青い春に馴染めない黝の星   作:うへうへ学生

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アイ

 戦闘における定石が不明瞭。

 よくある事だが、しかしこれは驚愕に値する物だった。

 

 "なんだ、これ"

 "君はなんだ"

「ボクはボクだよ、覗き魔ヤロー」

 

 シッテムの箱は視覚情報とリンクしての状況把握も可能にする。電子であればハッキングし情報を集めて、それを可視化する。故に先生の指揮は圧倒的なバフとなるのだ。

 しかしこの女、シッテムの箱による分析に表示されない。全体図もなく、使う技術傾向もなく、そして名前が表示されるべき場所には何もない。その全てが空欄だ。

 つまりそれが示すものは──ライナ同様、こいつもまたキヴォトスに一切の情報の無い存在ということ。参照可能なデータが文字通り存在していない。前例の無い存在。

 

 "アロナ、リンクして!"

「はい、視覚情報からの収集に切り替えます!」

 

 アロナは即座に視覚情報からの分析に切り替え、再度解析を開始する。

 

(……エネルギー体? でも、実体がある。そしてこの反応は……一体、何がどうなって……?)

 

 エネルギー体であり実体である。概念であり観念である。根本的に法則から外れていながら、法則に属している意味不明な状態。

 アロナとシッテムの箱、この二つを以ってしてもアイの存在は意味不明な現実に足が生えて歩いているとしか表現できない。

 

 "無理をしないで、防御を優先するんだ!"

 "こいつには情報が全く無い! しばらく耐えて!"

 "必ず隙を見出す!"

「まずは啖呵切った猫ちゃんからだァ!」

「なっ──!?」

 

 視線を合わせる、銃を構える、引き金を引く。この三動作よりも早く動いた。だから今セリカはアイを眼前にし、驚愕せざるを得ない。現代戦において接近戦が推奨されない理由は同士討ちの危険性が非常に高い。何を言おうが年頃の女の子だ。木の棒振り回して勇者ごっこをしても、その棒が友達に不意に当たれば、当たる可能性があるとわかっていても動揺する。明確に当てるという意思がなければ。その上、相手が訳のわからない存在ともなればより慎重を期す為に同士討ちなどしたくもないだろう。

 故にその一瞬の内に接近し、格闘戦を仕掛けてきたアイの戦闘スタイルは──キヴォトスにおいて、天敵とも言える。

 

「こんのォ!」

 

 銃を撃つよりも早く動き、そして接近してくる。援護の為の位置取りをするまでの時間を稼ぐならと、セリカが敢えて格闘戦に乗るのも当然だろう。この場合悪手とは言えない。

 何せ作戦もクソもないのだ。相手の方がこちらより数倍早く動き、こちらのセオリーが全く通用しない行動をする。アクロバティックに動き回って撃ち合っても、必ずこちらは弾切れと照準という隙が生じるのに対して、向こうは避け続けて腕を振ればいいだけ。

 ならば、作戦を今すぐに組み立てる為にも、少しでも情報は必要になる。

 

 次にギンッ、と鈍い音が響いた。

 銃を手にするなら足はフリー。故に足技、蹴りを使うのは必然というもの。繰り出されたセリカの蹴りが、アイの杖によって迎撃──いや、打ち砕かれたというのが正しいか。

 適切な打撃を行えば、蹴りが成立する前に苦痛によりふらつく身体を踏み止める楔になる。

 そう、セリカは蹴るよりも前に振るわれた杖により、本人の意とは関係なく、与えられた苦痛に対する肉体の反射的行動により中途半端な防御姿勢に回されていたのだ。

 

(こいつ──)

 

 痛み、そして恐怖。

 敵対者を撃ち抜くのではなく、敵対者の心から粉砕して肉体にとどめを刺すような、そんな印象さえ与えられる。たった一回起きた攻撃同士のぶつかり合いで、それを嫌という程押し付けられる。

 アイの戦い方は、古い人の殺し方だ。

 今のキヴォトスに、全くそぐわない。

 

「っ、セリカ! 後ろに!」

 

 ポイントへ移動中に起きた出来事であっても、想定内ならばある程度は対処ができる。この場はシロコが割り込む。巻き込む危険のある散弾より、発射までのラグがあるガトリングより、素直に単発で撃てるアサルトライフルが選択されるのは当然である。

 刹那、振り上げられた杖に銃弾が命中すると同時にセリカが後退しつつ発砲。至近距離で形成される弾幕。弾き飛んだ杖。アイの手元には剣だけ。通常ならこれは耐えるしかない選択になる。

 かつて彼女たちと刃を交えた風紀委員会のイオリですら、銃弾を避けるなら近距離であっても多少の距離と余裕は必要だった。至近距離で放たれる銃弾を避けるには、反射神経の限界というものがあるのだから。

 

「ハッ──」

 

 嘲笑、そして一閃。

 振り抜かれた剣が、形成された弾幕を切り払う。剣で斬る、弾丸を斬り落とす、弾幕を一太刀で。悪い夢だ。

 それはSFの中に紛れ込んだ、剣と魔法のファンタジーだろう。

 

「だったら!」

 

 敵は接近戦に特化していると見ていい。

 物陰からガトリングが火を吹き、点の攻撃から移動先候補に対する面の制圧へと移る。細やかな攻撃を完封するなら、大雑把であればどうだ。とにかく情報を集める。せめて有効打の推測さえできれば──! 

