始めたての方とリーパーに追いかけられて、叫びながら出口に行くと既に待機してた人がルアーグレネードを投げてくれたっていうドラマを体験したのでそれを元に書いてみた
心臓の鼓動が頭の中に鳴り響く。
「止まるな!走れ走れ!」
二人の男が、ひび割れたアスファルトを必死に蹴っていた。背後からは、コンクリートを粉砕する重厚な金属音が迫る。
――ヴヴヴ…ヴゥゥゥン!!!
鼓膜を突き刺すような、電子の悲鳴。 振り返る余裕などない。ただ一歩でも遠くへ、その無慈悲な鉄の巨体から逃れるために、彼らは泥と土にまみれながらひたすらに廃墟を駆け抜けた。
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「いいかアイラー。派手なのはいらない、安定して弾ける素材だ」
整備士のアポロは、油まみれの指で設計図を叩きながら言った。
「金属片、化学薬品、できれば質のいい火薬……。それさえあれば、いくらでもグレネードは作れる。」
アイラーは軽く頷き、短く答えた。
「わかった。できるだけ集めてきてやるよ」
そうして今、アイラーは埃の積もった化学工場の倉庫跡にいた。
「……ビンゴ。これならアポロも文句言わないだろ」
棚の奥から見つけ出した薬品の瓶を、割れないよう慎重に緩衝材で包み、バックパックへ押し込む。指先は煤と錆で黒ずんでいるが、好青年らしい端整な顔には、確実な収穫を得た安堵の笑みが少しだけ浮かんでいた。
だが、その平穏は唐突に破られる。
建物の外から、甲高い電子音が響いた。
「ピーピピピ…。キュイィィン……」
タタタタンッ、と乾いた音がコンクリートを削る。
機銃掃射の残響が消え、辺りは不気味な静寂に包まれた。
アイラーは煤けた窓の縁に這い寄り、外の様子を伺う。
「ピー……ピピ……」
視界の先、一機のワスプが低空でホバリングしていた。そのレンズは、向かいの半壊した民家の屋内を執拗に凝視している。奥の暗がりに、息を潜めてうずくまる一人のレイダーの影が見えた。
ワスプの機銃が再び、充填の音を立て始める。
「……させないっての」
アイラーは『アンヴィル』を両手にしっかりと握った。無骨な鉄の塊のようなその銃身は、手入れの行き届いた鈍い光を放っている。
狙いはワスプのスラスター部分。
引き金を絞ると、重厚な発砲音が鼓膜を震わせた。
--ガッ!!
放たれた一撃は正確にワスプの装甲を貫き、その姿勢を崩した。制御を失ったドローンは、フラフラと飛び続けたが、やがてそのまま床へと激突して沈黙した。
アイラーは即座に窓から身を乗り出し、室内のレイダーへ声を張り上げる。
「おい!大丈夫か!」
一瞬の間を置いて、暗がりから泥まみれの顔が上がった。
「平気です!ありがとうございます!」
「動けるか? 立てるなら、さっさとここを離れるぞ」
アイラーは銃を腰に据えて、レイターの元へ駆け寄った。
どうやら新人のレイダーらしい。
近くで見ると、相手はまだ十代半ばに見えた。ブカブカのタクティカルベストを着せられている。
「……新人か?」
「はい。先輩たちに、なんでもいいから使えそうな物を調達してこいって放り出されて。……地図を見てたんですけど、迷っちゃって」
(1人ぐらいついてやればいいのに…)
アイラーは心の中で毒づきながら、新人に提案した。
「俺はもう帰るところだが、来るか?」
「…えぇ、お願いします。」
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二人は崩れかけの民家を抜け、かつては片側三車線だった大きな通りへと出た。
ひび割れたアスファルトの隙間から雑草が生い茂り、錆びついた車の残骸が墓標のように並んでいる。
「さっきのワスプ…、ドローンの形をした奴らは周りのスラスターを狙え。そうすると、あいつらは自分の姿勢を制御できなくなる。あとは勝手にバランスを崩して、地面に叩きつけられて終わりだ。」
アイラーは周囲への警戒を解かぬまま、淡々と知識を叩き込んでいく。
新人は、一言も漏らすまいと熱心に頷きながら話を聞いていた。
カランッ、と何かが転がる乾いた音が静寂を打った。
アイラーの眉筋がわずかに動く。
「銃を持て」
「えっ、あ、はい!」
短く鋭い指示に、新人は慌てて肩に掛けていたサブマシンガンを両手で握りしめた。
