インフィニット・ストラトス Re:RISING 作:最後のVESPERの挑戦状
週末休み明けの7月6日月曜日。
この日から臨海学校1日目、天候にも恵まれて本日は快晴。
これから数時間掛けてIS学園から滞在先となる旅館まで集団移動となる。
IS学園は東京湾沿岸にある人工島に所在しており、日本本土からの出入りは海上モノレールのみで、この乗り換えを経てからはバス移動となる。
バス移動では1クラスに1台のバスが振り分けられるので、4台のバスが目的地へ向かう。その先頭車両は、必然的に1号車となり1年1組の面々が乗り込み、移動開始して数分後にはクラスメイト達がワイワイとお喋りを始めた。
そして、席順はランダムに組まれている為、承壱の隣は珍しくセシリアが座っている。
「…こうして2人になるのは久々だな、セシリアちゃん」
「ええ、そうですね…」
「どうした?これから海に行くのにちょっと元気が無いな?」
「…ちょっと、愚痴を聞いてくれますか、お兄様?」
「聞こう」
「実は…昨日、一夏さん達と一緒に水着を買いに行ったんです」
「ん?達って事は…イチのハーレムって事か?」
「はい。皆さんと一緒にお買い物をするのは良いのです。一夏さんは私達を平等に愛してくれていますが…ちょっと気付いた事があって…」
「何だ?もしかして…もう少し独り占めの時間が欲しいって事か?」
承壱の推理が発動してそう言うとセシリアは首を縦に振った。
「承壱さん、ご名答です。箒さんや鈴さんは『幼なじみ』という時間があります。ですが、IS学園で出会った私と簪さんにシャルロットさんにラウラさんは、まだそんなに長い時間を一緒に過ごしたわけではないので、もう少し独り占めする時間が欲しいと思ってしまったんです…」
「うーん、そればかしは俺でもどうしようもないな…。でも知り合ってから、セシリアちゃんと簪ちゃんは約4ヶ月、シャルロットちゃんとラウラちゃんは1ヶ月ちょっと…時間の差が目立ってしまうのは、当然か…」
それぞれの知り合った時間を冷静に整理した承壱は、セシリアの言いたい事がよく分かった。知り合った時間に差が出てしまうのは仕方が無い事。だからこそ、承壱は千冬との交際を経て気付いた大事な事をセシリアに伝える。
「でもな、セシリアちゃん、これだけは覚えておきな」
「…何ですの?」
「恋と愛には時間も大事だが、一番大事なのは…これから作られる思い出をどれだけ共有出来るか、だ。爺婆になっても相思相愛の家族は、あの頃はあれがあった、この時はこれがあった、と思い出を振り返られる様にお互いを尊敬して尊重しあっている。確かに君の言う通り、幼なじみという時間は羨ましいと思う。でも、それを理由にギクシャクするのは面白くないだろう?」
「そう…ですね」
「だろ?だから、これからは思い出を作れる毎日にすればいい。そうすれば、時間の差なんて気にならないさ。それに時間の差を気にしたら、年齢差を気にして交際する奴らはどうなんだよって話になるぜ?事実、俺と千冬の年齢は6歳差あるから、年齢的に言えばあいつが先に逝っちまうのが自然の摂理だ。でも…それを気にして何もしないっていうのはよくないだろう?まぁ、つまり…俺が言いたい事は、思い出を作る気持ちが大事って事さ」
これまでの承壱から説明をされたセシリアはハッと気付いた。
承壱の言った事は、数年前に亡くなった自分の両親の行動に当てはまる物が多いからだ。
「…流石、お兄様ですね。思い返してみれば私の両親もそうでした。織斑先生と篠ノ之博士と同時に交際する人の言う事は、やはりひと味違います」
「実はここだけの話…ダリルとフォルテとも交際を始めたぜ?」
「えっ?やっぱり、そうなったんですね…」
「イチ達以外には言うなよ?」
「勿論です。ありがとうございます。少しスッキリしました、お兄様」
「おう」
セシリアは礼を述べ、今日から始まる臨海学校をどう過ごすかを想像してしまい、思わず笑みを浮かべてしまう。それを横目で見た承壱は、一安心しつつお気に入りのネイビーブルーのヘッドホンを装着し、ユーロビートを聞く為、スマートフォンを操作する。