 

「悪くない。確かに遠方から面で潰せばボクは近寄るのが難しい」

 

 アイはそれを読み切り、移動すれば当たるが故に一歩も動かずに余裕を含んだ声色でその戦術を評価する。

 一手間を必要するならば、その一手間さえ取らせなければいい。勝つ為の行動ではなく負けない為の行動。少ない回数で敵の動きをある程度見切り、それ故に有効打を探し出す。

 ──背後に回っていたホシノが影から姿を現す。盾を前面に構え、突撃する。

 接近戦で強く出れるのは盾だ。近代戦でもそれは変わらない。

 指が動く。

 途端、ホシノが墜落した。違う。撃墜された。背後から飛んできた杖に、今アイの手に収まっている杖にだ。

 

「ドローンのように動いて、ホシノ先輩の後頭部を──!?」

「なによあれ反則じゃないの……!」

「接近戦だけじゃない、多分その気になれば遠距離戦だって……なら!」

 "ダメだシロコ! まだ待って!"

 "手はわかるけどもう少し耐えて! まだ見えてないところが多すぎる……っ"

 

 本音を言えばそんなことをさせたくない。

 だが相手が未知数を超えた存在。せめて未知数になるまで落とし込まなければ──

 

(……あの、やり方)

 

 ただ、アイの戦い方に心当たりがある者は一人。

 

「く、っ……やってくれたね」

「立てよホルス。今度はキミが踊ってくれるんだろ?」

 

 絶対に出るはずのない名前。

 先生もアロナも目が細まる。こいつは、アイを名乗るこいつは何だ。知り得る筈のない歴史を知り、そして存在しない者を知り尽くしているかのような言動。

 

(あの杖の移動……エネルギーの反応だけはあった。なら、多分そんな不思議なことでもないはずです)

 

 アロナも分析を続けるが、案外というか、アイの戦いに特筆すべき点はあまりない。

 純粋に技量で勝負しているに等しい。最初の接近も、何か特別な反応はなかった。今のところは杖の移動だけである。

 

「……確かめてやる」

 

 立ち上がったホシノは盾を構え──次の瞬間、盾が倒れた。

 そして激突音。銃床で殴りかかり、それを杖で受け止められる。完全な不意打ちに等しいはずなのに、相手の速度が早すぎて対応されている。

 

(次に来るのは──足!)

 

 だが、ホシノだけがアイの使うスタイルの正体に気が付いた。それを見てきた。まるで剣や槍のように振り抜く。適切な打撃を適切な角度から打ち込み、苦痛と恐怖で心をへし折ってからトドメを刺そうとするその戦い方を。だからそのやり方ならと先を読む。

 足を切り落とさんと迫っていた剣の柄を蹴り上げ、その勢いを利用した回し蹴り。狙う先は──顎。脳を揺らしに行く。

 

(多分、こいつは──)

 

 当然接近戦では致命打になりかねないそれを避けるべく、ようやくアイが後ろに退がり──蹴りで生じた僅かな隙を逃さぬと再度距離を一瞬で詰めると同時に杖を縦に振り抜く。確実に頭を潰しに来るという一点読みで横に倒したショットガンで受け止め、たたらを踏みながらも盾に近づきつつ戻して発砲。散弾も当然のように振り抜いた杖で全弾迎撃されるが、盾を回収して再びセリカ、ノノミ、シロコがポジションを移動したことを確認する。

 

(アイとかいう奴、一対一ならまず無敵に近い。一回やられただけでわかる。私じゃ攻勢に転じられない。でも複数で単独を潰そうと思っても、至近距離のフルオートにすら対処する相手よ?)

(自爆覚悟の多重攻撃なら……? 同士討ち前提でやれば多分弾丸を当てられる。けどそれが有効打になる保証が無い)

(便利屋さんたちやゲヘナの風紀委員会さんたちとも、ましてやブラックマーケットのガードさんたちとも異なる……この人の戦い方は)

 

 各々が思考を回す。

 判明しているのは銃弾を斬り落とす程の反射速度、常軌を逸脱した接近能力、そして高い練度を誇る近接戦闘能力。聞いた話も含めれば、おおよそ弾丸の当たる相手ではない。爆発物を使おうにも、グレネードや小型ロケットなども切り払えて当然だろう。

 

 "アヤネの見立ては?"

「……単純に、強い。ただひたすらに強いだけです。何か特別な機械を使っているわけでもない。アイを名乗るあの人物は、恐らくホシノ先輩より──強い」

「先生、アヤネさんの言う通りの可能性が高いです。アイという人……なのかもわかりませんが、とにかくあの人が特別な力を使ったのは杖を動かした時だけ。それ以外は全て自前です」

 "純粋な格上か……"

 "戦略で畳むにしろ、そこまで高められた戦術なら、食い破られる可能性だって……"

 

 ──スペックが違いすぎる。仮に巨大兵器が様々な攻撃を仕掛けてくるとでもいうなら、対処法はいくらでもある。珍妙不可思議な存在であったとしても、シッテムの箱で見れるならばそこから戦略を立てることは難しくない。

 だがアイは違う。まず見破れない為観察の必要がある。そして小型というのもあるが、一対一を作られた時点で誰かがカバーに入らなければそのまま圧倒されかねない。よって銃弾を肉体で迎撃し、一瞬で距離を距離を詰められる速度を持ち、高い攻撃力を誇る怪物を、どうにかして抑え込めということになる。無理難題だ。

 そんなものを現状の手札で押さえ込め? どれが効果的かもわからないのに? 

