青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
ある日。偶然にもシャーレの当番としてライナと再会したヒフミ。
ちょこちょこ対策委員会とは連絡を取ったり、一緒にあちこちに行ってみたりもしていたが、ライナはアビドスを訪れた時にしか会話していなかった。
「なあヒフミさん」
「はい?」
「なんだっけ。ペパロニだっけ? そいつってピピブレンド……のシリーズなんだよね」
「モモフレンズのペロロ様です。あの、わかんなかったら無理に言わなくていいですよ」
「あっはい」
妙な圧を感じて萎縮するライナ。
ヒフミとしては普通に訂正しただけなのだが。悪意ある嘲笑でなければ別に構わないのだから。
「で、急にどうしたんですか?」
「や、ほら。ノノミがそれ好きだみたいな話してたじゃん。なんだっけ、シスター・フビライだっけ」
「Mr.ニコライさんです。……わざとやってませんか?」
「わざとじゃないヨ。マジでうろ覚えだったのヨ」
どうしてそう変な間違え方をするのか。
Mr.ニコライは似た名前の哲学者と間違えられることも多いのだが、フビライは全く違うだろうと。てかシスターて。性別変わっとるがな。
「とにかくペロロと、Mr.ニコライと……あとはゆっくり覚えてきゃいいか」
「何か理由があるんですよね。教えてもらえませんか」
「本当に大したことじゃないんだ。ただその、なんだ。この前妙にノノミが辛辣な態度取ってきてな。で、心当たりが全く無いからとりあえずなんか好きそうな物渡して機嫌でも取っておこうかと。めんどーだし」
「ライナさん。そういうのどうかと思います」
要は理由がわからないがとりあえずなんか悪いことしたらしいので機嫌取りだけしてしまおうというとんでもない話だった。
それでヒフミとノノミの間で交わされていた会話を思い出し──という流れのようだ。
「いいんだよあいつは。案外雑に扱われる方が好きなタイプだからさ。それに気に入らなきゃこっちに遠慮無くアクションを起こしてくるし、だめでもともとって奴よ」
この人隠す気ほとんどないんじゃないのか、とか思わなくもないが……まあなんか平気らしい。
こんなのじゃいつか刺されるんじゃないかとすら思う。こう、人格的には物凄いあれだ。よくない。褒められたものではない。
「あ、そうだ。ゲーセン。ゲーセンならあるんじゃないか? その、ニコライのぬいぐるみかなにか」
「最近出たのがありますけど、今から取りに行くんですか? 私そんな得意じゃないんですけど……」
「任しとけって。こう見えて俺は近所のゲーセンのクレーンアームを直して挙動を一通りチェックしたこともあるんだ。よし、先生も誘おう」
「そんな暇ありますかね?」
「あの人ちょろいからヒフミが誘ったらすぐ乗るよ」
「……そういうのダメですよ」
「いーから行ってきなって。必要以上に仕事回してるっぽいしサ」
なんだろう、この言いくるめられてる感。
まあ確かにチラッと見た時にだいぶ先のこともやろうとしていたみたいだし、少しくらいは良いのかもしれない。
というわけで誘ってみたのだが。
"え? ゲーセン?"
"もちろん行くよ!"
(し、心配です……)
人が良過ぎて変な生徒を変に勘違いさせたりしないのかなとか、ちょっと不安に思ったヒフミであった。
「うーすサボりスかァ?」
そして人をけしかけた張本人は何食わぬ顔で合流してくるし。
"サボりじゃないよ"
"子供達に付き合って遊ぶのも、大人の仕事だから"
「んじゃ俺も付き合わせてもらいますわ。ノノミへのいい贈り物もありそうですし」
"何したの?"
