キャメロットの親エルフィンド派によるオルクセン海軍によって封鎖されているベレリアンド半島へ物資を輸送する封鎖突破船のお話です。
いよいよ最後の封鎖突破となります。
※Web版読了後推奨
※あまりにも適当なお船関係描写なのでオフネスキー非推奨
5回目の封鎖突破が成功して『白銀樹号』は拠点としている本島東側の港に辿り着いた。
もちろんまた造船所の連中と変装している連中が来船。
今回は少し無理をさせすぎたのと、こう言うとあれだがエルフィンドの敗北とオルクセンへの併合が見えてきていた時期だったから親エルフィンド派もしょげかえっていたらしく、すぐに次の航海をというせっつきがなかった。
なのでのんびりと石炭や必需品を補給して『いざという時はすぐに呼び出しをかけるからこの町から出るなよ』という条件で、封鎖突破の報酬とは別に俺の財布から特別ボーナスを出して期間不明の休暇となった。
ちなみに5回目の封鎖突破の時に殴り合いの喧嘩をした莫迦と白エルフが肩を組んで飲みに行ったのを見て大笑いしちまったよ(笑)。
そしてそんな中でもミスターMと次の航海の準備打ち合わせや、空き船になっている『愛しのエルフ号』を貸しだそうかという相談。
さらにはもし次の航海がなくなっても約束していた報酬の半金は支払うことや、その際はこの『白銀樹号』をどうするかという『次がない場合』の話し合いもゆっくりとしたペースでしていると、5回目の航海を終えて3週間たつかたたないか・・・確か5月2日の昼前だったと憶えがあるが、兄貴から至急の電報が入った。
それには『直ちに出航準備されたし。詳細は後ほど』としか記されておらず、ミスターMも全く理由を知らさせておらず、肩をすくめるだけだった。
とりあえず言われたとおりに、宿屋とか女のところにしけ込んでいる完全に陸に上がっている船員共を呼び寄せるために『白銀樹号』のマストに『本船は出港しようとしている。全員帰船されたし』を意味する『P』の信号旗を掲げ、それを見て戻った奴や金を節約するために元から船に戻って寝泊まりしていた奴らを使い、どこかにしけ込んでいる船員達をさらに探させるということをしているうちに積荷が届き始めたが・・・缶詰、乾燥野菜、毛布、テント、消毒剤や包帯、療衣をはじめとする医療用品・・・しかもどれもこれも陸軍の装備品ばかりだ。
使い古された物もあるが、まだ十分に新しい物もある。
ミスターMと共に一体何が起きているのかとお互いに顔を見合わせたが、とりあえず沖仲仕達と共にそれらを積み込むことにし、続報が何も届かないミスターMは急いでログレスに問合せの電報を打ちにいった。
釜に石炭をくべて蒸気を炊いている機関長が報告のためにたまたまその時俺がいたブリッジに上がってきた際に続々と到着する積荷を見ながら心配げに
「エルフィンド軍がまた大敗したのでしょうか・・・?」
と俺に尋ねてくるが、何も言えなかった。
ただはっきり言うと積荷がおかしい。
大敗したのならば医療用品はわかる。
テントや毛布もわかる。
負傷兵の救護に必要な物ばかりだからだ。
食い物だって必要だ。
しかし武器弾薬が欠片もない。
大敗した後ならば建て直しのために武器弾薬が絶対に必要だが、全くない。
さらに積荷の到着が急ぎすぎだし、軍の在庫をそのまま放出しているのもおかしすぎる。
そもそもどうやって陸軍の装備を放出できたんだ?
そうしているうちに次の日になると奇妙な積荷が混じり始めた。
「女物の古着?」
副長格の一等航海士が積荷におかしい物があるといって俺に報告に来た。
全体としては半端ない量の女物の古着が積荷として続々と送られてきているとのことだった。
ただ1つ1つの梱包は小さかったので、一等航海士の判断でなるべく大きな梱包に積み直しているとのことだった。
ミスターMも一緒になって積荷リスト制作を手伝ってくれているが、この港町中の馬車が動員されているのではないかと感じるぐらいの量の積荷が駅から小刻みに送られてくる。
もちろん港にある引込線からもだ。
そうして積荷が送られ始めてから3日目になると、近くの陸軍部隊が馬車で直接毛布やテントを運び込んできて、引き渡しを始めた。
運んできた奴に何が起きているのかを尋ねるが、ただ運ぶように命令されただけで何もわからないという。
そんな中、ようやくログレスからミスターM宛の電報が届き、暗号で記されていた内容を解読し、その内容を聞かされて驚いた。
『在ノアトゥン領事館より報告あり。ノアトゥン、地上から消滅す。同時に赤星十字社並びに聖星教から緊急の被災ノアトゥン市民救護要請あり。赤星十字社並びに聖星教の責任者、外務省官吏が到着次第、可能な限り迅速に出航されたし。ノアトゥン市民の命は貴君等の双肩にあり。なお輸送契約はこれまでと同様とす。我ら一同可能な限り貴船を全力で支援す』
ノアトゥンが地上から消滅した?
