青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
──ウトナピシュティムをハッキングして自爆シーケンスを進める原因を取り除くべく、ナラム・シンの玉座に突入したシロコと先生。
二人だけの突入になったのは諸々の都合であり、予定したものでもなかった。
しかしそれ故に、運命的な出会いをする。
"……我々は望む、ジェリコの嘆きを"
"……我々は覚えている、七つの古則を"
シロコが発砲した刹那、響き渡る聞き覚えのあるランゲージ。それは正体を如実に物語る言葉であり、彼が何者であったかを端的に表す。
今までの反応から、察するに──それは。
「先生の生体認証、完了」
聞いたことがあっても、聞いたことはない声色で言い放たれる言葉の数々。
「このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者でありメインOS──A.R.O.N.A、命令待機中」
──もう一人の、アロナ。
"……!?"
"アロ、ナ……!"
プレナパテスと呼ばれる色彩の尖兵とは。
「だから言ったでしょう。このキヴォトスは終焉を迎える」
「……あれが、私?」
そしてシロコ*テラーはライナを引き連れて、先生とシロコの前に現れる。
彼女の風貌は、シロコという枠組みには属しているものの、雰囲気も含めて考えれば本人ほど強い衝撃を受けるものだ。何か絶対的に異なる姿だが自分であるという訳のわからない現実。そんな状況でこぼれ落ちた当然の疑問は、意外な相手から解答を与えられた。
「肯定。砂狼シロコ、別時間軸の同一存在」
"……パラレルワールドとか、そういう感じか"
"あっち側とかこっち側とか。色々言いようはある"
"なら君は、異なるアロナなの? "
「前述の問いに関しては肯定。しかし私に関する問いに関しては、一部肯定。私はシッテムの箱に常駐しているシステム管理者でありメインOS、A.R.O.N.Aです」
ニュアンスが何か違う。
動揺するアロナと、淡々と説明するA.R.O.N.A。両者は似ているが違う。だが同じアロナであるが故に。
「何を言っているんですか!? シッテムの箱の管理者でOSは私で──シロコさんも二人、同一の存在……な、ならズルでもしない限りは!」
「回答。ここは状態の共存が可能なナラム・シンの玉座である為です。ここは次元、時間、実在の有無が確定されず混ざり合う混沌の空間。私は教室を有していませんが、先生が歪曲することでここにいるのです。ズル、という言葉で表現するのは正しくありません」
(やはり。だからライナでありながらアイツの意志も実現する状態を維持して──)
「私の言葉に反応……お互いにシッテムの箱の管理者だからでしょうか」
「肯定。推測ではありますが」
「わあっ! こ、ここにも接続できるんですね……!」
同じものだから当然に、ということだろう。ならば存在意義も似たようなものであると見て間違いない。だから先生は踏み込んでいく。プレナパテスの正体に。
"プレナパテスは、私なのか?"
"異なる時間軸の"
「一部肯定。対象が私の先生と同一存在であることを確認。しかし、差異が存在します」
(……いや待て、プレナパテスは──ソレが許されるなら、ボクたちは……!)
