青い春に馴染めない黝の星 作:うへうへ学生
バルカン砲が火を吹く。
対人用装備だったのか、カンカンと音を立てて武装列車に弾かれていく。小口径なら気にする理由はなくなった。
「バルカンは私たちだけ! 列車に影響無し!」
「ありがとうセリカちゃん! ──聞こえましたか!? バルカンは気にしないで!」
白と黒のARが弾を吐き出す。青白いバリアに阻まれるが、それはもちろんわかってのこと。確認するのはその効果。
(──電磁バリアは弾丸を物理的に止めている。その動力源は機体各所にあるジェネレーター)
「シロコちゃん、任せてください!」
「ん、カバーに入る!」
「支援するよ、ノノミ。私も行く」
物理的に止めているならば、止める限界というものがある。それを確かめるならば連続発射の暴力でさっさと見てしまうのがいいだろう。アビドスが露払いをし、ハイランダーが火力を集中させる。この布陣で行けばそう苦労はしない相手だが。
ノノミとシロコ*テラー、二人のガトリングがバリアを減衰させていく。
(結構小さい。そして発光部位から考えるに、ジェネレーターの数もそんなに無い。多分これは、飛行中の軽い防壁。正面戦闘は想定していない。明らかに蹂躙用の機体。なんでそんなものを──)
その程度、しかし何故そんなものを投げ付けてきたのか。自分たちを倒すならもっと適した──いや爆撃すればそれで終わりなのに。
もっと言うならば時間なんか稼ぐ理由が無い。勝つ方法はいくらでもある。けどそれをしていない。つまりこういう状況が望みなのははっきりしているのだが、問題はレグナの望みが未だはっきりしないことだ。とにかく前に進むしかないのに、その先にある物の輪郭が一切掴めない。
「──無視ができない、降りちゃいけない、ここで落とすしかない。だから私たちの選択肢が一つしか無い。ライナがやってきた手。また一つ根拠が増えた」
「トラップだらけの建物に呼び出されたことある?」
「あるよ。そっちも?」
「うん。同じだ。大人気ないし、割と冷めることしてくるよね。ライナって」
姿勢制御と並走にスラスターを割いている都合、スメンクカーラーは本来の性能を一切発揮していない。しかしその本来の性能がこちらを一瞬で壊滅せしめるものであるが故に、舐めた配置をしたここで潰さなければならない。それが最も厄介な点だ。
相手の策に乗らなければ、相手がちらつかせる勝ち筋にしがみ付かねば、急に冷めて振り落とすかもしれないからと。
「あれは──多目的ランチャー!? 弾頭、ミサイルです!」
キュイ、と音を立てて起き上がる蜂の巣のような部位。
多目的ランチャー、ロケットとミサイルの使い分けが可能なとんでもない代物。その内、先ほど使い切ったロケットではなくフル装填されたミサイルが列車に向けられている。
"ジャミングドローン!"
"窓から出して停滞!"
"列車速度維持!"
"撃ち漏らすかもしれない! 迎撃を!"
当然、それらは絶対に受けてはいけない。都市中枢への強襲を目的とした機体の火力、心臓を一飲みする蛇にも等しい。弾頭から考えればそこまで威力は無いと思われても、だ。それらが武装列車を一両屠ってなお余りある威力を秘めているのは明白である。
列車の窓からジャミングドローンが当然の摂理に従って流れていく。列車が移動してもこれらは停滞するのだから。そして妨害電波が出ているともなれば、無人機は当然の判断として真っ先にそれを潰しにかかる。自らの牙を最も鈍らせる、最悪の鞘なのだから。
それが隙として生じるのは、想定済み。いいや──待ち望んでいた。絶対に目の前の敵から全てを逸らす、その瞬間を。
ミサイルが全て後ろへと流れていく。いや、全てでは無い。何発か残っている。だがランチャーが発射態勢になった時、バリアから物理的には逸脱するのはわかっていた。
「狙います!」
下から受け取ったロケットランチャーを構えて、アヤネが既に攻撃を仕掛けていた。確かに後衛どころか後方支援の彼女、手持ち無沙汰であったが別段その実力が大きく不足しているということはない。確かに前衛からすれば何故前に出るのかと言われるくらいの差はあれども、こういった場ではそれで十分なのだ。
できないことができる、後少しを埋めることができるのだから。
"数で押し切る!"
"ハイランダーの戦闘員は火力支援を!"