港町が丸ごと消滅?
一体何が起きている?
とにかく急いで一回あたりの量は少ないが五月雨式に到着する積荷を整理して積んでいく。
同時にとにかく嫌な予感がしたので造船所と交渉して、手漕ぎボートを4隻ほど入手し、船匠担当の船員2人に指示して『白銀樹号』の甲板上に強引に搭載する。
そのボートの海への上げ下ろしは面倒だがデリックを使うしかないが、本当に嫌な予感がしたので積んだ。
そうしている内に4日目になるとノアトゥンに対してオルクセン海軍が総力をあげた艦砲射撃を実施したという新聞記事が載った。
は?
ノアトゥンをオルクセン海軍が総力を挙げて艦砲射撃した?
軍事施設が何もない港町を?
いや、あったな。
ただ町外れの兵舎と、港の奥にあった数門の24ポンド砲(おおよそ155㎜前後の砲)だけだろ?
それなのに、この目で見ていないが『消滅した』という電報が送られてくるほどの艦砲射撃を?
総力を挙げて?
兵舎と砲台を攻撃したのが大げさに伝わったか、誤射があった程度じゃないのか?
確かに開戦初頭にオルクセンもアハトゥーレンが艦砲射撃を喰らったのは確かだが、それほどの被害ではなかったはずだろ?
だから・・・だから・・・ノアトゥンの被害は大げさに伝わっているだけかもしれない・・・
オルクセンが実際には被害を受け、それを誤魔化すために大損害を与えたと宣伝しているかもしれない・・・
そう思いながら積み込みを続けていたが、とうとう『白銀樹号』の船倉や空き船室、甲板はおろか、船内通路ですら積荷で一杯になった。
それでもまだ積荷が届く。
医療用品が、毛布が、テントが、古着が、缶詰が。
さらに食器類や大鍋も到着し始めた。
致し方ないので、貸しだそうと考えていた『愛しのエルフ号』にも積み込みを指示し、俺は現場を一等航海士と機関長、ミスターMに押しつけ、大慌てで近くの酒場や船員紹介所を回り、『愛しのエルフ号』の乗組員を自腹かつ高値で募集して掻き集めた。
もっともその請求書は後で兄貴に送りつけるつもりだったがな。
海上封鎖されているベレリアント半島との間を既に4回無事に往復している俺の名声?と高値の報酬のおかげで、行き先がベレリアンド半島・・・エルフィンドでも構わないという奴らが15人ほど集まった。
もちろんそいつ等だけでは初めて乗る船でしっかりとした操船が出来るはずもないので、副長格の一等航海士を船長に任命して、『白銀樹号』乗り込みの元『愛しのエルフ号』の船員10人ほどに『愛しのエルフ号』に戻ってくれと頭を下げてお願いするつもりだった。
そして5日目の朝になると夜行列車で3回目の封鎖突破で一緒にノアトゥンに行った赤星十字社の上級社員と、うちの国じゃ少数派である聖星教本山の司祭様に聖星教本山と滅茶苦茶仲が悪い聖星教の他宗派かつキャメロット国民の大多数が信徒である『王教会』の司教様がいらした。
その3人が言うのは、ノァトゥンが地上から消滅したというは本当らしい。
オルクセン海軍が突然やっててきて、たった1時間の猶予時間を与えただけで町中を容赦なく艦砲射撃したとのことだった。
そしてその惨劇に、ノアトゥンを拠点として行動していた赤星十字社と聖星教は各国に人道的救助を要請したが、どの国も梨の礫。
そのなかで唯一動いてくれたのが我が国の親エルフィンド派だけだったと。
そんな中、史上初かもしれない畏れ多いことかつあり得ないことだが、聖星教本山の法王様が、王教会の最高首長である我らが国王陛下に
『宗派問わず聖星教全体として、生きながらにして地獄の業火を浴びたに等しいノアトゥンの白エルフを救いたいので協力を伏してお願いしたい』
と親電を打ち、信じられなかった国王陛下をはじめとして外務省や王教会の連中がエルトリア駐箚の我が国公使や、我が国駐箚のエルトリア公使を通じて再確認をしたほどだったという。
確かに他の国がびびって手を出さない現状では、うちの船に文字通り乗るしかないのはわかるし、キャメロットでの聖星教本山の規模はすっげぇ小さいから大規模支援は無理だというのもわかるけど、王教会の司教様と同格ではない格下の『司祭様』を派遣して、完全に王教会の風下に立つ気満々なんて、本当に何が起きたんだよ・・・。
その日の昼の列車でやはり3回目の封鎖突破時に同行した外交官がログレスより到着し、さらに軍艦も入港して、こちらも3回目に同行してくれた海兵隊員を主力として、さらに増員した総勢で20名ほどの海兵隊員達を降ろしていく。
とどめとばかりに兄貴の従僕が、兄貴からの手紙とかなりの現金を持って港にやってきた。
手紙を読むと
