みなさんもお気を付けください
というのは置いといて←、18日ディメンション・オブ・カオスの発売日ですね!
今回は箱買い予定ではないですが、イグナイトは入っているみたいなので当然買いです
《カオスソルジャー》シリーズと《ガイア》シリーズの新規も地味に嬉しかったり
神崎のデッキに組み込むかは未定ですが……
今回からようやく物語が動き出します
セントラルを出発した黄昏たちは、モーメント独特の回転音を響かせてD・ホイールを疾走させる。
半年前にライセンスを所得した以来の運転になるが、案外感覚は覚えているものらしい。もしかすると、始業式当日の神崎たちとのライディングデュエルがうまく働いたのかもしれない。
また、風と一体となった感覚にいつの間にか気分が高揚していたらしく無意識にアクセルを回し続け、気づけば法定速度ぎりぎりまで加速していた。
『ずいぶん飛ばすじゃねえか。事故んなよ』
「誰に言ってんだよ。これでもトップの成績でライセンス所得してんだ。この程度で事故ってたまるかよ」
手元のモニターに映る神崎と会話をする黄昏は、確かにスピードは出しているわりに周りの車両の迷惑にならないよう細心の注意を払っていた。むしろ、何度も車線を切り替えてジグザグ走行をしている神崎の方が荒い運転をしていると言えるだろう。
その後もしばらく風を切る感覚を楽しんでいると、やがてアカデミアの姿がぼんやりと見えてきた。
「18時過ぎか。もう部活してる生徒も残ってなさそうだな」
さっさと用事を済ませて帰ろう、と決めた黄昏『たち』は、さっさと校門をくぐって駐輪場へと向かう。
「……なんで神崎が敷地内までついてきてんだよ」
「その場のノリってやつだ。意外と自分が前来た場所に情報があったりするからな」
「生徒に見つかって騒ぎになってもフォローする気はないからな……ん?」
予め釘を刺す黄昏は、視界の端で何かが動いた気がして顔を向ける。すでに空は暗くなり、目を凝らしてシルエットが見える程度だが、視線の先にあるのはゴミを貯めておく倉庫だけだ。何か動くものがあったとしても、それは犬か猫辺りでしかないはずだ。
そう思っていた。いや、そう思い込みたかったが、D・ホイールのライトを向け、倉庫の裏側に倒れている人影が照らし出されたことでその微かな希望は打ち砕かれた。
「っ、おい!」
気づけば、黄昏は停車もそこそこに倉庫裏に走り寄っていた。
近づいてみると、倒れていたのは黒髪ショートカットの少女だ。
ところどころに火傷の痕があり、楽観視できる容体ではないが、一応息はしていることに黄昏は胸を撫で下ろした。
丁度その近くに、彼女のものらしき生徒手帳が落ちていたため、若干抵抗はあったが拝借させてもらい、彼女の名前を確認する。
「
「そいつ知り合いか?」
「いや、同学年だけど見覚えはないな。
一応息はしてるみたいだけど、放っておくわけにいかないし、セキュリティに連絡頼めるか?」
「俺がそのセキュリティだっての」
「お前のD・ホイールで……大丈夫そうだな」
ったく、とため息をこぼす神崎を横目に、黄昏は彼が乗ってきたD・ホイールに視線を向ける。
ベースが市販のD・ホイールであるのが幸いして、備え付けの工具さえあればサイドカーを取り付けることは出来そうだ。
「サイドカーはアカデミアのやつ一旦借りるぞ、セキュリティの権限使えばどうにかなるしな。
あと、こいつを病院に運んで戻ってくるときに応援を呼ぶから、それまで絶対に無茶するんじゃねぇぞ?」
「……善処する」
なんとも不安な返答を返す黄昏に何か言いたげに眉をひそめるが、それよりも人命救助の方を優先したらしい神崎は早々に準備に取り掛かった。
その間少女の介抱を任された黄昏は、刻魅の様子を確認しつつ眼光を鋭くしてアカデミアの校舎の方を見る。
「……なーんか、嫌な殺気放ってるやつがアカデミアに紛れてんな」
吐き捨てるように呟いたその言葉には、隠しきれないほどの怒気がにじみ出ていた。その傍らで、刻魅が目を覚ます。
「う……」
「気が付いたか。おいあんた、何があった?」
「あなたは、黄昏様ですか?」
「……どこかで会ったっけ?」
「いえ、こうして顔合わせするのは初めてです。それより、お嬢様たちにお伝えしなければ……つっ!?」