(おっ、Take Me Higherか…久しぶりにここから始めるか)
そうして承壱は、フェイバリットソングである『Take Me Higher』からランダム再生で始め、そのままユーロビートを聞き流しつつ、窓の外の景色を眺めていた。
暫くして、承壱は通路を挟んで反対側の席にいる一夏とシャルロットの方が気になり視線を向ける。そこにいたシャルロットは嬉しそうな表情だが、対照的に一夏は不機嫌な表情になっていた。
シャルロットの視線は自身の左手首に巻かれている銀色のブレスレットに向いており、どうやら一夏からのプレゼントらしく、それが理由で喜んでいるのだろう。
しかし、一夏の不機嫌は今朝から始まっており、とうとう気になった承壱はユーロビートを止めてヘッドホンを取り、一夏へ問い掛けた。
「…イチ、お前、どうした?朝からずっと不機嫌じゃないか?何かあったのか?」
「あ、ゴメン…。顔に出てた?」
「眉間にしわを寄せていれば誰だって不機嫌だと思うさ。海に着く前に話してスッキリしたらどうだ?」
「…聞いてくれるかアニキ?」
「おう、さっさと言え」
セシリアと違い少々雑な扱いだが、承壱は一夏の話に耳を傾ける。そうして一夏は話し始めた。
「昨日、皆と一緒に買い物に行ったんだ」
「ああ~。さっき、セシリアちゃんが水着を買いに行ったって言っていたが…その時に何かあったのか?」
「そうなんだよ。なんかさ、変な女に絡まれちゃって…」
「変な女だぁ~?どんな奴だ?」
「…見ず知らずの年上の女。「男のあなたに言っているのよ。そこの水着、片づけておいて」って、いきなりそう言われたんだよ」
「はあぁぁぁ~?何じゃそいつ?」
ISが誕生してから約十年で女尊男卑の風潮はあっという間に浸透して、どの国でも女性優遇制度が設けられる社会となった。男は街を歩いているだけで見ず知らずの相手から命令される始末で、本気でそんな事をするのは極一部の者である。
そんな非常識な女の口調と台詞を裏声でまねした一夏。その説明だけで承壱は、一夏が不機嫌になった理由が分かったが、同時に素朴な疑問も生まれた。
「お前が不機嫌だったのは、そいつのせいって事か。しかし、そいつはモグリな女だな。俺はこの約1週間で、企業を通じて大きく報道されたが、イチは『世界で最初の男性IS操縦者』として俺よりも大々的に報道され、更にこの1週間でまた報道された。なのに何でその女、イチの事を全く知らないんだ?」
「それ!俺も思ったんだよ」
「…一夏、兄さん、その話って昨日の一夏にあった事?」
ここで一夏の隣にいたシャルロットも会話に入ってきた。シャルロットの問いに承壱と一夏は頷き、それを皮切りに一夏達の後ろの席にいた箒とラウラ、承壱の隣にいたセシリアも混ざる。
「…そういえば、あの女…私達の一夏に躾を付けろと言っていたな。全く、ふざけた事を言う。躾以前に貴様の品格がどうかと思うな…」
「箒ちゃんがそう言うって事は、皆で追い払ったんだな?」
「承壱さんの言う通りです。セシリア、あの女をどう思う?」
「そうですわね…少なくとも、女性の品格の欠片もない醜い心が見えましたわね。私でも自分で片付けますわよ」
「ラウラ、あんな女性になっちゃダメだからね」
「了解した。みんなを手本に成長しよう」
「後で猫娘と簪ちゃんにも聞いておくか…。それはそうと…イチ、お前は俺と違って顔がしっかり割れているんだから、次またそういう奴にいちゃもん付けられて絡まれたら、『俺を誰だと思ってやがる!この顔をよく見やがれ!』って言え。そうすれば相手は何らかのアクションをするはずだ」
「分かったよ、アニキ!」
「ただし、油断して慢心しない様に。皆も同じだからな」
「「「「「はーい」」」」」
そこまで承壱が言い、メンバー皆が返事した瞬間、バス車内が薄暗くなった。どうやらバスはトンネルの中に入った様だ。
「海っ!見えたぁっ!」
そして、トンネルを抜けたバスの中でクラスメイトの誰かが声を上げた。
