超・それが私たちの理由!   作:ゴータロー

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夜、眠る前に目を瞑った時、

今日より楽しい明日が来るなんて考えたこともなかった。

暗闇を走り続けている間、私はずっと一人きりだった。

でも、孤独だと思っていたのは自分だけで。

私のそばには、私を大事に思ってくれる人たちがいた。

私はただ、知らなかったんだ。

私は、愛されてもいいんだ。

だから、私はもっと、この世界を好きになってもいいんだ!



#8 エピローグ『私たちの理由』

 

『オーディエンスの投票が終わりました! 泣いても笑っても、お料理対決はこの結果で決まります!』

『各チーム素晴らしい配信だったよ! まずはここまで戦ってきたライバーたち、そして大いに盛り上げてきてくれた、ツクヨミ、リアルのファンのみんな、ありがとう!』

 

 参加者たちはステージに並び、大型モニターに結果が表示されるのを息を呑んで待つ。

 結果の読み上げは主催のヤチヨが行う。

 着物姿の彼女は自らの定位置、大鳥居の上までふわふわと優雅に浮かび上がっていき、静かに目を閉じた。

 

『料理は心? 料理は味? それとも、料理はインパクト? きっとみんな、この勝負でそれが何か、改めて考えられたんじゃないかな?』

 

 ヤチヨは上品な仕草で傘を開き、懐から一枚の和紙を取り出した。

 会場の興奮が、静けさに変わる。

 

『それでは、発表します。まずはお料理部門からーー』

 

 ヤチヨはたっぷり溜めてから、私たちに視線を向けた。

 くすりと微笑んでいるような。

 

「え゛ーーーーー!!??」

 

 かぐやの悲鳴をかき消す大歓声が、会場に響き渡る。

 料理部門で先んじたのは、私たちのチームではなかった。

 予選二位のチャンネル。私たちの月見ハニトーを改良し、オリジナルのルナミトーストとして練り上げた料理を作ったライバー。

 そのビジュアル、味、出来栄えは確かに大したもので、試食した私とかぐやも、危機感を感じるほどの出来だった。

 話を聞くと、プロの料理人がメンバーにいたのだという。私たちの料理は本職に認められた反面、純粋に技術力と完成度の勝負で敗北を喫したのだった。

 意気消沈したかぐやが、弱々しく私の手を握ってくる。

 私は無念さを悟られないように、彼女に小さく笑いかけた。

 負けは負けだ、仕方ない。

 

 ーーでも、思い出の料理で勝てなかったのは、悔しいな。

 

『本当におめでとう!! ルナミトーストもヤッチョ食べたいよ〜!!!』

 会場の明かりが落ち、周囲は真っ暗になる。

 ざわざわと観客たちがどよめいた。

 

『ふぅ。次はリアクション部門の発表、だけどね』

 

 ライトが当たっているのはヤチヨだけだ。

 固唾を飲んで全員が見守る中、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

『もう、みんな、きっと結果はわかってるよね。その優勝は、かぐや&いろPチーム!!』

 

 立ちすくんでいたかぐやと私は、四方八方からレーザーのように降り注ぐ、眩いスポットライトに照らされた。

 ヤチヨの向こう側のモニターに、私たちの得た得票率が発表される。

『きゅうじゅう……?!』

『ろくパーセント〜!!?』

 オタ公と琴が、驚愕を隠せないまま叫んだ。

 審査した観衆は会場だけでも万単位、配信も合わせれば、十万は超えているはずだ。

 絶対的な勝利だった。

 かぐやは大きく飛び上がって喜んだ。

 

「ありがとー!! みんなー!! 本当にありがとーう!!」

 

 全身から歓喜の感情を爆発させ、かぐやは観客全員にファンサでも始めるかのように、くるくるとその場を回って手を振り、飛び跳ね続けた。

『かぐやー!! いろP!! おめでとー!!』

『俺も泣いたぞー!!』

『一生オムライス作ってあげてー!!!』

 観客からのかぐやいろPコールに答えながら、私は考える。

 この、圧倒的得票。

 単純に割合で考えれば、私たち以外のファンも相当数が集っているはずだ。かぐやのリアクションと私の料理は、彼らの心を動かしてしまったのだ。

 

