遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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大変お待たせしてすいませんでした
再びゆっくり更新していきたいと思います

今回はこの物語の舞台設定(?)の説明回です



太古の戦争 侵略者の存在

 翌朝、黄昏は梓とともに神社の縁を歩いていた。

 自分の中では結構早めに来たはずだったのだが、すでに時計は10時を示している。

 梓に聞けば、大神と神崎は仕事の都合上遅くなるが葵とリリアはすでに来ているそうだ。

 思ったよりも長い道中で無言が続くと、黄昏はふと気になったことを尋ねた。

「これ、もしかして本殿に向かってるのか?」

「正確には拝殿と呼ばれる場所でございますね。人数的に応接間では手狭ですし、色々と都合がよいですから。

 父は不在ですが許可は頂いておりますのでお気になさらず」

 ここに初めて訪れた際は急な訪問であったのもあり、応接間での対応だったが、今回は妙に準備がいい。

 占いとやらで今日のことは察知していたのかもしれない。

「そういえば、最初ここ来た時から気になってたんだけど、ここは何を祀っているんだ?」

「ここはデュエルモンスター関係の神を祭る神殿ですよ」

「デュエルモンスターの神ってなると、三幻神とか三極神か?」

「全くの見当違いですよ」

「あーそう。名前に神がついてるのは何体もいるけど、存在を崇められるモンスターなんてそれ以外にあったか?」

「なにも崇めるのは、すでにカードとなっているモンスターだけではないでございましょう?」

 言いながら立ち止まった場所はこの神社で最も奥にある社の一番大きな障子の前。そこを開けると、畳が敷き詰められた一際大きな部屋が広がっていた。

 その中心に葵とリリアが寛いでいたが、黄昏の視線はこの部屋の壁に向けられていた。

 何も描かれていないカードのフレームが等間隔に部屋を一周するように配置されており、その上には規則的に並べられた点とそれをつなぐ線が描かれている。

 その配置には見覚えがあった。

「星座、か?」

「ご明察でございます。ここでは、黄道12星座をかたどったモンスターを祀っているのでございます」

「へぇ……そんなモンスターもいるんだな」

「あ、やっと来た。遅刻だよ、黄昏君」

 自分の知らないモンスターの存在に感心していると、葵の不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「これでも早く来た方だ。そもそも、時間を決めてないのに遅刻もないだろ」

