遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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お久しぶりです(汗)

デュエル回にする予定が、前振りとかが予想以上の文字数になったので次回に回します……

最近、アニメで散々焦らしてた《ABF-驟雨のライキリ》の効果がディメンション・オブ・カオスで先に公開されて不完全燃焼気味です←
あと、セレナの月光シリーズはまだですか?(真顔)


動き、軋み始める日常の歯車

『――君はデュエルするの?』

『――そっか、なら僕のデッキを使って』

『――僕なら大丈夫、予備のデッキならあるから』

『――どのデッキを使うかじゃない。大切なのは、カード1枚1枚を大事に扱うことだよ』

『――君も()()カードだけじゃなくて、みんなを大事にすれば、いつかちゃんと答えてくれるようになるよ』

『――じゃあみんなの所に行こうか』

『――大丈夫、怖くはないよ。みんなも、君もね。まずはお互い歩み寄るところから始めよう。僕もフォローするからさ』

『――あ、そういえば名前聞いてなかったね』

『――遊糸君だね。これからもよろしく。僕の名前は――』

 

 ★

 

「…………」

 意識が覚醒する。瞼の重さや、身体の気だるさから、自分が居眠りをしていたのだと理解した。

「あー、くそ。変なもん思い出しちまった……」

 眉をひそめて唸るように呟いたその言葉からは隠し切れない怒気が含まれていた。ガシガシと頭をかきむしっていると幾分かイライラも収まってきた。

 冷静になった頭で改めて周囲を見回すと、自室でもアカデミアでもない風景が広がっており、時計を見ると“16時”をすでに回っている。

 黄昏は知る由もないが、今頃七波とその友人シャルロッテが死闘を繰り広げている真っ最中だ。

 つまり完全に欠席である。先ほどは自分の状況が把握し切れていなかったが、ようやく頭が覚醒してきたらしく、ここがどこなのか理解した。

「セントラルの待合室、か……」

 ダイスシティの役所、通称セントラルの待合室で居眠りをしていたようだ。黄昏の記憶が正しければ他にも数人ほどいたはずだが、他の人は全員用事が済んだらしく。待合室は静寂に包まれていた。

 そもそも、なぜ彼がアカデミアをサボってここにいるのかというと、セントラルの職員の不手際が原因だったりする。

 D・ホイールを運転するにはライセンスが必要なのは周知の事実だが、通学で使う場合はそれに加えて別の書類にサインし、受諾してもらう必要がある。

 その書類自体はすでにセントラルに送ってあり、あとは予め預けていたD・ホイールのシステム点検だけで済む。そのはずだったのだが、不幸にもこちらが送った書類をここの職員が紛失したらしい。

 更に不幸なのは、この申請の承諾には時間がかかり、今日を逃すとさらに数週間はD・ホイールでの登校は不可能になるということだ。

 どちらかといえば朝は弱い彼からすれば早起き必須の徒歩通学はそろそろ勘弁したかったので何とか交渉してみたところ、午後には再発行できるとのことだったためアカデミアの方に許可を取って待っているわけなのだが……

「まだ再発行時間かかってるのか……」

 先ほど言った通り時間は16時を過ぎているが、未だ書類の再発行は終わってないらしい。朝早くに立ち寄る程度の予定だったため持ち物も教科書とデッキぐらいだ。

 デュエルパッドがあれば暇をつぶすこともできただろうが、あれはD・ホイールのキーでもあるため、今は手元にはない。それでもしばらくデッキ調整をして暇をつぶしていたのだが、持ち合わせのカードがあまりなかったせいで長くは続かなかった。

 最後の手段として仮眠をとっていたのだが、ご覧の有様である。ならば二度寝をしてやろうかと再び目を閉じようとしたとき、人の気配を感じてとっさに顔を上げる。

 そこにいたのは、普通ならありえない組み合わせの二人だった。片方は短髪をくすんだ金色に染めた男、もう片方は熊のような巨体の男性。どちらも見覚えはあったが、ありえないのは2人とも、特にくすんだ金髪の男の方がセキュリティの制服を着ていたことだ。

