青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
ガチャガチャとアビドス校の一角から機械弄りの音がする。
「セリカー、それ取ってくれ」
「はいはい」
「ヘリも計三台、うちも大所帯になったわね。アヤネちゃん、制御システムはどう?」
「ドローン用の連携システムを流用してみたけど、まだフルマニュアルでやった方が早そうだね。うーん……同時コントロールシステムはミレニアム製プログラムのライセンス買った方がいいのかなぁ。台所事情的にはなんとかはなるけど。自作にしても手間は手間だし」
資金繰りが快適になり、一台買ったらもう一台と。中古オークションの狙い所を理解したアヤネはあっさり二台、新しくヘリを用立てた。これで何があっても問題無いと喜んでいたが、今度はヘリの同時コントロールを実現するべくあれこれと試行錯誤中。
暇してたセリカと暇しかないライナを巻き込んであーでもないこーでもないとしていた。
ホシノはシャーレの当番、シロコとノノミは賞金稼ぎに出向いているので、珍しくライナが先輩役をすることになっていた。
「でも、ヘリ三台の同時コントロールなんてするかしら?」
「いや、備えておいた方がよくねぇか? だってほら、最近も色々あったし」
「まぁ、とりあえず候補に入れておこうかな」
そもそも無人ヘリの同時コントロールが必要なのかもだいぶ疑問が残るところであるが、やれるようになっておけば困ることはない。何事も備えておけばアビドスでは役に立つ時がいつかは来る。そういう場所なのだから。
ちょうどいいからと、ライナは思い立って声をかけて──
「なあ二人とも」
「あ、相談ならパスよ」
「お願いだから自分で見つけてください」
「……ハイ」
何故も何も無く。二人はもう答え出てんだから付き合わせるなと拒絶した。
居た堪れなくなったそこのアホは、やむを得ず話題を変える。
「しかしヘリ三台か。今度は何を調達する?」
「戦車とか?」
「そこまであっても……それなら作業用のゴリアテ辺りが欲しいですね」
「ゴリアテってカイザーの商品じゃない」
どうして苦渋を舐めさせられた相手の商品を欲しがるのか。その嫌悪は至極当然だった。だが二人はそう思ってもおらず。
「いいものはいいんだよ、セリカちゃん」
「あいつらは気に入らねえが、あいつらの作る物は広く流通するだけに相応しい性能は持ってるからな。とはいえ金を落とすにしてはまあまあ嫌な相手なのも確かだ」
むしろ評価している側であった。
作業用のゴリアテは最近出た新製品であるが、何のことはない。武装を全て取り払って装甲材質などを簡略化し、作業用のアームなどに変更しただけのもの。
まぁつまるところ、アビドス砂漠に配備される戦闘用メカの簡易生産型など、信頼性という一点においては文句が無いわけだ。よく動き、頑丈で、構造も単純。それは機械としては評価して当然だ。
実際売り上げは伸びているらしい。まぁそこに付随して何をしているのかは不明だが。
「……自作しよっかな。どう思います? 先輩」
「え? あー、まぁ自作する分にゃいいが、設計図なんざうちにはないぞ。基本構造を自力で立ち上げるくらいなら買った方が──」
「そんなのだったら別に売り物する訳でもないんだし、バラしてパクっちゃえばよくない?」
「リバースエンジニアリングするにしても、元が必要だよ」
「結局手本が無いからどうしようもない。ハックして抜いてもいいけど、そうまでするもんでもねーし」
あれば便利だが、さりとてそんな欲しいものでもない。結局維持とか色々あるし。
だから強いて言えば、程度の話だ。
「そういえば先輩って、アウトドア派とインドア派どっちなんですか?」
「あ、それ私も気になってた」
「ん? まぁ……インドア派だと思うケド? 急にどうしたよ」
後輩二人の疑問にわざわざそんなことを聞くか疑問を感じながら答えると、思わぬ指摘が飛んできた。
「ほら、シロコ先輩に付き合ってあちこち行ったり、バイクでどっか行ったりしてるじゃない」
「なんだそんなことか。シロコとバイクは例外だ。俺は普段からあんまり外に出る気が無いよ。日がな一日機械弄ってたいし、気が向いたら飯作ってたい」
「先輩やたら美味しいご飯作りますもんね。前にヘリ買った時、調整二人でやってた時の夜食妙に美味しくって」
「やたらは余計だやたらは。なんかあっても食わせてやらんぞ」
人は見かけによらないとでも言いたいのかと抗議すると、そんなことを欠片も聞いたことない猫ちゃんも抗議するように声を上げた。
「え、私先輩が作ったご飯食べたことないけど」
「今度食うか?」
「食べる」
「何がいい」
「自信あるの」
「じゃパスタだ。トマトソースパスタ」
「シンプルにくるんだ。もっとこう、凝ったものかと」
「凝ったもんは専門家に任せりゃいい。こっちは趣味でやってんだぞ」
「趣味だからこそ凝るんじゃないの?」
「凝るにしたって方向性があんじゃろて」