『じゃ、じゃあ優勝は……』

『料理、リアクションの得票率の合計だから……!』

 

 ヤチヨは満面の笑みを浮かべた。

 最初からこの結果が必然、とでも確信していたかのように。

 

『ヤチヨのお料理対決、総合優勝は、かぐや&いろPチーム!! 本当におめでとう! 二人とも! 最高の料理だったよ!!』

 

 ぎゅっ、と手に伝わる温度に熱がこもる。

 かぐや、そして芦花と真実。

 私たちは狭い室内に響き渡る騒音も忘れて、四人で強く抱き合って、身に余る喜びを全員で分かち合った。

 

 

 

 

 ヤチヨは、優勝者インタビューと言って、私とかぐやを壇上に呼び出した。

 そこで何を話していたかは、ヤチヨを間近にした緊張のあまり、よく覚えていない。

 だからこれは、配信のアーカイブを見た私の記憶だ。

 

「おめでとう、いろP、かぐや。頑張ったね」

「あ、ありがとう……ございます……」

「全部いろPのおかげ! 私だけじゃ、何もできなかったと思う!」

 ヤチヨの横顔はとても綺麗で、彼女は私たち二人に優しい微笑みを向けていた。

「予選から聞こうか。五つの難題を料理しちゃうなんてね、あれってかぐやが考えたの?」

「やっぱウケ狙いっしょ! リアルでも食べてみたいよね、いろP?」

「そんなワケないだろ……」

 ヤチヨはくすくすとおかしそうに笑った。

 何故だろう。

 彼女は話している間もずっと、視線を外さず、私たちを見ている?

 何かを、見透かすかのように。

「それにあの月見ハニトー! はぁ〜あ、二人が本当に羨ましいよ……よよよ……」

 ヤチヨはわざとらしく泣き真似をして、着物の袖を濡らした。

「いひひっ。ちょっと騒ぎになっちゃって、大変だったけどねー」

「まさか、あんなことになるとは……」

 それに気になっていたこともある。

 ヤチヨはどうして、私たちの配信を拡散したんだろう。

 そんな機会、普通に考えれば滅多にないことだ。

「でも、かぐやたちはどんなに大変なことがあっても、それを二人で乗り越えた。ううん、四人で。そうでしょ?」

「あれ? なんでヤチヨがそれを知ってるの?」

 ヤチヨは空を見上げた。

 ーーずっと、見てきたから。

 私はどきりとした。

「かぐやたちがツクヨミの中にいるなら、私にはわかるよ」

「あ、ああ。そういうことか」

 芦花と真実もツクヨミでの姿がある。

 管理AIのヤチヨなら、隣に彼女たちがいること、それを把握していても不思議ではない。

 でも、そう話したヤチヨの表情は、ひどく儚げに見えた。

「じゃあ、最後は決勝の話だね。ね、かぐや。いろPのオムライス……どんな味だった?」

「ん〜……オムライスの味だったんだけど……」

 それはそうだ。会場が笑いに包まれる。

 かぐやがヤチヨを前にして変な話をしないか不安で、私の背中には冷や汗が流れた。

「それじゃちょっと。もっと具体的な食レポで、お願いね?」

「ええっと……一番は、懐かしい、って思ったよ」

 いろPに、最初に作ってもらった料理。

 苦労してたよねぇ、あの時の彩葉。

 あ、それは今でもか。

 でも、その時、彩葉が精一杯作ってくれたオムライスだから、すっごく美味しくて。

 私は、料理って、人の心って、すごくあったかいんだなって思ったんだよ。

 それを食べてなかったら今の私はないし、こんなに大きな場所に立ててなかったかもしれない。

 だから今日食べた彩葉のオムライスは、世界一ーーううん、宇宙一美味しかった。

 好きの感情がいっぱい詰まっていて、私に対する彩葉の想いが溢れてきて、胸がわーってなって、すっごく泣いちゃった。

 この先何があっても、絶対、忘れないよ。

 ヤチヨはかぐやの話に、うんうん、と頷いていた。

 思い出の味に、なったんだよね。

「ね、彩葉は、何を考えて、あのオムライスを作ってくれたの?」

「私は……そうだな……」

 あれ?