道路に放置された錆びついたセダンの物陰から、白く、丸い機械が「プッ……プッ……」と電子音を鳴らしながら姿を見せた。滑らかな曲線を描くその筐体は、この荒廃した世界には不釣り合いなほど無機質で清潔だ。
「あいつはポップだ。人間を見つけると、素早く寄ってきて自爆する」
案の定、ポップのセンサーが二人を捉え、警告音が「ピピピピ!」と一段と高く激しくなった。
球体の要所が赤く光り、猛烈な勢いでアスファルトを転がり始める。
「撃て!」
アイラーの一喝に、新人は引き金を引き絞った。
乾いた銃声が響き、火線がポップの周囲を叩く。数発がその白い装甲を捉えると、ポップは激しい閃光と共に木端微塵に弾け飛んだ。
「や、やった…」
新人は、硝煙のたなびく銃口を下げ、自分の手元の震えを抑えるように深く息を吐いた。
「銃撃は練習だな。次は残骸を漁るぞ」
アイラーは短く促すと、まだ熱を帯びているポップの残骸のそばに膝をついた。
「これを見ろ。こいつのボディを構成してるARC合金だ。強度が違うし、スペランザではいい金になる。それから、自爆用のトリガー。ここには火薬がそこそこ詰まってる。」
アイラーが手際よく部品を引き抜くと、新人は目を丸くしてその手元を覗き込んだ。
アイラーは剥ぎ取った素材をまとめると、それを新人の胸元へ突き出した。
「ほら、持ってけ」
「え? いいんですか?」
新人は驚いてアイラーの顔を見つめた。
「お前が倒したんだぞ。当然だ」
「……あ、ありがとうございます! 」
アイラーが立ち上がり、再び歩き出そうとした、その時だった。
――ヒュゥゥゥゥゥゥ……ッ!!
空を切り裂く、異様な高周波。
鋭い閃光が、空を斜めに引き裂いた。
二人は、同時に足を止めて空を見上げる。
それは、遥か上空から白煙を引いて降ってきた。
大気を震わせ、二人の視線の先、数百m離れた市街地へと突き刺さる。
ドォォォォンッ!
遅れてやってきた衝撃波が足元のアスファルトを揺らした。
少しあと、家々の影から姿を表したのは、
赤く細い光を放つ単眼をぎらつかせた、巨大な四足歩行の機械——『リーパー』だった。
重厚な装甲に覆われた四肢が、アスファルトを踏み砕く。中央に鎮座するその巨大なカメラアイは、まるで獲物を探す冷徹な捕食者のそれだ。
アイラーは地図を確認し、覚悟を決めた。
「おい、新人」
アイラーの声が、今までよりも低く、鋭いものに変わった。
「は、はいっ!」
「足は早いよな?」
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「ひぃぃぃぃぃ!!!」
「止まるな!走れ走れ!」
アスファルトを蹴る音と、それに重なるように金属の重厚な足音が響く。
――ヴヴヴ…ヴゥゥゥン!!!
リーパーの唸り声が、すぐ耳元まで迫っている。
振り返れば、赤く光る巨大な単眼が、自分たちの背中を冷徹に見つめているのだろう。
「先輩!!! 来てます!!すぐ後ろに来てますって!!」
「わーってるよそんなこと!!」
アイラーは冷静にポケットへと手を突っ込んだ。取り出したのはショーストッパー。周囲に電磁波を出すグレネードだ。
アイラーは走りながらピンを引き抜き、背後の鉄の塊目掛けて放り投げた。
放たれたグレネードは、リーパーの足元で鋭い電子音と共に炸裂する。
聞くだけでこちらまで痺れそうな音を背に、2人は更に足を動かす。
「よし、効いた! 数秒だ、今のうちに路地へ滑り込め!」
「うおおおおお!」
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「……はぁ、はぁ、……死ぬかと、思った……」
新人はバックパックを抱えたまま、膝に手をついて激しく肩を上下させていた。喉の奥が焼けるように熱い。
アイラーも壁に背を預け、荒い息を整えながら周囲を警戒した。額から流れる汗が、煤けた顔に一本の筋を作っている。
「……おい、帰りたいなら聞け。この後のプランを話すぞ」
アイラーの声はまだ少し弾んでいたが、その瞳には冷静さが戻っていた。
「いいか? さっきの道路に沿ってもう少し行ったところに、工場があって、そこに貨物運搬用のエレベーターがある。俺たちがスペランザに帰る方法のひとつだ。」
