神様に「リリカルなのは『みたいな』世界に転生したい」って要望したら「幼女戦記」の世界に入った話。 作:スレ主
とても遅くなりました。
あとしっかり2期は見てます!!
「今回の講和は完璧だ!! まるで未来が見えているようではないか!!」
バンッ!と勢いよく木製のテーブルを叩き、少佐は満面の笑みを浮かべた。
その熱弁を、テーブルを囲むヴィーシャ、エーリャ、そして俺の三人は、それぞれ微妙に異なる表情で見つめていた。
そもそも、なぜ自分たちのテーブルに中央軍のエーリャが同席し、少佐がここまで饒舌になっているのか。
事の発端は、数日前に遡る。
協商連合との講和成立後。
北方軍の主力部隊がオース周辺の占領地接収と引き揚げ処理に追われる中、参謀本部が下した決定が、中央軍によるノルデン地区の警備代行であった。
そうして、がらんどうに近い基地へ第二〇三魔導大隊が到着した時のことだ。
輸送車両から降り立ったデグレチャフ少佐は、寒々とした基地を一瞥すると、息を白く吐きながら淡々と告げた。
「セレブリャコーフ少尉、オルカ少尉。先に引き継ぎを始めたまえ。私は司令部へ挨拶と打ち合わせに向かう」
「了解しました!」
少佐が小柄な背中を丸めず、凛とした足取りで司令部建物へと向かうのを見送った、その直後だった。
「――二人とも、無事でよかった!」
軍用コートを羽織ったエーリャが駆け寄るなり、ヴィーシャとぎゅっと抱き合った。
「エーリャ!」「ヴィーシャ!」
互いの無事を確かめ合うように背中を叩き合い、顔を見合わせて笑う。
親友同士の、余計な言葉はいらない再会だった。
エーリャはヴィーシャの肩をぽんと軽く叩くと、そのまま俺の前へ歩み寄った。
スッと制服の襟へ手を伸ばしてくる。
その顔が思いのほか近づき――思わず半歩だけ身を引いた。
エーリャはくすりと笑う。
「……もう少しで届いたのに」
「何がだ」
「ふふ、言ったら逃げるでしょ?」
エーリャが悪戯っぽく笑うと、そのまま迷いなく右腕をぎゅっと抱え込んだ。
「……っ」
一瞬だけヴィーシャの肩がぴくりと揺れるのが、視界に入った。
ヴィーシャは何も言わずにエーリャの反対側へ回ると、左腕へそっと自分の腕を重ねてくる。
「あら?」
エーリャが面白そうに片眉を上げた。
ヴィーシャは何も言わない。ただ、ほんの少しだけ頬を膨らませるように唇を尖らせ、腕を抱く力だけがわずかに強くなった。
両腕を取られたまま、俺は小さく息を吐いた。
「……仕事行くぞ」
デュオがそっと両腕を引き抜くと、エーリャは「ちぇっ」と肩をすくめた。
一方のヴィーシャは「あ……」と小さく声を漏らして手を離すと、ほんの一瞬だけ唇を尖らせ、すぐにいつもの表情へ戻った。
「……ま、遊びはここまでにして」
エーリャはパン、と手を叩く。
「北方軍からの歓迎プレゼント、山ほどあるからね」
そう言って執務室の扉を開けると、そこには案の定、膨大な書類の山が築かれていた。
北方軍からの引き継ぎ文書、治安維持の警戒ルート、物資の割り当て表。
しかし、窓口であるエーリャの手元にある書類の束を前に、俺たちは最初から迷いなく動いた。
「デュオ、承認印!」
「ヴィーシャ、照合」
「もう終わってる」
「……先読みか」
「当然でしょ」
「はいはい、阿吽の呼吸ね」
軽口を叩きながらも、ペンを走らせる速度は落ちない。
エーリャが要領よく書類を振り分け、デュオが正確に判断を下し、ヴィーシャが完璧なタイミングでフォローを挟む。
苦楽を共にした同期としての呼吸が、寸分の狂いもなく噛み合っていた。
名目は支援任務だが、膨大な作業はあっという間に片付いていく。
その日の夕刻。
司令部での長い打ち合わせを終えたデグレチャフ少佐が執務室に戻ってきた。
エーリャは立ち上がると、姿勢を正して敬礼した。
「中央軍のエレナ・ミュラー少尉です。引き継ぎを担当しております。本日はよろしくお願いいたします」
デグレチャフ少佐も敬礼を返す。
「第二〇三魔導大隊長、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐だ。よろしく頼む、エレナ少尉」
