とあるキャメロット船籍のベレリアント半島封鎖突破船内で自然発生した歌
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今日は小唄を口遊み、特配のラムを飲もう!
なぜなら覚悟が必要だからだ!
命をかけて積荷を届けに行かねばならないから!
握手しておくれ、その白き手で。
元気だったかい、美しいエルフよ。
元気で!かならずまたくるから!
そうとも俺達は、そう俺達はエルフィンドへ積荷を届けるから!
俺達の聖なる旗は帆柱にはためいて、
キャメロット船乗りの気概を宣布する。
この聖なる旗の閃くはもはや俺達の意地のみだから!
握手しておくれ、その白き手で。
元気だったかい、美しいエルフよ。
元気で!かならずまたくるから!
そうとも俺達は、そう俺達はエルフィンドへ積荷を届けるから!
俺達がオークの前に散ったと沈没の報が届いたら、
可愛いエルフよ、少しでいいから悲しんで欲しい。
愛しいエルフの為にその血は流れたんだと。
握手しておくれ、その白き手で。
元気だったかい、美しいエルフよ。
元気で!かならずまたくるから!
そうとも俺達は、そう俺達はエルフィンドへ積荷を必ず届けるから!
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※元ネタは『英国征討歌』だそうですw
こんな感じで2回目の封鎖突破もなんとか上手くいった。
正直にいうと俺の腕が良かったわけじゃない。
運だよ、運。
ただ努力によって引き寄せた運だ。
ミスターMをはじめとする新エルフィンド派の情報収集と、オルクセンの情報収集への妨害活動。
後は事前に思いつく限りことを準備してきた俺達が引き寄せた運だな。
最もそれでも引き寄せたのは運全体6割ぐらいで、残った4割の運はさっぱりわからねえ(笑)。
きっと神様と可愛いエルフがくれた運だったんだろう。
ただ流石に3回目はもう無理だと思った。
俺達は2度ともベレリアンド半島北端部に荷揚げしたが、流石にオルクセン側も意地になって警備を強化すると思うし、なにより荷役の効率が悪すぎる。
下手すりゃ1回目の積荷はまだ必要とされる場所に届いていないんじゃないかと感じるほどだ。
2回目の積荷は・・・まだ大半があの海岸だろうとも思っていた。
なので、もしまたやるとしたらまだ生き残っている港湾都市である東海岸のタスレンか西海岸のノアトゥンに行くべきだが、流石にそこにたどり着ける自信は全くない。
俺達は騎士ではなく単なるこそ泥だからだ。
で、そんなことを考えてつつ、船の整備点検にいそしんでいたらミスターMがログレスからやって来て残った報酬の半金を払ってくれた。
俺はそれを気前よく船員達にばらまいた後、船長室でミスターMに正直に
「流石にもう無理だ、運ぶだけならやれないことはないが、運んでもまともに運び出す手段が向こうにないんじゃ全くの無駄だ」
というとミスターMはニヤリと笑い、
「その通りです。なのでエルフィンドからもしっかりとした港湾設備と鉄道が整っている港にしてほしいと、戦争前までの上から目線が嘘のような低姿勢でのお願いをされています」
と言った後、鞄からえらく立派な封筒を取り出し俺に差し出して「お読みください」と言った。
俺は嫌な予感をさせつつ封筒を開けて中身を読むと、天井を見ながらつい叫んじまったよ。
「ここまでやるかぁー!!」ってな。
2週間後、俺と『愛しのエルフ』号は、なんとわがキャメロットの首都であるログレスからエルフィンドへ向けて出港していた。
マストに掲げられているキャメロット国旗の上に『赤星十字社』旗を掲げてな。
その時の俺の立場は『赤星十字社』に雇船されたキャメロット船籍船の船長だ。
そして肝心な名目は『ベレリアンド半島残留外国人救出船』だ。
エルフィンドが公式に外交関係を結んでいる国家は我がキャメロットのみだったが、神秘に満ちあふれたエルフの国へと旅行に行く金持ちは極めて少数であるが存在していた。
