遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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決着。されど闘争は収まらず

『マスター、マスター!』

 デュエルの決着を知らせるブザーも鳴り止み、遠くから聞こえる自動車の音だけが聞こえる空間で半透明な人影が必死に少女へ呼びかける。

 残りライフが命に直結するわけではないだろうが、50しか残らなかった彼女の身体はもうボロボロだ。

 出血もしているため早く病院へ、せめて止血しなければならないのに、今の《水霊使いエリア》には何もできない。

 先ほどデュエル中こそ異例中の異例で実体化できたのだとしても、デュエルが終わってしまえばこちらの世界に干渉する術がない幻影に巻き戻り。

 目の前で倒れて動かない己のマスターを担ぐことすら敵わなかった。

『お願いです、誰か……誰か!』

 がりっ、と微かにだが何かが道路をひっかくような音が《エリア》の耳に届く。

 助けが来たのかと反射的にそちらへ振り返った先にいたのは……

『そんな……っ!?』

 そこにいたのは先ほど《エリア》がトドメを刺したはずの射手座(サジタリウス)の天宮一矢。

 全身傷だらけで今にも倒れそうなほどふらふらしているというのに、その眼光だけは先ほど以上に鋭く光らせて葵を見据える。

「まだ、だ……」

 肩で息をしながら乱暴にデュエルディスクにカードを叩きつけると、現れたのは彼の星の守護者(セイクリッド)の象徴である《ジャンク・アーチャー》……ではなく、なぜか《インフェルニティ・アーチャー》だった。

星の守護者(セイクリッド)でなくなっても、サイコデュエリストの力は残っていル!

 ジンのため、ボレアスのため、一人でも多くの星の守護者(セイクリッド)を……ボクらの邪魔をする奴らを潰すのがボクの役目ダ……っ!!」

 その姿はもはや執念という言葉以外では表せなかった。

 まるで死の宣告でも告げるように、ゆっくりと《インフェルニティ・アーチャー》はその矢を番えて葵へ狙いを定める。

「これで終わりダ! 魚座(ピスケス)ゥゥゥっ!!!」

「──《ヘルサーペント》」

 《インフェルニティ・アーチャー》が放った一射は葵の前に立ちはだかった何かによって阻まれる。

 矢を阻んだのが残骸で形成された蛇の胴体。だがそれを一矢が認識するころにはすでに《インフェルニティ・アーチャー》の胴体へ巻き付いており、弓兵はその万力の如き力によって粉砕されていた。さらにその衝撃は暴風となって主である一矢を吹き飛ばす。

 再び地面を転がり、道路の端まで飛ばされた男は今度こそ沈黙した。

 そこへふらふらとした足取りで近づくのは銀髪の青年。頭から血を流しながらもその血を拭うことなく、焦点が合っているのが怪しいがその視線は地面に横たわる男へと向けられている。

「…………えっと、このあとは……ああそうだ、無力化……そう無力化…………」

 独り言というよりは思考が口から漏れているという状況の少年はしばらくしてその腕をゆっくりと上げる。その動きに釣られるように背後で浮遊する《スクラップ・ヘルサーペント》は攻撃態勢に入り──

