インフィニット・ストラトス Re:RISING   作:最後のVESPERの挑戦状

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第15話:ロックスミスの秘密

臨海学校2日目。

このIS学園の臨海学校では『ISの非限定空間における稼働試験』というのが主題で、各国から代表候補生宛に新型装備が送られてくる。部外者は基本参加出来ない為、揚陸艇で装備だけが運ばれてくる。

本日は午前中から夜まで丸一日掛けてISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。

特に専用機持ちは特殊な装備がある為、一定の注意力と警戒心と必要となってくる。

因みに承壱のロックスミス、一夏の白式、簪の打鉄弐式に追加装備等は、今の時点ではまだ無い為、アグレッサーになるそうだ。

そして、本日は何度も承壱達の話題となっていた問題の7月7日である。

「…今日は遂に7月7日、か。忙しくなる前に…イチ、言ったれ!」

「…箒、誕生日おめでとう!」

一夏が箒へ祝福の声を掛けた後、承壱を筆頭に一夏ハーレムメンバーと箒の誕生日を知っているクラスメイト達が軽く祝福の拍手を送った。

それに対して箒は赤面してしまうが、素直に感謝の言葉を述べる。

「あ、ありがとう、一夏。皆もありがとう…」

稼働試験でバタバタと忙しくなる前の出来事ではあったが、千冬と真耶を始めとした教師陣は咎める事はしなかった。緊張を和らげる一環になると思ったからだ。

そんな一幕があったが、この場に1人だけまだ来ていない者がいた。

 

「ようやく全員集まったか。おい、遅刻者」

「は、はいっ」

千冬に呼ばれて身を竦ませてしまったのは、以外にもラウラである。珍しく寝坊してしまい、集合時間に5分も遅れてしまったのだ。

(昨日の海で大いに興奮して寝られなかったのかな?現役軍人だから時間に厳しいはずなのに、まだ年相応の感性はあるって事か…)

承壱がラウラにそう思ってしまい、笑みをこぼしてしまうが、その間に千冬は簡易な罰をラウラに与える。

「…そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換の為のデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換の為に設けられた物で、現在はオープン通信とプライベート通信による操縦者会話等、通信に使われています。それ以外にも『非限定情報共有』をコア同士が各自に行なう事で、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているという事が近年の研究で分かりました。これらは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可した為、現在も進化の途中であり、全容を掴めていないとの事です」

「流石に優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」

スラスラと答えたラウラの回答に千冬は満足して許した。その許しを得られたラウラは、息を吐いて胸をなで下ろす。ドイツ教官時代の千冬の恐ろしさを知っているからだろう。

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行う様に。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え。ただし、何か分からない事があれば、すぐにでも私を初めとした先生達に聞く様に。決して、分からない事を分からないまま進めようとするな。こういった場ではそれが最も危険だからな」

(確かに)

