【実質魔法少女】金髪褐色TSサキュバスの淫紋解消研究   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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用語解説

真人党(ピュアヒューマニズム・パーティ)
 突如台頭した〝党〟を名乗る武装組織。名前では真人を語るものの、党員の5%は魔族で構成されており、血統は重視していない。
 党首の相貌、名前、経歴等は一切不明。幹部の中でも副党首以外には知らされないという。
 福岡、横浜、大阪、松本などの都市部を実効支配しており、奪還された名古屋を除いても、日本の約3割の県を占奪、あるいは壊滅させている。
(正式にはアルファベット表記だが、長いので党員すら漢字のほうで呼ぶ)




課外活動:1 魔導工業団地の専守防衛(1)

 

「はーい、亡者の皆さんは俺の前に二列に並んでくださーい」

「あ゙、あ゙…………」

「あ、そこっ! 横入りすんな! ちゃんと後ろに並べ!」

「あ゙〜〜」

「おい! オレが美少女すぎるからって喧嘩するなよ! オレが美少女すぎるからって!」

 

 オレを狙って襲いくる亡者達を、術式と淫紋による淫気を操って操作する。

 術式は単なる聖句の文字列を円形に記述したものだ。横に逸れた亡者が踏むと忌避感を覚えて勝手に列に戻るようにしている。

 

「はいはい、焦らなくてもオレはここから動かないから、ゆったり歩いてきなー」

 

 淫気は亡者共の性欲を刺激して引き寄せるための細工だ。

 オレ様の全開オーラの前には男も女も生死も何も関係ない。というか、死んでる奴のほうが、理性のはたらきが弱いので、魅了にかかりやすい。

 

「うわ、死んでるのに発情するんですか……」

 

 前列を全力疾走する下衣が破れた亡者の下半身を見たシキンちゃんが、汚物でも見てしまったかのように目を逸らした。

 

 厳密にはその下半身の中央に座る……というか立つというか勃つというか……玉は腐っても棒はお元気な亡者さんだった。

 

「これが生き物の神秘ってやつかな」

「神秘とは程遠い欲に塗れてますけど」

 

 こいつら腐ってるくせに繁殖の悦びは忘れていないらしい。あるいは生前も余程お盛んな方々だったのやら。

 男性の亡者で、かつ腐敗の工合によっては、()()をガッチガチにしながら向かってくる。

 シキンちゃんは嫌そうな顔をしているが、本能に忠実で面白いけどなぁ。だからと言って、お情けでも指一本触れさせてやるつもりもないけど。

 

 ……エロ同人ならフラグだなこれ。

 

 いかんいかん。愚かな考えが過った。スミの顔を想像して思考を洗浄しよう。

 

「さ、シキンちゃんもそろそろ準備して」

 

 大分いい感じに列ができてきた。こいつら全員がオレ様の魅力にあてられ、生者であった頃の欲求を思い出していると思うと、形容に困る優越感がある。

 当然だが、前世でこんな風に異性に本能剥き出しで殺到されることなんてなかったしなぁ。向かってくるのが男なのが多少複雑な気分にさせるけど。

 

「オレが美少女すぎて、死んでもオレの褥を狙ってるってことだよな。もうこのオレ様のあふれる美貌が蘇生魔術だろ」

「はぁ……」

 

 はぁで流された。せめて笑ってよ。

 

「いいから、早くしてください」

「何さ、やる気ねーなー」

「これ疲れるんですよねー。特別手当とか付かないんですか」

「この世で最も美しいこのオレからの感謝」

「へー、どーも」

 

 シキンちゃんは宙空に流木のような古木の長い杖を持ち出して、気怠そうに転送魔術による残存魔素を振り払った。

 

「で、どっちですか」

「古いほう。力、故郷、運命」

 

 術式を構成する円線に使う文字列の霊句を教えると、シキンちゃんは余計に嫌そうな顔をした。

 杖術が使えるから雇ってるんだから、その仕事は全うしてくれよ。オレだって術式で全部済むならそうしたいけどさー。

 