「あおいんもついさっき来たばっかりだしねー」

「あ、リリアそれは言わないって約束だったのに!」

 いつも通りのやり取りをしながら、黄昏と梓も腰を下ろした。

 すると、目を輝かせたリリアが詰め寄ってきた。

「ねえねえ、みんなの言ってる日盛遊形って人、もしかして孤児院にいたのかなー?」

「どうしたんだよ、突然」

 若干引き気味に尋ね返すが、リリアはこちらの質問に答えるつもりはないらしい。

 とりあえずリリアの質問通り、遊形は黄昏と同じ孤児院にいたため、首を縦に振って肯定しておく。

「じゃあじゃあ、《スクラップ》のデッキも使ってたー?」

「……まあ、最低でも小学生の時はそうだったな。今はたぶん違うけど」

 少し眉をひそめて黄昏は肯定する。

 その様子に葵が視界の端で不思議そうにしていたが、彼女が何かを尋ねてくることはなかった。

 そんな黄昏たちに気づくことなく、リリアはさらに目を輝かせた。

「やっぱり、ゆうくんなんだー!」

「ゆうくんって、確かリリアの幼馴染だったか?」

「うん、そうだよー! 懐かしいなー、早く会えないかなー」

 まるでプレゼントを待つ子供のように満面の笑みを浮かべる。

 視線をずらして葵の方を向くが、彼女も苦笑いを浮かべて肩をすくめるだけだった。

「確かに共通点は多いけど、そんな偶然がそう簡単に起こるはずが……」

「待たせてごめん。もうみんな集まってるかな?」

 奥の襖が開き、無害そうな青年が入ってくる。

 昨日は月明かりしかなかったためよく見えなかったが、黒い短髪は所々脱色していて、顔の周りにはオイルを拭ったような跡がうっすらと汚れていた。

 デュエリストというよりは技術者と言った印象を受けるが、その腰にはちゃんとデュエリストの証であるデュエルパッドが下げられていた。

「ゆうくんだー!」

 そんな彼を見て真っ先に反応したのはリリアだった。

 低い体勢から彼女は彼に向かって抱き付く。とはいえ、体勢からしてラグビーのタックルに近かったが……

 結果、彼女の頭が見事みぞおちにクリーンヒットした。涼しい顔をしているが、よく見れば微かに震えている。

 リリアの言っていた通り、『ゆうくん』が黄昏の知っている日盛遊形だったことに驚いたが、今はそれより彼の状態が心配になってしまった。

「……大丈夫か?」

「な、なんとかね。リリア、みんなに説明しないといけないから離れて」

 なだめながら遊形は力ずくでリリアを引きはがす。

 残念そうな顔をするリリアだが、素直に腰を下ろした。

 その一部始終を一歩引いたところで見ていた梓は静かに微笑んでいたが、全員が座るのを確認すると手を叩いて注意を仰いだ。

「これで遅れてくる二人を除いて全員揃いました。

 それでは説明を始めましょうか」

「神崎たちは来てないけど大丈夫なのか?」

「神崎というお方には大神さんの方から私が話す部分の事情は説明するように言っております」

「巫が説明する部分?」

 眉をひそめて尋ねると、梓は笑みを浮かべて頷いた。

「まずは、根本的になぜ狙われたのかを説明する必要がありますでしょう?」

「ああ、そういうことか」

「はい、遊形さんと葵はすでに知っていることなのですが、リリアさんは他人ごとではなくなってしまったので、わたくしとしても説明しないわけにはいきませんから」

「リリアが?」

 リリアの方を向くと、少し緊張した様子で梓の方を見ていた。

 すでに葵の方からその旨は伝えられていたのか、心の準備はできているようだ。

 では、と身だしなみを整えると、先ほどまでの掴みどころのない雰囲気はなくなり、凛とした様子で4人と対面した。

「まず確認ですが、デュエルモンスターに描かれているモンスターは実在し、彼らが暮らす世界がこことは別に存在する、ということは覚えてますか?」

 梓が言っているのは先日ここに来た時に説明していたものだ。

 黄昏はもちろん、リリアもそのことは覚えていたようで、首を縦に振る。

「世界があるということは、当然歴史があります。

 語り継がれるほどの争いの歴史も、です」

「一応、シグナーの話なら聞いたことはあるけど、それのことか?」

「いえ、残念ながら違います。

 あちらの話も確かに事実ですが、あれは私たちの世界に呼びこまれたモンスターと選ばれた人々によって終結した大戦の話です。

 昔は今のようにカードに描かれたモンスターではなく、本物に近いものを呼び出して使役していたので、あのようなことが起こってしまったのでしょう。

 わたくしが言っているのは、それよりももっと前。言ってしまえば、まだ人間という生き物が存在しないときの話なのです」

「……話が壮大過ぎるぞ」

 肩をすくめ、大きく息を吐いた黄昏は思わずそんな言葉をこぼした。

「確かにそうですが、紛れもない事実です。どうか最後までお聞きください。

 私たちの住む世界が生まれたと同時期、デュエルモンスターの世界も誕生しました。

 しかし、その世界は早々に滅亡の危機に襲われます。侵略者(インヴェルズ)という、外の世界から現れた生命体によって……」

「外の世界?」

「わたくしたち人間に置き換えるとすれば『地球外生命体』と言ったところでしょうか。

 生まれたばかりのモンスターたちはインヴェルズに対抗する力を持ち合わせておらず、なす術がありませんでした。

 そこで、彼らは同じく外の世界に助けを求めたのです。

 強い思いは新たな奇跡を起こし、数多の星を束ねる星の守護者、『セイクリッド』というモンスターを生み出しました」

 その言葉は昨日、エヴァとのデュエル中に葵が口にしたものだ。

 星の守護者というのだから、星に関係したモンスターなのだろう。

「……ってことは!」

 とっさに黄昏は顔をあげ、周囲の壁を見まわした。

 隣のリリアはここまでの話を理解できていないらしく、首をかしげたままで、黄昏のその行動の意味も分かっていなかった。

 しかし梓は再び静かに微笑んだ。

「黄昏の思っている通りでございます。

 この神社が祀っているのはそのセイクリッドのモンスターたちです」

「昨日、ニュートってやつがエヴァのことをキャンサー、遊形のことをスコーピオンっていってたんだけど、それってどういうことなんだ?