オルクセンに併合された今はかなり増えたよな、そういった連中。
しかし当時外交関係があった国家はキャメロットのみだったから、キャメロットの旅行会社の手配によって、キャメロットを経由してエルフィンドに旅立つことになっていたんだが、その極少数の旅行者が今回の戦争に巻き込まれた。
幸いというと叱られそうだが、俺達キャメロット人の旅行者や仕事でエルフィンドに行っている連中は、外交関係があるおかげで向こうに設置されている駐箚公使館が必死になって保護したり、各当事国に対して保護を要請したりしていたが、問題はキャメロット人以外の極少数の旅行者だった。
保護を要請したり、保護を求め駆け込むべき公使館が存在しない。
キャメロット公使館はキャメロット人のために存在しているので、こんな大騒ぎの中、外国人まで助ける余裕は一切無い。
更に言葉の壁もある。
当然のことながら旅行者は一般市民なので、運が最低なほど悪くて前線近くにいてしまった連中は白エルフの避難民と一緒に逃げ惑う有様。
逆に最前線に行ってオルクセンに保護を求める豪の者なんているはずないし、そもそもその前にどっちかに撃たれて終わりだ。
なので、気がつけば赤星十字社の連中がキャメロット人以外の外国人保護に当たっていたらしい。
そうしたキャメロット人以外の旅行者や残留キャメロット人…最初はエルフィンドに留まるつもりだったがあまりの戦況の悪化によりエルフィンドからの脱出を選んだ連中を、この俺と『愛しのエルフ号』でグロワール経由でキャメロットに脱出させるという話しだった。
キャメロット政府と赤星十字社の共同要請で。
さらにオルクセン側にも交渉の上で了承を取り付けていたので今までと違いこそこそせずに堂々と航海ができた。
とどめとばかりに日程と航路、さらに船名と船型等もオルクセンに事前通告した上での航海なので、航路から外れず、日程通りに航海していれば、なんと途中でオルクセン海軍と遭遇しても船名を伝えれば臨検もなしという、これまで2回と比べれば天国みたいな航海という話しだった。
それにしても一体どんな手管を使ってこんなことをオルクセンに認めさせたのかと思うと、オルクセンの連中に同情しちまいそうだったぜ…。
そしてこの臨検なし航海でどさくさに紛れて船倉にたっぷりと積み込んだ硝石をエルフィンドに届ける訳だ。
しかも目的地の港は荷役設備が整い、鉄道も通っているベレリアンド半島西岸のノアトゥンだ。
さらに報酬も今までと同額!!
笑いが止まらなかっぜ!
と思っていた俺を殴りたくなったぜ…。
3回目の航海に出て、あと丸一日位でノアトゥンに到着するところで海賊…オルクセン海軍と遭遇して、取り決めは何処にいったと思うぐらいの停船信号と当てる気が満々の威嚇射撃の前に慌てて帆を畳んで停船。
『愛しのエルフ号』は風が強く、それなりに揺れる中で漂泊。
そしてそんな俺の船の隣には『愛しのエルフ号』より一回り小さいオルクセン軍の帆船が同じく帆を畳んだ上で接舷していて、こちらと渡り板で繋がれている状態だ。
臨検なしって話は本当に何処行ったんだよ…と心の底から思ったよ。
でもってこちらの甲板の上で、今回の救出船運航の保証人である我が国の外交官と、運航責任者である赤星十字社の上級社員とが、向こうからやってきたデカいコボルトのオルクセン士官と睨み合い。
そのオルクセン士官の後ろには武器をもったオークやコボルト、ドワーフのオルクセン水兵が幾人も。
もちろん向こうの船に残っているオルクセン水兵達も武器をもっていて、大砲を含めていつでもこちらに向けられる様に待機中。
とはいえこちらも黙っている訳ではなく、外交官と赤星十字社の上級社員の後ろには、外交官の護衛役である我が国の海兵隊10名程が武器をもって整列中。
そんな中で臨検させろ、させないで睨み合い。
