青い春に馴染めない黝の星   作:うへうへ学生

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ちょーっと手間取ってるので分割しました
出せるところから出しておかないと自分の意欲的にまずい気がしたので


死神と悪魔

 ──シロコとライナは性格は比較的似ていて、傾向も比較的似ている。いわゆる同族という枠組みの関係だった。

 

「俺はあいつが気に入らない」

「私はあいつが気に入らない」

 

 故にお互いを嫌うのは必然だった。同族嫌悪という言葉があるように。でもお互いに真正面から向き合った。

 

「──あいつは今更やってきた」

「──あいつは今更出てきた」

 

 嫌う理由は他にもある。

 ライナは後悔に苛まれ狂気に飲まれる原因となった出来事、あの時ユメとホシノの間に生じていた歪みを見逃してしまったこと。あの時、拾われたのが異常な自分でなくシロコだったら──上手く間を取り持って二人を守ることができたのではないか。

 あるいはせめてもっと、何か別な形に収めることができたのではないか。

 もしくは自分が理由で二人の不和をより広げてしまい、もっと悪い形にしてしまった可能性を否定したかったのか。

 

「俺じゃなかったら、きっと──シロコなら、二人をあの時……」

 

 結局、今更現れたシロコが。正当な資格を持つ存在が何もかも終わった後にやってきた事が絶望的なまでに受け入れ難かった。

 ただそれだけだった。

 

 そしてシロコもまたライナが今更現れたことを受け入れ難かった。

 あの日、ホシノが自分を拾った時にいてくれたら。少し経ってから会うことがなければ。ノノミのように側にいてくれたのなら。きっと自分たちは歪み合うこともなかったろうに。

 ホシノを上に見て、ノノミを横に見て。そういうことができようになったのに、下に見るべき者が上に見る者の真横にいる。意味がわからない。弱いのに強い。そして生きることができている他の人たちと比べて、誰かに助けられないとそこに存在しているだけ。

 ──いいや、そういった感情は全て後付けに過ぎない。

 

「ライナは前の私と同じでも、絶対にそうじゃない。そこは寒くて、冷たくて、寂しいのに──どうして……」

 

 最も端的な理由は、ホシノとノノミに手を差し伸べられる前の自分のように、ただ死んでいないだけにしか見えないライナが、どうして今の自分のような立場であるのか。その立場にあるならば生きていて欲しい。

 

 双方抱くものは羨望であり、妬心であり、憎悪であり、憤怒であり、憐憫であり、哀嘆である。

 自分よりも早くに現れてさえくれれば、大切な人たちの安寧を守ることができたかもしれないのに。

 自分が欲しているものを持っているのに、それを蔑ろにしているような態度を見せられて普通であれるわけなどない。

 

 他者を通して自分を知るが故にその他者を忌み嫌う。しかしそれ故に自らの心底をお互いに理解してしまい、否定し合う。それでもきっと相手も、そんな苦痛を抱えているのだから──それをどうやったら、癒せるのかと。気の迷いのような思考を生じさせた時点で、惹かれ合い、そして視線を外せなくなる。

 

「野良犬が……!」

 

 その気持ちを認めたくないから名前で呼ばず。

 

「お前なんか──!」

 

 その気持ちがわからないから身内として扱えなくて。

 

 他人として向き合い、他人として見つめ合う。親でも兄妹でも姉弟でもなく、親戚でも友人でもない。どちらの意味であれ気になって、視線を向けて理解して、理解した事実すら気に入らない同族。いつまでも怒り、憎しみ、妬み、羨むことなんて出来やしない。

 だから口ではあれこれ言いながら、何か決定的なきっかけさえあれば、ガードを下げ合うことをあっさり選べる。

 

 ライナとシロコにとってそれはある日起きたシロコが捕まった事件であり、それ以降は歪み合う理由も消えた。

 ──ただそこからどう恋慕になったかに関しては、結局今もよくわかっていない。ある時一緒に趣味の天体観測に付き合ったから、もしくは同じバイクに二人で乗って、二人だけの時間を過ごした時か。いくらでもきっかけが浮かんでもどれが決定打というのはぼんやりしている。しかしはっきりしているのは、先生と出会ったからこそライナに向ける感情が恋慕だと気付けたということ。

 

 だから──それがすれ違ったことを、同じ気持ちであったのにすれ違って、そしてそれに気付けなかったことが。

 

 シロコ*テラーのやめたいと思う心が表に出ることを阻害して。

 ……異様な執着と、ねじれてもつれた結末の中にある唯一の救いだと。

 

 彼女がアヌビス故に惹かれてしまうのだ。

 

 

