彩葉のバイト先の店長は前作主人公感漂う藤丸立香です(旧題:パン屋のぐだ子とバイトの彩葉)   作:生徒会副長

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㉗君には改心する権利がある

 

 私とマシュに襲いかかってきた、シャドウサーヴァントのランサー。

 元となった英霊は間違いなく、宝蔵院胤舜(ほうぞういんいんしゅん)さんだ。槍の構え方や十文字槍の形状、着ている袈裟や坊主頭など、カルデアや下総で見たときと同じだ。間違いない。

 胤舜さんは強力なサーヴァントだが、パラディーンとなったマシュの敵ではない。

 ──そう思ってた時期が私にもありました。

 

「こっのぉーー!!」

 

 かぐやちゃんがハンマーを振り回すときのような力強さと奔放さで、マシュは盾を振り回す。

 しかしランサーはそれを、軽々と避けている。

 おそらくこのランサーの回避の技巧は、胤舜さんの対人宝具──『朧裏月(おぼろうらづき)十一式』を使っている。『必ず命中する』『世界の法則に干渉する』といった概念を付与された攻撃でなければ、高確率で躱されると考えていいだろう。

 マシュの怒涛の攻撃が止んだ一瞬を突いて、ランサーが突きを繰り出す。マシュは手甲で受け流すが、手甲は盾ほどダメージをカット出来ないのであまり宜しくはない。

 

「マシュ、一旦下がって回復を!」

「はい!」

 

 フェイントを駆使して、マシュはランサーと距離を取る。そのタイミングで私は礼装の効果によってマシュの傷を癒した。回避と治癒は魔力の消費量が似たり寄ったりなので、『回避』より『被弾してからの治癒』になりがちなのが私のスタイルだ。緊急時や勝利の確信があるときはもちろん回避優先だけども。

 

「マスター、いっそレイプルーフで一気に仕留めましょうか?」

 

 マシュの対界宝具──『希望証す人理の剣(レイプルーフ・キリエライト)』、か……。

 確かにアレなら、対粛正防御などを持ってこない限り、確実に効くはずだ。

 撃てれば(・・・・)──の話だが。

 

「それは私も考えたけど、胤舜さんは宝具の出を封じるのが上手かったからね……」

 

 シミュレーター訓練でよく見た光景が思い出される。予備動作が大きい宝具は、発動より前に胤舜さんの槍で妨害されてしまう。マシュやギャラハッドが『後の先』なら、胤舜さんは『先の先』といったところ。

 一番不味いのは、レイプルーフ発射の魔力だけ消費させられた上で、それを妨害されること。彩葉ちゃんを助けて特異点を修復するまでにあとどれだけ戦闘があるか分からないので、魔力の浪費は避けたい。

 

「基本スペックはマシュが上なんだから、焦らずいこう!」

「そ、そうですね! 焦らずに……焦らずに……」

 

 ただ、マシュの急く気持ちも、よく分かる。

 彩葉ちゃんを助けるまでに残されたタイムリミットが分からない今、シャドウサーヴァント1体に時間を浪費したくはないという気持ちは……正直私の中にもある。

 

(せめて簡易召喚か、一人でも仲間のサーヴァントがいれば……)

 

 そんなことを考えながら戦闘を再開しようとすると、放物線を描いて、何かがランサーの頭上を通過した。

 何かと思えば、ただの石ころである。ランサーもマシュもその石を気にせず、戦闘を再開する。しかしその石が2つ目、3つ目となると、ただの偶然では済まない。

 そんな宝具の使い手に、私は心当たりがあったから……。

 

「シャドウサーヴァントに知性はないとされているが、それでもまぁ、まぐれで一回ぐらいは知性を持つこともあるかもしれない。それに一縷の望みを託して告げよう。“君には改心する権利がある”」

 

 私が目を向けた方向には、翡翠色の髪をした美青年が立っていた。

 彼が4つ目の石を投げるが、それはランサーの足元を跳ねただけだった。ランサーはそれによって、彼の存在を知覚し、顔を向ける。

 

「最初の四つは当てるべからず。されど五つ目は外すべからず」

 

 石を紐に括りつけ、遠心力を加えながら回し続け、彼は宝具の予備動作に入っている。

 ランサーはそれを制そうと駆け出すが、

 

「マシュ! 庇って!」

「はい!」

 

 宝具封じの槍捌きは、マシュの盾が止めた。

 胤舜さんの『先の先』の絶技は、一対一なら厄介だが、二対一ならこの通り!

 私とマシュは“彼”の名前を呼んで合図した。

 

「ダビデ! 宝具お願い!」

「ダビデ王! 今です!!」

 

 そう! 彼こそ、偉大なる古代イスラエルの王! しかしサーヴァントとしての佇まいと在り方は羊飼いとしての側面が大きく、穏やかにして涼やかで、それでいてやるときはやる男、ダビデ!!

