青い春に馴染めない黝の星   作:うへうへ学生

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未知との顛末

「……いちち……完敗だよチクショー。負けだ負けだ。侮辱の言葉は撤回しよう。すまなかった」

 

 ボロボロになりながらもノソノソと起き上がったアイは、本来の装備となっている対策委員会を見る。そして先生に尋ねた。

 

「スモークと同時に四隅にドローンを配置。そして武装変更により、ボクが猫ちゃんとデカ女を誤認するように仕向けた。そこまでは読めた。だが、アヌビスはどのタイミングで上を取っていた?」

 "……セリカとノノミとシロコだ"

 "人を人として認識してあげて欲しいな"

「──わーったよ。敗者は敗者らしく勝者に従いまーす。とかく、砂狼シロコさんは一体いつボクの上を取りやがりましたのかねぇ」

 "ノノミと君が対峙している間だ"

 

 先生はアイが完全にこちらの手を読み切れると認識し、その接近戦の強さとある種の潔さを逆手に取った。

 だからまず、包囲する為にライナで視界を塞ぎ、室内の四隅にドローンを同時に投げさせた。この時点でセリカは髪型を変更する為に動いておらず、代わりにアヤネが行動していた。

 そしてその場でアロナに決めさせた相手にインカムのピープ音だけで伝え、その内の一つにスモークグレネードを同時に投げさせる。

 これにより、アイに四隅に配置されたのが視界を遮る為の補助装備であると認識させた。

 

「にしても、急に髪型変えろって。女の子のヘアスタイルをなんだと思ってるのよ先生」

 "ご、ごめん"

 "でも必要だったから……"

 

 次に装備を交換したノノミに敢えてスコープの光だけを見えるように移動させ、攻撃先とする。当然装備と持ち主が違えば、近くで見てきたと語る相手なら絶対に困惑する。

 この間にシロコ、ホシノ、ライナは空き箱に爆発物を詰め込み、指定された場所へ移動。ノノミの発砲を合図にシロコはガトリングを持って上階への移動を開始。二度目の発砲と共にアヤネにピンを抜いていない手榴弾を投げ入れさせる事で、更にこの作戦の存在しない裏を読ませるようにする。

 

「結構似合ってますけど、やっぱりセリカちゃんはいつもの髪型が一番ですね〜」

「そうだね。なんだか安心する。変な虫とか着いてないのがはっきりしてて」

「シロコ先輩? どういう視線なのよそれ」

 

 あとは髪型と装備を変えたセリカが突入して杖を無力化する。

 そして最後、ホシノが爆発物を詰め込んだ箱を構えて不意打ちし、位置を調整。そして仕留める。

 

「……アイ、だっけ。あいつの動作を読んだのはライナだよね」

 "うん"

 "──自分ならこうするって"

「やり方が同じだからな」

 "そういう戦い方、してたの?"

「やるなって言われてからはやってない」

 

 実際ライナ自身、そういった暴力的な戦いはあんまりやってない。大昔にユメとホシノの前で一度披露し、多少喉を銃床で突いたり後頭部を思い切り殴り倒したり、関節を逆に折り曲げて破壊しようとしたら、それ以来やるなと厳命されていた。

 それは怒り狂った時であっても、殺人技巧だと明言できない程度に留めていた。

 

「認めさせてみろ、無様晒したら殺すとは言ったが……まさか完全に攻略されるとはね。中々やるじゃんか。やー、気分良く負けたわ」

 

 ニコニコと楽しそうに勝利を讃えたアイは、剣と杖を回収する様子もなく、どっかりとまた座り込む。

 

「よーし、ちょっと予定変更してある程度は答えてあげよう。質問したまえキミたち。ボクの答えられる範囲で答えよう」

「ライナとはどういう関係? 返答次第ではもう一度ボコボコにする」

「いっきなり答えづらいの来たな。まずボクとライナは他人だ。使うモノが共通してるだけに過ぎない」

 

 シロコの質問には苦い顔をしつつも、何処かニュアンスが違うような、しかし言われたら額面通りに飲み込めそうな発言でまず即答した。答えづらいとは言いつつも、あらかじめそういう解答を用意していたようにも見える。

 

「あっ、一人一回とまでは言わないけど、あんまし質問し過ぎるとボクもヘンなコト言いまくるからね。気をつけるよーに」

「変な事ってなんですか?」

「キミたちのスリーサイズとか言っちゃうかもよ。カップ数とかも言ってみようか?」

「こ、こいつ……! クソ野郎だと思ってたけどそこに変態まで入るなんて!」

 

 とんでもないセクハラをかましてくるが、しかしなんというか奇妙だ。初対面、道中、いざ接触した時、戦闘中、終了後。どれも基本的には同じだが大きく異なる点を持つ人間が変わる変わる話しているような気がする。

 ギョロリと視線を先生の手元へと移して、なんでもないように認識できない筈の相手に声をかけていく。

 

「先生、通訳もいるだろ?」

 "……!"