外交官と赤星十字社の2人がオルクセン外務省が発行した、向こうの外務大臣が署名発行した航海許可書や、さらにそれを本物であると保証した今回救出される外国人のそれぞれの母国の各駐箚キャメロット公使がサインした保証書をいくら見せてもガン無視。
我が国の海兵隊員達が護衛として乗船しているのも本物の証拠だ!と言っても、書類も海兵隊員達も本物である証拠がないの一点張りで臨検の実施と場合によっては拿捕をちらつかさせている。
ちなみに海兵隊の指揮官である中尉は、偽物扱いされた時点で一戦交えるつもりになったが、俺が肩を叩くと落ち着きを取り戻し、我慢してくれた。
とはいえ、向こうの様子も『あれ?これはマズくないか?本物?まじ本物?こんな船がなんで運航されているの?聞いてないぞ!!』という雰囲気が漂い始めている気がしたな。
おそらく、本当にこんな外国人脱出船が運航されていることを知らず、赤星十字社旗とキャメロット国旗を掲げている怪しいどころでない船を問答無用で威嚇射撃の上で停船させて、ボートを使って乗り込まずに、乱暴この上ない接舷移乗して臨検しようとしたら、オルクセン唯一の友好国といえるキャメロットの外交官や、完全中立である赤星十字社の上級社員。
果ては完全武装のキャメロット海兵隊員まで乗っている。
向こうも困ったろうな…。
まぁそれもフリで実際には上からどんな言いがかりでもいいから臨検してこいと命令されているかもしれなかったがな。
とはいえ、こちらも船倉にたっぷりと御禁制といえる硝石を100万ポンド(約500トン)積んでいるから臨検させる訳にもいかないし、そもそもそれ以前に面子の問題から絶対に臨検させる訳にはいかない。
もし臨検させてしまったら洒落にならない外交問題になる。
こちらとあちら、両方の外務省の面子丸潰れ。
そして面子を守る為に相手に責任があると喚かなくてはならなくなる。
流石にそれは避けたいので、我らが外交官と赤星十字社の上級社員殿は努力したわけだが、面子があるのは向こうの船も同様。
ここで何もせずに退いたら水兵達の士気と艦長とこちらに来ているコボルト士官の面子に関わる。
なので向こうは臨検した上で『異常なし!大変失礼致しました!無事な航海をお祈りいたします!』としたかったんだろうけど、繰り返しだが船倉には御禁制品がたっぷり。
臨検させる訳にはいかない。
さて、もう停船してから2時間たったな。
俺達にとっての白馬の騎士はやってこない。
相変わらずこちらの甲板では睨み合いだが、オルクセン側も強制的な臨検だけは避けようとしているのがみえみえな有様になりつつある。
移乗直後の上から目線の臨検命令からだいぶ変化し、はっきりとは言っていないし態度も口調も変わってないが、わかる奴からすると『お願いします!臨検させてください!少しでいいんで!何卒!何卒!』という懇願に変わってきている。
なのでこの『愛しのエルフ号』の船長としては白馬の騎士が来ないのならば両方の間をとり、船長室のみ臨検…航海日誌、船員名簿、乗船名簿、偽造している積荷書類をみせてオルクセン側の面子を保たせるかと考えていたところで、汽笛が西から聞こえた。
そして見張りからの
「本船180度にマスト見える!」
に続いて
「先ほどのマストは我が国の装甲艦!接近しつつある!!」
との声が降ってきた。
キャメロット語が話せるコボルト士官はびっくりしているのが丸わかりで、オルクセン艦のマストトップの見張り台からも声が降ってきている。
向こうの艦橋にいる艦長らしい奴が慌てて、向こうの船からするとほぼ真正面の0度の方向に俺達よりずっとでかいサイズの双眼鏡を向ける。
もっともでかいオークが持っているから、注意してみないと俺達のプリズム式双眼鏡と同じサイズに見えるがな(笑)。
俺はゆっくりと180度の方を…船尾の方を双眼鏡でみると、まだ距離はあるが間違いなく我が国の装甲艦が、白馬の騎士が真っ直ぐこちらに向かってくるのが見えた。
