青い春に馴染めない黝の星   作:うへうへ学生

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捨てられしアマルナ

「しかし、まさか買って早速出番が来るなんて思いませんでした」

「徒歩でもよかったよ?」

「うへー……おじさんと先生がへたっちゃうよぉ」

 

 ガタガタと狭い車内が揺れて、暑苦しい空気をエアコンが無理矢理に冷却していく。7人乗りが可能な車種とはいえ、流石に狭い物は狭い。対策委員会と先生、そしてライナ。彼らはこの前アヤネが中古で引き取り調整した大型の人員輸送車でアビドス砂漠へと出向いていた。

 

 "ヘリじゃなくてよかったの?"

 "必要なら出したのに"

「や、それがね先生。あの場所はガラクタ置き場って表現したけど、広い範囲に色んなものが捨ててあるの。大きいものも多かったはず。だから多分ヘリだと着陸スペースとかの問題が大きいと思うんだー」

「それに指定座標の地下に突入とかになったら、ヘリだと困ることもありますし……でも持ち出し用の通信機器も新調しましたから、戦闘支援も問題無いです」

 

 全員連れてこい、という奇妙な条件。その上で指定された座標先はガラクタの山らしい。

 それを満たした上で万全の体制を、となるとヘリより車という選択になるのもわかるだろう。

 

「あっ、そろそろじゃないですか?」

「なんか、あちこちに建物が見えるわね。ホシノ先輩、そろそろ?」

「そうだねー。ライナ、現在地は?」

「そろそろ目標地点に到達だけど……なんだこりゃ? アヤネ、地図データの再照合をしよう。──この場所、欠落してる」

 

 カイザーが放棄した実験施設から拝借した地図データを参照して最新の物にしていたが、その地点に関しては目に見えた光景とデータは噛み合っていない。データ上には何も無いが、実際には捨てられたガラクタで様々な地形が生まれている上に廃墟も見える。地形戦も想定されているならばデータなんて、あって当然であるはずなのに。

 あそこまで堅実に攻めてきた相手が、そんな比較的近くにある嫌な場所での遭遇戦を想定しないだろうか? 

 

『お? おお、車旅で来たのかい? あ、じゃあまだ降りなくてそのままゴーゴー。大丈夫大丈夫、罠なんかないってー。だってボクしかいねーし、ココ』

「……どっから話しかけてんだお前は。ハッキングもせずに」

『手品。まぁ説明してもいいけど……意味わかんないからしない』

「おちょくりやがって」

『いや……言語の違いって言うべきかな。ほら、数字で作られたプログラムが基本なところで、漢字で作られたプログラムなんて言われてもさ、まずどうしてそれが動くかの話からになるだろ?』

 

 そして声は急に話しかけてくる。

 ハッキングしてくる様子も無いのに、リアルタイムで声だけが飛んでくる。まるで幽霊か何かだ。ライナの悪態に、小馬鹿にしたような回答を大真面目に返してくる。

 

『ま、そういうわけだから。とりあえずこの先を道なりに真っ直ぐ進んでいくといい。あ、途中から道路出るからすぐわかるよ』

 

 なんか、あんまり会いたくない親戚……それも決して悪い人ではないがいい人でもないタイプで、人格的には屑の部類に入る嫌な奴が道間違えるなよーとうざったるく電話かけてきてるみたいだ。

 初めて会話した時の傲慢さを感じさせる態度、そして今の人のテリトリーに簡単に足を踏み入れて好き勝手騒いでいく迷惑さ。対策委員会も先生も、声の主への印象は悪印象しかなかった。

 ──無機質、温かみが無い。冷たさも無い。現象、概念、観念、浮き上がる文字、動く絵画、再生される音声。そういった、気味の悪い印象しかない。

 何故かは知らない。それは本能的にも等しい。

 

 しばらく車を転がしていると、やがて目に入ったのは大きめの看板の残骸だった。次に廃墟、車、安全柵──それはつまり。

 

 "──街、だね"

 "ガラクタ置き場の正体は、捨てられた街だったんだ"

『厳密にゃ技術試験場だったかな? まあとにかく大規模な兵器開発場だったよ』

 

 興味なさげに語る声。

 ことここに至ってはもう誰も何故知っているだの聞く気もないし、気にしてもいない。茶々は入れるわどうしてか見ているわなど、誰が相手をしたくなるというのか。

 

「先生、確かに技術試験場か何かだったみたいです。反応をいくつか検知しました」

 "──生きてるの?"

