歌姫と共に   作:ぶるうず

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代償の形

地上に出た時、太陽がまぶしくて目を閉じた。

 

どれくらいの時間が経ったのか分からない。石段を一段ずつ登るたびに膝が震えて、壁に手をつかなければ立てなかった。地下の赤い岩盤の中では時間の感覚がなかった。朝に入ったはずだ。今、太陽は低い。西に傾いている。——半日以上。

 

カルンは、まだ光を取り戻していなかった。

 

石段の一番上に辿り着いて、フェズは座り込んだ。赤い大地に膝をついて、そのまま崩れるように腰を落とす。立っていられない。体中が痛い。筋肉が軋むというより、骨の芯まで疲労が染み込んでいる。共鳴の反動だ。カルンの旋律を剣に乗せるために全身を使った。その代償が今、全部まとめて返ってきている。

 

脇腹の傷がまだ血を滲ませていた。石柱にかすめられた傷。服に赤黒い染みが広がっている。大した傷ではない。はずだ。でも手当てをする気力がない。

 

フェズはカルンをそっと手のひらに乗せた。

 

軽い。いつもより軽い気がした。光がほとんどない。目を閉じたまま、動かない。呼吸しているのかどうかも分からない。手のひらの上で、カルンの体が——冷たい。

 

「・・・ごめんな。無茶させた」

 

指先でカルンの体をそっと撫でた。

 

カルンが微かに身じろぎした。ほんの少し。指先に伝わるか伝わらないかの動き。

 

生きている。でも——とても弱い。

 

フェズは祠印を確認した。懐から取り出す。三つ目。手のひらに収まる金属片。地の大精霊テッラの魔力が込められた小さな証。ずっしりと重い。

 

物理的な重さではなかった。

 

これを得るためにカルンをどれだけ削ったか。一箇所目の弱点を砕いた時、カルンの旋律が途切れかけた。二箇所目の時、カルンの光が点滅した。三箇所目——甲羅の頂上で、カルンの光は一度消えた。手のひらの中で冷たくなった体を握りしめながら、それでも「もう少しだけ」と頼んだ。

 

カルンは応えてくれた。最後の力を振り絞って、旋律を紡いでくれた。

 

フェズは祠印を懐に戻して、両手でカルンを包んだ。手のひらの中のカルンに、自分の体温を分けるように。

 

赤い大地に夕日が差していた。岩の円環が長い影を落としている。空気がぬるい。テッラ盆地の赤い土の匂い。地下の大広間よりずっと薄いが、同じ匂いだった。

 

フェズはカルンを手のひらに包んだまま、じっと座っていた。

 

---

 

しばらくして、石段の下から足音が聞こえた。

 

規則正しい足取り。少し速い。疲れているが、しっかりしている。

 

ルセが石段を登ってきた。

 

汗だくだった。茶色い髪が額に貼りついて、頬が上気している。服のあちこちに赤い土がついている。息が荒い。だが——大きな怪我はなかった。疲労はあるが、フェズほどではない。ずっとましだった。

 

ルセがフェズを見た。石段の上に座り込んでいるフェズを。それから手のひらの中のカルンを。

 

一瞬、表情が固まった。

 

でもすぐに、ルセは顔を輝かせた。手のひらを掲げて見せる。

「やった。あたしも取れた! 地の祠印!」

ルセの手のひらに金属片が載っていた。フェズのものと同じ。地の大精霊の魔力が込められた証。

 

「・・・おめでとう」

 

フェズは笑おうとした。口の端を持ち上げようとした。うまくいかなかった。顔の筋肉が言うことを聞かない。

 

ルセの笑顔が曇った。フェズの状態を見ている。座り込んだまま動けない体。脇腹の血。手のひらの上で光を失ったカルン。

 

「フェズ、あんた大丈夫? ・・・何それ、怪我してるじゃん」

ルセがフェズの隣にしゃがんだ。脇腹の傷を覗き込む。

「かすり傷だ。大したことない」

「大したことなくないでしょ。血、止まってないよ」

ルセが腰の袋から布を出して、フェズの脇腹に押し当てた。フェズが微かに顔をしかめる。ルセは構わず布を巻いた。手際がいい。旅慣れている。

「・・・ありがとう」

「水。飲みな」

ルセが水筒を差し出した。フェズが受け取って口をつける。水が喉を通る。冷たい。乾いた体に染み渡る。半日以上、水を飲んでいなかったことに今さら気づいた。

 