来るのおせーよ。
予定じゃこっちから1時間の距離を保って航行しているはずだろうに…と思ったが、こちらが予定していた9ノットより速く進んでいたせいだよな…とも同時に思った。
そうしているうちに我が国の装甲艦…海外植民地や居留地の警備防衛を目的として試験的に建造された最新型装甲艦『ロードエンド号』だ。
まだ出来たてホヤホヤ。
今回は完熟訓練を兼ねて『愛しのエルフ号』の護衛についていた。
我が国の親エルフィンド派、やりすぎどころじゃねよな…やっぱり。
まぁ護衛といっても『愛しのエルフ号』と同航させる訳にはいかないし、そもそもエルフィンドの港に入るわけにもいかない。
なので『愛しのエルフ号』から見えない位置で、こちらに何かがあれば1時間程で追いつける位置を続航し、ノアトゥンの沖合25海里(約46km)付近で待機し、帰りも1時間ほどの距離を保って続航する手筈だった。
だがこちらが9ノット位と想定していた速力が10ノット近くでてしまっていたのでは、少々離れ過ぎてしまっていたわけさ。
そしてオルクセン側としてはチェックメイトになっちまった訳さ。
今まで以上に面子や水兵の士気を下げない為に、装甲艦がきたからといって今さら逃げるわけにもいかないし、臨検を強行したら目の前の装甲艦がなにをしてくるかわからない。
数門の小型砲で武装している武装商船といえる木製帆船が、大口径砲や小型砲を多数搭載した装甲艦になんか勝てる訳がない。
向こうの艦長は堂々としているが内心は『どーしてこーなったぁ!!』と泣き叫んでいるだろうな…。
とはいえこちらの装甲艦もオルクセン側が何かするまで何もできない。
というかしてはいけない。
なにせ中立国だし、各国から戦闘海域として見なされている海域で中立国側が戦争当事国の軍艦を沈めるなんてことが起きてしまったら外交官達にとって悪夢どころじゃないだろう。
つまり誰がケツをまくらないと睨み合いのままになるという奴だ。
なのでこの場にいる俺が…意外な事に最も中立に近い立場である『雇われ船長』である俺がやはりなんとかしないといけない訳だ。
とはいえ船長室みせて、はいおしまい!だけでは流石に向こうの面子が立たないからちょっとアレンジが必要になったがな。
ため息が出ちまうぜ。
俺は海兵隊の中尉の肩をもう一度軽く叩いてから、一等航海士にちょっとしたお願いを耳打ちをしてから、
「私はこの雇船の船長ですが、私の権限で船長室のみならば我が国の海兵隊護衛下で立ち入りと検査を許可します。ただし双方共に私を含めて3名までです」
とコボルト士官に提案すると、人間族からすると表情がわかりにくいコボルトなのに、俺から見ても喜色満面なのがわかる表情になり、条件付き臨検に同意。
外交官と赤星十字社上級社員は、渋々といった様子でそれに同意。
俺が先頭で大して広くない船長室に案内し、オルクセンのコボルト士官と水兵2名と、キャメロット側である俺と俺の護衛役である海兵隊中尉に海兵1名が室内に入り、形ばかりの検査を開始。
そん時の部屋はオークのでかさから更に狭く感じたぜ。
コボルト士官が航海日誌、船員名簿、乗船名簿を確認した後、数点だけ質問し、さらに怪しさ満々の積荷書類パラパラとめくってから
「やはり積荷の確認はできませんか?」
とダメ元で言ってきたので、
「そちらの外務大臣閣下が我が国の政府並びに赤星十字社と積荷不検査に同意していますので私の権限では無理です」
と、あなたのせいではなく、あなたのところの外務大臣がいけないんですよ〜あなたには責任はありませんよ〜というニュアンスを込めていうと、
「確かにそうですね。失礼致しました。積荷検査については今回は断念します」
と面子を保つようなことをいって、これでハイおしまい!となるところで2頭いる内の1頭のオルクセンオーク水兵が壁に吊るしている俺の宝物である二角帽をじっとみて
「エルフィンドの帽子だ」
とつぶやきやがった!