「ただ、生きてるだけです。整備もされてないものが急に動き出すとかはありませんし。恐らく単に通信網が捨てられたままなのかと」

 

 こんな形で各種端末のチェックになるなんてとアヤネは思うが、本当に生きているだけだ。データも何も無い。文字通り生きているだけ。

 こうなっては視界から情報を得た方がいいだろうと端末の操作をやめて、運転を再開する。そうしてしばらく周囲の探索をしつつ目的地に目指している内に、この場所の異様さに気づいた。

 

「綺麗すぎる……?」

「何かを持ち出された痕跡もありませんね」

「なんかおかしくない? 普通、こんな整ってるなら何か持ち出してとかあるはずなのに」

 

 怪訝な顔をするのも当然だろう。

 その区画は綺麗だったのだ。砂にこそ呑まれていても、車や自転車などが放置されている。しかも今やガラクタであるが、かつては相応の値段であったろう高級品までだ。武器屋と思わしき廃墟には見たこともない銃火器が見えたりと、当時であれば多少なりとも役立ちそうなものまで。

 

(……こんなところを、どうして放置していた? 当時の生徒会が)

 

 知っていれば絶対に見過ごせない宝の山だったところだ。ここに手をつけない理由が無い。ホシノの思案は止まらない。

 自分たちは入り口の廃棄場で止まっていた事実を認識して、その上であの時でも無価値なものだったろうとはわかる。だが、それ以前ならば。

 

(声が言うには技術試験場……何かを開発してたならそれを売りに出してもいいはず。現に今ミレニアムがそういう風に学園を立ててる訳だし、どうしてここは『不自然なまでに手付かず』なの?)

 

 手付かず。

 建物に物が完璧な状態で収まってる訳がない。車を入れるガレージがあるからと言って、建物を放棄すればそこに収められるべき車は当然失われる訳だ。宝箱の中身がそのままである筈がない。宝箱が腐り出しているのだから、中身は避難させるべきだ。

 つまりここは──

 

(捨てられた場所。それも、カイザーでさえ手を出していない)

 

 こんなところにあるということは、本館に学校機能がある頃の物だろう。何かしらの理由で、技術試験場と隣接しているこの街は捨てられたのだ。それも住民の生活ごと。

 ふと彼女の視界に看板が目に入る。相当に風化しており、この場所の名前はわからない。だが奇妙だった。地名が記されてそうなところは全て削り取られている。それは風化していても明白だった。

 いや地名だけでない、協力していた企業であろうものも、連絡先の責任者の名前であろうものも、徹底的にここからは名前という名前が削り落とされている。よく見れば店名もそうだ。見たことがあるコンビニの外見をしていても、店名だけが全く無い。

 

 名前の無い、存在を捨てられた場所。

 無縁墓地という言葉すら生温い何か。

 忘却の土地、あるいは──禁足地。

 

『今から遥か昔……あー、アビドスに翳りが見えた頃だったかな。内乱があった。70人の支配者がいた時とはまた別にね。ソイツは何もかもを変えて、アビドスを全盛期以上に仕上げようとした。そしてとんでもないことをしたのさ』

 

 唐突に。声は語り出した。

 

『我はアビドスであり、アビドスは我である──そうさ、アビドスを私物化したんだよ。ココはソイツが手がけた兵器開発場と、ソレを管理するための街。ソイツが望んだのは、既存のアビドスの破壊だ』

「何故その人はそんなことを……?」

『さぁ? 存外気に入らなかったんじゃないの? アビドスの構造が。まあどうでもいいんだけどね。このボクには関係無いし』

「見てきたように語るんですね」

 

 この件に関して、とりわけ気を尖らせているのはノノミであった。彼女の中の仮説が、この街に様々な感情を向けさせる。

 