「それでは、ここが今日から3日間お世話に花月荘だ。全員、従業の仕事を増やさない様に注意しろ」
「「「「「よろしくお願いしまーす」」」」」
千冬の言葉の後、全員で挨拶をする。この旅館は毎年臨海学校の滞在先としてお世話になっており、着物姿の女将が丁寧にお辞儀する。
「はい、こちらこそ。今年の1年生も元気があってよろしいですね」
歳は30代位に見える女将は、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせ、仕事柄笑顔が絶えないのだろう。その容姿は女将という責任者の立場とは真逆に若々しく見える。正に『若女将』に相応しい人だ。
そう承壱が思っていると一夏と目があった女将は千冬に尋ねる。
「あら、こちらが噂の…?」
「ええ、まあ。今年は2人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに…いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「お、織斑一夏です。3日間、よろしくお願いします」
女将と千冬の会話から時を見計らった一夏は率先して挨拶をした。その一夏の行動に感心しながら続いて承壱も挨拶をする。
「時城承壱です。弟分と共によろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
そういって女将はまた丁寧にお辞儀をする。その動きは気品のある物で、やり慣れている女将の動きその物だ。
「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられる様になっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければ何時でも従業員に訊いて下さいまし」
女子一同は、はーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと向かう。とりあえず、荷物を置いてから次の事を始めるのだ。
それは承壱と一夏も同じで、千冬に連れられて部屋へ向かう。
千冬に連れて来られたのは、教員達が使う事になっている部屋がある一角。ご丁寧にドアには『教員室』の張り紙がある。
どうやら、たった2人しかいない男子の部屋は、家族として同居している千冬と同じ部屋に振り分けられた様だ。
「2人は私と同じ部屋だ。最初は個室という話だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけるだろうという事で、結果、私と同室になったわけだ。これなら、女子達もおいそれとは近づかないだろう」
「ナイス判断」
「流石、織斑先生」
「いや、これを提案したのは山田先生だ」
「「えっ?山田先生が?」」
意外な人の名前が出た事で承壱と一夏は声を揃えて驚いた。
「山田先生は、調子に乗ると好調な動きをするタイプだったのか…。他の子と同じく、どうやら俺も過小評価をしていたな…」
「ちょっとおっちょこちょいだからな、山田君は。お前がそう思ってしまうのも仕方ないかもしれないな」
そうして部屋に入るとそこには見事なオーシャンビューが広がっていた。広々とした間取りで、東向きの部屋である為、日の出も綺麗な部屋であると推測する。しかもトイレ、バスはセパレートで洗面所も個室になっている為、通常営業でもそこそこな料金が請求されるだろう。
「おおー、すげー」
「流石IS学園だな。多分、箒ちゃん達の部屋も同じ位のグレードかもしれないな」
「感心するのはいいが、大事な事を伝えるぞ。一応、大浴場も使えるが2人は時間交替だ。本来ならば男女別になっているが、なにせ一学年全員だからな。2人の為に残りの全員が窮屈な思いをするのはおかしいだろう?よって、一部の時間のみ使用可だ。深夜、早朝に入りたければ部屋の方を使え」
「分かりました」
「了解」