「無理するな。火傷やらなんやらで動ける身体じゃねえんだから」
「大丈夫、です……」
これ以上傷が悪化しないよう忠告をするが、彼女はそれを気にも留めずになおも立ち上がろうとしている。
見かねた黄昏は一体何があったのかを尋ねた。ただ、それは刻魅も把握していない様子だった。
「急がないと、お嬢様や、七波様たちに危険が……」
「わかった、なら俺が行く」
「えっ……」
要領を得ない言葉で、普通なら再度状況の説明を仰ぐところだが、あまりにもあっさりと黄昏は頷いてそう答えた。先ほど感じた殺気が勘違いでなければ、本当に葵たちが危険だと直感したからだ。
ただ、刻魅は状況が把握できなかった様子で固まってしまう。しばらくしてようやく状況をした刻魅の返答は、弱々しく首を振るだけだった。
しかし、そんな彼女の制止も空しく黄昏は彼女を神崎に託して立ち上がる。
「どこに向かえばいい?」
「ダメ、です。あなたまで危険が……」
「どこに向かえばいい!」
襟を掴まんとする勢いで尋ねる。その勢いに押されて刻魅は再度黙り込み、準備を整えていた神崎までもが手を止めた。
黄昏自身、そこまで大声を出すつもりはなかったため、自分の声に驚いてしまった。
しかし、それでも刻魅から場所を教えてもらうしかなかった黄昏は、彼女が首を縦に振るのを待つしかない。
しばらく静寂が包み込み、重い空気が辺りを支配する。
そんな中、神崎は気まずそうに頭をかき、そして慎重に口を開いた。
「ならよ、黄昏がそいつを連れて行けばいいんじゃねえの?
女の方はその傷で歩けないのは事実だし、誰か代わりの足が必要だろ?」
「それは、そうですが……しかし」
「確かに、どうして気づかなかったんだろうな」
未だ渋る刻魅をよそに、黄昏は一気に冷静になって彼女に肩を貸し、有無を言わせず彼女を立ち上がらせた。
「た、黄昏様、一体何を!?」
「さすがに人一人を連れていくのはきついな。神崎、そっちの肩貸してやってくれ」
「……お前、容赦ないな」
黄昏の急激な感情の変化についていけず、神崎は表情を引きつらせる。しかし、刻魅を連れていくとなると神崎の仕事はなくなってしまうため、セキュリティに状況の説明と増援の申請をすると彼女に肩を貸した。
また、それまでささやかな抵抗を続けていた刻魅だが、これ以上はするだけ無駄と悟ったらしく、最終的には彼らに任せることに落ち着いた。
「で、どこに向かえばいいんだっけ?」
「デュエル場です」
「ならすぐそこか。神崎、そこを右だ」
刻魅に肩を貸した状態でデュエル場に着いた3人は、その扉をゆっくりと開いた。
中には葵とリリアがそわそわしており、デュエル場に入ってきた3人を見て驚いた様子で駆け寄ってきた。
「た、黄昏君、どうして刻魅さんと一緒にいるの? シャルは? というかなんでその男も一緒にいるの!?」
「まずは落ち着け。一体何があったんだ?」
捲し立てるように質問を投げかける葵を一旦落ち着かせ、改めて状況を整理する。
どうやら、数分前にシャルロッテという女子生徒と一緒に刻魅がデュエル場を出て行ったらしい。
しかし、その頃には黄昏と神崎が倉庫裏で倒れている刻魅を発見している。どう考えても時間がかみ合っていなかった。となると、必然的に答えは絞られてくる。
「誰かが刻魅に成りすましてたってことか……
七波、そのシャルって生徒はどこに向かった?」
「ごめん、そこまでは聞いてない」
「となると、虱潰しに探すしかないか。ひとまず手分けして探すぞ」
神崎の説明は後回しにして、5人はデュエル場から外に出る。そこから二手に分かれてシャルロッテの捜索、および偽物の刻魅の拘束をするべく人数を分けようとしたとき、急に背筋が凍るような悪寒に襲われる。
その正体が何なのか、黄昏が把握する前に『それ』は現れた。
雲によって遮られた月明かりから微かに見えるシルエットは、黄昏よりも少し身長が低い。
「俺たちに何の用だ?」
警戒しながら尋ねるが、返答はない。しばらくその均衡が続くと、シルエットだけだった姿が月明かりの元に晒された。
褐色の肌に銀髪のショートヘア、血のように赤い瞳の少女。全身を覆う灰色のローブによって身体のラインなどはわからないが、どことなく華奢な印象を感じる。ただ、それ以上に彼女が放つ不気味な雰囲気に黄昏の本能が警笛を鳴らしていた。
