青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
もう少し早く投稿したかったのですが、全然上手く行きませんでした
とりあえずこの次からは多少早くできる…はずです
銃声と爆音が何度も響き、煙の中で剣戟の閃光が暗闇を照らす。
黒のヘカで作られた腕が握る大剣と、黒のヘカで作られた異形の大剣がぶつかり合っては離れ合う。
"ボスユニットが操作可能って──"
"文字通りだったんだね!"
「当然! ライナにできることはボクにもできっからな!」
「俺が与え、そして取り戻した物。その残骸と──なるほど、道理で」
杖の中ほどから黒のヘカにより形作られた刃は異形。まるで鋸か何かをそのまま巨大化させたような、武器というには洗練されていない代物。しかしそれを巧みに操り、一つの武器で四つの武器を無力化している。いくら魔法陣などで無理矢理に攻撃を通せると言っても、本体が本気で対応しなければならない相手が一人いればその可能性を大きく潰せる。
"(……彼らには一定の許容量が存在する)"
"(その許容量をオーバーすることでダメージとなり、時間経過で許容量は戻っていく)"
"(自分たちの場合はやったことがないからわからない。だが腕や足が落ちたところで生やせる……か)"
"(ジャンル違いとは言い得て妙だ)"
──ボクたちの基本的な情報だ。
多分これはライナにも適応されていると思うから、戦略を組み立てるのに役立ててくれ。そう記された文言で締め括られている、解凍されたデータ。
それは自分たちの基本的な構造……そして何度かの戦闘を経て考察した様々な情報だった。アイが無差別に攻撃を仕掛けたり、またアビドスに喧嘩を売ったのもこれらを検証する為だったのだろう。
しかしだとすればいつかライナと同質の存在──例えば『彼』などと事を構えることを想定しているようにも思えるが、それは起きるのだろうか? ライナの中に潜む者……つまり『彼』は見るな、呼ぶな、触れるなという。ならばそれは現れる気が無いという解釈も可能だ。
リンの前に現れたのは事故であったのは知っている。しかしそれ以前からこれは動いていた。何のために?
いや、今はいい。
思考を切り替えてカードの力によって行う戦闘に集中する。
──大人のカードに不可能は無い。
対価を払えば奇跡だろうがなんだろうが引き寄せられる。故に今シロコが幻影のような武器を持ち、まるで別人のような戦い方を完璧に行っていても、それはカードによって可能にされているというわけだ。
プレナパテスは徹底的にシロコ*テラーの能力をそのまま引き上げ、先生はシロコに様々な生徒の技や武器を与えて使わせる。これは単なる戦略性の違いというものだろう。
実の所、生徒の力や概念だけを引っ張り出す事もできるし、なんなら影法師として召喚することもできるが、それをやればどうなるかわかったものではない。ライナとアイもいれば、空間も特殊だ。変な事をしてやらかすくらいなら堅実に、だが極端に行くのがいいだろう。
負担は凄まじいものになるが。
「経験の差を埋めるのはみんなの力、か」
「ん、全員には会ったことはないけど──今一緒に戦ってくれてる。それだけでも十分!」
変幻自在とはまさにこのこと。
ミレニアム最高戦力を思わせる攻撃的な動きをしたかと思えば、今度はアリウスの冷酷無比な射撃、更にそこから硬い守りを見せる。手を変えようとすれば突然に用意されていたということにされたトラップが爆発し、たった一人で無限の技を同時に繰り出す。
今のシロコは大人のカードの力により現在のキヴォトスの生徒を出力する触媒にも近いが、しかしシロコ自身の能力も一切失われておらず、それ故にシロコ*テラーとの間に生じている差を埋めている。
一方、完全に同じ能力である二者はまるで神話のような戦いを繰り広げる。
黒の双腕が二刀を振るい、それらを黒の双狼が噛み千切り、理外の角度から放たれる弾丸が射殺す。お互いの殺意を宿す武器が噛み合っては離れて、現代戦の傍で破壊を撒き散らす。完全に同じ動きで、使う技が違うだけ。そこに差と呼べるものはなく、まるで同じ人物が二人いるかのよう。
「……狼の断片? 切り離れた時でさえお前は出ていなかった。だとすれば自らを改造していたか。オレに気付かれずに、ともなれば必然方法は……」
「どーでもいーこと気にしやがって。テメェだってボクに黙って動き出してたじゃねぇか」
「仕方あるまい。ヤツはそういう存在だ、手を打たねば死ぬ。死ねれば幸いだが、可能性も逃したくはない」
「──どっちの意志だ」
「それはオマエが一番に理解していよう」