「せ、先生……」
震えた声でアロナが告げる。
「プレナパテスは、別時間軸の先生です。外見こそ変わっていても、全てのデータが一致しています。ただ、ある一点を除いて」
"それは? "
「──既に、死んでいるんです。生きていないのに、動いているんです」
──そちら側の先生は既に死亡している。
生命活動は停止してなお動いている。それは概念的存在なのか観念的存在なのかは不明だが、とにかく最悪の結末に至った果てに、彼はここに立っている。残骸と化してもなお、生徒たちの前に立っている。
では何故死んだのか? 何故そうなったのか? その答えは、最も聞きたくない声と共に告げられた。
「ええ、そう。殺したんだ。私が、先生を。そうしたら、色彩の嚮導者になった。多分色彩の影響だろうね。そして私をここへ連れてきた。世界を破滅へと導く、私の運命を実現させるために」
シロコ*テラーは淡々と、何があったかだけを告げる。それは受け入れ難い言葉であり、そしてシロコにとっては絶対にする筈の無い選択と、絶対に辿り着かない筈の結末であり──
「……私が、先生を殺した?」
「そう。殺した」
「世界を、滅亡させるのが運命……?」
「砂狼シロコが砂狼シロコであるが故に、かな。そういうものだよ」
絶望的なまでにシロコが認めたくない現実であった。嘘を言っているようには思えない。何故なら自分だから。それがはっきりと理解できるほどに自分なのだから。
「ふざけ、ないで──! そんなの信じない! 先生を殺す、世界を滅ぼす、挙句殺して先生を私の存在の為に利用? そんなことを、私がするわけ──!」
「わかってないみたいだね。砂狼シロコは生まれながらに世界を殺す神なんだ。『本質』がそれだから、そんな風に生きて、そんな風に終わらせる。だから因果の子」
激昂のままに攻撃を仕掛けるが、呆れ返ったような態度のまま何一つとて命中しない。弾丸は避けられ、殴り掛かれば適当にいなされて、そして最後は足を引っ掛けられてあっさりと地面に転がされる。
「世界を終わらせる崇高は世界に一つ。だからこの確定と不確定の重なる混沌の空間にあなたを連れてきた。そうすることで私が自由に動けるから」
冷たく見下ろして、彼女は憐れむ。
「かわいそうなシロコ。あなたはここで何も知らずに朽ち果てるべきだった。そうすれば、愛する人たちが死んでいくのを見なくて済んだのに。そして──"ライナ"とすれ違わないシロコは、因果の子として行き着いてしまった私だけって知らなくて済んだのに」
「ライナとすれ違う……!?」
その憐れみも、戦闘に意識を向けたシロコ*テラーから消え失せて。
──自分に上位互換に圧倒される。
そんな経験はほとんどない。
「くっ──」
「遅い」
そういう状況が必然となっているとしても、何もできないのは心苦しいものである。
一手早く、一手確か。こちらの思考を手に取るように理解して、圧倒する。ある種の鮮やかささえ感じられる。
銃を向ける、弾かれる、銃を向けられて引き金を引かれる。辛うじて避けても反撃に移る前に体術が迫り来る。蹴り──それも顎先を狙い脳を綺麗に揺らす為の軌道。
愚策ではあるが落とされるよりかは遥かにマシと判断して、大きく飛び退きながら牽制の発砲。動けば当たる故にシロコ*テラーは一歩も動かず、それどころか悠々と狙いを定めて一発。シロコの右腕に撃ち込んだ。
「……私とあなたはイコールじゃない、とか言ってたけど。確かにそうだね、シロコ。あなたは弱い。弱いから全てを取り零す。弱いから"ライナ"に逃げられる。──だから"ライナ"とすれ違う。ホシノ先輩と"ライナ"の間にある絆は、私のものより深く、そして強い。"ライナ"がホシノ先輩を選んだとしたら……自分の物にできる? できるわけがない」
──何をあり得ないことを言っているのか。
自分が恋慕を向けていることは全員にバレているし、今話題に上げられているホシノはそういう感情を持っていないと知っている。ならばシロコ*テラーの語るかつてとシロコの経験した出来事は細かい違いがありそうなものだが、しかし己であるが故に痛い程理解できる。
「……勝てないから」
お喋りに付き合ってくれるならそれに越したことはない。だからシロコはできない理由を答える。ホシノがそうだった時、シロコは絶対に勝てない。ライナを知り尽くしているのはホシノだ。始まりからいる女に勝てるわけがない。それに関しては同意するが──何故そうなったのか、シロコには見当が付かない。
「そう、勝てない。──勝てるわけがないんだよシロコ。私を前にして。経験が違う、技量が違う、何もかもが違う。力の使い方も知らないあなたが、どうやって勝てるというの?」
つまりなんだ、自分はホシノとシロコのように絶対的な差があるから諦めろと?