ルセがフェズの隣に座った。視線がカルンに向く。

「・・・カルンは?」

「疲れてる。試練で・・・かなり使った」

 

「使った」と言った。

 

ルセが黙った。

 

何か引っかかったような顔をした。眉が寄って、口を開きかけて、閉じた。何が引っかかったのか、ルセ自身にも整理できていないようだった。

 

しばらく沈黙が落ちた。赤い大地に夕日が差している。岩の円環の影が二人の足元まで伸びていた。

 

ルセが口を開いた。

 

「あたしは——足の裏で探した。弱点」

 

フェズが顔を上げた。

 

「地面の動きを読んだの。あの亀・・・テッラ? あいつが地面を操る時、動く前に微かに地面が震えるんだよね。それを足の裏で感じて、どこが動くか先読みして、逆に動かない場所を探した。動かない場所ってことは、そこだけテッラの支配が薄いってことだから」

ルセの声は明るかった。達成感が滲んでいる。自分のやり方を語る時の、興奮と自信。

「水の祠の時より全然大変だった。足の裏で探すのに二時間はかかったかな。でも見つけたらあとは何回もそこを蹴り込んで・・・最後はもう気合で押し切った感じ」

ルセが笑った。「泥臭かったよ。全然かっこよくない」

 

フェズは何も言えなかった。

 

自分の五感で。ピカの力を借りずに。ルセは足の裏で地面の振動を読んで、自分の体で弱点を探して、自分の剣で砕いた。

 

フェズは——カルンの旋律で弱点を見つけて、カルンの音で攻撃を先読みして、カルンの共振で甲羅を砕いた。

 

同じ祠印だった。同じ地の大精霊に挑んで、同じ証を得た。

 

でも重さが違う。

 

ルセの祠印は、ルセ自身の力で勝ち取ったものだ。フェズの祠印は——カルンの力で得たものだ。カルンの光を削って、カルンの命を削って、それで得た証だ。

 

手のひらの中のカルンが、微かに震えた。まだ冷たい。光は戻らない。

 

「・・・すごいな、ルセ。自分の足で見つけたのか」

「え? まあ、他に方法なかったし。ピカは光るだけだからさ、戦闘じゃ何もできないし。自分の体で何とかするしかないんだよね」

さらりと言った。当たり前のことのように。

 

それが——痛かった。

 

---

 

祠の近くで野営した。ルセが火を起こしてくれた。フェズは動けなかった。

 

「ほら。座ってなよ。火は任せて」

 

ルセが手際よく薪を組んで、火打ち石を打つ。赤い土の上に小さな炎が生まれた。乾いた灌木の枝が燃える。パチパチと弾ける音。煙が夕暮れの空に立ち上っていく。

 

フェズは焚き火の前に座っていた。膝の上にカルンを乗せている。

 

光が——少しだけ戻ってきていた。

 

かすかに。蝋燭の炎を遠くから見るような弱い光。目は閉じたまま。でも光がある。

 

以前なら。ペダーレで共鳴を使い込んだ後でも、半日休めばカルンの光は元に戻った。翌朝には元気に光を揺らしていた。

 

今は——もう夕方だ。試練が終わって何時間も経っている。なのにカルンの光はかすかにしか戻っていない。

 

蓄積だ。ペダーレを発ってからずっと続けてきた共鳴の常時使用。テッラ盆地を歩く間もずっと探知を続けさせた。昨日、カルンが肩から滑り落ちた時点でもう限界は近かったのに——そのまま試練に突入した。試練で限界を超えさせた。「もう少しだけ」と頼んで、最後の力を絞り出させた。

 

回復に時間がかかるのは当然だ。蓄積した消耗は、一晩では抜けない。

 

フェズは焚き火の炎を見つめた。

 

テッラの言葉が頭から離れない。

 