『こちらはログレスにて各方面と調整中。今回の突破は畏れ多くも国王陛下の命による。内閣は消極的だがノアトゥンの被害の大きさに国王陛下に強い要請に同意。よって陸軍装備品の放出が可能となった。我が弟は断固としてオルクセン海軍による封鎖線突破を実施し、生きながら地獄の業火に焼かれたノアトゥンとその住人達を救護されたし。神とお前の愛する白エルフのご加護があらんことを。追伸、政治的なことと金の支払いは任せろ。とりあえず従僕にある程度の現金を持たせた。好きに使え』
とあり、それを読んで天を仰いじまったよ・・・。
国王陛下の命ならば、間違いなくノアトゥンは酷いことになっている・・・。
畜生・・・やり過ぎだろ・・・オルクセン・・・。
お前等、もう何もしなくても勝てるだろう・・・。
そしてその日の夕方、完全に積荷は積みきっていないが、時間が惜しいので出航することにする。
『白銀樹号』の右舷側も、元々記されていた『黄金樹号』から『白銀樹号』と書き直したペンキも完全に乾いていて、白エルフも3人ほど一等航海士を船長に任命した『愛しのエルフ号』に夜間見張り要員として回ってもらった。
もちろん海兵隊も10名ほど向こうにも乗船してもらった。
ただ外交官殿と赤星十字社上級社員、坊さん達は全員こっちだ。
出航前の大慌てかつ簡単な打ち合わせで、以下のことを決めた。
・『白銀樹号』と『愛しのエルフ号』は船団を組む。
・速力は『愛しのエルフ号』に合わせる。
・双眼鏡はそれぞれ4つずつ分け合うように配備する。
・白エルフの魔法は海賊船・・・いやオルクセン海軍に発見されるまでは絶対に使用禁止。
・魔法の妨害は船団時には俺の許可、独航時には各船長の許可が合った場合のみ実施する
・夜間は無灯火航行。
・航路は欺瞞航路を一切とらず、ノアトゥンまで一直線に向かうこと。
・はぐれた場合は独航でノアトゥンを目指すこと。
・危険と判断した場合はキャメロットに引き返しても良い。
・独航となった際の『白銀樹号』は12ノットを基本速度とするが、海賊船と遭遇した場合は状況に合わせた速力とする。
・独航となった際の『愛しのエルフ号』は最大船速。
・オルクセン海軍と遭遇し、臨検を要求された際は3時間までという条件で許可する。
・3時間経過時点で、オルクセン側の臨検要員が残っていたとしても航行を再開すること。
・海兵隊は護衛にのみ徹し、発砲は極力避け、致し方なく発砲する際も国際法に従った手順でおこなうこと。
・当船団の最高責任者は俺であり、船団の総員は俺の命に従うが、全ての責任は俺にあり、各員の行動は俺の事前命令でされるものであるので責は全て俺に帰する。
ちなみに王教会や赤星十字社の連中は俺達以外の船も手配できないかとかなり頑張ったそうだが、最初は乗り気だった連中もノアトゥンの被害のあまりのでかさを知るとびびってやめちまったとのことだったが、まぁ報酬が少ないというのもあると思うがな。
可愛い白エルフ達が泣いているというのに根性がねぇ!とは思うが、断る気持ちもわかる。
ただ外交官が言うのは、海軍が『無害航行』を宣言して軍艦で救援物資輸送をすると提案したそうだが、流石にそれは内閣が絶対に同意しなかったそうだ。
そして最初に派手な提案をしちまったせいで警戒されちまって、代替で提案した非武装の輸送艦での救援物資輸送すら許可されなかったとのこと。
まぁ当たり前だな・・・。
そして肝心なオルクセン側の動きだが、エルフィンド側の陸上からの観測ではオルクセン艦隊は発見できないとのこと。
そして今回の航海は内容が内容だけにオルクセンに対して通告をおこなったそうだが、一方的通告でオルクセン側の許可も何もないとのこと。
たぶん向こうも慌てているんじゃないかな・・・。
キャメロット政府だけじゃなく、赤星十字社や聖星教も通告したって言うし・・・。
もっとも陸の上のオルクセンが許可したとしても、時間的にも当然、海の上でぷかぷか浮いている現場に話が伝わっているはずもないし、考えたくないが、こりゃどちらか1隻がたどり着ければ良いかな・・・。
出航前の風の吹き方とこの時期の海上の経験から、風は南西から基本的に吹くがやや弱い風なので、『愛しのエルフ号』は積荷量と追わせて考えても、平均9ノット(時速 約16.7km)はでるだろうと踏んでいたが、予想通りだった。
2隻で約1マイル(約1600m)程の間隔をとって一路ノアトゥンへ。
ノアトゥンまでは約370海里(約690km)なので、順調に平均9ノット(時速 約16.7km)でいって約41時間だから丸2日の航海。
なので明後日の夜には着ける計算となる。