千冬の一言に承壱は心の中で頷く一方、はーい、と一学年一同全員が返事をして作業を開始する。

因みに現在位置はIS試験用に用意された特別なビーチで、四方を切り立った崖に囲まれている。

当然、ISの稼働を行うので、生徒全員がISスーツを着用している。周囲には大海原が広がっている為、ISスーツが水着に見えても仕方が無い。

「篠ノ之、お前はこっちに来い」

「はい」

試験が本格稼働する前、千冬に呼び出された箒は、承壱達がいる専用機持ちの列の側に来た。

「篠ノ之、時城の言う事が正しければ今日、あいつが来るんだな?」

「はい。本人も手紙で、『誕生日を楽しみにしてね』と書いていたから間違いありません」

「そうか。そうなると…」

「じょぉぉぉぉぉぉぉーくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん~っ!」

「「「「「「「え?」」」」」」」

「はぁ…」

「…」

突如、ドドドドドッと砂煙を上げながら走ってくる者が来襲。

その者が声に出している名前はあだ名ではあるが、誰を指しているのかはこの場にいる誰もが分かり、その方向へ顔を向けてしまう。

そして、思わず千冬は呆れの溜め息をついてしまい、指されている本人である承壱は、苦い表情になり黙り込んでしまう。

やって来たのは、箒の実姉である希代の天才、篠ノ之束。その狙いは、妹の箒では無く、承壱だ。

「会いたかったよ、じょーくん!さあさあ、ハグしよう!キスしよう!愛を確かめる様に抱い…ぶっ!」

「破廉恥な事を言うな、束」

飛びついて抱きつこうとする束に対し、クロスチョップを繰り出して暴走する束を止めた承壱。まだ苦い顔になっているが、口調は穏やかだ。

姿勢を崩されて砂浜へ尻餅をついてしまった束は、笑顔のまま承壱を見上げた。

「相変わらず容赦無いチョップだね…」

「公衆の面前で、破廉恥な事を言うなといつも言っているだろう?俺が好きなのは分かっているが、そういうとこはまだまだな」

「ごめんね?じょーくんに会えたのが嬉しくてさぁ~、ついつい飛びついちゃったよ」

「…ライダーパンチかライダーキックの方がよかったか?」

「それは止めて!」

「なら、飛び抱きつきは止めろ。後、皆に自己紹介しな?皆、誰だか分からないんだから」

「は~い」

そう承壱に促された束は、服に付いた砂を払い落としながら、生徒・教師に向かって姿勢を正した。

そして、一呼吸置いてから束は自己紹介する。

「…IS学園1年生と教師の皆さん、初めまして!私はISの開発者である篠ノ之束です!本日は訳あってこの場に来ました!短い時間ですけどもよろしくお願いします!」

「「「「「よ、よろしくお願いします…?」」」」」

簡単ながら丁寧な自己紹介も兼ねた挨拶をした束。

いきなりの登場でポカンとしていた一同もやっと目の前の人物がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束本人であると気付いたらしく、教師も交えて女子の間に喧噪が広がり始めた。

それは自分達が抱いていた束のイメージとは異なった物で、一部の生徒・教師が困惑してしまう物であったからだ。

そして、自己紹介を終えた束は、承壱に再度、抱きつこうとする。それを苦い顔になりながらも承壱は満更でも無い態度で抑える。

「こら、すぐに抱きつこうとするな」

「ええ~?ジョーニウムを補充させてよ」

「…何だ、その元素?」

「じょーくんとハグしたりキスしたりすると私の脳から生まれる元素だよ」

「それって…ただの幸せホルモンじゃないか。後で好きなだけ補充させてやるから今は離れろ」

「そうだ束。時城から離れろ」

「ちーちゃんからも言われても離れないよ!本当はちーちゃんもじょーくんと一杯したいくせに」

「なっ!お前!」

千冬も介入するが、束は承壱から離れようとはしない。それどころか束の一言で千冬の闘争心に火が付いた様で、無理矢理でも承壱から離そうとし始め、承壱も一緒に離そうとする。