「よお、久しぶりだな黄昏」

「なんでお前がセキュリティの服着てんだよ、神崎。つい先日独房送りになっただろうが」

 神崎零司(れいじ)。グールズの一員で始業式で黄昏と死闘を繰り広げたデュエリストだ。しかし、目の前にいる彼は間違いなくセキュリティに連れて行かれたはずだ。

 昔ほどセキュリティの権限はなく、軽い罰でもセキュリティに捕まったらその後の人生は牢獄の中、ということはなくなった。ただそれでも神崎のような明らかな犯罪者への罪は重く、このような短期間で釈放されることはありえない。なによりその神崎がセキュリティの制服を着ているのが一番ありえなかった。

「話せば長くなるけど聞くか?」

「暇つぶしにはなりそうだから聞く」

「暇つぶしかよ。まあいいけどよ。……そういやなんでここにいんだ?」

「ライセンス申請の書類を再発行待ち」

「む、またやらかしたのかあいつら。すまんなボウズ、俺の方からも言っておこう」

 熊のような巨体の男……『ボレアス』のジンが大神(おおかみ)と言っていた男が組んでいた腕を解いて頭を下げた。

「っと、自己紹介が遅れたな。俺は大神虎鉄(こてつ)。見ての通りセキュリティの人間だ」

「黄昏遊糸です……っ!」

 握手を求められ握り返すと予想以上の怪力で上下に振られた。見た目相応の馬鹿力でしばらく黄昏はなすがままとなり、解放されると心底ホッとしたように手を戻した。

「お前さんの話は神崎から聞いている。ずいぶん腕が立つそうだな」

「いや、そんなことは……神崎、お前過剰評価のしすぎだろ」

「俺より強いんだから十分誇れってんだ。それともあれか? まぐれで勝てるほど俺は弱かったか?」

「……その聞き方は反則だ。わかったよ、神崎の解釈で間違いないですよ。それで、どうして神崎がここにいて、しかもセキュリティの制服を着てるんだ?」

「それについては俺から話そう。隣座るぞ」

 社交辞令で言っただけらしく、許可を待たずに大神は黄昏の隣、神崎はその対面に座る。その遠慮のない光景に黄昏が肩をすくめていると、神崎が煙草を取り出して吸い始めたのでたまらず黄昏は一言物申す。

「ちょっと待て、なに煙草吸おうとしてんだよ」

「あん? 俺の息抜きの邪魔すんのか?」

「せめて喫煙室行け」

「んな面倒なこと俺がすると思うか?」

「まー、しねぇだろうな」

「なら我慢しろ」

「なんでそうなる。……いや、なんか相手にするの疲れるから言わなくていい」

「がははは! 俺も最初はこいつの扱いには困ったもんさ。こいつは言っても聞かんからな、いかに早く妥協点を決めて諦めるかが重要だぞ?」

 黄昏が口論を放棄すると、大神は豪快に笑い、そして神崎は勝ち誇った表情で煙草に火をつけて一息つき始めた。

 紫煙の息を吐き、しばし至福のひと時を満喫する神崎を呆れた様子で眺める黄昏は、タイミングを見計らて話し始めた大神の言葉に耳を傾ける。

「ところでお前さん、『グールズ』について詳しそうな素振りを見せているが、ホントのところどうなんだ?」

「第一回バトルシティの頃に発足したレアカードの窃盗、偽造、密売をしてる集団、ってことは知ってますけど……」

 とある事情で調べた知識を思い出しながら、黄昏は知りえる限りのことを話していく。それを聞き終えた神崎たちは目を丸くして驚いていた。

「思ったより詳しいな。付け加えると、それは発足当時の話で、今はいろいろと複雑になってんだ。

 今ではレアカードの強奪だけじゃなくて、金、名誉、地位、人望、その他もろもろを欲しがってる強欲な人間が集まっててな、今は地位と人望を求める人間が多いから、こうやってセキュリティのやつらに手貸してんだよ。

 言っちゃ悪いが、セキュリティよりも俺たちみたいな『ならず者』の方が犯罪者の心理を理解しやすいし、『そっち側』にも顔が効く。

 それに、不正に製造されたカードを使う相手にも俺たちならコピーカードを使えば楽勝ってこった」

「適材適所ってことか」

 そういうことだな、と再び煙草を吸う神崎。ただ、と黄昏の隣の大神は肩をすくめる。

「上が未だに首を縦に振らないから、専ら俺の方に降りてきた仕事を割り振ってるだけだがな」

「ということは、『グールズ』って結構丸くなってるとか?」

 思わずこぼれたその言葉は説明を聞いた黄昏の率直な感想だった。しかしその感想を耳にした神崎は肩をすくめてため息をついた。

「言っとくが、だからって今の『グールズ』が善良ってわけじゃねえからな?