「はい」
互いに敬礼を解く。
エーリャは机上の書類へ視線を落としながら言った。
「ちょうど引き継ぎの一次作業が終わったところです」
「そうか。苦労だったな」
少佐が最終チェックの書類へ署名を記しているところで、エーリャはここぞというタイミングを逃さず口を開いた。
「せっかく区切りもつきましたし、少佐。今回の講和について部下へお話しいただく場も兼ねて、ご一緒に食事でもいかがですか?」
「必要ない。せっかく同期が三人揃っているんだ。上官が同席するより、気兼ねなく親睦を深めた方が有意義だろう」
デグレチャフ少佐は万年筆を置くこともなく答えた。
「そうですか……」
しかし、ここで引かないのがエーリャ。
「行こうとするBARなんですけど北方でしか造られない、希少な白のアイスワインがあるんですけどね」
エーリャは、それ以上何も言わない。
勧めもしない。押しもしない。
ただ静かに少佐の反応を待つ。
カリ、カリ、と紙を走っていた万年筆が、ぴたりと止まった。
執務室に沈黙が落ちる。
(……釣り針がでかすぎる)
俺は内心で額を押さえた。
少佐が酒好きなど、第二〇三魔導大隊でも知る者はそう多くない。
勤務中は一滴も飲まず、外でも滅多に付き合わないため、その嗜好を知る機会自体がほとんど存在しないのだ。
というか未成年だし。
さらにいえばここにいる全員未成年だし。
(というかどこで情報を拾ってきたんだ……)
エーリャはデュオの視線に気づいたのか、口元だけで小さく笑った。
(……やっぱりエーリャって怖ぇ)
とはいえ、こんな露骨な釣り針に食いつくほど、少佐も単純じゃない……が、あの反応を見る限り、全く興味がないわけでもなさそうだ。
……助け舟を渡すか。
「俺も少佐の見解を聞きたいです。戦後の情勢について学ぶ機会なんて、そうありませんから」
「……まぁ、部下の教育も上官の務めだからな。無下に断るのも、部隊運営上よろしくないか」
少佐はコートを羽織ると、誰よりも早く執務室を出て行った。
そうして入った裏路地の小さな高級酒場。
最初は
「軍人たるもの、いついかなる時も冷徹な理性を保つべきだ」
とワインを飲むことすら断っていた少佐だったが、一口だけと勧められて渋々グラスに口をつけた瞬間――そのあまりの美味さに表情が一変した。
それからの変化は劇的だった。
グラスを重ねるごとに少しずつ口数が滑らかになり、今や帝国の講和について熱弁を振るう少佐の話に、俺とヴィーシャ、そしてエーリャの三人が耳を傾けていた。
デグレチャフ少佐は三杯目のアイスワインを飲み干した。
「素晴らしい」
上機嫌でグラスを置く。
「実に素晴らしい」
ヴィーシャが苦笑する。
「そんなにですか、少佐?」
「そんなにだ」
即答だった。
「この講和を考えた人間は間違いなく優秀だ」
俺の肩がぴくりと震えた。だが、誰も気付かない。
「まず共同治安維持」
デグレチャフ少佐は指を一本立てる。
「軍事費を削減しながら影響力を維持できる」
少佐は愛おしげにグラスを回し、琥珀色のアイスワインを見つめながら言葉を継いだ。
「まともに考えれば、敗戦国を完全に占領・統治するなどコストの自殺行為だ。治安維持のために膨大な兵力を常駐させねばならず、反乱分子のゲリラ活動に怯え、インフラの復興費用までこちらが持ち出さねばならん。人命と予算を湯水のように消費する泥沼だ」
デグレチャフ少佐は不敵な笑みを浮かべる。
「だが、今回の『共同治安維持』はどうだ? 敗戦国に自らの警察権や軍組織を一部残させ、現地の治安維持は奴ら自身の予算と人手でやらせる。我が軍は最小限の『治安指導部隊』を置くだけでいい」
「……確かに、それならこちらの負担は激減しますね」
ヴィーシャが感心したように頷く。
「もちろん費用は掛かる。顧問団も必要だし、監視機関も必要だ。だが占領統治に比べれば雀の涙だ。何より、現地人が現地人を管理する」
口元が愉快そうに歪む。
「つまり帝国は、自国兵の血と金を節約しながら、敗戦国の軍事力そのものを利用できる。敵を力で押さえつけるより、敵の財布で敵を管理する方が安い。実によく練られた資本主義的アプローチだ。私は好きだな」