 "なんの、ことかな"

「ボクの位置を把握する為に色々動いていたのは知っている」

 

 ──何故アロナのことを知っていて、わかっているのか。確かに途中からアロナはアイが通常の生命体とは異なる反応を出している事に気付き、その反応を追い続けることで常時居場所を補足していた。

 だが、何故アイはアロナを認識している……? 

 そんな疑問を言うか言わないか悩んでいたところ、単刀直入に切り込んだのはライナだった。

 

「俺の事を知っているって言ったな。俺の過去も、知ってるのか」

「いや、キミの過去はボクも知らない」

「じゃ何も知らねーじゃねぇか」

「でもあの日、襲撃を受けた時、何が起きたか……ボクにはわかる」

 

 空気が凍る。沈黙する。

 何があったのか、それを言うならば全員が集中しなくてはいけない。だがアイは中々言わない。それどころか発言を待っているような節も見られる。

 しばらくして、ようやく自分の発言が待たれている事に気づいたのか、少し恥ずかしげな表情をした。

 

「あっ、ペラ回していいんだね。キミらもお察しの通り、襲撃自体は実際あった。だがライナにしちゃあ攻撃がおかしい。けど他にやれそうなヤツもいない……」

「き、消えました! 反応が、さっぱり!」

「だがもし、このように移動できるヤツがあの場に鉢合わせたら? それなら辻褄は合うだろ」

 

 それは存在の再構築としか言いようがない謎の技。完全に残っていた反応が消失し、再出現する。現実ではまるで瞬間移動のようにその場からホシノの後ろに現れて、全員が気付いたのを確認してから再び座り込んでた位置に移動している。

 

「ちなみにさっき使わなかったのはコレすごく苦手だから。で、ボクの知る限り打撃と切断、貫通の全てを使う戦い方をするヤツは一人だけ。困ったことにどうしてそこにいるかとかは流石にわからん。付き合いが長い訳でもないしサ」

「そいつは?」

「またなんだけどさぁ、名前が無いんだ。十中八九ソイツがやってるのに、名前無いから答えるに答えられない。ひでぇ話だよナ」

 

 また、名前が無い。

 アイも、アイの語る者も、そしてこの捨てられたアマルナも、共通して名前が無い。間違いなくこの全ては何処かで繋がっている。ライナという中継点を通して。

 

「ああ、これは警告なんだけど。しょーみここら辺にはあまり深入りしない方がいい」

 

 ところがである。

 その深入りするべきでない話を持ってきた側が神妙な表情でそんなことを言うのだから訳がわからない。うんざりした表情のホシノが、やや低めで冷たい声を発するのも必然的だろう。

 

「こっちに深入りしてきた側がそれを言うの?」

「こんなモンは体験版だよ。それにボクに対処できないんじゃ後に来るであろう存在も対処できない。とりあえずいい訓練にはなったろ」

 "何が目的なんだ"

 "ライナのことを知ること、そして後々への対策。何故それが同列に並ぶ"

「あぁ、そういやそんなこと言ったっけ。ぶっちゃけるとそれよりも重要なのは仕上がりの方だった。ボクはライナの味方だからね。せっかくできたアイツの居場所が脆いんじゃ話にならない」

 

 あっけらかんと言うアイだが、正直なところ半信半疑である。とはいえこの変わりようから考えるに本当のところはありそうだが……なら教えてくれてもよかったのではないのかと。そういった視線を感じたのか、彼女は恥じる事なく堂々として。

 

「ボクが隠している諸々に関しては教える気は無いよ。本当に知ってもいい事がない。それに、自ずと知る事になるさ。ドーンと構えておけばいいんじゃない?」

「じゃあ言えばいいじゃないの。ネタバレしないとやばい話なんじゃないの? そういうの」

「誰の為にもならない」

 

 セリカの言葉に、再び仮面を取り替えるように雰囲気の一変したアイは即答し、淡々と告げる。

 

「知った事で余計混乱し、本質を見誤る可能性も生まれる。もしかすると救える命を奪ってしまうかもしれない。今回ボクが顔を出したのは、ライナの真実を知るモノは確かに存在し、それがまだ言えないと示している──ソレを証明する為だ」

