁー」
このなんとも甘ったるい声を出しているのは、ソファーに腰掛けている幼女だ。
両足を投げ出すようにぶらぶらさせ、反対に頬をぶうぶう膨らませている。いかにも年端のいかない子供がやりそうな行為だ。しかしそんなことはどうでもいい。些末な問題だ。
それよりも俺が気になったのは、その子がヴィオレットさんのことをヴィオ子などと呼んだことだ。
仮にも王国探検隊を目指すのならば敬愛して然るべき彼女に愛称をつけるだなんて、当の本人が大人の対応で済ませているからいいものの、下手したら軍法会議ものだぞ。もちろん議長は俺な。
「おい、まちくたびれてはらがへったぞ」
今度はひときわ小柄な幼女が平坦な口調で不平を漏らす。
それと並行して彼女のお腹の虫がぐーと可愛らしい音色を奏でた。微笑ましい、いかにも食べ盛りの子供といった感じである。
しかしよく見ると、空腹を訴えるその手にはチョコレート菓子が握られている。よく分からないけど、あれはいざという時の非常食なのだろうか。
「わたくしはお花摘みに参りたいのですけれど」
これはいかにも良家出身と思われる幼女から。
お花摘みに参りたい、という言い回しは主に貴族令嬢などが用いるもので、意味は「トイレに行きたい」だ。要はもれそうだけど、人前で尿意を伝えるのは恥ずべき行為と考えている身分の高い方たちが考案した、秘密の暗号である。
ここでもらされても困るからとヴィオレットさんはひとまずその幼女をそれとなくトイレに向かわせたのだが、その際トイレという単語は使わず、それがある場所の行き方だけを教えるという心遣いは俺も見習いたい。
「お、男の人……」
部屋の片隅で手持ちぶさたそうに佇んでいた幼女と目が合った瞬間、慌てて目をそらされた。どうやら俺が怖いようだ。
無理もない、普通このぐらいの年齢なら年上の男がどうしても苦手なもんだ。決して俺の顔が強面とか目つきが鋭いからではない。ないったらない。
確かに何度か「お前って人を二、三人殺してそうな顔してるよな」とカイリから言われたことがあるが、あれはきっと誇張表現だろう。だって、ちょっと俺が脅したらすぐに撤回してくれたし。
よし汚名を払拭するためにも、ここは一つ俺のさわやかな笑顔であの子の緊張をほぐしてやろう。幸いちらちらとこちらを見てくる辺り、まだ完全には嫌われてはないらしい。
だからもう一度目が合ったタイミングに合わせて俺の必殺スマイルを披露してあげた。するとその子は「ひっ」という短い悲鳴とともに勢いよく後ろを向いてしまった。ははあ、照れたか。
「えー? 男ぉ?」
この無愛想な声を発しているのは、ガラス円卓に行儀悪く片足を乗せてソファーの上でふんぞり返っている幼女である。その様子から気が強そうな子な印象を受けるが、事実俺の姿を確認するなり、刺すような視線を送ってくる。とりあえず敵意とまではいかないものの、かといって歓迎されているわけではなさそうだ。
そんな彼女の冷たく、けれども脆そうな目。
まるで弱音を必死で耐えているかのような印象を受けるその瞳に、なぜだか意識が向いてしまう。
「ちょっと、誰よそいつ」
「君たちのパーティーに配属される執事だ」
ヴィオレットさんは極めて簡潔に俺のことを説明してくれた。
だが待ってほしい。彼女に文句を付けるわけではないが、頭文字にエリートの一文が抜けてしまっている。これでは説明として不十分ではないかと地に這いずり回る羽虫が恐れ多くも進言したい。
「執事ぃ? そんなのいらないわよ。一人増えたら報酬の分け前が減るじゃないの」
ああなるほど。俺が歓迎されていない理由はこれか。見れば他の幼女たちもうんうんと頷いている。
報酬、ざっくり言えば金目の物はダンジョン探索における目的の一つだ。
理想やロマンに燃え、まだ見ぬ未踏の地を目指す者を人は冒険者と呼ぶ。