さらに、少佐は楽しげに目を細めた。
「しかも見事なのは、ここに王国を巻き込んだ点だ。帝国単独でこれをやれば、周辺国からはただの『侵略国家の強権支配』と見られる。だが、海を隔てた大国である王国をオブザーバーとして引きずり込んだことで、この支配は一転して『国際社会による北方の戦後復興支援』という大義名分にすり替わるのだ」
「なるほど……。でも、あの海に引きこもる王国が、よくそんな誘いに乗りましたね?」
ヴィーシャの純粋な疑問に、デグレチャフ少佐はフッと鼻を鳴らす。
「おそらく、この案を出した人間は王国にこう囁いたのだろう。『北方がこれ以上荒廃すれば、東の連邦から共産主義の残滓が紛れ込み、大陸全体にその毒が伝染する可能性がある』とな。現状維持を望む保守的な王国にとって、思想的赤化は何よりのタブーだ。共同治安維持という名の泥を帝国が被ってくれるなら、二つ返事で乗るしかない」
少佐はアイスワインを一口含み、その余韻を味わうように目を閉じた。
ゆっくりと息を吐き、口元だけがわずかに緩む。
「他国の警戒心を削ぎ落としつつ、国際協調の枠組みの中で安全に相手の胃袋を掴む。まさに完璧な外交カードだ」
俺は無言で手元のグラスに視線を落とした。
(……かなり合ってる)
それが、正直な感想だった。
共同治安維持の真の狙いも、王国を引き込んだ仕掛けも、共産主義の赤化に対する警戒心の利用も。
アルビオン王国を交渉のテーブルに着かせるにあたっては、「応じない場合は合州国をこの枠組みに招き入れる」という牽制を裏で込めてあるのだが、今表に出ている情報だけで、少佐はその意図の八割方を見抜いていた。
しかし、少佐の鋭い舌鋒はまだ止まらない。
「だが――本当に恐ろしいのはここではない」
アイスワインのグラスを回す手を止め、デグレチャフ少佐は心底楽しそうに笑った。
「この案の作成者は軍事と外交だけでなく、経済の本質をも理解している。単に戦争で勝つことが目的ではない、戦後市場そのものを支配することが目的だ。だからこそ、講和条件の比重が軍事よりも経済に偏っている」
少佐はすっと人差し指を立てた。
「第一に、漁業権の開放。永続的な利益を生む収益源の確保だ」
続いて中指を立てる。
「第二に、港湾利用の自由化。北方物流の主導権を握る」
さらに薬指を立てる。
「第三に、北方における空間的優位の確保。ここまで積み上げれば、残るのは――」
少佐は、無邪気な子供のような笑みの奥に、冷徹な軍政家の顔を覗かせた。
「――そして何より、これら全てを、相手が『自発的』に受け入れている点だ」
その容赦のない解剖と少佐の絶賛ぶりに、横で聞いていたエーリャが耐えかねたようにプッと吹き出した。
「ふふっ……確かに悪魔みたいですね」
「悪魔ではない」
少佐は即座に否定した。
「合理主義者だ。利益を最大化すれば、自然とこうなる」
その迷いのない断言を聞きながら、俺は何も答えず、琥珀色のワインを静かに喉へ流し込んだ。
極上のワインですっかり上機嫌になった少佐のプロファイリングは、さらに熱を帯びていく。
「恐らく参謀本部でも作戦畑ではないな。政策立案を専門とする高級官僚だ」
(いや、前線勤務の魔導士だ)
「だからこそ、血の匂いに惑わされず戦後をここまで冷静に設計できるのだ」
(前線で死にかけまくってる)
「軍人なら戦場の勝利を求める。だが、この人物は違う。戦争そのものを国家利益へ変換することしか考えていない」
(いや、軍人だけど……そこは当たってるな)
「年齢は四十代後半。少なくとも将官クラスに匹敵する政治的影響力を持つ人物に違いない」
(……十代の少尉ですが)
「人格も恐らく堅実。無駄なギャンブルは避け、一歩一歩確実に外堀を埋めていくタイプだな」
堅実というより、ただのビビりだ。今はレイジングハートに助けられてるだけなんだけど。
「酒も飲まんタイプだな。常に冷徹な頭脳を維持し、自己管理を徹底している男に違いない」
俺は手元のグラスを見た。さっきからめちゃくちゃ飲んでいる。
冷静な頭脳と自己管理に関しても、全面的にレイジングハートのおかげだった。