このやり取りを見ていた一夏と箒以外の専用機持ちの面々は更に困惑してしまう。

「相変わらず、アニキが大好きだな、束さん」

「そうだな。妹として少し恥ずかしい…」

「一夏とにいに達から聞いていたイメージと全然違うわ…」

「兄さんの前だと子供みたいだね…」

「うむ。しかし、少し羨ましい気が…」

「でも、お兄ちゃんが、扱いが難しいって言っていた理由が分かった気がする」

「一夏さん、箒さん、あの方が篠ノ之博士なんですの?」

束の行動に呆れてしまう一夏と箒は小声で話し、鈴音達が束への感想を言う中、セシリアが代表して一夏へ質問する。それに一夏と箒は頷いて答える。

「そう。あんな感じでアニキが大好きだけど、たった1人でISの基礎理論と実証機を開発した希代の天才だよ」

「そして、私の実姉だ。ビックリしただろ?ギャップの差がありすぎて…」

箒の一言にセシリア達は頷く事しか出来なかった。

ようやく離れた束は、今度は箒に近づいた。姉妹同士の久しぶりの再会で、お互いに笑顔である。

「久しぶり、箒ちゃん」

「数ヶ月ぶりですね、姉さん。元気でしたか?」

「まあね。最近は、ちょっと忙しかったけどね…」

何故か妙に目を細めて俯いてしまう束。それは箒も疑問を感じてしまうモノであった。

「姉さん、何かあったんですか?」

「ううん、大丈夫だよ。箒ちゃんは何も心配しないで」

「…ならいいですけど、承壱さんには言ってくださいね」

「うん。分かっているよ、箒ちゃん」

「それで今日来た理由はやっぱり…?」

「うっふっふっ。予定通り準備済みだよ!さあ、大空をご覧あれ!」

そう言ってビシッと束は直上を指差す。その言葉に従って箒や承壱、一夏達専用機持ち、他の生徒達も空を見上げてしまう。

その瞬間、激しい衝撃を伴って、大きなコンテナが砂浜に落下してきた。そのサイズはISが丁度スッポリと入るぐらいの大きさで、正面の壁が倒れてその中身を見せた。

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックがじょーくんのロックスミスを除いた現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

「これが、私のIS…紅椿…」

深紅の装甲に身を包んだそのISは、束の言葉に応える様に動作アームによって外へ出てくる。

新品の機体というのもあって、太陽の光を反射する赤い装甲が眩しく、紅椿と言う名を与えられているだけあって、全体的に華の意匠が取り入れられている。純和風なISといえるだろう。

ここで承壱は、束の一言からある事に気付いた。

(…ん?俺のロックスミスを除いた…現行ISを上回るスペック…?束、何やったんだ…?)

「それじゃ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか。私が補佐するからすぐに終わるよ」

「姉さん、お願いします」

「任せて~!」

束がいつの間にか手に持っていたリモコンを操作すると紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる状態に移る。同時に自動的に膝までついて、乗り込みやすい姿勢に変わった。

箒はゆっくりと近づいて慎重に紅椿へ乗り込んでいく。その表情はいつも以上の緊張が見え隠れしている。

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、後は最新データをするだけだね」

束はコンソールを開いて指を滑らせ、空中投影ディスプレイを6枚呼び出し、膨大なデータに目配りしていく。更に同時進行で空中投影キーボードを6枚呼び出して素早く叩いていく。

「近接戦闘を基礎に万能型に調整しているけど、いきなり全性能を開放しても流石に扱えないでしょ?だから、箒ちゃんの成長に合わせて機体の性能や能力が徐々に開放されていく様に調整しておいたから。今の性能は丁度、打鉄の上位互換ぐらいに考えていればいいと思うよ」

「分かりました。打鉄ならば乗り慣れた機体ですから」

紅椿の機体性能を分かりやすく箒に説明する束。その指の動きは、ピアノを奏でる様に美しく、かつ素早い動きをしており、秒単位で切り替わっている画面にも全て目を通している。

その束を久しぶりに見た承壱は思わず呟いてしまう。

「…なるほど、相変わらず凄い才能だな。綺麗な作業をしている」

「むむ!じょーくんが褒めてくれた!よ~し、スピードアップだ!」

「姉さん、承壱さんに褒められたからって雑にしないで下さいよ!」

「大丈夫だよ、箒ちゃん!お姉ちゃんを信じて!」

「…余計な事を言うな、時城」

「ごめんなさい」

珍しく千冬に咎められてしまい、思わず悲壮な表情になってしまう承壱は、余計な事を言ってしまった自分に後悔しながら、謝罪の言葉を出す。その間にも束は紅椿の解説を続ける。

「初期装備はあるけど、ちゃんと拡張領域も確保してあるから、後付けで箒ちゃんの好きな武装を搭載可能だよ」

「初期装備ってこの腰にある左右の刀の事ですか?」

「せいか~い!そっちの方が扱いやすいと思うし。それに念の為に自動支援機能も内蔵しておいたよ」

続けて束は初期装備の解説を始める。

「右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。雨月は、対単一仕様の武装で、打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣にする武器だよ。射程距離はアサルトライフル位だね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫。空裂は、対集団仕様の武装で、斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるよ。振った範囲に自動で展開するから、チーム戦の時は気をつけてね」