 

(一対一を作り、相手の姿勢を崩すことを優先し、確実に攻撃を通す状況となって初めて本格的な攻撃に移る……あのやり方は、俺と同じ……何故……)

(同じだ、やり方が──ライナと。昔……出会ってすぐの頃、何ができるかを確かめる為に近接戦闘訓練をした時。全く同じ攻め方をして、全く同じ返され方をした。なら、あいつ……は……!?)

 

 ホシノの視界に入る、アイのヘイロー。

 黝く、そして歪な形であると不思議と認識できる奇妙なヘイロー。確かに忘れられないそのヘイロー。

 ならば、それは──

 

(違う、あり得ない! だってそれは、おかしい! だとすると、どういうことになるの!?)

「……で? 来ないの? まあスペックではこっちが圧倒してるから気圧されるのもわかるけどね」

 

 ケラケラと笑うアイだが、攻撃先をすぐに決めて襲いかかるわけではない。余裕綽々という態度だが、実際には冷ややかに場を俯瞰している。

 攻撃を通しやすい相手を選び、攻撃が通らなければ一度防御に徹する。レンジの中に入れば攻勢に出るが、レンジの外に出れば慎重に敵を選ぶ。潰しやすい相手を確実に潰す。無理なく、無駄なく、適切な攻撃を確実に通して。そういう動きだ。

 ──ライナもそうしていた。

 

 "(大人のカードを……)"

 "(いやダメだ。使う前に、私に近寄って奪い取ることも可能と見た方がいい)"

 "(使うにしても、隙を──)"

 

 大人のカードを使う相手ではないのは確かだ。だがこのままでは決定打を計算する前に押し切られて落ちる。使う程ではないが、今は使わなければならない状況。故に使えない。

 

 "……一対一を徹底して、攻撃を通す攻撃をする。そして隙を見せたら本命……"

「ま、当然傾向はバレるか」

 "──シロコ!"

 "接近戦、CQBだ!"

 "2時方向から! 接敵時間3秒!"

「了解!」

 "ノノミ、同方向に射撃!"

 "スピンアップ後から数えて4秒!"

「あっ、はい!」

 "セリカ! この通信終了から12秒後に指定ポイントにグレネードを!"

「わ、わかったわ!」

 

 動きが変わる。

 先生の指示という剣を与えられた少女たちは、迷いなくそして澱みなく動き始める。とはいえ奇妙にも時間指定というのがわからないが──

 

「へぇ? 固めて潰すのかな? それとも動かして蜂の巣かな? いやこの行動パターンは──」

「少し、静かに──!」

「乗ってやるよ。やってみな」

 "こいつ……!"

 

 接敵するシロコ。

 アイはそれから──敢えて離れる。

 

「アヌビス、キミに仕掛けなかった理由は単純だ。落とすまでに手札は見抜かれる。そう睨んだ。ところがそこのホルスが秒で暴きやがった」

 "君がセリカを真っ先に狙ったのは、セリカを落とさないと困るからだ"

「──そうだね。真っ先にあの子は落とさないとダメだった。落としやすいからとかじゃない。落とさないとボクのレンジに乗せられない」

 

 アイとシロコとの間にできた隙間に、ノノミの掃射が割り込む。反撃に転じようとしていた脚力が停止に使われ、そのままシロコからの銃撃を回避する為にも流用される。

 

「なんでもできるヤツをフリーにしておいたらダメだ。前衛も後衛も無視できるなら、一番無視できないのは遊撃だからね。その片割れを初見殺しできないのなら」

 "必然、もう片方を最優先ターゲットにする"

 

 アイが僅かに立ち止まる。

 先生が見抜いたのは傾向だけではない、癖もだ。

 攻守走──全ての性能が桁違いだが、近接武器の宿命故に全てを同時にこなすことは決してできない。だからこそ、僅かな隙で敵を把握するという一工程は絶対的に必要になり、そこは現代兵器にとって有効打を通す穴となる。

 そしてあえてホシノを攻撃メンバーに選ばなかったのは、その行動を理解している素振りを見せた為、観察に徹させることを選んだからだ。

 

「そしてボクを誘導し足を止めた場所で、建物を崩して潰す。まともな方法ではダメージを通せないと理解したから、ここまで過激に行くんだ。いいね、そういう容赦の無さ。ヤツも似たような事したろう」

 

 足を止めた場所の付近、炸裂した手榴弾により崩落が進んだ建物の上階が床ごと落ちる。相当な手だ。ここまで容赦の無い戦略を取るつもりもなかったが、先生も薄々と勘付いていた。

 ──勝てない。

 今のキヴォトスに沿ったやり方では、絶対に勝てない。殺す気で行かなければ、傷一つだって与えることも叶わない。

 