彼女に近づくのは危険だと悟った黄昏は刻魅を神崎にまかせ、彼女と会話をする自分以外は彼女から遠ざかるように合図を送る。
そして自分以外の全員がある程度距離を取ったのを確認すると、黄昏は再度彼女へ問いかける。
「もう一度聞くぞ、俺たちに何の用だ?」
「君に用はないわよ。用があるのは後ろの青髪の子だから!」
言うが早く、彼女は何かを葵に向けて投擲する。それが何なのかわからなかったが、とっさに黄昏は手を伸ばしてそれを掴んだ。
ガリガリと手のひらを削られる感覚に顔をしかめるが、どうにか葵に届く前に勢いを殺すことには成功する。
「……鎖?」
自身が掴んだ正体を確認すると、黄昏は怪訝そうに眉をひそめた。それは、血のように真っ赤に鈍い光を放つ鎖だった。
一体この鎖で何をするつもりだったのかわからないが、葵に危害を加えようとしていたのは明らかだ。ふと彼女の方に視線を向けると、その表情は不愉快そうに歪んでいた。
「お前、どうしてその鎖に
「あん? それって一体どういう……」
言葉の真相を確かめる前に、更なる変化が黄昏たちの周囲で起こり始めた。元々月明かりと背後のデュエル場のライトしか光源がなかった外が、さらに暗くなり始めたのだ。
それが黒い霧のようなものだと理解する前に、黄昏は鎖を投げ捨てて出来る限りの大声で叫んだ。
「走れ!!」
その一言で全員はじけるようにその霧から逃れようと走り出す。黒い霧はこちらを飲み込もうと迫ってくるが、よく見ると少しずつ勢いが弱まっているようだった。
このまま走れば逃げられる、そう確信した黄昏だったが、その一瞬の心の緩みが背後から迫る鎖に気づくのを遅らせてしまった。
まるで生きているかのように動く鎖は黄昏の横をかすめるように進み、前を走っていた葵の両足を拘束する。その拍子に転んでしまった葵は、起き上がる暇もなく、黄昏の横を通り過ぎて霧の中へと引きずり込まれていく。
とっさに黄昏が手を伸ばして彼女を助けようとするも、その手は微かに届かなかった。
「七波!!」
「おいバカ、まさかあの中に入ろうって思ってねぇだろうな!?」
「七波が捕まったんだぞ! 助けに行かないでどうすんだよ!!」
とっさに振り返ろうとしたその瞬間、神崎にその腕を掴まれる。
その力は見た目相応に強く、黄昏が振りほどくことは叶わなかった。
「今行ったところで何もできねぇだろうが!」
「方法ならある!」
「何……?」
神崎をまっすぐ見据える黄昏の目は、嘘を言っているようには見えない。
かと言って、目の前で起こっている摩訶不思議な現象相手にどこまで通用するのかは未知数である。
「……本当に大丈夫なんだな?」
「ああ、俺を信じろ」
神崎は念を押して確認をすると、これ以上は言っても無駄だと理解し、シャルロッテの捜索は神崎自身と彼が肩を貸している刻魅、そして不安そうにこちらを見つめるリリアだけで行うことに決定した。
「もう一度言うが、絶対に無茶すんじゃねぇぞ?」
「そっちもな。それと、念のために神崎たちはこいつを持ってろ」
そう言ってデッキホルダーから1枚のカードを取り出し、神崎に手渡した。
「これは?」
「お守りだ。もしさっきみたいなヤバい奴とデュエルすることになったときは、デッキに入れなくてもいいから絶対に持ってろ、いいな!」
言うことをいった黄昏は、返答を待たずして霧の中へ向かって駆け出した。
それを見送った神崎たちも、黄昏から渡されたカードを仕舞うと、シャルロッテを探すために行動を始めるのだった。
★
鎖に引きずり込まれた葵は、なす術なく黒い霧に包み込まれた。
包み込まれた直後は前が全く見えない暗闇の空間だったが、しばらくすると霧が晴れて周囲の様子がわかるようになった。
どうやら霧はドーム状に広がっているが内部は空洞で、原理はわからないが数メートル先で向かい合っている少女の様子が問題なくわかる程度の光は確保されていた。
「何、これ……?」
『マスター!』
唖然とする葵の前に、精霊のエリアが切羽詰まった様子で現れる。
見れば、先程足に絡みついていた赤い鎖をエリアが操る水で拘束していた。彼女が守ってくれているのはわかるのだが、彼女がこのような力を使えるなど聞いたことがない。
「《エリア》、これは一体……」
『説明は後なのです!!