何もなければだ。
1日目は警戒を軽くする予定で航行したが、出航してすぐに完全に日が落ちて夜になったが、念のために無灯火航行。
両船に乗り込んでいる白エルフ達の夜目のおかげで全く問題なく無灯火航行でき、まさに女神様だったぜ。
夜が明けると、推測で120海里(約222km)程進めていたようなので、念のために天測をするが推測とほぼ同様の結果が出た。
そしてキャメロットをでてから200海里(約370km)程進んで警戒を強化していったが、いよいよオルクセン海軍艦艇と・・・海賊船と遭遇しちまった。
しかも遭遇したのは3回目の航海時にバチバチとやり合ったあの帆船だ。
こちらは2隻共に上から順にキャメロット国旗、王教会旗、聖星教旗、赤星十字旗を掲げている前回以上に怪しい・・・しかも1隻は蒸気船で、もう1隻は前にも出会った帆船。
とはいえ向こうも前回の痛い経験もあるのでいきなり威嚇射撃はしてこず、『L』の信号旗を掲げて停船命令を出してきた。
こちらはすぐに応答旗を全揚して機関室に停船準備を指示しながら『愛しのエルフ号』を見ると、向こうも応答旗を全揚して、帆を畳んで停船しようとしているのが確認できたので、行き足で可能な限り『愛しのエルフ号』に近寄るように舵を取る。
同時に向こうとこちらの海兵隊員達に甲板上に整列するように指示を出し、外交官殿や上級社員殿、そして坊さん達にも甲板に上がってきてもらう。
そしてオルクセン側は前回とは違って強引な接舷移乗はせずに、こちらの2隻近くに上手く停船した向こうの艦からボートが2隻降ろされ、俺が乗っている『白銀樹号』と『愛しのエルフ号』それぞれに近づいてきて、そして船に上がってきたのは前もお会いしたあのコボルト士官殿だった。
こっちは予想していたが、向こうは予想していなかったようで吃驚している様子だったが、すぐに取り直してこちらの船籍、船名、行き先、積荷を確認してきたので、後ろに海兵隊員達を整列させている外交官殿が包み隠さず
「船籍、2隻共にキャメロット。船名は当船は『白銀樹号』、向こうの帆船は『愛しのエルフ号』。当船が当船団の指揮船である。目的地はベレリアンド半島ノアトゥン。積荷はノアトゥンの人道的救護に必要な食料、衣料品、毛布、テント、医薬品のみ。なお当船団はキャメロット国王陛下の命により航海中である」
と堂々と答える。
そしてとどめとばかりに国王陛下の御名御璽がされている命令書も提示する。
すると向こうは警戒すること警戒すること。
まぁ当然だよな。
国王陛下の御名御璽がされた命令書をもっているのにたった2隻の船団なんて怪しすぎる。
前回の遭遇時以上に怪しい(笑)。
で、またコボルト士官は外交官殿と赤星十字社上級社員、さらには坊さん2人と激しいやりとりを始めるが、今回の向こうの言い分を要約すると
「臨検の必要なし!直ちに引き返せ!引き返さなければ拿捕する!」とのことだった。
ぶっちゃけて言うとかなり優しい。
面倒なものには触れたくないという感じがあからさまだ。
それに対してこちらは、激しいやりとりであったが基本は全員して
「お願いします。通してください。積荷に武器弾薬はありません。臨検しても結構です。船員の個人所有と海兵隊の装備以外で武器が出てきたら拿捕しても良いのでお願いします。私達はただノアトゥンでの被災者を一刻も早く救いたいだけなのです。3時間以内でしたらいくらでも臨検に協力致します。ただ3時間たてば私達は耐え沈められようともノアトゥンに向けて航海を再開します」
という感じの低姿勢だけど断固としたお願いだ。
そうしているう内にコボルト士官が根負けし、水兵を介して手旗信号でオルクセン艦と通信を取り始めた。
手に負えなくなったので艦長に判断を投げたな。
『愛しのエルフ号』をみると、向こうからもオルクセン水兵が手旗信号をオルクセン艦に送っていた。
向こうも困っているだろうな・・・。
少しすると向こうから返信の手旗信号が送られてきた。
それを読んだコボルト士官はこちらを振り返ると
「臨検をおこないます。もし先ほど申告があった船員所持や海兵隊の装備以外の武器弾薬が発見された場合は拿捕します。逃走する場合は撃沈も止む得ません」
と通告してきたので、俺が前に出て
「船長です。ではご希望の場所を案内します。どちらから臨検されますか?」
と言うと
「私と7名はまずは船長室で書類検査をし、その後船倉へ。残った3名は甲板にある積荷を調べさせます」
と返事をしてきたので、了承して早速船内へと案内しながら、ふと思い出したように