「──しかし、侮れんモノだな。ヤツが呼んだのは新しい生贄としてではないということか」

 

 アイは静かにその崩落を──

 

「だが甘い。確実を期すなら建物ごと潰すべきだった。それならボクも流石に足は潰れてたろう」

 

 崩落した上階が自身を押し潰す前に、真っ二つに切り裂いてその上に立った。

 それは、絶技としか表現ができない。全ての動作が完全に同時に行われているのだから。そんなことを可能にするのは、膨大な時間だけだ。

 

「とはいえ、乗ってこれを使った時点でアンタの中では勝利への道筋が浮かびつつあるんだろうね」

 "何故、誘いに乗ったんだ"

 "その気になればアヤネやライナを人質にだって、私を直接抑えることもできた"

 "なのに敢えて手札を晒す真似をした。この子たちを、侮っているのか"

「侮っちゃいない。むしろ、感心してるよ──この短期間と僅かな接敵で気付かれてるなら、あとはもう何をやっても悪足掻きにしかならんさ。それこそ侮りだろう。冗談はよせよ」

 

 クククッ、と笑いが漏れる。

 だがそこに嘲笑は無い。確かな感心が見えている。絶対の自信と、自らの矜持を見せ付けるように、堂々とアイは語る。

 

「人質? 司令塔を抑える? ハッ、それが王道かよ。ソイツは雑魚の考えだ。王たらば正面から潰す。誘いに乗った上でだ。手の内明かされても全力で当たる。それで負けるようなら、キミたちの勝利への渇望が勝っただけのこと──」

 

 勝利を求めるなら敗北は必ずなくてはならない。概念があるならば、その対を為す概念は常に表裏一体であるべき。

 吹っ掛けた側なのだから、当然に吹っ掛けを退けられるという結末も受け入れなければならない。その視点は、人の物ではない。機構に近い。だが言葉の節々から伺えるのは、期待であり羨望。混沌とした感情が見え隠れする。

 印象が滅茶苦茶だ。まるで複数人から切り分けた部分で人間を組み上げたような──極端な部分の集合体のような。

 

「必勝を作って仕掛けてこい。真正面から全て打ち破ってみせよう。それまで待ってやる。こういうのも王の仕事だ」

「なんでそんなに譲歩する訳? おじさんたちはそうしても問題無いってこと?」

 

 先ほどまでの挑発的な態度から考えれば、ホシノの言葉はもっともだろう。だが何か明確な違いがあるようで、おちゃらけた雰囲気は何処へやら。まるで絶対者のように淡々と語る。

 

「違うな。無様な出来なら殺すと決めていたが……信じ合い高め合い、暗かろうと明日を掴む為に、そうして前へ進もうとする者をどうして無様と断じることができる? 自らが審判をするならば、受ける側に不条理を課して自らが望む結末に捻じ曲げようとするなどあってはならない。確かな結果、見えるモノを受け入れて当然だ。そして二股の道を一本道だと誤解しているなら、二股であると言わなきゃいけない」

「あんた何言ってんのか全然わかんないんだけど!」

 

 まあ、当たり前だが役者のように持って回った言い方をされたら訳わかんないのは当然というものであり──セリカが思わずそんなことを言っても、周りは良くぞ言ったとしか思わないだろう。

 

「……敵だろうが自分の望みのために邁進してる人ってすごいよねー。そして喧嘩ふっかけた以上は負けることも楽しむ度量を持ってこそって事だよー。あと道に気付いてないなら敵であっても教えるべきだよねー」

 

 アイはしばらく沈黙した後、少し天を仰ぎ、ややあっておちゃらけた雰囲気に戻って、物凄い棒読み気味に答え、足元の瓦礫に腰掛けてしまった。一行は毒気を抜かれながらも油断せず、勝利への策を立てる。

 まず口を開いたのは、ライナだった。

 

「……あいつのやり方は俺と同じだ。だから──俺なら、正面から行ける」

 "指揮の枠にはまだ余りがある。でも──"

 "大丈夫なの? もう、出るつもりもないんじゃ──"

「こじつけだが俺が呼んだようなもんだろ、あれ。ならその責任は取る。組み込んでくれ。やれるだけやる」

「ライナ。その、大丈夫なの?」

「心配するなシロコ。接近戦だけに限れば、多分行ける」

 

 自信は正直無い。だが手口がわかる自分がただ人に任せて、というのだけはごめんだ。そういう視線で答え、自分と同じ結論に辿り着いているであろうホシノを見る。

 

「ホシノ? どうした? 流石にここで出張るなとか言うなよ。可能性があるのは俺しかいない。お前も打ち合えるけど、それだけだ。押し切れない」

「──わかってるよ」

「何が心配だ。押し殺してやらかされたからな。言わせるぞ」

 

 長い付き合いがホシノの中の迷いを指摘する。

 ──ホシノは確信している。

 ライナは既に完全な状態だろう。本人に悟られぬように誤魔化しているが、過去の暴れっぷりを考えれば、あの程度で戦えなくなるなどあり得ない。

 何かのきっかけさえあれば、また炸裂する。消えていないその憎悪が、凍り付いただけのその憤怒が。そうすれば今度、どうなるかさえわからない。そうなれば、絶対に良くないことが起こると何処かで確信している。そうならないことを祈るしかないが、一つ嫌なことがはっきりしてしまっている。

