青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
中々執筆に手をつける時間が確保できずこうなってしまいました
次からは流石にここまで遅くなることは…ないはずです
「……予定変更して破壊する羽目になるとはな」
「まさかシステムがオーバーライドされてたとはね。社長、そっちはどう?」
『……私たちが拠点にしてるところから一番離れてる十三番格納庫から一機、出撃した痕跡があるわ』
『航空戦力みたいですね。既に向かっているかもしれません。何か使えそうな奴漁りましょうか……?』
「いや、一機だけなら生身でも落とせるさ。ヒフミちゃんとムツキちゃんは?」
『終わったよー。いやまさか出撃するぞ! とか言ってたのに蜻蛉返りしてアマルナの遺産壊しに時間食われるとはね〜』
『万一に備えてってサボタージュとかをアズサちゃんから軽く習ってて正解でした。アイさん、どうしてこうもっと早くに動いてくれなかったんですかぁ』
「ボクだってまさか管理者権限をオーバーライドしてたとは想定してなかったんだよォ。ライナの権限はあってないようなモンなんだぜ? どうやってやりやがった」
「それにしても航空戦力で一機……オレは何を持って行ったのか」
「あの巨大武装列車でもなかったってところが引っかかるね。ところであれ、なんなの?」
「ん? ああ……列車の先頭車両に腕生やして敵陣を強行突破するって奴だよ。元はと言えばあれ補給列車だからさ。他にもぶっ壊した物の中には鉱山採掘車両を軍事転用したものとか、結構ローテクで堅実な奴とか敢えてアナクロな発想で作られてた奴もあるんだぜ」
「なんなのそれ」
『じゃああの腕の生えたエイみたいな奴はなんですか? アル様が持ち帰りたかったって言ってましたけど』
『は、ハルカ! それは言わなくていいわよ!』
『えっ!? で、でももしかしたらまた作ってもらえるから聞こうって言ってましたよね!?』
『それは言葉の綾って奴よー!』
「……ありゃあ旧アビドス領運河から直接敵拠点襲撃する為の強襲揚陸艦だよ。ああ見えて人員輸送が中心なんだぜ」
『……腕生えてるのに?』
「あの腕は崖よじ登る為にあんのよ」
『何考えて作ったのよそんなの』
「アマルナの遺産は深く考えねえ方がいいって。ガキの絵空事みたいなモン山ほどあっから」
『も、もしかして等身大ペロロ様ロボとか……?』
「ないない。作るにしても寸胴ボディに翼型のアームパーツと短小の足はな……いや、一応クローラー履かせりゃ行けるか? 発想としては似たようなモンがあったような気がするんだが……」
『なんで似たような発想あったんですか!?』
『ほらさ、あれじゃん? 割とバカ多そうだしみんなバカだったんじゃない? クーデターとかじゃなくて、みんな自分の好きにしたくって、その好きの枷になるもの全部ぶっ壊して、本当に好き勝手した。後ろ指刺されて危険視されてもってさ』
「……まぁ、いいさ。ほら急ぐよ。彼女が動いてる。何処へ集合するかはよくわからんから、トラップ一式はヤツが確認されてからだ」
『後手……歯がゆいですね』
「悟られないように動くにはこれしかなかった。向こうもわかってくれるさ」
『システムのオーバーライド……ねぇハルカ。確か、シャーレって連邦生徒会内の独立組織よね』
『ええ。それが、どうかしましたか?』
『……目を盗んだとか?』
『無理ですよ。先生が不在だとしても他の生徒さんいるじゃないですか』
『そうよねぇ。それにできたところで把握してなきゃなんにも意味ないし』
『あっ、そういえばライナさんってシャーレの補助員として何回か相談乗ってたり、行政官と仲良いって』
『それじゃないのよぉーっ!?』