この時だけはオルクセン語も覚えていたのを変な意味で後悔した。
そしてその瞬間、コボルト士官が拳銃を抜き、それに合わせてこちらの海兵隊中尉も拳銃を抜き、さらに双方の水兵海兵隊員も銃を構えて双方に突きつける有様。
狭い船長室が一触触発だったぜ全く…。
俺は極めて明るい声で、
「おいおい、こんなところで2国共同臨検訓練をされても困るぜ」
とわざと普段の口調に戻してから壁に吊るしてある二角帽を手にとって、帽子のことを指摘した銃を構えているオーク水兵に帽子を無造作に差し出しながら
「よく知ってるな。こいつは俺がガキの頃にエルフィンドの士官から貰った宝物だ。それにこの船の名前忘れたのか?『愛しのエルフ号』だぞ。この帽子、なかなかいい作りだ。見てみるかい?」
と言いながら、海兵隊中尉に目配せすると、
「降ろせ」
と短く言いながら拳銃をしまい、海兵隊員も銃を降ろした。
それに合わせてコボルト士官も「降ろせ」といいながら拳銃をホルスターにしまい、水兵2頭も銃を降ろし、俺が帽子を差し出しているオーク水兵はコボルト士官の方をみつつ、おずおずという感じで二角帽を丁寧に手に取り、それを感心したような声をあげながら眺めていた。
もう1頭のオーク水兵の視線も俺の宝物に釘付けだ。
オーク水兵はしばらく眺めたあとに「ありがとうございました」と言って丁寧に二角帽を返してくれた。
そしてコボルト士官が「大変失礼いたしました…」と言いながら頭を下げようとしたので、それを制する様に
「見事な臨検訓練だったぜ!こっちの海兵隊もすげぇ動きだった!良いものみせて貰ったぜ!」
と極めて明るくいうと、コボルト士官は頭を下げるのを止めて、綺麗な敬礼を俺達向かってしくれた。
オーク水兵2頭もそれに続いて敬礼してくれた。
こちらの海兵隊も返礼をしていた。
積荷のことを考えると、正直心が少し痛んだぜ…。
その後全員で甲板に上がり、これで解散!となる直前に、一等航海士に耳打ちして船倉から木箱ごと持ってこさせた俺の愛酒である『キャメリッシュ・ブラックバーン 12年物』を1ダース、12本を『戦利品』として御進呈だ。
これが『アレンジ』だったのさ。
これて向こうの艦長やコボルト士官も水兵達に面子が立つだろ?
『怪しい船を見破った艦長達は、敵の装甲艦にもひるまずしっかりと戦利品をせしめた』と。
だが実際には民間船船長からの『航海に関する注意助言への御礼ノ品』なので略奪品でもなく、国際法的には全く問題ない。
俺も航海日誌にはそう書く。
問題はどこにも存在しない。
コボルト士官は『御礼ノ品』を頂いたことを報告する先触として1頭のオーク水兵を先に自分達の艦に戻してから、感謝の言葉を述べ、もう1頭のオーク水兵に『キャメリッシュ・ブラックバーン』が12本入った木箱を持たせて艦に戻っていくと、何故か5分程でまた戻ってきて、たいそう高そうな葉巻が入った箱を俺に手渡しながら「艦長からの返礼品です」と言い、俺がそれを受け取ると敬礼をして船に戻り、渡り板が今度こそ外された。
そしてその後、双方共にボートを降ろし、ボートでそれぞれの船を引っ張って引き離してから共に帆を広げ、先程までとはうってかわり、それぞれが手を振ったり敬礼して別れた。
本当に心が痛んだぜ…。
船倉にはあんたらの同胞を殺すための火薬の原料がたっぷりと積まれているのにな・・・
そしてその間に、少し離れた場所で漂泊していた装甲艦『ロードエンド号』に手旗信号で状況を報告し、再びノアトゥンに向けて出発し、翌日の昼過ぎには大型船が殆どいない閑散としたノアトゥンに到着した。
ちなみに向こうの船からもらった葉巻は頑張ってくれた外交官殿と赤星十字社の上級社員、そして海兵隊達に全部やっちまった。
みんなすげぇ喜んでいたぜ。
ただうちの船員から少し不満が出たので、残っていた俺のキャメリッシュ・ブラックバーンを全部特配として飲ませると不満の声が賞賛の声に変わりやがったよ(苦笑)。