それについて否定をするつもりはないが、やはり先立つものがなければ飯は食えない。だから冒険者は金を得るために自分の、時には仲間の命をかけてダンジョンに挑むのだ。なので報酬の分け前が減るということは、その分だけ危険に身を投じる回数が増えるのと同じわけで。だから彼女たちが俺の加入に難色を示すのも無理らしからぬことだった。
「入団試験を受けたかったら執事をパーティーに入れることが条件だと約束しただろう?どこのパーティーも同じ条件なんだ、そこまで君たちだけを特別視することはできない。それとも君たちは試験が受けられなくなってもいいのか?」
「うぐ、それは困る……。分かったわよ、そいつを入れればいーんでしょ、入れれば!」
「ま、どうせ後でクビにすればいいだけだしねー」
「いてもいなくてもどっちでもおなじだ」
「わ、わたしはえっと……」
ずいぶんと好き勝手言ってくれるなこいつら。
まあ仕方ないか、しょせん世間一般の執事の扱いなんてこんなものである。だけどせめて俺の処遇についての話し合いはひそひそ声でやってくれよ。
「お待たせしましたわ」
不意に扉が開かれ、用を足しに行っていた幼女が戻ってきた。つかつかと優雅な足取りで空いていたソファーにすっと腰かける。綺麗な所作だ、やはり育ちがいいのだろう。
「全員揃ったので、さっそく試験内容の説明に移らせてもらうぞ。君たちにはティールの森へ赴き、奥地にあるオダボイの樹から樹液を採取してきてほしい。期限日は、明日から数えて二週間だ」
ティールの森って王都の南西にある、冒険者に開放済みの森林地帯のことだよな。既に開かれたダンジョンに限り、冒険者も好き勝手に探索していい決まりになっているのだ。
「なんだ楽勝じゃーん」
「そうでもない。森の奥地に向かうにはフォレストベアの住処を通る必要があるからな」
「フォレストベアだって!?」
その名前を聞いて、思わず叫んでしまう。
「なによ急に大声を出して」
「ああ悪い。だけどフォレストベアってのは危険度ランクCのモンスターだぞ。間違っても実戦経験に乏しい初心者パーティーが勝てる相手じゃない」
「戦うのはあーしたちですけどー?」
「それはそうなんだが……」
ティールの森は危険なモンスターが比較的少ないことから冒険者の間でよく新人冒険者の登竜門と呼ばれているが、それはあくまでフォレストベアの住処まで足を踏み入れない場合の話だ。
ダンジョン探索にも慣れて分かりやすく慢心した新人が、奴らの巣に誤って足を踏み入れ、そのまま餌になった事例は数知れない。
それがきっかけでフォレストベアには新人冒険者殺しというあだ名が付けられているほどだ。
「案ずるな。つい先日、王国探検隊による定期駆除が行われている。危険は薄い」
「あ……」
そういえば忘れていた。繁殖期を終えたフォレストベアは生態系を乱さないように幼体だけを残し、奴らを危なげなく駆除できる王国探検隊メンバーによって討伐隊が組まれているというのは割と有名な話だった。この程度のことで取り乱してしまうとは情けない。
「ぶっころしたえものはどうしてるんだ。くうのか?」
邪気のない顔に似合わず発言が物騒だな、この腹ぺこ幼女は。
「彼らから採れる獣肉や毛皮は高く売れるからな。我々王国探検隊の資金繰りにも役立てさせてもらっているよ」
「……高い値で売れる?」
冒険者見習いとして耳聡いのは結構だが、どこに反応してるんだこっちの幼女は。
「さて、これで伝えるべきことはすべて伝えたぞ。後は君たちの方で自己紹介も交えつつ話し合うといい。私はなにかと忙しい身でね、少々慌ただしいがこれで失礼するよ」
入り口の扉の取っ手に手をかけたところで、ヴィオレットさんは手招きをする。
「ああレイド君、ちょっといいかな」
初めて見る彼女の可愛らしい仕草にグッときた、とくだらないことで感動している間に応接室を出て行ったので、急いでその背中を追いかける。
「重ねてすまないね、改めて君に言っておきたいことがあってな」