「え? いやねーだろ。いくらアイツだってセキュリティを破る時間は無いぞ。そんな、どっかで暇してリンちゃんの権限で遊ん──」
「してるじゃねぇかクソ野郎がァッ!!」
「マージでアイツ一度死んだ方がいいんじゃねぇかな! あっ死ぬに死ねないし生きるに生きれませんでしたね! 存在するだけの影でした! はーっ、やってらんね! ボクがアレなの嫌なんだけど! 何が黎明の王だの父祖なる黎明だよ、アイドルの名前なんぞ誇るなっての!」
『お気持ち、わかります。不甲斐ない自分は嫌ですよね。難いですよね。殺したいですよね。……んん?』
『もしかしてご自身が分裂してしまったという環境、良い事であったけど実際にはあんまり良くないのでは……?』
『どうしてよハルカちゃん』
『だって想像してください室長。殺していいんですよ? この世で最も醜く腐臭を放ち汚物に集る蛆虫である自分を、一切の遠慮なく殺していいんですよ? どうせ死んでも平気なんですから』
『……あー……あー……まぁ、なに。その表現はさておいてさ。ええと、それでライナっちでしょ? アビドスの悪魔でしょ? うわぁ、考えたくない。面倒臭いのはわかってるけどさ』
『とにかく仮に策が成功してもまだまだ色々ありそうですね。あはは……はぁ』
「好き勝手言われてるけど?」
「いいよ事実だし。死んだ方がいいし、めんどくさいし、醜いし」
「見てくれはいいけどね」
「ホント、見てくれだけはな。性格は終わってる」
死の神と神なる黎明が向き合う。
お互いにジャンルが微妙に異なる格好をして。
黒いドレスの少女と、黒いマントの少年。青春の物語からかけ離れた姿を被る二人は、まるで前世からの宿敵のように視線を交わした。
「で、何その格好。前と違うけど」
……あ、やっぱりそこ突っ込むんだと。
ちょっと思ってしまったが、しかし重要なことを言っていた。
──以前と違う。それはあちらのレグナとこちらのレグナには明確に違いがあるということ。見えないところだけではない、見えるところも違っているということだ。
「どいつもこいつもオレの格好に文句を言う。オレもうんざりだ。もっとマシな格好がよかった。なんでライナの外套を着れないんだ」
まぁ、本人も本人で気にしているようだが。
苛立った様子を隠すことなく、そう吐き捨てる。レグナ、その発言と能力に覆い隠されているが、裸同然の自分の服装を嘆いたり、そのことを言われると気にしたり、案外中身は普通寄りなのかもしれない。
いや悪逆非道なのは事実だが。ライナのダメなところを煮詰めて数百倍まで濃くしたような奴なのだが。
「着替えたら?」
「服を着たままでこうなったのだ。キサマだって変に色気付いた生娘のような格好をしおってからに」
「ん。こっちも自由に選んだわけじゃない。イメ損変態露出狂なのにセクハラまでするんだ」
「……売り言葉に買い言葉、という至言を知らんと見える」
仲が良いやら悪いやら。不倶戴天の敵というわけではないが、しかしシロコ*テラーは受け入れるのも難しいであろう相手。
まあ言いたいことが山ほどあって当然だろう。彼女にとってそれは異なるレグナであっても、今まさに大切な人たちの全てを引き裂こうとする悪魔を超えた悪魔なのだから。
それが珍妙な格好をしているのであれば、ここぞとばかりに好き勝手言いたくもなる。隙を晒す方が迂闊なのだ。
ジリッ、とお互いに足を動かして次の一手を考えた時。シロコ*テラーの表情が明確に驚愕に染まった。
「……!?」
「気付いたか」
「どういうこと」
「しくじった」
「やっぱりお前は──倒すべき敵だ!」
「倒してどうする。オレの肉体はライナの肉体、潰せば死ぬぞ。また殺すのか、砂狼シロコ」
その言葉に僅かに怯む。
何故も何も無い。恋焦がれた相手の真実を認められず、最悪のタイミングでやってきて、最悪の言葉を投げつけたからと衝動的に殺害したのだ。
