今回はデュエル回のつもりでしたが、その直前の会話などが予想以上に長くなったのでデュエルはなしです
同刻、帰路についた葵とその護衛をしていた大神はお互い眉をひそめてた。
黄昏からの連絡でこちらを付けている人間の存在に気づき、周囲への被害が出にくい道路へ切り替えたのはよかったのだが……
「まさか道路を瓦礫で塞ぐとはなあ。
ここまで大がかりな足止めは初めてだ」
「感心してる場合じゃないと思うんですが……」
セキュリティの車で帰宅していたのが仇となった。
D・ホイールならこの程度の瓦礫でも簡単に突破できただろうが、今回は素直に追手と対峙することになった。
葵たちの逃げ場をなくすように現れたのはたったの2人。
人数にすれば黄昏たちのところより少ないが、その質は段違いと言って過言ではないだろう。
大神はその2人を確認して小さくつぶやいた。
「……ジン。
それからもう1人はボレアスの幹部か」
「じゃあ、あっちもセイクリッドですか?」
「可能性は高い。確か名前は、
「作戦会議中悪いけど、さっさと降りてくれまへんか?
こっちもあんまり時間あらへんし、これ以上だんまり決め込むんなら力ずくでも構わへんで」
情報共有をしている最中にジンが急かす。
いくら被害が出にくい場所に来ているとはいえ彼の力ずくがどれだけの規模になるかがわからない以上、ここは素直に車から降りるしかないようだ。
「他のところにも人員を割いているみたいだが、そろそろテロでも起こすつもりか?」
「いやいや、僕らはテロなんて起こす気はありまへんって。
こっちはセイクリッドを減らせればそれで充分。
余計な被害を望んでないのは僕らも一緒……って言っても信じられへんやろうなぁ」
わざとらしく肩を落とすジンは相変わらず掴みどころがない。
それに隣の一矢と言うらしい青年がピクリとも動かないのも不気味だ。
「貴方たちボレアスは一体何を望んでいるの?
仮に
「まあ、そこは見てのお楽しみってことで」
「ふざないでよ! 何の罪もない人をどれだけ巻き込むつもり!?」
「何の罪もない、ねぇ……
まあええわ。さっさとこっちもやることやりましょか」
ジンは軽い調子でデュエルディスクを構え、それに倣い葵たちもデュエルディスクを構える。
加えて、一矢は空いた手から紅い鎖を垂らす。
昨日エヴァが使っていたものと同じなら、あの鎖につながれたら最後、強制的にデュエルを開始することになる。
この状況では使わずともデュエルをすることに変わりはないが、保険だろうか?
互い準備を済ませて、あとは宣言をすればデュエルが開始されるという状況の中、モーメントの独特な駆動音が二つ、両者の間に割り込んできた。
不意打ちに4人が動きと止めると、D・ホイールに乗った2人はすかさず葵たちの方に疾走。
「っ、あの女を逃がすな!!」
一番早く我に返ったジンが叫び、ジンは持っていた鎖を投擲する。
エヴァの時同様、その鎖は生きているかのように葵の元へ迫り……
片方のD・ホイーラーが右手でその鎖を弾いた。
「嘘やろ!?」
ジンの驚愕の声を背中に受けながら、鎖を弾いたD-ホイーラーは葵を抱えて瓦礫の向こうへと走り去ってしまった。
残るD・ホイーラーは大神の横に並ぶように停車した。
「……遊糸の方か?」
「残念、僕だよ」
ヘルメットを外して素顔が露わになった彼は、この場に似合わない無害そうな雰囲気を醸し出していた。
その顔を確認して、一瞬眉をひそめたジンは彼の名前を口にする。
「日盛、遊形……」
「おお、遊形か。いいタイミングだ」
「お礼は遊糸に言ってください。
遊糸のおかげでここまでこれたんですから」
肩をすくめる遊形は一緒にここまで来たもう1人の少年の名前を出す。
「ということは、さっきお嬢ちゃんを連れて行ったのが遊糸か?」
「ここが本命で主戦力が来ると予想したのは遊糸ですから。
まさか、ボレアスのリーダーが直々に来ているとは思いませんでしたけど……
彼女を連れて逃走したのは僕も驚きましたが、さっきのジンの発言から葵さんを狙っているのは明白でしたからね。
彼なりに僕らの邪魔にならないように気を配ったんだと思います」
「となると、後はオレたちの仕事か」
顔ぶれが若干変わり、改めて対面する4人。
ジンは眉をひそめてわざとらしく首を振る。
「はあ、せっかく穏便に済まそうと思ってたのに台無しやわ」
「道路封鎖してまでやったことが穏便だと?」
「君たちが合流したら大事になるのはわかってたからなぁ、被害を最小限に押さえようと僕らもちゃんと考えてたんやで?