お互いに知らないところでコソコソと動き回っていたのは何故か、など問うた所で答えなど決まっている。無駄な問答だが、求められるが故に応えてしまう。それは根差す呪いに等しく、苛烈な戦闘の最中であってもそうなってしまう。
それは偶然か、あるいは必然か。
別にそうする気は特になかったのだが、次に自分がやる手を想定した時に入れ違った方が早いと判断した先生はシロコとアイの位置を変えて、それぞれの相手を交換する。
ショットガンにショットガンのついた凄まじい代物を手に、まるで忍者めいた動きで黒の双腕を潰してからライナに向かうシロコ。その傍ら、アイとシロコ*テラーはこれといった技も見せることはなく、真正面からぶつかり合う。杖に生じた大剣を蹴り返し、鎌剣に生じた鞭は懐に忍ばせていた拳銃で迎撃する。そしてそれらが全て目眩しも兼ねていると察しているが故に、本命の杖による刺突を流れるように踏み付けて防ぐのだ。
「そういやすれ違ったすれ違ったって言うけどなんだ、そりゃライナがオマエに惚れてたってことか?」
難なく対処されていることもどうでもよさそうな、なんの気無しに聞いた言葉。
それは彼女の傷を抉り出す一言に他ならず、思わず沈黙という回答をしてしまった。しかしそれがアイにとって何か決定的に理解させる行動であり……豹変する。
「──あぁ、そういうことか。そりゃあやらかすわな。はははは、女の子泣かせたのか。そしてコレか、このザマか。なんだそりゃ。人を不幸にする天才かよ。完全者ってのは厄介だな。いつも一人で完結することしかできない。それでいて誰一人愛することのできない塵屑ときたモンだ」
自嘲にも等しい声色。しかしそこにはうんざりとした心や限界に近いような雰囲気も感じられ、彼女がその結末に心底から哀しんでいることも垣間見える。複雑な、あるいは分裂したような──いいやそれだけではない。奈落のような絶望、癒えることのない憎悪、そして朽ちることのない憤怒。シロコ*テラーが抱くそれとは似て異なる、だが永きに渡って蓄積された負の感情という同じもの。
人間は憎み続けることも、怒り続けることも、諦め続けることも、愛し続けることもできない。感情とはエネルギーだからだ。どこかで生産しなければならない。現に彼女だって、何かのきっかけがあれば死神としての心さえも折れてしまう。薄く鋭い刃物、その薄さにも限度があるように。
しかしこの感情は一度だって消えていない。色褪せたことがない。常に絶やさず憤怒と憎悪に点火する着火剤が提供され続けている。それがあまりにも異質で、シロコ*テラーが自分と同じものを感じたのが勘違いだったかと思うくらいには。
「お前はなんだ、あいつは誰だ。どうして"ライナ"と同じヘイローを浮かべてここにいる!」
そのヘイローを見るたびに浮かび上がる絶望の象徴。愛を嗤い、愛を奪わせ、愛を失わせた憎き悪魔。
アイとライナと、内に潜む者。どういうわけかこの三者のヘイローは同じ形をしていた。
もちろんシロコ*テラーも、ヘイローの形は通常よくわからない。しかしライナだけはどういうわけかはっきり見える。皆と同じだった。
だから気付いた。気付いてしまった。忘れられないあの歪なヘイローが、ライナにも浮かんでいることを。それは見て見ぬフリができたのに、このライナを知っている、彼女が知らない第三者も同じヘイローを浮かべている。色も同じ、黝のヘイローなのだ。意味がわからない。──わかりたくない。
「……見ての通りだろ」
しかし、アイは気が気でない。
自分と出会っておらず、その上で内側の存在に気付いてしまっている。そして何か悲劇的な結末を辿った。一歩間違えれば見てしまい、誰にとっても不幸な結果になりかねない。その上、ここにはゲマトリアの検証結果を根こそぎ奪い取ったプレナパテスもいる。下手なことすれば向こうに切り札を取られかねないし、状況によっては誰も生きて帰れない場合さえあり得る。なんとかして視線を向けさせることのないようにしなければ。
もしも起きてしまえば──いい加減に愛想が尽きてしまうだろう。繋ぎ止める約束さえも色褪せて。
「"ライナ"」
「ダメっシロコ! そのライナは"あなたの"ライナじゃない、あなたが欲しいライナじゃない!」
離れた瞬間にライナを呼び戻す孤独な少女。誰が見ても代用品で穴を埋めている姿は、敵対心以前に哀れみだけが残る。見ていられないその姿にシロコが思わず声を荒げるが、それは届かない。すれ違わないすれ違わないと言っておきながら、この世界の自分が声をかけるだけで何処かへ行ってしまいそうだからと手元に置いておきたいだけで。
"選択と適応、こうまで難しいとは!"
