天海春香の誕生日、どう対策したものか――765プロの会議室に響く小さな声は、やがて事務所全体を巻き込んでいく。

*本作は天海春香生誕祭2026として制作しました。

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第1話

三月某日。765プロ応接室にて。

「えー、みんな集まったかな」

ぞろぞろと、静かに集まった十四人。コの字型に並べられた机に、いつもの並びで座っていく。表情は暗い。

「では、始めよう」

ホワイトボードを移動してきたプロデューサーが、厳かに口を開いた。

 

「ただいまより、第一回、天海春香誕生日対策委員会を始める」

 

説明しよう! 天海春香誕生日対策委員会とは、天海春香が誕生日に何を欲しがるかが全く予測できない昨今の事情を鑑みて、一人一人何かをするというよりも事務所全体で何かをした方が外れないのではないか、というプロデューサーの(サボり癖が見える)提案によって結成された、765プロのアイドル十二人と事務員 音無小鳥、そしてプロデューサーによる(天海春香にとって)秘密裏に進められる会議のことである! (765プロ適当語録辞典 P765 より)

 

「さて、今年の誕生日について案を出してもらおうと思うが――」

「去年は散々だったからなー! 自分のハム蔵ケーキ、絶対ウケると思ったのに!」

「流石に同族嫌悪的な何かがあったんじゃないの? 響のことだし」

「春香とハム蔵、確かにちょっと似てるの」

「それだけで嫌になるものなのか?」

「うがーっ! そういう律子はどうなのさ! 去年律子のプレゼントが一番引かれたと思うぞ!」

「そ、そんなことないわよ! ただ、旅行券を渡しただけで!」

「その旅行券、『アフリカゾウと行く! 現地ガイドと七泊八日のサバイバルツアー!』じゃなかったかしら?」

「うぐ……」

「律っちゅわぁ〜ん……それはないっしョ〜……」

「もはやどういう基準でそれを選んだのかすら分からねえな」

「だ、だって! 直前になってそれぐらいしかこの時期の旅行券が残ってなくて!」

「それしか残ってないってどういうことだよ」

「あらあら〜」

「その点、伊織ちゃんのプレゼントは完璧だったわ! 何せ世界で一番――」

「のパティシエのケーキを持ってきて、誕生日ケーキとして自分で作ってきたはるるんの心を折ってたよネ〜。真美はあれでいっぱい笑わせてもらったからいいケド」

「あの時の春香の顔、世界で一番ひきつってたって思うな」

「そ、そんなことないわよ! あれはあれでよかったでしょ!?」

「そんな文句言ってる美希こそ! 甘いものならなんでも良いと思ってるでしょ! しかもあんな大量のいちごババロア!! あんたが食べたいだけだったでしょうが!」

「律子……さんの旅行券よりはマシなの! だってババロアは美味しいの! 美味しいのは世界を救うでしょ?」

「世界一美味しいケーキを横に顔をひきつらせた春香を見た後だから、それすら皮肉だね」

「なら真は何がいいと思うんだ?」

「そうですね……やっぱり、可愛くてフリフリな僕――」

「は、また雪歩が失神するのではないかしら。それに、去年は何故か露出が多かったし。何を血迷ったのか分からなかったけれど」

「ち、千早ぁ」

「やっぱり、一緒に過ごす時間が大事じゃない? みんなでお散歩なんてどうかしら」

「あずささん……去年、あずささんと二人がお散歩に行ったせいで、誕生日会が夜の十一時から始まったの、お忘れですか……」

「結局ワニ美たちにも出動してもらってなんとか帰ってきてくれたけど、下手したら日付変わってたさ……」

「あらあら〜」

「あらあら〜じゃないっしョ!! 亜美たちあれでパパとママから事務所でふざけ倒したから怒られてるって思われてたんだよ!?」

「それは、まこと自業自得ではないでしょうか……?」

「「お姫ちんまで!」」

「そういう貴音は、去年何したの?」

「おすすめのらぁめん一年分を贈りました。まこと、いいぷれぜんとだったと思います」

「ああ、カップ麺の……春香が、こんなの一年分じゃない! って言ってたあれか」

「確かまだ春香の家にあったはずです。この前いくつかもらいました」

「美希も、千早さんと一緒に家に行ったときにもらったの!」

「保存が効いていいと思ったのですが……」

「ありすぎても困る代表ね……経費的にも厳しいし」

「あ、やよいは無理しなくていいからな。気持ちが大事だ」

「うう〜 でも去年は参加できなかったので……」

「あれは仕方ないんじゃないかな? 特番の撮影の後だったし」

「そうよ、高槻さんは悪くないわ」

「しかもあずさのおかげで日付変わる直前から始まったしね。やよいは悪くないわ」

「うう〜 ごめんね……」

「そんなことよりここまで発言してない音無さんは、去年何やらかしたんですか」

「やらかしたなんて失敬な! ただちょっと大人なプレゼントにしただけで――」

「それが問題だって言ってるんです!! あのあとプロデューサーには言えないことになって大変だったんですから!」

「大変だったのは律子……さんと千早さんだったけどね」

「へ?」

「だ、だって春香ちゃん悩んでたし、それなら積極的にガッてやってチュッと吸ってはぁぁんになれる方がいいって……」

「だからって……入りのチョコレートを渡す大人がどこにいるっていうんですか! 全くもう!」

「それが大人のすることと思っているからいつまで経っても音無さんなのでは……?」

「今日は千早の切れ味がすごいや」

「これは初期の千早ね」

「そんな千早お姉ちゃんは何をプレゼントしたの?」

「私? 私は春香への愛の言葉765分プレイリストのCDよ。我ながらよくできたと思っているわ」

「ここまで出てきた酷いのと大差なくて酷いや」

「これで他の人のをあんな切れ味で貶してたってわけ……?」

「あはっ、珍しい千早さんのどや顔なの!」

「うう〜 千早さん怖いです〜……」

「えっ」

「あらあら〜」

 