すぐにここを離れてくださいなのです、マスター!』
「う、うん」
エリアのお陰で赤い鎖の拘束から抜け出せ、今は自由に動くことが出来る。すぐさま立ち上がると、わけがわからないながらも鎖には注意して逃亡を計った。
しかし、ドーム状になった霧はどういうわけか壁のようにびくともしない。
「無駄よ。この空間に取り込まれたが最後、どちらかが倒れるまで内と外、どちらも互いに干渉できない。もちろん、この霧を出したあたし本人にもね。
そして倒れたものはこの霧に飲み込まれ、二度と光を見ることはない」
「そんな……ひっ!?」
褐色の少女の言葉に反応するように、葵が触れていた壁からうめき声が聞こえる。
いや、壁どころかこの空間全体から聞こえていた。それも1人ではなく、老若男女さまざまな声が反響している。
その尋常ではない状況に葵から血の気が引いていく。耳を塞いでうずくまるが、絶えず続くうめき声の中では気休め程度にしかならないだろう。
「うふふ……その表情、最高よ」
その姿を見て、少女は上気した顔で自分の肩を抱く。そして、少女は荒れた息遣いでさらに言葉を続ける。
「絶望にかられた人間のその怯えきった表情! ああ、ゾクゾクするわ!!
一体あなたはどんな『声』を聞かせてくれるのかしら?」
『マスター、しっかりしてくださいなのです! マスター!』
エリアの必死な呼びかけも空しく、葵は目も固く閉じ、自分の正気を保っているのが精いっぱいの様子だった。
しかし、周りの状況は葵を待ってはくれず、さらに摩訶不思議なことが起こる。
葵のベルトに固定されていたデュエルパッドケースから、独りでにデュエルパッドが浮き上がり、彼女の腕に装着されてデュエルディスクへと変形させていく。
まるで、是が非でもデュエルを強要するかのように……
「ふふ、痛いのは最初だけよ。あっという間に終わるわ」
まるで酩酊しているかのように艶めかしく息を荒くする少女は再び鎖を彼女のデュエルディスクに向かって投擲する。
その鎖が一体何なのかはわからないが、次その鎖に繋がれたが最後、取り返しのつかないことになるのは容易に予想ができた。
頭ではわかっていても身体が震えて動けない葵は、その鎖が迫ってくるのをただじっと待つことしかできない。
エリアが再び水で拘束しようとするも、生物のように素早く動く鎖を捉えることができない。そして鎖が彼女のデュエルディスクに繋がる直前、うずくまっていた葵の背後の霧が引き裂かれた。
一瞬だけ見えた風景は間髪おかずに再び閉ざされるが、その間にこの空間に割り込んできた人物は、再度鎖を掴むと葵を庇うように立ちふさがった。
「……どうやって入ってきたのかしら?」
「言う必要はあるか?」
前髪が口元まで伸びた銀髪に、その間から真っ赤な瞳を覗かせる少年は、自嘲気味に肩をすくめると流れるようにデュエルディスクを構える。
「それもそうね。重要なのはそこじゃない。邪魔しないでくれる?」
「それは無理な話だ。アンタの相手は俺がするんだしな」
「黄昏君……どうしてここに?」
「お前を放って逃げられるかよ。つい最近、面倒事は俺がどうにかしてやるって言ったばかりだしな」
そう言う彼の右手は、いつかのデュエル後のように蛇の鱗のようなものが浮き出ていた。
ということは、《
何とも言えない怒りがこみあげてくるが、すがすがしそうな彼の顔を見ていると喉元まで上がっていた言葉は引っ込んでしまった。
逆に、黄昏にため息をつかれる始末である。
「デュエルディスク構えてるけど、もしかしてデュエルを受けるつもりだったのか?