「感謝します。私の腕ではまだこの機体は扱いきれないでしょうから」

「今度は箒ちゃんの感謝された!今日はもしかして束さんの人生最良の日か!」

「随分と安い最良の日だな」

妹からは感謝されてしまい束は興奮するが、千冬が鋭くツッコんでしまう。

それは6年前と同じ光景で見ていた一夏は、思わず懐かしさから苦笑してしまう。

(この機体も近接特化っぽいよなぁ。腰の2本のブレード以外、何も装備していない。しかも白式に似ている気がする…)

そう一夏が紅椿へ感想を抱いているとふと、一部の生徒達の方からザワザワと騒がしくなってきた事に気付いた。

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの…?身内ってだけで」

「だよねぇ。何か狡いよねぇ」

生徒達の中からそんな声が聞こえてきた。箒の身の安全の為に束が専用機として用意したと思う一夏にとって、この生徒達の発言は少し気分が良い物では無く、ムッと眉間にしわを寄せて怒りの表情になってしまう。しかし、専用機持ち達は、事情を知っているのと将来の国家を背負う者だからか、その反応は一部の生徒達とは違った。

「一夏さんとお兄様の言う通りになしましたわね。今日から箒も専用機持ちですか…」

「私的には、タイミングは丁度いいと思うよ」

「でも…遅すぎるような気もするけどね」

「そうだね。箒の立場からして、入学当初から持っていても不思議じゃないのに」

「兄上の言う通り、篠ノ之博士でも専用機はすぐに作れないからな。こればかりは仕方があるまい」

セシリア、簪、鈴音、シャルロット、ラウラの順でそれぞれが感想を言う中、承壱にも一部の生徒達の声は聞こえていた。そこで一部の生徒達を納得させる為、一夏の怒りを治める為、束へ質問を出した。

「…束、ちょっといいか?」

「うん?じょーくんの質問なら何でも答えるよ?」

「単刀直入に聞くが…箒ちゃんに専用機を与えるのは、箒ちゃん自身の護身目的でいいんだよな?」

「そうだよ。私は世間的に言えば『危険な技術を持った世界的なお尋ね者』。悪い奴らとか、私の技術を利用しようする奴らは交渉材料を探そうとするからね…。そうなると真っ先に狙われるのは、間違いなく箒ちゃんだからね」

「だろうな…。お前を狙うなら人間関係を調べると必ず千冬先生に当たる。しかも千冬先生は、世界的な有名人だし実力も折り紙つき。俺もイチも今は専用機を持っているし、プライベートでも千冬先生と一緒に暮らしているから、人質としてそう簡単には手が出しにくい。けど、箒ちゃんは今までお前とは別に暮らしていたし、専用機も持っていない。何より、年端もいかない女の子と言うだけで軽視されて最も人質にされやすい…。そうなると自衛手段として『専用機』は理にかなっているって事か…」

「そう!じょーくん正解!人質とかになっちゃうのは私も嫌だから、こうして誕生日プレゼントとしてあげる事にしたの。それに入学して早々IS学園が襲撃された事もあったんでしょ?自分も守って、皆も守れる力があればいいからね」