 記憶が混ざっている?

 いつの間にかヤチヨが私を呼び捨てで呼んでいるし、かぐやも私のことを呼び捨てにしている。

「大事な人に、自分の想いをきちんと伝えようと思って、それだけしか考えていなかった、かも」

 私は今、ヤチヨと話している。

 でも、何故だろう。

 その姿が、よく知っている誰かと重なる。

「かぐやと出会って、楽しいことも大変なことも、色々あったけど……とにかく私の人生が賑やかになって、私はきっと、かぐやの存在に救われてたんだと思う」

 だから、ありがとうと伝えた。

 そして、これからも一緒にいようと、かぐやに届けた。

 ヤチヨは私に向けて柔らかに微笑んでいる。

 瞳の端に、透明な雫を湛えて。

 

「どうして……ヤチヨが泣いてるの?」

「あははっ。どうしてだろうね、彩葉。たぶん、嬉しかったからかな。人の想いは、こうやって繋がるんだなって、いま、急に実感しちゃった」

 ありがとう、彩葉。

 

 ーーまただ。

 

 私とヤチヨとかぐや。

 その三人で、大鳥居の上で星々の海に照らされている。

 料理対決で賑やかだったはずの、会場は静けさに包まれている。

 私は、はっと気付いた。

 ここはツクヨミの中だ。

 記憶じゃない。

 

 これは、今この瞬間だーー!

 

「ありがとう、彩葉。私の、少しだけのワガママに付き合ってくれて!」

「ヤチヨ、どうしてーー?」

 かぐやはヤチヨの膝の上で、すやすやと寝息を立てている。

 憧れの人物を目の前にしているのに、私は不思議と動揺していなかった。

 それよりも何故か、懐かしい陽だまりに立つような、心の暖かさを感じる。

「ヤッチョは、彩葉とかぐやを、ず〜っと見てるよ。それだけを伝えたかったの」

「……そう、なんだ」

 私は、それ以上のことをヤチヨに聞けなかった。

 ヤチヨが内心に秘めた感情の正体を、もしも私が知ってしまったら、何かがおかしくなってしまいそうな気がして。

「ヤチヨカップ、絶対に勝ってね。大丈夫。彩葉なら、きっとできるよ」

「……ありがと、頑張るよ」

 ヤチヨカップの勝者には、ヤチヨの隣でライブをする権利が与えられる。

 夢物語、奇跡、それに届くところまで、私たちは手を伸ばそうとしている。

 いいや、それは、最早おとぎ話の領域かもしれない。

「……彩葉。私からもっと、話したいことが、伝えたいことが、たくさんあるんだよ」

 

 もっと、もっと。八千代を越えて。

 

 彩葉。彩葉……ねぇ、彩葉?

「彩葉。四人ならーーきっと、最強でいられるから」

 私はーーずっと彩葉を、待ってるから。

 だからーー私を。

 

「ーーヤチヨ?」

「あ……彩葉、大丈夫?」

 私は荒い呼吸を抑えて、目を開いた。

 スマコンの電池切れ。そんなの、滅多にないことだ。レンズにかかった負荷が大きかったのだろうか。

「あれ……? ヤチヨは……?」

「……優勝のインタビューは終わったよ? まだ夢見てる?」

 スマコン、彩葉が起きたら消えちゃった。

 周囲を見回す私を、かぐやたち三人が心配そうに見ている。

 ここはリアルだ。ヤチヨがいるはずがない。

「まっ、彩葉は今回もいっぱい、頑張ったもんね〜!」

 私に顔を寄せるのは……ヤチヨ、ではない。

 かぐやだ。見間違えるはずがない。

 

「ねぇ」

 

 私は、三人に問いかけた。

 

 どうして私、泣いてるんだろう?

