青い春に馴染めない黝の星   作:うへうへ学生

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激変する事態、暗躍する影

「あー、あったあった。ボクのウアス。ケペシュはどこかなーっと。……お、あるじゃないの」

 

 ガサゴソと廃墟を漁る少女がいる。

 青みがかった黒のメッシュが入った銀灰の髪、光の無い青い目、黝のヘイロー、華奢な身体。アビドス高校の制服に似ていて、しかし全く別な姿。スカートではなくズボン、ブレザーの裾の丈ではなくロングコートの裾の丈。

 異質、歪。中途半端にアビドス生徒であるかのような風貌。

 

「やっぱしボクらの遺産は手付かずだったか。でも欠片だけはない。アイツらに回収されたか、それとも単にどっか行ったのか。ここに来るまでに色々漁ってる羽虫は見かけたけど、アイツらはアレの意味を理解できないだろうし。と、なれば……あぁ? なんだなんだ、視線が向けられてる。どういうことだ。誰が見てる」

 

 キョロキョロと辺りを不愉快そうに見回すが、当然に何もない。だが少女にとってそれは随分と気分の良いものではなかったようで、苦虫を噛み潰したような表情でしばらく佇んでいた。

 そんな彼女に近づく人影が一つ。

 

「──久しぶりだけどキミが表舞台に登るのは早すぎないかい。ねぇ? マエストロ」

「奴がいるならばと聞いていたが──姿形は大きく違うが、やはりお前か。どうやって来た」

 

 ゲマトリアの一人、珍妙な人形を思わせる風貌の存在、マエストロ。本来ならば姿を現す筈のない者が、あり得ざる者と対峙している。

 

「いやそれがね、ボクもよくわかんねーんだよ。確かに記憶はあるさ、でもそれがテクスチャーとルールで弄られた記憶なのかそれとも本当の記憶なのか区別付かなくてね。その上、かなり歯抜けになってると来たもんだ」

 

 ケラケラと笑う少女はまるで古い知り合いとでも出会ったかのように饒舌に言葉を並べる。

 

「欠片を探しているのか」

「あ、わかった。お得意の取引でもしようってのかい?」

「──欠片ならベアトリーチェが大半を持ち去っている」

「はー……面倒なことになった。ボクが出ても流石にキツいな。ベアトリーチェは1番本気出してくるから何が起きるかわからない」

「己が悪性因果を呪うことだ」

「あ! そんなこと言うんだ! いいよ別に。キミがご執心のものを破壊できるんだからねボクは!」

「言っていろ」

「そういやアビドスって黒服の管轄だと思ったけど、いいのかい。出てきて」

「既に許可はもらっている。お前こそ出てきていいのか」

「遅かれ早かれ黒服が仕掛けてくるんだ。何もしないわけいかねーだろ」

 

 会話自体は和気藹々としているようにも一見感じられるが、双方共に一定の距離を保ったまま近づかないし、即時行動に移れるような姿勢である。マエストロは直接戦闘をする訳でもないが、直接戦闘ができるものを呼び出すことも少女を無力化し得るものを使うこともできる。一方の少女もまたそれを理解しているが故に警戒を忘れない。いくら対処可能とは言えどもそういった驕りは身を滅ぼすものである。

 

「……で、わざわざ雑談しにきたわけでもないだろ。誰の差金だ」

「黒服からの頼みでな。検証の為可能ならお前のミメシスを引き摺り出してみてくれ、とのことであったが──本体が出てくるとは」

「チッ、あの野郎……」

「いや、これは……オリジナルそのままではない。ならば──なるほどそういうことか」

「何が言いたい」

 

 双方の声が冷え切った。

 少女はその手に握った杖と鎌剣に視線を落とす。マエストロはそんな彼女を気にも止めない。

 

「十分な情報は得た」

 

 刹那、少女は──何もしない。

 握り締めた武器を振るうために近づくことも何もしない。確実に仕掛けてくるだろうと踏んでいたマエストロも、これには拍子抜けした。それにここで何もしない輩ではないとよく知っている。なのに少女は何もしない。

