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こんな感じで3回目の封鎖突破・・・と言っていいかわからないが、ベレリアンド半島への輸送は成功したわけだが、この頃で既に星歴876年10月26日に開戦してから4ヶ月はたっていたな。
ちなみに3回とも成功の秘訣を言ったが、繰り返しだがとにかく運が良かったことが最大の成功要因だったな。
なにせまだ一度も16ノット(時速 約30km)を出せるキルシュバオム型に遭遇していなかった。
ただこの頃までにはエルフィンド海軍は、俺達が1回目の突破をおこなう前にキーファー岬沖海戦で残存していた艦隊を全て失い、最後の残存艦艇2隻も俺が3回目の航海を終えた後に沈められたことがミスターMから伝えられた。
つまりだ、これまではエルフィンド海軍残存艦艇捜索のためにオルクセン海軍はあちこちをうろちょろしていたわけだが、これで全艦艇をベレリアンド半島封鎖に投入できることが出来るようになったわけさ。
だがうちの海軍や親エルフィンド派は正反対のことを考えた。
『沈めるべき艦艇を失ったオルクセン海軍は、艦艇の整備休息のために一時的にではあるが行動が不活性化するだろうと』
で、すぐに俺に4回目の封鎖突破の打診をしてきたが、流石に2回目と3回目の封鎖突破で俺の船は面が割れている。
陸を経由した情報伝達でそれぞれの海賊船には情報が完全に伝わっているだろう。
次は容赦なく『当たってもしかたないよね』という威嚇射撃が加えられることは間違いない。
しかも冬がそろそろ終わる時期は風も弱くなる。
つまり『愛しのエルフ号』の足は遅くなるから、逃げ切ることが難しくなる。
密輸船の常套手段である夜間突破も魔種族の夜目のことを考えるとできない。
なので俺はミスターMに事細かに理由を説明して丁重に4回目はお断りし、兄貴へも電信を打ってもう無理だと言うことを伝えた。
だがそれを伝えた3日後になんと兄貴とその従僕が1名とミスターMが一緒に北西部の港にいた俺のところにやってきて、有無を言わさず列車に押し込めた。
列車の中では俺は兄貴とミスターMに何がどうしてこうなったのかと、機嫌が悪かったのでずっといつもの口調で質問しまくったが、二人ともはぐらかすはぐらかす。
なんで途中で諦めてふて寝しちまったよ。
ただ翌日の昼過ぎにはログレスに到着し、ホテルで一泊した後、朝にまた列車に詰め込まれて本島東部のとある造船所に連れて行かれると、見事なほど綺麗な鉄製と思う船体の蒸汽船が1隻岸壁に停泊していた。
しかしちょっとみると少しおかしいことに気がついた。
俺は兄貴とミスターMに向かって
「こいつは商船じゃねぇよな?軍艦だよな?」
と尋ねると流石という感じで笑いながらミスターMは肩をすくめ、兄貴は「大砲が付いていないから軍艦ではない」と言いやがった。
そう兄貴に言われてもう一度船体をしっかりと見ると、確かに大砲どころか大口径銃すら装備していない。
その後船内を検分させてもらったが悪い船じゃないが、やはり造りがおかしい。
商船の造りじゃねぇ。
いや、正確にいうと船倉は数カ所あるし、帆走できるように設置されている簡易マストと兼用のデリックも前後に2本ある。
甲板にもブリッジを挟んだ前後に簡易マストの根元に積荷を載せられるようなスペースはある。
造りが本当に商船としては不自然だった。
さらに後方のマストが商船としてはあり得ないぐらい高かった。
まるで少しでも速く、遠くの敵を発見するためのように高さだった。
間違いなくこれは軍艦だと。
検分を終えた後、町中のレストランに連れ込まれ、ここほどじゃないがしっかりとした個室に案内された。
なので兄貴とミスターMに質問をしまくると、兄貴は優雅にナプキンで口をぬぐった後
「あれがお前の新しい船だ」と言い、従僕が持っていた鞄の口を開けて、それなりの枚数の紙を俺に渡してきた。
このことはあと5年ぐらい早ければ話せなかったが、今ならもう話せる。
先ほど検分された船は、元々エルフィンド海軍の『通報艦』として建造されていた船で、それが開戦により進水式前日に『戦闘艦の建造は中立に違反する』と言う理由で工事中止。