それをまたするのか? ──挑発と分かっていても、気にするなと心掛けていても、シロコ*テラーにとってそういうものとして世界を殺し出す前に、恐怖でも無い自分の意思で犯した唯一の殺人。
やはり心の奥底には、癒え切らない傷としてあるのだ。
ただ、同時に奇妙でもあった。
何故このレグナはシロコ*テラーを名前で呼び、こちらのシロコはアヌビスと呼ぶのか。普通は逆だろうにと、彼女さえもそう思った。
と、なればどちらかはわからないがとにかく彼の側にシロコ*テラーを名前で呼ぶ理由があるのは確実だが。
その僅かな隙間、体勢を整えるにも使えないほんの小さな時間。それらを切り裂いたのはドタドタと雪崩れ込んでくるハイランダーの生徒たちだった。突入しながらチラリと彼女たちは対策委員会と先生へ視線を送る。
──感謝。
どんな形にせよ有言実行してみせていた訳だ。ならばそれが理想的でなかったとしても、十二分な行いだろう。
「お二人ともご無事ですかーっ!」
「もちろんー、プロなのでー」
「そっちは平気!?」
「はい、先生とアビドスの皆さんに助けていただいて!」
形成逆転とまではいかない筈だが、レグナにとってはあまり良い流れとは言えないようだ。その苦虫を噛み潰したような表情は、不利を悟った者特有の雰囲気もあった。正面戦闘でも勝ち目が見えないと判断したのか、その足が後退り──
「逃げられると思わないでね。お前はここで否定してやる」
「生きているべきじゃない。生まれるべきじゃなかったんだ」
「やむを得んな」
マシンが轟音と共に庁舎を破壊して降り立つ。それはパワーローダーにも似て、しかし明確に異なる機体。
ボロボロになったアビドスの校章が刻まれたそれが、アマルナの遺産であることなど簡単に理解できた。
比較的細身でいかにもスマートで無駄のない戦闘用の人型機動兵器。しかし武装は少ない。手持ちの武器もほとんどなく、とりあえずの数合わせで呼び出した物としか思えない。
だが、その奥。
破壊された天井の先に見える空に浮かぶ異質な物。無数の推進器やウィング、大型スタビライザーを装備した機械の怪鳥。もはや子供が好物をひたすらに盛り付けたラーメンのような派手さは、その滅茶苦茶な風貌と相まって、その機体設計者の過剰なまでの憤怒と憎悪さえ感じられる。
この二機、どうやってここへ来たかなど想像は簡単に付く。アヤネとアロナは同じ結論に、同時に辿り着いた。
((スマホの電源入れっぱなしで私たちが追えたのはその為──!))
そもそも追わせていたのだから、追えて当然なのだ。初めからこの二機を手配する為に付けっぱなしだった。
そしてこの二機、アマルナの遺産であるならばその制御を何処で手に入れたのかなど、唯一レグナが場を外していたタイミングでしか考えられない。
──シャーレに行っていたタイミング。
あの時、なんらかの方法で……いや、恐らくは生きていた機材とスマホを繋ぎそのままシャーレの権限を使って独立していたアマルナ側のコントロール権をオーバーライドしたのだ。
ライナとしての経験・知識・記憶も参照できるなら緊急時のアクセス権なども当然に理解している上に元々アヤネが来るまでやっていた裏方の情報収集能力などがある。出来ないと考えることは無駄だろう。
「さてオマエはどうする? アマルナで墓荒らしをすればこんなモノが山のように手に入るかも知れんぞ。まぁ来るなら来い。つまらん愚物と踊るのは趣味ではないが」
プレジデントの野心をくすぐる言葉を告げているが、言われている本人は意外にも冷静に受け止めて──いや、固まっている。
「……なんだ、これは……? いや、何故、なんだ……? 何が……」
(精神、思考、行動の乖離。限界を迎えたか)