『た、黄昏さん、ご無事なのですか!?』

 肩で息をしながらうわ言のように喋るその姿に戸惑った様子で尋ねる少女の声に黄昏はハッとした様子で振り返った。

「《エリア》悪い、立てる程度に回復するのに時間がかかり過ぎた。

 七波を助けてくれてありがとうな」

 息は荒いままだが、先ほどと打って変わってその目にしっかりと光を宿した黄昏は頭部から頬へと伝う血をぬぐいながら《エリア》へ感謝を述べる。

 気づけば背後にいた《スクラップ・ヘルサーペント》もいつの間にか姿を消していた。

『い、いえ。マスターを守るのは私の役目なのです。

 それより、その姿……』

 《アマゾネスの射手》の攻撃を防ぐ時から現れていた蛇の鱗。最初は右腕だけだったそれは、今はさらに侵食して顔の右半分にも薄っすらと鱗が浮かんでいた。

「……あー、しばらくすれば治まるんだけど、できればここまで深刻な感じになったのは内緒な? 七波が怒ると怖いからさ」

 口元に人差し指を置き、困ったように笑う。その姿は年齢相応の少年の顔だった。

『怒ることはないと思うのです。でも、マスターはきっと悲しみます』

「……なら、一層秘密にしておかないとな?」

 あう、と言葉に詰まる《エリア》。純粋すぎる彼女にはさすがに意地が悪すぎたらしい。

 ちょっとだけ罪悪感に苛まれて黄昏は肩をすくめるが訂正まではせず、倒れた葵のそばに寄る。

 そのまま抱えようと伸ばした右手を、一瞬ためらってから黄昏は引っ込めた。

「先に敵の拘束の方をした方がいいよな。《ゴブリン》、これで七波の傷口を押さえててくれ」

『はいッス』

 羽織っていた上着を脱ぎ、それを実体化させた《スクラップ・ゴブリン》へそれを手渡して指示を出す。

 黄昏自身は壊れた自分のD・ホイールからワイヤーを引っこ抜き、紐代わりにして天宮の両手足を縛る。

 その際にサイコデュエリストの武器でもあるデュエルディスクも回収して反撃の手段を取り上げておく。

「……あれ、なんで──っ!?」

 念には念をとデッキも取り外した直後に眉をひそめる黄昏だったが、背後から迫る殺気に対しとっさに《スクラップ・ヘルサーペント》を実体化させてとぐろを巻かせる。

 《ヘルサーペント》の胴体をガリガリと削りながら通り過ぎていったのはD・ホイール。まるで幽霊船のようにボロボロな装飾を施されたマシンに乗る男は、いきなりモンスターが実体化したというのに瞬時に体勢を立て直し、崩れたデュエルレーンの向こう側へと難なく着地した。

 距離があるうえヘルメットで隠れて入るものの、醸し出す雰囲気から男の正体は嫌でもわかる。

「平坂、ジン……っ!」

「……起こりうる可能性としては考えてなかったわけでもないんやけどな。まさか一矢が負けるとは予想外やわ」

 ヘルメットを外した男は、初めて会った時のような飄々とした態度とは一変し、唸るように呟きながら鋭い眼光をこちらへ向けている。

 その変わりようにも驚きだが、なにより彼は遊形とデュエル中のはず。彼がここに現れたということは……

「遊糸、大神さんのことは聞いた。そっちの状況は!?」

「それはこっちのセリフだ、遊形。こっちはもう七波が勝ってる」

 それはよかった、と言わんばかりにホッと胸をなでおろすお人好しが黄昏たちと合流する。

 ジンと遊形が一定距離に迫ったためデュエルフィールドが改めて展開されるものの、そのフィールドは想像をはるかに超えていた。

 

【遊形】

2/4000/12

-△--△  

□-■■-

 

【ジン】

3/4000/12

--◯-- ◉

-----

 

「……お前どんだけ粘ってんだよ気持ち悪い」

「むしろここは誉めてもいいところじゃないかな!?」

 ライフはお互い無傷なのにすでにスピードカウンターが最大まで溜まりきっている。

 ライフ回復などを行った可能性もあるが、遊形のデッキの特性からすると、最低12ターンずっと守りに徹していた可能性の方が高い。それも、『あのモンスター』を相手にして、だ。

 頭部から生えた一対の角、二股に分かれた蹄、そして《Ol-セイクリッド・ネメアレオ》と同様に漆黒の闇に包まれた身体に黄金の装飾を身にまとった巨大なモンスター。それがジンのフィールド……いや、巨大すぎてもはやお互いのフィールドを覆いつくすかのように佇む巨大なモンスターが、その場にいた全員を見下ろしている。

 

《Ol-セイクリッド・グガランナ》

☆12・光属性・獣族

ATK:4000

 

 遊形のデュエルディスクに表示されたモンスター名と攻撃力に黄昏は眉をひそめる。

 あの《青眼の白龍》をはるかに超え、少なくとも攻撃力はあの三幻神の一柱である《オベリスクの巨神兵》にも匹敵するモンスター。直接攻撃であればたった一撃で相手を葬り去られるほどの攻撃力を持つそのモンスターは、先程までさんざん葵を苦しめた《Ol-セイクリッド》の名を宿している。