「今だシキンちゃん、やっておしまい!」

「…………ᚦᛟᚱ(トール)

 

 相性と共に杖から放たれる光が、亡者達を一瞬にして包み込んだ。

 

「みんなお休みー。今までお疲れ」

 

 頭を壊さず、苦しみを与えず、日向のように麗らかな午前の光が、死者を眠りに誘う。永遠なる安らかな小休止の中へ。

 

 いい魔術だ。魔術なんてのは全部、人間の苦しみを肩代わりするものばかり作られるほうがいい。

 

 それに、君達はこんな美女二人に見守られて逝けるんだ。最期にイイもん見れただろ。

 

 

 

「これで周辺の亡者は供養できたかな……」

 

 八王子の浄化作戦に、治安維持に何らの責任もないオレが駆り出されたのは、立てこもりに利用されている術式魔術が、オレ以外には復号できる者がいなかったからだ。

 

「どひゃー。すごいですね」

 

 シキンちゃんはわざとらしく両手を胸の前で開いて、今日日の若者からはおよそ聞かないような擬音で驚きを示した。ぶりっ子め。

 

「室長、これ何棟あるか知ってます?」

「中層が18棟。高層が59棟」

 

 51ヘクタールの敷地に、十分な間隔を設けられて並んだ高層マンション群に、中層棟が庇われるように囲まれている。

 敷地面積は(この喩えが想像の助けとなればいいのだが)東京ドーム10個分を越える。

 

「ここが全部〝真人党〟の隠れ蓑になってるんですよね。信じられませんけど……」

「ああ、中はうじゃうじゃだぞ」

「何ですかその……石をひっくり返した下に隠れてるアリとかに使う表現は」

 

 解析を妨害する術式のせいで、門外から内部の様子を計ることはできないが、この団地の額面の収容人数をそのまま鵜呑みにすると、大体4万人が住める。

 流石に4万もの党員が一箇所に集まっているとは思えないが、しかし、少なくとも1万では足りない数の党員が生活しているはずだ。

 

「でも、静かに生活してるだけならほっとけばいいのに。火薬樽を振るだけ私達も被害を被ることになるんだから」

「盗電されてんの。あと水もね。ただでさえ国全体がカツカツなのに、盗人にくれてやるエネルギーがあると思うか?」

 

 このデカい鉄門の裏には独特のコミュティ、物流拠点、生活インフラが形成されてるらしい。

 この中が一つの小さな市区のような役割を持つというべきか。とにかく、党員の家族がこの内部から出ることなく一生を終えられるような仕組みが整えられているのだとか。

 

「対してこちらの戦力は、魔術局の治安維持部隊が18小隊、総勢500余名……」

「それに、特別作戦協力者のオレ達ね」

「少なくないですか? 敵は、戦闘員だけでも1万は控えてる計算でしょ?」

「そーかな」

 

 数字だけなら分が悪く見えるが、相手は反社共が集まった烏合の衆だ。対してオレ達は全員が魔術局の厳格な採用条件に適ったエリート集団。

 それに、今日のオレは戦闘仕様だ。戦闘用の術式を持ち出すこと自体、2年も遡らなければならないが、そこまで腕は鈍っていない、と思いたい。

 

「第5室長殿、全部隊、準備完了しました。お二人は06(ゼロロク)小隊に追随して、内部に侵入してください」

「我々も準備完了しています。ですよね、室長」

「おーん。いつでもオッケーっす」

 

 荒事が嫌で研究室に引きこもっているというのもあるというのに、結局は奴らとの因縁から逃れられない辺り、やはりオレとスミの幸せ結婚生活の、一番の障害だな。

 