そんなもので止まるほど砂狼シロコは賢くなどない。有利不利は理由にならない、なさねばならぬならば、なすまでだ。
自らを奮い立たせ、再び攻勢に出る。
「不幸自慢なら聞き飽きた!」
「その数え切れない不幸が、今シロコの前に立ち塞がる高い壁になっている。その現実を受け入れろ」
「ライナは返してもらう、それは"私の"ライナだ!」
「ダメだよ。これは私の"ライナ"。唯一すれ違わない砂狼シロコと夏雪ライナが、私たちなんだ。共に世界を滅ぼす者……」
──ライナ、ライナと言っているがそれはお前のライナではない。ずっと思っていた。ただそこを突くか突かないかは迷った。それは明らかに触れてはならない傷だったから。しかし遂に決壊した感情は激情のままに、その傷を抉ることを選択する。
「あなたが私だっていうなら、異なる時間軸の私だっていうなら、"あなたの"ライナは何処にいるの!? そこに"あなたの"先生がいるのに、どうしてライナはいない!? それは"私の"ライナなんだ!」
お前のそれは代用品、代替品に過ぎない。異なる自分がいるなら異なるみんなもいて当然になる。だからこそ、世界を滅ぼす側とかすれ違わないとか色々言っているが、ならばお前のライナはどこにいるのだと突き付ける。
いくらでも想像は付く。先生が死んでいるのだ、他のみんなもそうなった可能性が非常に高い。だからこそシロコ*テラーにとっての『みんな』とは唯一でなければならない。
認められない。異なる存在と理解しているのに自分が求めた相手のように扱うのが。別人と理解しながら同一人物として扱おうとしているのが。
「"私の"? 自分の物にもできない女が何を言うかと思えば……"ライナ"が何であるかも知らないくせに」
同じ『シロコ』だからこそきっかけがなければ自覚もできず、恋焦がれた頃には手の届かないところへ行かれ、やがて想いが通じ合う頃にはすれ違って泣き叫ぶ馬鹿を嘲笑う。
自嘲、そして八つ当たり。行き着くところまで行き着いた砂狼シロコが憎むのは自分。何も知らずに能天気に明日が続くと思い込んでいる愚かな自分。結局何も知らず、何もわからず、いるだけで不幸を撒き散らす悍ましい神。
銃弾を撃ち合い、殴り合い、そして睨み合いながら互いに心底の本音を吐き出し合う。
「知ってるっ。この人はホシノ先輩の親友で、私たちの先輩で、アビドスの三年生で、私が恋する相手。それだけでいい、他に何もいらない! ライナの中の真実なんてどうでもいい!」
「世界を滅ぼす側の存在なんだよ。私に、たった一人残された横に立つ人……まだわからないの? "ライナ"は私と全てを滅ぼす。それが絶望の先の、ただ一つの希望なんだ」
「ジャンク屋にでも売ってしまえ! そんな希望……っ」
そうでも言わなければ、あるいは何か決定的な敗北でも叩き付けなければ止まらないのは明白だった。言えば言うほどそういうものなのだからと思い込もうとするような、そんな言動。先生を使っている立場だからか、ようやく隣に立つ相手を得られたからか、シロコ*テラーはシロコらしさというものを失っている。
(何をしたの、向こうのライナは──)
やたらすれ違うことを強調したということは、向こうのライナが何かをやらかしたということだろうが──とにかくライナから引き剥がして目を覚まさせるしかない。先生が使われている、というには微妙な雰囲気もあるが……
シロコ*テラーが世界を滅ぼしてきたとしても、止められるならば止めなければならない。そういうものだからそうしているというならば、それはつまり本音ではないだろうとも言えるから。
だが、彼女が訳知り顔で語るライナについて腹を立てている存在もまた一つ。
『……聞いてて腹立ってきたな』
「あ、アイさん?」
『わかったようなことをベラベラと。オレたちの何を知って……少し借りる』
──一人称が違う。それを指摘する場面でもないし、理由もない。アロナと先生は知っているのだから。ただ借りることの意味がわからない。
「わかったよシロコ。あなたが何かとても苦しい事情を抱えてそうなことは」
「それで?」
「でもそれとこれとは話が別だ。"私の"ライナに手を出すな、泥棒猫」
「──ここに立って私に応えているのは"ライナ"の意志なんだよ。それでもまだ言う?」
「言う。"あなたの"ライナの居場所を、"私の"ライナで穢さないで」