3週間ほどそのままだったそうだが、その3週間の間にエルフィンド船籍の民間船がバカスカと海賊船共の餌食になったことから、親エルフィンド派がエルフィンド政府と交渉し、建造が止まっていたあの船を封鎖突破船に仕立てる様に説得し、親エルフィンド派が『建造費支払いが停止していたことにしたエルフィンド政府発注船を、債権として格安で買い取った上で、親エルフィンド派が予算を出したふりをしてエルフィンド政府が改造費を出す』という形で、キャメロット船籍の民間船として艤装をおこなったそうだ。
俺は船の詳細が事細かに記されている紙を読みながら
「そもそも通報艦なんて老巧艦がするべき任務を新造船を作って当てようとするとは贅沢じゃねぇか?最大設計速度が23ノットって・・・あと船体がでかすぎる。こいつもう巡洋艦だろ。通報艦のサイズじゃない。それにそもそも建造費も安すぎる。造船所、元が全然取れていないどころか大赤字なんじゃないか?手抜きされているレベルだろこれは」
というと、今度はミスターMが「元海軍軍人。やはり流石ですな」と言った後に
「海軍が影から建造費を援助しています。机上の空論を実証するためのテストヘッドの新型艦ということで格安での建造をエルフィンド側に提案し、当時のオルクセンで建造が開始されて先日竣工した、リョースタ級に対抗可能な最新型装甲艦に恐怖を感じていたエルフィンド海軍が『割引による低価格で建造でき、通報艦として単独艦で長期間行動でき、敵に発見されても逃げ切れるだけの速さを持った上に、相手が独行艦ならば躊躇せずに攻撃でき、艦隊決戦にも投入できる火力を持つ軍艦』ということで発注した船です」
といったのに続いて兄貴が
「石炭については心配するな。親エルフィンド派が全額持つ。しかも発見されにくいように煙が薄い無煙炭だ。お前は積み荷を運んで報酬を手にするだけだ」
とこっちが断る理由のカードを1枚潰しやがった!
なので俺はニヤリと笑い、兄貴も甘いと思いながらもう1枚のカードを切ることにした。
「兄貴、申し訳ないが機関士がいない。残念だったな」
翌日、俺は兄貴のことを莫迦にしたことを心底後悔した。
昨日もやって来た岸壁に停泊している船の前に『白エルフ』が10人ほど整列していた。
人間族じゃない。
正真正銘の白エルフ族だ。
そしてミスターMが「こちらのご令嬢の皆様が機関士」ですとにこやかに言いやがった。
俺は呆然としちまったよ。
そんな呆然としている俺に兄貴が
「全員が熟練の船員かつ機関士達だ。なにせ皆、私達の亡くなられた御祖母様よりずっと年上だ」
という。
俺は天を見上げちまったよ。
この時点で俺がこの船に、役割はなんであれこの船に乗って、エルフィンドへ向けていくことが決定したわけだ。
で、俺は1人1人白エルフ達を紹介された上で、『機関長』として紹介された白エルフや兄貴達と共にまだ何も置かれていない船長室に行き、話し合いとなった。
正直、汽船経験が殆どない俺としては船長はその白エルフの『機関長』に譲り、『新機関長』は他の9人の白エルフから選んでもらい、俺は積荷責任者である甲板長を兼任した副船長に収まろうとしたが、まず兄貴から
「この船はキャメロット船籍だぞ」
と一言だけいわれ、続けて当の機関長から
「釜のことは任せてください。それにあなたの方が3回も封鎖突破を成功させている。あなたに船長をお願いしたい。あなたならエルフィンドで待っている姉様や妹達に積荷を届けられると確信している」
と真剣そのものの声で言われちまったので、諦めて船長を引き受けることにした。
畜生。汽罐を始めとした機関部は全て任せたぞ。
ただ『船のならし』が済んでいないから、他の船員を集めることを考えても、早くても出港は2ヶ月後になるのではないか?というと、まず兄貴が
「お前の名前を勝手に使ってしまって申し訳ないが『愛しのエルフ号』に電信を打って、船の乗り換えを打診したところ『全員で向かいます』との返信がすでに来ている」
と言い、続いて機関長が