 黒服は直接声をかけた。そして黒服は直接手を出した。これだけでホシノの脳裏には常に最悪の可能性が浮かび上がる。

 

 黝い歪な形のヘイローを浮かべ、右目を青く染め上げ、全てを拒絶せんと怒りのまま、全てを破壊せんと憎しみのまま、まるで大剣で力任せに滅多切りにするように、あのライフルを振るい暴れ狂う姿こそが、ライナに流れる、ライナ以前の本当の姿ではないのか。

 

 本音を言えば、そのように戦う姿をまた見たくない。怖いから、嫌だから。荒っぽくても優しかった友人が豹変し、優しさを裏返して敵意へと変えた姿が忌まわしいから。

 

「ライナが、また……戻るんじゃないかって」

「戦う理由が違うよ。だから、大丈夫だ。……俺個人じゃなくて、みんなと過ごした時間を信じてくれ」

「ん、後で教えて」

「あんまし言いたくないんだが……まぁ、いいさ。後でな」

 

 ライナとて話したくないが、話したくないからと遠ざけることは返って良くないと知っている。だからもう諦めて受け入れる。

 

 "……相手が接近戦に特化してるなら"

 "対処できない攻撃が、ある"

 "いや、状況と言うべきだろうね"

 "──やる事は変わらない"

 "今まで通りリアルタイムで指示を出す"

 

 未知数の敵、それも強敵。だからと言って特別な事をする訳でもない。やる事はいつも通り。ただ──手は尽くす。その為ならば変数を採用する。

 

「耳塞いでるし目も瞑ってるからわかんねーけどさ。終わったー? 終わったなら銃かなんか撃ってくれない?」

 "えーっと、誰でもいいからとりあえず撃って……"

 "──ちょ、ライナ!?"

 

 先生の言葉を聞くまでもなく、ライナが撃った。アイの頬を掠めてはいたが、あれは確実に頭部を狙った射撃であった。素早く正確になどとよく言うが、まさにその通り。

 それを皮切りにアイは手を下ろして瞼を開けて、武器を握り──目を細める。

 

「──へぇ、キミが出るんだライナ。てっきり出て来させないと思ってたけど」

「……やり口が同じなら、超えられるとして俺だけだからな」

 

 その言葉から少し静寂を挟み、先手を取るのはライナ。銃身を握り、銃を近接武器として活用するための姿勢で、弾かれたように接近する。

 

「第一打は真正面から。相手にこちらへの恐怖心を植え付けるために急所を狙う。そうだろ──!」

「わかってんなら避けると思うか? 受けて立つ!」

 

 やり方が同じなら、その対処法もわかって当然。だがそれはアイの王道ではない。宣言通り全て真正面から潰してこそ、初めて己の立場にあった振る舞いと言えるのだから。

 打ち落とされた銃床と、振り上げられた杖。

 キヴォトスにしては珍しく、鍔迫り合いが起こる。揉み合いになった末の鍔迫り合いではなく、初めから近接武器を使う鍔迫り合いとして。

 完全に互角──だがアイとしてはそうではなかった。遅かった。ライナの振り下ろしより自分の防御がコンマ07も。

 

(やはりラグが……技量では同じ。だが素材が素材だ、やむを得ない。でもそんな遅れて──いや当然か)

 

 次の瞬間、四隅から転がる音。

 鍔迫り合いで押さえ付けられている状況で視線を外す訳にもいかないが、視線を向けなければ危ういかもしれない。普通なら飛び退いて状況を確認するところだろう。

 だが──そんなことはしない。どうせ囲まれている。どうせ死角は必ず生まれる。ならばその死角に反射的に対応すればいい。

 

 力を込めて杖を振り抜き、そのまま剣を突き出す。曲剣であっても刺突能力は十分なのだから。僅かに下がるだけでそれを避けられて、続け様に振り抜かれたその一撃を二つの武器で受け止める。

 激しい金属音の後、ガスのような物が漏れる音が聞こえて、そのまま煙幕に包まれていく。四隅の内一つ、スモークグレネードが効果を発揮していく。

 

(……なんのつもりだ。ボクを追えても攻撃役が見えないなら、先手は取られるぞ)

 

 煙幕に紛れて消えたライナを追わず、アイは周囲を観察する。

 

(音からして同程度の質量を同時に投げた。内一つが起動した。ならば他も同効果を持つ物と判断して──)

 

 光の反射。

 そこに誰かがいる。反射するような物を持っているのはたった一人だけで、それは最優先に潰したい相手。迷わない。間違っていようが間違っていなかろうが、関係無いのだから。

 

「──落としてやる!」

 

 突進してその杖を突き出す。

 そして突き出された杖が、当たった物と激しい激突音を響かせて──待て。

 どういうことだと遮られかけた視界に映る物から特定する。

 見えたのはスコープの付いたアサルトライフル、構えられた盾。そして……柔らかで包容力のある雰囲気。

 

「危ないのは、めっ! ですよ!」

 

 セリカのライフルとホシノの盾を装備して、愛用のガトリングガンを手放しているノノミが、視界にはっきりと映る。

 

「デカ女が!」

 

 吐き出した悪態と共に姿勢を戻し、再度攻撃に移ろうとして驚愕する。当たり前だろう。たとえ結構な力持ち、つまりパワーがあると言ってもだ。基本が制圧を得意とするガンナーなら接近戦は好まないはず。

 

 だが腕を振るという動作を必要とする近接武器には致命的な欠点がある。

 それは腕の可動範囲と手首の限界以上の攻撃ができないこと。そして──

 

「ラグビーみたいですね、こういうのっ!」

 

 銃とは違い懐に完全に入られたら、刀身の長い武器では対応ができないこと。

 ノノミの肩が、アイの腹に突き刺さる。

 

(タックル、だと──!? 年頃の女の子にやらせる事か!)

