比較的安定しましたね←
そこにやってくる《RUM-ソウル・シェイブ・フォース》は一体何がしたいんだろう……
やったねたえちゃん、まだインフィニティ使えるよ!(白目)
今回は久々のデュエルが全くない回です
ブザーが鳴り響き、デュエル終了を知らせると、辺りの炎も次第に弱まっていく。
その様子を地面に伏せられた状態で見ていた神崎は、突然拘束が解かれて自由となった。
見ると、自分を拘束していた篠村は神崎から離れ、両手をあげて抵抗の意思がないことを見せていた。
「……どういうつもりだ、篠村」
「…………」
「答えやがれ!」
「無駄ですので」
いくら尋ねても返事がない篠村に痺れを切らし、胸ぐらをつかんだところで、ニュートが横槍を入れてきた。
「今の彼は僕の命令だけを聞く人形。
何を言おうとも彼には届きませんので」
その言葉に反論しようとした神崎だったが、胸ぐらを掴んでいた篠村がその腕を振りほどいてニュートを守るように立ちふさがる。
そんな彼の生気を感じさせない目を見て、ニュートの言葉が本当のことなのだと理解した。
「篠村……」
「そんなに心配なら、二人仲良く同じ状態に……っ!?」
ニュートが腰にあるデッキケースからカードを取り出そうとした直前、鉄の残骸が彼らを隔てるように降ってきた。
「いや違う。《スクラップ・ヘルサーペント》の尻尾かこれ?」
このモンスターを持っているのは一人しかいない。
案の定、振り向けばそこには見覚えのある顔があった。
前髪をあげており素顔をちゃんと見たのは初めてだが、その雰囲気は彼だとはっきりわかる。
「黄昏!」
「神崎大丈夫か?」
「あ、ああなんとか」
見ると、リリアと刻魅はこの場を離れている最中だった。
神崎はこれを好機と《スクラップ・ヘルサーペント》の身体に沿うように進み、奥のシャルロッテの元に駆け寄る。
おそらく狙っていたのだろうが、《スクラップ・ヘルサーペント》の攻撃によりシャルロッテが囚われていた《悪夢の鉄檻》はその一部が破壊されていた。
素早く彼女を担ぎ上げ、黄昏の元に向かう。
「七波、その人がシャルロッテって生徒でいいのか?」
「うん、この子で間違いないよ」
ならいい、と短く返した黄昏は《スクラップ・ヘルサーペント》の実体化を解き、改めてニュートに向き直った。
「お前は……っ!? いえ、人違いですので」
「あん?」
黄昏と目が合った瞬間これまで仮面でも被っているかのような無表情だったニュートの表情が一瞬だけ崩れた。
しかしすぐに元に戻り、何もなかったかのように振る舞う。その変化に荒っぽい反応を示す黄昏はそのまま言葉を続ける。
「アンタが敵だってことはこの状況を見ればわかる。
それに篠村がアンタみたいなのと一緒にいるのがありえないこともな」
「ずいぶんな買い被りようですので。
彼は以前そちらの彼女を襲ったグールズの一員ですよ?」
「ああ、確かに世間一般に言う犯罪者だろうな。
でもさ、そういう奴って、生き抜くために意外と見る目はあるもんじゃねえの?
実際、神崎は関わっても大丈夫なやつを選別してるからセキュリティでも無事なんだろうし」
「……何を言いたいのかわかりませんので」
確かにな、と黄昏は自嘲気味に肩をすくめる。
「まともな見る目を持ってるやつは、お前みたいな自分の意思を持たないような奴の下にはつかないと思ってな」
「僕が、自分の意思を持っていないと?」
「俺はそう感じるな」
「もしそれが本当として、なぜ篠村が僕の部下になっているとお思いですので?」
「大方、催眠術の類で操ってるんだろ? サイコデュエリストなら《精神操作》あたり使えばできそうだしな」
「説得力のない説明ですので」
「的は射てると思うけどな」
その言葉に対してニュートの反論はない。
しばらくして、吹っ切れたかのような態度でニュートが口を開く。
「素晴らしい洞察力ですので。確かに、篠村の洗脳は僕が行いました。
先ほどのモンスターの実体化からして、あなたがジンの言っていたサイコデュエリストの方ですね?」
「……ジンの名前が出てくるってことは、お前もボレアスのメンバーか」
「否定しないのは肯定だと受け取りますので。
あなたの予想通り、僕はボレアスのメンバーのニュートといいます。以後お見知りおきを」
「覚える必要はないだろ。ここで捕まえればそれで終わりだ」
「あなたが、僕を? どうやら冗談がお好きなようですので。
その傷からして、どんな手を使ったのか知りませんがキャンサーとデュエルをして、尚且つ勝ったのはあたななのでしょう」
「キャンサー?」
聞きなれない言葉に黄昏は首を傾げる。会話の流れからしてエヴァのことを指しているのだろうが、彼女のコードネームかなにかだろうか?