 その名前と見た目の特徴から対応する星座は間違いなく牡牛座。つまり梓の説明の通りであれば序列が最も上の星の守護者(セイクリッド)のモンスターということになる。

 そんな破格のモンスターを前に遊形はライフを減らさずに耐え忍んでいたのだ。

「ホンマ、遊形と戦うのだけは面倒すぎて敵わんわ。戦闘ダメージどころか効果ダメージまでことごとく防ぐんやからな。っと、無駄話はここまでや。

 念のため赤い鎖を使わなかったのは正解やったわ。このデュエルはまたの機会に持ち越しさせてもらうで。

 ……一矢はお前らに預けとくけど、手荒な真似したらただでは済まさんからな」

 最後に死刑宣告にも近い忠告を残し、デュエルを中断させたジンは即座にモーメントを加速させて瓦礫の向こうへと走り去っていった。

「待──っ!」

「待つのはお前だバカ」

 当然ながらそれを追いかけようとD・ホイールのアクセルを回そうとした遊形だったが、それを制止するように黄昏が少年の腕を掴んだ。

 なぜ黄昏がそんな行動をとったのか不思議でならないと言わんばかりに唖然とする少年に対し、黄昏は心底呆れたように掴んでいる腕を少年自身にもわかるように目の前に持ってくる。

 その指はまるで痙攣でもしてるかのごとく絶えず震えており、なにより今黄昏が強引に引っ張った際にもろくな抵抗もなくされるがままだった。

 表情こそ涼しい顔をしているが、ボレアスのリーダーを務めるほどの男とのデュエルで体力を消耗していないわけがない。そして一番問題なのは、そんな状態であることに遊形自身が気づいていなかったということだ。

「こんなざまで追いかけてもろくなことにならねーだろうが」

「う……ごめん」

 そして気を失っている葵はもちろん、黄昏もD・ホイールが大破しているうえ葵を庇った際のダメージが残っている状態。

 残念ながら、この場にジンを追える人間は誰もいなかった。

 そこへダメ押しと言わんばかりに遊形のD・ホイールからエラー音が鳴り響き、続いてディスプレイにエラーメッセージが表示される。どうやらジンと遊形の距離が一定距離を離れたせいでライディングデュエルが無効試合として処理されたらしい。

「今回は痛み分けだね」

「これ以上深追いしても被害増えるだけだしな。《Ol-セイクリッド》ってのが何なのかわからないままだが……

 まあいい。そんなことより遊形はまず七波を病院へ連れていってくれ。大神の方は──」

「そっちは大丈夫。神崎さんがすでに病院へ搬送したって言ってたから。

 七波さんを搬送するのはいいけど、僕のD・ホイールじゃ僕含めて2人が限界だよ?」

「七波は怪我もしてるからそっちが最優先だ」

「怪我なら遊糸だって……」

「俺が傷の治りが異様に早いの知ってんだろ。もう血は止まってるから問題ない。

 大破したD・ホイールのパーツも回収しないといけないし」

 それに、と黄昏は顎で指したのは遊形よりさらに後方。目を凝らさないとわからないほどの距離だが、ランプを点灯させたセキュリティの車両が数台こちらへ向かっているのが見えた。

「たぶんデュエルレーンがぶっ壊れたから出動してきたろうな。大神たちとは無関係の別動隊だ。

 大神と神崎がどういう案件で動いてるのかは知ってるはずだし神崎が来れば済む話だが、それまでの間を持たせるために一人ぐらい事情を説明できる人間が残った方がいいだろ?

 そこで拘束してるサイコデュエリストの搬送もあるしな」

 言いながら右手の調子を確かめるように握ったり開いたりを繰り返す黄昏は、今度こそ倒れた葵に駆け寄った。

 彼女の腕からデュエルディスクを取り外し、デッキだけを彼女のデッキホルダーへ戻したのち、遊形のD・ホイールに乗せる。

「後は頼んだ」

「遊糸も、また後で!」

 面倒ごとを避けるためにセキュリティから遠のくようなルートを通って走り去る遊形のD・ホイールを見送ると、その場には黄昏が一人。セキュリティの、聞く人を無意識に緊張させるサイレンがだんだんと近づいてくるが、先ほどまでのデュエルと比べればその程度の緊張はクールダウンにも等しい。

