俺の双子の弟は緑谷出久 ~大魔道士ポップと憑依する竜の騎士~ 作:篠原えれの
朝の陽射しがまだ柔らかい時間帯。
雄英高校への通学路を、ポップはフラフラと歩いていた。目の下に濃いクマを作り、制服のネクタイも少し緩んだまま。隣を歩く長身の男——轟ヒュンケルは、黒いコートを羽織ったまま無言で付き添っている。
「くそー、公安の奴らおれを便利屋か何かと思ってねえか。事情聴取のあと次の日学校あるのに深夜任務とかありえねーんだが。おれ一応未成年なんだけど!?!?」
ポップは大きな欠伸をしながら愚痴を零す。昨夜は都心で起きた人質立てこもり事件の処理に駆り出され、朝方まで拘束されていた。呪文を連発した疲労がまだ残っている。
ヒュンケルは静かに前を見据えたまま、低い声で答えた。
「人手が足りてないんだろう。お前のような万能型の『呪文使い』は、公安にとっても貴重な戦力だ。……それに、昨夜の現場ではお前が一番貢献していた。」
「貢献したのはいいけどさー、寝不足で授業なんて集中できるわけねーよ……。メラミ一つ飛ばすのも億劫だぜ……」
ポップはぼやきながらも、ふとポケットからスマホを取り出して時間を確認した。
出久がもう登校している時間だ。弟はきっとまた不安を抱えながら教室で待っているだろう。
「……はあ。まあいいや。出久が心配してるだろうし、早く顔見せてやらなきゃ。昨日の事件のニュース、弟が見てビビってないといいけど……」
ヒュンケルはわずかに眉を寄せ、ポップの肩に軽く手を置いた。
その手は大きく、温かかった。
「緑谷出久は強い。お前がいつも守っている弟だ。……だが、お前自身も無理をするな。未成年だろうがなんだろうが、戦場に立った以上はプロだ。それでも……今日は学校に集中しろ。オレが公安に一言入れておく。次からはもう少し配慮するよう伝えてやる。」
ポップはヒュンケルの横顔を見て、くすっと笑った。
クマだらけの顔で、でもいつものように柔らかい笑顔になる。
「へへ、ありがとよ、ヒュンケル。お前がいると心強いわ。……まあ、結局お前も公安の便利屋にされてるじゃん。
昨夜、一人で何人斬りまくってたんだ?」
ヒュンケルは小さく鼻を鳴らし、視線を少し逸らした。
「……必要だっただけだ。お前が後方支援で呪文を張ってくれていたから、被害を最小限に抑えられた。……礼を言う。」
二人はそのまま雄英の正門が見えてくる坂道を上り始めた。
ポップは欠伸をもう一つ嚙み殺し、背筋を伸ばした。
「よし、気合い入れ直すか」
ポップは手を振りながら正門の方へ歩き出そうとしたところで、ふと足を止めた。
「……あ」
坂道の下の方から、ゆったりとした足取りでこちらに向かってくる人物が見えた。
白と赤の髪、冷たいような、でもどこか寂しげな瞳——轟焦凍だ。
ヒュンケルもそれに気づき、わずかに目を細めた。
長身の闘剣士は、黒いコートを軽く翻して立ち止まる。
轟焦凍は二人の姿を認めると、少しだけ足を速めて近づいてきた。
表情は相変わらず無表情に近いが、目がわずかに柔らかくなる。
「……兄さん。それに、緑谷……ポップ。」
ヒュンケルは低く頷いた。
「焦凍。学校か。」
「うん。……兄さんは?」
「送り届けに来ただけだ。昨夜の任務でポップが遅くなったのでな。」
ポップはクマのできた目をこすりながら、いつもの柔らかい笑顔を浮かべて焦凍に手を挙げた。
「よお。ってか、ヒュンケルが『兄さん』って呼ばれるの、まだなんか新鮮だわ。へへ、いい感じじゃん。」