そんな状況でまともにデュエルできると思ってんのかよ」
「これは、デュエルディスクが勝手に……
で、でも、あっちは私が目的なんだよ? 黄昏君が無茶をするぐらいなら私が――」
「あーはいはい、とりあえず顔色ぐらいは直してから言え」
ぴしゃりと一蹴されて返す言葉がない葵は、不満は残っているだろうがおとなしく頷く。
「で、選手交代は認めてくれるか?」
「もちろんノーよ。あたしが興味あるのはそっちの子だけだし」
「あーそ、なら――」
黄昏は握っていた鎖を自分のデュエルディスクに装着する。
するとデュエルディスクが勝手に起動し、オートシャッフルまで自動的に終えてしまった。
「適当にやってみたけど、案外予想通りのこと起こるんだな。じゃあ改めて……」
その光景を興味深そうに見ていた黄昏は、起動されたデュエルディスクに記された相手の名前を確認すると、手札となる5枚のカードをドローした。
「嫌でも無理やりデュエルしてもらうぞ。エヴァさん?」
「……強引な子は嫌われるわよ」
「生憎と嫌われるのは慣れてるんだ。しかも明らかな敵に嫌われたところで今さら気にするかよ」
「ちっ、とことん面倒なガキね。
いいわ。ならあなたから先に絶叫させてあげる! せめていい『声』で私を楽しませなさい」
少女、エヴァは表情を歪ませ、吐き捨てるように放った言葉を合図に、二人の声がこの空間で反響する。
「「デュエル!!」」
そして、得体の知れないデュエルが幕を挙げた。
【エヴァ】vs【黄昏】
「私のターンだ!
私はモンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドよ」
| 【エヴァ】 3/4000 --▲-- --■-- | 【黄昏】 5/4000 ----- ----- |
「俺のターン、ドロー」
【黄昏】
手札:5→6
考える素振りすら見せなかったエヴァの最初のターンは、セットモンスターとカードが1枚ずつ。
基本に忠実な出だしではあるが、それで片付けるのはいささか安直すぎる。
しかし自分の手札を確認してみても、その不安を払う手段は揃っていなかった。
「とりあえずこっちも様子見か。俺は《スクラップ・ハンター》を通常召喚」
《スクラップ・ハンター》
☆3・地属性・戦士族
ATK:1600
フィールドに現れたスクラップで構築された戦士の攻撃力は1600。セットモンスターを確実に倒せる数値ではないが、様子見としては十分なステータスだろう。
セットカードに臆することなく黄昏はバトルを宣言する。
「《スクラップ・ハンター》でセットモンスターを攻撃!」
「おめでとう、セットされているのは《静寂のサイコウィッチ》よ」
《静寂のサイコウィッチ》
☆3・地属性・サイキック族
DEF:1200
フィード→墓地
近未来的な衣装に身を包んだ女性モンスターはあっけなく《スクラップ・ハンター》のチェーンソーの餌食になるが、《静寂のサイコウィッチ》の力は破壊されてこそ発揮される。
「《静寂のサイコウィッチ》が破壊され墓地へ送られたとき、デッキから攻撃力2000以下のサイキック族を1体除外するわ。
私は《強化人類サイコ》をデッキから除外だ!」
《強化人類サイコ》
デッキ→除外
「後続のモンスターを確保したか……
なら俺は手札から通常魔法《手札抹殺》発動! お互い手札をすべて捨てて捨てた枚数分ドローする」
【黄昏】
手札:4→0→4
【エヴァ】
手札:3→0→3
手札交換により新たに加わった手札を見た黄昏の表情が一瞬固まった。
それが一体何を意味するのか、心配になった葵は恐る恐るといった様子で尋ねる。
「黄昏君……?」
「心配すんな。俺は手札からプレート魔法《
そして手札すべてをセットしてターンエンドだ」
| 【エヴァ】 3/4000 ----- --□-- | 【黄昏】 0/4000 --○-- ● -■■■- |
「プレート魔法。つい最近導入されたカードだったかしら?」
「フィールド魔法がなければ効果は無効化されてるから、今は意味ないけどな」
「まあそうね。それに加えて手札のカードをすべてセット……ずいぶん念入りなフィールドね。
まあいい、私のターン、ドロー!」
【エヴァ】
手札:3→4
「スタンバイフェイズ、《静寂のサイコウィッチ》の効果で除外されていた《強化人類サイコ》を特殊召喚するわ」