家族3人が集まっているが、学校の行事で来ている為、千冬は教師モードで伝達事項を伝える。職務に忠実なのは教師としての性なのかもしれない。
「さて、今日は1日自由時間だ。荷物も置いたし、好きにしろ」
「えっと、織斑先生は?」
「私は他の先生との連絡なり確認なり色々ある。今から従業員の人達に挨拶をしたりとか、非常口の確認とかをしなくてはいけない」
「…先生も大変だな」
「自分で選んだ道だ。後悔は無いよ」
承壱は思わず心の声が漏れてしまうが、千冬は咎める事は無くニヒルに笑いながら答えてくれた。そんな2人のやり取りを見て、一夏も思わず微笑んでしまった。
「まぁ、私も軽く泳ぐ位はするとしよう。どこかの弟が選んでくれた水着もあるしな」
「何?」
千冬のその台詞を聞いた途端、承壱は一夏を見ると自信がある表情でサムズアップしていた。
「…楽しみにしているぜ」
「期待しろ。さて、織斑、時城、私はこれから仕事だ。どこへでも遊びに行ってこい」
「はい。それじゃあ早速海に行こうぜ、アニキ!」
「ああ。箒ちゃん達も一緒に連れて行こう」
「羽目を外し過ぎん様にな」
千冬の注意に声を揃えて返事をする2人は、部屋を出て海へ向かうのであった。
「海は広いなぁ~、大きいなぁ~」
「よぉー、よぉー」
「水着の美少女は~、眩しいなぁ~」
「なんだそりゃ?」
男子更衣室で承壱は着替えながら海の歌を歌い、それに一夏は合いの手を入れるのだが、妙な替え歌にツッコんでしまう。
着替えが済み、一夏は水着姿になったが、承壱は蒼いパーカーを袖に通さず肩に羽織った。
「…アニキ、それで行くの?」
「これが落ち着くんだよ。それに背中の『あれ』は…あんまり見せたくない」
「そっか…。行こうぜ、皆が待っているし」
「そうだな」
そんなやり取りをしながら更衣室を出てすぐ、丁度、隣の女子更衣室から箒と鈴音、簪が出てきた。3人共、可愛い水着を身に着けていて、恋人である一夏はその露出度にやや照れてしまっていた。
「お~、3人共、丁度良いタイミングだな」
「え、ええ…」
「そんなに見ないでよ、お兄ちゃん…」
「ちょっと恥ずかしいわよ、にいに」
「そうだな。見せるならイチに見せろ~」
「ちょっと、アニキ!」
「恋人らしく褒めろ!」
箒は、綺麗な純白のビキニ。
鈴音は、オレンジと白のストライプがスポーティーなタンキニタイプのビキニ。
簪は、白いセパレートの水着。
美しい恋人達の姿を見せられた一夏は、しどろもどろになりながらもその感想を言うが、承壱はあえて訊かない事にする。義弟の恋人を勝手に評価するわけにはいかないからだ。
そんな雑談をしながら、5人で浜辺に向かうと後を追う様に走ってくる足音が聞こえてきた。皆が振り返ってみるとやって来たのは、セシリア、シャルロット、ラウラだ。
「皆さ~ん、お待ちになって~!」
「あっ、来たな。欧州同盟組」
「兄さん、それ僕達の愛称?」
「確かに私達は欧州出身だが、いささか雑では無いか…?」
「…気を悪くしてしまったら、すまないな」
「いえ、大丈夫です」
承壱の妙なあだ名に苦言を呈するが、3人は満更でも無いので、そこまで追及はしなかった。
セシリアは、腰にパレオを巻いた青く綺麗なビキニ。
シャルロットは、ビキニとセパレートの中間のようなデザインになっていて、爽やかなライトイエローの水着。
ラウラは、ちょっとだけ大人っぽく見える白のレースに黒のビキニ。更にその髪は普段とは違ってツインテールに纏めてあった。
再度、一夏は恋人達の水着姿の感想を言う。その最中、承壱達と一緒に微笑んで見ていた鈴音がある事を思い出して承壱に問い掛けた。
「あっ。ところで、にいに…」
「何だ、猫娘?」
「箒のお姉さん…篠ノ之博士って本当に明日来るの?」
「あ~…どうだろうな?箒ちゃん何か聞いているか?」
「数週間前に連絡したんですけど、全く返信が無くて…私も分からないんです」
「ふむ、そうなると…あいつ、7時間ずつ睡眠を取りながらやっているな…」
「え?そうなんですか?」
姉の意外な事に箒は、再度承壱へ聞き返してしまう。