「備えあれば憂いなしだな。善良な科学者だな、お前は」

「キャー!ちーちゃん、今の聞いた?じょーくんから善良な科学者って褒められちゃったよー!」

「分かったから踊るな」

真面目な話をしていたが、承壱の何気ない褒め言葉に束はクルクルと踊り舞ってしまい、千冬は呆れながら止める。

「これでお前達も分かった筈だ。どうして篠ノ之が専用機を渡されるのか、いや…渡されなければいけないのか」

「時城さんの言う通り、自己防衛の為…ですか?」

「そうだ。いざという時、私や教師達、専用機持ちがいつも傍にいるとは限らない。だからこそ、自分で自分の身を守れる『鎧』が必要になってくるんだ」

「それが…専用機…」

「と言う訳だ。お前達も納得したな?」

「「「「「は…はい…」」」」」

「では、お前達は自分達の仕事に戻れ」

千冬の一言で皆は己がやるべき事に集中し始める。色々と思う事はあるだろうが、この話を聞いていた一般生徒達は一応の納得した様だ。

「後は自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるから、箒ちゃんもう少し待っててね」

「はい。姉さん、ありがとうございます」

「どういたしまして!」

終始、笑い合いながら仲が良いやり取りをする箒と束。わだかまりや確執等は、この2人にもう無い様だ。

すると今度は、一夏の方へ束が向き合った。

「いっくん久しぶり!」

「お、お久しぶりです、束さん」

「うんうん。おひさだね。本当に久しいねー。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

「え、あ、はい」

「じょーくんもロックスミスを見せて」

「分かった」

束に呼ばれた為、一夏の隣に立ち、拳銃状態のロックスミスを構える承壱。それに合わせて一夏も右腕の腕輪に左手を添えて意識を集中させる。

その瞬間、空中に光の粒子が発生し、光の輪となって形をなしていき、ロックスミスと白式が展開された。

そこに束はコードを取り出して2機の装甲の隙間に接続し、また新たな空中投影ディスプレイが出てくる。

「ん~…不思議なフラグメントマップを構築しているね。見た事無いパターンだよ。いっくんが男の子だからかな?」

「フラグメントマップって生き物の遺伝子みたいなもんだろ?確かISがパーソナライズによって独自に発展していく道筋だよな」

「それであってるよじょーくん」

「あの束さん…どうして男の俺達がISを使えるんですか?」

「ん~…それは私も分からないんだよね。ISの自己進化の一環でそうなったのかもしれない。私でも把握出来ない位にもう自己進化は進んでいるし…」

ずっと思っていた疑問が解決する事は出来ず、一夏は落胆してしまう。だが、承壱は至って冷静だ。

「俺のロックスミスはどうなんだ?この前、進化して無敵なワンオフ・アビリティーも覚醒したぞ」

「そうだね…うん、こっちのフラグメントマップは白式より独特だね。これはコアごと一緒にじょーくん専用になっているよ。流石、じょーくん」

「それは凄いな」

「そもそもロックスミスのコアは、468番目のコアだし、じょーくんの血液も材料に使っているから当然だけどね」

「…今なんて言った?468番目のコア?俺の血?」

「血液って…」

サラッと言った束の衝撃発言に聞いていた誰もが耳を疑った。現在稼働しているISは、ISコアの絶対数の都合上、467機しか無い。だが、本人の発言が正しければロックスミスに使われているコアは、束が作り出した最新鋭中の最新鋭のコアであるのだ。しかも怖い事に材料に承壱の血液が使われているのだから、思わず承壱は引いてしまい、一夏は青ざめてしまう。

「…どこのヤンデレだよ、お前は?というか、いつ採血したんだよ…俺のISを作る為とはやりすぎだ。俺の事、好きすぎだろ?」

「ごめん。怖い事言っちゃって。でも、遺伝子情報があれば完璧に馴染むと思ったからやってみたの。ごめんなさい…」

嫌われたくない一心なのか束は承壱へ頭を下げる。その素直な態度に承壱は許す事にした。

「…次からは一声言えよ?血や細胞位はやるからよ」

「本当にごめんなさい」

「でも、これでアニキのロックスミスが他のISとは違う理由が分かったわけだね」

「ああ…」

「…さて、そろそろ箒ちゃんもいいかな~?」

頃合いだと思った束は箒の方へ視線を向ける。そのタイミングで音を立てて紅椿に連結されていたケーブル類が外れていった。どうやらパーソナライズも終了した様だ。

「姉さん、丁度完了しました」

「気分悪くない?問題無い?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「よかった…」

「おい、まさかお前…紅椿のコアにも箒ちゃんの血を材料にしたとかじゃないよな?」

「そんな事しないよ!じょーくんだけだよ!」

「本当かぁ~?」

「信じてよぉ~!」

先程の爆弾発言から承壱は、ロックスミスのマスク越しに怪しい目で束をジロジロ見てしまうが、束は全力で否定する。本当に承壱以外にはやっていない様で、もの凄く否定の態度である為、承壱は信じる事にした。