 蟹座(キャンサー)蠍座(スコーピオン)ってのはわかるけど、それはカードのことを指すんじゃないのか?」

「それを説明するには、もう少し説明が必要ですのでお付き合いください」

 再び説明を始めた梓は、壁に描かれた星座を見まわす。

「一応お尋ねしますが、黄道12星座はご存知で?」

「名前を列挙するぐらいなら」

「た、たぶん全部知ってるはずだよー」

「なら十分です。セイクリッドは黄道12星座に属する各星座をモチーフとするモンスターでございます。

 それぞれ1体ずつ、例外でふたご座だけ2体のモンスターがいらっしゃいますので、合計13体のモンスターが生まれました。

 彼らはインヴェルズとの激しい戦いの末、彼らは生まれたばかりのモンスターたちが住まう世界を守り切りました。

 とはいえ、インヴェルズを殲滅することは叶わず、せいぜい追い返すのが限界だったようです。そのままではいずれ再び侵攻されるのは目に見えていました。

 ですので、セイクリッドは同じことが起こらないよう、13体すべての力を使って結界を張り、インヴェルズの侵攻を食い止めてきました。

 ……ついこの前までは」

「どいうことだ?」

 梓の最後の言葉に黄昏は眉をひそめた。

 まるで今は違うとでも言いたげな言い回しだ。

「インヴェルズを退ける戦いの際に残った彼らの亡骸には、生物の負の感情を溜める力が残っていました。

 溜まった負の感情は怨念となり、その怨霊によってモンスターを侵食する『ヴェルズ化』という現象が起きたといわれています」

「ダークモンスターみたいなものか?」

「似たようなものでしょうが、侵食力はそれの比ではなかったのです。

 結界を張るセイクリッドの一体《セイクリッド・カストル》を飲み込むほどに」

「…………」

 思わず絶句した。知らぬ間にデュエルモンスターの世界にそれほどの危機が迫っているとは思ってもみなかったのだ。

 視線を下げ、自分の相棒である《スクラップ・ゴブリン》が収まっているデッキを見る。

 視線に気づいて半透明の姿で現れた《スクラップ・ゴブリン》に、そこまで慌てた様子はない。

 どうやら、まだインヴェルズの侵攻は行われていないようだ。

「さすがにすぐに結界が崩壊し、インヴェルズの侵攻が始まるわけではありません。

 ですが、その均衡が崩れたのもまた事実。

 近い将来、再び戦争が起こるのは確実でしょう」

「けど、今ならそのインヴェルズにも対抗できるんだろ?

 俺たちが知ってるだけでも強力なモンスターもいる。まあ一枚岩じゃないし、すべてが一丸となって、ってことにはならないだろうけど」

「確かに、デュエルモンスターの世界『は』問題ないでしょう」

「……『は』?

 他の世界に影響があるっていうのか?」

「もしかして、アタシたちの世界のことー?」

「その通りです。双方の世界では勝手が違うので、どのような影響があるのかはわかりません。

 下手をすると、シグナーの時のような大戦が行われる可能性もあります」

「もしそれが本当なら、こっちは太刀打ちできないんじゃないのか?」

「そのために、わたくしたち星の守護者(セイクリッド)がいるのです。

 それぞれセイクリッドの加護を宿したデッキを用いることで、インヴェルズの侵攻を食い止めるのが、わたくしたちの役割なのです」

 そういうと、梓は順々に黄昏を除くメンバーに視線を向けていく。

「葵は魚座、遊形さんは蠍座、わたくしは水瓶座の加護を宿すデッキを保持しています。

 そして、昨日リリアさんのデッキが天秤座の加護を宿したことで、すべてのセイクリッドが揃いました」

「他の星座の星の守護者はどこに?」

「獅子座の加護は大神さんが受けています。乙女座も、みなさんがよく知る方がその加護を受けていらっしゃいますよ。

 ……そろそろ隠れるのはやめて、こちらに出てきたらどうですか?」

 襖に隔たれた向こう側に向かって、梓はそう促した。

 物音とともに押し殺した声が聞こえてきたが、襖越しのためそれが誰のものかは特定できなかった。

 しばしの間沈黙が流れた後、観念したようにゆっくりとその襖が開かれた。

 眼鏡をかけ、文学少女を連想させる少女は、確かに黄昏たちがよく知る人だった。

 それぞれの反応を見ると、遊形と梓以外は先に来ていた葵たちも知らなかったらしく、彼女を見た瞬間葵が思わず声をあげてしまった。

「さ、早乙女先輩!?