廊下の壁にもたれかかるようにして立っているヴィオレットさんになんとなくどきどきしてしまう。こういう場合、俺も彼女の隣で同じ体勢をとるべきだろうか。
「あの子たちは素晴らしい才能を持っているがなにぶんまだ幼い。己の力を過信し、時には道を見誤ることもあるだろう。そんなあの子たちの保護者として手綱を握ってやれるのはパーティーを陰から支える縁の下の力持ち——つまりレイド君、執事である君だけだ」
「でも、彼女たちから快く思われていないみたいですね」
「それは君があの子たちに心を開いていないからだよ。最初にあの子たちの姿を見た時、君は少なからず落胆しただろう。違うか?」
「それはまあ……」
図星だった。こういっちゃあなんだが、相手が幼女だったというだけで実力も分からぬうちから侮ってしまっていた。そんな心境を憧れの彼女に見抜かれたことが恥ずかしい。
「そういう微妙な雰囲気を彼女たちは鋭敏に感じ取り、心を閉ざした。『ああ、この男は自分たちが幼いというだけで見くびったんだな』——と」
的確な指摘にぐうの音も出ない。子供というのは、大人から子供扱いされるのが嫌いな生き物だ。たかだか幼いというだけで相手に落胆してしまうのは確かに早計だ。もっとも重要なのは冒険者としての能力だというのに。
「それについて、あれこれ説教するつもりはない。私が君に言いたいのは、相手のことを認め、互いに歩み寄る努力をすれば、必ず心が通じ合えるということだ。少なくとも私はそう信じている。大丈夫、君ならあのパーティーをまとめることができるさ。なんたってこの私が選んだ男なのだからな」
彼女がそう太鼓判を押してくれるのは素直に嬉しい。だが、
「……なんでヴィオレットさんはそこまで俺に期待をしてくれるんですか?」
単純に疑問だった。彼女のように高名が一人歩きしている人間ならいざ知らず、いくら優秀といっても俺は学校の外ではまだ実績を出してはいない。
なのになぜ彼女はそんな自分に目をかけるのか。まして人となりもろくに知らない若造を買う理由が知りたかった。
「君が有言実行できる者からだよ」
「え?」
思わぬ返答に面食らう俺を尻目に、彼女は滔々と語り始めた。
「十年前、私は王国探検隊の公務でハーベスト村を訪れたんだ」
ハーベスト村、俺の故郷。聖アークリル王国の遙か西側に位置する農村だ。
「そこで私はある一人の男の子と出会った」
彼女のその一言をきっかけに、俺の脳裏からある記憶が掘り起こされる。
当時、孤児院の視察で王国探検隊が村を訪れていた。まだ冒険者に興味がなかった俺はそれを遠巻きに眺め、歓待する大人たちの輪に交わろうとはしなかった。
そして王国探検隊が村に滞在する最終日、事件は起こった。
花の冠をプレゼントしたいから付き合ってとその頃仲がよかった女の子にせがまれて、二人でモンスターが生息する丘まで足を運んだ。
すると道中モンスターに襲われた。泣きべそをかく女の子を背後に、俺は震える両足を叱咤してそのモンスターに猛然と立ち向かった。いっぱしにヒーローなんぞ気取ってな。
だが当然歯が立たなかった。もはやこれまでと覚悟した時、すんでのところで村人からの要請で俺たちを捜し回っていたヴィオレットさんが駆けつけて、あれほど驚異的だったモンスターをたったの一撃で仕留めた。俺はその光景に息をするのも忘れて見入った。
槍の穂先についた血を払うその姿はまるで本当の戦乙女のようだったし、二つもの命を一瞬にして救って見せた彼女は正に俺の理想とするヒーローそのものだった。だから俺は彼女に憧れを抱いたのだ。
「その男の子は別れ際、私にこう言った。『十年経ったら王都に出て、俺もヴィオレットねーちゃんと同じ王国探検隊に必ずなる!』と。私は笑いながらその男の子に一つ約束をした。『なら、ディ・アークズに入学するといい。そこで君が優秀な成績を収めていたら私がスカウトにしに行くよ』とな。そしてその時約束を交わした男の子が君だ、レイド・クォーズウィル」