「わかりません。なんか辛辣な態度取られたので、物で懐柔でもしようかと」
もうなんだろうか。突っ込む気力も失せてしまった。先生の表情もダメだこいつと言わんばかりの物となり、当の本人は全く気にしてない。
"いつか殴られても知らないよ"
「ま、そん時はそん時で」
なんかもう何も言えなくなった。ヒフミも先生も、このバカいっぺんしばかれろとしか思わなくなった。
ちなみにクレーンゲーム自体はライナがサッとコンプしてしまい、ヒフミは労せずして新規グッズが手に入ったことを喜ぶ……わけにもいかなかった。
彼女は先生と共に見ていた。このクレーンゲームの調整を担当していたであろう店員の顔がどんどん青ざめていくのを。バイトなのかもしれないが、しかし、いくら何でもこれくらいならまあ稼げるだろうと調整したものをあっさり攻略されては青ざめて当然だろう。
それに加えてやれアームの固さと想定金額が甘いとかやれこれくらいの固さなら箱の奴だとよく稼げるとかブツブツ言いながらやるのだ。たまったものではないだろう。
二人してごめんなさいと心の中で頭を下げながら、せめて他の筐体でお金を落として楽しんでいこうと決意するのであった。
それから色々な筐体を楽しみ、先生の息抜きという名のヒフミを巻き込んだライナのサボりは終わった。
「……写真に映らない?」
「うん。妙な体質なんだけど……ちょっと今仮説が浮かんでてね」
場を荒らすだけ荒らしてホクホク顔で戦利品を持ち帰り分け合い、自分がノノミに渡す分だけは手元に残したライナであったが、その途中でヒフミにも自分の奇妙な体質について相談はしていた。
属せない諦観はあるものの、その原理を解き明かすこと自体は積極的だった。
「一回俺のこと撮ってみてくれないか?」
「いいですけど……普通に映って、撮れてますね」
「──やはり、機械だけじゃ俺を映さないのか? だとすると最初のあれは、彼女は俺が映る条件を満たしていなかったからとしか思えないが……もう一度呼んで写真撮ってみるか……?」
"予定的には来月の下旬だね、彼女"
"すぐに検証は無理だ。確かあの子、ああ見えて運動部だから大会にも出るんだっけ"
"下手に呼び出すのもあれだなぁ"
ライナの映る映らないについては明かされてはきているものの、何が理由なのかまではよくわかっていない。ただはっきりしていることは、何らかの条件を満たした人間が操作する機器でのみその姿は確認できるということ。監視カメラの類には決して映らない。
「ライナさんもなんだか大変ですね……」
「まあなんだかんだ色々ややこしいしな、俺」
などと話して、この事はナギサには報告しないようにしようとふと思った。何故かはわからない。ただ何か、ヒフミの勘がライナの話を広げない方がいいような気がしてならないのだ。
今日のことは胸に秘めて、当番の終了手続きをしてからさてトリニティに帰るかと駅まで歩いていた──時だった。
「──あれ? ボクが見えてんの?」
アビドスの制服と酷似しながら、しかし決して異なるその服装。丈の長い上着とズボンが特徴的だ。その人物は青みがかった黒のメッシュが入った銀灰の髪、光の無い青い目、黝のヘイロー、華奢な身体──異様なまで浮いて見える人物と、道端で出会った。
「アビドスの──いや、でもアビドスの生徒は……」
「キミは……ああ、ライナのお友達! なるほど道理でボクが見えるわけだ。てことは……オーケィ、じゃあそういう方向で行こうかねっと。へーい、そこの可愛い子ちゃん?」
「へ? ええ……っと、なん、ですか」
ヒフミを覗き込むその人物。
年頃の少女らしいスタイルに顔立ち、だが男性的な格好、しかしそれらは作り物のように完成されたその姿。不可思議なまでに現実から浮き上がり、不気味なまでに光の無い目が、無機質に彼女を見つめている。
「いつもライナと仲良くしてくれてありがとうねー。アイツ友達少ないから、ボクとしてもちょっとどうかなーって思ってたワケ。ま、あー見えて結構寂しがりやなもんだからサ。キミみたいな良い子ちゃんが友達になってくれて嬉しいのよ!」
それはもう親戚が可愛がるようで、故にぐちゃぐちゃとした印象を与える。我が事のように喜ぶという言葉が、文字通りにも感じられる。こいつは、本当に『何』だ?