 え、じゃ、じゃあ早乙女先輩が乙女座のセイクリッドってこと!?」

「あ、はい、そうみたいです。

 昨日、下校時間ぎりぎりまで図書室で調べ物をしていたんですけど、そしたら黒いフードを被った人たちが現れて、そこを遊形さんに……」

「じゃあ、日盛君が避難させた人ってリリアじゃなくて、早乙女先輩だったんですね」

「そう、ですね」

 元々おどおどとした様子の早乙女はいつにも増して視線が漂っている。

 しばらく見ていると、その視線には規則性があり、とある方向を見てすぐに視線を逸らしていた。

 その視線の先にいた本人は、誰よりも早くそれに察してその場を去ろうと立ち上がる。

「ま、待ってください黄昏さん!」

「心配しなくても、少し席を外すだけですよ。

 俺はセイクリッドでもないし、いなくても大丈夫だろ巫?」

「そうはいくまい」

 突如、黄昏の背後に壁のような重圧がかかり、彼は反射的に身構えた。

 振り返ると、そこにいたのはセキュリティの服に身を包んだ、熊のような巨体の男だった。

 一瞬本当に熊か何か出たのかと思ったが、見上げてその顔を見れば彼が誰なのかわかった。

「何度見てもでかいな、大神」

「おい、さんぐらいつけろ。まったく礼儀がなってない小僧だ」

 言いながらも笑みを絶やさない彼の様子から、別に改めなくてもよさそうだ。

 そして、その背後からひょっこり神崎も現れ、今日集まる予定だった全員が顔をそろえた。

「さて、オレの方は道中に説明はしたぞ。

 早速本題の方に入ってもらっても構わんのだが?」

「こちらも丁度終わったところでしたので問題ありません。

 では、みなさんお座りください」

 梓に促されて大神と神崎も腰を下ろす。

 黄昏は立ち去ろうとした手前、このままこの場所にいるのはバツが悪い。

 さっさと席を外そうと思っていたのだが、大神に聞かれていたようで、がっしりと肩をつかまれて振りほどけない黄昏はそのまま無理やり座らされることとなった。

「おい、大神……」

「今からの話は少なからずお前さんにも関係がある。

 妙な意地は今は投げ捨てんか」

「……あーそ、わかったよ」

 両手を挙げて降参の意思を見せると、ようやく黄昏の肩は解放された。

 一瞬このまま逃げてやろうかという考えもよぎったが、そこまでして逃げるのも癪に感じた黄昏は諦めて肩をすくめた。

 せめてもの抵抗で、実体化させた《スクラップ・ゴブリン》を膝の上に置いてふてくされる。

「じゃあ、説明を始めるよ」

 少々張り詰めた空気が流れているが、遊形のによってその空気を穏やかにして、視線を自身に集めた。

「まず、さっきの梓の説明でもあった通り、リリアのデッキが天秤座の加護を受けたことで、セイクリッド全員の加護を宿したデュエリスト12人が揃った。

 そして、ここにいる人以外のセイクリッドのメンバーは今、平坂ジンが率いる『ボレアス』に集結してしまっているんだ」

「他のってことは、7人が『ボレアス』に!?

 どうしてそんなにセイクリッドの人たちが『ボレアス』なんかに……」

 信じられない、と言った様子の葵と、呆気にとられているリリア。梓と大神、神崎は事情を知っているようだが、黄昏はなぜセイクリッドが『ボレアス』に集まってるのか、その理由の予測をその場で立てた。

「デッキさえあれば、誰でもセイクリッドになれるってことでいいのか?」

「うん、その通りだよ遊糸。

 覚醒させることが出来る人は限られているんだけど、加護を受けているのはあくまでデッキのみなんだ。

 だから、一度覚醒したデッキはその所有者が変われば、全力は出せないにしろセイクリッドとしての立場を乗っ取られてしまう。

 ジンはそこに目を付けたんだ。よくわかったね、遊糸」

「前に平坂ジンに襲われたとき、あいつ七波のデッキを盗もうとしてたからな。

 そのときの言動と、今のあんたたちの言い方である程度察しついたっての」

「けどよ、それならオレがデッキをすり替えたときに意地でも取り返しに来たんじゃねぇか?