「もし敵が出てきたら、室長は隅っこで震えててくださいね。邪魔なんで」

「オレのこと幼女かなんかだと思ってるだろお前」

「術式魔術でどうやって戦いになるんですか。こういう時のために私がいるんでしょ」

「そんじょそこらの魔術師と一緒にするな!」

 

 確かに目まぐるしい戦闘の中では、杖を振ったり口頭で使う魔術に、取り回しで大幅に譲る。戦闘においてはあくまで補助的な使われ方が多い。

 それすらもねじ伏せてこそ、魔術局の第5室長という肩書きに相応しい術者たり得る。

 

 第5の札は、すなわち〝日本という公式に認められる中で〟最も優れた術式魔術師の証左でもあるのだ。

 

「いいから守られてなさいよ小娘は」

「言うほど歳離れてないだろが!」

 

 実践魔術や杖術に多少の心得があることは承知しているが、シキンちゃんは時折、慇懃無礼にもほどがある。

 オレがその気になったら、触手の山を喚び出してこの団地に突撃させ、住民らに泣き叫ぶほどの快楽を与えて従えることもできるんだぞ。

 

 私有地外での触手の喚び出しは軽犯罪にあたるので、実際にやるかは別として。

 

 

 

 本来、浄化作戦はこのような電撃戦になる予定ではなかった。

 近隣と内部の非戦闘民に警告を発行し、立ち入り調査という名目でおこなわれるはずだった。始終吹き上がる魔術局のタカ派と、党に弱みを握られているのが露骨な穏健層が分断気味のこの頃、局長が強権を振るったのだ。

 それが如何な思惑による采配かはこの際問題ではない。局内政治やら派閥争いを最初から放棄している第5にとって、局長の指令は無条件で聞くに値する唯一の命令だ。

 

 

「室長、ここです。この式」

「はいよ」

 

 植え込みの下に隠された術式を復号する。無効化されることを見越して、かなり複雑なダミー式を重ねているが、オレの目は誤魔化せない。

 

 ……ここまで巧妙なダミーが、単なる暴徒の吹き溜まりから生み出されるものか? 

 オレのPCにかけているショルダーハック対策の術式よりも高度な暗号化だ。それすらもオレの手にかかれば知育パズルにも等しいとはいえ、不自然に見える。

 

「どうですか。無効化できそうですか?」

「おう。余裕」

 

 ここまで来て、警戒の上に同じ警戒を重ね、勝手にプレッシャーで弱るべきではない。

 つーか、何があってもいいように、術式を転写した厚本なんて古くさい魔女みたいなものを持ち出してるんだ。策を怠っている訳ではない。

 

 一つ目で目的の効果を打ち消し、その上にオレの術式をかけて再利用を不可能にしてから、マークを印した。

 

「ここもオッケーでーす」

 

 銃器と杖で武装した小隊のリーダーは、オレの合図に無言で頷くと、ハンドサインで部下を動かし始めた。

 

「これ、何の術式なんですか?」

「魔素伝播解析を妨害してる。これのせいで魔術局の衛星解析に引っかからなかった」

「だから内部の様子が分からないまま、作戦行動が強行されたんですか」

「何だろうが強行されただろうけどね」

 

 解析妨害は副次的な効果で、これはオレの開発した術式である選択盾の粗悪品のようなものだ。

 これを利用すると、簡易的な盾の触媒となり、選択性はないものの、とりあえず魔素なら全て遮断する壁を作り出せる。籠城戦に利用されやすいということだ。

 

「これで28個目か……」

「党員からの抵抗も、想定よりずっと激しくないですね」

「ああ……」

 

 内部が広大だから、と言われればそれまでなのだが、ここまで会敵したのは2度。物陰や非武装民に隠れてゲリラ的に攻撃してきた者を、小隊があっさりと制圧したのみだ。

 

「まだ2棟目だけど大丈夫か? シキンちゃん疲れてない?」

「疲れてなんかいませんよ。室長こそ、さっきから階段で息切らしてますけど、もっと普段から運動したほうがいいですよ」

「オレの仕事は頭脳労働だからいーの」

 