 セキュリティが到着するまであと数分。息を整える時間すら合った。

『アニキ……』

「心配すんな。出血もあったがそこまで酷くはない。気を失ったのは『出血してる』って事実に精神的なショックを受けて貧血になったからだ。

 とはいえ傷が残らないといいんだけどな」

『いや、そっちもそうっすけど……』

「それにしても、また梓に聞かないといけないことが増えたな」

 《スクラップ・ゴブリン》の心配を他所に、懐から取り出した2枚のカードを眺めながらそうつぶやく黄昏。

 1枚は先ほどのデュエルで天宮が使用していた《Ol-セイクリッド・ネメアレオ》。そしてもうもう一枚は、《Ol-セイクリッド・パピルサグ》という名のカードだった。

 2枚とも《Ol-セイクリッド》の名を持つカードであり、()()()()()から黄昏が抜いたカードだった。

 さきほど天宮のデッキを確認したときには、どういうわけか《Ol-セイクリッド・ネメアレオ》がどこにも存在していなかった。

 それだけでなく、彼の切り札である《ジャンク・アーチャー》も跡形もなく消滅していた。

 その代わりとでも言うように葵のデッキにいつの間にか忍び込んでいたこの2枚のカード。

 詳しく観察はできていないが、天宮のデュエルディスクには何か細工が施されているような跡があった。だがカードが変質して相手のデッキへ移るなど、そんなオカルトな現象がデュエルディスクの細工だけで起こりえるのだろうか……?

 たびたび使用される赤い鎖や、デュエル中にデュエリストを閉じ込めるように出現するあの空間共々、普通のデュエルでは起こらないような不可思議な現象が発生している。

「これが、星の守護者(セイクリッド)同士のデュエルなのか……?」

 残念ながら彼の独り言に答えられる者はいなかった。

 

 

 セキュリティへの事情説明から解放される頃には日もすっかり暮れていた。

 サイコデュエリストが暴れたから拘束した、ということは現場の惨状から理解してくれたものの、ならばそのサイコデュエリストの相手をしていた黄昏にも何か隠し事があるのではと疑われてしまったのが運の尽きだった。

 そもそも、直前のデュエルの影響で一時的とはいえ夕焼けが真夜中になったのだ。

 その現象が起こったのがこのダイスシティ周辺だけであり運良く事故などは発生しなかったようだが、頭から血を流してる少年の説明だけを信じて納得してくれるほど楽観視できないことが起こったのは確かだろう。

 さらに不幸なことに、事情をある程度知ってる神崎が来てからも全然信用されなかったのもダメ押しだった。

「神崎、あんた信用ないんだな」

「ほっとけ。あと意識不明のサイコデュエリストを搬送する手続きとぶっ壊れたD・ホイールの後処理のせいで時間かかったのも忘れんなよ」

「全体の時間から考えれば誤差だ誤差」

 神崎と彼のサイドカーに乗った黄昏の2人は飽きもせず言い合いをしながら公道を疾走する。

 その行先は黄昏の自宅とは真逆。遊形が葵を搬送した病院へ向かう方角である。

「なあ、自分の怪我の治療ならまだしも、わざわざ見舞いにお前が行く必要あんのか? 怪我はしてるとはいえ命に別状はないって遊形が言ってたし、あいつの父親はすでに付きっきりで看病してんだろ?」