アイラーは懐から再び地図を取り出し、現在地と工場までの場所を指でなぞった。
「とりあえずそこに行けばなんとかなる。…だが、まだアイツが外をうろついてる。音を聞け。探してるぞ」
遠くで、建物をなぎ倒し、獲物を見失ったリーパーが苛立ちを見せるような駆動音が響いている。
「少し休憩したらすぐに向かう。」
アイラーは淡々と計画を喋るが、新人は返事をする余裕すらなかった。ただ力なく頷き、胸を大きく上下させて深呼吸を繰り返している。肺がひっくり返るような喘鳴が、静かな路地裏に虚しく響いた。
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道路に出ると、もうリーパーの姿はなかった。
アスファルトには深く巨大な爪痕が残されている。
どうやら、獲物を見失ったリーパーは他の場所へ偵察に行ったらしい。
「よし、今のうちだ」
アイラーの短く鋭い合図。
二人は遮蔽物を縫うようにして、再び大通りへと飛び出した。
アイラーを先頭に、二人は駆け足で工場へと向かった。
「……あ、あと、どれくらい、ですか……っ!」
新人が途切れ途切れの声で尋ねる。
「すぐそこだ。あの煙突があるだろ?そこの地面にハッチがある。まぁ、見ればわかるさ。」
アイラーが指し示した先、煤けた工場の巨大な煙突が、傾ぎながらも天を突いていた。その足元、不自然に整地された一角に、重厚な鋼鉄の蓋が鎮座している。
二人がその場所を目指して足を早めた、その時だった。
「ビー! ビー!」
静寂を切り裂く、けたたましい警告音。地面に設置されたエレベーターの縁が黄色く点滅し、重々しい油圧の駆動音が響き渡った。
「おっと、先客がいるらしい。出発される前に行くぞ。走れ!」
「はい!」
ハッチが閉まってしまえば、次の起動まで地上に取り残されることになる。二人は最後の力を振り絞り、荒い息を吐きながら工場跡へと駆け込んだ。
だが、その騒音を「捕食者」が見逃すはずもなかった。
――ヴヴヴ…ヴゥゥゥン!!!
背後の瓦礫の山を粉砕し、あの赤く不気味な単眼が、再び二人の背中を射抜いた。
「どうやらあの音を聞きつけたらしいな!」
「ま、また隠れますか?!」
新人は、すぐ後ろまで迫る死神の気配に顔を引き攣らせ、必死に周囲の物陰を探した。だが、アイラーは足を止めない。
「いや、このままいくぞ!」
やがて工場の敷地内へ入ると、エレベーターが重々しい音を立てて開き始めたところだった。
「おーい!!待ってくれー!!!」
アイラーは腹から叫ぶ。その声に応えるように、側で待機していた一人のレイダーがこちらを振り向いた。
「りょうかーい!!」
快活な返声が響いたその直後、アイラーと新人のすぐ背後、工場の鉄門をなぎ倒してあのリーパーが姿を現した。赤くぎらつく単眼が、獲物を逃さじと逃走経路をロックオンする。
「おいおいおいマジかよマジかよ!!!」
迫りくる鋼鉄の怪物を視認したレイダーは、顔を引きつらせながらも素早くバッグに手を突っ込んだ。取り出したのは、特殊な発振器を取り付けたルアーグレネードだ。
彼はそれを、二人の進行方向とは別の建物の方へと力一杯投げつけた。
ウーーッ!ウーーッ!
着弾と同時に、耳をつんざくほど大きく、不快な音が周囲に鳴り響く。
リーパーはその単純で圧倒的な「音」に釣られるように、獲物である二人から興味を逸らし、発信源の方へとその巨体を向けた。
「今だ、飛び込め!」
アイラーと新人は、その隙に滑り込むようにしてエレベーターの中へ身体を投げ出した。
「入ったぞ! 出せ!」
「おう!」
待機していたレイダーがレバーを叩き、分厚い扉が火花を散らして閉まった。
ガタンガタンと外から扉を叩く音が聞こえる。
「……はぁ、はぁ、……助かっ、た……」
新人は、冷たい鉄の床に倒れ込みながら、胸元のバックパックを強く抱きしめた。
アイラーは壁に背を預け、荒い息を切らしながらも、どこか楽しげに口角を上げた。
「……初レイドでリーパーと鬼ごっことは、なかなか運が悪いな」
その言葉に、新人は床にへたり込んだまま、力なく笑い返した。
「……笑い事じゃないですよ……。死ぬかと思いました……」
「生きてるからいいだろ。運が悪いだけじゃ、こうはいかない」
アイラーは床にへたり込みながら、エレベーターが地下へ進む音を聞いていた。