 西側が開放された風通しのいい渡り廊下を進みながら、部隊がこじ開けた部屋の中を改めるという作業を繰り返す。

 エレベーターは全て電力供給が止まっているし、外部からの操作で閉じ込められると面倒なので、最初から選択肢のうちではない。

 

「さて、次の術式――――」

 

 ほんの一瞬だけ、0.1秒にも満たない僅かな間だけ、オレは若干の〝酔い〟を感じた。

 

「…………」

 

 オレの身体は、などという言い方をすると、まるで他人事のような響きだが、とにかくオレの身体にはちょっとしたしかけがある。

 魔素の流体を常に体表にまとい、動作と同期させている。常にその動きを参照しているのだ。もしもズレがあると、魔素の膜から体がはみ出る、という寸法で。

 

「どうかしましたか? ……室長?」

「…………長くないか」

 

 焦点の終端が極端に遠くなった。不自然にも集合住宅のキュービックな景色が、丸く広がるように横に長く、次いで縦に長くなっていた。

 

「長い? それは、そうでしょう。ここは高層棟ですからね」

「違う。廊下だよ。さっきの部屋で、この階は7割巡回できてたはずだろ」

 

 だというのに、外階段までの距離が伸びているように見える。

 

 目の錯覚だろうか? 日照の変化で影の差し方が変わって、それに伴って奥行きの見え方が少し違うだけなのか?

 

「早くしないと、部隊から遅れ――――」

 

 

 て、し、まぁ…………。

 

 

 シキンちゃんの声が、その動きが、映画の大げさな演出のようにスローになっていく。

 

 魔素の流体が体から引き離されていくのを感じていた。まるであるべき時間を持ち去られていくかのような、不愉快な感覚。

 

(結界……!!)

 

 世界から切り離されるような、この不自然な視界の切り替わりは、術式では起こり得ない変化だ。

 

「シキンちゃーん! シキンちゃーん!? 聞こえるー!?」

 

 ダメだ。返事なし。寂しい。

 

「おーい! 誰かー!! 聞こえないかー!」

 

 やっぱり誰からの返事もない。泣きそ……。

 

「ぐすっ……くそ、オレのこと置いてって行っちゃうんだもんなー」

 

 こうなったら自力で脱出するしかない。泣いている暇などないのだ。泣いてないけど。

 

 術式による分断は、オレには通じない。オレよりも術式魔術に長けた魔術師など、少なくともここ日本には存在しない。

 オレの白衣の裏には、想定し得るいくつかの攻撃的魔術に対する防御術式と、座標系を固定する術式が貼り付けてある。それをすり抜けるということは……。

 

「位置は変わってない……」

 

 三次元的な座標は同じ。転移ではない。言うなればレイヤーの変更。つまり、現実をAという軸だとすれば、結界はB。

 これほど高度な……すなわち狙った対象を次元層の異なる結界空間に引き込めるほどの技術を有する魔術師がいるなど、報告にはなかった。

 

「しかしね……趣味わりー……」

 

 結界の内部の風景というべきか、見た目は術者にすらどうこうすることはできない。構造物の設置や排除は可能だが、その色合いや細かい造形は、術者の魔素に影響を受ける。

 

 赤いマーブル状の模様で歪む空間は終端がどこにもなく、円形にも無形にも見えた。

 足元からは棘のように鋭い赤い繊維が、草むらでも真似るかのように疎に生えていた。

 

「とにかく、まずは基点を探すか……」

 

 どんなに卓越した結界魔術師でも、空間の魔力を完全に均一にすることはできない。

 現実に無理やり新しいレイヤーを挿入しているような状態だからだ。規模が大きければ大きいほど目立った歪みが現れる。一つでも複数でもあり得るが……。

 

「魔素の流れを見れば……」

 

 励光を見るよくあるやり方だ。魔素に魔素をぶつけて反応を促す方法で、オレは魔素を収束する作用のある術式を撒いた。

 