 

 この場の内誰もがあー、何言ってっかわかんねぇよとか言いたくなった。教えると良くないことが起こるかもしれないから教えないけど知ってる人いますって何が伝えたいのかって誰だって思う。

 

「つまり訳の分からない存在でも解説できるヤツがいるし、その訳の分からないヤツらの対処もできるのを証明した! 解答本が存在してることがわかったら後は気にせずキミらはドンと構えて青春していればいい! その時にはサラッと流せるようになってる! おわかり?」

 

 ──ああ、つまり。

 その、なんだ。

 答えあるから安心してね、自分関係で強敵が出るかもしれないから心配だよと。

 

「その為にお前俺たちに喧嘩売ってきたのか!?」

 

 一番ふざけるなと言いたいのは、一度ぶん殴ったその男だろう。そんな事のために、自分の大切な物を侮辱し、煽り散らかしたのだ。流石に声を荒げる。

 

「この後控えているであろうヤツを想定するとボクをこんな風に潰せないなら本当に死ぬからネ。その点でも幸いだった。でもバックアップをフロントの代わりに使うのは危な過ぎるだろ! ボクの性格も読んで動いたのわかるけど見定めるとかなかったら絶対危なかったからね!? わかってんのその辺り!? キミマジで抗議した方がいいよ!?」

 "君がこんな風に仕掛けて来なければやらなかったよ!"

 "本気で殺されるかと思って本気でやったんだよ!?"

 "やらせるようなこと言わないでもらえるかな!?"

 

 当然だが先生だってこんなことしたい訳じゃない。この邪道のような戦法だって、アイの言葉がもう少し柔らかったりしたら、使っていないかもしれなかったのだ。

 つまり元を辿れば当然こいつのせいになる。

 

「この人なんなんですか……?」

「もうなんなのよこいつ」

「てんで理解できませんね」

「正直黙ってて欲しい。何がライナの味方なんだろう」

「おじさんも同意見。見ててムカつく」

 

 もちろん評価など全員地の底を叩いている。理由など言わなくて当然だが──奇妙にも皆感じていることがある。何故か許せない。どうしてか見ていると怒りが生まれる。もちろん気にせず接することもできるだろうが……何故怒りが生まれるのか、よくわからない。

 それはそうとアイは何もアクションをしないアロナに痺れを切らしたのか、うんざりした様子で気怠げに声を出す。

 

「で、なんか言いたいコトあるかよ小人。久しぶりに会ったんだ──いや待て。オマエ、誰だ」

 "(何故アロナを──!?)"

 "(いや違う、アロナを知っているんだ!)"

 "(でも……この反応は一体?)"

 

 しばらく沈黙していたが、どうも合点がいったらしく、追求することもなくあっさりと引き下がった。

 

「……いないとは聞いていたが、この感覚……なるほど。でもキミのキミたるを失ったキミは本当にキミなのかな。結局何も変わらない。変えてみせるつもりか? それとも……まぁいい」

 

 そう言うと、ついに立ち上がって入り口の方へ歩き出した。

 

「ボクの役目は終わった。滅多なことじゃ顔を出すつもりもないから、安心してね」

 "どこへ行くの? "

「どっかその辺。じゃあね」

 

 その後の事など言うまでもない。

 アイの反応は突如として消失し、アビドス高校へと戻るしかなくなった。

 

「……まぁ、よくわからんが……とりあえず俺関連で頭を悩む理由は無いのは確かっぽいな」

 

 戻って早々。

 シャーレへの経費請求書類を書いているアヤネを尻目に、ライナはこの事件をこのように纏めてしまった。

 ちなみに経費請求理由はもちろん、アイ撃退の為に損失したアヤネの私物である運搬箱だ。二つもやむを得ないとはいえ、先生の指示の下に壊されたのだから流石に要求する。あと使用した弾薬諸々。

 

「アマルナ……アイが言うには葬られた歴史らしいですけど、ホシノ先輩心当たりは?」

「無いよまったく。となるとノノミちゃんのは考え過ぎじゃないかな」

「アビドス高校がこちらへ移転する前の話は、大半が欠落していたり全貌は不明な事も多いですが、なんだかんだ見えないわけじゃないんですよね」

「そうなの? アヤネちゃん」

「うん。詳細はわからないけど大体の大枠は把握できるよ。完全に失われているものでなければ、案外周辺情報から多少でもこういうことがあったんだろう、くらいは見えてくるんだ」