「覚えてて、くれたんですか」
「ああ。これまでにも王国探検隊に入団したいと夢を語る子供はたくさんいた。だが君のように具体的な宣言をしてきた子は初めてだった。忘れられるわけがない。そして実際、その時の男子がこうして私の前に立っている。幼い頃の夢を現実のものとするために」
……夢になったのはヴィオレットさんのおかげですよ。間近であなたのすごさを知ったから、俺も冒険者になろうと決めたんです。
「王国探検隊の約七割は王都出身者が占める。地方者ではどうしても埋めようのない環境の差というものがあるからな。君がそのハンデをものともせずここまでたどり着くのに、きっと血反吐を吐くような努力をしたはずだ」
ハーベスト村はお世辞にも教育の水準が高いとは言えない。勉学よりも畜産技術の方が重要視されるところだ。だからこそ王都の人間に追いつくためには死にもの狂いで勉学に勤しむしかなかった。自分の置かれた環境を言いわけにはしたくなかったから。
辛い時にはヴィオレットさんと同じ舞台に立つ未来を想像して耐え抜いた。本当に彼女の存在こそが俺の原動力だった。だからこそ村の連中には引かれたんだがな。
「私は君のそんな根性を買った。この男にならあの子たちを任せられると、そう思った。だから私の君に対するこの感情は期待じゃない、言うなれば信頼だ。君ならば私の信頼に必ず応えてくれると思ったから君を推挙したんだ。その信頼を裏切ってくれるなよ?」
感激に打ち震える。
だってそうだろう、憧れの人物が取るに足らない子どもとの約束事を覚えていてくれただけでなく、こうして激励のメッセージまでくれたのだから。
「——分かりました、不肖このレイド・クォーズウィル、必ずやヴィオレットさんの信頼に応えて見せます!」
「ふふ、言ったな。では私も王国探検隊の席で君たちの吉報を待っているよ」
片手をさっと上げ、ヴィオレットさんは最後までクールに去っていった。
薄れていく彼女の背中を静かに見届けると、俺もようやっと自分のパーティーと真摯に向き合う覚悟を決めたのだった。
◆
アークリル城を出た俺たちは、ひとまず宿屋へと向かった。
たまたま空いていた二部屋を取った後、幼女たちに一階の談合所に集まってもらう。正直子供の相手というのは得意ではないのだが、唯一の大人である俺が怖じ気づいていては始まらない。
「よし、なによりまずはお互いのことを知るために自己紹介をしよう。自分の名前と就いている
職業とはパーティー内における冒険者個人の役割のことだ。たとえば執事職の俺は身の回りの雑務をこなす、といった具合だ。
こうやって互いに役割分担することでパーティーは運営されるのである。
それはともかくとしてこういうのは言い出しっぺから始めるのが常識と思っていると、
「はいはーい、そんじゃあーしからするね。あーしの名前はパスト・ルルティエでーす。職業は
愛称幼女に先手を奪われてしまう。
これまでのやりとりからも分かるように、彼女はとにかく快活で目立つ子である。よく言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者だが、不思議と嫌な感じはしない。
また最年長とのことだが、身長も五人の幼女の中で一番高い。その上、歳の割にはプロポーションも抜群で、どことは言わないが色々と発展途上中だ。
そんな彼女は淡い桃色の髪を頭の左右で結って、ツインテールという髪型にしている。
表情にはあどけなさと大人っぽさがちょうど半々で存在しており、果たしてどちらが本当の顔なのか判断がつかない。これもひとえに彼女のもつ小悪魔的雰囲気によるものなのだろうか。
「スティのなまえはスティングベル・ベルモットだ。おいそこのハゲ。べつによろしくするつもりはないが、スティはうまいめしさえつくれるやつならもんくはない」