特に、遊形の足止めは少ない人材でやりくりしたつもりだったんやけどなぁ」
「御託はいい。
目的のためにここまでするとわかったのなら、オレたちセキュリティも総力を挙げて潰すしかあるまい」
大神がデュエルディスクを構えると、赤い鎖が彼のデュエルディスクに絡まる。
「なんだこれは?」
見慣れないものに、大神は訝しげにその鎖を掴む。
しかし、まるでデュエルディスクと一体化したかのように繋がったそれは、手で触ろうとしてもソリッドビジョンなのかすり抜けてしまう。
さらに、まだ起動してなかったはずなのにデュエルディスクが強制的に起動してオートシャッフルを始めてしまった。
その光景に大神は眉を潜めるがそれ以上は冷静に相手を見据える。
「ほな、さっさと始めましょうか。
お互いD・ホイール乗ってることやし、僕と遊形はライディングデュエルでどうや?」
「……コースは僕が指定させてもらうよ」
「警戒せんでも七波葵を追うようなコースは選べへんって。
まあ、それで納得するならどうぞお好きに」
ケラケラと笑うジンに促され、遊形はD・ホイールの端末を操作する。
コースが選択されてオートパイロットのアナウンスが流れると、二人のD・ホイールのモーメントが唸り始める。
「ライディングデュエル――」
「「アクセラレーション!!」」
掛け声とともに2人のD-ホイーラーはその場を去っていく。
残された二人もオートシャッフルを終えて5枚の手札も引き終わった。
「いくぞ」
「ああ……」
「「デュエル!」」
デュエルが開始され、デュエルディスクが先攻後攻を決める。
最初のターンを得ることが出来たのは一矢だ。
「ボクのターン……」
(天宮一矢。年齢、出身地、経歴も不明。
名前ぐらいしかわからなかったが、こいつがボレアスのなかでセイクリッドである可能性が高いのは、オレの直感が告げている。
このデュエルで捕まえることが出来ればいいんだが……)
先攻を取られたのはパーミッション寄りの効果であるナチュルには地味に痛手だった。
とはいえ、黄昏相手にもそうだったように、その程度で崩される大神ではない。
後攻なら後攻なりの戦い方がある、と割り切って自分のターンが来るのを待つ。
「…………ケヒッ」
「どうした、一人になって怖気づいたのか?」
先攻を取った一矢は直立不動のまま不気味に笑う。
大神は知る由もなかったが、実はジンはこの場を去る瞬間、一矢にある一言を告げていた。
『容赦は無用。最短最速で終わらせろ』
それは、何も知らない者からすれば何の変哲もない命令だっただろう。
しかしその言葉は、一矢の中の枷を外すための言葉だった。
さらにその言葉は、一矢のデッキの本領を発揮させる言葉だった。
そしてその言葉は、大神の瞬殺を決定づける言葉だった。
「オマエ、次のターンどうカードを切るか考えているナ?」
「何を言うかと思えば、当然だろう」
「次のターンなどなイ」
大神の言葉に被せ気味で一矢はそう宣言し、そしてこう続けた。
「射手座の弓は、すでに絞られていル」
直後、爆撃にも似た衝撃が複数回、人気のない道路に轟いた。
★
葵を連れて瓦礫を超えたD-ホイーラーはそのままさらに疾走する。
「ちょっと、君って黄昏君でいいんだよね?
一体どこに向かってるの!?」
「とにかくジンたちボレアスから離れる」
「それ行き当たりばったりって言わない?」
葵の指摘はごもっともだが、今は止まるわけにはいかない。
黄昏たちが割り込んだとき、ジンは迷いなくに葵を狙っていた。
目的は何かわからないが、とにかく彼女をボレアスから離れさせる必要があると判断したのだ。
「一番いいのは大神と遊形から撃破報告がくればいいんだけどな……」
そう呟きながら後方を確認した黄昏。
その何気ない行動が、彼らの命運を分けた。
黄昏たちのはるか後方から、鈍い光を放つ『何か』が高速で迫っているのに気づいたのだ。
「……っ、《ゴブリン》!」
『はいっす!』
それが何なのか理解する前に反射的に叫ぶと、その声に応えて《スクラップ・ゴブリン》が黄昏の力で実体化した。
迫る『何か』の正体は巨大な矢。ソリッドビジョンなら気にするほどでもないが、十中八九、ボレアスのサイコデュエリストによる攻撃だ。
直撃すれば貫通なんて生ぬるいことにはならず、ミンチになって消し飛んでしまうかもしれない。
それ故の《スクラップ・ゴブリン》による防御だったが、それが『どんなモンスター』の放った矢だったのかを考えるべきだったかもしれない。
亜音速で飛ぶ矢は《スクラップ・ゴブリン》に直撃すると、《スクラップ・ゴブリン》ごと消滅したのだ。
「なん……っ!?」
さらに続けて2撃目が迫る。
信じられない光景に驚いたが、不思議と黄昏の行動は冷静だった。
減速しながらD・ホイールを回転させ、矢が二人ともに直撃しないように調整。
