私の夢の始まりはどこだっただろう。
初めて父様――あの父の手伝いをした時だろうか。
初めて霖之助に魔道具を用意してもらった時だろうか。
……いやどれも違う。
「魔理沙の魔法はとっても綺麗ね!」
どんな時でも脳裏に浮かぶあいつの声。
私の星の魔法を見た時の眩しい眼差し。
全身で感情を表現する元気な仕草。
……私の魔法の原点は博麗霊夢との出会いから始まったのだ。
私は自分で研究した魔法で博麗霊夢に勝ちたかった。
それが私の夢。いま思えばとても幼稚で取るに足らない夢。
いつからその原点からズレてしまったのだろう。
幸せな夢から覚めたような強い虚無感だけが残ってしまった。
「死ぬことが怖くないのか」
「ええ怖くないわ」
「どうしてだよ。今は若いから良いけどさ、よぼよぼの年寄りになっても同じこと言えるのか?」
「うん、言える」
「なんで」
「普通に成長して、普通に人生を送って、普通に逝ける。しかも大切な魔理沙と二人で人間として」
私は死ぬのが怖い。
死んだら霊夢と話せない。霊夢とご飯を食べられない。
霊夢と……二度と会えない。
「……私と会えなくなっても良いのかよ」
「いつそうなっても良いように未練は残さないつもり」
あいつはおどけて返した。
その時の言葉は今でも私の胸を刺してやまない。
結局私は未練に塗れた人生を送っている。
後悔はない。後悔は、ない。はずだったのに今となってはこのザマである。
気づけば周りの知り合いは全員素敵な年寄りになっていた。
人間を捨て魔法使いとなった私だけが若いままだった。
霊夢はその事に酷く傷ついていたようだ。
「……私と違う道に行っちゃうのね」
「夢を叶えるためなら……仕方ないだろ」
「人の身を捨ててでも叶えたい夢ってなに?」
「……お前に勝ちたいんだよ。それが私の夢。……悪いかよ」
霊夢はシワの多い顔を悲痛に歪めて続けた。
「……それなら、今すぐこのシワシワの首を絞めてしまいなさい。それでアンタの夢は叶うんだから」
「そんな訳ないだろ!私はお前に何も勝てない!人として、妖怪退治の専門家として、人徳だって!」
ムキになって言い返す私に霊夢が言葉を返すことはなかった。
私もバツが悪くなって霊夢とはそれっきり会わなかった。
それが最後の会話になると知らなかったから。
程なくして霊夢は老衰で死んだ。
幻想郷中から霊夢の葬儀の参列者が集まった。
私はその中にはいなかった。
夢が死んで、理想が潰えて、最後に私の元に残ったのは哀れましいだけの長命と二度と叶わない夢の残骸だけ。
流れた涙で滲んだ視界の中で流星を探すけど、あの日見せた星はもう夜空には無かった。
全てが終わって、私も終わったその後に。
もう一度巡り会うことができたのなら。
私は今度こそお前と一緒に人生を添い遂げたい。
『わたしの名前は霊夢!博麗霊夢!あなたは?』
『私……?私のなまえは――』