——その歌は、代わりに何を削っているか、知っているか。

 

「・・・知ってる」

 

声に出さなかった。唇が動いただけだ。

 

カルンを削っている。カルンの光を。カルンの温もりを。カルンが旋律を紡ぐたびに、少しずつ何かが減っている。共鳴を深めるたびに、カルンの中から何かが流れ出ている。

 

知っている。最初から分かっていた。ルセと合流して共鳴を常時使い始めた時から。カルンの光が日に日に弱くなっていくのを見ていた。見ていて——止められなかった。

 

——他にどうすればいい。

 

カルンなしでは祠を越えられない。今日の試練がそれを証明した。地の大精霊の防御を崩せたのはカルンの旋律のおかげだ。音で弱点を見つけて、音で共振を起こして、音で岩を砕いた。フェズの剣だけでは傷一つつけられなかった。

カルンなしではヴェーノに勝てない。セルペ高原で、カルンの衝撃波がなければ振り切れなかった。蛇の目の追手が来た時も、カルンの探知がなければ気づけなかった。

カルンなしでは——何もできない。

 

ルセは自分の足で弱点を探した。自分の目で地面を読んで、自分の体で戦って、自分だけの力で祠印を得た。

 

フェズにはそれができない。できないから、カルンに頼る。カルンに頼るから、カルンが消耗する。カルンが消耗するから——

 

堂々巡りだった。答えが出ない。出口がない。

 

ルセが毛布にくるまりながら、ぽつりと言った。

「ねえ、フェズ」

「・・・何だ」

「明日は休んだ方がいいよ。あの子も。あんたも」

ルセの声は静かだった。命令ではなく、心配だった。

「・・・ああ。そうする」

 

嘘だった。

 

フェズの頭の中ではもう、次のことを考えている。空の祠はどこにある。五つの祠の四つ目。次の試練でカルンの音をどう使う。今日の共振——あれをもっと効率的に起こすにはどうすればいい。一箇所目で甲羅を砕いた時の音程制御。あれを最初から精密にやれば、カルンへの負荷を減らせるかもしれない。つまりもっとうまく使えば——

 

止まれない。

 

止まったらルセに追いつけない。ルセは自分の力だけで祠を越えている。フェズがカルンの力を借りてようやく同じ場所に立っている。立ち止まれば、その差は開く一方だ。

止まったら蛇の目に捕まる。ヴェーノはどこかで待っている。フェズの行動を監視している尾行者がいる。消耗した隙を狙っている。今のこの状態が——一番危ない。

止まったら、カルンを守れない。

 

だから止まれない。だからカルンに頼る。だからカルンが削れる。だから——

 

「フェズ。寝なよ。顔色、最悪だよ」

ルセの声が闇の向こうから聞こえた。もう毛布にくるまっている。焚き火の明かりでルセの横顔がぼんやり見える。

「・・・ああ。もう寝る」

 

嘘だった。二つ目の嘘。

 

カルンがフェズの膝の上で、眠ったままフェズの指にしがみついていた。小さな体。弱い光。——でも離れない。フェズの手から離れようとしない。

 

フェズはカルンの体をそっと撫でた。

 

冷たかった。まだ、温もりは戻っていなかった。

 

---

 

試練は越えた。三つ目の祠印が懐にある。「歌う剣士」——カルンの旋律を剣に乗せて、音の共振で岩をも砕く戦い方を手に入れた。

 

でも何かを壊しながら越えた。手のひらの中の、この冷たさ。日に日に遅くなる回復。蓄積していく消耗。テッラの問い。ルセの祠印との、同じはずなのに違う重さ。

 

フェズは赤い土の上で、壊れたものを見ないふりをしている。

 

見ないふりをして、次の祠のことを考えている。もっと効率よくカルンの音を使う方法を考えている。

 

焚き火が燃えている。星が出ている。カルンが膝の上で眠っている。

 

テッラの問いが、まだ頭の中で鳴っている。赤い岩の大広間に残った残響のように。消えない。消えない問い。

 

——その歌は、代わりに何を削っているか、知っているか。

 

答えは、ずっと膝の上にあった。

 

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