 

 ご丁寧に盾を下にしている。これでは膝蹴りで退かすことができない。杖を持ち替えるにはスペースが足りず、やむを得ずに剣を逆手に持ち替えて振り下ろすも、その僅かな間に防御姿勢を整えるのは容易いこと。盾と刃がぶつかり合い、逸らされる。

 

「邪魔だ、テメェ!」

「きゃっ!?」

 

 だがそれだけで勝れる程、アイは容易い相手ではない。その逸らされた状況により生じたスペースにより、杖を短く持ち打突。更に素早く長く持ち替えて、そのまま振り抜く。無防備という訳でもないが、強烈な威力の打撃がノノミの胴体を襲う。

 ──痛い。確かに大口径の銃弾で打たれたように痛いが、ただそれだけである。堪えればいいだけの攻撃など、恐れるに足らず。

 

 杖の射程は銃の射程。

 素早く撃ち返せば当然アイは前に踏み──込まない。素早く杖を回転させ、真正面から防ぎ切る。アイにとって真正面から銃弾の雨を掻い潜り射手を叩くことは難しくない。だがそれは視界と場所が開けていた場合の話。視界が悪く比較的狭い今、絶対に当たらずに接近するなど流石に無理だ。何発か喰らうことになる。

 それに相手は雑魚ではない。アビドスと先生だ。リスクを踏み倒せるならまだしも現状、相手の手が割れていないのだから踏み込んだ先がキルゾーンという可能性もある。

 

(ボクが真正面から行けるとはいえ、囲まれて撃たれたら流石に無理だ。同士討ちっていう本能的嫌悪感を利用して手を止めさせて圧倒するならともかく──)

 

 視界は誰にとっても悪い。これでは流れ弾が当たっても作戦中の事故だから後でごめんと謝って終わりだ。

 

(やるな……見知った顔を意図せずして撃つ状況を潰して、個人プレーに集中させることで抵抗感を奪ったか。だが何故コイツのフォローに回らない? 二方向からの同時攻撃でもすれば、一気に仕留められる可能性もあるだろうに)

 

 ノノミの射撃が途切れ、僅かな疑問を残しながらもアイは攻撃を選択する。再び接近し、今度は頭部を狙った攻撃を確実に通す。ノノミを潰せば、厄介な盾も潰せるのだから。

 跳躍、一気にノノミの元まで踏み込む。杖を左に構えて、側頭部から叩き落とす為に。左から右に流せば、盾を左手に持つノノミは確実に反応する為に遅くなる。そして防ごうが防ぐまいが、杖に対応しようとした瞬間に剣で盾の奥の頭部を攻撃する。

 だから防御に回ろうとしているのを見て、その隙を逃さぬと素早く反対に──足が引っかかる。置かれた何か大きく、硬い物により接近と攻撃のシームレスな移行が妨害される。僅かな意識の乱れを生んだ以上、その小さな隙間にノノミとアイが正面から向き合う形になって当然だろう。

 

 再びの発砲。

 流石に障害物があるとわかればその場の防御を選択しても、見えない敵に隙を晒すだけ。ならば仕切り直して動いた方が早いだろう。大きく飛び退きつつ、しかし先ほどの射撃で弾を使っているのを忘れていないアイは、着地先に射線が重なるよりも早く再接近することを選ぶ。武器を交換したということは一度切りの攻撃しかできまいと。弾を切らせば普段以上にもたつくだろうと。

 

 刹那、眼前に投げ込まれる手榴弾。

 それにはピンが付いていた。爆発などするまでもない。ならば何故そんな初歩的なミスを? 一瞬でも思考にノイズが走った。そのノイズはノノミを見失うのに十分すぎる時間を与えてしまい、アイは振り出しに戻された。

 素早く足元に落ちたそれを蹴り飛ばして何処かへと飛ばし、先生が用意している策を分析する。

 

(武器を変えて、戦術を変える。誰を相手しているのかの判別を難しくし、それぞれの能力を見定め辛くした上で、コチラにあらゆる可能性を考慮させ、通常しない事で意表を突く……だがソレではボクに致命打を通せない。しかしさっきの障害物……コンクリでも、瓦礫でもない。でも固くて、金属音がした。なんだ? プラスチックにしては──)

 

 自分の足を取った、ノノミを守る為に配置されていた障害物。どうやってそんなものを用意したのか。即席でしか用意できない筈だが──仮に何かプラスチック製の大型箱を用意しても中身が詰まっていなければ足を取る物にはならない。その上、はっきりとした金属音だ。瓦礫を突っ込んだのとは訳が違う。