 俺たちがセキュリティに手を貸してるのは、それが金や地位に直結するからだ。前にお前らを襲ったように、今もカードの強奪も、闇売りも続けてんだ。そこんところ勘違いすんなよ?」

「そこ、普通は嘘でも逆のことを言うところだと思うんだけど?」

「自分がしてることがどれだけクズかってことぐらい理解してんだよ。

 そんでもって、そういう存在が必要悪として求められてるってこともな。

 お前にはデュエルで負けて今後一切あのアカデミアには危害を加えないって契約しちまったから、心配する必要なねえだろうけどな」

「契約つっても口約束だろ。それ守るってずいぶん律儀だな」

「社会のクズになっても人間のクズにはなるな、っつうのが今のリーダーの信条なんだよ」

「そいつ、一体いつの時代の人間だ?」

「そう思っても仕方ねえかもな。まあ、曲げたくない信念ってのを持ってるやつはいつの時代でもいるってこった。覚えとけ」

 自嘲気味に笑う神崎は煙草の火を消して携帯灰皿に突っ込むと、おもむろに立ち上がる。

「またセキュリティへごますりか?」

「いや、こっからは私用だ」

 軽く茶化すつもりだった黄昏だが、神崎の真剣な表情に眉をひそめる。

「なんかヤバいことでもあったのか?」

「セキュリティの仕事しながら、俺たちを雇った平坂ジンや『ボレアス』のことを調べてたんだけどよ、どうも最近篠村から連絡が取れなくなってな」

「行方不明ってことか」

「今のところそんな感じだな」

 篠村といえば、依然黄昏たちを二度にわたって襲撃した時の神崎の相方のような存在だったはずだ。神崎の真剣な表情を見ると、かなり危険な状況なのかもしれない。

「あてはあるのかよ?」

「こちらにも捜索願いは提出されている。俺たちセキュリティも別のアプローチで探してはいるんだが、全く足取りが掴めん。すまんな神崎」

「大神のおっさんには頭が上がらねぇな。まあ、あてはこれから探すさ。どうせ俺もボレアスのことを調べてんだ。すぐに足取りは掴めんだろ」

「うむ、よく言った!!」

 豪快な笑い声が聞こえたかと思うと、熊のような巨体の繰り出す平手打ちが神崎の背中に繰り出された。通常、平手打ちをされればその衝撃のほとんどが乾いた音として逃げるものだが、この化け物(おおかみ)が繰り出す平手打ちは通常のそれとは常軌を逸していた。

 なんと爆竹のような音が鳴ったのに神崎の体が1メートルほど吹き飛んだのだ。吹き飛んだあと、壁まで転がってようやく止まったが、そのあと微動だにしなくなった。その光景に黄昏は開いた口が塞がらない様子だった。

「……大丈夫か?」

「そう見えるならてめぇの目は節穴だ」

 唸るような言葉に苦笑いを浮かべていると、そこに職員がやってきて会話は打ち切りとなった。とはいっても、控室に客である黄昏がいるのは当たり前だが、そこにセキュリティの大神と壁際で転がっている神崎というカオスな状況に一瞬思考停止していたようだが……

 何度も頭を下げる職員から通学許可証をもらい、帰っていく職員の背中が見えなくなるまで見送った黄昏は自分の荷物をまとめ始めた。

「お前はこれからどうすんだ?」

「アカデミアに行って通学証明書を渡してくる。そうしないと明日も徒歩で向かうことになるからな」

「今はD・ホイールで通学していいのかよ?」

「もう放課後だから通学にはならねぇだろ。そうじゃなくても、()()近くに寄るから渡しに行くだけだ。問題はねぇだろ?」

 まるでいたずらを思いついた子供のような不敵な笑みを浮かべる黄昏に、神崎たちもつられて同じような笑みを浮かべる。

「……お前結構こっち寄りの人間じゃねえのか?」

「いや、お前さんぐらいの年頃はそれぐらいやんちゃな方が安心するわい。いき過ぎれば俺がゲンコツで止めてやるからやりたいようにやれ」

 顎を触りながらにやりと笑う大神の言葉は父親のような威厳を感じるが、実際にゲンコツを食らうと頭蓋骨は簡単に陥没しそうなので遠慮願いたいところ。

「まあそれは置いといて、だ。どうせなら俺とアカデミアまでツーリングでもするか?