『で、危険な武器兵器を開発して輸出しようとした。まあ立派にこのキヴォトスを混沌と破滅に導こうとした訳だ。そんな訳で内乱になり、最終的にヤツの手まで借りてソイツは討たれた。その痕跡は当然に抹消された。名前も戸籍も功績も、何もかも。ココも誰も寄り付いてはいけない禁足地として指定されて、忘れ去られた。キミたちがボクに会うために足を踏み入れてるそこは、そんなとこさ』

「ここに、名前はあったんですか?」

『さぁてね。まぁアマルナなんて呼ばれてたんじゃないかと思うけど』

「……アマルナ……」

 

 由来、名前、全てを知っている。忘却の歴史を知る者は、当事者でなければならない。ならばこの声の主は──

 

『まあでもどうでもいいでしょ。観光してもいいけどつまんないよ? 流石に時間が経ち過ぎてる。昔ならもうちょい出土品もあったろうけど……あぁ、でも死体に関しては……どうだろうさね』

 "……死体?"

 "説明してもらおうか"

 

 ゲマトリアのようなことを言われれば、当然に先生の視線も鋭くなる。裏でずっとアロナに音声データを取得させている。この件に食い込むと決めた時から、一切の情報を漏らさずに手に入れるつもりでいるのだ。そして今、声の主は大人ではないかと疑問を宿すに至った。

 

『言葉通りの意味だよ。死体、亡骸。捨てられたモノ。先に入って死体漁りでもしてたヤツがいるのか、不自然に色々なくなっててね。ボクもちょっと困ってるところさ。人のモン勝手に取りやがって……』

 

 あっけらかんと明かされる何か悍ましい真実。誰かが知っていて、墓荒らしにも等しいことが起きていた。そして最後、声の口調は悪態そのものとなった。ならば──ノノミは一歩踏み出す。

 

「アマルナは、セイント・ネフティスと関係があるんじゃないんですか」

『セイント・ネフティスぅ……? 不愉快な名前だな、付けたヤツの顔が知りたいよ』

 

 ──表情は見えなかったが、困惑の声色だった。アビドスにいて、その古きを知るというならば、セイント・ネフティスの名前と存在を知らないなんてことは、それこそあり得ない。

 ノノミの中には仮説があった。ネフティスとアビドスの間に自分の知らない計画があって、それが兵器開発の類であり、何かしらの理由で此処ごと放棄された……ありそうな仮説が。しかし声の主の反応はおかしい。ネフティスが絡んでいないどころか、そもそも知らないという態度。

 ならばそれは──突然現れた存在とでもしなければ説明がつかない。タイムリープとか、世界移動とか、そういう次元の。

 

『で、その虫ケラにも劣る名前の集団が何なのさ』

「えらい嫌ってますね」

『名前が不愉快なんだよ。響きからして気に入らない。反吐が出る。この世にあることが気に入らない。ああ虫酸が走る。どうせ旧態然とした連中の集まりだろ? 消えちまえよ、そんなモン。なんで生きてる』

 

 ここまで言うならば、恐らくは当事者の中でも中核に位置するはず。

 その中でも──

 

「あなたは、このアマルナを作った生徒会長ではないのですか」

 

 核心に踏み込んだ質問。

 返される沈黙。

 そしてしばらくして、奇妙な回答が返ってきた。

 

『ソレはボクじゃない。ボクは、オレから与えられたコトを知ってるだけだ』

「──どう、いう」

『意味を知る必要は無い。だが真実を知る必要はある。ワタシたちはアナタたちに──』

 

 様子がおかしい。

 先程までとは声の中身が違うような感覚。全て一人称で何らかを表して、しかしその喋っている者自体が、声だけが同じかのように。

 

『……あー、あー、ちょーっと調子悪くなったわ。うんまぁノーコメだわ。忘れてちょ』

 

 途端、声の調子が戻った。

 それと同時に車が止まる。目の前にあるのは一際大きな廃墟だ。元々が相当な大型建造物だったのだろうが、しかし今は見る影もない。

 

「ここに入れ、ということでしょうか?」

『そーそー。……待ってるよ。もちろん罠とか無いからね! でも武器は持ってこいよ! 何あるかわかんないからな! いいね!』

 

 それだけ言うと、声は消える。

 

「あっからさまに一悶着ありそうね。やんなっちゃうわ」

「まーまー。罠は無いからってずっと言ってるから、少なくとも不意の遭遇戦はなさそうだけど準備はしっかりしておいた方がいいよね〜」

「支援設備を展開して……遠隔操作モードと……よし、私は大丈夫です」

「ノノミ、大丈夫? なんだか様子が──」

「大丈夫ですよシロコちゃん。気にしないでください。多分、考え過ぎてるだけですから」

 

 各々武器を取り出して、最終チェックをした後に外へ出る。その中には、ライフルを持ったライナの姿もあった。

 

 "よかったの?"