ヒフミの中にあるあらゆる表現を以てしてもこの女は当て嵌まらない。とにかくズレている。父を演じる母のように、子を演じる親のように、数式を文字で表しているように、絶対的な違和が生じている。
流線の中の直線、絵画の中の漫画、写真の中の映像。まるで絵本から登場人物を鋏で切り抜いて、空間に直接糊付けしたような異物感。
「……っと、ごめんね。急に声かけてさ」
「あ、はい……? それであなたは、ライナさんのお知り合いですか?」
「知り合い、そうだね。そういうモンかな。あとアビドスかどうかだけど、ボクはアビドスだよ」
普通の事を言っている筈なのに、何か致命的に異なることを言っているような気がしてならない。先生やライナに伝えるべきか逡巡するも、その迷いを見透かしたように女は優しげにヒフミに声をかける。
「ねぇキミ。ボクの事を伝えるか悩んでるっぽいね? でも大丈夫。アイツらにはボクの方から顔を出しに行くから。キミは変な奴と会ったなーくらいに留めておくといい。あとそう、これは真面目な話なんだけどね。ボクのことはあんまり他人に話さない方がいい。どーせ映像にも画像にも映らないだろうし。また会おうね、ヒフミちゃん」
そしてヒフミが、その訳のわからない言葉の中から似たような発言があったなと気付いた刹那。その女は消えていた。去っていたのではない。消えていた。
(──なんだろう、この感じ)
無視して言えばいい。
なのにヒフミの中にある何かが、この事を話してはいけないと警告をしている。言ったらまずいことになると、不思議にも確信している。時と人、それを選ばねばまずいことになる。本人の言うように、変な奴と会ったくらいに留めるのが最善であると──
(でも、どうして私に話しかけてきたのかな? ライナさんの友達だからみたいな理由だけど、だったらアビドスのみんなだって──)
そう、珍妙な点。
あえてヒフミの前に現れて、そしてライナを知り、友達であることに感謝するなど。それだったらどう考えても付き合いが長そうなアビドス生徒に声をかけるべきだろう。
それに写真や画像に映らない? なんでそんな、ライナと同じようなこと言ったのか。
ヒフミは普通の生徒だが、しかし普通なりに異常とも向き合ったことがある。湧き上がる疑問に素早くあれやこれやと仮説を立ててみるが、どれも筋が通らない。
(……あれ? そういえばいつ、私名乗ったっけ……?)
また会おうね、とは。
まるでまた姿を現すような。
思考と思考の渦に心が巻き込まれて──そしてヒフミは、その思考をやめた。気にして仕方ない。謎が人の形をして現れたのだから、解けない謎を気にする理由などあるのだろうか。
「──あの子、いい子だね。あんまり巻き込みたくないけど、いざって時は頼ろう。条件は満たしてる。仮にアイツがやらかそうとしても、だ」
「それからあと……あの便利屋って子たちもどうだろうかな? 条件満たしてるかはまだわからないけど」
「さぁて──ボクもこの身体の性能を確かめておかないとね」
「……連日起きてる不良襲撃事件、か」
忌まわしい過去を連想させる事件が、連日アビドスでは起こっていた。
目的も何かも不明。ただ強い奴が暴れているとしか言えない状況。深夜のパトロールをしていたホシノが、その情報を掴まない訳がなかった。
昼夜問わず起こるその事件が対策委員会の中で取り上げられるようになり、本格的な捜査が始められることは、何も不思議ではなかった。
「シロコちゃん、変な奴いた?」
「移動中と思われる目撃情報はゼロ。被害にあった子たちにちょっと話を聞いてきた。結構有益なのがある」
「流石だね〜。アヤネちゃん、襲撃地点に何か法則は」
「やはり無差別、ということしかわかりませんね。法則性がありません。それに明らかに一日中移動し続けていないとおかしいスピードです」
『先輩、今平気?』
「おっ、セリカちゃん。何かあった?」
『妙な噂話とその襲撃者、多分同じよ。さっき聞き込みしてたけど、特徴に共通点があるわ』
「りょーかい。あとはノノミちゃんが──」
「ホシノ先輩、ありましたよ。制服のカタログ!」
「よーし、じゃあ情報を整理して、先生にすぐ説明できるようにしよう」
──もちろん、その話はシャーレにも届けた。
「まさか、この役職としての権限を使うことになるとは思いませんでしたよ。というわけで出迎えは俺です」
"色々解決したけど"
"また、難題そうだね"
だからこそ、先生は再びアビドスに足を踏み入れる。個人ではなく、大人として。
"アヤネ。何が起きたのか、詳しく説明してもらえる? "
「はい。まずここ連日、不良生徒が襲撃されている事件が発生しています。これはもう先生の耳に入っているでしょうけど」
だが順を追って説明するのは整理も兼ねている。そこに突っ込む野暮は誰もしない。
「犯人は全て同一。シロコ先輩、使用していた武器は……」
「ん。襲われた子たちは槍と剣だって言ってた」
──槍と剣。
それはキヴォトスでは滅多に実戦で使われない武器だ。当たり前だが銃という近代兵器と、それを活かす戦術を前提とした世界において、近接武器は主役にはならない。副兵装としてそういった、ある種前時代的な武器は活躍しているが、主兵装として使われることはもうないのだ。
それに、使うとしても斧や棒、ナイフでいい。もしくは銃剣。つまり槍と剣という選択肢は初めから存在する筈が無いのだ。
故にこの事件での特異な部分は、まるで過去の戦士が現代に蘇ったように暴れていることにある。
"……銃じゃなくて?"