 ベテランの俺がてめぇのライディングテクニックを見てやんよ」

「情報集めるんじゃなかったのか?」

「なに、目的地なんてねえんだ。とりあえずバイク走らせんのが一番だろ」

「うむ、俺はこれから別の件で出動する。くれぐれも事故だけは起こすなよ?」

「わーってるよ。大神のおっさんこそヘマすんじゃねえぞ」

 二人のやり取りを見ながら身支度を整えた黄昏は、話を終えた神崎とともにその場を後にする。去り際、大神が思い出したように黄昏を呼び止めた。

「最近アカデミアで不審な人影の目撃情報が増えている。近々アカデミアで直接忠告をするつもりだが、くれぐれも気を付けるんだぞボウズ」

「……ご忠告どうも」

 決して大神の言葉を軽視しているわけではない。むしろその逆で異様な胸騒ぎを感じた黄昏は、挨拶もほどほどに足早にその場を離れて行った。

「おい、大丈夫か」

「別に何ともないけど?」

「そうじゃなくて、なんか急いでないか……っておお!?」

 心配そうにのぞき込みながら並んで歩く神崎。どうやら本当について来るようだ。別に問題はないのでそのまま歩いて自分のD・ホイールの元まで歩いていくと、神崎がいきなり声をあげた。

「どうしたんだよ、いきなり」

「お前、もしかしてD・ホイール自作したのかよ?」

 目の前にあるD・ホイールは2台。1台は以前も見た《封印の黄金櫃》のような目玉がデザインされている神崎のD・ホイールだ。

 後で聞いた話だが、この目玉は千年アイテムと呼ばれる遺物にデザインされているものをモチーフにしているらしい。

 そしてもう片方が黄昏のD・ホイールなのだが、バイク店などで販売されているようなものではない。うまく塗装で誤魔化しているが、各所パーツのデザインに統一性がないのだ。

「オリジナルはオリジナルだけど、俺が作ったわけじゃねぇよ」

「ってことは、誰かのおさがりか?」

「ああ、壊れて捨てられそうになったのを譲ってもらったんだ。直ったのはつい最近だし、それも部品を寄せ集めて修理しただけだよ」

「それでも十分すげえよ。俺のD・ホイールみたいに市販の部品を買ってカスタマイズするのとはわけが違う。にしても、わざわざおさがりを修理してまで使うってよっぽど思い入れがあるんだな」

「まあな……」

 生返事を返す黄昏は、自身のD・ホイールに刻まれた傷や溶接部をなぞる。直後、先ほどの夢がフラッシュバックして思わず黄昏は表情を歪めた。

「『スクラップ・クランプ』。俺が背負うべき枷だ」

 自分に言い聞かせるように呟いたD・ホイールの名前は、誰にも聞かれることはなく、ただ自分を縛る鎖となって黄昏を締め付ける。が、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。

 気づくと、すでに神崎はD・ホイールを起動して出発の準備を整えていた。慌てて黄昏もD・ホイールに接続されたデュエルパッドを操作し、クラッチが繋がってないことを確認してからアクセルを吹かせる。直後に景気のいいアクセル音が鳴り響き、モーメントの回転する音が次第に早くなる。

「黄昏、まだかよ?」

「急かすな。もうすぐ終わるから待ってろ」

 起動したデュエルパッドに表示されている時間はすでに17時を迎えようとしている。今は青空が広がっているが、時期にこの空も赤くなり、アカデミアに着くころには18時を迎えるかもしれない。

 日が沈む前に書類を提出したい黄昏はD・ホイールにまたがり、準備を整えると、神崎と共に早々にその場を後にした。

 

 ★

 