「何時だか、あいつは寝不足になって凄い顔になった事があった。だから、出来る限り睡眠を取れって言ったらよく寝る様になった」
「という事は、束さんはアニキの言った事を有言実行しているって事か?」
感想を言い終えた一夏達も会話に混ざり始め、その問いに承壱は頷いた。
「そうなる。だから、明日は確実にあいつが来るだろう。俺が来いっても伝えたからな」
「改めて一夏さん達の話を聞いてみると…篠ノ之博士は、お兄様でも扱いが難しい人の様ですね…」
「3年ぐらい前に生放送インタビューの時に467個目のISコアと置き手紙を残して失踪しちゃう位だもん。お兄ちゃんでも難しい人だよ、きっと」
セシリアは束が難しい人だと再認識して、簪は自分が知っている事をメンバー皆に共有するが、その発言で承壱は素朴な疑問が浮かんだ。
「あれ?そのISコアの内訳って今どうだっけ?」
「兄上、実戦配備されているISは322機だ」
「残りの145個のコアは、各国の研究機関や企業が所有されているよ、兄さん」
「…学園のISは、そこから厳選されて30機が訓練機として配備され、国家や企業から貸し出された専用機持ちのプラスアルファという事か…。流石、現役軍人と企業の令嬢、よく覚えている」
「えへへ…」
「一夏に褒められると嬉しいが、兄上に褒められるのも嬉しいな…」
シャルロットとラウラは好きな人と尊敬する人から褒められたからか、他のメンバーよりも赤面してしまい、恥ずかしさから少し俯いてしまう。だが、承壱はそんな事はお構いなし宣言する。
「ま、堅苦しいのここまでだ。明日はISの実習が朝からあるが、まず今日は海で遊んで満喫するぞ!楽しい思い出作りだ!行くぞぉっ!」
「「「「「「「おーっ!」」」」」」」
7月の太陽の光がサンサンと降り注ぎ、目の前には青い海が広がる。
承壱達は迷う事無く駆け出した。
その後、他の女子達も混ざって、ビーチバレーを行ったり、砂で遊んだり、スイカ割りをしたり、自分の思い思いの事をして海水浴を楽しんだ。
その途中、千冬も黒いセクシーなビキニ姿となって合流するのだが、承壱は想像通りの美しい恋人の姿を見て、興奮のあまり昼食時にラーメンと冷やし中華を同時に食べてむせてしまう。
「「「「「不器用!」」」」」
「何ですかラーメンと冷やし中華なんて!こんなものは同じ丼の中で食べればいい話だ!」
その奇行な食事シーンを見ていた他の女子達から思わずツッコまれてしまい、不器用な返ししか出来なかった承壱であった。
余談ではあるが、誰かが溺れてしまう等の事故は起きなかった。
時は経ち、夜8時過ぎ。
楽しい食事は、大広間3つを繋げた大宴会場で取る事になっていた為、生徒達は集まって食事を取った。
その最中、シャルロットが本わさびを丸ごと食べてしまう、一夏の隣を死守しようと正座に耐えるセシリア、等々ちょっとしたハプニングもあったが、大きなトラブルが起きる事は無く終えた。
因みにIS学園は、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの様に世界中から入学希望者がやって来る為、生徒・教師共に多国籍で、多民族・多宗教というのを考慮して、正座が出来ない生徒達もテーブル席を利用して食事を取ったのだ。
そして、現在。一夏ハーレムメンバーは千冬達の部屋にいた。千冬が呼び出したのだ。
どうしていいか分からない女子6人は、言われたまま座った所で止まってしまっている。
「…まぁ、そう硬くなるな。今は教師、生徒としてではなく普通に女同士として話せ」
「い、いえ、その…」
「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと…」
「初めてですし…」
「やれやれ、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう」
そうして千冬は旅館の備え付けの冷蔵庫を開けて、中から適当にジュースを6人分取り出していく。
「ほれ」
6人は勧められるままジュースを飲む。