 "それ、変なんでしょ?"

「わかりませんが、全員で来いっていうんです。いざって時には俺もやんなきゃならなくなるでしょう。身を粉にして働きますよ」

 

 空元気じみた笑みを見せながらも、慣れた手つきでライフルを操作する。

 

「……どした、シロコ」

「本当に大丈夫?」

「俺やアヤネに出番が来ないことを祈るよ」

 

 

「おお、来た来た。久しぶりの巡礼者だ。歓迎するよ」

 

 まるで玉座のように崩落した瓦礫が重なっていて、その上に腰掛ける少女が一人。アビドスの制服に酷似して、しかし決定的に違うその服装をする光の無い目をした、作り物のように美しい女。黝のヘイローを浮かべ、どっかりと座り込み見下ろす、様々な感情の混ざる視線。

 買い込んだであろう様々な買い物袋。その辺に捨てられている、完食済みの弁当やカップ麺、コンビニスイーツなどのゴミ。

 そして、彼女の左右に突き刺さる二振りの武器──鎌のような剣と、二股の槍のような杖。

 

 間違いない。

 襲撃事件の犯人で、噂話の中心点。

 そして今回先生を含めた全員をこの場に呼び出すことが目的であったであろう、ライナのことを知ると語る人物。

 全て同じ人間だ。

 

「改めてようこそ。この捨てられた場所、アマルナへ」

 "君は誰だ"

 "名前を教えてくれ"

「──」

 

 名前が空を切る。音にならない。

 少女の口が動いているのに正常な音としての体裁を成していない。破壊的なノイズとか、そういうものですらない。

 正しく喉を震わせているのに、音として成立しない意味不明な現実。

 

「……聞こえるワケないよね。だってそうさ、その名前の主はとっくに消えてんだし、ボクに名前なんかないし。いやー、笑っちゃうよね。名前が無いと存在できない場に名無しのまま存在するなんて」

 "なら今適当に決めた名を名乗ってもいいでしょ?"

 "なんなら、私が君の名前をつけようか?"

「──よかったねェ。今のボクがこの状態で。次そんなバカなことを宣ってみろ。手が出るぜ」

 

 名前を付けようか? なんてそんな不思議な発言でもないはずなのに、少女は先生の発したその言葉に、異常なまでの敵意を見せた。返されるものは敵意だけではない、悪意であり、殺意でもある。

 

「やってみなさいよ。その前に私たちがあんたを止めるんだから」

「……あらまぁ、猫ちゃんってば今そんな感じなの? やーねぇ、随分と可愛くなっちゃってさ。となるとそっちが……ああやっぱり朱鷺か。ふぅん、今回はイメチェン激しいね。まあそうか。ボクがこんなザマになるんだ」

 

 セリカの挑発的な態度に対して、意味のわからないことばかり言う少女。ジロジロと不躾な視線をセリカとアヤネに送っただけでなく、そのまま無機質にノノミを観察し、その視線を再び先生に移す。

 そうして観察を終えた少女は、よいこらせと呟きながら、座っていた瓦礫から腰を起こした。

 

「まぁ、いいや。確かに個体識別名称は必要だろう。今のボクの、本当の識別名称を言ったらややこしい。色々あった中だと……そうだなぁ、今っぽい感じだしアイでいいか」

 

 アイと名乗った少女は、大袈裟にそして得意げにペラ回しを始める。役者のようで、ただお喋りなだけのようにも思えて──

 

「アイは真にボクを定義する名前じゃない。ほら、なんだっけ、ヒフミちゃんにキミらが付けてた……ああそうそう。覆面水着団のファウストだったよね、アレみたいなもんだよ。名前ってほど名前でもないけど自分を示す言葉の一つってヤツ」

 

 混沌とした印象を与えながら、絶対に知り得るはずのないことを口走る。

 