 ブラマジは確かに高価なカードだが、明確な目的があるあいつ等がそこで妥協するか、普通?」

「それに関しては、僕からは何とも……」

「妥当に考えて、七波のデッキならすぐに奪えるっていう慢心があるだろうな」

 その言葉に葵の表情が曇るが、それ以上は何もなかった。

「とはいえ、それを踏まえてもアイツは《ブラック・マジシャン・ガール》も余裕があれば奪うつもりだった口ぶりだった。

 あのカードにも何か秘密があると考えおいて損はあるまい」

「まあ、確かにそうだな」

 ボレアスは今だ謎が多い集団だ。

 警戒しないより、しすぎる方がいざというとき対処しやすいだろう。

 ここまでで、セイクリッドとは何なのかは理解した。

 そのセイクリッドが誰なのかもわかった。

 リリアはどこまでわかったかは知らないが、わからないところは後で葵あたりが説明してくれるだろう。

 だから、黄昏はさっさと本題に入るように促した。

「平坂ジンは一体何を企んでるんだ?」

「たぶん、インヴェルズによる世界の破壊、かな?」

「具体的には?」

「セイクリッドはインヴェルズに対抗するための守護神。でもその全員が揃って守護することを放棄したら?」

「……最悪だな」

「だから、こうしてみんなで情報を共有したかったんだよ。

 大神さん、頼んだことはわかりました?」

 話を大神の方に振ると、腕を組んでいた大神はもちろんだと返し、懐から紙の束を取り出した。

「セキュリティがわかっているボレアスの情報から、セイクリッドの可能性のある者や、単純な危険人物をまとめてきた。

 本来は持ち出していいものではないんだがな。

 向こうはこちらを狙ってきているんだからそうも言ってられまい」

 それはこちらへの説明というより、自分への言い聞かせのように聞こえた。

 大神から渡されたのは顔写真と名前、簡単なプロフィールが書かれた名簿表だ。

 その中にはもちろん平坂ジンの名前はもちろん、エヴァやニュートの名前も記載されている。

「そういえば、エヴァは大丈夫なのか?