 

 アビドスは把握が難しいだけで、存外完全に失われた情報というのは少なかったりする。だが問題は、その失われた情報に辿り着く為の情報を得る為の情報……と言ったように果てしなく続く連鎖に立ち向かえるかどうか。労力が尋常ではない。

 カイザーにしてやられた一件以来、アヤネは時間をかけてでも残っている情報を整理し直していた。大多数はわかっている話だったか……それでも発見自体はまだあるのだから、やってみる価値はあるというのだろう。

 

「本人の言うように葬られた歴史だとすればそんな不思議な話でもない。でも問題は、それを何処で知ったのか。知り過ぎている。そして何故それを私たちに告げたのか……全然わからない」

 

 だが、アマルナの話は完全に失われていた歴史だ。色々あって葬られた歴史などよくある話だが、それを自分たちに伝える意味がわからない。そしてそこを選んだ理由も。

 ただの世間話とするにはあまりにも裏事情的過ぎて、何故それを知っているのかという当然の疑問に行き着く。本人は当事者じゃないとは言っていたが。

 

「どう考えてもあの言い草は当事者だった。ライナの事を知っているのも嘘じゃなさそう。遥か以前、過去の人間だとしてどうやって今に来たのか」

「ありゃあ多分、そういうものだよ。理解するしない以前の、そういうものだからそういう事になっている。そんなもんだとおじさん思うなぁ」

 

 シロコはアイを過去の亡霊ではないかと位置付けたが、ホシノはそういったある種現実的な結論ではなく、『そういうものだからそうである』という極めてシンプルな結論に至っていた。それは彼女に秘められた様々な知識故に。

 

「……でも変ですよね? まるで複数人が融合していて、あのボクって一人称をしたのが代表なんでしょうか? いえ、でもボクはオレから与えられた事を知っているだけって」

 

 だが亡霊というにも奇妙な点はある。

 まるで、本体がいてそこから分たれた存在のような。言い方から考えれば、恐らく『ボク』は『オレ』という大元から離れた存在なのかもしれないが──

 

「ノノミ、あんまり考え過ぎるな。本人が言ってたみたいに、俺たちは普通にしてりゃいいんだよ。多分。青春して欲しいならこういう出現しなきゃいいのによ……って言っても、俺が青春したことなんて一度も無いんだけどさ。あぁ、でもあれか。先輩とホシノといた頃は──」

「ラ イ ナ さ ん ?」

 

 さて、諸兄らは覚えているだろうか。

 このボケナスのライナとかいう男。この前ノノミに辛辣な態度を取られて、ヒフミと先生を巻き込んでゲーセンを荒らしたこと。その理由などシンプルで、シロコの健気な態度を全くわからないライナに流石にムカつき、辛辣な態度を取ったのだ。

 もちろんライナはそんなこと理解できるはずも無く、鈍い態度をするだけ。いやまあこいつ鈍いっていうかそもそもそんな感情全く意識してないんだけども……

 

 そういうことなので、ノノミはとりわけライナに最近辛辣だった。その上でこんな反応はするし、挙句俺青春してないしなんてほざきやがる。流石のノノミも、遂に限界を迎えた。可愛い妹のアプローチに気付かない近所のお兄さんを段々ともどかしく思い、そしてふざけた事を言うものなら、怒りに発展して当然だ。

 

「その言い方、まるで私たちとの生活が青春じゃないみたいで嫌いです!」

「……は? 青春っぽい事よりもなんか親子兄弟とか家族みたいな感じしない? ほら、あの頃からさ」

「そういうのがいけないし、嫌なんです」

「うん? あぁ、そう……?」

「ライナさん、女の子からの評判いいんですよ? 立派に青春してるんですよ」

 

 評判? と首を傾げていたら答えがひょいと何処と誰を教えてくれた

 

 "ノノミに頼まれて聞いてきたんだ"

 "みんなにはもう教えてた"

「シャーレに出入りする子たちだな? あんたが聞いたのかよ……で? どーせ胡散臭いとかそういうのだろ?」

「や、それがね。随分とまあ高評価だったのよ」

「手伝いがてらやってる仕事に関しては手を抜いてないからなぁ。そりゃあ使える奴がいることは嬉しいだろ」

「あと顔がいいとか」

「なんだそりゃ」

 

 本当に顔だけはいい。

 それは誰しもが認める事である。性格は控えめに言ってもアレだが、顔だけは整っている。

 