「先生! プレナパテスが支援以外に何かを!」
"……くっ、やれるだけやるしか!"
さて、実のところ先生も先生で苦戦していた。
ただ力を貸して指示をするだけ、などと取られることもあるが、大人のカードの力は全て人力でコントロールされている。つまりシロコに渡す技術・特徴・武器、そういった全ては先生側で選択されている。アロナが手を出せる領域でない為、ここだけは先生が自力でやらなければならない。
よって膨大な生徒の中からその場に適した武器、技術、特徴、戦術。それらの主人を浮かべて出力する物を選択して与えることを一瞬でやらなくてはいけない。
一方のプレナパテスはそういった細かいことはせずに、指揮と維持に集中すれば良い。全く負担が違い過ぎる。先生同士の戦いに限っては、不利であった。
ある種の拮抗状態に持ち込めていたのは、プレナパテスが必要以上の支援をしなかったから。そしてライナが邪魔になっていたからだ。どうにも彼の方も、何かの意図があってシロコ*テラーとライナを離したいようだが、すぐに彼女が呼び戻してしまう為、それが絶妙な隙になっていた。つまるところ作戦無視である。
"(……しかし)"
塗り替わる空間。呼び出されるヘリ。手口はそこまで変わりないが──
"(何故、ゲマトリアの検証結果を使わない?)"
素早くセッティングを終え、指揮を取る。
とはいえ、武器を使う順番や何秒後に特性を与えるから指定時間内ではこの距離で戦ってくれという程度の物だが。
しかし状況を覆す物は向こうもあるだろう。使ってないだけで手元に置いているものはあるはずだ。なのに何故それを使わない。大人のカードとシッテムの箱だけで決着とはならない。お互いの全力というだけであり、持てる手札は全て切るべきだ。
特に使い潰しても問題の無いものも多いはずなのに。あえて出し惜しむ理由がわからない。使い切った? それは無いだろう。使えない? 可能性としてはあるが──
"(迷うな。使えないと判断する)"
"(あとは……)"
アイに視線を送る。
実はここに至るまでの間に、アイは策を講じていた。それをやればライナの無力化に関してはすぐに可能だと。
シロコ*テラーの視線が『彼』に向きかねない今、手早くケリをつけなければならない。
(どうするよセンセイ。結構まずい)
"(やるしかない)"
"(頼めるかな)"
(あいよ。ただ必要なら使い潰しな)
"(けど──)"
(気にするな。死という概念すらボクにはない)
──正体が正体だから文字通り使い潰せる。
気が乗らないが、やむを得ないのだ。そうして自分を納得させなければ、それを考慮できない。
(そろそろヘカを連続して出すことは不可能になってくる。いくら完璧に近いと言ってもああも大盤振る舞いしてりゃあ流石に無理だ。連戦で何度も破壊されて復元してるのなら、アレを使わなきゃ補えなくなってくる。さて、ボクよりシロコちゃんに畳んでもらう方が確実だが……)
シロコは盾を使い、真正面からシロコ*テラーの波状攻撃に耐える。それと同時にプレナパテスの視線が動き、シッテムの箱を経由して何かをしようとしていた指が止まる。ほんの僅かに隙が生じた理由は複数考えられる。まさか馬鹿正直に受け止めに行くとは思わなかったとか、こんな大胆な戦法は想定してなかったとか。だが正確なものはわからない。
ただ重要なのは、指が止まったということだ。同じシステムである以上、お互いに干渉することも可能。故にアロナがこの不可思議な空間を利用して妨害に走る。外部からのプロセスの強制中断──仮にこれがカードの力やプレナパテスに由来するのであれば、止めることは完全に不可能だったが、シッテムの箱を経由したのが隙になった。
強力な物を使用するならば、防御システムと併用できてもそれなりにリソースは持っていかれる。A.R.O.N.Aがその妨害に対応しなかった訳ではない。単純な話として、攻める側となったアロナの方がリソース勝負で有利だったというだけだ。
「干渉によりプロセス停止」
「今です先生!」
"火力と、速度……"
"なら選ぶのは!"
