帰りのホームルームの時間。
相澤先生の黒尽くめの姿に、先日の脳無戦が思い出されてしまう。正直、私ならもっと戦えると思っていたのだ。
だが浮彫になったのは個性の高い汎用性の反面、やはり地力での決定力不足だった。
今の私の個性をちょっと振り返ってみよう、時々挟まる能力確認ってやつだ。
〇個性:糸
簡単にいうと謎の物質で出来た銀色の糸を伸ばして、繋げた物体を動かせるぞ! そして作り出した糸を、私は以下のように分類している。
・軟糸――元々の柔らかく弾力のある糸、これを軟糸と呼んでいる。人形や自身を操っている時はこれを繋げているのだ。
・幻糸――軟糸自体ももっと細い糸がより集まって出来ている。軟糸を解いて取り出した、目には見えないくらい細い糸、これが幻糸だ。
普段から私は幻糸を周囲に張り巡らせ、それを知覚領域としているのである。この幻糸の設置が、私にとっての戦術の基本となる。
・硬糸――逆に軟糸を幾重にもよって硬く頑丈にしたものが硬糸だ。相手を拘束する時はこれを巻き付け、防御の際は布を織るように壁を作り、攻撃時には束ねて鞭のように振るっているのである。
だが、攻撃力を上げるとするなら、さらにそこから進化させる必要があるのであった。
ふいに相澤先生が〝大事な連絡があるから、全員聞いとけよ〟と声を響かせた。
「前々から学校側で検討していたことだが、ヒーロー科は全寮制に移行することになった。急なことですまないが、今からそのプリントを配るぞ」
え、寮生活になるのはこのタイミングなんだ!? と驚いてしまう。
原作ではオールマイトとオール・フォー・ワンが死闘を繰り広げた神野事件の後の出来事だ。
――でもそうか、今回はヴィラン側が生徒を標的にしていたことを公言していたのである……この場合は、学校が生徒を囲い込む措置を早めたということだろう。
「先生。全寮制ということは、雄英に学生寮があるということでしょうか?」
「そうだ。正確には現在建設中で、来週中には完成予定ということだ」
挙手した飯田君に、相澤先生は一瞥して頷いた。
「だから、プリントはその説明および保護者の同意書と家庭訪問の確認書になる。特に問題ないという家庭はただ同意書だけを提出してくればいい。おまえらは出来たてホヤホヤの建物に入居することになる……勿論突然のことなので、ちゃんと話が聞きたいというご家庭もあることだろう。その場合は家庭訪問の確認書を提出して欲しい。雄英の教員が各ご家庭に伺って説明する予定だ」
「え、先生が家に来てくれるの?」
にっこりと笑う芦戸ちゃんに、相澤先生はジト目で〝……必要ならな。不要なら呼ばないこと〟と念を押す。
「入居が決まった場合は、荷物を送る日などは後でクラスごとに設定する。建物はクラスごとだからな」
「ってことは、みんなで生活するってことっすかー?」
ぱっとプリントから顔を上げた上鳴君と瀬呂君に、先生は〝そうだな〟と頷く。
すると皆が興奮を隠しきれない喜色で斉唱を返したのであった。
「「「やったー、絶対楽しいやつじゃん!!」」」
―――――――トガヒミコside――――――――
所狭しと並べられているフワフワのぬいぐるみ。
それらはカァイイものが大好きな私がこれまで集めたり、もらったりし続けてきたものだ。
学生寮にはどれを持って行こうかな、と鼻歌を混じりに私は自室を見回す。
そんな空間には似つかわしくない無骨な小箱を抽斗から取り出して、私はかき抱いた。簡易採血キット、少量の血を採るために個人が使える装置。私が最も大切にしているものだ。
かつてまだ私が、周囲から認められない孤独を抱えていた頃。
イトちゃんと八木のおじさんが私のために贈ってくれものだ。そして二人は、わざわざ両親に私の個性のことを相談しにも来てくれたのである。
ほんの数mlしか採血できず、今となっては使えるようなものではない。
でも、これこそがイトちゃんとのささやかな思い出であり、私と世界とを繋いでくれたものなのだ。
正しい世界では、きっと私のような人たちは救われない。でも正しい側にいるだけで称賛され、そういった罪からは目を背けられるように世界は出来ているんだ。
私はそんな人たちを救う努力をしたいと思えた、かつて私をイトちゃんが救ってくれたように。だからこれは、私の原点なのだ。
―――――――トガヒミコsideここまで――――――――