"槍と剣って、それでどうやって生徒たちを?"
「それが、一撃一撃の威力がまるで強力な銃弾に匹敵するくらいのものだったんだって。アサルトライフルの掃射を真正面から避けながら接近して、そのまま圧倒したらしいんだ」
「おじさんも最初聞いた時、あり得ないって思ったけど……まぁやろうと思えばやれる人もいるよね。そーゆーの」
まあ自分もやろうと思えばできるし……とはいえあえて接近する理由も無いが。接近戦が必要になるような相手など、それこそ腕の立つ強敵だけだ。そんじょそこらの雑魚など、近寄る頃には戦闘は終わっている。銃とはそういうものだ。
強者には弾丸だけでは足りず、弱者には弾丸だけで十二分。結局のところ、銃に頼り切るのではなく体術と戦術、そして知識を確かに備えた者にのみ、その真価を発揮できるというものだろう。
いつの時代も、武器とは余程の愚作でも無い限り使う者に左右される。
「次にこの事件と前後して、アビドスで噂が立ってたの。見たことのないアビドス生徒そっくりな格好した女の子が彷徨いてるって。時間帯もまばらだけど、時々長い棒を持ってるのを見かけた人もいるみたい。だからほぼ犯人と見て間違いないわ。それで、そいつの格好はアビドスの制服に似たズボンとコートらしいんだけど……」
「これ、昔の制服カタログです。どれもスカートとブレザーだからちょっと違うんですよね。もっと古いのかもしれません」
そう言ってノノミがカタログを広げるが、劣化した写真からでも現在の制服と大きく異なる点は見当たらない。細かいアップデートをしていたようだ。所属先に応じて制服が変わるとか、そういうことはなかったらしい。
多少のアレンジは個人の着こなしの範疇、ということだろうか。たまに派手に制服を改造している生徒もいるが……と浮かぶのは何処かの行政官。年頃の女の子があんな派手な格好はいかがなものか、と良識ある大人として思う。
「そして最後。訳のわからない移動速度。一日で確認された場所と時間帯があり得ない。おじさんたちで実際に移動して確かめたけど、全力で走っても間に合わない場合が何件も。20秒足らずで18km先に移動してる時もあった。もちろんバイクや車で移動したって証言もなかった」
「それに加えて突然現れて圧倒、そして突然いなくなるっていう感じに出没してるみたい」
「地下通路の類があっても無理です。アヤネちゃんが3kmを10分で走った時もありますけど……」
「あ、あれはちょっと条件的に違いますよ! そうですよね? 先生」
"あぁ、あの時……"
"あれこそ火事場のなんとやら、だよね。話を聞くに襲撃者はフラッとやってきてる程度だろうし"
ただ、それとは別に奇妙な点がチラホラあった。
「それとそいつ、どうも柴関ラーメンにも来てたみたいで。私のシフトじゃなかった時だから、実際には確認できなかったけど……大将もアビドス制服に似た格好に、長い棒を背負ってたって言ってたから、多分間違いないわ」
"大将は無事なんだね?"
「……フッツーにラーメン食って金払って帰ったそうよ」
"なんなんだ一体……?"
「それからあちこちに現れてショッピングしてたとか……しかもお金はきっちり払ってるそうでして」
なんか、自由だ。
蘇った過去の戦士の如く暴れているのかと思えば、ラーメン食ってショッピング。どっから金出してるのか。
自由にしているだけだが、それだけで異常である。ならばこれに自覚的であれば──もしかしてと仮説が浮かぶ。
もう既に相手の目的が達成されているとしたら……
『あー、あー、えっと、聞こえてるかなー?』
突如として空間に響き渡る聴き慣れない声。
真っ先に反応したのはシロコだった。
「誰!?」
『誰でもいい。キミらが知ってりゃいいのはボクは乱入者で声を届けてるってことさ』
だが乱入者はまともに相手すらしない。
それどころか一方的に言いたいことを言い放ち、こちらの質問に答えようとする素振りさえ見せない。端的に言えば傲岸不遜。まるで暴君か何かのように、自分以外の存在を相手する気が無い。
『キミらさ、知りたいでしょ。ライナのこと』
「っ、ライナの何を知ってるの!?」
『色々ね。ボクはよく知ってる。でもキミたちが知りたいか、本人が知りたいかは知らない。だから本当に知りたいなら、今から指定する座標に来てくれ。それでキミたちの意思表示だと認識しよう』
その言葉と共に、突然文字が書き殴られた紙切れが机の上に出現した。
だがその座標は……
「アビドス砂漠閉鎖地区セクター64-62……27-39-42地点30-54-20番……?」
唯一、過去に詳しいホシノも首を傾げる場所。セクター64-62、確か旧アビドス校舎からかなり離れた場所。そして27-39-42地点30-54-20番……何処かで聞いた覚えがと。
刹那、古ぼけた記憶が再生される。
「ホシノちゃん! これ見て!」
「セクター64-62……27-39-42の30-54-20? これ、砂漠閉鎖地区の座標ですよね。どうしたんですか?」
「ふっふっふっ。なんでもここにお宝があるんだって!」
「ガセネタですって。流石に無いですよ。だって以前のとは違って明確な証拠は──待ってください、それ何処で見つけたんですか?」
「もちろん、生徒会室にあったあの書類の山からだよ。ほら、整理されてない奴あったでしょ」
「じゃ、じゃあ──本物ってことじゃないですか!」
「そうだよ! これなら絶対手ぶらで帰るなんてことがないんだよ!」
「うへー……! 今すぐ準備してきます!」
そう、あの日だ。
いざ二人で期待して探しに行ってみたら、あったのは捨てられたガラクタの山ばかり。ガッカリして帰る時に、砂嵐が強くなったから一時的に建物に避難して、出て来た時にその向こうから歩いて来たのが──
"ホシノ、知ってる?"