それは必然的な結末。
地下生活者の介入による思考の固定とレグナに由来する感情と精神の変貌、更に状況の変化で生じた空白で正気を取り戻せば一気に今までの行動の意味不明さを自覚せざるを得ない。そして自覚すれば……自らと他者に捻じ曲げられた自らの境界線が無くなり、やがてはそれが本当に自分なのかさえあやふやになる。
……レグナは、それをよく知っている。
「証が欲しければ追ってこい。その果てにシェマタの前で命を捧げよ。王の名を冠する者の主たらんとすれば、必然相応しい贄を用立てるのが道理というもの」
再び奇妙な、鈍く切り裂かれるような音と共に空間圧縮を利用した移動でその機械仕掛けの怪鳥に飛び乗るレグナ。
「ああ、やっぱり事前計算を済ませておくと便利だなコレ」
そんなボヤきが聞こえたと同時に細身の兵器も怪鳥に装備されていたハンガーにぶら下がり、飛び去っていく。
「ねぇヒカリ。あの音」
「山盛りのプラズマジェットエンジン、それも高性能モデル。間違いないよー」
「どっからそんなもん持ってきたってのよ……ミレニアム製にしたって数揃え過ぎでしょ。監督官、ちょっと──」
ノゾミが声をかけようとした瞬間のことだった。突然ホシノとスオウの雰囲気が豹変する。共通の敵に対して過剰な憎悪ではなく、眼前の存在に対しての過剰な憎悪。最も忌むべき矛先を失えば、次に忌むべき矛先となるは道理。されどその豹変ぶりは奇妙を超えた何か。──まるでもう一つ最も忌むべき矛先があるかのようだ。
「ダメだ。滅ぼすんだ。生きていてはいけないんだ。お前もだ小鳥遊ホシノ」
「……なに? 気でも狂った? ああ初めから正気じゃなかったね」
「そうだ。お前も私も狂っている。間違えているのは世界の方だ。だから壊さなければならない」
「今更何しに来たの? 忙しいから死ぬなら勝手に死んでくれない?」
「今更? あんたがそれを言うのか。今更復讐を企てているあんたが」
「……じゃあ君は何? 今更ライバル面してるポッと出の部外者の君」
入り混じる誰かの憎悪と自分の憎悪。もはや正当性の欠片もなく、ただ適当な言葉と理由で訳のわからない憤怒のまま、無我夢中に、阿鼻叫喚の地獄を求めて、支離滅裂に破壊を撒き散らす。
その表情はホシノの物ではない。奈落のような虚無の中に絶望を纏い、そして憎悪に視線を曇らせたそれは小鳥遊ホシノという概念が決して宿さないものだ。
もちろんスオウの表情もまた彼女本来のものではない。隠し切れない憤怒に支配され、その個我と呼べる物が一欠片も見当たらない。
影響を受けたとか共鳴とかそういう言葉で済まされないそれを、シロコ*テラーは静かに見つめる。『それ』とよく似た『汚染』を、知っているから。この場でそれが何かわかるのは、自分ともう一人くらいだろう。ならばその手の事に慣れている者として成すべきを成すだけだ。
「奴も、あんたも、殺す」
「やってみろ。負け犬」
二人は弾かれたように飛び出す。
何処か共通した目的地──十中八九レグナの元へ向かっているのだろう。すぐに追うことになる前に、シロコ*テラーは対策委員会を制止した。
「待った。今の二人には言葉が通じないよ。ホシノ先輩と、あの眼帯の子はあいつと同調してる。最優先があいつの排除になってる」
「どうしてわかるんですか?」
「あの時に感じた物と同じ感覚があった。それだけじゃない。他にも……私の見立てって付くけどあれは楔や呪いに近い。それが正しいなら元凶を排除する以外に解決法が無い。だから今のところはあいつをどうにかするのが先決かな」
アヤネの言葉に端的に答えつつ、自分の見立てを語りまず目的を統一する。先生が何も言ってこない辺り、シッテムの箱側にも何かがあったのだろうとは推測するがここで話す訳にもいかない。まだプレジデントがいるのだ。