「船長、機関部の慣らしと石炭の積み込みは全て終わっています。キャメロットの支援で一度ドックに上げて、釜焚きとペラの空回しをはじめとする機械部の動作の慣らしをずっとしていました。釜回りに関してはある程度の不具合箇所は修繕済みです。後は実際に海で釜を焚いて、動作部分に負荷を掛けての点検のみですが、経験上不具合がでるのは少ないかと思います」
と言いやがった。
手回し良すぎだろ・・・。
翌々日、『愛しのエルフ号』がこちらにやって来て、新しい契約を28人全員と結ぶ。
正直、白エルフ達と合わせて俺も含めて39人は多すぎだろうと思ったが、見張りが多いことに越したことはないことと、28人全員が金以上に白エルフに目がくらんでいること、そして切実な理由としては帆船の時代がそろそろ終わることを察しているので、汽船の技術を習得したいということを28人全員が口にしたからだな。
なので副長である一等航海士を含めて、封鎖突破の報酬は結構安くなったが、不満は誰も口にしなかった。
まぁそれでも半端ない報酬だったというのあるし、白エルフに目がくらんでいたからな。
なので積荷の準備を待つ間に、造船所付近で船員と船の慣らし航海をし、最後まで残った問題点を出し、造船所の連中にそのたびに特急で修理調整をしてもらった。
ちなみにその時の試験航海での恥ずかしい話しなんだが、今まで経験したこともない19ノット(時速 約35km)に達したとき、船が滅茶苦茶振動しはじめやかっだんだよ!
もう『船体が壊れる!』とびびりまくって、機関室に「機関止めろ!すぐに停船だ!船が壊れる!」とブリッジの伝声管から指示を出すと、機関長から『ノー!大丈夫です!このままいきます!』と返事が来て、流石にそれはねぇだろう!この振動を感じていないのか!?船長は俺だぞ!!
と怒り狂いそうになったが、機関室から20ノットに達したという報告が来て少しすると不思議なことに振動が止んだ。
後で機関長が教えてくれたんだが、機械同士の動きが完全にかみ合うとあんな風に振動がでるそうで、船足を上げるか下げるかしてかみ合いをずらすと振動が止むそうだが、あん時は本当にびびったぜ(苦笑)。
ただそのおかげで俺は、通常時の最大船速は17ノット(時速 約31.5km)にしようと心に決めたぜ。
ちなみにその後、そのまま速力を上げていったが、最大船速は22ノット(時速 約41km)まで出せたので、積荷を積んだとしても20ノット(時速 約37km)は出せるとふんだ。
で、肝心の不具合だが、それなりにでたが大きな不具合はでなかった。
なので長くても2日ほど造船所の連中に金を積んでお願いした昼夜突貫の工事ですむ程度だったから時間的なロスもなかった。
その工事をしている間に、俺は人間族の船員の中でも口が軽い奴にわざと偽情報を『うっかり』と話し、それをオルクセン側が察知することを祈り、積荷の手配が整ったというミスターMからの連絡が来たので、造船所近くの港に移動し、積み込みをはじめた訳なんだが・・・ここでとても大事なことを関係者が全員忘れていたことに気がついた。
「船名はどうなっているんだ?」
俺はミスターMと機関長に尋ねると2人は顔を合わせてから無言で首を振りやがった。
俺は決めてなかったのかよ・・・と思ったが、保険申請時には船名が必要だが、今回も無保険航海だから今まで必要なかったことを思い出し、ドタバタしていたからな・・・とも思った。
なので俺は思いついた船名を口にしようとした瞬間、左舷を岸壁に着いている船をみて1つの悪戯を思いついた。
3日後、積み込みが終わった俺の新しい愛船・・・と言っても立場上は雇われ船長だが、港を出港していった。
両舷にはギリギリなんとか乾いてくれた船名がしっかりと記されていた。
今見える左舷には『白銀樹号』ってな。
3日間の間に口の軽い船員にまた偽情報をうっかりと話したり、ミスターMにお願いして新聞がすっぱ抜く形で俺達についての偽情報が混じった記事を載せるようにしたが、それらはかなり上手くいったようだった。
実際、新聞記事が出た出航前日の朝には俺達にあちこちからいろんな形で接触があったからな。
たぶんその時、キャメロットからオルクセンへ情報が流れていたとしたらこんな感じだったんじゃないかな?