そんな疑問を持つも、ニュートの話はさらに続く。
「ですが、キャンサーを倒すので精いっぱいだったあなたが、しかもその傷だらけの身体で僕に勝てるとでも思ってますので?」
「闇のデュエルでダメージ受けてるのはお前も一緒だろ」
「よくも悪くも、ループの省略によって僕が受けたダメージはライフコストと《ビックバン・ガール》による最初の500ポイントのバーンダメージのみですので。
あなたに比べれば気にするほどでもありません」
それに、とニュートは辺りを見回す仕草をした後黄昏に問いかける。
「不自然だと思いませんので?
暗いとはいえまだ午後7時ぐらいの時間帯に、アカデミアの職員が一人もこの騒ぎに気づいていないことに」
言われて黄昏たちは初めて気づいた。
エヴァとのデュエルは本校舎から離れたデュエル場で、しかも暗い夜に黒い霧の中で行われていた。敷地外からは見えなくて当然だが、デュエル場の施錠にくるはずの職員は気づくどころか会ってすらいない。
加えて、ニュートとリリアのデュエルは夜だからこそ目立つ炎の中でのデュエルだ。
火災の通報があってもおかしくないはずだ。
「お前、まさか職員を……」
「ご安心を。ただ眠らせただけですので。
そしてこの状況が外部からはわからないように敷地には結界も張らせていただきましたので」
ニュートの言うことが本当なら職員の命は無事のようだが、黄昏にはもう1つ気になることが残っていた。
それだけの大規模な計画を、ニュートとエヴァの二人で実行できるのだろうか?
「その様子だと、薄々気づいているようですので。
あなたの予想通り、ここにはボレアスの構成員が十数人潜んでいます。
僕とデュエルする前に、そのメンバーの相手をしていただきますので」
「――それに関しては大丈夫だよ」
「……なっ!?」
突如聞こえてきた声の方に視線を向けると、本校舎の影から人影が現れた。
その人影が誰なのか理解した瞬間、ニュートは信じられなかったようで思わず声を出して驚いていた。
そして黄昏もその正体に一瞬驚いたような様子を見せたが、そのあとは恨めしそうに低い声で名前らしきものを口にする。
「
「久しぶりだね、遊糸」
無害そうな雰囲気を醸し出す遊形と呼ばれた青年は、柔和な笑みを浮かべる。雰囲気は違うはずなのに、なぜか彼と黄昏が重なって見えた。
そんな彼はニュートの前を通り過ぎて黄昏たちの元まで歩いてくるが、ニュートは何もすることなく、ただ機会を伺っている様子だった。
「大丈夫、とはどういう意味ですので?」
「うん、全員無力化してきたってことだよ」
「……相変わらず末恐ろしい人ですので、スコーピオン」
「その呼ばれ方は好きじゃないけど……まあいいか。
避難してきた子を誘導するのと並行してだから大変だったけどね」
涼しい顔をして遊形は淡々と答えていく。
彼の証言から、リリアたちはもう避難できたようだ。少し早すぎる気もするが、避難できたのならそれに越したことはないだろう。
対して苦しい表情を浮かべるニュートに、遊形はさらに追い打ちをかける。
「今日は引いてもらえないかな?