「ちなみに当船にはキャメロット国籍の白エルフ族も乗組員として乗船していますので、勘違いされませんように。ご希望でしたら船員名簿に各員の船員手帳もお見せ致します」
と言うと、コボルト士官は驚いたような様子だったし、オークやコボルト、ドワーフの水兵達は少しびびりだしたような気がした。
まずは船長室に行き、積荷リストと乗船名簿に船員名簿、船体図面、そして金庫で保管していた白エルフ船員達の船員手帳を確認する。
ミスターM謹製の正真正銘の贋作キャメロット船員手帳だぜ。
まぁ中に記されていることがどこまで本当だが知らんが、本国にある副本にも絶対に同じことが記されていることが間違い無しだろうから・・・問合せをしたとしても一切の問題はねぇだろうがな。
・・・というか前も思ったけどそれってもう本物ってことだよな・・・。
で、怪しすぎるが実際には一切の怪しい点がない各書類の確認を30分ほどで終わらせると「船倉に案内してください」というので続いて船倉へ。
とはいっても元が軍艦なせいでさほど大きくない広さで数カ所に分散されているので、全ての船倉の位置と大きさをいい、どの船倉に行くかを尋ねると、先ほど船体図面で船倉の位置を全て把握していたコボルト士官は「一番大きな船倉へ」といったので、毛布とテント、そして女物の古着が積み込まれている一番大きな船倉へ行き、積荷を見せるとすぐに水兵達を使って確認していくが、砲弾はおろか拳銃弾の1発すら、サーベル一振りすら出てこない。
1時間ほどでその船倉の検査をやめて、次の船倉へ。
そこから出てくるのは積荷リストにしっかりと記されている医療品ばかり。
こちらでも30分ほどで検査を切り上げて、船内通路や空き船室に積み込まれている積荷を検査していくが、どれもリスト通り。
移動時間も含めると2時間半ほどで検査を終えて甲板へ。
コボルト士官は甲板に置かれていた積荷を検査していた兵達に確認をとると、甲板の積荷は缶詰ばかりという報告を受けていた。
その後、手旗信号でオルクセン艦に報告すると、数分たって返信が来た。
『愛しのエルフ号』を見ると、向こうの間とも盛んに手旗信号でやりとりをしていた。
結局オルクセン側の出した結論は相変わらずの『直ちに引き返されたし。引き返さなければ拿捕する』というもので、外交官、赤星十字上級社員、坊さん2人がいきり立ちそうになるが、その後にコボルト士官が続けた言葉・・・これ言っちゃ拙いかな?
マルシャルさんここだけの話にしてくれよ。
「では本艦は本来の哨戒地点であるここから南方20海里ほどの海域に戻ります。両船共に繰り返しですが直ちに出発港に引き返してください。そして・・・正式な書類ではなく申し訳ないのですが、こちらの手帳に同意のサインを頂けますか?」
と言いながら、自身が持っていた手帳にさらさらと『当船団は出発港に引き返すことを宣言します』と書き、それを誰に渡せば良いのか一瞬迷っていたので俺が受け取り、俺もしっかりと俺の本名で同意のサインする。
ちなみに外交官、赤星十字上級社員、坊さん2人は黙ってそれをみていた。
その後は敬礼してボートで戻っていき、『愛しのエルフ号』からもボートが離れていくのが見えた。
そしてボートを向こうが収容してからお互いに挨拶を交わしつつ、海賊船は南に向かっていき、俺達は元来た航路を戻っていくが・・・1時間ほど進んでから北北東に進路を変えて、当初予定していた航路から外れたが、ベレリアンド半島へ向かう航路をとった(笑)。
つまりだ・・・あ~これも何かに残すのなら書かないでくれよ。
こちらは友好国であるキャメロット船籍の船の上、その国王陛下の御名御璽がされている命令書を持っている。
しかもその命令書には、オルクセン語での但し書きもあり、人道救護のためにも当船団の通行許可を切に願うと・・・下手すると国王陛下の直筆で丁寧に記されている。
さらにキャメロットの外交官、赤星十字社の上級社員、聖星教の司祭様に王教会の司教様も乗っている。
積荷リストも一切問題ないし、検査した範囲でも武器弾薬は欠片も出てこない。
これを拿捕したら下手しなくも国際問題。
とはいえ通したら艦長達の責任問題。
しかし・・・もしかしたら通さなくても艦長達の責任問題になるかもしれない。
なので間をとった上で、さらにしっかりと相手方船団指揮官の同意をとった上での『出発港への帰還命令』。
ところが同意したはずの船団指揮官が引き返すふりをして、『臨検したオルクセン海軍軍艦の哨戒海域をなぜか上手く回避』して再度またベレアンド半島への航路をとったというわけさ。
臨検したオルクセン艦には全く問題がない!