『キャメロットよりキャメロット船籍の封鎖突破船が2隻出航間近。目的地は不明。両船共に汽船。速力は最大12ノット(時速 約22km)と推定』ってな。
航路としてはエルフィンド側が切羽詰まっていること、積荷がとうとう武器や弾薬類に変わったこともあり、3回目同様に荷役設備が整っているノアトゥンに向かうことにした。
ちなみに隠していても俺達のことは既にキャメロットの船乗りの間では有名になっていたので、本当近海で行き違う船からは挨拶を受けたので、しっかりと船名と共に挨拶を返していったぜ。
あ~情報漏れまくりだぜ(笑)。
ノアトゥンまでは欺瞞航路をとらず、ベレリアンド半島近海までは10ノット(時速 約15.5km)で一直線。
距離にして約370海里(約690km)だから、海賊達に一切遭遇しなかったとしても東にまっしぐらで丸2日間の航海だ。
1日目は何も起こらず、2日目の陽が昇って2時間ぐらいしてから南からこちらの進路を横切る形でマストが見えたという報告が来た。
すぐに舵を南西の方角に切って、一旦やり過ごす形に。
マストはすぐに見えなくなったというが発見されていないなんていう期待は抱くようなことはせず、1時間ほど進路をそのままにしてから進路を真東にして進んでいくと昼過ぎに北から南へこちらの進路を横切るような進路でマストが見えたという報告がまた入ったので、今度は北西に舵を取って1時間進んでから真東に転進。
しかし1時間もしないうちに今度は正面にマストをみたという報告が入った。
見張りが言うには今までと同じ形のマストだという。
完全にマークされちまったとその時は思ったさ。
続々と入る見張りからの報告だと、南から北へこちらの進路を横切るような形で進んでいると。
一瞬、また進路を変えるかと迷ったが、軍人時代に最後に乗っていた船の副長・・・船を下りた後に外交官になったと思ったら甥の上司になっていて、最近引退した方なんだが、その副長に海軍時代に散々『相手のマストが見えたときはあちらもこちらを発見したと覚悟しろ。自分達は敵に発見されていないことなぞ考えるな』と言われていたことを改めて思いだし、進路をそのまま維持することにした。
水平線にしっかりとその船が見えると向こうもターンし、こちらに向かって真っ直ぐ進む進路を取ってきた。
相手は機帆船だった。
ある程度距離が詰まってくるとまず旗旒信号で『L』を掲げて停船を命令を出してくる。
手旗信号が楽に見える位置になると、手旗信号でオルクセン軍艦であると名乗った上で『停船せよ』を繰り返し送ってくる。
今回は2回目と違って完全無視。
解答旗を半揚することもしない。
ただ『ワレ、キャロメロットセンセキ。ワレ、ヒブソウ。ワレ、ジユウコウカイチュウナリ』と繰り返し手旗信号で発信させる。
向こうとこちら共に10ノット(時速 約15.5km)ほどでどんどん近づいてくる。
とうとう距離が半海里(約900m)の至近距離になったところでまずは一発打って来やがった。
砲弾は船体のすぐ近くに落下したが、少なくとも目に見える範囲で被害は無し。
ブリッジにいる俺達が海水を少し被った程度だ。
「速力12ノット(時速 約22km)に増速!」
おれは ブリッジに着けられている『伝声管』に向かって声を上げると、すぐに機関長から「アイアイ!12ノット(時速 約22km)に増速!」と震えちまうぐらい良い声で返事が来た。
1/4海里(約450m)で再び海賊船が発砲。
今度は先ほどと違って反対舷の海面に落下。
いい腕してやがるぜ!しかも当てる気でいる威嚇射撃だ!