「これで……」

 

 

「――――私の隠れ家を無粋なもので散らかさないでくれるかしら?」

 

 

「誰だッ!」

 

 魔素をすり抜ける一つの影があった。

 

 歩くほどの小さく、緩慢な足音しか聞こえなかったというのに、その動きはオレの目には1秒も止まらなかった。

 

「悪魔…………?」

 

 立ち止まった影は、角のある黒髪の女であった。長い蛇の尾を垂らし、両腕が猿のように毛に覆われた、長身の女だった。

 

「いやらしいメスの匂いがすると思った」

 

 高音で多少枯れるハスキーな声がした。

 

「サキュバスなんて……穢らわしい人外が私の結界の中を踏み歩くなんて」

「サキュバスの何が穢らわしいってんだ」

「事実でしょう。男に媚び、傅いていなければ生きることもできない、哀れで愚かな存在。殺してあげたほうが慈悲というものね」

 

 ここまで直球のサキュバス差別を聞くのは何年ぶりか。スミと一緒に〝真人党〟からの逃避行を続けていた頃まで遡ろうか。

 

「男などという下等な存在に頼らなければ生きられない女は、皆死ねばいいの」

「サキュバス差別なんて今時流行らないぞ」

 

 サキュバスを差別する言説を聞くと、オレが怒る前にスミが激昂し、相手を血祭りにあげていた。それを止めるのがオレの役割であったくらいだ。

 スミが死紋の呪いを受け、隠遁生活が続けられなくなった頃には、ミドヲ局長の援助によって魔術局に迎えられていたので、やはりサキュバスへの差別発言もしばらく聞かなくなっていた。

 

 むしろ懐かしいかもしれない。ただ、まさか差別してくるのが、同族とまでは言わずとも魔族であるとは思わなかったが。

 

「不本意だけど、この結界に踏み入れた者は殺せというのが、上長の命令なの。あぁ、私の空間を畜生の地で汚したくないのに……」

「上長?」

「党首様のことよ」

 

 この女が〝真人党〟の関係者であることは自明なので驚きはない。

 それより、こんな結界を、わざわざ自分達の拠点の中に作り出していたことが疑問だ。隠れ家にしても、蜘蛛の巣にしても、もっと中立的な場所が、敵に近く、かつ敵に見つからない場所に置くのが定石。

 

「お前、一体ここで――――」

「この世の全ての男が同時に、女になってしまえばいいのに。そうすれば、あなたみたいな男に媚びるのが生業の穢らわしい生き物も生まれなくなるわ」

 

 人の話遮って言うことが男性嫌悪かい。

 

 実際に男だった身としては反応に困る。男でいるのも悪いもんじゃないぞ。のびのび運動できるし。

 

「男が嫌いなのか?」

「嫌い? 違うわね。憎い、よ。みんな殺したいくらい。たった一人を除いてね」

 

 たった一人、というのは連中の首魁、つまり党首のことで間違いなさそうだ。

 こいつら、どいつもこいつも顔も見たことないくせに、党首様っていうヤツを崇拝して妄信している。

 一体どんなからくりなのか。魔術による精神操作は万能ではない。一度に一人か二人の精神に干渉するのが限界だ。数万に及ぶ党員を繋ぎ止める求心力には何か秘密がある。

 

「さて、ここからがお仕事の話よ。あなたの顔には見覚えがあるわ。確か、魔術局に飼われてる性処理ペットだっけ?」

「ふざけんな。お前のほうが商売女みてーなカッコしてんじゃねーか」

 

 女は、おそらくは下着も着けていない裸体の上から薄いシーツのようなものを纏うのみの心許ない格好をしていた。

 

「結界を操る技術は繊細なの。肌で魔素を感じられるための、合理的な衣装よ。あなたみたいな何でも性的な方面にしか考えられない淫売と一緒にしないで」

「だから売ってねーよ」

「そんなことより、魔術局の淫魔と言えば、私達の中では前副党首を殺害した男の子とつながりがあることで有名だわ」

「…………」

 