少佐のあまりにも見事な大外れっぷりに、真相の当たりをつけているエーリャは、笑いを堪えるように口元を震わせていた。
彼女は悪ノリを加速させるように、わざとらしく感心した様子で頷いてみせる。
「なるほど……! さすが少佐、そこまで見抜かれているのですね」
感心したように言ったエーリャは、チラリと横目でこちらを見てから言葉を継いだ。
「そんな優秀な方なら、私だって結婚したいくらいです。でも、そういう方って大体もう周りに女性がいそうですし……」
デグレチャフ少佐は首を振った。
「甘いな、エレナ少尉。そういう人間はむしろただの仕事人間だ。キャリアや成果にしか興味がなく、恋愛などという不確定要素の多い事象は優先度が極めて低いだろうな」
(……まあ、恋愛どころじゃないのは事実だけどな)
少佐の解説に内心で同意しつつも、目の前で言われると妙な居心地の悪さがある。
「なるほど……。ところで少佐、少佐ほど優秀な方がどんな相手を選ぶのか気になるのですが」
「ちょっとエーリャ! 少佐に失礼でしょ!!」
唐突に振られた話に、ヴィーシャが慌てて身を乗り出して咎める。
だがエーリャは悪びれる様子もなく、楽しそうに首を傾げた。
「気になるじゃない。少佐が、どんな相手を選ぶのか」
「別に構わんよ、エレナ少尉」
少佐は軽く手を振り、グラスに視線を落としながらあっさりと答えた。
「答えとしては、私はそもそも結婚願望がないからな。現状では費用対効果が見合わん」
実に少佐らしい身も蓋もない一言だ。
ヴィーシャが苦笑いしつつ、おそるおそる尋ねる。
「……もし仮に結婚するとしたら、どんな要求をされるんですか?」
少佐は少しだけ目を細め、静かに、だが一切の妥協を許さないトーンで言った。
「私の判断を邪魔しない。これに尽きるかな」
(……でしょうね)
一切の感情論を排した、どこまでもデグレチャフ少佐らしい回答に、俺は心の中で静かにツッコミを入れた。
すると、エーリャが「なるほど……」と頷きながら、どこか意味深な笑みを浮かべた。
「少佐の求める条件は分かりましたけど……」
ちらり、とこちらに視線を寄せてくる。
「デュオはどうなの? パートナーには何を求めるの?」
「……俺か?」
急に矢印がこちらへ向き、俺はとりあえずグラスを口へ運ぶ。正面突破で答えるのも癪だったので、少し考えてから逆に問い返す。
「そういうエーリャは何を求めてるわけよ」
「私?」
エーリャは待ってましたとばかりに少し胸を張り、楽しそうに笑ってみせた。
「理想は高いわよ? お互い自立していて、尊敬し合える関係が理想ね」
少しだけ間を置き、人差し指を立てて付け加える。
「もちろんハンサムで」
「最後ので全部台無しじゃねぇか」
俺が即座に呆れたツッコミを入れると、テーブルの空気がふっと和み、くすくすとした笑いが漏れた。
「ふふっ。前にも言ってたね、エーリャ」
ヴィーシャが可憐に微笑みながら口を挟む。
「だって大事じゃない」
エーリャは笑って肩をすくめると、今度は隣のヴィーシャに視線を向けた。
「ヴィーシャにはねぇ……しっかりしていて、冷静で、あなたを引っ張ってくれる人が合うと思うわ」
「もぉ……それって私が頼りないってことでしょ」
心当たりがあるのか、ヴィーシャは少し頬を膨らませて抗議してみせる。
「あはは。でも今はもう立派な軍人だものね。昔とは理想も変わってるかもしれないけど」
和やかに盛り上がる女性陣のやり取りを横目に、俺は手元のグラスを見つめた。
(……こういう女性同士の恋愛話って、どうにも入りづらいんだよな)
余計な口を出して火の粉が跳ねてくるのも嫌だし、このまま静観を決め込もう——そう腹を括った、まさにその時だった。
それまで極上のアイスワインを嗜みながら、ニヤニヤと楽しそうに高みの見物を決め込んでいた少佐が、不意に口を開いた。
「それで、オルカ少尉はどうなんだ?」
「……で、デグレチャフ少佐まで」
思わず声が裏返りそうになった。見ると、少佐は口元だけを意地の悪そうな笑みに歪めている。
完全にこの場の状況をエンタメとして楽しんでいる顔だ。
「ほらほら。少佐も聞きたいみたいよ?」