 

「見逃すのか」

「オマエらの事だ、どうせ殺しても意味が無い。駒を一つ失う程度だろ。それにボクを予測してるなら対抗策の一つや二つあって当然。偶発の遭遇なコッチの方が不利だ」

「だから見逃すと?」

「マエストロ、アンタはボクらに何もしない。だってどうでもいいだろ? ボクもどうでもいいんだ。アンタの創作活動で他の羽虫どもが生きようが死ぬまいが。お互い、傷つけ合うことになったら考えりゃいいって」

 

 ──自分たちには危害が無い、他の誰が苦しもうがどうでもいいから、特に何もしない。傲慢な思考、傲慢な態度。まるで支配者の如き対応。その言葉に含まれる感情もまた傲慢、そして見下したもの。表情に至っては何を当たり前の事を言わせるのかと呆れている。

 羽虫など、おおよそ他の人間に対して使う言葉ではない。

 

「黒服。アイツだけはボクらに直接仕掛けてくるからこうでもなったら無意味とわかってても殺るさ。そしてこの情報を伝えるとしても、何か起きる訳でもない。既にアイツは仕掛けを終えてるだろうから。だからどうでもいい。ゲマトリアだって一枚岩じゃないだろ? そんなに喧嘩売って欲しかったらボクがデカルコマニーの顔がフランシスになるまでぶっ壊し続けてみようか? 今は何かわかんないけど」

「……仮に黒服が仕掛けたとして、どうするつもりだ?」

 

 あえて最悪の一手をちらつかされれば、流石に本気とわかる。マエストロにしてみても、こいつは本当にそれが現在でもできると理解している以上穏便に済むならそれに越したことはない。とはいえ出方くらいは知っておかないとまずいことになるのは事実。目の前の存在はかつてゲマトリアでもしない大惨事を引き起こそうとした大罪人の一人、その残骸なのだから。

 

「どうもしない。──任せるさ」

「その結果がもたらすものが何か知っていてもか?」

「ボクは友達だからね、キミらより人間性は理解してるんだ」

 

 が、珍しく少女が普通なことを言った。

 友達だから、人柄を知っている。だから信じて任せる。らしからぬことだ。

 

「じゃ、バイバイ。できれば二度と会いたくないな」

 

 ヒラヒラと手を振りながら少女は廃墟を出ていく。マエストロもそこにいる理由が無くなり、去っていく。

 

(……これは、黒服が二年間も慎重に動く訳だ)

 

 黒服は、基本迷わない。ホシノを手に入れる為に、初手からストレートに勝負に出ている。だがそんな黒服が、二年間何もしなかった。否。できなかった上に、明確に知っているマエストロにしか話さなかった。

 

(まあいい。私は私の作品を仕上げることにしよう)

 

 だが、それがなんだというのか。既に行動している時点で問題は無いということ。

 マエストロには、あまり関係の無い話だ。

 

 

「お待ちしておりましたよ。暁のホル──いえ、小鳥遊ホシノさん。失礼しました。つい……キヴォトスに慣れようとしても、どうしても前職が顔を覗かせてしまいまして」

「今度はなんなのさ、黒服」

 

 とある場所。

 黒服とホシノが一対一で対峙する。何処か楽しげな黒服とは対照的に、ホシノの纏うものは虚無である。そして声色は穏やかなものではなく、まるで切れたナイフを思わせるように鋭い。

 

「色々と状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

「──ふざけるな!」

「まあまあ。落ち着いてください。なにも、以前のような提案とはまた違うものですよ」

 

 そういうと黒服は机から一枚の紙を取り出しホシノへと見せる。

 

「お気に入りの映画から台詞を拝借すると──あなたに、決して拒めない提案を一つ。興味深い提案だと思いますので、ご清聴ください……と言ったところでしょうか」

「ふん……」

「アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する……その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで受け持ちましょう」