と心の底から思ったね。
しかし見える範囲にいる奴は誰1人としてびびっていない。
いいぞ!いいぞ!
とうとう双方共に衝突間際となるが、向こう側が舵を少しだけ切り、『白銀樹号』の左舷を反航していく。
流石に銃撃は浴びせてこない。
俺は信号手に
『ワレ、キャメロットセンセキ、ハクギンジュゴウナリ。ワレ、ヒブソウ。ワレ、ジユウコウコウチュウナリ(我、キャメロット船籍『白銀樹号』なり。我、非武装、我、自由航海中)』
と手旗信号を繰り返し送るように指示し、同時にブリッジ下に詰めてもらっていた白エルフに魔法で
『コチラハクギンジュゴウ。コチラハクギンジュゴウ。オウゴンジュゴウ、テキカンハヒキウケタ。ワレニカマワズトッパサレタシ。コチラハクギンジュゴウ。コチラハクギンジュゴウ。オウゴンジュゴウ、テキカンハヒキウケタ、ワレニカマワズトッパサレタシ(こちら『白銀樹号』。こちら『白銀樹号』。『黄金樹号』、敵艦は引き受けた。我にかまわず突破されたし)』
と事前に定めていた内容を繰り返して送るように指示した。
すると、すぐに180度ターンして追いかけてくると思った海賊船の動きに迷いがでた。
180度ターンせずに120度ぐらいのターンで舵を戻しちまった。
そしてこちらと距離がどんどん開き始める。
秋津洲にいた頃の甥っ子から送られてきた手紙の内容を思い出し、白エルフ達に尋ねると思った通りの解答が来たのでそれを利用した形だ。
『魔種族は魔法で遠く離れた相手に意志を伝えることが出来る。ただその意志は送りたかった相手本人以外にも届いてしまう。そしてそれより離れた距離で相手の意志の存在だけは感じることが出来る』と。
ただ白エルフ達から話を聞くと、その伝えられる距離はわずか1.3海里(約2.5km)程で、感じることが出来る距離も2.7海里(約5km)ほど。
意志を伝えられる距離がわずか1.3海里(約2.5km)程じゃ、船内や数隻で船団を組んでいるのならともかく、独航船同士じゃ役に立たない。
感じる距離にしても、遮蔽物が山のようにある陸の上じゃともかく、海の上じゃ水平線までの距離を考えると、感じられる距離がギリギリ水平線向こうだが、船自体とマストの高さも考えるとまだ見える距離だ。
逆に便利に感じる船団や船内での使用も、倍の距離で敵に感づかれちまうんじゃ怖くて使えない。
つまり大して役に立たない。
なので船内での白エルフ同士に連絡に使うのも含めて絶対禁止とした。
しかしそこまで指示を出した後ふと思いついた。
だがこれを使って海賊船の連中に迷いを与えることが出来るのでは?
なにせ乗っているのは全員魔種族。
魔法が使える連中だろう。
たとえば・・・海賊船と近づいてこちらの魔法がはっきりと伝わるときに、魔法を使って近くに他の船がいるようにみせかけたら?