焦凍は少し視線を逸らし、淡々とした声で答えた。
「……兄さんは、昨夜も公安の仕事だったのか。ニュースで見た。人質事件……無事でよかった。」
ヒュンケルは短く息を吐き、ポップの肩を軽く叩いた。
「ポップが後方支援で呪文を張ってくれたおかげだ。オレはただ斬っていただけだ。……焦凍、お前も今日の授業に集中しろ。無駄なことを考えるな。」
ポップは笑いながら、焦凍に優しく声をかけた。
「ヒュンケル、相変わらずストレートだなー。これはだな、こいつがそれなりにお前のこと心配してるってことだからね。もし学校で何かあったら、おれにも声かけてよ。出久もいるし、兄ちゃんとして何か力になれることあったらすぐ飛んでくから。……まあ、今日はおれも寝不足でフラフラだけど」
焦凍はポップの言葉を聞きながら、内心でさらに疑問を深めた。
「(……兄さんと緑谷ポップ……ただの任務仲間って感じじゃない。妙に馴れ馴れしいし、兄さんが肩を叩いたり手を置いたり……珍しい。しかも「兄ちゃんとして」って……出久の兄なのに、うちの兄さんともこんなに親しいのか?……なんか、引っかかるな)」
表面上は淡々と頷き、焦凍は静かに返した。
「ああ。」
ポップはクマのできた目を細めて、焦凍の顔を覗き込んだ。
いつもより少し怪訝そうな表情をしているのが気になったのだろう。
「そんな怪訝な表情しないでくれよ、なんか変なこと言ったか?おれ」
焦凍は一瞬視線を逸らし、すぐに戻して淡々と言った。
「いや、あまり喋らない、人と関わらない兄さんが送り迎えするのがそもそも珍しいからな。」
ヒュンケルは無言で少し目を細めたが、特に否定はしなかった。
ポップはくすっと笑い、肩を軽くすくめて答えた。
「これぐらいはするさ。ヒュンケルは任務の後、わざわざ俺を雄英まで送ってくれたんだぜ?未成年が寝不足でフラフラ歩いてるのを見かねて、って感じかな。……まあ、実際助かったけど」
そう言いながら、ポップはヒュンケルの横顔をチラッと見て、柔らかい笑顔を浮かべた。
ヒュンケルは小さく鼻を鳴らすだけで、何も言わない。焦凍は内心でさらに疑問を深めた。
「(……「これぐらいはするさ」って、兄さんがそんな風に他人を気遣うなんて……。しかも緑谷ポップの言い方が妙に馴れ馴れしい。任務仲間ってレベルじゃない。まるで昔からの知り合いみたいだ。兄さんが肩に手を置いたり、ポップが「ありがとよ」って笑うのも……なんか、普通じゃない)」
表面上は相変わらず冷静に、焦凍は静かに続けた。
「……そうか。なら、兄さんも無理はするな。」
ヒュンケルは短く「ああ」とだけ頷き、ポップの背中を軽く押した。
「……もう行け。焦凍も遅刻するな。オレはこれで戻る。」
ポップは最後に二人に向かって軽く手を振りながら、正門の方へ駆け出した。
「じゃあな、ヒュンケル! それじゃおれは先に行くわ」
ポップの背中が見えなくなると、焦凍は兄の方をじっと見た。
ヒュンケルは静かに息を吐き、弟の頭に大きな手を軽く置いた。
「……あいつは、戦うときだけじゃなく、誰かを守るためなら自分を削る男だ。お前も、少しは見習え。」
焦凍は小さく頷きながら、内心で呟いた。
(……それだけじゃない。兄さんとあいつ、ただの任務仲間じゃ説明がつかない何かがある)
轟焦凍は兄の背中を少し見送った後、ゆっくりと雄英の正門へと歩き出した。
◆