「ん、ここで決める!」
ここで仕留め切らなければチャンスは無いかもしれない。シロコの手には対ヘリ用のロケットランチャーと怪物じみた対物ライフルが現れる。
対照的にシロコ*テラーは愛用のアサルトライフルと、ホシノの物と同一のショットガンを握る。
放たれた弾頭を撃ち落とし、二の矢を避け、次いで迫る火炎放射を大きく飛び超えて反撃に──
「鎖……!?」
飛び越えた先に待っていた物は鎖の付いた二丁のサブマシンガン。代物としてはトンチキだが、使い手がどのように使えるかを完全に把握していれば強力な武器となる。そして捕縛術と併用すれば、さながら古武術のような技に使える。投げ付けられたそれは慣性という当然の法則に従い彼女を捕縛する。
振り解くには流石に集中しなければならない。致命的な隙だ。それを逃さない為の武器はまた二丁、回転弾倉式グレネードランチャー。
「まだまだ!」
多彩な武器を瞬時に扱う技術、選ばれる武器が手に馴染んでいる人物の技術を左右で貼り付ける。それぞれを連続発射し──刹那、鎖の拘束を力任せに破壊してシロコ*テラーの戦闘能力が一気に上昇する。
間違いない、大人のカードの出力を上げたのだ。ショットガンであっという間に銃器を破壊し、ガトリングの制圧が開始されると同時にシロコはレールガンで弾幕ごと射抜く。
「戦況を確認。対応タイプ変更」
「最後までサポートします!」
刹那、二つのシッテムの箱がその機能を使い負傷と消耗される弾薬を瞬時に復元し始める。常にフルスペックとなった二人のシロコは加速的に力を供給する大人のカードのもたらす恩恵を更に受け、お互いに無数の武器を使い分けてはその戦闘を激化させる。
「……そろそろ、鬱陶しいな」
やけに冷たい声が、ひっそりと小さく響く。
「戯れるのにも飽いた。潰しにかかるか。──視線が不快に感じることだしな」
──まずい。
この言葉が意味するところはシロコ*テラーの視線が『彼』に注がれているということ。そして彼女は気付いていないが、今やライナの視線には殺意や敵意が見えており、『彼』の意に応えているということになる。
それに気づけたのは先生だけだ。その攻撃の矛先が何処になるかを。更に言えば、ライナには箱の力による簡易リテクスチャ同士による塗り替え合戦も何も関係無いのだと。
プレナパテスが離したがっていた理由がそこにあった。最初から彼は理解していたのだ。理由が生まれたらライナは敵となるのだと。故に使い潰し、本命から遠ざけておきたかったのだが──彼女はそれを考えもしなかった。傷を埋める薬だと思ってしまった。それは薬などではなく猛毒であると知る由も無いからこそ。
「任せろ」
黒のヘカから騎槍が形成される。その始まりが何を意味するか。一回で九つの命を奪う、殺戮の魔技だと知るのは一人しかいない。
──突撃。弾丸よりも早く動ける存在が繰り出す渾身の突き、まともに喰らえば結果は火を見るより明らか。
貫く、抉り飛ばされる左腕。即座に再生するが、直後胴を片手剣が横に一閃。身体を逸らしていなければ首が飛んでいた。振り抜いた剣が刺殺用の短剣へと姿を変えて喉目掛けて迫る。それ自体は黒のヘカを強引に盾代わりに使用することで弾くが、続け様に変形した槌が頭部に振り下ろされて、更に斧に変わり右腕を切り落とす。即座に再生、同時に変形……大剣を縦に叩き付け、そのまま刺剣へと切り替え刺突、次いで大鎌が袈裟に振り抜かれる。
ヘイローの無い並大抵の存在ならば八度は死ぬ連撃。全てが急所を狙い確実に殺す為の攻撃であり、その練度は尋常では無いほど研ぎ澄まされている。
全てを知るが故にアイは全力で受けに回る。下手なことをすれば自分を抜けて彼女へ向かい、そのまま彼女のヘイローが砕けかねない。この九つの武器を変わる変わる繰り出す技は、最後ライナが最も得意とする武器で締め括られる。