 

 くだらない提案だ。そんなもの、昔から頷くことは一度もない。だから切り捨てようとして──

 

「しかし、あなたには選択肢があります。あなたがアビドスに残り、そして借金も完全に消える究極の方法が」

「……は?」

 

 黒服は、唖然とするホシノに畳み掛けるように次の提案をした。

 

「あれを──今は夏雪ライナを名乗っている者を、私に引き渡してください。そうすればアビドスの借金を全額受け持ち、その上でカイザーローンとも話を付けましょう。あれにはそれだけの価値も、意味もあるのですよ」

 

 ライナを、たった一人の親友を生贄として差し出せ。お前の意志で。

 クツクツと笑いながら言われたその言葉は、ホシノの逆鱗に触れた。

 

「お前──っ!!」

 

 紙を握り潰し、身を乗り出し、今にも黒服を殺害せんとばかりに憤怒と憎悪を激らせて声を荒げる。しかしそんなホシノの対応が、どうにも思っていたものと違ったのか、黒服は困惑を隠す事なく淡々と告げる。

 

「……実のところ気になっていたのですが、何故そんなにあの訳のわからない異物を仲間のように扱っているのですか? あれは所詮ある日突然あなたたち二人の元へやってきた、人語を解する擬態型の怪物のようなものです。あれを手元に置くのはあまりお勧めしません。いつ炸裂するかもわからない爆弾を愛でる趣味もないでしょう。例えアビドスであっても不快な存在となれば、憤怒と憎悪のままに薙ぎ払う。そういうものですよ」

 

 妙だ。ホシノもまた暴れ狂うライナを知る故、その狂気を語る事も可能だが──これは、ライナのことを指す表現としては奇怪だ。過剰に脅威を語るような、大袈裟に言っているような……もしあの時、暴走したライナを見ていたとしても、何か辻褄が合わない。

 

(……本当にこいつはライナのことを言ってるのか)

 

 こいつが語るライナは、どんな状況であれある一線を超えた者は一人も許さないかのようだ。

 小鳥遊ホシノが見てきた夏雪ライナと、黒服の語る夏雪ライナ。どうにも上手く被らない。人語を解する擬態型の怪物? あれは人間が怪物になったということだろう。どうも黒服にとって怪物が人間になっていた、という解釈らしい。それがどうにも噛み合わない。

 それに、憤怒と憎悪のままに不快な対象を薙ぎ払うというのも奇妙だ。その憤怒と憎悪は何処から来るのか。あの暴走は、ユメの死という不条理な現実に怒り、そしてそれらを誘発させた要因全てを憎んだからだ。理由がある。なのに黒服は快・不快で怒り憎むかのように語る。意味がわからない。そこまで滅茶苦茶な存在ではない筈だ。

 

「お前にライナの何がわかる」

 

 そう吐き捨てて、不快感を隠す事もなく踵を返す。親友の人間性を根本から否定するような奴と、楽しくお喋りなどできるわけがない。元々気に入らない奴だ。長居する理由も無い。

 

「……帰る」

「色良い返事を期待していますよ」

 

 一人残された黒服は、しかし勝利を確信していた。

 

「どうせ、最終的にはあなたが身を売るでしょう。暁のホルス」

 

 もうカイザーの尻尾は掴んでいる。理事が強行するのも時間の問題。その時、平和的なやり方にこだわれば黒服の誘いに乗るしかない。その上──

 

「あなたにあれを差し出すことなどできない。あなたはあれの本質を、無意識的に理解している。そしてあなたにとってあれは友だ。我が身可愛さに友を売るような存在など、ホルスではない。ホルスとは正当なる者なのだから」

 

 小鳥遊ホシノは我が身可愛さに親友を売れる人間になるくらいなら自分を売る。そういう性格をしている。そしてライナの本質を、暁のホルスであるが故に無意識的に理解している。だから黒服に売る事など、神秘が拒む。故に最初から詰んでいるのだ。決して拒めない提案とは言葉通り。