巨大な矢に貫かれたD・ホイールは砕け散って乗っていた二人も放り出されるが、減速をしていたおかげで高速で地面を転がる事態は防ぐことが出来た。
「ぐ……七波、立てるか?」
「なんとか、ね。デュエルディスクは見事に壊れたけど」
受け身の取り方がまずかったらしく、葵のデュエルディスクはディスプレイ部分が割れていた。
「身体が無事ならどうとでもなるさ」
「まあね」
「動くナ」
聞きなれない声が聞こえてきて二人は顔を上げる。。
そこにはジンと一緒にいた男、天宮一矢が立っていた。
周囲に人の気配はない。となれば、攻撃してきたのはこの男ということになる。
攻撃からここまで距離を詰めてきたのは、おそらくカードの力を利用したのだろう。探索もカードの力を使えば難しくないのかもしれない。
しかし、彼とジンは大神と遊形が足止めをしていたはず。
デュエルで足止めをされていたにしては、いくらなんでも追いつくのが早すぎる。
「あんた、大神と遊形はどうした?」
「
スコーピオンはジンが相手をしていル。
レオは、呆気なかったナ」
「この短時間で大神を倒したっていうのか?」
可能性がないとは言い切れない。それでも、大神と戦った黄昏にはわかる。
彼がこんなあっさりと倒されるようなデュエリストではない。
なにより、大神のデッキはパーミッション寄りの守りのデッキだ。
勝敗がどうであれ本気で戦えば長引くのは必至だろう。
「お前たちがレオより格下なのは知っていル。
僕の要件は一つダ。
「私があなたとデュエル?」
「お前が負ければデッキは貰ウ」
「……セイクリッドの力を奪うってことか」
「お前には関係ないことダ。静かにしていロ」
「関係ないわけないだろ」
葵と一矢の間に立ちはだかるように黄昏は前に出る。
その眼光は鋭く、後ろにいる葵にさえ寒気を感じさせるほどだ。
「D・ホイール壊されたのはこの際どうでもいい。
けど、自分のモンスターが消されたんだ。自分の相棒に危害くわえられて黙ってると思うか?」
「ちょ、ちょっと黄昏君、相手はセイクリッドかもしれないのに無茶したらダメだよ!」
デュエルディスクを構えようとする黄昏の腕をつかみ、なんとか説得しようとする。
すると、黄昏は小さな声で葵に耳打ちする。
「七波はあいつのデッキがどんなコンセプトなのかを見極めろ」
「それって、黄昏君が捨て駒になるってこと!?」
「負ける気はない。あくまで保険だ。
どうせ足のD・ホイールが潰されたんじゃ逃げるのはほぼ不可能だしな」
「黄昏君が無茶する必要なんてないよ!」
わかってはいたが葵は一方に食い下がらない。
どうやって説得したものかと悩んでいると、一矢の方に動きがあった。
「変なことは考えない方がいいゾ」
1枚のカードをデュエルディスクに叩き付ける。
デュエルディスクが読み込んだカードは、ソリッドビジョンとしてその姿を現した。
黄色と黒の鎧に身を包み、巨大な弓を携えたモンスターが降り立つと、その衝撃で道路にひびが入る。
モンスターの実体化。明らかにサイコデュエリストの力だ。
「《ジャンク・アーチャー》……さっきの矢の正体はこいつの効果か」
舌打ちする一方、内心ホッとしていた。
《ジャンク・アーチャー》の効果なら、姿を消した《スクラップ・ゴブリン》もしばらくしたら戻ってくるだろう。
「僕は
無駄な被害を出したくないなら、大人しくピスケスがデュエルしロ。
さもなくば、《ジャンク・アーチャー》の矢が街の中心部に放たれるゾ」
その目にハッタリの様子はない。
《スクラップ・ヘルサーペント》で妨害することも考えたが、どうやっても向こうの方が早い。
「……わかった。けど七波のデュエルディスクはさっきの衝撃で壊れた。
俺のデュエルディスクを貸すけどそれでいいな?」
「構わなイ。いいからいいから早くしロ」
「そう焦るなって」
言いながらも手際よくデュエルディスクからデッキを取り出して葵に手渡す。
それを受け取ったまではよかったのだが、その際に違和感を感じたらしく少女は困惑の表情を見せた。
「黄昏君……」
「黙ってつけろ。怪しまれるぞ」
「う、うん」
促されるままデッキをセットしてオートシャッフルを開始。
シャッフルが終わると、それを見計らったように赤い鎖が伸びてきてデュエルディスクと結合。2人のデュエルディスクが繋がった状態となる。
「これで、お前はもう逃げられなイ」
「……言われなくても、逃げるつもりなんてないよ」
この鎖が何なのか、梓に相談ぐらいしておけばよかったと後悔する2人だが時すでに遅し。
デュエルディスクの先攻後攻を示すランプも起動し、一矢の先攻で決定した。
「いくゾ」
「ええ」
「「デュエル!!」」
《眠れる巨人ズシン》のOCG化に発狂して、どうにかして1ターンで正規召喚する方法を考えて模索中です。
最初見た時はずっと手札に存在しないといけないような感じでしたが、実際は結構融通が利くので地味にうれしい。
基本的に手札コストとサルベージのループは必至ですが。