《強化人類サイコ》
☆4・地属性・サイキック族
ATK:1500
空間の裂け目から現れた、全身を魔改造された青色の怪人は、黄昏を見据えると右手の得物を振り回して威嚇する。
その瞬間、黄昏の表情が歪んだ。そして後ろで座り込んでいる葵に向けて忠告する。
「七波、立てるなら俺の後ろから離れてろ!」
「ど、どうしたのいきなり?」
「これはただ悪趣味なデュエルじゃない、こいつは……」
何かを言おうとしたが、その背後で新たなモンスターが現れたことで中断される。
《テレキアタッカー》
☆4・地属性・サイキック族
ATK:1700
「デュエル中は私に集中してくれないとダメじゃない。
そんな注意力散漫な子にはお仕置きが必要かしら?」
「……っ!」
妖艶な囁き声で黄昏に語り掛けいるが、その声に含まれているのは怒りだ。まるで刃物のような殺気が黄昏を突き刺している。
よもや彼女から意識を逸らしただけで逆鱗に触れてしまうとは、女心とは理解不能である。
「……なんて、ふざけてる場合じゃないな。《テレキアタッカー》に《スクラップ・ハンター》の攻撃力を超えられてるし」
「あら、まだバトルフェイズには移らないわよ」
「なに?」
「《強化人類サイコ》の効果! 墓地のサイキック族を除外することで攻撃力を500ポイントアップさせるわ。
私は墓地の《静寂のサイコウィッチ》を除外して攻撃力アップ![サクリファイス・フォース]」
《静寂のサイコウィッチ》
墓地→除外
《強化人類サイコ》
ATK:1500→2000
「こいつは、ちょっとやばいかも……!」
「誰が《強化人類サイコ》の効果が1回だと言った! この効果は1ターンに2回まで発動できる。
私は《手札抹殺》で落ちた《マックス・テレポーター》を墓地から除外して、さらに攻撃力アップ! [ディメンジョン・サクリフォース]」
《マックス・テレポーター》
墓地→除外
《強化人類サイコ》
ATK:2000→2500
たった1ターンで上級モンスターレベルの火力に化けたことに、黄昏は表情を引きつらせた。
「マジか……」
「さあバトルだ。その伏せカードの中に身を守る術はあるかしら!?
《テレキアタッカー》で《スクラップ・ハンター》を攻撃!」
「ならリバースカードオープン、《針虫の巣窟》!
デッキから5枚カードをめくって墓地へ送る」
「なにかと思えばただの墓地肥し? ということは他の2枚もただのブラフと考えてよさそうね」
エヴァの言う通り、今黄昏のフィールドにあるセットカードはどれもこの状況を打破できるカードではない。
《針虫の巣窟》でさえ、《シールド・ウォリアー》辺りが落ちてくれれば御の字という気休め程度の発動なのだ。が、それよりもいいカードがデッキから墓地へ送られた。
「墓地へ送られた中に《絶対王バックジャック》が入っていたため、俺はデッキトップ3枚確認し、その後好きな順番でデッキトップへ戻す」
その効果でめくられたのは、《シールド・ウォリアー》、《ロータリー・ブースト》、《リビングデッドの呼び声》の3枚だった。
あと1枚デッキ枚数が減っていれば《針虫の巣窟》で《シールド・ウォリアー》が落ちていて助かったのだが、今さらそんなことを言っても仕方がない。
《絶対王バックジャック》で無理やり落とすことも可能だが、今は基本に忠実な並びにするのがベストだろう。
「俺は上から《リビングデッドの呼び声》、《シールド・ウォリアー》、《ロータリー・ブースト》の順番でデッキに戻す」
「でも戦闘には何の支障もない。やれ《テレキアタッカー》!」
《テレキアタッカー》の電撃が《スクラップ・ハンター》を貫き、その衝撃が黄昏を襲う。
【黄昏】
ライフ:4000→3900
《スクラップ・ハンター》
フィールド→墓地
「ぐぅ!?」
「きゃぁ!?」
黄昏の体に《テレキアタッカー》の電流が微かに流れると、彼は苦悶の表情を浮かべながら膝をつく。
また、《テレキアタッカー》の攻撃の余波は葵にまで届き、彼女も短い悲鳴をあげるが、対照的にエヴァは眉をひそめた。
「ちょっとちょっと、悲鳴我慢したら私が楽しめないじゃない」
「い、一体何が起こってるの? さっきの衝撃、まるで……」
「『本物だった』って言いたいのかしら?」
「っ!」
「それもそうよ。これは
「闇の、デュエル?」
「あなただって噂ぐらいは耳にしたことあるだろ?