全部悪いのは誓約した内容を反故にして再度ベレリアンド半島に向かいだした船団指揮官さ(笑)。
向こうの・・・海賊船の艦長とかは全く悪くない(笑)。
後は・・・外交官、上級社員に坊さん2人とも、全員が政治のわかる奴らでよかったよ。
あそこでコボルト士官に噛みつかれていたら、向こうの面子もあって引き返す保証がないと言うことでキャメロット近海まで追尾されていたもんな。
というかそういった政治がしっかりとわかる連中が選抜されていたんだろうな。
なにせ俺がまたベレリアンド半島へあの帆船海賊船の哨戒海域を迂回して向かう航路を再度とったときも誰1人何も言わずに『当たり前のこと』っていう顔をしていたからな(笑)。
で少し遠回りになったが、その帆船海賊船の哨戒海域をギリギリ掠めるようにした航路でノアトゥンへ向かい、日が暮れて、夜になり、陽が昇って朝になり、あと少しでノアトゥンというところで・・・とうとうまたキルシュバオム型貨客船・・・ゼーアドラー号と遭遇しちまった。
南から真っ直ぐこちらに向かってやってくるキルシュバオム型貨客船を確認すると同時に直ちに『愛しのエルフ号』に向かって手旗信号と、なるべく使わないようにしていた発光信号で『当船が盾となる。断固としてノアトゥンへ向かわれたし』と信号を送ってから、進路を変えてゼーアドラー号へ向けて一直線。
『愛しのエルフ号』からは『ノアトゥンで会おう』という泣ける信号が帰ってきた。
進路を急に変えたことからおかしいと察した外交官をはじめとする4人がブリッジに上がってきて状況を尋ねてきたので正直に答えると、まず最初に坊さんの2人が
「私達はここにいると邪魔になるので船室に戻ります。神のご加護があらんことを」と言って船室に戻っていった。
船長としては有り難いとしか言えない。
外交官と上級社員の2人は覚悟を決め、海兵隊もオルクセン側の接舷移乗に備え始める。
だが不思議なことが起きた。
相手は信号旗を何も上げない。
手旗信号や発光信号はこちらが色々とやらかしまくったので、送ってこないのはわかるが、見張りが言うのはオルクセン海軍旗以外の旗が、停船命令である『L』の信号旗も含めて一切確認できないとのこと。
しかもさらに気持ちが悪いのは打ってこないこと。
一体何をやる気が・・・と怪しみながら、周囲の警戒をさらに強化するように指示を出しつつゼーアドラー号と距離がどんどん詰まって行く。
速力を16ノット(時速 約30㎞)に上げさせる。
とうとう相手が何もしないままに、大げさにいうと船体をするような距離といっていいぐらいの近さで反航で通過する。
大砲もこちらを向いていないし、手空きの水兵達も一切の武器を持っていない。
そして相手のパイプを咥えている艦長がこちらに向かって綺麗な敬礼しているのが見えた。
オークだというのにスラッとした奴だった。
こちらもしっかりと敬礼を返す。
そして向こうが反航したのちターンをして、こちらを追いながら初めて手旗信号を送り始めた。
『ワレ、オルクセンカイグンホジョジュンヨウカン ゼーアドラー号。キセンノセンメイヲノベヨ(我、オルクセン海軍補助巡洋艦ゼーアドラー号。貴船の船名を述べよ)』。
すぐに
『ワレ、キャメロットセンセキ ハクギンジュゴウナリ(我、キャメロット船籍 白銀樹号なり)』と返す。
するとな・・・そん時はこんな信号を返していいのかって思った信号が帰ってきたよ。
その内容だがはっきりと覚えている。
『ナゼアトイチニチハヤクコナカッタ。トウカンハナンジヲダホスルキカイヲエイエンニウシナッタリ(なぜあと一日早く来なかった。当艦は汝を拿捕する機会を永遠に失ったり)』
見張りが伝えてきた信号の意味がさっぱりわからなかった。
しかし続けてゼーアドラー号から送られてきた信号でようやくその意味がわかった。
『トウカンモサキホドジュリョウ。サクジツキュウセンナル。センソウハオワッタ(当艦も先ほど受領。昨日休戦なる。戦争は終わった)』
正直、一気に気が抜けちまった。