別にライナは美食研究とかしたいわけではない。ただ頭の中にあるものと実際にできたもの、そして食って見えた不足を補う為に料理本読んだり試行錯誤してたらそれなりに料理できるようになっただけだ。
「お店でお金取れるくらいのものとかできたりしない?」
「できない。俺が食いたいものを好きな味になるように作ってるだけだ、プロ意識に欠けるよ。それに料理の商売は理詰め、マニアであることを許さない。わかるだろ?」
「うっ、大将もいいものだから売れるとは限らないって言ってたし、仕入れコストだの考えると難しいわね……」
「他所の機械直してチマチマ稼いでもいいけどサ、うちに持ってくるまでに砂嵐にやられかねんし」
「出張はどう?」
「無理。知名度が無い」
「それに出張費用も乗るから安く多くっていうのも難しいよ。流石に諦めるしかないって、ね? セリカちゃん」
何か事業を立ち上げるのは無理そうだと理解したのが、ガックリと項垂れるセリカ。そんな彼女に苦笑しつつ、そもそもこの人出てく気ほとんどないじゃんとアヤネは思う。
ライナは優しい──訳ではない。むしろ熾烈で過激。はっきり言って褒められた人柄ではない。
アビドスの悪魔などと呼ばれていたのもそうだし、もう一人であるアイもそうだった。わかりやすく見える事実だ。自分たちだってアビドス生だから良くしてもらっていただけで、優しさの対象でなければ今彼を知る多くの生徒たちと同じように、『会えば仲良くはするがプライベートに踏み込む気も、踏み込ませる気もない』相手に過ぎなかったはずだ。
因果なものだ。
「ただいま〜」
「ホシノ? えらい早いな」
「や、お仕事中だよー。先生が少しうちの様子見たいってさ」
ふらりと戻ってきたホシノ。
その傍には先生の姿が見える。常にハードなスケジュールをこなしている彼だが、ここ最近はとりわけ疲れて見えた。
"や、みんな"
"元気そうでなによりだよ"
「先生、どうしたのよ」
「何かありましたか?」
"別に大したことじゃないんだけどね"
"こうして方々に見回りできるくらいには、落ち着いてきたよ"
まぁほとんど建前だ。
実際にはシロコ*テラーの捜索も兼ねている。いるならアビドスだろうとは目星は付けているものの、進展はない。
ちなみに探されている本人は普通に逞しく暮らしている。
"そういえばライナ"
"返事してあげたの?"
「あっ、いや、まだっス」
「先輩、先生にまで迷惑かけたの? 先生、大真面目にこの人の自分で導き出さないといけない問題に付き合わなくていいんだからね」
"何もそこまで言わなくても"
「いーや、先生はわかってないわ! ライナ先輩はこういう時死ぬほどめんどくさいのよ!」
真剣に悩んでいるのだからと先生も答えた。愛を探そうとして見つからないのならば、愛だと感じられる自分の行動を探してみてはどうかと。
しかしそうする時点でそれが答えなんてのは、そんなもん誰だってわかっている訳であって。茶番で時間を稼いでいるようにしか見えないが、しかし本人にとってそれは大切な事であると理解するが故に、対策委員会はシンプルに要らん煩悶を抱くハメになっていた。
「もうあんまり考えずに付き合っていく中で自分の恋愛感情見つけてきたら? それでいいじゃん。ライナは難しく考え過ぎ。そのままだとシロコちゃんずっと待たせることになるよ」
「そ、そうはならないと思うよ!?」
「なったらボコるから」
「ハイ」
「──ていうか、そういう態度がもう受け入れる気があるってことの証明でしょ。何を地団駄踏んでんのさ」
「だーからその理由だよ理由。下卑た感情かもしれんだろ」
「はぁ。もういい。本当にバカなんだから……」
暖簾に腕押しとはこの事だろうか。
お前なら不足は無いし安心して任せられるのにという態度を隠そうとしていないし、それは伝わっている。本人たちの間でも本当にそれでいいのか? とは思うが何よりもシロコが選んだのだしととやかく言うつもりもない。いくら性格の問題とはいえ背中を押してるんだから大人しく押されて欲しいとも思う。
長い付き合いだから、普段のホシノらしからぬ粗雑な言い方にもなるし、冷めた視線まで向けてしまう。そう、かつてのように。
「あ、アヤネ。俺は何か間違ったことをしてるのか……?」
「間違った事は一切してませんけど出力がおかしいです」
「出力が……? いや、でも相手に対して誠実であろうとするのは正しいよな? じゃあ、うん? あれ? 何が真実で、何が間違いなんだ?」
勝手に自分から迷宮に入り込んでいく姿はいっそ笑えてもくるものだが、余計に甘やかしてはいけないよとホシノは無言の抗議をアヤネにぶつける。あはは、と苦笑するしかないがこればっかりは横から見ていたセリカもホシノに同意だ。だって眼前のボケナスは甘やかすと途端にこれだし、それも既に反応から想像が付くのだから徹底的に突き放さないといかんだろうと。
"一応、聞きたいんだけどさ"
"言い訳じゃないよね?"