「まあいいや。一先ず信じよう」

「ふう…」

「自業自得ですよ、姉さん」

「そうだな。篠ノ之の言う通りだ」

「アニキが怒る理由も分かりますよ、束さん」

「ううう~、皆で責めないで~」

承壱から疑いの目が晴れた事で束は息を吐きながら胸をなで下ろした。しかし、箒、千冬、一夏から責められてしまい涙目で悲壮な表情になってしまうのであった。

 

紅椿のテストはこれから他の専用機の装備試験をしながら同時並行する事になり、紅椿は金と銀の鈴が一対になってついている赤い紐の待機状態となって、箒の左腕に巻かれた。それと同じく承壱と一夏もISを解除した。

そして、回復した束は、ある事を思いついた。

「あっ、そうだ。ついでだから専用機持ちの皆のISも見てあげようか?」

「「「「「「「「…ええ?」」」」」」」」

「…何?」

束の意外な提案に承壱と千冬、一夏、箒、そしてセシリア達が驚きの声を出してしまう。束を知る者にとってこれは異常事態であり、あの束が他人に興味を持っているからだ。

束は手招きしてセシリア達を自分の傍にまで呼んだ。

「は~い、じゃあ、簡単な自己紹介をお願いするね~」

「セ、セシリア・オルコットと申します。イギリス代表候補生です」

「凰鈴音です。中国代表候補生です」

「シャ、シャルロット・デュノアです。フランス代表候補生です」

「…ラウラ・ボーデヴィッヒです。ドイツの代表候補生です」

「さ、更識…簪です。日本代表候補生…です。よろしく、お願いします」

「ふむふむ…よし、全員覚えたよ」

いきなりの事態にセシリア達は、しどろもどろになりながらも自己紹介をする。そこから各人を頷きながら覚えた束は、笑顔で続ける。

「ほんじゃ、ISを見る前に聞きたいんだけど、皆、じょーくんの整備やカスタマイズを受けた?」

「は、はい。私を始め、ここにいる専用機持ちの皆さんは、承壱さんから整備以外にも訓練等も受けました」

束の質問にセシリアが代表して答えたが、その表情はまだ緊張があった。

「そっかそっか…。なら、尚更、私が一度見た方が良いね…」

「束、それは一体…?」

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」

束が意味深な事を言う為、承壱が質問するが、それは大慌てで来た真耶によって遮られてしまう。

ここ数日調子が良かったと思われる真耶だが、今はいつも以上に慌てており、その様子も尋常では無い。

「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」

真耶は千冬に電子タブレットを渡し、その画面を見て千冬の表情が曇る。

「時城!ちょっと来てくれ!」

「すぐ行く!」

その様子を横目で見ていた承壱は、千冬の招集にすぐに応じてそのまま電子タブレットの画面を注視するのだが、千冬と同じく表情が曇った。

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし…」

「そ、それが…」

「待った、山田先生。機密事項があるからここでは不用意に喋らない方がいい」

「わ、分かりました、時城くん…」

「時城、専用機持ちは?」

「全員ここにいるぞ」

承壱が呼び出されるのを見ていた一夏達は思わず警戒してしまい、他の生徒達は視線を向けてしまう。それに気付いて他の生徒達に聞こえない様に千冬と真耶、承壱は、手話でやり取りを始めた。

(普通の手話じゃない…。もしかして、軍関係の暗号手話なんだろうか?)