「面白い人とか、仕事できて頼りになるとか、結構可愛いとか」

「なんだ、よくある──いや待て可愛いってなんだ可愛いって?」

「ほら、近くに住んでるっぽい野良猫が道路の真ん中で寝てたからってバイク止めて様子を見に行った時あったらしいじゃん?」

「あの時……見られてたのか!?」

「危ないから気を付けろよーとか、できる限り驚かせないようにゆっくり日陰の方に誘導してあげたりとか……にゃーにゃー鳴かれて返事してたらしいじゃん?」

「ん、抗議する。私はライナにそんな風に丁寧に扱われた事がない。野良犬なのに」

「だぁってろ! ややこしくなるわ!」

 

 ガーッと吠えたそこの阿呆をツンツンと突く、可愛らしい元野良犬は自分を指差しながら一言。

 

「野良猫と野良犬、そして私。可愛いのは?」

「猫と犬。お前は論外」

 

 もちろん取っ組み合いが始まった。

 

「割と評価高いのね、ライナ先輩。まぁいい加減だしテキトーな人だけど、面倒見はいいし、その辺りキッチリしてるから納得はするんだけど──絶対あれよね、変な人気出てる奴よね」

「あっわかるかも。先輩ってかなりこう、妙な可愛げだけはあるから」

「そこ、聞こえてんぞ。──で、なんだよ。それが青春らしいことか?」

 

 絶句。特にホシノ。取っ組み合ってたシロコも絶句して離れて行った。

 本当にこいつ、世界が狭過ぎる。

 

「人と人が関わってんだ。それくらいあって当然だろう。そんなもんが青春なら、青春って奴はその辺で適当に切り売りしてる事になるじゃないか。終わってみて、あああれは確かに青春だったなって思うことこそが、青春って呼ばれるものの本質なんじゃないか?」

 

 なんか、ムカつく。

 正しいこと言ってるから腹立つ。だが僅かな隙を逃さない、シロコは狼(純情派)であった。

 

「ライナ、それなら私とあちこちに行ってることも青春じゃない?」

「……言われてみればそうだな。シロコともそうなるか。でもよ、するってーとアヤネと買い物行ったり、セリカに差し入れしたり、ノノミと飯作ったり、ホシノが俺の腕を枕にして寝たのだって、立派に青春になるな」

 

 なんで、こう。

 シロコがわざわざ自分の事だけを振ってるのに、全員とも青春してるかーって話に持って行ってしまうのか。クソボケというよりも、特別扱い自体ができないのかもしれない。

 シロコも流石になんとも言えない顔をするしかないし、アヤネは黙って俯くし、セリカは遠い目をするし、ホシノは天を仰ぐし、ノノミは頭を抱えるしかない。

 

「……違う、のか?」

「違わない。違わないんだけどお願いライナ。黙って。喋らないで。おじさん今ちょっと困ってる。いやすごく困ってる。果てしなくダメ」

「? 先生……」

 "黙ってて"

 "お願いだから本当に黙ってて"

「なんだよ、みんなして……?」

 

 もう、なんなのだろうかこいつ。

 ただの鈍感ならよかったが、これでは鈍感を通り越して何か違うものだろう。

 結局この一件、アイの話はそれで終わった。後は普段の日常へと戻っていく。そして先生は、更なる苦難の道を行く。──世界はそうできているのだから。

 

 

 

「砂漠をウロウロして思うけどさ」

 

「もうちょいこう、わかりやすいところに誘導してくんないかな。まぁいいや。しゃーなしだし」

 

「……朽ち果てるのは心に来るよなぁ。ボクなんて本気で絶望して世界を呪ったよ。しっかも殺されたもんだからサ」

 

「いやでも、殺されたのはボクかな? もしかしたらオレだったかもしれない。この記憶も、この絶望も、この憤怒も、この憎悪も、この嫉妬も……オレなのか、ボクなのか、あるいは──ワタシかな。もしくは他に該当する誰かか……ややこしい」

 

「まぁ、なんにせよ素材がまずかった。認識だけじゃ特定人物の前にしか現れられない。後々にゲマトリアに回収されたであろう死体と遭遇する可能性を考慮すれば、流石に自由に動ける身体が欲しい」

 

「……あと今回、ヤツらとの戦いではっきりした事がある。ベアトリーチェが奪って行った欠片、全部じゃない。このアビドス砂漠の中にまだある」

 

「やる事が多いね、ったく……ま、アビドスを名乗るならライナを受け入れてくれないと。それに最悪の可能性もある。ただでさえ黒服が叩き起こしやがったんだ。冗談じゃない」

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