逃げ道を塞ぐようにエーリャが追い打ちをかけてくる。
ふとヴィーシャに視線をやると、彼女は何も言わず、両手でグラスを持ったまま、じっとこちらを見つめていた。その無言の圧が地味に重い。
「そうだな……単純に性格の話をするなら、芯の強い人かな」
観念して口を開くと、エーリャが待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。
「……その心は?」
「なんで俺だけ深掘りなんだよ」
思わず抗議の声を上げたが、返ってきたのは全員からの無言の視線だった。
少佐までもがどこか興味深そうに眉を上げている。
(……逃げ場なし、か)
半ば諦め、アイスワインを口に含んで間を置いた。
「別に、何でも一人で抱え込むような強さのことじゃない。泣きたいなら泣けばいいし、弱音だって吐けばいいと思う」
自分の言葉を確かめるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「でも、本当に大事な時だけは逃げない。どれだけ辛くても、自分で決めたことを最後まで貫こうとする。そういう人は格好いいと思う」
「……格好いい?」
ヴィーシャがどこか噛み締めるように呟いた。
「ああ。綺麗とか可愛いとかじゃなくてな。隣に立ってるだけで、自分も頑張ろうって思えるような人。そういう相手なら、一緒に歩いていける気がする」
「ふぅん……」
エーリャは口元を歪め、隠す気すらないニヤニヤ顔でこちらを見ている。
そして横では、デグレチャフ少佐がグラスを揺らしながら感心したように呟いた。
「ほう。珍しく感情論だな、オルカ少尉」
「……茶化さないでください」
少佐の言葉に苦笑いを返した、その時だった。
『照合完了。条件類似対象二件。高町なのは。フェイト・テスタロッサ』
(……今それ言うか)
レイジングハートの容赦ない追撃に、俺は表に出さないよう、必死で表情筋を固定した。
「……なんか、実際にいる人みたいな言い方」
静まった空気の中、ヴィーシャがふと何かを思い出したように、ぽつりと呟いた。
「だよねー! なんか昔、憧れてたお姉さんの話みたいな言い方だよねー」
すかさずエーリャがそこに乗っかり、肘をテーブルについてニヤニヤとこちらを覗き込んでくる。
「そのあたり詳しいのはセレブリャコーフ少尉ではないのか? 長い付き合いなのだから、人格形成に影響した人物くらい把握しているだろう」
少佐が手元のグラスを軽く揺らし、琥珀色の液体を遊ばせながら問い掛けると、ヴィーシャは過去の記憶を辿るように、小さく首を傾げた。
「えーと……私の知る限りでは、そんな頼りになる女性はいなかったような……」
「じゃああれね! 軍に入ってからじゃない?」
ヴィーシャの言葉に、エーリャは何か思いついたように手をぽんと叩いた。
「どこかで頼りになるお姉さんみたいな人でも見つけたんでしょ?」
いもしない「理想のお姉さん」像を作り上げられ、あらぬ方向へ話が転がっていくのに耐えかね、俺は大きくため息をついた。
「ただの理想の話だろ。まったく……今日は講和の内容を聞くために集まったはずなんだけどな。どうしてこうなった」
俺は頭を抱える衝動を必死で抑えながら、強引に話を本筋へ戻そうとした。
しかし——
「気にするな、オルカ少尉」
デグレチャフ少佐はグラスを傾け、氷を鳴らしながら愉快そうに笑った。
「部下の価値観や心情を理解するのも、上官の重要な仕事だからな」
(絶対違うだろ。ただ面白がってるだけだ)
「……その仕事、今日だけ休業してもらえませんかね」
俺が心底参ったように肩を落とすと、エーリャは堪えきれずに吹き出し、ヴィーシャも口元を押さえながら肩を震わせた。
当の少佐だけは、「何がおかしい?」とでも言いたげな顔で、満足そうにアイスワインを傾けていた。
お待たせしました。
前回の話でちょっと燃え尽きてたのをアニメで持ち直しました。
頭が痛くなるような話も好きですが、キャラが好き勝手駄弁る話も結構好きです。
今回は間話に近い回ですけど、少しづつ原作と乖離していく感じです。
感想あると書くペース上がるので、ぜひ感想お願いします。