そこはお前だけの世界だろう。自分たちの介在できる場所ではない。
例え悲劇的な結末を辿ったとしても、それでもそこは代用品で埋めていいものでは決してない。故にシロコは強く否定し、故にシロコ*テラーはそれを受け入れない。傷を埋められるならそれでいいと目を瞑るから。
そんな眼差しが気に入らなくて彼女は激情のままに、かつての自分の平行存在を殴り付ける。へばり切った自分如き、技も銃も使うまでもない。この手で手折って、その生命を終わらせてやる。
人間予想しない行動に出られると思考は止まる。まさか自分より強い自分がただ戦術も技術もへったくれもなく、さっきまで圧倒してきた理由を投げ捨てて殴りかかってくるなど考えられもせず。
咄嗟の守りで威力自体はなんとかできたが、そのまま組み伏せられて首に手をかけられる。
「……その忌々しい目、何処までできるか見物だね」
「ぐ、っ……!」
「全ての砂狼シロコは世界を滅ぼす因果の子。どれだけ何を言おうともいるだけで滅びはやってくる」
必死に身体を動かすが、その構造が人間のそれである以上、首を絞められることは致命的に動作を阻害する。それも体重をかけられて抑え込まれているならばなおのことだ。
「そうだシロコ。あなたが殺すんだ。あなたが終わらせるんだ。あなたがいなければ、世界はきっと丸く収まっているだろうに、あなたがいるから──!」
刹那、爆発音と振動が響き渡り、拘束が緩む。その隙を逃さずに体術を駆使して離脱、動揺を逃さぬとばかり銃撃。当たることには当たるが別段ダメージにはなっていない。
「状況分析──ウトナピシュティムとの接続解除を確認。迂回路を施行……失敗。アクセスが遮断されています。介入できません」
先ほどの振動と音は他の面々が計画阻止に成功したということだ。A.R.O.N.Aが告げる状況報告はそれを如実に示している。
「アトラ・ハシースの箱舟、自爆シーケンスが準備中であることを確認。シーケンス起動時、箱舟は爆発と共に最終処理に移行。多次元解釈機能は永久消滅します」
「……さすれば全員死ぬだろうな。脱出手段でもない限りは」
ライナが他人事のように口を開いた。
"(リオが脱出シーケンスを用意はしておくって言ってたけど──)"
"(……いざという時は)"
生徒を信じ、為すべきを為す。先生とはそういう存在であった。
「時間稼ぎだったんだね」
「私が勝てなくても、みんなで勝てばいい。私は一人じゃない。私たち全員で勝ち取るんだ……!」
「みんな──そのみんなの中に、"ライナ"はいるの? いないよね。だってあの人の居場所はキヴォトスにないし、誰も分かってあげられない。そして今私の側にいる。すれ違うこともなく」
「そういう風にあの人を異なるものとして分けて、異なるものとして扱うことが、一番みんなの中から排除してる! 気付いてシロコっ、ライナを異なる怪物として扱っているのはあなたなの!」
「先生。もうすぐみんなが来る、とか言ってたけど。その人たちがライナを見た時、何を思うかな? こいつは化け物だって思うんじゃないかな?」
"それがどうしたっていうんだ"
"ヘイローを浮かべてここにいる。なら彼女たちとも何も変わらない"
"もちろん君も、そっちのアロナも"
シロコ*テラーの言葉に迷いなく答える。
何が違うものか。ヘイローを浮かべて、いや浮かべようが浮かべまいが、キヴォトスで学び迷いそしてより良きを目指そうと子供をやってるならそれは異物でもなんでもない。それを受け入れる受け入れない等は大人の仕事だ。
存在として、彼も子供で、生徒なのだからと。
「……何度やっても変わらないだろうね。こうなったら勝てない。奇跡を起こし続ける。だからA.R.O.N.A、もうイタチごっこはやめにしよう。直接的にケリをつける」
様々な可能性を考え試行しようとする彼女を言葉で止めて、死神は奇跡を破壊する唯一にして最高の一手、そして最悪の一手を告げる。
「最初に先生を始末する。そう、先生がいなければ──いくらでも、何度でもやり直して成功できる。だから、私たちの全力をぶつけよう」
沈黙していたプレナパテスが呼応する。
「……指示を確認。演算支援を停止、戦闘支援モードに移行します」
場所が書き換えられ、より戦闘に適した舞台として作り直される。
"アロナ!"