"……あなたたちはどうする"
「手を、引く……が、代わりに答えろ。あの少年──あれは、なんだ」
だからこそ先生は見逃してやるからさっさと去れと言わんばかりに言葉を投げるが、代わりにプレジデントは彼らが持っていない単純な真実の説明を要求した。
だからと言って素直に答える訳もなく、どうせ黒服由来だろうと思いながらとりあえず聞いてみる。
"素朴な疑問だけど"
"何故彼の逆鱗に触れていたんだ"
「黒服が残していた資料。何故か紙の形で保管されていたそれを読み、理解した気になっていた。完全者であると指摘すれば無力化はできるだろう、などと記載されていた」
"……それは言うだけで無力化する言葉でも、黙らせる言葉でもない"
"彼らの逆鱗に触れて、殺してくださいと言っているようなものだ"
……あまりにも悍ましいやり口だ。
マエストロが言っていたことを合わせて考えれば、黒服はわかってトラップを仕掛けていたのだろう。愚かにも踏み込んで、愚かにも野心を見せれば、ライナの禁忌に触れさせられて確実に死ぬ。古き技を使い、古き力を振るう存在に意識外から強襲されるなど、余程の存在でもない限り対応できない。
現にレグナが現れて、これだ。余程の存在である筈のアロナですら手出しができない。黒のヘカによる押さえ付けは、シッテムの箱がもたらす障壁を貫通していたのだから。
「……身に染みた。あれは、黒服でなければ」
"いいや、黒服ですら制御できない"
"彼を縛れる物は、このキヴォトスには存在しない"
"全て、諦めてもらおう"
まぁ、野心を見せようとしているならやることはただ一つだ。
さっさと手を引け。見逃してやるから関わるな下郎。それだけである。
"手を引く、ああわかった"
"だが何処までだ"
"シェマタに纏わるこの一連の騒動か"
"それとも単にこの場だけか"
"身に染みた、と言っていたね"
"本当に身に染みたなら"
"愚かな野心は捨てることだよ"
「わかっている。──この件そのものから手を引くとも。懲り懲りだ。ジェネラル、大丈夫かね」
「……申し訳ございません」
「構わん。今回は全面的に不覚を取った。……君もそうだろう? 彼らのように、己の意とは異なる己の意があった筈だ。私ですらそうなのだからな。この場にいる者全て、正気があった試しが無い」
ヒラヒラと手を振りながらジェネラルに撤退を指示すると、ゾロゾロと引き上げていくPMC兵士。まるで敗残兵だがその通り。実際に何もできず、何も得られなかった訳なのだから。とはいえ負け犬だろうとも遠吠えくらいはするものだ。
「君たちは胸を張って言えるのかね。それは自分の意志かと」
プレジデントの言葉は確かに負け惜しみだ。遠吠えだ。しかしこの場においては誰しもがそうと言えない状況であるが故に刃となる。だが、そんなことは彼らにとって知ったことではない。
"言えない"
"けど過ちを犯すことはない"
"この場にいる最強の味方が"
"その前に私たちを止める"
正気でない自分たちなど、シロコ*テラーの前に立った時点で負けるというものだ。
「──そうか。ふん」
吐き捨てるように呟いたそれを最後に、彼らは去っていく。罠を仕掛ける様子もなく、ましてや裏で備えてといった野心もなく。カイザーはこの件から完全に手を引いたとわかるほどに。不本意な形で首を突っ込んで、不本意な形で損害を受けたのだ。そりゃあそうだろう。
アロナが調べて盗聴器もなかった辺り、無理矢理に用意された役者ということか。
「執事さん」
「……お嬢様……その、なんと言えばいいのか。いえ、何を言っても言い訳にしかならないのも事実なのですが……」