ロケット弾がランチャーに直撃し、巻き込んで炸裂する。電磁バリアは確かに弾丸を防ぐが、大量かつピンポイントの爆発を受けてまともに耐えられる訳がない。
大きく揺らぐことを見越していた先生が、ハイランダーの支援を既に呼んでいる。
「プロテクションドローン展開!」
「火力支援機も随伴させます!」
「ん、私たちも」
「ドローン、起動……!」
守り、そして火力。
万全の布陣、それを超えられるとすれば余程の力だけだ。機械である以上、そこまではできるはずが──
轟音。そして閃光。
攻撃に晒される中でスタビライザーと思われていたものが変形し、攻撃を放った。だがその正体がわからない。レーザーにも似た特徴のそれは、一瞬でドローンのほとんどを破壊、あるいは墜落させ、それだけでなくドローンの近くにいた生徒たちは銃を落とすほどの苦痛を、そうでなくても痺れと痛みをほぼ全員に与えていた。
「レーザー……いやあれは電気です」
アロナの乾いた声が嫌に耳に響いた。
その詳細データに目を落とした先生も、思わず苦虫を噛み潰した声で吐き捨てる。
"エレクトリカルカノン……装甲を無視して直接内部を焼き壊す為の武装"
"……そして搭乗員すらも焼き殺す"
無人機から有人機まで、電子機能を持たない場所がほとんどない現代で使うにはあまりにも凶悪な武装。金属を使っているなら絶対的な破壊力を示し、蹂躙兵装としてはこれが凄まじい性能を誇ることを、誰しもが認めていた。
「優先して攻撃しますね!」
ノノミが即座に弾丸を叩き込み出す。電気攻撃に関しては絶対に破壊しなくてはならない。効果があまりなかったとしても、連打し続ければ運転を担当している残りの搭乗員たちが焼き殺されかねないのだから。ヘイローはそう簡単に砕けないが、無人機には節約を考えて無力化を優先するなんて思考は無い。
死ぬまで撃てば死ぬ。バカのやり方だが、それで死ぬのだからたまったものではない。
「ああもう! なんたってアマルナはそう物騒なもんしか作らないのよ!」
「それだけキヴォトス転覆を本気で狙っていたということじゃないかなっ」
「常識じゃ測れないと思います!」
詳しいことはわからないが、しかしこのスメンクカーラーの存在とその装備だけで十分にわかる。アマルナの創設者は、本当にキヴォトスの全てを破壊しようとしていたのだ。誰も信用することなく、自らの憤怒と憎悪を分け与えた化身を並べ立て世界を粉砕する。込められた呪いは果てしない。だが明日を求めた心だけは見える。故に悍ましく、しかし美しささえある。
スメンクカーラーは巨体だ。各部のスラスターを使って細かく移動しようにも、そもそもが大き過ぎて細かい攻撃までバリアが拾ってしまう。本来なら避けられるはずの、どうでもいい小粒さえも許容限界に近づけていく。数を増やして層を厚くする、スメンクカーラーの目的や性能に対しては適切な一手。そして常に攻撃をし続ければ、それら強力な兵装の照準もあまり正確にできない。対人用バルカンを撒くくらいしか有効打がない。だから耐えながら真正面から撃つという、キヴォトス的にも中々豪胆な戦法で競り勝つことが要求される。
まぁ、向こうにまともな攻撃をさせなければいいということ。それが攻撃と繋がっているならば、自然と押し切る形になるのは必然だった。けたたましい音と閃光と共に、バリアが千切れる。
「バリアユニットの破壊を確認!」
"ヒカリ、ノゾミ!"
"外付けブースターを起動して!"
『りょーかい!』
『すごいから気を付けてね〜』
外付けされていた加速装置が起動して、スメンクカーラーを物理的に弾き飛ばしながら突き進む。先ほどの攻撃でバリアと目に見えた爆撃用装備は破壊した。ならば戦術を変えていい。
"絶対に相手はこの車両の後ろを取って滞空する!"
"元々時間稼ぎの為に飛んできてるんだ!"
"滞空までの減速は絶対的な隙になる!"
"そこが集中するべきタイミングだよ!"