「ポップ兄ちゃん、ニュース見たよ……大変だったんだね。ご飯食べれた? 少しは眠れた?」
教室に入るなり、出久が心配そうに駆け寄ってきた。ポップはぐったりとした顔で、弱々しく笑う。
「ご飯はまぁ食べれたけど、眠くて仕方ねえよ。寝る暇なんて全然なかったわ……。おれ、今日保健室で仮眠でいいかー?」 そう言いながら、ポップは自分の机にぐだぁっと突っ伏した。死人のように動かなくなる。
「あわわ……兄ちゃん、大丈夫……?」
出久が慌ててポップの肩を揺する横で、お茶子が心配そうな顔で近づいてきた。
「グロッキーだね、ポップ君……」
お茶子は小さく首を傾げながら、カバンからペットボトルを取り出した。
「昨日はお姉ちゃんもお仕事大変そうだったよ。あ、これ飲むといいかもって渡されてるんだけど、ポップ君飲む?」
渡されたのは、冷えた緑茶だった。
ポップは死んだ魚のような目でそれを受け取り、一気に飲み干した。
「……ぷはっ!」
カッと目を見開き、急に背筋を伸ばす。
さっきまでの死にかけの表情が一瞬で吹き飛び、顔色がパッと明るくなった。
「飲むー……ってなんだこれ!? すげえな、誰の差し入れ!?」
お茶子はにこっと笑って答えた。
「お姉ちゃんから」
ポップは一瞬「?」という顔をしたが、すぐにピンと来て大きく頷いた。
「あー! 麗日のお姉ちゃん……マァムか!助かった~! これで今日も頑張れるわ、おれ!マァムに『ありがとう』って伝えておいてくれ!」
「うん、伝えておくね」
出久はまだ少し心配そうに兄の顔を覗き込みながら、ほっと胸を撫で下ろした。
ポップは緑茶の空きボトルを握ったまま、優しく出久の頭を軽く撫でた。
「心配かけて悪かったな、出久。兄ちゃん、もうちょっと元気出してきたから大丈夫だよ」
その光景を見ていた焦凍の頭の中でさらに疑問が膨らんだ。
「(……待てよ。昨日の人質事件のニュース……公安が動いていたはずだ。緑谷の兄はヒュンケル兄さんと一緒に任務に行っていた。それなのに、麗日のお茶子の姉まで「マァム」呼ばわりで差し入れまで貰ってる……?まさか、麗日のお姉ちゃんも公安関係者なのか……?)」
焦凍はわずかに眉を寄せ、淡々とした表情を崩さずに内心でつぶやいた。
「(……兄さんだけじゃなく、緑谷ポップは公安の人間と妙に繋がりが深い。麗日のお姉ちゃんも公安かよ……一体何なんだ、あいつ)」
彼は静かに視線を窓の外へ移した。
相変わらずクールな顔のままだったが、頭の中は少しざわついていた。
ポップはそんな焦凍の視線に気づかず、机に突っ伏したまま満足げにため息をついた。
「ふう……これで午前中はなんとか持ちこたえられそうだ。出久、ありがとな。お茶子も、ありがとよ」
出久が「あ、うん!」と慌てて頷く中、焦凍はただ黙ってその光景を見つめていた。
◆
「授業始めるぞ。昨日の話は聞いてる。緑谷兄、キツかったら公欠でもいいんだぞと連絡を入れたが出席してるな」
相澤先生が入ってくる。
「元気になったんで大丈夫です」
「そうか。昨日の今日で疲れていると思うがその様子なら大丈夫だな。では。雄英体育祭についてHRを始めるぞ」
そうして体育祭についての説明会が始まった。
今回は私:AIで3:7ぐらいです。
どう始めようかな~と悩みながらの制作でした。
轟君とヒュンケルとポップの交流をどうしても入れたかった回でした。
誤字報告ありがとうがざいます
雄英体育祭編、全部完成してから投稿したいので
気長にお待ちください