 ──ウトナピシュティムの本船は、束ねた絆を奇跡としてアトラ・ハシースの箱舟に辿り着いた。

 厳密には突き刺さって無理矢理突入したと言うべきだろうか。強襲揚陸とはよく言うものである。故にウトナピシュティム自体に結構なダメージが出ていることも必然であった。しかしそんなものがなんだというのか。今箱舟を抑えなければ未来は無い。子供たちは総力を上げて制圧戦を開始する。

 

 シロコ*テラーを二度逃し、そして三度目──外郭第三エリア。

 オペレーターであるアヤネを除いた対策委員会と先生は、ようやく真正面から彼女と向き合うことに成功した。

 

「結局、こうなるんだ。みんな来ちゃうんだ」

(……コレが砂狼シロコか?)

(このシロコは──シロコちゃんなの?)

(あの目、覚えがある。全てを憎み、全てに怒り、全てに絶望してなお唯一の希望を捨て切れない目)

(あの目……独り残されて、それでも前に進むしかなくて、伽藍堂の世界で生きている目。どういう……)

 "シロコ、教えて欲しい"

 "どうしてプレナパテスの命令に従うの? "

「……違う。私が色彩の嚮導者を従えてる。そして──」

 

 ぬるりとシッテムの箱から黝の靄が現れ、それが人の形を成していく。

 

『このエネルギー反応はなんですか!?』

『気にしないでアコ。あれは一応味方の反応。説明は終わった後にするから』

『カヨコさんの言う通りです。彼女は切り札としてアビドスが独自に備えて──リンさん? どうしたんですか?』

『──あのヘイローは……』

 

 アイの存在を一言も明かしていないが故にオペレーター陣に動揺が走るが、しかしカヨコとアヤネが一瞬でそれらを沈めて──リンはアイの姿を見れる理由を備えている故に見る。

 

「よぉ、シロコちゃん。恋のレクチャー以来かな」

「誰」

「あ?」

「そのヘイロー……まさか」

「どういうことだ。シロコちゃんの前に現れたことなんて──?」

 

 会話が、噛み合わない。

 シロコ*テラーが先程までの何処か逃げた様子から豹変し、憎悪と憤怒を募らせて、それを殺意へと変える。その視線に宿るものは、遂に殺すべき相手を見つけたという歓喜であり、そして──八つ当たり。

 

「お前か。お前が"ライナ"を──!」

「……そうかい」

「消してやる。今度こそ、私の手で!」

 

 その言葉を聞いてアイはシッテムの箱に退散するが、どう考えても現在のシロコが反転したことと辻褄の合わない発言はこの場の全員に困惑を与えることとなる。

 

『──シロコさんの現在位置を特定できました! 箱舟第四エリア、閉鎖されたセクションです。そこから信号をキャッチしました!』

「──来たれり」

 

 しかしヒマリが真実に触れようとしたところで、完全なる異端者がこの場に現れる。

 

『なっ……未確認反応!?』

『ヒマリ先輩! そいつ何処から接近したの!? レーダーには何の反応も無かったわよ!』

 

 ユウカの叫び声が異常を告げる。

 シロコの出現には多少なりとも反応があった。だがこの反応は何の前兆も無く突然現れた。空間転移であるならば痕跡を一つも残さないなどあり得ない。

 では一体どのような方法で現れたというのか──? そんな思考を回している暇など無いが、はっきりとしていることもある。

 ホシノたちの前には、敵がいるということだ。モニターに映るあり得ない存在は、それが遂に完璧に至ったことを証明している。

 

「来てくれたんだ──"ライナ"」

 

 愛しい相手を呼ぶ、熱に浮かされたようなシロコ*テラーの声。それに呼応するのは絶対零度の、さながら機械のような声。

 

「意のままに。アヌビス」

 

 左目は普段と変わらぬ銀の瞳だが、宇宙の如き青を宿す"右目"。

 浮かび上がる黝い歪な形のヘイロー。はっきりと形が認識できる、複数のヘイローが重なったような異形。

 そしてアビドスの制服を模したコーディネートの上に着る、真っ黒なロングコート。

 それはホシノがかつて見たライナの姿で、今のライナとは致命的に異なる姿。そして決して呼ぶ筈のない名前。

 光の無い目をしながら、どうしてかそれこそが真なる姿と感じてしまう謎。

 

「全てを終わらせるんだ。私と、私の"ライナ"が。もう、私と"ライナ"は擦れ違わない。ずっと一緒なの。だから私たちの邪魔をしないで」

 

 懇願するような、ある種の悲哀と歓喜の入り混じる、奈落のように深い執念を感じさせるシロコの言葉。別れた半身を手に入れた、そして自分たちは滅ぼす役割なのだから。だから今度こそ最後まで──明確に歪で、あからさまにおかしい。