 

 

 

 

 料理対決は終わり、ツクヨミには、また束の間の平静が戻ってきた。

 私たちの勝利は時と共に風化し、私とかぐやは、再び新たな目標に向かって邁進している。

 誰よりもファンを伸ばすこと、そしてヤチヨカップに勝ち、ヤチヨの隣に並び立つこと。

 私たちはリアルもバーチャルも、全速前進で走り続けていった。

 しかし、高校生たるもの学業が本分。私は前にも増して、勉強するための時間を多く取った。

 その余裕ができたのは、料理対決でフォロワーが増えた私たちがチャンネルの収益化に成功し、かぐやの配信が次々と生み出した利益で、私のバイトのシフトが減ったためだった。

 店長は泣いていたが、もとより奨学金の申請と両立させて、自らの力で暮らしていくことが前提の高校生活だ。

 そこから何もせずに逃げては、私が私を許せなくなってしまう。

 ただ、私は一人でその状況に立ち向かっているわけではない。

 

「……なんで、みんな食材を買ってきてるの?」

「お腹が空いたな〜と思って、この部屋でお昼を食べようかと……」

「そう、たまたま私たちはお腹が空いてた。近くに彩葉の部屋があった。じゃあ、彩葉にオムライスを作ってもらおう、そうなるよね?」

「だってさ、彩葉?」

 私は大きなため息を吐いた。

 真実、芦花、かぐや……しょっちゅう私の部屋に入り浸られ、こんなものをねだられ続ければ、好きなことさえできやしない。

 まあ、かぐやは同居人だから、そこにいるのが当たり前ではあるが。

 狭い部屋で、小さなちゃぶ台を囲んで、女四人がどこにでもあるようなオムライスをつつくことの、何が楽しいというのか。

「え。だって、楽しくない?」

「理由なんて、他に何があるの?」

「彩葉……諦めなって。芦花と真実も、彩葉のこと大好きなんだから」

 芦花と真実の二人が固まった。

 この光景、最近見たな。

「かぐやさぁ……」

「気付いてても言わないでよぉ……」

 二人はテーブルに顔を伏せて、おいおいと泣き声を立てて泣いた。

 料理対決以来、芦花はかぐやのことを呼び捨てにするようになった。

 かぐやは特段気にする風でもない。

 私たちの関係は、少しも変わらなかった……わけでもない。

 前よりもっと、四人でご飯や遊びにいくことが増えた。

 ツクヨミでも会えばだらだらと過ごし、なんだかんだでいつも顔を突き合わせている。

 かぐやの配信にも、二人を呼んだ。

 気が付けばフォロワー数は上回っていたが、インフルエンサーの大先輩であることに違いはない。

 主に社会常識や流行の観念が欠落している私たちは平伏し、彼女らの助力を乞うことも多かった。

 だから、ただの賄いから密やかな自信作に変わったオムライスくらい、二人にはいくらでも作ろう。

 

 いつもありがとう。

 これからもよろしく。

 

 精一杯のこの気持ちを込めて、全員で賑やかな食卓を囲もう。

 私たちは四人で、きっと世界で最強だった。

 

 

 ある日ゲーミング宇宙人が目の前に現れたとして、あなたはどうする?

 

 正解はそう、全力で楽しむことだ。

 

 今度は、パジャマを着て一緒に夜更かしをしよう。

 水着を買って、白くきらめく砂浜に泳ぎに行こう。

 明日は、きらきら輝く太陽を浴びて、無敵に楽しいことをしよう。

 

 この一瞬を、最高のパーティに変えるために。

 

 それが、私たちの理由だ。

 

 

 

 END





 謝辞

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
 原作、超かぐや姫!は素晴らしい作品でした。
 この作品に、そして素敵な楽曲に出会えたことに感謝します。
 ありがとうございました。

 本当に狙ったわけではなく、凄い偶然なんですが、
 完結した4月5日は綾紬芦花さんの誕生日でした。
 芦花さん、誕生日おめでとうございます。
 
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