ノアトゥンには何度も来たことがあったが、今まで最低でも2~3隻は停泊していた大型船が1隻もおらず閑散としていた。
もちろん海運大国であるキャメロットのあちこちの主要港に比べるのなら田舎の港という規模だが、これでもエルフィンドでは最大規模の港の1つ。
それでもまだ大型船が何隻か停泊して、荷役をしていたりとそれなりに賑やかな港だったんだが、その時のノアトゥンは中型船が1隻に沿岸航海専門の小型内航船が3隻程停泊しているだけで、それらも荷役をしているというわけではなく、本当にただ停泊しているだけだった。
港が死んでいたぜ・・・。
汽船ダグボートが2隻で素早く作業に当たり、今まで着けたこともない一等いい場所の岸壁に『愛しのエルフ号』が着けられると、まずは全力で荷役を開始。
戦況が悪いにもかかわらず相変わらず威勢のいい白エルフの沖仲仕達が、『愛しのエルフ号』のマスト転用デリックや岸壁のクレーン、さらには担ぎで硝石をどんどん降ろしていく。
倉庫に一旦しまうようなこともせずに岸壁上の線路に止められていた有蓋貨車にどんどん積んでいく。
10両分ほど積み終わると沖仲仕達が手押しでクソ重たい有蓋貨車を押して移動させ、1両ずつ貨車用の小型手押し転車台に載せて方向転換させて、機関車が待っているであろうところに押していき、また別な沖仲仕達が空の貨車を10両ほどをまた手押しで持ってくる。
すげぇ速さだったぜ。
俺達人間族であの速さでこなせるとは思えねえ・・・
手空きの船員達は呆然としていたぜ。
ただこの手は積荷が硝石だけだからできた手だな。
これが硝石の他にも分解した工作機械や、銃砲弾そのものを積んでいたら整理確認のためにしっかりと確認しつつ、一旦倉庫に収納して必要とされる場所に送り込まねぇと拙いが、硝石だけだからすぐに鉄道で火薬工場に直行だったんだろうな。
前回の積荷は本当にどうなったんだろうか・・・。
そんな感じで俺達はこの時は全く出番がなく、書類と照らし合わせたり、デリックの操作ぐらいで直接の荷卸しは全部白エルフ達がやってくれた。
だからさっき言ったとおりに呆然とする余裕もあったわけだ(笑)。
そしてそれを脇目にうちの外交官と赤星十字社の上級社員はエルフィンド指し迎えの馬車に乗って在留外国人の元に向かっていった。
2人が出て行って2時間ほどすると赤星十字社の上級社員だけが慌てて戻ってきて、俺にとにかく来てくれと強引に馬車に積み込んで連れて行かれた先には・・・年端もいかない白エルフ達の子供達が山のように・・・というと大げさだが50人ほどはいた。
正直、大人の白エルフが1人もいないことでに察しがついていたが、淡い希望をもって「この子達は?」と尋ねると赤星十字社の上級社員は
「大半が家族とはぐたり、親が死んだ白エルフの子供達です・・・。逃げ惑っていた在留外国人達が途中で『見捨てられない』と自身の身の危険も顧みず保護したり・・・あと少数ですが出征する白エルフ兵が赤星十字社や、極小数ですが赤星十字社と共に救護活動にいそしんでいる聖星教に財産全てを置いて『この子だけは・・・』と預けられた子もいるようでして・・・」
それを聞いて目を覆っちまった。
白エルフ達自身は子供を産まない。
彼らが聖なる木だと信奉している『白銀樹』の根元にある日突然、前触れもなく赤ん坊がいて、その赤ん坊を保護し育てるという。
なので『家族』という意識が薄く、個人を除いた最小の利益共同体は『家族』ではなく、白銀樹に寄り集う『氏族』だそうだ。
でその氏族にも強弱があると。
ただそれでも親しい者同士では『姉』『妹』という仲になるし、赤ん坊を育てる奴もそれなり以上の慈愛を持って育て、育てた者は『姉』、育てられた者は『妹』となるそうだ。
マルシャルさん、そうだよな?