「待って、どうして知ってるの」

「そんなの決まってるじゃんか。見てたんだよ」

「何処で!」

「すぐ近くさ」

 

 やけに荒々しく叫ぶホシノに、やかましいと言わんばかりのジェスチャーをしつつ投げやりに答えるアイ。先生への態度にもなかった、半ば嘲笑にも近い表情のまま、神経を逆撫でするような声色で、アイは知るはずのないホシノの逆鱗にゆっくりと触れていく。

 

「なんだいホルス。そんなに声を荒げて……ああ、もしかして彼女がいた頃から見てたんじゃないかって思ってないかい? 残念、あの頃は寝てたんだ。だから知ってはいても見てはいないよ」

「黙れよ」

 

 ──今までに見たことのない、熾烈な憤怒を隠さずに、いっそ殺意さえ混じった声を響かせてライナが割り込む。

 そう言われて初めてアイは目を丸くして、まるで親に怒られた子供のような雰囲気さえ出して、露骨に渋々といった様子を見せた。

 

「……キミからそう言われるとはちょっと傷付くな。わかったわかった。ライナの言うことなら従うよ。ボクはキミの味方だし」

「俺の味方なら、なんでこいつらを煽るようなことを言う。なんで先生に敵意を向ける」

 

 それが余計に癪に障ったのか、ライナは更なる怒りと憎しみのままに、アイに近寄りその胸ぐらを掴み上げる。だがその問いが余程おかしかったのか、ため息まで吐いて彼女は当然の事を言うように、悍ましい言葉を吐き出す。

 

「えー? そんなの当たり前じゃん。キミは大事だよ。でもソイツらはどうでもいい。それだけさ」

「──ならお前は俺の味方なんかじゃない。味方を名乗るなら、もう少し態度ってもんがあるだろう。俺の大切な相手を侮辱して、俺の味方と宣う相手なんぞ……!」

「おめおめと塵屑にしてやられてアビドスを失陥させかけたバカども、そして自分から生贄になりに来たアホと、そのアホに言外に死んでくださいと笑顔で言う管理者。そんなのにどんな態度をすりゃいいんだ? 冗談はやめてくれよ」

「ふざけるな──!」

 

 侮辱を超えた侮辱。対策委員会を、先生を、そして何よりユメさえも嗤う言葉の数々。逆鱗に触れられたライナは、怒りのままに掴み上げたアイを殴る。

 

「……なるほど、ベースはソッチか」

 

 ──態度が、変わる。

 おちゃらけた態度が消えて、より無機質に、淡々と。

 

「何を、言ってる」

「わからないならわからないままでいろ。オマエは知るな。それがオマエの為になる。オレもそれを望む」

 

 素早くアイの膝がライナの腹に突き刺さり、姿勢を崩したその瞬間を見逃さず拘束を脱出。そのまま蹴り飛ばす。

 立ち上がるライナと、それに駆け寄る対策委員会を見て、アイは再び態度を変える。

 

「さぁてさてさてー、歓迎は終わりだ。次はキミたちを見せてもらおうか。矜持、強さ、意志ってヤツを。ボクは古臭くてね、昔ながらのやり方でしか人を測れない。そう、戦闘でね」

 

 突き刺さっていた二股の杖と鎌のような剣を引き抜き、杖を彼女にとって敵と認識した者たちに向ける。

 

「そしてもちろん無様な姿を見せるようなら殺す。まあボク如きに無様晒して殺されるってことはそんなモンもう滅んでもいいし死んでもいいってコトだろ? 因果の子がいるんだ、どうせ世界はキミたちに死ねって刃を突き付ける」

 

 勝てとは言っていないが、しかし勝ちの手前まで行かねば認める気もなさそうな態度。判断基準は言い放つ側にしかない。だからその戦意を向けられる側が、心を引き締めるのは当然の摂理と言えよう。

 

 "っ、来る!"

 "みんな、戦闘体制に! アヤネは隠れて!"

 "ライナ!"

「ああ! 護衛役は任せろ!」

 "アロナ!"

「はいっ、あの変な奴をやっつけましょう! 先生!」

 

 向ける銃口。突き付ける杖。

 今ここに古と今の、禁じられた闘争が幕を開ける。

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