全員で後部車両側に移り、追撃の為に加速するスメンクカーラーを迎撃するべく攻撃体勢で待ち構える。
光が束ねられながら、怪鳥が凄まじい速度で追いついてくる。
"軌道計算……位置設定……"
"一万二千、七千三百、三千八百……"
"次回攻撃位置、推定命中箇所──"
しかしそれだけ光っているなら諸々の計算でエレクトリカルカノンに命中させられる確率を大きく上昇させられるだけでなく、攻撃姿勢に移るまでの隙にも火力を集中させられる。その為に列車側の装備がしっかりと狙える位置関係を作っているのだから。
瞬時にデータが拡散し、各々が撃つべき場所を知る。
"攻撃、今っ! "
その怪鳥が巨体と認識するほんの手前、姿勢制御用スラスターが噴射するコンマ数秒前。攻撃命令が下り、一斉に火砲が轟く。必然、前傾姿勢から戻す関係でエレクトリカルカノンが集中的に攻撃に晒されて爆散する。目下最大の懸念は潰した──その刹那、上に飛んでから真正面へと移動し、ガコンと両手が握る武器が姿を表す。
単純明快なキャノン砲とは違う。シンプルな見た目のそれは、閃光を迸らせ空を切り裂き、音を遅らせて列車上部を食らい裂いて直線上の、回避が間に合わなかった生徒たちを蹴散らした。
「──!? 今のはレールガン!」
「まずい、受け止められても乱射されたら!」
シロコ*テラーならば真正面から耐えられるが、あの手の武器は連射もできる。そしてその威力が列車など簡単に破壊できるとわかった以上、耐える意味が無い。だがそれが武器ならば、破壊そのものは容易い。だから狙わなければならないのだが──
「なになになになに!?」
途端、セリカが身体を屈めて避けた。
先ほど放たれた謎の物体、細い線が横になって飛んできた。弾丸ではない……思考が纏まる前に後ろのクアッドマウントの一機が爆散した。機関砲でバリア破壊から本体へのダメージを担当していたものが吹き飛ばしたのは、奇妙な武装だった。
(ふ、浮遊爆雷……? いや、これ、なに? ワイヤーマイン?)
形跡や反応からデータを漁っていたアロナの思考が止まった。ワイヤーに数珠繋ぎにした浮遊爆雷。誰が何のために作ったのかわからない武器だが、奴はそれの浮遊機能を切ってクアッドマウントを確実に破壊する一手にしたのだ。突然横薙ぎに飛んでくるものがあれば屈んで避ける、本能的な反射。
(無人機にしてはすごく賢いですね──!)
まるで中に誰かいるようだが、訳のわからない存在だ。高性能AIというには妙ではあった。まるで途中からコントローラーを奪ったように、行動がより多彩になっている。現に細かい移動ではなく、斜めに機体を傾けて無理矢理にスラスターを吹かして固定。そうして『回避』という動作を行いながら、バルカンを運転席に撃ち込んでいるのだから。
レールガンを撃ち込もうとしない理由はわからないが──
"シロコ!"
"翼をもいで、地に降ろして!"
だがそうして多彩ならば、予想外の行動に出た時の対処も想像できる。人間のやるような行動ということは、だ。
二人のシロコが列車から飛び出して、スメンクカーラーにしがみつく。人間二人分の重量増加と訳のわからない特攻じみた行動は、スラスターの噴射ではなくプラズマジェットエンジンによる加速に切り替える。
だが加減速というものは一瞬でできるわけではない。ほんの僅かな隙、エンジンと本体の接続部に突き立てられたのは──バリスティックシールド。爆炎を上げ、機体が更に傾いて推力が低下する。それを補うために他のエンジンが稼働を始め、だがその前にシロコが傾いて千切れかかった部位から無事な右側へと飛び移る。
「これで──」
破壊だけなら銃弾を使うまでもない。
口でピンを抜き、手榴弾を噴射口に投げ込めば済む話だ。爆発を背に、機首部分に飛び移り、ライフルの銃口を胴体部分との隙間にねじ込んでマガジンに残っている分を全て吐き出す。装甲と装甲の隙間に弾丸を叩き込めば、この怪鳥であっても流石に無事には済まない。
「手を」
「ありがとう」
既に戻る体勢だったシロコ*テラーが、シロコの手を掴んで列車屋根に飛び移る。二人が戻り、全員の視線が炎に包まれる敵へと向けられる。
これでケリだ。爆炎を上げて崩れ落ち、後部へと流れていくスメンクカーラーの姿が決着を物語る。
『……とっても痛かった〜』
『対人用ってあんな痛いんだ……でも計器と操縦系は無事だよ。これで終わりな感じ?』
何気にバルカンをしこたま撃ち込まれるという激痛を味わってしまったが、橘姉妹の気の抜けた声が、全員の肩から力を──
金属と金属がぶつかる音。
後部車両だ。
「アンカー!?」
「何!? 何が列車に──」
見に行ったハイランダー生徒の声が驚愕に満ちて、そしてアロナがようやくスメンクカーラーともう一体の謎を理解した。
「──!? 先生! 細身の機体です! あの機体が仕掛けてきたんです!」
移動しながらアロナの切迫した声が先生の耳に届く。
「あの機体は──フライトユニットであるヌトをコアユニットであるゲブが纏った姿……っ、スメンクカーラーはゲブがヌトを装備した形態の名称……! システムユニットってそういうことだったんです!」
"ルートは一機だったのに二機に干渉!? どうやって!"