腹ぺこ幼女は可愛らしい見た目と違ってどうやら毒舌家らしい。眠いのか目はくてっと半眼で、反対に口は三角の形に開かれている。黙っていれば人形のような容姿だ。
そんな彼女のふんわり切り揃えられた銀髪には、いくつか溶けたチョコレートと思わしき物体がひっついていた。
これまで彼女が手に持っていた菓子の食べかすなのだろうが、いったいどこをどうすればそんなことになるというのか。
執事の性か、その汚れをハンカチで取り除いてあげたい衝動に駆られるが我慢する。
いきなりそんなことをしたりなんかすれば気持ち悪がられるのがオチだ。
だが一つ、これだけは訂正させてほしい。
俺はまだハゲじゃない。若干生え際の目立つ髪型をしているだけだと。
ちなみに足りない情報は他の幼女が補足してくれた。メンバー最年少の六歳で、職業は
好きなものは食べられる物全般で、嫌いなものは食べられない物、だそうだ。なんつーか食に対する意識がすごい。
「わ、わたしは、アーリア・ノーリスト、です。えとその、ね、パストちゃん、わたしも年齢教えなきゃダメ……? あ、うん、ダメだよね、そうだよねごめんね。……あの、わたしもスティちゃんと同じ六歳で、えと、職業は
噛みまくりの男性苦手幼女は相当な恥ずかしがり
屋なのか、自己紹介をしただけでもう顔がゆでだこみたいに赤くなっていた。
その姿に庇護欲が刺激されてなんだか守ってやりたい気分に陥るが、実際には俺の方が守ってもらう立場になるだろう。
回復魔法を自在に手繰る僧侶は正にパーティーの生命線、一家に一人ならぬ、
くせっ毛なのか濃い藍色の頭髪がところどころでうねっており、それを気にしている節があった。
俺としては似合っていると思うのだが、本人からすればコンプレックスなのだろう。
嫌がられるかもしれないが、もし機会があったら髪を梳いてあげたいと思う。
「わたくしの名前はエヴァンジールです。本来ならば平民の男に名乗る名は持ち合わせておりませんが事情が事情なので特例ですわ。このわたくしに名前を教えてもらえることを光栄に思いなさい」
お花摘み幼女はバラのように刺々しい印象だ。
毛先がゆるくウェーブかかった金色のロングヘアをゆらし、立ち上がる。七歳という年齢と職業が
けれど名字を名乗らないところを鑑みるに、もしかしたら没落貴族なのかもな。
といっても別にそのことを詮索する気もないし、本人も勘ぐられたくはないだろうからひとまず口を閉ざしておくけども。
「最後はあたしね。セイ・コネット、それがあたしの名前。エヴァと同じ七歳で、職業は
リーダー格幼女は浅茶色のショートカットの毛先を指でつまみながら、吐き捨てるように自己紹介をする。
これまでの言動から見て取れるように、この中の面子で一番俺に対する風当たりが強い。
まあ出会ったばかりなのでその辺は仕方がないと割り切る。ヴィオレットさんが申したようにまずはこちらから歩み寄っていくしかない。
そんな彼女だが、どこか無理をしてキツい態度をとっているように思えてならない。
まあ俺の勘違いの可能性がなきにしもあらずなのだが。
ひとまずこれで五人分の自己紹介が終わったわけだが、顔と名前を照らし合わせるためもう一度彼女たちを見た。
人の好みはあるだろうが、どの子も端正な顔立ちではある。大きくなったら全員華やかな美人に成長するに違いない。
おっと当たり前の話だが別に俺は幼児性愛の気を持ち合わせてないので、これはあくまでも一般的な審美眼ということを覚えておいてもらいたい。
「今度はこっちの番だよな。俺はレイド・クォーズウィル。こう見えてもディ・アークズ執事科を首席で卒業したエリート執事だ。短い間かもしれないが、よろしく頼むな」
どうせ俺の個人情報に大して興味ないだろうから手短にまとめる。とりあえずはエリート執事ということだけを覚えてもらえればそれでいい。もちろん事実なので決して自慢などではないことだけは付け加えておくけども。