他の海賊船なら嘘を言ってこちらを騙そうとしているんじゃないかと思ったが、まだこれで3回目だった言うのにゼーアドラー号の言っていることは嘘ではないとなぜか感じまった。
俺はすぐに機関室の伝声管に向かって「速力12ノット(時速 約22km)に下げ」というと、機関長から俺の指示に対して一切の疑いを持たない声で『アイアイ!速力12ノット(時速 約22km)に下げ!』と返事が来たので、俺は深呼吸した後「機関長、戦争が終わった」と言うと、一瞬の無言の後『終わった?』とだけ帰ってきた。
その後、追いついたゼーアドラー号と併走して、向こうの艦長と直接メガホンでのやりとりした。
そん時のやりとりはこんな感じだったな
ゼ「積荷はなんだ!」
白「積荷はノアトゥンのへの人道的救護物資のみ!我らが国王陛下の命令により航行中!武器弾薬は乗船中の海兵隊及び船員所持の物以外は一切無し!先ほど分離した帆船『愛しのエルフ号』も同様!」
ゼ「了解した!なぜあと一日早く来なかった!今度こそ拿捕してやろうとしていたのに!」
白「残念だったな!神様と白エルフのご加護があったっていうことさ!今度キャメリッシュ・ブラックバーンを1ダース送るから許してくれ!」
ゼ「1ダースじゃ足りない!可能ならば7ダースを要求する!補助巡洋艦の仲間達と戦勝祝いとこそ泥を最後まで捕まえられなかった反省会を兼ねて飲ませてもらう!」
白「つまりグスタフ王の海賊は7隻っていうことか!お巡りさん7人がかりでこそ泥を捕まえられなくて残念だったな!上等の葉巻も1隻あたり10箱つけてやる!おかげでたっぷりと儲かったからお裾分けだ!」
ゼ「次があったら必ず捕まえてやる!ただ葉巻の追加は感謝!可能ならばパイプ用の刻み煙草も頼む!私は葉巻は吸わない!」
白「贅沢なこというな!ただわかった!ゼーアドラー号にだけはパイプ用の上等な刻み煙草も1箱追加しておく!」
ゼ「感謝する!それでは当艦がノアトゥン沖合まで貴船を護衛する!なおこれは私の個人的責任による特別な措置であり、次回はこの様なことはない!」
白「キャメロット王国を代表して貴君の特別措置に感謝する!もうこんなことしねーから安心してくれ!」
で、少しずつ離れていくゼーアドラー号に向かって、海兵隊も含めて船員一同で手や帽子を振っていたりしていたが、気がついたら甲板に上がってきていた何人かの白エルフ達も泣きながら手や帽子をゼーアドラー号に向かって振っていた。
その後、追いついた『愛しのエルフ号』に手旗信号で状況を説明し、ノアトゥンが見えてきた頃にゼーアドラー号は信号旗の『U』と『W』・・・『ご安航を祈る』を掲げて離れていき、こちらも返信として『U』と『W』を『愛しのエルフ号』と共に掲げる。
そして予定より遅れて昼前にノアトゥンに入港したわけだが・・・領事館が『地上から消滅』と電信を打った理由がわかった。
何もかもがなくなっていた。
燃え尽きていた。
本当に何もかもがなくなっていた。
到着したにもかかわらず、汽笛や喇叭、発光信号、手旗信号で合図をするがも全く反応無し。
いや、白エルフ達がいるのは見えているんだが、しっかりとした応答や返信できる奴がいないみたいだった。
岸壁とかから必死になって手を振っていたりしているのは見えた。
ただしっかりとした信号が帰ってこないので、被害の酷さからどう動いていいかの判断がつかなかった。
なにせ岸壁もかなり被害を受けていているし、水中に何があるのかわからなかった。
なので手漕ぎボートを降ろしてダグボート代わりにして『愛しのエルフ号』と並べて沖止めして、それと平行してまず外交官と赤星十字社上級社員殿を海兵隊の護衛をつけて手漕ぎボートで上陸させる。
そいつ等が上陸して少したつと、海兵隊員が手旗信号で『ノアトゥン市より救護感謝とのこと。直ちに救援物資揚陸されたし』と送ってきただので、手漕ぎボートを使った艀輸送を開始させる。
元からこっちと『愛しのエルフ号』に積んでいるボートだけじゃ足りなかったろうからボート4隻を甲板に括り付けてきて良かったと思ったが、同時に予感が当たったことに何とも言えない感情も巻き起こっていた。