先生の声で現実に引き戻されたホシノは、場所についての事実だけを述べることにした。
「おじさんも流石に……知ってるのはガラクタ置き場があったくらいで……」
「ガラクタ置き場って何よ先輩。わざわざ砂漠にガラクタを捨てに行く人がいるっての?」
「ほ、本当なんだって。信じられないだろうけどガラクタ置き場としか表現できなかったんだよセリカちゃん!」
事実そういうものだから困る。
怪訝な表情をされても困るものは困るのだ。
『あ、そーそー。来るならキチンと全員で来てね。後方支援で残るなよ。全員が指定座標に到達して知りたいって意思表示とするから』
「そんな注文付けるならそっちが来ればいいじゃない!」
『ボクだって自分で行って済むなら行ってるよー。でも、諸々の事情で来れねえからキミらに来いって言ってるのサ。おわかり?』
「なんか腹立つわね……」
『なら来いよ。殴られてやるからさ。ま、殴れるもんならね』
それだけ言って、声は消えた。
うんともすんとも言わない。空間はそのままだ。ただ──
「……アヤネ、通信機器はハッキングされてない。どうやって……」
「通信機器を介さず音声を届ける方法……録音? でも、先輩。あれはリアルタイムですよね」
「どう考えても、リアルタイムだろうけど……でも、何故……」
──知っている。
ライナはあの声を知っている。何処で聞いたか、何で聞いたか、知らないのにあの声に『聞き覚えがある』と脳が、心が、魂が処理している。だから何も言わなかった、何も言えなかった。本当の事なのだろう。自分の事を、声の主は知っているのは。聞きたくない、聞かせたくない。だが聞かなければいけない気がする。入り混じる感情が螺旋の棘となって蝕む。
「……なあ、みんな。多分、あいつは俺と同じ……何か、違う存在だと思う。聞き覚えがあるんだ、知ってるんだ、あの声を。記憶には何も引っかからないのに。きっと、奴は俺を知っている。だから──」
誘いに乗るのはやめた方がいいんじゃないか、そう続けようとして。
「先輩が何にビビってるのかはわかんないわ。でも、ライナ先輩は私たちの先輩で、今はシャーレ所属じゃない」
「何を言われようがどう言おうとも、それが事実です。大丈夫ですよ」
「──私は、ライナさんがそこにいるのが全てだと思います。だから、一緒に立ち向かいましょう」
その迷いを断ち切るように、彼女たちは迷うことなく恐怖と向き合う事を選び、背を押す。
"怖いの?"
「ええ。怖いです」
"でもそれは、きっと永遠についてくる"
"相手がその恐怖を問題に変えてくれるなら、私は行くべきだと思う"
それは明日を迎える為。
「──ライナ。行こう」
「ホシノ……」
「前に進むってこういうことなんだと思うよ。正直私だって聞きたくないし、知りたくない。怖いよ。でもそうやって怖いままなのは、絶対に間違ってる」
それは明日が明るい日である為。
「ん、絶対に大丈夫だよライナ。みんながいる。もう私も、あなたも、独りじゃない」
「……わかった。なら、行こう」
──ついに。
現れるはずのない者たちと、表舞台の役者たちは邂逅する。
砂漠の中の、捨てられた場所で。