「あら、一応わたくしたちに召し仕えるだけの資格はあるというわけですわね」
「しゅせきってなんだ、くいものか?」
「えっとね、確か学生の中でもっとも優れた成績を修めた人のことだったと思うよ」
「ふーん、人は見かけによらないわね」
「でも、言われてみれば学生時代勉強しかしてこなかったような感じがするよねー」
わいわいがやがやぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。
女が三人寄れば姦しいとはよく言うが、いやはやホントその通りだ。
正確には幼女が五人だがやかましいことには変わりない。ちなみにこのやかましいには二つの意味があって、一つはそのまんまの意味でもう一つは俺のイメージに対して大きなお世話という意味である。
……悔しいけど当たってんだよ、学生時代に勉強しかしてこなかったって部分が。
「というか、それならあたしたちの方が普通に格上じゃない?」
「あ、それあーしも思った。だって全員飛び級卒業者だもんね、あーしたち」
「……ん、どういうことだ?」
「おや、ご存じないのですか? わたくしたちは全員がディ・アークズ冒険科を飛び級で卒業している平民以上のエリートなのですわよ」
ちょっと待て、その話初めて聞いたぞ。
しかも飛び級で卒業なんて年に一人いればいい方なのに全員だと?
おいおい、そんなことヴィオレットさんは一言も言ってなかったぞ。
いきなりの暴露には驚いたものの、同時に合点も行った。
――なぜこんな年端もゆかない子どもたちが王国探検隊の入隊試験を受けられるのか?
簡単なことだ。ディ・アークズ冒険科を既に卒業しているからである。
通常、冒険者になるには二種類の方法がある。
一つはギルドと呼ばれる、冒険者の互助組合から直接冒険者手帳を発行してもらう方法だ。
簡単なテストを受けたり、色々と面倒な手続きをしなくてはいけないが、この方法の場合だとすぐに冒険者になれるので、一攫千金を夢見る輩には割と需要がある。
そしてもう一つは冒険者養成学校、つまりディ・アークズを卒業することだ。
大多数の人間はこの手順を踏んで冒険者になっている。冒険者のイロハを学ぶのに学校という環境は適しているからだ。
それで肝心の授業内容だが、男女で学科が別れており、男は執事科、女は冒険科のみ受講できる。
その上でさらに高等科と初等科があるが基本的に十歳以下の子供は初等科に所属させられる。そこで体力作りなど基礎中の基礎を習うのだ。
けれどもまれに同世代の中から抜きん出た能力を持つ者が現れる。そういった手合いは早々に学年を引き上げられ、高等科の授業を受けることが可能となる。それがこの幼女集団なのだろう。
しっかしあのヴィオレットさんが特別扱いをするくらいだからなにかあるんだろうとは思っていたが、まさか全員が天才幼女だったとはな……。
余談だが彼のヴィオレットさんもそうだったらしく、なんと彼女は数ヶ月単位で飛び級をしていったというから驚きだ。
ま、それはさておき。
彼女たちに対する個人的な見解を述べるのなら、お前ら無駄に個性豊か過ぎ! ……だ。
そりゃないよりはあった方がいいだろう。だけど現状、生意気で問題児揃いというマイナスイメージしかない中でこいつらの相手を務めるのはいささか骨が折れる。とはいえ相手はまだ子供。それを改善するのも、執事である俺の仕事ではある。
というわけでここからはさっそく執事の業務活動に勤しむことにした。
「とりあえず全員の自己紹介も終わったことだし、これからのことについて説明するぞ。ティールの森には明日の朝一で向かおう。歩きでも昼前には着くはずだ。で、一応聞いておくけど、みんなは自分の武器と防具を持ってるか?」
「持ってませーん」
「よし。それなら、今から俺と一緒に装備を買いに行こう」