 

「わかっていても、なんともつまらぬ結末です。しかし──そうなれば彼がやってくるでしょう。シャーレの先生……不可解な大人。その時が楽しみですね」

 

 見え透いた勝負など興味も無いが、黒服には新しい興味の先がある。同じように介入するが、しかし立場の異なる相手。シャーレの先生との、大人のやり取り。楽しげな雰囲気のまま、事の行く末を見守ろうとして。

 

「黒服」

「マエストロ、何かあったのですか」

 

 マエストロが現れた途端、一切の余裕が消えた。

 

「──反逆者と会った。姿形は変わっているが奴だ。だがそのものではない。どうにも言動が完全に一致していない」

「わかりました、ありがとうございます。なるほど、そうなれば今の状態も雑ではあるが理屈として通らなくもない暴論程度の戯言が成立し得る」

「ベアトリーチェとゴルゴンダには伝えるか」

「いいえ。ゴルゴンダ"は"知りません。動かれると面倒なことになる」

「テクストに適合しながら適合していないなど、喜んで飛びつくか。ベアトリーチェは……言うまでもないな。あの者の野心を思えば、刺激しないという選択は無い」

「最低でも、私が確認を終えるまでは我々の間だけの話で収めてください」

「わかった……そういえば、黒服。どうやって仕込みをした?」

「理事が使った便利屋に余計な事を吹き込みました」

「なるほど。効果的だ」

 

 本来表に出るはずの無い名前が次々と出てくる。

 世界は緩やかに、しかし確かに歪んでいる。

 最大の異分子により。

 

「あれ? ライナは?」

「先輩なら確認しないといけない物が溜まってるから家にいるって」

「今日は来ないんだ。珍しい」

「ま、ホシノ先輩がたまーにオフだからとか言って抜け出してるのと同じことでしょ……今日もそうだし。そういえば、なんで私だったんだろ。別にシロコ先輩に連絡すればいいのに」

「セリカ、ライナから連絡もらったんだ」

「な、何よその目は」

「別に、何も」

 

 セリカに送り付けられる凄まじいジト目。薄々と視線を送られる意味に勘付いている彼女も、いざそうされると言いたいことがあればはっきり言って欲しいものである。

 

「シロコちゃん、お兄ちゃんを取られた感じになるとすーぐこうなるんですよね〜」

「ノノミ?」

「昔、私とライナさんが一緒に買い物してた時なんて下手くそな尾行で着いてきて物陰からチラチラと」

「ノノミっ」

 

 ノノミも昔からシロコが他者へ向ける視線は知っているがどー考えてもライナに向ける視線だけは特別である。理由は……本人はハッキリしてないだろうが、十中八九恋慕だろう。どういうきっかけなのかは知らないが、シロコは淡い想いを抱いているのは透けて見える。お兄ちゃんを取られた感じ、なんて誤魔化したがあれは立派に嫉妬だ。ライナも言っていたが、昔から誰かと何かをしているとシロコは微妙な顔をする。細かい面倒までずっと見ていた上にお互い本音をぶちまけ合ったであろう仲だ、そういう感情があっても不思議ではないが……相手側の方は全く気付く様子も無いどころかホシノ含めて皆平等に扱っている。

 そんな様子なら、言ってくれたらいくらでも相談に乗ってあげるのにとか思うことは思うのだが現状はそれどころではない。せめてひと段落着いたらというところだろうか。

 

 "シロコ、何か言いたいことや思ってることがあるならストレートに本人に伝えた方がいい気がするよ"

 "私が見てもなんだかこう、ひねてるというかなんというか"

「やっぱり先生もそう思うんだ。なんかこう、独特だよねライナ」

 

 独特というか。感性や態度が妙にズレているというか。なんかこう、変というか。こういう環境なのに、女の子に気がありそうな素振りも見せないし。

 