 俺が言えたもんじゃないけど、あいつも闇のデュエルで相当ダメージがあるはずだけど」

「まだ目覚めてはおらんな。

 お前さんの言う通り、相当なダメージがあったのだろう。

 こうして普通にピンピンしているお前さんが頑丈すぎるんだ」

「ほっとけ。昔から傷の治りは異様に早いんだよ」

「ふむ、まあいい。これで現状は把握できただろう。

 オレたちはインヴェルズの侵攻に備えて力をつけ、結束しなければならないが、ボレアスによって仲間割れが行われている状況だ。

 勝手なのは承知だが、この騒動が収まるまではいつもの日常に戻れるとは思わない方がいいだろう」

 その言葉にリリアに明らかな動揺が見えた。

 とはいえ、当然といえば当然の反応だろう。

 彼女はつい昨日の夕方までは普通のアカデミアの生徒として過ごしてきた。

 それがいきなり世界を守る者の一員だと言われ、そのうえ危険な集団から狙われているのだ。

 いきなり周囲の環境ががらりと変わって動揺しないはずがない。

 それを予想していたように、大神が豪快に笑いだした。

「安心せい! お前らの安全は俺たちセキュリティが責任を持って約束しよう」

「まあ、割ける人員は俺と大神のおっさんのふたりだけだけどな。

 こんな話、頭の固いセキュリティの上層部が納得するわけねぇし」

「登下校は少し不便になるだろうが、ある程度集まって行動してもらい、オレと神崎で手分けして護衛だ。

 無論、アカデミアにいるときも適当な理由を付けて警備をするつもりだ」

「それ、縦社会のセキュリティだとずいぶん無茶してるんじゃないのか?」

「なに、市民の安全を守るのがセキュリティの役目だ。

 危険があるとわかっている奴が進んで行動するのは当然だろうよ!」

 だから安心しろ、と頼もしい笑みを浮かべる。

 その堂々とした佇まいに、次第にリリアの表情も和らいできた。

「よし、今後は少し窮屈になるだろうが、少しの辛抱だ。

 ボレアスに奪われているデッキをすべて回収し、同志に託せばインヴェルズの侵攻にも対抗できる。

 だろう、巫のご令嬢?」

「その通りです。

 いくらインヴェルズとはいえ過去のモンスター達です。

 長い年月をかけて力を付けた今のモンスターたちを使役するデュエリストに加えて、それ単体でインヴェルズと対抗できるセイクリッドの加護を得ているのです。

 ちゃんとした戦力を整えれば、後れを取ることはないでしょう」

 楽観的かもしれないが、見通しが明るくなったのは事実だ。

 逆に、数少ない不安要素が浮き彫りになっているのも事実なのだが……

「大神、ちゃんとした戦力を整えるなら、今のメンバーを欠けさせるわけにもいかないんじゃないのか?」

「何が言いたい?」

「俺も護衛の方に回る」

「ダメだ」

「なんでだよ!?」

「さっきも言っただろう。

 市民の安全を守ると」

「護衛の数が足りてないのも事実だろ!

 一応これでも相手のセイクリッドとのデュエルは勝ってるんだ。

 多少なりとも戦力になるはずだ!」

「お前さんのデュエルの腕は確かなのは認めよう。

 蟹座ぐらいなら倒せるだろうよ」

「……どういう意味だ?」

「まあデュエリストの技量で変わる部分もあり一概には言えんから、あくまで目安程度のものだがな。

 それぞれベースとなる星座の星の中で、最も明るい星の等級により、セイクリッドはそれぞれの基本的強さが決まるというわけだ。

 つまり、お前さんの戦った蟹座、それから魚座である葵は、セイクリッドの加護だけを見ればワースト2と1ということよ」

 その事実に思わず絶句する。

 自分の限界を振り絞って戦い、勝利した相手が、実は最も力が弱かったと言われたのだ。

 あれよりも強いとなると、平坂ジンには到底……

「やってみなくちゃ、わかんないだろ」

「お前さんがどうしてそこまでするのかわからんでもない。

 知り合いが危険だとわかっているのに何もできないのは歯がゆいだろうよ。

 だがな、勇敢と無謀は別のものだぞ」

「なら大神、あんたを倒せるなら文句はないだろ。

 あんたに勝てるなら、最低でもあんたが勝てない相手に勝てる可能性があるってことなんだから」

「…………」

 大神は黄昏の申し出に押し黙ってしまった。

 獅子座のセイクリッドである彼は、セイクリッドだけの力で見れば、黄道12星座の中で5番目の強さを誇る。

 1番は言わずと知れた牡牛座、大神はジンだと予想しているが、2番から4番まではこちらの陣営にいるため、彼に勝てるならボレアスからの刺客には十分対処できるだろう。

 口では否定しているが、人手が足りないのは事実だ。

 黄昏が自分で自分の身を守る十分な力量があるなら、手を貸してもらえるのに越したことはない。

「……わかった。ならデュエルで考えよう」

「大神さん! 流石に遊糸には……」

「俺よりも強いならどちらにしろ守られる立場ではないだろうよ。

 それに、ここで有耶無耶にするよりはっきりさせた方がいいのは、遊形もわかってるだろう?」

 ゆっくりとした動きで大神が立ち上がると、それを見越していたように移動していた梓が襖を開ける。

「デュエルするためのスペースにはわたくしが案内しましょう」

 梓の案内に大神、黄昏と続いて退出すると、部屋にはその背中を見ているだけしかできなかった5人が取り残された。

「……まあなんであれ、結果は見届けるべきじゃねぇの?」

 その中で神崎は頭を掻きながら気だるそうに立ち上がり、その場の全員に向けてそう投げかける。

 しかしそれ以上何をするわけでもなく、さっさと自分だけ3人の後を追った。

 再び静寂に包まれる空間。

 黄昏があそこまで固執する理由に遊形は心当たりがあった。

 だからと言って、それを受け入れられるかと言えばそれは別だ。

 それでも、神崎の言う通り結果だけは見届けるべきだろう。

「……行こう。

 たぶん、僕たちは絶対に見届けなくちゃいけないと思う」

 遊形の言葉に、三人は静かに頷いた。




ヲー改めラーのフェニックスモードのOCG化されるようで地味にテンションが上がっています
スフィアが来たからもしや、と思ってたらホントにきました


とはいえラーのシリーズ一枚もないので作るには先立つものが必要なんですけどね……


次回は黄昏と大神のデュエルが始まります
デュエル構成作った時点で2話にまたがるレベルの量になってるので、気長に更新をお待ちください……
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