千冬が日本代表だった時に何回か見た事がある一夏は、そう思ってしまうが、事態は進んでいく。

「そ、そ、それでは、私は他の先生達にも連絡してきますのでっ」

「了解した。全員、注目!」

真耶が連絡の為に走り去った後、千冬はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせた。

「現時刻より現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

「え…?」

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って…」

「状況が全線分からないんだけど…」

不測の事態に一般生徒達はザワザワと騒がしくなるが、承壱が落ち着く様に言葉を出した。

「皆!これは訓練じゃない!危険な状況になるから待機してほしいんだ!」

「時城の言う通りだ!すぐに戻れ!以後、許可無く室外に出た者は、我々で身柄を拘束する事になってしまうから、大人しく待機してほしい!いいな!」

「「「「「はっ、はい!」」」」」

承壱と千冬の言葉を聞いて、全員が慌てて動き始める。接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せていく。しかし、その姿は次第に冷静な動きとなっていった。

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識、時城!それと篠ノ之も来い!」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

緊急事態だと把握した専用機持ちは、覚悟を決めた返事をする。そんな状況を見ていた束は、承壱に近づいて尋ねた。

「…じょーくん、私も行った方が良い?」

「…頼む。お前の知恵が必要になるかもしれない」

「分かった。束さんも一緒に行くよ」

 

「では、現状を説明する」

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、専用機持ち全員と教師陣、そして束が集められた。

証明を落とした薄暗い室内に大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型の軍用IS『シルバリオ・ゴスペル』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

この現状説明だけで全員が厳しい表情になった。セシリア達代表候補生達はこの様な事態に対しても訓練を受けていたのだが、ISを乗り始めた承壱と一夏、箒は危険な状況だと瞬時に理解したからだ。特に現役軍人のラウラはいつも以上に真剣な眼差しとなっている。

「その後、衛星による追跡の結果、ゴスペルはここから2キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして約1時間後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事になった」

淡々と続ける千冬。その次の言葉は、一夏が思ってもみない言葉であった。

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

「ええー!」

「静かにしろ、イチ。驚くのも分かるが…」

「ご、ごめん…」

状況と相手が相手だけに一夏は思わず驚きの声を出してしまうが、承壱に咎められてしまい、すぐに大人しくなった。

「織斑、驚く気持ちは分かる。さっきも時城が言ったがこれは訓練では無い。自信や覚悟が無いならば、他の生徒達と同じく待機していて構わない。これはこの場にいる全員にも当てはまる。無理強いはしなせない」

ここまで言われた一夏は遂に覚悟を決めた表情になった。それに続く様にこの場にいる誰もが覚悟の表情になった。誰も退室しない為、千冬は申し訳なそうになるが、気持ちを切り替える。

「…諸君の勇気ある覚悟に感謝する。では、作戦会議を始める。意見がある者は挙手する様に」

「はい」

早速、セシリアが挙手する。

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「分かった。ただし、これらは2カ国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

「了解しました」

そこから代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを元に相談を始める。それを束は冷静な目で見ている。

「広域殲滅を目的にとした特殊射撃型…私のISと同じく、オールレンジ攻撃を行える様ですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上ではあたしの甲龍を上回っているから、向こうの方が有利…」

「この特殊武装が曲者って感じはするね。丁度、本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来ているけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかもこのデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん」

「まるで、ここにある専用機の長所を1機に集めたみたい。これは対処も難しい…」

「織斑先生、偵察は行えないのですか?」

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、真耶が真剣に意見を交わす中、一夏と箒は付いてくので精一杯だった。だが、承壱は黙って冷静に考えている様だ。

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限界だろう」

「1回きりのチャンス…という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

「つまり…俺の白式の零落白夜ですか?」

千冬の説明から真耶は言葉を繋げて、察した一夏は珍しく自己申告してきた。

「そうなるわね。一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ、問題は…」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。リミッターがあるとは言えエネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな」

「超高感度ハイパーセンサーも必要だよ。必ず捕捉しないといけない」

「…皆ちょっと待て」

ここで遂に黙っていた承壱が口を挟んだ。

「時城、何か案があるのか?」

「…案と言えばいいかもしれないが、ここは俺に任せてくれないか?」

「何だと?まさか、1人で挑むつもりか?」

「違う。確実な作戦を思い付いたんだ」

そう言って承壱は、自分が立案した作戦を全員へ説明する。

「まず、アプローチが1回のみ限界なら、そのアプローチを陽動にするんだ。このアプローチを行う者達をAチームとする。Aチームは暫くゴスペルと戦闘し、一定時間が経過したら、指定されたポイントまでゴスペルを誘導させる。そこで指定ポイントで待ち伏せしていたBチームとAチームは合流して、ゴスペルへ包囲攻撃を行う。ここで倒せれば御の字だが、このままだと先行したAチームのエネルギーが持たないから、補給してくれるCチームを増援として出撃させる。こうする事でAチームはエネルギーだけでも補給して戦線に復帰。後は数の差で性能差を押し切り、ゴスペルを削り倒す…。こんな感じだが、どうだろう?」