 姿を消したガトリング……それは絶対に無い。この場面でわざわざ主兵装を手放す愚行はしない。アイにとって最優先で潰さなければならない人員のがセリカなら、最優先で潰さなければならない兵器がガトリングだ。撃ち続けられることは、接近戦最大の障害なのだから。

 

(さっきので傾向はわかった。だが何故ヤツの援護があのタイミングまで来なかった? 同士討ちを避ける事を今更する訳もない。ヤツらはボクのやり口を察して動いている。恐らく左手に盾を構えていたのは先生の指示だ。障害物もそうすると見て誘導した場所に最初から置いてたんだろう。このままだと、途中でボクが全貌に気付くぞ。何を目論んでいる──)

 

 何故こんな消極的なのか。攻めれば勝つにしろ負けるにしろ片が付く。アイは見せてみろとは言ったが、絶対に勝ってみせろとは言っていない。

 確かに勝ちに来ているのはわかる。勝ちを目指して当然だろう。負ける為に動く馬鹿が何処にいる。故に戦術、戦略に文句などない。むしろここまでやるかと感心する。だが、勝ち方がわからない。目指す勝利の形が全く見えない。

 ──人影が近付いてくる。

 

(武器で判断しない。シルエットは、身長からして猫──いや髪型が違う。ならアヌビス。何故止まっ……!?)

 

 飛んできたものを杖で叩き落とす。

 ああ全く想像もしないだろう。腐っても戦士、ならば潰す為に武器を持って立ち向かうのが当然なのに。

 機材運搬用の収納箱を投げ付けてくるとは。

 

 それと同時にアイの前に躍り出る生徒は──

 

「猫、だと……!?」

「猫猫うるさいのよあんた! なに? 私そんな動物じみてる訳!?」

「キャットタワー代わりにボクのウアスを──!」

 

 振り下ろした杖を足で押さえて、ホシノのショットガンを構える、髪を下ろしたセリカ。

 

「そこまでやるか! 道理で!」

 

 仕掛けてなど来ない訳だ。そもそも大掛かりな準備をしていたのだから。

 頭部目掛けて至近距離で放たれた銃弾を、拡散し切る前に首の動きだけで避ける。腕力と脚力どちらが優れていて、踏まれている側と踏んでいる側どちらが有利かなど言うまでもない。素早く杖から手を離し、剣主体に思考を切り替える。

 

(残りのスモークは三つ。置いている以上は誰かが起爆しに行く必要がある。その上、ココの通気性を考えればそろそろ煙も晴れる──ならば!)

 

 動く前に動く。

 セリカが落ちた杖を掴む。だがその先の行動に入る前に強烈な突きが彼女を貫く。

 

「わかっていても、剣を突き入れられてんだから貫かれろよ……っ!」

「っ、た……!」

 

 だがそれだけだ。

 銃弾が当たったのと何も変わらない。その程度では傷らしい傷にもならない。とはいえ刺突一撃で人を吹き飛ばすのだから相当な威力となる。

 

(ウアスは潰された。呼び戻すにしても物理的に抑えられたら無理だ。奪い取る? それこそ集中砲火で潰されて終わりだろ。ケペシュだけでやるしか──)

 

 視界が開ける。

 突き飛ばしたセリカの奥に、大型の物を構えるホシノのシルエット。

 

(制圧する気か。だが、スピンアップの前に近寄れる)

「そうだね、接近戦するならそうするよね」

「──なん」

 

 完全にアイの思考が停止した。

 それはアビドスの、小鳥遊ホシノに取らせる戦術ではない。

 

「だからこの箱を持って構えてたんだ」

 

 ──アヤネが機材を運ぶのに使っていた箱の内、大型の物がある。

 その箱の中身に──対策委員会が持ち込んだほぼ全ての爆発物を敷き詰めるなど。そのような大量の爆発物を一気に持ち運び、大胆に使うのはムツキの戦術だろう。

 

 再び投げ込まれる手榴弾。

 だが今度は違う。ホシノが離脱する。つまりそれはピンを抜いた物であり──転がる前に反射的に剣を振るい真っ二つに断ち切る。

 そして、背後が炸裂する。切ったものが爆発した? 違う。

 

(時限型を箱の底に……! 誘爆で火力を上げたか。巻き込み兼ねない作戦など、らしくもない!)

 

 無数に詰め込まれた爆薬が炸裂し、さしものアイとて直撃を喰らって吹き飛ばされる。

 まるで大したことがないように立ち上がるが、彼女の内には確かにダメージとなって肉体の反射が遅れている。

 

(……効いたな。一定の許容量をオーバーするとダメージになる……引き寄せられていると見るべきか。しばらく当たらなければ引き寄せが戻り問題無いが、どんな細かい被弾でも許し続ければ最終的にはダメージに帰結する。──推測は当たっていた。さて、どーしたモンか。勝てるっちゃ勝てるが、一気に旗色が悪くなりやがった。ボクは今様々な可能性を考慮して動かなきゃいけなくなっている。それも、気付いた時とは別のベクトルでだ)

 