で、そんな白エルフ達だから戦場近くに子供が1人でいたということは、育ている姉が死んだり、混乱ではぐれたり・・・ごく少数は見捨てていったんだろうな・・・。
そして人間族が主体である赤星十字社や聖星教に全財産置いて子供を託したということは、弱小氏族全てが一斉に徴兵されたりしたか、先に徴兵された者達が尽く・・・で次は自分が徴兵されたが頼れる者が既に誰も残っていなかったといった状況なんだろうな。
それにしても自分達も命がヤバイという状況で、足手まといになることは確実の、言葉も違う、見ず知らずの異種族の子供を保護するとは・・・避難民の皆さん、本当に高潔であること。
まぁ中には・・・白エルフの子供だ・・・よからぬことを考えている奴もいるだろうがな。
そして船長であるこの俺がここに連れてこられたということは・・・
「エルフィンド政府とキャメロット政府、そして赤星十字に聖星教の承認は既にとっているそうです。この子達をキャメロット本土に一緒に避難させて頂くことは出来ませんか?」
俺はもう一度目を覆っちまったよ。
とはいえ『キャメロット船乗り随一のエルフ狂い』といわれている俺だ。
不安げにいる年端もいかない白エルフの子供達を前に『No』なんて言えるはずがねえ。
そしてもし気の迷いで『No』と言っちまっていたら、キャメロットに帰り次第、兄貴に殺されていたことは間違いなかったからな。
俺は「追加船賃とこの子達の寝床代わりにする毛布を1人当たり3枚なんとか手配してくれ。航海中の食べ物はこちらで何とかする」と言うと、無言で握手を求められたよ。
とりあえず先に1人で馬車に揺られて港に戻ると、接舷移乗された際に船体が傷んだ可能性を調べている船匠担当の船員2名を除いた全員を集め、客が50人ばかり程増えること、その客は年端もいかない白エルフの子供達であることを伝え、すぐに追加の食料の調達や空きつつある船底を最低限でもいいので子供が少しでも出入りしやすくなるように改造するように指示を出した。
船員共は気合いの声を上げてすぐに散っていった。
流石は俺の部下達だぜと心の底から思ったぜ(笑)。
とはいえ戦況がどんどん悪化しているエルフィンドでは食料の集まりは悪く、毛布も赤星十字社や聖星教の連中が2日ほどかなり努力しても1人当たり1枚程度しか入手できなかった。
1週間ほどあればもう少しマシだったんだろうが、軍隊が大量の毛布を必要としている状況じゃ、この寒い中のたった2日で1人当たり1枚を手に入れられただけでも御の字と言えたのかもしれねぇ。
船の方は船匠を先頭に船底倉庫が改造して、出入りしやすくなったどころか、ハンモックが大量に吊せるような改造までされ、ハンモック自体は・・・かなり危険だったが予備の帆や予備のロープを切って簡易ハンモックとした。
独航なら絶対にやらないが、沖合で待機している『ロードエンド号』がいてくれたから出来た手だ。
いざとなっても助けてもらえるし、曳航してもらえるからな。
そしてハンモック作りにはノァトゥンの一般市民の白エルフ達が全力で協力してくれた。
分厚い帆布にも負けない鋏と針と糸を沢山の白エルフ達が持ち寄り、ガンガンと小さい子供用のハンモックを作ってくれた。
例え小さい子供であっても国から逃げていく連中のためだというのに、手を一切抜かずに、急ぎつつも出来るだけ丁寧に作っていく。
さらには手持ちの材料でぬいぐるみなんかも作ってくれたりしたよ。
そんな光景を見て、既にエルフィンドの行く先に思うところがあるんだろうな・・・と思った。
そして到着してから4日目の朝には当初予定していた残留外故国人24人と白エルフの子供の難民53人を客として出航しようとしたんだが・・・直前にトラブルが起きた。
1組のキャメロット国籍の夫婦が乗船直前で乗る乗らないで揉め出しちまったんだ。
ちなみに正確にいうと奥方は白エルフだったがな。
まだチェックが終わっていない乗客名簿を見ると旦那さんの方は『エドワード・ロンズデール』と記してあった。
結局その2人は乗るのをやめちまった。
外交官も一緒になって奥方を説得しようとしたんだが駄目だった。
予定より30分ほど遅れて『愛しのエルフ号』は、沖仲仕や税関職員といった港で働く白エルフ達に盛大に見送られ、汽船ダグボートに引っ張られ、押されて外洋にでて帆とを張り、一路まずはグロワールへ。