 七波たちのデュエルが決着し、デュエルディスクからけたましく鳴り響くブザー音を止めてデッキを仕舞うと、七波とシャルロッテは各々の感想を述べる。

「七波さんは相変わらずお強いですわね」

「シャルも強くなってるよ。少し前まで一瞬で《ゴーストリックの駄天使》倒されてたのに」

「伊達に場数は踏んでませんわ。《安全地帯》と《ゴーストリック・グール》のコンボはいい線いったと思ったのですが……」

「いや、あのコンボはいいと思うよ。今回は私が新しいモンスターを使って突破できたけど、そうじゃなかったらあのままジリ貧だったし」

「嘘おっしゃい。《二重魔法》を発動させておいてよく言いますわ」

「あ、あははは……」

 ジトーっとした目を向けるシャルロッテを直視できず、七波は自然と目を逸らした。

 しばらくその状態が続いたが一向に七波が目線を合わせないため、シャルロッテはため息を零して視線を外す。

「それにしても、ずいぶんデッキ構築が変わってましたわね。以前はエクシーズしかなかったはずですが……」

 顎に手を当て、呟くように尋ねられた言葉に、七波はバツが悪そうに顔をしかめる。

 デュエル場を見回してみるが、キザミは帰ってきていないため今この場にいるのは観客席から下りようとしているリリアを含めて3人だけだ。言うべきか言わざるべきかしばらく悩んだあと、七波はゆっくりと口を開く。

「ごめん。実は、いつも使ってたのは仕事用なんだけど、今回使ったのは普段使ってないデッキなの」

「どうして謝るんですの?」

「いや、さっき少し嘘ついちゃったし……」

「誰だって隠し事や嘘はありますわ。それが相手に悪い影響を与えないなら問題ないと思いますの。

 それにしても、デッキまで仕事用があるなんてアイドルは思ったより大変ですのね。ですが、なぜ今日に限って?」

「えっと、実は盗まれて……」

「なんですって!?」

 いきなり声を張り上げるシャルロッテに七波は思わず飛び上がってしまう。また、たった今階段を降りようとしていたリリアも驚いて足を滑らせかけていた。

 対してシャルロッテはそんな2人を気にせず怒りだした。

「他人のデッキを盗むとはなんたる狼藉! 一体誰がそんなことを!!」

「しゃ、シャル?」

「七波さん、その狼藉者の名前、もしくは特徴を教えていただけますか?」

「あ、えっと……」

「どうしましたの?」

「ううん、ありがとう、シャル」

 ここまで七波という他人のことで怒ってくれるという事実が、自然と七波の頬を緩ませる。すると自然と感謝の言葉が出てきたのだが、なぜかシャルロッテはうろたえていた。

「ままま、まあ、友人の大切なものが盗まれたのなら怒るのは当然ですわ!」

「……どうしたの?」

「な、なんでもありませんのよ!?」

「いや、なんか急に挙動不審だよ? すごい噛みまくってるし」

「あと顔も少し赤いよー?」

 いつの間にかリリアまでこちらをのぞき込んでおり、それに気づいたシャルロッテは慌てて顔を逸らしてしまった。

「そそ、それより遅いですわね!? そ、そろそろ6時を過ぎそうですし、こうなったら奥の手ですわ!」

 多少強引な話題の逸らし方をしたが、いそいそとデュエルパッドを操作することで少なくとも七波は誤魔化すことができた。

 ただ、リリアは何かを察したらしく、にやにやと七波とシャルロッテに交互に視線を向けていたが……

「何をしてるの?」

「刻魅へ直接連絡をしてみますわ。私と一緒にいないときは基本的に別件で忙しいのでいつもは使用を控えているのですが、今回はもうすぐ暗くなりますし、なにより御二方がわざわざ残ってくれておりますので」

「へぇ、キザミさんってこういう漢字書くんだー」

「確かに珍しい漢字ですわね。まあ、彼女のデッキをよく表している感じですわ……」

 デュエルパッドをのぞき込むリリアが刻魅の名前を見て率直な感想を述べると、シャルロッテはどこか遠い目をして表情を引きつらせていた。

「おっと。そんなことより、今は連絡が先決ですわね」

「その必要はありませんよ、お嬢様」

 我に返って通話ボタンを押そうとしたそのとき、デュエル場の出入り口から黒髪ショートヘアの少女がこちらに向かってくるのが見えた。

 それは間違いなく刻魅であり、知らず知らずのうちに心配していたのだろう七波とシャルロッテはホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。