ノノミが何処か話したそうな執事に声をかける。その様子は明らかに自分の矛盾に気が付いた者特有の反応だったが故に、そこまで警戒はしなくても良さそうではあった。元より戦力の大半を失い、更にはハイランダーに半ば離反されている状況だ。やれることはないだろう。
「何か、考えがそこから離れなかったとかですか?」
「はい。お恥ずかしながらあなたへ行った無礼な仕打ちも、そのようにするのが正解だとそれ以外考えられなかったのが近いと申しますか。あの時は怒りと憎しみに身を任せる以外選ぶ理由が見当たらなかったと申しますか……」
"それで、何の用ですか"
"こちらとしては如何なる理由を述べられても"
"厳しい視線を向けざるを得ない"
言い訳は良いから本題に入れ。先生が冷たく割り込む。
結局、いくらここまでの凶行が意図せぬものであったとしても、その初手となったシェマタの発見と利用に関しては元よりの野心。先生が冷たく接するのも無理は無い。
「謝罪……にもなりません。虫の良い話ともわかっている。しかし今あの男を止められるのは──あなたたちしかいない」
そんなことは百も承知。だから執事は恥も外聞も無く覗き見していた情報と、自分が持っている情報を明け透けに伝える。
「少し彼らの端末を見ていました。シェマタはアビドス砂漠閉鎖地区セクター35-9……生徒会の谷から480kmほど離れた岩石砂漠地帯にあると思われます。そこに行くにはあのゴールドカードが必要なのです。中継地点となる駅で管理者権限を使えば、生徒会の谷へ向かう分岐駅となるのです」
──セクター35-9。
彼女らがよく知るセクター64付近とは大きく離れている。それどころか普段用もなければ行くはずもない場所だ。
「彼が何かしらを企んでいるなら、彼女たちが使えるようにしているでしょう。本数は少なくとも行くための列車がある。しかし所詮線路です。他所から持って来ればいくらでも足せるし、繋げることもできる」
「もちろんするよー。やられっぱなしは嫌だしー」
「パヒャッ、反撃開始じゃん?」
ヒカリとノゾミが反撃に声を上げて賛成する。もはやハイランダーの総意はただ一つ。喧嘩上等、あの変態不審者をぶちのめせ、だ。やられっぱなしで終われる訳がない。
「正直を申しますと、今冷静に考えてなぜあれに執着していたか全くわからないのです。手にしたところで、動いたところで、維持や警戒を考えればすぐに潰されてもおかしくない」
「……不思議な感覚なんです。自分たちの考えである筈なのにそれが何処か他人事のように思えて──本来目について然るべきところが全く目につかない。それどころか楽観的な考えばかり浮かんで採用して、少しも安定させようということがなかった。我々も、何故ここまでこの件に……?」
「ましてやカイザーなんぞ引っ張ったら滅茶苦茶になるのは目に見えているだろうに」
各々吐き出す自身ならざる自身による凶行への困惑。共鳴、干渉、様々な理由……蓋を開ければ簡単に振り返れるのに、何故と。
「先生だっけ? 行くならウチらの列車使いなよ。どーせみんな元々そのつもりでしょ?」
「はい、こんなこともあろうかと先程の話を聞いた時点で用意はしてありますよ」
「おー、えりーと仕草〜。すばらし〜」
「ただ流石に路線変更はせざるを得ないですけどね」
紆余曲折ではあるが、手を取った相手は完全にやる気だ。
──ならば。
「ん。みんな、よろしく」
「なんだか不思議よね。私たちって毎回敵と手を取って更なる敵と戦ってる気がするわ」
「そうだね。気付けば大体のっぴきならない状況になって、手を取って最大の敵を……って毎回やってる気がする」
「うーん大体大きな問題が差し迫ってますから……まぁみんなでやればきっと上手く行きますよ」
「ん……列車の中で情報の整理をしよう。あいつの──ライナのことも含めて」
"ハイランダーのみんな、よろしく頼むよ"
やるべきことに、真っ直ぐに。