「あ、そういや先輩たち。ライナ先輩からの電話だけどさ、不思議だったのよ。ねえアヤネちゃん、電波悪い時ってあった?」

「え? 電波? アビドスでそんな話は聞いたことないけど。特にインフラ系の話は何も……」

 

 アビドスで電波が悪くなることはあまりない。妨げるものがほとんどないのもあって電波不調という現象とはほぼ遭遇しない。もちろん砂漠で砂嵐の中から連絡すれば話は別だろうが……思い返してみても、少し不自然だった気がする。

 

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「先輩どうしたの?」

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「……? 電波悪いのかしら? いやでも、今までそんなこと……」

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「ちょっと先輩、何か言ってよ。先輩?」

『──や、朝早くにゴメン』

「どうしたのよ、ずっと黙ってて」

『電波が悪かったんじゃないかな。で、話なんだけど。流石に確認しないといけない物溜まっちゃっててさ。今日はソッチ行くのかなり遅れる。別に大した用事じゃないし、家にいるから、必要ならコッチに尋ねてきてくれ。それじゃ』

 

 なんだかイントネーションとかが違ったような、ライナと言うには何か変だったような。改めて内容をみんなに伝えてみれば、やはり妙なものが浮かび上がる。

 

「確認しないといけない物って、家賃代わりの機械整備でしょうか? あれ、ほとんど言うだけで実際にはほぼライナさんに譲渡されてた筈ですが……」

「じゃなに? この状況で先輩が私たちに嘘付いてまでなんかしたいことがあるって?」

「だったらおかしくない? 先輩そういうのあったら下手くそな誤魔化し方かストレートに伝えてくると思うけど」

 

 妙な違和感、滑らかな中の僅かなざらつきのような、あるいは流線の中に一本だけ混じっている直線のような。ヴァイオリンだけの演奏の中に一つだけコントラバス、チェロ、ヴィオラなんでもいい。とにかく何か一つあからさまに、しかし違和感程度で済むような何かが混じっているような感覚。

 

 "本人の言うことを信じるなら家にいる"

 "ってことは、誰かが家に行けばいいんじゃないかな?"

「それなら、ホシノ先輩が行ってたりするかも。あの人、割とライナの家に入り浸ってたりするし」

 "これでもしいなかったら、ライナは何か隠し事をしているってことになるけど"

 "……隠すようなこと、あるのかな? "

「やっぱり先生もそう思うよね。ライナは存在自体が隠れたがりだから、ある意味で明け透けなのに」

 

 見過ごせないような、小さな感覚。

 その感覚に従うかどうかを悩んでいた時、事態は大きな転換期を迎えることになる。

 ──建物の残骸が積もる場所で、いつになくシリアスな顔をしたアルが対策委員会と対峙する。

 

「キナ臭い話になっているのよね。あなたたちが何故銀行を襲ったのか、私なりに考えていたわ。借金に追われているのも知っている。でもそういう極端な選択をするようには見えなかった」

 

 実のところ、アルも流石に奇妙に感じていた。彼女が手付金を受け取らなかった理由も、そこら辺が関係していた。アルとて裏の事情を察している。

 

「──クライアントが何故アビドスを潰したがるのかも、不思議だった」

 

 大物が何故辺境の地を潰すのか。

 

「夏雪ライナって、何者なのよ」

 

 そして、矛盾するようなことを伝えてきたのか。

 

 "シャーレの補助員だ"

 "私の助手だよ"

「いいえ。そうじゃないでしょう、先生。アビドスに隠された謎の人物。クライアントから生け取りにするようにと言われた、意味不明な存在──クライアントはどうして今更そんなことを言い出したのか。そして知っているにも関わらず、それを今更伝えたのか」

 

 ──先生も流石に怪訝な顔をする。

 人質? だったら先に行動していてもおかしくない。確実な策があるならそれを使うべきだろう。冷静に考えていけば、何故セリカを狙ったのか。無力化するのは簡単なライナを選べばよかったのに、今更? 