「言い訳? 彼女の言葉を聞いていた俺にそんな事を聞きますか。擦れ違うなんてごめんです。だからこうしてシロコへの愛を探しているんですよ。俺の中に一欠片でもなければ、あんたじゃなくて俺を選んでくれた彼女の愛に報いることなんて──」
"ええっと、ごめん"
"ほら、あるじゃん。キープとか。そういうのじゃないよねってだけで"
「へ? あぁ、そういうキープかどうかですか。ナイナイ。だって俺ですよ」
"でもリンとは仲良さそうに見えるけど"
「ギョーセーカン殿とは単なるビジネスパートナーくらいの仲ですよ」
"ちょっと前に一緒にご飯食べてたよね"
"しかもわざわざリンがよく食べる奴買ってきて"
「騒動の前の話でしょそれ……しかもあれは暇してた俺がパシられてただけだし」
「ん、詳しく聞きたい」
「うわぁ面倒な犬が来ちゃったじゃねぇか!」
ヒョイと顔を後ろから出してわざとらしく嫉妬心を隠さないまま、シロコが乱入してきた。元々ライナは口も悪けりゃ態度も悪い。緩んでいる時に昔みたいな接し方をされたら当然に昔のような言葉が出る。
──それが告白の返事を保留している状況でもだ。
「面倒な犬……酷い」
「あっ、いや、そうじゃなくって」
「ライナはやっぱり私のこと嫌いなんだ」
「違うぞ!」
「じゃあ好き?」
「わかんない!」
「そっか。早くわかって?」
「……が、頑張る……」
あっという間に手玉に取り、あっという間に望む返答を引き出す。蠱惑的に微笑む訳でもなく、ただ軽く意地悪なことを言うだけ。それを見ていたセリカが微妙な顔をするのも当然だろう。だって自分を泣き落とすというか口説き落とす時にやってくる手口だから。
つまりライナはセリカと大差無い性格と言えるわけだ。ちょっとそこら辺引っかかる。自分はあれほど面倒臭くはないだろう…….多分。
「それでまだ付き合えてないんですか……」
「の、ノノミ。聞いてくれよ。俺さ、頑張ってるんだよ」
「知ってますよ。でも見つからないんでしょう?」
「うん」
「……諦めませんか?」
「誠実さが無いと思うんだ」
「気持ちはわかりますけどそれで辛いのはシロコちゃんですよ。見てください、まだ正式に付き合ってないのに彼女みたいなムーブすることに── 痛いっ! シロコちゃんごめんなさい! だから脛蹴らないでくださいっ!」
珍しくノノミが失言をし、シロコは無言で脛を蹴り出した。こんな珍光景を見れるのは、この男があまりにも愚かだからであり、そしてあまりにも誠実であろうとするからである。
「ノノミちゃんの珍しい失言はさておき。こーなったらライナが久しぶりにご飯作って機嫌取らなきゃじゃない? ほら見て、あのシロコちゃんの拗ねてますよって顔。ムスッとしてて可愛いよね」
「ん、ライナは私にご飯を作るべき」
「いやだよめんどくさい……」
「私にはいいのになんでシロコ先輩にはめんどくさいのよ」
「ん! ん! セリカだけズルい!」
「あだっ!? 脛を蹴るな脛を!」
「人のお尻は見る癖に! ジャージの胸元開けてたらチラチラ見てきた癖に!」
「おまっ」
何故自分にはめんどくさいとか言うのか。シロコだって流石に怒る。だから昔みたいに口論になって、ライン超えの発言が出ても仕方ない。
「──ライナ? 話、聞こうか」
「──ライナさん? 話を聞かせてください⭐︎」
そう、ライン超えの発言によって呼び覚まされた二柱が出てきてしまっても……
ズルズルと引き摺られていくライナの姿。シロコはうっかり言ってしまったことを結構後悔しながらも、これにかこつけてご飯は作ってもらおうと決めた。
「なにこれ」
「何を見せられてるんだろうね」
「みんな失言ばっかりしてる」
"ポロッと出た言葉って怖いよね"
"この前そんな調子じゃ襲われちゃうよとか言われたけど……実感無いんだよね正直"
"よくわからないけど私も気を付けよ"
「いやちょっと先生、あんたもあんたで何言われてんのよ!?」
失言揃いのおバカさんたち。
まぁこれも日常というものだろう。
「──ライナくんはさ、ここが居場所になったかな? なってくれたら、私嬉しいな! そしてホシノちゃんと一緒に──」
「私を殺したこの世界を、壊しちゃおう」
「君の怒りのままに母の首を落として、君の憎しみのままに兄の両目を抉り出して、君をわからない者からの苦痛の毒に嘆きながら秘密の名前を吐き出して」
「そして、全てを呑み込むの」
「……あり得ない」
「ユメ先輩がそんなことを望むわけがない。なら望むのは当然……」
「……それだけか? あの人とホシノを苦しめるこの現実だけなのか? けどあの日、八つ当たりを決意させたものでないなら、一体……」