 

「声援ありがとう、素晴らしいアビシャグたち! では期待に応えるとしよう!」

 

 キラキラな笑顔で返事をした後、彼はキリッと表情を締めて、宝具を放つ。

 巨人ゴリアテとの決闘を制した、その宝具の名は──!

 

「────『五つの石(ハメシュ・アヴァニム)』!!」

 

 今までの4つの石とは大違い! 流星のような輝きと速さで飛んでいった石は、カーブを描いてマシュを避けつつ、ランサーの首元に直撃。錐揉み回転しながら、ランサーは転倒する。

 

「マシュ! そのままトドメ!」

「はい!」

 

 勢いよく跳び上がったマシュは、体重と魔力放出の威力を乗せて、ランサーに重い一撃を叩き込む。

 爆発が起こったかのように地面が吹き飛び、ランサーは霞となって消えていく。あとに残った勝者は、悠然と大地に立つ、私のマシュだ。

 

「マシュ、お疲れ様!」

「はい、戦闘終了です。それもこれも……」

 

 私とマシュは、同時に恩人であるダビデの方を向いて言った。

 

「ダビデ王、貴方のお陰です! ご助力ありがとうございます!」

「ダビデ、助けてくれてありがとう!」

 

 私達の笑顔に、ダビデもにこやかに応えてくれる。しかし──。

 

「やぁ、はじめまして(・・・・・・)! 素晴らしいアビシャグ達! いかにも僕はダビデ! アーチャーのはぐれサーヴァントだ。君達は、かつてのカルデアの、善き旅人たちだね? 新しいこの僕とも、ぜひ仲良くしてくれると嬉しいね!」

 

 「あっ──」と、いけないこととは思いつつ、私とマシュの表情は曇ってしまった。

 

(そりゃ……そうだよね……)

 

 霊基(れいき)グラフ無しで一度別れたサーヴァントを召喚し直しても、それはもはや別人だ。

 ギリシャ異聞帯で出会ったマンドリカルドと、カルデアに召喚されたマンドリカルドが、別人であるように。

 カドックが召喚したアナスタシアと、私が召喚したアナスタシアが、別人であるように。

 ミス・クレーンやギルガメッシュ、耀星(ようせい)のハサンや玉藻の前、時間神殿やマリス・カルデアスの決戦に集まってくれたサーヴァントのように、前回召喚されたときの記憶や人格や感情を一部ないし全部引き継げる場合もあるけれど、そんなのは極めて稀な奇跡だ。或いは何らかの神性やスキルが上手く作用した場合か。

 

「おっと。誠実であろうとするあまり、ノンデリな挨拶を口走ってしまったようだ。許してほしい」

「あぁ、いや。こっちこそ初対面なのに気安すぎたかも。でもダビデって、堅苦しいのは好きじゃないはずだよね?」

「うん。羊飼いだった頃の気持ちを大切にしたいのは、カルデアの僕も、今ここにいる僕も同じさ」

「だよね! うん、じゃあ改めて……よろしく!」

 

 曇り空にもいつか陽が射すように、私とダビデも笑顔を作り直した。

 うん。思い出が消えたなら、また作っていけばいい。絆が途絶えたなら、また繋ぎ直せばいい。

 

(それで、十分楽しい。うん。十分幸せだ)

 

 私とダビデは握手を交わし、契約も交わした。これでダビデははぐれサーヴァントではなく、私のサーヴァントになった。

 そこへマシュが、躊躇いがちに尋ねてきた。

 

「ダビデ王。改めてよろしくお願いします。ところで未練がましいようなのですが……。なぜダビデ王は『カルデア』という語彙をご存知なのでしょうか? もしやカルデアに関する記憶や記録を、部分的に英霊の座に持ち越せたのでしょうか?」

 

 ダビデが答える。

 

「あぁ、その推測は正しいよ。カルデアに召喚されたダビデの記憶と記録のごく一部は、英霊の座のダビデにも反映されている。しかしそれは大雑把なものでね。君達が二度も世界を救ったこと、ソロモンが英霊の座から退去してまで、成すべきことを成し遂げたことぐらいしか覚えていないんだ」

 

 ……まぁ。

 それだけ覚えていてくれたなら、十分な報酬だ。

 デイビットも覚えてくれている訳だし……。

 ……デイビット、今どうしてるかな……。

 

「君たちのような素晴らしいアビシャグと過ごした熱い夜の記憶も、僕の中には──」

「最初から無いよ?」

「はい。そこになければ無いですね」

 