「はい! 相手が誰であろうとも、先生に悪さをする人はこのアロナが許しません!」
その言葉が聞こえてきたのか、シロコ*テラーは懐かしむように目を伏せて、しかしそれは一瞬で消え去り、完全に自らを闘争に身を委ねる状態に置き、共に世界を滅ぼす者に呼びかける。
「"ライナ"。片付けよう。出し惜しまないで」
「……意に、沿うように」
「ライナ……! そいつから離れて私の所へ来て!」
「その意には応えられない」
「なら、力づくだ」
「"私の"先生と、私の"ライナ"。三人を相手にどうする気なのかも興味深いね」
シロコの言葉を拒否しながらも、しかし妙でもあった。返答までに間があった。
"シロコにだけは反応が違う?"
"ライナの特異性に由来しているのかな"
『いいや、単に……そういう性格なだけだ。ボクらは。ああいうのが放っておけない』
先生の疑問に、アイがポツポツと呟く。
『……絶望と苦痛の最果て。馴染むことのできない自分を自覚して、それでもと足掻いた末に悟るんだ。もうどうしようもないって。青の中に入ろうとして黝である自分を見て、なら黒の中に入ろうとして黝の自分を見る。黒でもなければ青でもない。紅になろうとしてもずっと黝のまま。何処へ行っても馴染めない。敵にもなれなきゃ味方にも──それでも外へ出る事すら叶わない』
それは底知れぬ絶望を宿す、奈落のような言葉の数々。自分が何者であるか、何者でもないのか、それさえはっきりとせずただ異端とだけは理解できて、異端の異端たる所以を消そうとしても消せない。そんな言葉。
『……お喋りが過ぎたな。手を貸そう、再構築は済ませた』
そうしてシッテムの箱から現れたアイ。以前はアビドスの前に立ちはだかったが、今回は味方として横に立つ。誰の為でもなく自分の為に。そんなアイに目を丸くした後、シロコは素朴な疑問を向けた。
「アイ、ライナの味方じゃなかったの?」
「理由が無くなった、ボクも自由にやる。もうあれやこれやも知ったもんか。ボクはボクの望む結末まで、走り抜けてやる。バランスもクソも知らねえ」
「理由はともかく、つまり私たちの味方ってことだね」
「そういうこった。なに、フルスペックとはいかねえがそれなりには役立ってみせるとも。ボスユニットが二つあって、その内の一つが超強化されるんだ。こっちは下位互換を強化して初めて土台に立てる。なら──操作可能なキャラにボスユニットが生えてきても、ゲーム的にはバランス取れてるだろ」
突然俗なことを言うが、それはそうとも言える。らしからぬといえばらしからぬし、らしいと言えばらしい。
「……ぽっと出の奴が」
「とりあえずオマエが何も知らない事は、はっきりしたな。我が物顔でライナについて知った風な口を効くな。特にこのボクの前では」
シロコ*テラーの吐き捨てるような嫌悪を見て、アイもまた嫌悪を隠さない。
プレナパテスが懐から取り出す小さなもの。それは先生が取り出したものと同じで、致命的に違う──
"箱があるなら"
"カードも、あるんだね"
「大人のカード対大人のカード……この場合、どちらのカードが勝つんだろうね」
「シロコちゃん。ライナの相手は任せろ。ボクとアイツは大人のカードの効果対象外で、指揮下には入れられるけど色々仕様が違う。だからキミしか、アヌビスを抑えられない」
「ん、そういうことなら。先生」
"アイ、君もアビドスでしょ"
"ライナの代わりに戦ってくれ"
「この土壇場でボクを指揮下に入れる気かい? ──まぁいいさ。プレナパテスがセンセイなら、キミもそれくらいできて当然だろう。さぁて……ここで本気出さないならホシノちゃんにどやされちゃうね」
何処か違和感のある言葉を口にしながらも、各々が全力で向き合う。大半が同一人物という奇妙な構図であったが、しかし世界の命運なんてそんな風に決まるのかもしれない。
「……あなたが"どんな"シロコであっても関係無い!」
「あなたがどんな"シロコ"であっても関係無い……!」
二人のシロコは同時に同じ言葉を発して睨み合う。
「──"私の"ライナを」
「私の"ライナ"を──」
それでも意味することは違う。
目の前のシロコ、全てのシロコ。
自分のライナ、全てのライナ。
だが欲しいものは──
「「この腕の中へ!」」
同じ恋したその男。