と考えたのだが、当たりだったようだ。
近くにもう1隻いるのかと誤解し、見える範囲にいないのに探そうとしちまったようだ。
だいたい3分ぐらいで再びこちらを追いかける進路を取ってきたが、距離はすでに広がっている上にこちらが12ノット(時速 約22km)で進んでいるのに差が詰まらない。
相手はどうも12ノット(時速 約22km)が最高速力のようだった。
キャメロット船籍とさんざんか伝えているせいか、距離があるせいか、その両方かで威嚇射撃もしてこない。
暫く追いかけっこをしていたが、その間にも白エルフに魔法で
『ワレ、テキカンノツイビヲウケツツアリ。テキカントノキョリ、オヨソ2カイリ(約3.7km)。ソクリョク12ノット。ホウイ100ドニムケコウコウチュウ。オウゴンジュゴウ、トッパサレタシ(我、敵艦の追尾を受けつつあり。敵艦との距離およそ2海里。速力12ノット。方位100度に向けて航行中。黄金樹号突破されたし)』
と繰り返し送らせる。
相手に魔法がはっきりと届く距離じゃないか、ずっと魔法を使っていればやはり近くにもう1隻いるんじゃないかと迷いがでることを願ってのことだ。
しかもわざと意味のある言葉を繰り返し魔法で伝えているとわかったのならば、更に判断と・・・後の報告に迷いがでるだろう。
そうしているうちに北の方に雨雲が見えたのでそちらに向かって舵を切り、白エルフに魔法で伝える言葉に
『ワレ、キタニミエルアマグモニムケテタイヒチュウ(我、北に見える雨雲に向けて待避中)』
を追加させる。
さー迷え!迷え!
そして間違った報告をしろ!!
こちらが北に舵を切ったせいで少し距離は詰められたが、なんとか逃げ切り雨雲の中に。
一気に視界が効かなくなる。
魔法を使うのも止めさせる。
雨雲の中に入って20分ほど進んでから速力を17ノット(時速 約31.4km)に上げて真東に転進。
思っていたよりずっとでかい雨雲だったようで、暫く雨の中を推定でベレリアンド半島の沖合45海里(約83km)地点まで進み、南下に切り替えて17ノットのまま航行。
ようやく雨雲からでたら10ノット(時速 約15.5km)に落とし、丸2日で付く予定が迂回航路をとったせいで2日半ほどかかり、夜になってノアトゥンに着いた。
発光信号を送りながら、少ないとはいえ配置されている大砲に誤射されてはたまらないと、ゆっくりと港に近づくとすぐに汽船が2隻やってきて岸壁に着けてくれた。
前回の航海からまだ1ヶ月たつかたたないかっていうのにノアトゥンは寂れていた。
話を聞くと町の住人がかなり徴兵されちまったとのことだった。
なので沖仲仕の数はだいぶ減っていたが一般市民が荷役に協力してくれた。
もちろん俺達も荷役を出来る範囲で手伝った。
ただ今回も前回同様に降ろした大砲や銃、弾薬をすぐに無蓋貨車や有蓋貨車に積み込んでいたので、少し心配になりエルフィンドの税関職員に
「この後の荷捌きが混乱しないか?」
と尋ねると、戦争が始まる前までは高慢ちきだった税関職員は少し迷ってから
「途中の駅で徴兵した兵を乗せた車両と連結してそのまま戦場に向かうそうです」
と伝えられて絶句しちまったよ。
そこまでエルフィンドが追い詰められているのか・・・あの高慢ちきな上から目線の白エルフが全部正直に全部話しちまうぐらい追い詰められているということにな。
ちなみに今回の積荷の量は、なんだかんだいっても元々軍艦で弾薬庫とかを改造したとはいえ船倉が小さく、フルに積んでも全部で750000ポンド(約375トン)だったが、剥き出しで乗せている大砲もあり、沖仲仕の数が少なくなっていることもあって、荷卸しにはだいぶ時間がかかった。
3日ほどかかったかな?