ただ最初のうちは大鍋と食器類、水、食料、燃料代わりの大量の石炭を持たせ、岸壁近くで炊き出しをさせるようにと、炊き出し担当として任命したした白エルフ達を主力とした船員達に指示をした。
後で聞いた報告だが、炊き出しといっても牛肉の缶詰に乾燥野菜で作ったスープを出すのがやっとだったというのに、ノアトゥンの白エルフ達は泣きながら食べていたそうだったよ・・・。
ただ炊き出しを求めている白エルフの数に対して、食器類は使い回していたので何とかなったが、調理する大鍋が救護物資として積まれていた分だけでは全く足らず、船員達からブーイングを受ける覚悟で『白銀樹号』と『愛しのエルフ号』に設置されている大鍋も取り外して、陸揚げさせた。
すると今度は手が足りなくなったが、スープを飲んで気力を取り戻したノアトゥン市民も手伝ってくれて、その内に焼け残っていた鍋釜食器を白エルフ達が自主的に港に持ち寄りはじめ、港が一大炊き出し所となった。
となると今度は食材が足りなくってきたが、こっちの入港を知った近くの漁村が小型船で運んできてくれた魚を使ったり、生き残っていた小型捕鯨船に石炭をわけてその船が漁に出ていったりと、俺達がいた間は質はともかく量は何とか保った。
もっとも調理用や捕鯨船にと提供した『白銀樹号』の石炭はそれなりに使ったがな(笑)。
ちなみに鍋を陸揚げしたせいで船内で暖かい物が食べれなくなったが、それに対してのというブーイングは全く起きなかった。
船員達には感謝しかねぇので、ラムの特配と特別ボーナスを出しておいた。
あと幸いことに覚悟していた炊き出し時の混乱は、こちらの海兵員達と数少ないが生き残っていたノアトゥンの警官や兵士達による押さえ込み、そして白エルフ達の大半が気力を失っていたことからまったくといっていいほど発生しなかった。
ちなみにあのいい女・・・ノアトゥンの防衛指揮官の白エルフは戦死したそうだ。
ただ税関職員の白エルフは生き残っていて、到着した翌日の昼になってから港にやって来て俺達を手伝ってくれるようになった。
で、炊き出し自体は海兵達とこちらの到着を知って駆けつけたキャメロット領事館や赤星十字社、聖星教の連中に引き継いでから、こちらは積荷の陸揚げに徹することにした。
岸壁に着けられないので手漕ぎボートによる艀輸送は効率が悪かったが、生き残った沖仲仕やスープを飲んで気力を取り戻した市民有志が手伝ってくれたり、焼け残った材料で簡単な台船を作ってくれたりしたおかげで、最初ノアトゥンの町の光景を見たときに予想していたよりは速く陸揚げが済んだ。
ただ倉庫もないので略奪の危険もあると考えたが、ノアトゥン市の行政能力はギリギリ生き残っていたみたいで、陸揚げされ次第、中身を確認して必要な場所に送りこんでいたので、少なくとも俺達の見える範囲での略奪は一切起きなかった。
しかしたった2隻・・・2隻合わせて1000トンに満たない物資では全く足りない。
なので到着して4日目に荷揚げが終わるとすぐに・・・キャメロット領事館に依頼された、生きた屍同然になっている奴ばかりの最後の残留キャメロット人の引き揚げも引き受けてキャメロットに引き返した。
帰路の航海中から、積みきれなかった救援物資を積んで再度ノアトゥンに向かうか・・・いや戦争はもう終わったんだから親エルフィンド派の支援はないだろうから、赤星十字や聖星教に話しをもっていって救援物資を集めていくしかないか?
俺の財布じゃとても無理だ・・・。
ただ船員への報酬は兄貴が送ってきた現金があれば後2往復分は払える。
と考えていたら・・・なぜか帰国早々2隻共々オルクセンの雇船になって、オルクセン側が手配した救援物資をしこたま積んで、オルクセン国旗も新たに掲げてたっぷりと用意されたノアトゥンへの救援物資を『愛しのエルフ号』共々2隻で運ぶ羽目になった。
解せなかったぜ・・・。
これが突破したといっていいかわからないが、まぁ最後の突破だったな。
あっけない最後といえば最後だったな。
次回、エピローグで完結だそうです。