 アイ自身相当にしてやられていると理解していた。

 ブラフかそうでないか、本当にそいつかどうか、持っている武器は、仕掛けている策はあるのかないのか、そして姿が見えなかった人員は何処で何をしているのか。

 やはり、最終的な勝ち方が見えない。

 本格的に仕掛けて来ていない。

 

(三回のブラフ……仕掛けてくるか? 通気性くらい把握しているだろう。煙は所詮煙。効果を発揮している時間もそう長くは無い)

 

 十分な視界が開けてきた。だがまだ見渡せばはっきりとまではいかないが、近接戦闘としては十分な判断材料を与えてくる。

 接近してくる足音──四。五つではない。恐らくホシノ、ノノミ、シロコ、セリカ。この組み合わせだ。長時間の激しい戦闘ができないと認識しているライナは切り札的に使うだろう。先ほどまでの欺瞞、および時間差を考慮してシルエットでの分析は武器含めて不可能と判断。あらゆる可能性を考慮した時、先手を取る為に必要なことは。

 

(飛び越える。一番槍は盾役だ。真正面から行くのは見えてるなら、予測され望まれているだろう後方から攻める。罠だろうが食い破るしかない。なぁに、どうボクを倒すかも見物だろう──そろそろ詰んでそうだしな)

 

 さて誰が出るのか。

 アイは自身の首元を締め上げられているのを自覚しながら、楽しげな笑みを浮かべる、

 

(確かに不甲斐ない、愚かしい、それでもキサマらは──という評も下せるさ。アビドスという聖地を、塵屑に噛み千切られたパイにしただけでなく、自分達が植えているのが木々じゃなくて死んだ魚の頭だと知らずにやってた。ホルスに至っては思考を止めて自死を選ぶ始末。だがソレを過ちと認め前へ進み、こうして異物たるボクさえも今に落とし込もうとしている。ならば貶す評は、所詮一側面を切り取っただけに過ぎない。包括的に見るべきだ)

 

(──コイツらなら、あるいは)

 

(ま、それはそれとして……ボクとしちゃあ気に入らねぇな!)

 

 さぁ誰だと、着地と共に振り向き、そして攻撃も兼ねて剣と共に身体を振るう。

 視界に入る相手は──

 

「オマエとはな……ライナ!」

 

 ぶつかり合う杖と剣。

 奪った杖を握るライナが、そこにいる。

 

(ライナをここで使うなら、背後の連中は)

 

 視線だけ少しズラす。自分を抑えられるライナを使うなら、恐らく素通りした後何か仕掛けてくるはずだ。現にノノミとセリカ、そしてアヤネが──アヤネ? 

 バックアップをフロントに出して、あまつさえ最も危険な場面に突入させる。先生がそんなことをさせる訳がないという前提をひっくり返す、正気さえ疑う策。

 いくらセリカとノノミ、そしてライナで守っているとはいえ──危険すぎるだろう。

 

(何故バックアップでこそ真価を発揮する人材をフロントに? それよりも作戦が開始されてから一切姿を見せていないアヌビスは!? ホルスもいない! 何処へ行った!?)

 

 意表を突くなんて言葉があるが、その通り。見事なまでに定石を外した動きをさせ続けた中でも、最も愚かな手を敢えて打つ。一歩間違えれば貴重な人員を一撃で落としかねない、そんな行動を。

 きちんと分析し、理解し、相手の策をわかって乗れるような相手が見れば。

 

 達人同士であれば、十二分と言える瞬間と瞬間の隙間、思考の空白が生じる物である。

 

 鍔迫り合いから杖が外れ、間髪入れず振り下ろし、武器を剥がす為に薙ぎ払う。完全に衝撃を抑えられない体勢のまま、アイの持っていた剣は弾き飛ばされ、連続した攻撃により生じた生物として当然の硬直が、致命的な隙となる。

 防御を全て引き剥がせば、後は本命の攻撃を叩き込むのみ。

 

 袈裟、振り上げ、打突。動作自体はシンプルな三つ。だが打ち込む位置は首元、顎先、肺であり、それは確実に生物としての基本機能を麻痺させて心をへし折り行動不能にする為だけに与えられる苦痛。虚無を掲げ邪悪な女に弄ばれる少女たちに植え付けられた殺人技巧に似て、それよりもより鋭い殺人技巧。

 銃で撃って殺すのと、その手に握った物で殺すのは全く違う。断ち切られる命の鼓動を、如実に感じるのだから。

 

「……クッ、まだまだ!」

「──終わりだ」

 

 頭上、スピンアップの音。

 

「全機、起動です!」

 

 四隅、ローター音。

 

「先輩!」

「──離脱する」

 

 背後、窓ガラスの割れる音。

 

(──そうか)

 

 アイは頭上からノノミのガトリングガンを構えて落下してくるシロコを見る。

 そして背後から迫るシロコとセリカのアサルトライフルを持ったホシノを認識する。

 

(ボクを天井の崩れた場所に誘導し、全方位からの攻撃を……!)

 "火力集中!"

 "制圧して!"

 

 各々が取り替えていた武器を構え、発射する。四隅から迫っていたドローンに取り付けられていたロケットポットが室内を照らし、炸裂する。

 全方位からの集中砲火。武器も奪われ、逃げる事もできない。古い戦士は先生と対策委員会の前に完全に膝をつくこととなった──

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