荷卸しが終わった後、1日を休息に当ててから、深夜に静かにノアトゥンを出航して12ノット(時速 約22km)で西へ進路をとったが、7時間ほどして80海里(約150km)ほど進んで陽が昇った頃にとうとう海賊船に補足された。
恐れていたキルシュバオム型貨客船と遭遇しちまったんだ。
相手はこちらがマストをみつけると同時に進路を変えて真っ直ぐこっちに向かって進んで来やがった。
右舷側から・・北北西の方向、だいたい330度から真っ直ぐだった。
速力は見張りの目測で16ノット(時速 約30km)。
こちらの進路を右斜め前から横切って遮るような進路だった。
そして西の方には雨雲がある。
あの中に最大船速で突っ走って逃げ込もうかと思ったが、新型船の1回目の航海で手の内を全部見せる必要も無いということで、危険ではあるが最大船速をみせるようなことはせずに逃げ回ることにした。
もちろん本当にやばくなったら最大船速で逃げる所存だったがな(笑)。
進路を塞がれないように、海賊船と反航するように相手船と同方向の330度の方向に舵を切って、進路を塞がれないようにする。
本来ならば別な方向に舵を切るべきだったが、諸般の事情であえて相手に向けて近づいて右舷側に相手をみてすれ違う航路にした。
まぁ積荷はないから臨検されたとしても悪くても拿捕の上で抑留・・・というか強引な理由をつけて抑拿捕留は何が何でもするだろうと踏んだのも大きいがな。
つまり『拿捕抑留だけで済む。沈められはしない。命は取られない』と。
白エルフ達もみんな『キャメロットへの移民』という形で、キャメロット国民と偽造した身分をミスターMが用意していた・・・というミスターMなら『偽造』ではなく『本物』を用意したんじゃないかという気もしていたが、船員名簿にもキャメロット国籍と記してあるから酷いことはされないだろうと踏んでいたこともある。
だんだんと海賊船と距離が詰まってくる。
本当にスマートで綺麗な船だな、キルシュバオム型貨客船は。
最初から軍艦として設計したような船だぜ。
そんな相手から信号旗と手旗信号で停船を繰り返し命令してくる。
それを無視していると早速一発当てる気満々の威嚇射撃をしてきた。
船体の脇に着弾してブリッジ一同は海水シャワーを浴びる羽目になったがそれだけで済んだので、行きと同様に
『ワレ、キャロメロットセンセキ オウゴンジュゴウナリ。ワレ、ヒブソウ。ワレ、ジユウコウカイチュウナリ(我、キャメロット船籍黄金樹号』なり。我、非武装、我、自由航海中なり)』
と盛んに手信号を海賊船に送らせる。
こちらが砲撃ではびびらない上に、キャメロット国籍を名乗っているためか、砲撃するのをやめて、大きく進路を変え始めた。
こちらとすれ違う前にターンして同航に持ち込むつもりのようだったが、相手のターンの大きさと16ノット(時速 約30km)という船速からこちらの左舷側に回られて同航されちまうと判断して180度に舵を切ってUターンして左舷には回り込ませないようにする。
舵の効きはこちらの方がだいぶ良いらしく、相手より小さい半径でターンできたが・・・その傾斜角は酷いことになっていた。
波がきつければ躊躇するぐらいの傾斜だったが、波が落ち着いているから出来たターンだった。
相手も慌ててまた舵を切って追走する形になって16ノット(時速 約30km)で追いかけてくる。
速すぎだろ!!!
商船の速さじゃねえぞ!!
設計して、実際に建造した奴、何を考えていやがった!!
絶対赤字だろう、あんな船を運航していたら!
真面目にオーク共も何か魔法が使えてそれで黒字にしているのか!?