これ以上僕の知り合いに危害を加えるなら、今から君の相手もしてあげてもいいんだよ?」
彼の性格なのか、その言葉に全然重さが感じられない。
だが、少なからず彼を知る者は、彼がそれを実行できるぐらいの行動力も実力も持ち合わせていることは理解している。
ニュートは肩をすくめて降参の意思を見せる。
「今の僕ではあなたには歯が立たないので。ここは潔く撤退させていただきますので。
篠村、他のメンバーの回収を頼みます」
「…………」
去り際に放たれたニュートの言葉に篠村は無言でうなずき、校舎の方に向かって歩き出していた。
その背中に神崎は最後の足掻きで呼びかける。
「おい、篠村! 目を覚ましやがれ!」
「……」
その声に篠村はぴたりと足を止めた。しかし、こちらに振り返ることはせず、すぐに再び歩いて行ってしまった。
大方予想はついていたらしく、神崎はそれ以上何をするわけでもなく、何もできなかった自分に対して舌打ちをするだけだった。
「……さて、僕もそろそろ立ち去ろうかな」
しばしの無言の時間を挟み、遊形は軽い調子でそう呟いた。
それを黄昏は許さず、相手を射抜くごとき眼光で彼を睨み付ける。
「今までどこで何してたんだ。返答によっては……」
「ちょ、ちょっと待って、タイム! そんな怖い顔しないでよ、遊糸。
僕の方も色々あったから、遊糸に説明する前に一度頭の中を整理する時間をくれないかな?」
数歩下がりながら黄昏をなだめる遊形は、困った様子で頭をかく。
いまいち状況が掴めない葵は黄昏と遊形を交互に見てから遊形に尋ねる。
「えっと、日盛、さん? あなたは一体……」
「そこまで畏まらなくて大丈夫だよ。たぶん同い年だし。
僕は遊糸と同じ孤児院で育ったんだ。言うならば義兄弟ってやつかな」
「何が義兄弟だ。中学校上がってから連絡もよこさなかったくせによ」
「それも含めて、説明する前に整理させてほしいんだ。
明日、この件に関わった君たち全員で会えないかな?」
今にも掴みかかりそうな黄昏をこれ以上刺激しないよう、遊形は話す相手を葵に切り替えて相談する。
「えっと、日盛君。この近くに巫っていう家系が管理している神社があるのは知ってる?」
「それなら僕も知ってるよ。
なるほど、やっぱり君も彼女とは面識があるんだね」
「え?」
「いや、こっちの話だから気にしないで。
ということだから明日、みんなを連れてそこに来てほしいんだ。遊糸、それでいいかな?」
「……今度は逃げないだろうな?」
「うん、それは約束する」
疑念の目を向ける黄昏に、遊形はまっすぐ目を合わせる。
やがてわざとらしいため息をついた黄昏はそれ以上何も言わなくなった。どうやら同意のようだ。
そんな彼に困った様子で遊形は頬をかいていると、それまで黙っていた神崎が話に入ってきた。
「で、その神社には俺も行ったほうがいいのか?」
「うん、たぶんあなたも巻き込まれているみたいだから、聞いておいた方がいいと思うよ。
それから、一緒に大神さんも連れてきてくれないかな?」
「大神のおっさんを?」
「あの人も重要な人だからね」
「なんだかわからねぇけど、とりあえず連れてくればいいんだな?」
こりゃ休日返上だな、などと愚痴をこぼした神崎はセキュリティに連絡し始めた。
尋ねてみると、シャルロッテを病院に搬送する手配をしてくれているようだ。
さらに、黄昏が背負っていたエヴァも神崎の方で引き取るらしい。なんでも、今回の件の重要参考人としてセキュリティの方で監視下に置くのだそうだ。
「じゃ、俺は負傷者の対応するか。
てめぇらは早く帰れよ。補導されても知らねぇからな」
そう言い残して神崎がこの場を後にすると、自然と黄昏たち3人も解散となった。
黄昏と葵が揃って歩いていると、後ろから遊形が一つだけ質問を投げかけてきた。
「遊糸、あの時のこと、まだ怒ってる?」
「……わかってるなら反省しろ」
彼らの過去に何があったのか、全く見当がつかない葵はその言葉の意味を知ることはできなかった。
ただそれでも、今ここで黄昏に聞くべきではないと悟った葵は、黄昏の横顔を伺うだけにとどめた。
★
駐輪場に向かう黄昏と別れ、アカデミアの校門を目指していた葵は、事後報告にはなるが巫に明日のことを連絡しようと端末を操作していた。
リリアが心配だが、無事避難できているなら大丈夫だろう。
「梓に連絡した後リリアにも連絡しないとだね」
「あおいんー!」
「り、リリア!?」
いないと思っていた彼女が突然横から抱き付いてきたため、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
見れば、刻魅も建物の影で休んでいた。
「リリア、どうしてここに?もう避難したはずなんじゃ……」
「えっとー、とりあえずあの場所から離れたのはいいんだけど、他にも危なそうな人がいたからここで隠れてたんだー」
「そ、そうなんだ」
余程怖かったのだろう、いつもの口調ではあるが震えている彼女を慰めながら、葵は遊形の言っていた言葉を思い出していた。
遊形は確かに誰かを避難させたと言っていた。しかし、職員は全員ボレアスによって全員無力化させられているらしい。
それが本当かはわからないが、この事態に駆けつける者やセキュリティを呼ぶ者がいなかったのなら本当の可能性が高い。
(じゃあ、他に生徒が残ってたってこと?