ダメージが現実のものになる、文字通りデスゲームよ。ライフが0になるころに、その子は立っていられるのかしらねぇ?」
不気味に笑うエヴァをよそに、視線は黄昏の方を向く。
たった100ポイントのダメージが現実ではどれほどのダメージになるのか想像できないため、今の彼がどこまで危険な状態なのかはわからない。
ただ、このまま続けていたら彼の命に関わることだけは理解できた。
「黄昏、もういいよ。早くサレンダーして、じゃないと危ないよ!」
「却下だ」
「どうして……」
「薄々気づいてたしな。それを覚悟してデュエルしたわけだし」
なにより、と黄昏は向かい合っているエヴァを睨み付けて言葉を続ける。
「相手がそれを許可するわけなさそうだしな」
「ええ、もちろん。 まだ攻撃は残ってるもの。
あ、でも《絶対王者バックジャック》って墓地から除外するとデッキトップの罠をセットできるうえに、そのターンに発動できるんだったわね。
攻撃宣言時は何度もチェーン組みなおすことできるし、《リビングデッドの呼び声》でもう一度壁を作るのかしら?」
「…………」
エヴァがつらつらと考察を披露している間、黄昏は《絶対王者バックジャック》の効果、及び《リビングデッドの呼び声》を発動した場合の展開をシミュレートしていた。
その態度にムッとしたエヴァは《強化人類サイコ》に攻撃指示を送った。
「さあ、このダイレクトアタックが決まればあなたのライフは一気に折り返し地点よ。一体どうするのかしら!?
《強化人類サイコ》、相手へダイレクトアタックだ![フル・マッドネス]」
その命令に答えるように、《強化人類サイコ》は地面を駆け、その手に握る得物を振りかぶりながらこちらへ急接近する。
このまま何もしなければ、攻撃力2500のダメージに加えて闇のデュエルによるリアルダメージをモロに受けてしまう。
そんな危険な状態のなか、黄昏の脳内では更に先の展開を想定してカードの発動のタイミングを計っていた。
「俺は《バックジャック》の効果を発動。墓地のこのカードを除外してデッキトップを確認。それが罠カードならセットし、違うなら墓地へ送る。
デッキトップはさっき操作した通り《リビングデッドの呼び声》。よってフィールドにセットする」
セットされたのは墓地のモンスターを蘇生することができる汎用性の高い永続罠カードだ。《バック・ジャック》の効果でセットしたターンでも発動できるこのカードを使えばダメージを軽減することはできるが……
「俺はリバースカードを……発動しない」
「黄昏君、どうして!?」
思考を張り巡らした結果、なんと黄昏のとった行動は潔くダイレクトアタックを受けることだった。
確定した未来は止めることができない。《強化人類サイコ》の得物がフルスイングされると、黄昏の体が葵よりも後方の壁に激突し、そのまま受け身もとれずに地面へ叩き付けられた。
【黄昏】
ライフ:3900→1400
うつ伏せで倒れた黄昏は一切動かない。最悪の状況が、葵の脳裏をよぎった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
なぜダイレクトアタックを受けたのか、黄昏の真意は誰にも理解されることはなく、ただ葵の悲鳴が甲高く反響するだけだった。
エヴァは結構最初の段階で設定が決まってました
いざ動かしてみると結構なサイコっぷりですが・・・
さて、いきなり大ダメージを受けた黄昏は生きているのか、こうご期待!(謎次回予告)