 そんな中、リリアだけが彼女の姿を見て小首を傾げた。

「刻魅さん、だよねー?」

「はい、そうですが? どうかしましたか?」

「いや、なんか雰囲気が違う気が……

 ううん、ごめんー。たぶんアタシの勘違いだよー」

「それならいいのですが……」

 そんな妙な会話をしていると、本気では怒ってないだろうが、シャルロッテは少し口調を強めて言葉を放った。

「刻魅、一体どこまで言ってましたの? 私はともかく御二方を待たせるとは失礼ですわよ」

「申し訳ありません、外に不審な者がいように見えたので見回りをしていました」

「……まあいいでしょう。では帰りましょうか。私の我儘でここまで遅くなってしまったので、帰宅の足は私が手配しますわ」

「そんな、さすがに悪いよー」

「いえいえ、これぐらいはさせていただきませんと私の気が済みませんわ」

「まあ、シャルがそうしたいっていうなら甘えさせてもらうよ」

 その返答に満足そうに頷いたシャルロッテはどこかに連絡を取る。しばらくして連絡を終えると、10分ほどでやってくるようだ。

「それまでどうするの?」

「適当に時間を潰すことにしましょう、と言いたいところですが、刻魅。少し付き合いなさい」

「……承知しました」

「どうしたのシャル?」

「ちょっとお話ですわ。すぐに戻りますので、ここでお待ちください」

 そう言って刻魅を連れて外へ出たシャルロッテは、そのまま七波たちから離れるようにアカデミアを移動し、本校舎の裏まで移動する。

「ここなら誰にも聞かれる心配はありませんわね」

「お嬢様、お話とは一体……」

「その前に、その声と顔で私と話すのはおやめなさい」

 刻魅の言葉に被せるようにして冷徹な声を発したシャルロッテは、今までの態度が嘘のように冷たい目で彼女を睨み付けた。

 そのあまりにも突然の豹変ぶりに、刻魅は言葉を詰まらせ、思わず後ずさる。

「い、一体何のことでしょうか?

 お嬢様方をお待たせしてしまったのは大変失礼だと存じますが……」

「ですから、()()()()()()はおやめなさいと言っているのです、この狼藉者めが!」

 さらに眼光を強めて放った言葉は、あまりにも信じられない内容だった。目の前にいる刻魅は顔も声も一緒であるが、彼女ではないと言っているのだから。

 流石の刻魅もこれには動揺を隠せない。

「お嬢様、まさか……いつお気づきに?」

 突然変わる刻魅と思われる人物の声色。容姿は刻魅のそれのままなのだが、全く違う声が発せられているという異常さにシャルロッテは眉をひそめた。

「つい先ほどですわ。あの子は変なところでまめな性格で、私の発言に対してだけは必ず二言厳しい言葉が入りますの。

 困った性格ではありますが、今回は間抜けを見つける手掛かりになりましたわね」

「なるほど、少し観察不足だったようですので。

 では、『この顔』にしておく必要もありませんね――」

 続いて『それ』は顔をこねるように弄り始めた。その謎の行為に目を細めたシャルロッテだったが、次に露わになった顔に唖然とする。

 特殊メイクを施していたわけでもなく、ましてや被り物をしていたわけでもないのに、手を除けるとその顔は刻魅とは全くの別人の中性的な顔の男子になっていたのだから。

「……ずいぶんと芸が達者ですわね。それで、本物の刻魅はどこにいますの?」

「答える必要はありませんので」

「そうですか、なら力づくで聞き出すことにいたしましょう!」

 シャルロッテがデュエルディスクを起動すると、彼もそれに倣ってデュエルディスクを構える。そして、その言葉が紡がれる。

「デュエ……っ!?」

 が、その言葉が紡がれることはなく、突然襲い掛かってきた岩石にシャルロッテの体は吹き飛ばされた。

 地面を転がり、一瞬止まった息を吐きだして喘ぐその視界の端で、少年が更なるカードを構えているのが見える。

「ま、さか……あなたは、サイコデュエリスト、ですの?」

 絞り出すように口にした疑問に、少年は表情を一切変えずに淡々と答える。

「あなたに教える必要はありませんので」

 直後、デュエルディスクにセットされたカードが発動され、その効果がシャルロッテを襲う。




デュエルをすると思った? 残念リアルファイト(一方的)でした!

名前不明の彼とデュエルする方は決まってるのでシャルロッテさんには少々席を外してもらいます
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