 その一言で、この女の目的が分かった。

 

「お前もスミの身柄が目当てか……」

「そうよ。大人しく教えなさい。そうすれば殺さないでいてあげるわ。そうね、ウチのうるさい男共の肉便器にでもしてあげる。本望でしょ?」

 

 言わせておけば。こっちにはスミを明け渡すつもりなんてないし、スミ以外の男に肌を触らせるつもりも毛頭ない。

 

「何でスミに執着する!」

「なぜ? それを聞いてどうするの」

「殺した奴に執着する必要ないだろ! スミの死体を確認できなきゃ不安かよ!」

 

 本当は分かっている。スミの体に残った死紋の程を見たいのだ。こいつらは。

 

 多量の贄を以て成功させた呪いが、そのコストに値する効果を発揮できているのか、それを確かめたいのだろう。

 

「何を勘違いしているの。私は死紋の効果になんて興味はないわよ」

「嘘つけ! それこそスミが本当に殺せてるか確認する以外に意味ねーだろ!」

 

 そこで女はたったまま優雅に交差させていた生足を解き、自らの顎を撫でていた指を不機嫌そうに下ろした。

 

「そんなもの、だって……」

 

 女は突如恍惚の表情で、よだれでも垂らしそうな勢いで笑った。

 

 

「あの子と私は愛し合ってるの」

 

 

 

 は?

 

 

 

「あの子はこの私、二大愛(ピエタ・カーリタ)のものよ」

 

 

 

 

 あ゙?

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 

「しづじょ〜゛!! しづじょ〜゛!!」

 

 シキンは半べそでイロを探し回っていた。

 

「どごでずがあ! しづじょ〜゛!!」

 

「ま、魔術局員の方がご乱心だぞ!」

「どど、どうか落ち着いて!」

 

 治安維持部隊が宥め、取り乱すシキンを少しでも落ち着かせようとするも、甲斐はなかった。

 

「これが落ち着いていられますか!! あなた方は知らないでしょうけど、室長は赤ちゃんみたいな人なんですよ!!!」

「あ、あか……?」

「私がいなきゃダメなの!! 研究のためなら一週間風呂キャンするようなダメ女で、私がいないと魔術局からコンビニまでの道のりで迷子になるような子なのに……!」

 

 酷い言い草だが、全て事実だった。前者については(社会人としてどうかという話は脇において)研究者としてはそこまで珍しいことでもないが、魔術以外はポンコツ、からきし、誰かの支えがないと生きていけない見た目だけ成熟した女児、それが女性陣から見たイロの局内での評価だった。

 

「室長は気に入ったものにシールとか貼っちゃうくらい女児なんですよ!! 人生初心者なの!!」

「わ、分かりました! 分かりましたから! 現在我々も必死で捜索をしておりますので!」

「室長……! 絶対泣いてるわ……! 私がいないとすぐ泣いちゃうんだから……! こうなったら建物ごと吹き飛ばして……!」

「わー! ダメダメ!! ダメです!」

「このっ、止めないでください! 泣いてる子供を迎えに行くのは親の努めでしょうが!」

「親じゃないでしょあなた……! お、おい! 誰か来てくれ! この人止まらんぞ!」

 

 





黒海(クロウミ)
 人間。26歳。〝真人党〟の黒装束で顔を隠した枯れ木のように細い男。腰に差した刀は魔力を宿しているも、〝利剣〟なる刀ではないらしい。
 10年前までは貧民街で人斬りをするケチな悪漢だった。食い扶持を稼ぐために男女を選ばず斬り殺す少年期を送る。
 ある日、斬り殺した露天商の男が〝真人党〟の党首による魔術で蘇る瞬間を目撃。その日から宗旨を改め、〝真人党〟派を表明する。
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