「アマルナ格納庫制御システムにバックドアからオーバーライドしてやったことが、システムユニット・スメンクカーラーの整備と調整だったんです! だからデータ上はスメンクカーラーという一つを扱っていることになっていて、実際に起きていたのはゲブとヌトの出撃準備!」
"くそっ、やられた!"
ゲブとヌト、二つが合体してスメンクカーラー。
つまり今さっき総力を尽くして落としたのはフライトユニットでありアーマーであるヌトに過ぎず、コアユニットであるゲブには目立ったダメージが入っていなかったわけだ。
流石にヌトが爆散したのは結構なダメージとなっていたようで、いくつかの装甲が剥がれ内部が露出している。シロコたちが張り付いて攻撃した胴体部分も、だ。
"コアユニットのゲブがフライトユニットのヌトを脱ぎ捨てた!"
"ゲブを撃破するんだ! これといった特殊兵装は無い!"
大急ぎでとりあえずの指示を出して、一瞬でケリを付ける方法を組み立て始める。それと同時に残っていたミサイル搭載のクアッドマウントが射抜かれる──レールガンだ。
残っていたプラズマジェットエンジンで追いすがり、胸部のアンカーを車両に刺してでもその目的を果たさんとする、まるで妄執の化身。
レールガンが充電を開始する。
その前に何とかしようと火力を集中させるしかない。有効打の想像が付かないのだから。今は一撃でゲームオーバーにせしめる腕の凶器を破壊することでしかどうしようもない。
時間が無い故にロクな狙いも付けられずに光る砲身へと弾丸が集中するが、それでも──
「先生、セリカならできる!」
叫んだ、シロコ*テラーは叫んだ。
その意を汲んだ先生は、迷いなくそれを選んだ。
"セリカ!"
「何よ!?」
"シロコがつけた傷を狙って!"
「──やってやるわ」
正直を言えば、セリカ自身狙撃が得意と思うわけではない。ただシロコやホシノと違い、一歩引いた位置を取ることが多いだけだ。彼女の性格上よくカッとなって前に行くだけで。
だから──技量で遥かに優れるシロコ*テラーにとっても、こういう時に一番できる人間は誰かとなった時に、真っ先に名前を挙げる距離感。
投げ渡される傷ついたショットガンとスラッグ弾。掴み取ったセリカは素早く装填し、照準を合わせる。
スコープがいるとかそういうことではない。今は彼女の経験が、性格が、必要ということだ。
息を吸い、息を吐く。
力む理由は無い。
先輩が後輩に任せた。
それだけで十分だ。
「一点狙いよ」
透明な気持ちで引き金を引く。
放たれた弾丸はまるで吸い込まれるように損傷した胴体に命中し、ジェネレーターを貫通。最後の悪足掻きのように放たれたレールガンは列車側面を掠めて、ゲブもまた爆散した。
ようやく、ゲブとヌトによる強襲を退けた。
勝ったのだと実感したハイランダー生徒たちが喜びの声を上げて肩の力を抜く。今だけはいいのだとして。
だが、その次の瞬間には空気が凍った。
『ゲブとヌトが逝ったか。彼と彼女には損な役を任してしまった』
空間に響き渡るレグナの声。
真っ先に反応したのはノノミだった。まるで仲間を切り捨てたような言い草、機械のことを彼と彼女と呼ぶならば何故と。
「なら、どうして!」
『他に暇そうなヤツもいなかったからだが』
「……暇?」
──何を、言っている?
暇? 無人機に暇も何もあるものかと思っても、レグナの声は淡々と彼の知ることを響き渡らせる。
『残っているモノの内、少なくとも器のあるヤツはあの二柱くらいしかいなかった。そしてやる事ないと暇していた。だから頭を下げてみた。了承された』
「自分のために利用したんだ」
『だが乗ったのはヤツらで、オレに利用されるなんて百も承知だった。反逆もいくらでもできるのにしない。まぁそんなところだ』
シロコ*テラーの呆れたような言葉に、向こうにも選択の自由くらいあったと言わんばかりに返した彼は、急かすような言葉を選ぶ。
『さあ早く来い、見せ物がまだまだある。最後の演目まで付き合ってくれ。円舞曲はここからだ』
それを最後に言葉が消えた。
──そう、まだ門を潜っただけ。本題はここからなのだ。
傷付いた列車が移動を止めた時、待っているのは訳のわからない地獄絵図。裏で糸引く地下生活者と、大暴れしているレグナ。アビドスの敵は、まだその真の牙を見せていない。