……血溜まりに沈むルリの生命力が、急速に消えていく……
「アルちゃんっルリが!」
「アル、早く治してやってくれ!」
青ざめた顔で我を呼ぶエミーとジョッシュじゃが、我が何か答える前にアビゲイルの声が響く。
「あっはははははっ! アッアハァハァ……♡ 無様で素敵な死に様よぉ、ズベリィ……♡ びしょ濡れだわぁ……♡」
アビゲイルは高笑いと、性的興奮で恍惚のため息をこぼしながらそうのたまう。
「……其奴の言う通り、ルリは死亡しておる。右目爆破の勢いは、脳を破壊する威力だったようじゃ」
「でっでも! それでもアルちゃんなら!」
「優先順位を誤るでない! カタリ——」
「私を殺すより、早く
「む、これは」
アビゲイルは、ルリの右目に付与されていた
(先程と魔力の質というか、方向性が違う。魔獣を操るのとは違う
恐らく、右目の魔力を使い切ったか消失すると、自動で発動するよう設定されとったのであろう。
何のために、そんな回りくどい設定にしたのか。
「ルリが魔獣を操る魔力を使い切って爆死した後、証拠隠滅のために死体をどこぞに転移させるため、かの?」
「その通りぃ♡ 頭の回転早いわねぇ。ソレは私の側仕えとしてちょっとだけ有名になっちゃったからね、今回のお仕事終わったら消さないとだったのよぉ。まっ理由は他にもあるけど♪」
少し早口ながら律儀に答え合わせしてくるアビゲイル……力の高まり的に、転移発動までもう2分とないからの。
つまりそれまでに終わらせねばならぬ、しかし強制転移を今から止められる者はこの場にはおらぬ。
時間がない、ならば取捨選択、最低限今すべき事を!
(ルリ&エミーで殺しきれなかった事から判明したのは既にアビゲイルが「普通の人間の殺した方では死なない」と言う事。最悪の展開であるが予想通りではある事、我が邪神の徒を殺す手段を知っている事。即ち!)
邪神の徒を殺す唯一の方法とは! 人間を辞めた肉体を維持するための核の破壊!
核とは心臓、しかし心臓の位置にあるとは限らず、一つとも限らぬ、だがしかし! 生命体である事には変わらぬ故に真なる大聖女たる我にかかれば目を凝らせば容易く見抜ける!
故に、指示は単純にして端的に、それでカタリナは役割を果たす。
「
「は?」
「《
ゴリュッ
「……は?」
カタリナの準備しておった星霊術により、右胸とへそ下辺り——そこにあった「普通の人間なら本来ない存在しない臓器」、魔力核を圧壊したのじゃ。
「なぁに、これぇ……な、あえ……」
突然邪神の徒としての生命維持必須器官を潰され、訳も変わらず倒れ伏すアビゲイル。どうやらアビゲイル自身は、魔力核の存在は知らされておらんかったようじゃの。
これでしばらくすれば、肉体は普通の人間のモノに戻るじゃろうが……こやつは、心身共に手遅れなまでに精神汚染させられておる以上……
「頭」
「《
べグッ!
……殺すしかないのじゃ……
「……っ……おねえ、ちゃん……」
「問題ないと言ったであろう?」
……一度は。
我はアビゲイルの生命活動の停止を確認した瞬間、接続した世界に意識を深く潜らせる。
この「世界に接続」とは、即ち大霊脈に接続して世界の記録を閲覧する事。
これは2000年もの永い刻を大霊脈に浸かっていた、我にしか出来ぬ事……まぁ普通の人間がそんな事をしたら、意識も肉体も大霊脈に溶け、世界にエネルギーとして一体化して消えるじゃろうが……その辺りは一旦置いといて、じゃ。
カタリナは「アカシックレコード的なアレですか」と言っとったが。まずその
(マトモな頃のアビゲイル、マトモな頃のアビゲイル……アレじゃな)
我の体感時間にして十数分、ここに意識を潜らせておる間は実時間では十数秒程じゃが。無事、まだ「聖女に憧れる純粋無垢な頃のアビゲイル」の記録を閲覧出来たので、接続解除して意識を現実に戻し、即星霊術発動。
「汝のあるべき
我は術に強く言霊をのせ、アビゲイルの遺体に放ち復活させる。
「……ん……え、森? 私、教会の深部に——」
「アビーお姉ちゃん!!」
アビゲイルが蘇った事に感極まり、エミーが駆け寄って抱き起こす。
「えっエミー? なんでエミーまで教会に!? まさか自力で!? というかここどこよ!? ていうか……エミーなんか老けてない?」
……まあ要するに。邪神の徒になる前の状態で復活するという事は、徒として生きていた時の記憶は一切ないのじゃ。こればかりは致し方ない。
ちなみに、何かしらのキッカケで「邪神の聖女アビゲイル」の記憶を思い出す事もあり得るが。今のアビゲイルとはもはや別人なので、取り乱したりはするかもじゃが、エミーが側に付いていれば大丈夫じゃろ。多分。
さて。生き別れの姉妹の、真の意味での再会という感動的場面を存分に眺めていたい、ところなのじゃが。
——ゴゴゴゴゴゴ——
残念ながら、強制転移発動までもう30秒もない。
流石に、
我自身を復活させるなら、一瞬で済むのじゃがのぅ……ちと疲れた。
と言う訳で。どこに飛ばされるか分からないゆえエミーと綺麗なアビゲイル、ついでにジョッシュを巻き込むわけにもいかぬ。
(魔力の感じからして……半径1メートル弱、もしくは直接ルリに触れている者、と言ったところじゃな)
当然我の愛弟子になったばかりのルリを、ひとりぼっちには出来ぬのじゃ。というか、死んだままじゃし霊脈から戻ってから大星霊術である《
つまり——エミー達とは、しばしのお別れじゃ。
さていよいよ時間がない。伝えられる言葉は短めに。
「ジョッシュ! エミーにアビゲイル!」
「あ、アルちゃん!」
「アル!」
「……誰? てかめっちゃ可愛い!」
ヒュババッ
「あーれーわたくしの扱いが雑ですわー1番の功労者ですのにー」
瞬時に両手に我鞭を造りルリとカタリナに巻き付け引き寄せ……カタリナのおふざけ気味の文句を無視して、伝える。
「またの! 帝都の案内、楽しみにしておるのじゃ!」
「……っ! うんっわかったっぽい!」
「いやわけわかんねえけど、任せろ!」
ゴオウッッ——!!
2人のその返事が聞こえてすぐ、我等は目も開けられぬ豪風と爆音に攫われ、何処ぞへと転移させられた。
(はてさて、どこに飛ばされるやら。宇宙に放逐は……多分ない、と思いたいが……出来れば海原ではなく、陸地が良いのう)