 口惜しそうにダビデが言うので、私とマシュはきっぱり塩対応で返事をしておいた。

 ダビデは目をパチパチさせる。

 

「……え? うん?? 馬鹿な……。君たちのような素晴らしい美少女(アビシャグ)と出会えたなら、ダビデという男が口説かないはずが無いんだが……」

「丁重にお断りしたので」

「色々な方が守って下さったので」

 

 私とマシュが、続けてそう言った。

 いやはや懐かしいなぁ。ロマニが『あー、ダビデ王? どさくさに紛れて無垢なマシュを口説くのも程々にして貰えるかな? いや程々っていうよりゼロの方がいいね? うん』と口を出してきてくれたり。

 レオニダスが『おお! 彫像のモデルとなり讃えられるほどの筋肉の持ち主ダビデ王! マシュ殿を口説く元気があるのなら、マスターも交えて4人で、トレーニングルームで鍛錬に励みましょう!!』とマッスルな問題解決を計ってくれたり。

 『英雄色を好む』とは言うけれど、そんな英雄達に囲まれておきながら清い身体でグランドオーダーを終えられたのもまた、英雄の皆のお陰だ。

 

「そうか……。カルデアの僕は『イエス・アビシャグ、ノータッチ』だったって訳か。ちなみに『イエス・アイシャグ、イエス・タッチ』になる可能性ってアリ寄りのアリ?」

 

 諦めが悪いなぁ!?

 

「ナシ寄りのナシです。何故なら……」

 

 マシュの腕にピタッとくっついて、私は言ってやった。

 

「私とマシュ、婚約してるので」

 

 マシュの頬がぽっと紅く染まる。やっぱりマシュは可愛いなぁ。

 

「は、はい! 先輩は私のお嫁さんで、私は先輩のお嫁さんですので! ダビデ王のお嫁さん(アビシャグ)にはなれません!」

 

 マシュがそう言うと、ダビデは目を見開いて私達二人を交互に見る。その後、

 

「ふっ……はははははっ!!」

 

 実に愉しそうに、彼は笑ったのだった。

 

「アビシャグ×アビシャグか! いやはや、21世紀にはそういうのもあるんだなぁ! うーむ、君達二人の愛を引き裂いてまで君達を娶るというのは、流石に気が引ける! 僕の完敗だとも! ははははは!!」

 

 諦めた上で、お祝いしてくれてる……ってことで、いいのかな?

 ひとしきり笑ってから、ダビデはきりりと表情を真面目にして言った。

 

「さて……。確かカルデアの記憶の話をしていたんだよね。君達の旅路と愛に敬意を表して、とっておきの話をしよう」

「とっておき?」

 

 私が首を傾げると、ダビデは「あぁ」と頷いてから言った。平然と、とてつもなく重要なことを。

 

「2004年の冬木聖杯戦争で、マリスビリー・アニムスフィアがどうなったか……知りたくはないかい?」

 

 心臓がドクンと跳ね、ドス黒いものが血管を駆け抜けるような感覚がした。

 

(マリスビリー……!!)

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデアに端を発する、全ての悲劇と理不尽の元凶。私からすればもちろん『楽しかった』ことも沢山あったけれど、だからといってマリスビリーの理想や理念、所業や言葉を許すことなど、到底できない。

 マシュも、マリスビリーの陰謀によって生み出された命だ。そのマシュが険しい顔で訊ねた。

 多分私も、同じ顔をしている……。

 

「それは……はい。とても……とても気になります、ダビデ王。私は『2004年の冬木聖杯戦争でマリスビリー氏は亡くなった』と聞いていますが、詳しい経緯を知りません。万に一つ、彼が自身の死を隠蔽し、今もなお暗躍しているというのなら……私たちは再び命を賭して、マリスビリー氏の陰謀に立ち向かわなければなりません」

 

 私が言いたいことをマシュが100%代弁してくれたので、私は深く頷く。しかしダビデは悲しげな表情を浮かべ、諭すように言う。

 

「麗しいアビシャグたち。その美貌を憎悪で歪めるのはとても悲しいことだし、意味がないことだ。確実にマリスビリーは冬木聖杯戦争で死亡しているし、彼の計画は破綻したのだからね」

「……なんでダビデがそんなこと知ってるの?」

 

 私が問うと、ダビデはウインクしながら言った。

 

「そりゃあだって、マリスビリーが冬木聖杯戦争で召喚したサーヴァントは、アーチャーのダビデだったんだからね」

 

 




【あとがき】
 ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
 初稿だとダビデポジには子ギルが居たのですが、ダビデにしてマジで良かったと思いながら続き書いてます(書き溜めはそれなりにあります)!
 シルバーウィークなので次回更新は9月22日(火)です!
 感想などお待ちしております!
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