それを見た千冬はニヤリと笑い、続けて冷蔵庫から炭酸水入りのペットボトルを取り出した。そのまま、グイッと飲み始めた。
「あの織斑先生…それは?」
「炭酸水だ。承壱から酒は飲むなと言われているんだ」
「承壱さんから…?」
箒の質問に千冬は笑顔で答え、続けて詳細を話し始めた。
「あいつが20歳になったら一緒に飲もうと約束してな…。その約束を交わして以来、炭酸水が私の酒代わりさ…」
「医者の息子のにいにらしいわね…」
「普段から食にうるさい方ですが、健康管理は誰よりも気を遣っていますからね…」
「特に織斑先生には厳しいんだろうね」
「ああ。私には長生きして欲しいんだと。全く、よく言うよ、あいつは…」
鈴音、セシリア、シャルロットが普段の承壱の言動を思い返し、千冬は苦笑してしまうが、それを隠す様にもう一口炭酸水を飲む。
「さて、前座の話はこの位でいいだろう。そろそろ肝心の話をするか…」
そう千冬が言った瞬間、箒達は思わず真面目な顔になった。
「お前ら、本当にあいつでいいのか?」
千冬のあいつとは、このメンバーに対して指す人物は1人しかいない。そう、一夏である。
「…千冬さん、私は何と言われようと一夏の正妻になります。それ位、私は一夏に惚れています」
「ほぉ~、先にお前から言うとはな、箒。やはり、正妻の覚悟が出来ている様だな」
「当たり前です!それは千冬さんも同じでしょう?」
先陣を切った箒の問いに千冬はニヒルに笑って答えた。
「当たり前だ。よし!昼間は思いっきり楽しんだから、夜は女同士で心ゆくまで語り合うぞ!」
「多分…一方的に愚痴を聞かされる羽目になると思う」
「そんな事を言うな、簪。ほら、お前達も飲め!」
「了解です!ところで、一夏と兄上はどこに?」
「2人なら今は風呂に行っている筈だ。丁度、男湯の時間だしな。偶には義兄弟2人でのんびりと湯に浸からせるのもいいだろうさ」
「って言っているんだろうな…」
「それって、アニキの推理?」
「いや、必然だ」
「だね…」
男2人で広い大浴場で語る承壱と一夏。隣同士座って体を洗うが、将来的には義兄弟になるから恥も何も無い。
「…そう言えば、アニキもハーレムになっているんだっけ?」
「ん?ダリルとフォルテの事か?」
「そう。先輩2人もアニキの恋人になったんだろ?」
「なったよ。だから、お土産に綺麗な貝殻を数個ずつ見つけたのさ」
「そっか…。でも、あの2人って…その、同性の恋人なんだよな?何でアニキと付き合う事にしたんだ…?」
一夏の疑問は尤もだが、承壱は真剣な表情となった。承壱自身の推理も混ざっているが、一夏に共有させておくべき事だと思い、承壱は語り始めた。
「…多分、共依存だな、あの2人は」
「共依存?」
「ああ。ダリルとフォルテは、百合っていうのもあるが、一緒じゃなきゃ嫌だって言っていたからな…。それに俺が見た感じ、箒ちゃんとシャルロットちゃん…嫌、お前の恋人達全員も共依存気味だぞ?」
「え、マジで?」
承壱は黙った頷いた。
「…俺守れるかな?」
「…ヤバくなったら、手段に拘るな。いざという時は躊躇わずに動く事も大事だ」
「アニキ…」
「イチ、よく覚えておけ。諦める事は誰でも出来るが、諦めずに立ち向かう事は力を持った者の責任だ。決して逃げる事だけはするなよ」
そう言いながら承壱は体に着いた泡を洗い流した。
そして、鏡に映る自分の顔の左頬にある傷跡を摩り、合わせ鏡で見えた自分の背中に残っている火傷の跡に注目してしまう。
その消せない過去からの代名詞であるその火傷の跡を隣で久しぶりに見てしまった一夏は、思わず悲壮な表情になってしまう。
過去からは誰からも逃れられないのだ。
つづく
現在公開可能な情報
時城承壱
興奮すると奇行をする程に不器用になってしまう。また、背中に火傷の跡がある事が判明。一体過去に何があった…?
織斑千冬
承壱と約束して酒は控えて炭酸水を飲んでいる。承壱とはやっぱり相思相愛です。
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