すぐに『ロードエンド号』と合流し、今度はロードエンド号が見える距離で・・・8海里(約15km)程の間隔で続航してもらったよ。
流石にまた臨検されるのは御免被りたかったからな(笑)。
途中、どうも海賊船ではなく、オルクセン海軍の正規艦が見えるか見えないかの位置で追跡していたが、50海里(約93km)も行かないうちに見えなくなった。
途中でよっていくキャメロットとアルビオン海峡を挟んだサン・ピエール港まではだいたい355海里(約660km)ぐらいで、平均12ノット(時速 約22km)でほぼ丸一日の航海だった。
その間、ベレリアンド半島を離れるほど不安がって泣き出す白エルフの子供達は、脱出外国人の皆様や海兵隊諸君が男女問わず聖母?が如くに慈愛に満ちた様子で相手をずっとしてくれていたよ。
サン・ピエール港に着く直前に『ロードエンド号』と別れ、キャメロット以外の避難民の各国外交官が待っていた港に到着すると、キャメロット人以外の避難外国人はみんな名残惜しそうに降りていった。
甲板に出ていた子供達も別れる寂しさで何人も泣いていたよ。
で、問題はその際に俺にそれなり以上の金を『この子達のために』といってそれぞれが1人残らず置いていったことさ。
夫婦で避難してきた奴らは夫婦でそれぞれにといった感じでな。
というか、1人ですらよからぬことを考えていなかったことにも驚いちまったがな。
だけどまぁなぜ俺に預けるんだよとも思ったよ。
困った俺は、翌日ログレスへ向けて再出航する前に外交官と赤星十字社の上級社員を呼び、まず預かったかなりの額になる金を渡して、更に俺の金庫からこれもそれなり以上の金を2人にそれぞれ別に渡した。
そして2人に向かって言った。
「2人に金庫から出して渡した金は俺の財布から出した手間賃だ。何に使ってもいい好きにしてくれ。だがこちらの募金は1枚の銅貨も欠けることなくあの子達のために使ってくれ。頼む」
と言って頭を下げると、2人はお互いに顔を見合わせた後、外交官がニヤリと笑い「ではお言葉に甘えまして好きに使わせて頂きます」と言ってから2人揃って募金と一緒にしやがったよ。
翌日、ログレスに向けて出航し、74海里(約136km)を平均10ノット(時速 約18.5km)で航行し、8時間ほどでログレスに到着。
派手な出迎えこそなかったが、ミスターMを含めたそれなりの数の人間が出迎えてくれたが、お忍びだったが王族ですら出迎えの中にいらして驚いちまったよ。
もちろんログレスに到着したときも、半端ない金額の募金が俺に渡されたよ。
で、航海の後始末をしつつ『ロードエンド号』に特上のラムを10樽に、オルクセンの艦長からもらったのと同じ葉巻を1箱、ロードエンド号艦長に送る手配をしてから母港に戻ったよ。
ん?その子供達がどうなったって?
何年かキャメロットのしっかりとした施設で生活してから、オルクセンと協議の上でベレリアンド半島に帰っていったよ。
幸いなことに1人も欠けていなかった。
ちなみにその送還事業の航海を担当した船の船長が俺で、キャメロット側の責任者である外交官と赤星十字社の担当者、そして『海賊対策』と向こうでの式典に必要だということで警乗していた海兵隊員達もあのときのメンバーだったよ(笑)。
海兵の中には予備役になっていた奴もいたそうだが、志願して一時現役復帰したぐらいだったぜ。
とまぁこれが3回目の航海さ。
成功した秘訣は・・・外交官と赤星十字種の上級社員、そして海兵隊中尉が俺のことをトップとして指示に従うと乗船時に宣言し、それを守ってくれたおかげだったな。
なので俺がトップであると隠したまま、『雇われ船長』の提案を『責任者である』外交官と赤星十字社上級社員が渋々認めたことと、海兵隊中尉が偽物扱いされたとき、肩を叩いただけで我慢してくれたことだな。
後は・・・オルクセン人のマルシャルさんにこういうのは失礼だが、オルクセン側が途中で退いちまったことだな。
こっちで最初のうちに戦力と言えるのは海兵隊の人間族がたったの10人。
ロードエンド号が到着する前に強引に船倉を覗いちまえば、後はなんとでも出来たはずだが、中途半端な行動が駄目だったな。
3回目の航海でした。
予定外が一杯w