こちらは相変わらずの12ノット(時速 約22km)なので、ターンのおかげで一旦は開いた差がじわじわと詰まってくる。
そしてとうとう距離差が半海里(約900m)を切った。
相手が右舷側から追尾していることを確認すると、右に30度で舵を切ると、相手側は衝突を避けるために右に慌てて大きく舵を切って、半円を描くようなターンをする。
双方共に腕が良いので衝突はしないが船尾がかすめるといっていい距離ですれ違う。
相手からは盛んに手旗信号で『停船せよ』と信号が送られてくるが、こちらも相変わらず
『ワレ、キャロメロットセンセキ オウゴンジュゴウ。ワレ、ヒブソウ。ワレ、ジユウコウカイチュウナリ(我、キャメロット船籍黄金樹号』なり。我、非武装、我、自由航海中なり)』
と送り続ける。
と同時にまた白エルフに指示を出し、
『コチラオウゴンジュゴウ。コチラオウゴンジュュゴウ。ハクギンジュゴウ、テキカンハヒキウケタ。ワレニカマワズトッパサレタシ。キャメロットデアオウ(こちら『黄金樹号』。こちら『黄金樹号』。『白銀樹号』、敵艦は引き受けた。我にかまわず突破されたし。キャメロットで会おう)』
と、どこにもいない僚船に向かって魔法を送り続けさせる。
そんなことをしながら、本来なら必要の無い海上ダンスを、左舷側を海賊船に見せない様に3時間ほど繰り返しながら、少しずつ西に見えていた雨雲に近づいていった。
あの中に入り込めれば逃げられる。
とはいえ向こうもその手は喰わないと、雨雲を前に一進一退な有様だった。
しかし相手がほんの一瞬のミスをしたのでその隙を突いて距離をとることができたので、12ノット(時速 約22km)の速度である程度の距離を保ったまま雨雲の中になんとか逃げ込めた。
そして雨雲に入ってから15分ほどしてから、ダンスを踊り始めたときから白エルフの淑女の皆様だけではなく、人間族の野郎共も炭投員として増員するように指示していたので、炭投員全員で石炭を全力でガンガンとくべさせて蒸気圧をさらに上げて最大船速を命じて一気に逃げ切った。
もっともその時は波もあったから最大船速といっても20ノット(時速 約37km)に押さえたが、もう揺れたってもんじゃなかったぜ・・・。
波の揺れと船体の振動が合わさって、もう酷いこと酷いこと。
やっぱし20ノット(時速 約37km)後半以上にならないとあの振動は消えないようだった。
2時間ちょっとほど20ノット(時速 約37km)で真西へ進んだら雲からでたので、距離を40海里(約74km)ほど稼げたと判断し、相手が16ノットで追ってきたとしても32海里(約60km)程しか進めていないはずだから、その差は8海里(約14km)。
さらに相手はまだ雨雲からでられていないはずということと、双方のマストの高さから計算して8.6海里(約16km)ないとマストは発見できないことから、海賊船に再発見される前に水平線の向こうに行けると判断。
速力を12ノット(時速 約22km)に落とした上で、進路を南西へとり、グロワール・アルビニー方面へ欺瞞航路をとり、なんとか逃げ切れたが・・・。
ちなみにもし追いつかれたらその時は17ノット(時速 約31.5km)で逃げ切るつもりだった。
どうして18ノット(時速 約33km)以上ではないのかって?
奥の手は最後までとっておくものだぜ。
あとあんなに揺れるのは御免だ(苦笑)。
まぁ今になってよくよく考えたら、あんなダンスを海賊船と踊る必要はなかったんが、次の航海のことを考えるとダンスを踊った方が良いと考えちまったんだよな。
つまり既に5回目の航海に出ることが頭の中で確定しちまっていたみたいで、莫迦なことをしたもんさ(苦笑)。
次の航海に出ることなんてしなければ、ただ単に足の速さで逃げ切れば良かったんだからな。
芯まで報酬と白エルフに目がくらんだままだったと言うことさ(笑)。
で、キャメロット本島にある港に着く前に右舷側から船がやってきて挨拶をしたのでこう返した。
『ワレ、オウゴンジュゴウ。キセンノブジナコウカイヲイノル(我、黄金樹号。貴船の無事な航海を祈る)』
って。
次に左舷側から船がやって来たので挨拶をした。
『ワレ、ハクギンジュゴウ。キセンノブジナコウカイヲイノル(我、白銀樹号。貴船の無事な航海を祈る)』
と。
そうだよ。
右舷と左舷で別々な船名を書いておいたんだよ(笑)。
左舷は『白銀樹号』、右舷は『黄金樹号』ってな。
行きのキャメロット本島近海での挨拶も、左舷からきた船には『白銀樹号』、右舷からきた船には『黄金樹号』って返していた。
おしゃべり船員にうっかりと話した内容やミスターMの工作による新聞記事、白エルフの魔法、海賊船達に意地でも反対舷を見させない海上ダンスも含めて少しでもオルクセン側が混乱するようにと踏んでの手だったが、効いていたと思うかいマルシャルさん?
白エルフの魔法 = 魔術通信と探知
オフネスキーな酒樽先生に察知されたらそろそろ怒られそう・・・