「はいはいそこまで〜。さて、出揃ったところで今年の話だ、今年の」

議論の白熱具合を横目に、ホワイトボードをマーカーでこんこんと叩いたプロデューサーの声が、静かに響いた。「天海春香誕生日対策委員会」の文言の下に、点が打たれる。

「というわけで、今年は事務所で一つ、何かをしようという案だが、これについて異論は?」

「「ないっしョ!」」

「経費で出せると社長にも許可を取りましたからね」

「さすが律子……さん、なの!」

「なんだかんだ一番みんなに優しいのは律子さんですね」

「ちょ、ちょっと何ですか音無さんまで――」

「そんな律子があげたのが、サバイバルツアーなわけだけど」

「やっぱり律子……さん、なの!」

「さすがに笑った」

「ぷ、プロデューサー!」

「そんなことはいいから、早く進めなさいよ!」

「はいはい。で? 何かいい案は?」

「でも、やっぱり甘いものがいいんじゃないかな? みんなで食べることも含めて、いい誕生日会になりそうだと思うよ」

「真は衣装さえ間違えなければいいこと言うよな」

「い、衣装の話はいいじゃないですか!」

「でも確かに、ケーキ自体は悪くなかったと思うのよね。問題は――」

「はるるんがケーキを作ってきてることを把握できてなかった、いおりんってことで!」

「ちょっとぉ!」

「おいこの貶し合いまだ続くのか?」

「さぁ……」

「放ってないで止めてくれ、律子。あ、アフリカツアーの律子」

「なんですかその余計な二つ名!!」

「あはっ! アフリカツアーの律子! いい響きなの!」

「とりあえずアフリカツアーと散歩と過激なチョコと衣装は無しで……と」

「そんなことホワイトボードに書かなくてもみんな分かっているのでは?」

「分かってないな、千早。これが分からないから去年があるんだ。あ、CDも禁止にしておこう」

「えっ」

「それなら、動物を模したけぇきも禁止にすべきかと」

「ちょっと貴音! それどういうこと!?」

「禁止事項ばかり増えてるな……何か建設的な案はないのか?」

「タロット占いとかどうかしら? おしゃれなのもあるし」

「それですごい悪い運勢が見えたら去年どころじゃないっしョ……」

「博打はNGっしョ……」

「では、やはり皆で作るけぇきが良いのではないでしょうか?」

「あんまり大きいと去年のデコちゃんみたいになるし、ちょっと小さめで作った方がいいと思うな」

「ちょっと美希! どういうことよ!」

「まぁまぁ、とにかくみんなで作るということが大事という方針で決めるか。で、問題はいつ作るか」

「あんまり大々的にやってたら春香にバレちゃうし……」

「とはいえやよいのこともあるから、あんまり遅くにはなれないよね」

「保存もあまり効かないとなると、ここで用意するのは難しいんじゃないかしら〜……」

「じゃあ、ここで作っちゃえばいいんじゃないですか?」

「え?」

「春香さんにバレないように、当日ここで作っちゃって、みんなで何かトッピングする、みたいにすれば、ここでもできそうだな〜って!」

「さすがやよい、料理番組を持っているだけある」

「高槻さんかわいい」

「それならみんな自分の色が出ていいんじゃないかしら? 準備も各々できるし、材料は事務所の冷蔵庫で預かれるし、私は当日ここにいるから」

「音無さんに預けるのはちょっと不安だけど、まぁそれならいいか」

「ぷ、プロデューサーさん!?」

「はいはーい! じゃあ、せっかくなら――」

「ドッグフードは駄目よ、我那覇さん」

「そんなの入れたりしないぞ!! 千早は自分のことなんだと思ってるのさ!!」

「あ、ババロアにはならないからな、美希」

「むーっ、ハニーは意地悪なの」

「せめて春香の誕生日なんだから、春香のことを思って作りなさいよ」

「うるさいの、アフリカツアーの律子……さん」

「やかましい!」

「はいはい、じゃあというわけで、各々ケーキに乗せるトッピングをちゃんと当日持ってくるように。ケーキの土台のスポンジはこっちで用意しておくから」

「「はーい!」」

「亜美、真美、イタズラは駄目だからね」

「アフリカツアーの律っちゃんには言われたくないかんね!!」

「コラーッ!!! 待ちなさいあんたたちー!!」

「「逃げろ〜!!!!」」

「あらあら〜」

「とりあえず、そろそろ春香が来るし、これで終わっておこうか。あ、みんな、これサプライズだから、くれぐれも春香にバレるなよ! 特に千早!」

「えっ」

 

記録終了(担当:萩原雪歩)

 

 

*

 

 

PS

千早ちゃんが全然隠そうとしないので全部筒抜けでしたよ!! サプライズの意味知らないんじゃないですか?

あと、当日やよいはもやしをのせてるし、貴音さんはチャーシューだし! 二郎系ケーキみたいになっちゃってましたからね! 対策委員会ちゃんと仕事してください!

 

それと、雪歩は黙ってたのか記録に一言もないですけど、一番酷かったですからね。何せ白い粉――

 

(ここで文章は途切れている)

 




誕生日おめでとう、春香。
それと、いじり過ぎてごめん、律子。

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