これらは別に耐えられないこともない──などとは違う。ルールが違う。アイが何発も攻撃を受ければダメージになるように、これらもまた何発も受ければダメージになる。しかも致命打として。自らを自覚する完全者という属性は余程の存在でもなければまともにやり合うことさえできない。
それは世界であり、人であり、神であるが故に完全者と呼ばれるのである。
「永劫の絶望に苛まれ」
最後に姿を現すものは、漆黒の流体が象る長大な刀のような何か、異形の刀剣。曲がった刀身である以上は刀という概念に属するが、しかし全てが何処か異なる。だがそれは夏雪ライナにとって最も手に馴染み、敵を斬り裂いた得物である以上、異形の刀剣であろうがなんだろうが、十二分に敵を滅ぼす武器ということだ。
「憤怒と憎悪に火を灯せ」
繰り出される絶殺の三撃。
黝の靄を吐き出し、千切れかかった肉体を補うように黝が欠損した部位を象る。この一瞬に行われた九つの武器による連続攻撃で、アイはルールとテクスチャーによる防壁とテクストによる存在性を剥がされて、彼女の味方と彼女自身の力だけで強引に自らを再生させなければならない程に消耗してしまった。
「──硬いな。流石にお前には通じんか。三重梱包に法則の鎧、更にはかの者の断片まで。よくぞそこまで」
「ヒトを九ぶっ殺して有り余る技まで使うかボケ……!」
一見すれば勝負を決めにかかったようにしか見えない。だが実際には背後からシロコ*テラーの抹殺を試みていた。そして九つの武器を都度切り替えて放つ絶殺の連撃は、途中で彼女を仕留め切れば、そのまま困惑する片割れも無慈悲に葬る。そういう狙いがあった。
アイだってこんなもの真っ向から受けたらただではすまない。だがそれでもやるしかなかった。どちらのシロコも欠けさせることなく、事を収める。先生の願いはこれであるが故に、そしてアイもそれを願うが故に。
「だけどなァ──いい加減寝てろ、クソ野郎」
「……なるほど。権限の複製に模倣とは──っ。してやってくれたモノだな、友よ」
「ちったぁ頭冷やしやがれ、ボケカスが。テメェが自分勝手に蒔いた種で狼が気にしたんだ、テメェの所為だろ。甘んじて受け入れろ」
「返す言葉も無い」
黒の双腕だけでなく自身の腕まで使い拘束する。その中でこんな会話がされて、アイは黝の靄となって消えていく。そしてライナのヘイローは突然と消え去り、その場に崩れ落ちた。
──迷わない。
シロコは遂に自分の愛用する得物のみで突撃する。
……迷う。
シロコ*テラーもまた自らの得物のみで迎撃に出る。
射撃しながらお互いに近付き、先手を取ったのは──
(嘘……!?)
あり得ないことにシロコだった。
だが驚愕した理由は、それだけではない。
その動きは、シロコ*テラーの物だったからだ。動きを盗んだ? いいやそれは無理だ。経験はどう足掻いても埋められない差なのだから。では、これは──カードの力だ。
「これで、倒れろっ!」
一挙手一投足が彼女をなぞり、最初の戦闘を再現するかのように銃をあっさりと弾き飛ばされ、弾丸を叩き込まれる。
それと同時に演算対決も、アロナにカードの力を回すという荒技を以ってして先生はA.R.O.N.A.とプレナパテスを押し切り──
「……プレナパテス、沈黙しました」
一つの物語が幕を閉じた。
そして最後、一人の大人はその責任を全うし。
残された二人の教え子を、もう一人の大人へと託すのだった。
だが。
「なるほど、それなりの力はあるようだ」
先生は崩落する玉座の中で出会った。
「──此処があまねく奇跡の始発点となるか、捻れて歪んだ先の終着点となるか。どちらにせよ、死を請うは世界の理。プレナパテスの献身に世界が報いるか否か……」
愛用のライフルを、壊れかけの大剣へと変えて。
宇宙の如き青を宿す"左目"を見せて、光の無い瞳を向ける者に。
空間を断ち切り、何処へと去っていく少年──ライナの中に、潜む者に。
……ジャンル違いの怪物に。