「……ただの自己満足」

「それを自虐じゃなくて自覚してやってるならお前は馬鹿だと忠告しといてやる」

「そりゃどうも」

 ここまでの道すがら絶えず交わした言い合いもこれにて終幕。病院の入り口で停車してもらい手持ちの荷物を下ろす。

 すでに面会時間は終了しているが、事前に神崎が話を通してくれていたらしく入ることはできるようだ。

「あんま自分を責めんなよ」

 去り際、神崎がそんな言葉を投げかけるが、黄昏は意図的にそれを無視して彼に背を向けた。

 神崎が去るのをD・ホイールの音で確認してから黄昏は病院の中へと入っていく。

 1階の受付フロアは非常灯のみが薄暗く発光しているのみだったが、階が変わればまだ通路の照明も点灯している。

 予め聞いていた葵の病室へ向かう途中、廊下に設置された休憩所を影から覗くように佇んでいる遊形の姿を見つけた。

「面会謝絶とかか?」

「あ、遊糸。そういうわけではないんだけどね……七波さんのお父さんからすれば当然の反応というべきかな……」

「それってどういう──」

「──だから、どうしてそんな大切なことを私に相談せずに……っ!!」

 遊形の説明は言葉を選びすぎて逆に要領を得なかったが、その絞り出すような悲痛の叫びでおおよそのことは察することができた。

 どうやら葵の父親である将生が誰かから事情を説明されているらしい。遊形はその会話に入るタイミングを見失って立ち往生していたのだろう。

 病室の外ということは相手は七波葵ではない誰かだとは思われるが……

「そこに隠れているお二方、そんな場所で立っていたら他の方の邪魔でございます。

 こちらに来たらどうですか?」

 どうやらこちらの存在には最初から気づいていたらしい。黄昏が来てからすぐというタイミングから、彼らが揃うまであえて呼ばなかった可能性すらあるだろう。

 言われた通り二人して曲がり角の影から出ると、予想通りそこにいたのは七波将生と、巫女装束の少女、巫梓だった。

 巫女だからどこでも巫女装束なのか、それとも単純に彼女の普段着が巫女装束なのかはわからないが、神社以外で見る巫女姿はかなり違和感があった。

「君たちは……」

 頭に血が昇っているのか顔を真っ赤にしていた将生だが、休憩所に招かれた黄昏たち……おそらく黄昏の痛々しい血の跡が残る姿を見て少しだけ血の気が引いたのだろう。

 大きく息を吐き多少なりとも冷静さを取り戻したようだった。

「将生様、今一度葵や他の方が巻き込まれている状況について説明いたします。

 どうかご傾聴いただけないでしょうか?」

「……詳しく聞かせていただきましょう」

 今にも感情が爆発しそうだろうに、拳を握りしめながら腰を下ろし、傾聴する姿勢を示す。

 それに対して深々と頭を下げながら感謝を述べた梓は姿勢をただし、葵たちの周りで起きている星の守護者(セイクリッド)の争いについて語り始めた。

 体感で30分ぐらいであろうか。梓が全てを説明し終えると将生は苦虫を嚙み潰したような表情で頭を抱えて動かなくなった。

 星の守護者(セイクリッド)やボレアスのことはすんなり受け入れたらしいのだが、実の娘がその一員であるうえにそのことを秘密にされていたという事実が予想以上にショックだったらしい。

「以前、葵の友人2人が大けがを負ったことがありました。あれもそのセイクリッドという存在の抗争によるものだったのですね」

「シャルロッテ様と刻魅様のことですね。葵からはそう聞いております」

「今後も葵や他のみなさんがこのように大けがを負う可能性は?」

「ない、とは断言できません。むしろ今後はさらに激しい抗争になると思われます」

「なら──」

星の守護者(セイクリッド)のデッキをプロデュエリストに託すという方法は悪手であると思われます」

 梓は将生の提案に対し、先んじて釘を刺す。ただ、より実力のあるデュエリストに託してボレアスを迎撃するというのは一見現実的にも思える。

「確かにセイクリッドの加護はデッキに宿るため、デッキの譲渡で加護も移すことが可能でしょう。

 ですが、そのような方法で得た加護は正規の星の守護者(セイクリッド)が受けるものと同等とは限りません。

 星の守護者(セイクリッド)の本来の役目は来るべきインヴェルズの侵攻を食い止めることであり、仲間割れを助長することではありません。

 デッキの譲渡によって本来の役目に対してどのような不具合が起こるのかが判明していない今、安易な譲渡は取り返しがつかないことになりかねません。

 加えて、ボレアスも謎多き集団でございます。今はピンポイントで星の守護者(セイクリッド)を狙っていますが、シャルロッテ様や刻魅様の例もあります。

 不用意に刺激して無関係な人々へ危害を加え始めてしまえば被害が拡大する可能性が高いでしょう。

 ……本当は黄昏、あなたにも関わってほしくはありませんが、すでにあなたや神崎さんはボレアスから目を付けられているご様子ですので仕方なく、ということはご理解ください」

 最後妙にこちらに飛び火してきたが、将生に対して暗に傍観していろと容赦なく告げる梓。しかし、その説明は筋が通っているので反論が難しい。

 自分が首を突っ込んで自分だけが不利益を被るのではなく、無関係な市民が巻き込まれる可能性を示唆されれば従うしかないだろう。

 結果、納得はできないが首を縦に振らざるを得ない現実を突きつけられるだけになってしまった。

「そして、このことを今の今まで父親である将生様に黙っていた葵の意志も尊重してくださいませ」

「……………………」

 ダメ押しとも取れる梓の言葉を受け、将生は手を組み俯いたまま沈黙する。1分にも満たない時間だったが、おそらく本人の中では気の遠くなるほどの葛藤があったことだろう。

「葵を、よろしくお願いします……」

「私の命に代えてでも」

 梓が即答で頷いたことで多少ばかり安心したようで、将生は大きく息を吐いて項垂れる。

 実の娘の生死を他人に預ける。その決心が付くまでこの短い時間にどれだけ苦悶したのだろうか。

「将生様にも葵にも、今は休息が必要でしょう。

 私は将生様を葵の病室までお連れしますので、黄昏と遊形さんは先に外でお待ちください」

「けど、またボレアスの襲撃が来ないとも限らないだろ?」

「対策はしてありますのでご心配なく」

 もはや決定事項といわんばかりに黄昏たちは病院の外まで追い出された。

 梓が将生との対応を終えるまでの間、月明かりに照らされる中二人は空を眺めて時間を潰す。黄昏はお互いの間に流れる重い空気を気にしてなかったが、遊形は耐えられなくなったようで徐に口を開いた。