「おお…兄上、無駄がありません」

「お互いがフォローし合える作戦ですわね」

「それなら行けそうかも…」

現役軍人のラウラから称賛され、セシリアと鈴音も賛成し、シャルロットと簪は顔を見合わせて賛同から頷いた。一夏と箒はまだこの状況に付いていないが、信頼している兄貴分の確実な作戦に妙な自信が出てきた。

「束は、どう思う?」

そう承壱に振られた束は、以外にも真剣な眼差しで、しかし笑顔で答える。

「うん、いいと思うよ。私は戦闘に関しては、ほぼ素人だから何とも言えないけど…。でも、必要な技術は私が支援するから成功率は上がるよ!」

「だそうだ。千冬先生、この作戦を認可してくれませんか?」

いつも以上に真剣な声で千冬に認可を求める承壱。その顔は正に覚悟を決めた戦士その者で、千冬はしばし目を閉じた後、遂に決心した。

「よかろう。認可する。しかし、全員とゴスペルの操縦者の生還で本作戦は、成功とする。いいな?」

「了解。必ず助けてみせるさ」

「うーん…それなんだけど、じょーくん」

千冬から作戦成功の条件を提示された承壱は、いつも以上に気合いを入れる。それに続く様に一夏達専用機持ち達も決心するが、そこに難しい表情になった束は割って入ってきた。

「何だ?まさか今回の事件もお前の仕業なのか?」

「違う違う!私はそんな事はしないよ!なんでじょーくんや箒ちゃんやいっくんにちーちゃん達を巻き込んで、私がこんな事するのさ!意味が分からないよ!」

「…お前ならやりかねないが、本当にお前じゃないんだな?」

「信じきれないなら、後で殺してもいいよ?」

そう言って束は承壱へ向けて自分の胸元を開けた。それは刺していいという意味であったが、承壱はすぐに束の服を素早く直してあげた。

「何度も言ったが…俺が死んでからは勝手に絶望しろ。俺が生きている限り絶対に絶望するな」

「…はい!」

目尻に涙を浮かべる束は、承壱の言葉を聞いて威勢よく返事をする。それはまるで幼い子供に言い聞かせる大人の構図であったが、千冬はやれやれと言った感じで呆れてしまう。それを見ていた一夏達は苦笑してしまうが、承壱はお構いなし続けた。

「で、何か言いたい事があったんじゃ無いのか?」

「ああそうだった。この状況、本当ならじょーくん1人でも対処出来るよって話」

「…どうゆう事だ、束?」

意味深い事を言う束に千冬は尋ねる。

そして、束は衝撃的な事を続けた。

「だって、じょーくんのロックスミスは…」

 

全てのISを凌駕し、世代をも超え、完成された本当のIS『インフィニット・ストラトス・ネクスト』なんだよ?

 

つづく




現在公開可能な情報

篠ノ之束
承壱の幼馴染みでもう1人の恋人。千冬と違い承壱にはヤンデレの様な愛がある。
承壱のお陰でマイルドな性格になり、他人に冷たく接する事無く、普通の対人コミュニケーションを取る様なったが、破天荒さは健在。3年前から世間的には失踪しているが、時城家に時々お邪魔したり、数ヶ月のペースで箒と会っていた為、箒とは確執が無く中の良い姉妹になっている。

ロックスミス
最新の468番目のコアを使われ、材料に承壱の血液が使用されていた事が判明。更に完成された本当のIS『インフィニット・ストラトス・ネクスト』というとんでもない物であった。こいつもヤベーイ!

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