 何か複数の思惑が見えている。カイザーだけじゃない。もう一つ以上の何かが。

 

「教えて。私たちは何に首を突っ込まされてるの」

 "推測混じりでいいなら教えてもいいけど……"

 "ちゃんと、大将に謝ってからだよ?"

 "流石に事故とは言え爆破は爆破だし……"

 

 ──そう、ここはさっきまで柴関ラーメンがあったであろう場所。よくわからないが何故かどデカい爆発が起きて急行したら、何故か便利屋68が瓦礫から柴大将を救出し終わったくらいの現場に出会した。とりあえず何がどうなってそうなったのか全くわからないが、アルだってどうしてこうなってしまったのかよくわからない。

 だからせめてこうシリアスモードを維持して夏雪ライナという謎の存在に迫ろうとしてみたのだが、普通に対応されてしまったのが今である。

 

「わ、わかってるわ! 私たちなりの誠意は示すわよ! ただその、い、色々あったのよ色々……」

 "理由なんだと思う?"

「ん。多分冷酷になれないのに苦悩してご飯食べに行った先が柴関だった」

「すごく真面目そうですものね⭐︎」

『まぁ、きっとボタンの掛け違いでしょう』

「大将もそんな気にしないとは思うけど……でも私のバ先潰したのは許せないわ!」

 

 事情はなんとなくわかっているし、その上で被害者もそんな気にしない人柄だと知っているからやいのやいの言うつもりもないが、それでも禊は禊である。セリカのもっとも過ぎる怒りを皮切りに、各々銃を構え出す。

 

「ええっ!? こ、この流れでやるの!? これどう見たって一時休戦とかそういう流れじゃない!」

「気を利かせてラーメン奢った流れで喧嘩売ってきたあんたに言えんのそれ!?」

「お、おっしゃる通りだわ……っ」

「わー、アルちゃんタジタジ」

「交渉のテーブルに着くための必要な行動って感じかな。……おかしいな、なんでこんなことになってるんだろう」

「結果的にお仕事するんですよね?」

「いや、多分想像以上に面倒臭い話になってそうだし、ここらが潮時だと思う。あれは使わなくていいよ」

「ま、最後の義理立てって感じ?」

 

 まあ、なんというか。友達ってこういう雰囲気だよねと、そんなことを思っても仕方ないだろう。だが更なる乱入者──ゲヘナの風紀委員会による襲撃がより事態を複雑なものへの変えていくのだった。

 

 同時刻。

 黒服の提案を聞いてしまったホシノは、苦悩の迷宮にいた。

 

(……事態は大きくなっている。先生がいるし、私一人で解決するなら、それで十分じゃないか? けど、まだそれは……)

 

 友を売るなら自分を売る。

 しかしそれをしたところで誰が幸福になるというのか。かつて仰ぎ見た太陽の如き人であればどうしていたのだろうか。

 言えばきっと楽になるが、言ったところでやめるように説得されるだけ。どうすればいいのかわからない。だからせめて、同じ傷を持つ相手に相談だけでもしようと思って──

 

「……バカだな、私。この時間でライナが家にいるわけないじゃん」

 

 訪れたのは友が暮らす場所。玄関に手をかけてふと自嘲する。そして離そうとして──

 

「……鍵、開いて──」

 

 ノブに違和感を持った事がきっかけで大急ぎで玄関を開けて室内に乗り込む。そんな不用心をする奴ではないと長い付き合いで知っているから、何かがあったと見て入るのは不思議でもないだろう。

 室内は伽藍堂。いつもと何も変わらないが、現在の主だけがいない。かつて、三人で撮った写真がリビングに置いてあるのも同じなのに。

 

「一体、何が」

 

 幸い合鍵は持っている。戸締りはしてやれるが、こんなことは一度だってなかった。何かが確実に起こっている。

 どうなっているのか、何か知っているのかと、みんなと連絡を取ろうとして──ちょうど爆発音を聞き、ホシノもまた急行するのだった。

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