 ……まともではない。このシロコは、精神の均衡を大きく欠いている。

 

『おい、聞こえるかオマエら!』

 

 刹那、シッテムの箱の中からアイは奇妙な力を使い、自分を認識できる面々の脳に直接声を飛ばす。

 

『今すぐにライナを無力化しろ! でないとヤバい! 今のライナはアイツでもライナでもない。本質の、厄介な部分だけで動いてやがる! 望まれるが故に叶える願望機に等しい! あのシロコが滅びを望むなら、ライナもまた滅びを叶える存在だ!』

 

 対策委員会と先生、そしてカヨコ。

 聞こえるのはそれだけではなく──

 

『──そうか。あのヘイロー、『彼』、現れたもう一人、"ライナ"……完全者』

 

 リンにもまた届き、彼女は遂に全てを理解した。

 ライナとアイ、『彼』の関係性。その真実とはある種陳腐なものだった。陳腐故に、現実味の無い話。あるいは、極めて想像しやすい、ありがちな話。

 しかしそれ故に、最も複雑である。

 

『リン先輩、何かわかったんですか!? あの人、ライナさんですよね!?』

『アユム、あれは夏雪ライナという存在ではありますが……あなたの知るライナさんではない──今はただの敵です。説明は後で。ええ、何故ここまで事情が秘められていたかもそこで』

 

 全ての疑問の答えを得たリンはライナを表面上知っている者たちからの抗議の視線を言葉で黙らせて、戦いに集中するように伝える。

 

「今私たちの前にいる『シロコ』と、第四エリアにいるシロコちゃんは別だ。そもそもが別だったんだ。……そして久しぶりに見たね、ライナのその姿」

「ちょ、ちょっとホシノ先輩。何を根拠にそんな……てか、久しぶりに見た?」

「ホシノ先輩、ライナさんの何を知っているんですか? 後で教えてください」

『な、何がなんだか……っ、二人が戦闘態勢に突入しました! 応戦を!』

「真実がどうかは、ちゃんとぶつかってみないと。今はこの戦闘に集中するよ!」

 "……わかった! 今はとりあえず、進もう!"

 

 シロコの手口は先生はわかっているが、ライナは今まで戦闘をしてきたことは見せていない。辛うじて参考になるのは、共に戦ってきたホシノの経験と──アイの言葉だけだ。

 完全なる未知数、最大の敵と共に立つ最悪の敵。正体不明の存在の、暴力というベールが今剥がされる。

 

『今のライナは完全な状態じゃないが、けど本来の状態に半端に戻ってる! キミらもよく知る銃撃戦もするだろうが、格闘戦やら何やらも使ってくる!』

「ライナは私と対等以上にやれる……みんな、絶対に気を抜かないで! あいつは私の知る限り最も危険な存在──アビドスの悪魔だから」

 

 ──アビドスの悪魔。

 いつか、アルが探していた最悪の存在。かつてアビドスでその悪名を轟かせた、悪魔を超えた悪魔。

 ホシノしか知らないというならば、その答えは必然的でもあった。しかし今、それが敵として立つ。

 

「……そんな名前で呼ばれてた事もあったの?」

「然り。それも俺を定義する名として刻まれている」

「悪魔と死神……ふふっ。いいね、やろう、"ライナ"。今度こそ、二人で」

「かの門を潜りし時、一切の希望を捨てよ」

 

 何処か普段通りのやり取りのようで、致命的に歯車の噛み合っていない二人の会話。お互いに言いたい事しか言っていない。

 

『情報翻訳を戦闘技能に優先した! これならそっちに流してすぐに使えるはずだ!』

「……確認しました! 先生、ライナさんの情報です! 恐らくこのようなパターンに加えて、アイさんでないとわからない技を使ってくるかと!」

 "無いよかマシさ!"

 "……アイ! 指揮を手伝ってくれ!"

『いや無理だよ力量的に! 予測不可能な攻撃に関するトコだけやる! リンクした視界情報をコッチに回してくれ!』

「こう、ですか!」

『相変わらず優秀だなァ!』

 

 未知数であったライナの情報。

 それが開示されれば、ある程度はやりようが生まれる。幸いシロコ*テラーの手札は大体把握している故に問題無いが、最大の懸念点は予測不可能な攻撃だ。

 

 "(恐らく攻撃パターン自体は変わらない)"

 "(身に染みついたやり方は、変えられないから)"

『これよりシロコ先輩とライナ先輩を制圧し、次元エンジンを破壊します! 先生、指揮をお願いします──!』

 

 アヤネの言葉が引き金となり、戦闘が開始される……

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