私たちが言うのもなんだけど、とっくに下校時間は過ぎてるはずなのに……)
いくら考えても答えは出ないが、それが一番有力そうだ。
なにより、こうしてリリアたちが無事だったのだからあれこれ考える必要はないだろう。
「あ、そうだリリア、明日梓の神社に行くことになったけど、予定は大丈夫?」
「え、梓さんのー? どうしてー?」
「まあ、色々あってね。日盛って言う人が、今日の事件に巻き込まれた人に何が起こったのか説明してくれるらしいの」
「ひさ、かり?」
「無理?」
「ううん、大丈夫だよー」
人懐っこい笑みを浮かべるリリアに釣られて自然とこちらも笑みがこぼれる。
まずは刻魅の搬送のために救急隊に連絡をして、その後父の将生に迎えを頼んだ。
こんな遅くまでアカデミアに残ったことはなかったため心配されたが、無事であることを説明したら安堵のため息をついているのが端末越しに聞こえてきた。
それからしばらくして刻魅が搬送されるのを見送ると、改めて巫に連絡をする。
『あら、こんな時間にわたくしの声が恋しくなったのでしょうか?』
「うん、ツッコミたい気分だけどとりあえずそれは置いといて……
明日貴女の神社に5、6人が集まるんだけど、明日って何か行事あるかな?」
『集まるのは決定事項でございますか。
葵のその行き当たりばったりの性格、そろそろ直したらいかがでしょうか?』
「……仕方ないじゃない。日盛って人が私たちが集まれる場所を探してたんだから、とっさに出るのは貴女の神社ぐらいだよ」
『日盛? ひょっとして日盛遊形という方でございますか?』
照れ隠しでぶっきらぼうに返したのだが、巫はリリアと同じく『日盛』という名前に何か引っかかったようだ。
「もしかして梓の知り合い?」
『ええ。今朝の占いで脈絡もなくその名前が出てきたのですが、なるほど合点が行きました』
「それ、もう占いというより未来予知だよね?」
『ちゃんとした環境を整えれば、それも可能でございますよ。
とはいえ、知っていても変えることが出来ないほどの力を放つ未来をぼんやりと俯瞰するだけでございますが』
「……なんか世の中って思ったよりオカルトがあるんだね」
最近の日常が妙に濃いからか、未来予知できますと言われても納得できてしまう自分に少し驚いていた。人の慣れとは本当にすごいと実感する。
ここまでどうでもいいやり取りを繰り返しているが、巫の様子から明日行っても問題はなさそうだ。
『では明日お待ちしております』
「うん、ありがとう梓」
『……あの葵がわたくしにお礼を言うなんて、何か変な物でも――』
「うっさい!」
一方的に通話を切ると、そのままの勢いでデュエルパッドを腰のポーチに仕舞った。
その光景の一部始終を見ていたリリアは、何故か嬉しそうに微笑んでいる。
「やっぱり梓さんとあおいんって仲いいよねー」
「さすがにへこむからそれは勘弁して」
こめかみを押さえながら深刻そうに返すが、リリアの笑みが消えることはなかった。
★
乱暴に通話を切られ、困ったような笑みを浮かべる巫はそのまま受話器を置き、わざとらしく肩を落とした。
「まったく、あの子の性格には困ったものですね。
本当にわたくしと同い年なのか疑うほど幼いといいますか……」
やれやれ、と思う反面、それが羨ましく思うのもまた事実だと、巫は自覚している。
「あの子が幼いのではなく、私が大人びて……いえ、冷めているだけなのかもしれませんね。
さて、わたくしの方も準備を進めましょう」
明日までにすることが増えてしまったが、元々それを想定して動いていたのだ。今晩中に終わるだろう。
そう思っていた矢先に、神社の境内に人の気配を感じた。
ここから直接外を見ることは出来ないが、その気配が誰のものなのかはすぐにわかった。
「このタイミングでいらっしゃいますか。
まったく、やはり未来が読めない相手は不便ですね」
ぼやきながらもその足はまっすぐ外へと向かっていた。
次回ようやくいろいろな設定を説明する回になりそうです