「血は止まったって言ってたけど、どこか身体が痛むとかはないかな?」

「このぐらいなら慣れてる」

 短く返された言葉に肩をすくめる遊形。

「ということは痛むんだね。病院に運ぶ途中、七波さんが少しの間意識取り戻して聞いたけど、精霊のカードで軽減できない部分は遊糸が庇ってたんだってね」

「身体の頑丈さなら七波より俺のほうがあるからな。……それにあいつはアイドルデュエリストなんだし、傷跡一つ残るだけでも今後の活動に支障が出るだろ」

「……遊糸がそういうところ気にするなんて」

「しばくぞ」

 ドスの利いた声で被せ気味にツッコむ黄昏だが、このぐらいのやり取りでは遊形が怯むことはない。それがわかってるから、今度変なことを口走ったら実力行使で口を塞ぐと決めて臨戦態勢に入った。

 それでも困った風に笑うだけの遊形を見ると、おそらくこれも彼らにとっては日常茶飯事だったのだろう。

「けど遊糸、あまり七波さんを悲しませないようにね」

「だからなんでそこで七波を名指しなんだよ」

 デュエルに乱入して最速で終わらせようとした時にも遊形は同じようなことを言っていた。

 庇って怪我をしたのに関しては、庇われた側に負い目を感じさせないようにしろ、という意味があるだろうが、それでも普通は誰かを名指しにすることはない。

 首を傾げながら怪訝そうに遊形の方を見ると、困ったように笑う少年は言うべきかどうかを悩んだ様子で視線を巡らせた。

「だって、七波さんはきっと遊糸のことを……あそこまで気にかけてくれる人はそう簡単にはいないんだから大切にしないと」

「今、妙に言葉に詰まったな?

 ……ちょっと待て、まさか七波が俺に好意があるとか言うつもりか?」

 自惚れているとしか思えない発言のためさすがに黄昏も言うのに躊躇したのだが、視線をそらして沈黙する昔なじみの反応からして彼の予想は当たっていたらしい。

 とはいえ、彼女が他の不特定多数の人間に向けるものとは別の感情を向けているのは黄昏本人もなんとなく察していた。しかしそれが『好意』と表現されたことについては首を振って否定した。謙遜でもなんでもなく、確信していると言わんばかりに。

「それはねーよ。たしかに嫌われてはないのはわかってる。けど、好意を向けられてるわけじゃない。

 強いて言うなら、嫉妬? いや、そこまでマイナスなものではないな。闘争心ってほど激しいものでもないし……」

「……憧れ?」

「そうそれ。何でか分からないけど、あいつ俺に憧れの感情を向けてるんだよ」

 そこまで断言する人間も珍しいだろうが、黄昏がそういう部分を敏感に察知できることを遊形は知っている。まだ同じ孤児院にいた頃には彼の察知能力によって険悪な空気が回避できたことも度々あったからだ。

 なお、人との関わりを避けていた黄昏は遊形にのみその状況を伝えた上で仲介役を丸投げしていたため、周囲の人間は遊形の方がそういった能力があると周囲は誤解しているだろうが。

「てかそれを言うならリリアが遊形に向けてる感情こそ好意だろ」

「あ、あはは……まあ、あそこまで隠す気がないド直球なのも珍しいと思うけどね」

「俺のことを言う前に、遊形こそ適材適所を無視して一人で勝手に突っ走んなよ。『あの時』みたいなことならねーように」

「……うん。ごめん」

 上手く話を誤魔化したようにも思えるが、梓が二人と合流したことでこの会話は打ち切りとなった。

「迎えは今呼んでいますのでもうしばらくお待ち下さい。

 ただその前に黄昏、あなたの懐から何やら異様な気配を感じるのですが、何か心当たりはございませんか?」

「このカードのことか?」

 梓に言われて取り出したのは、葵のデッキから抜き出した例の2枚のカード。それを手渡され確認した梓は一瞬だけ表情を曇らせたものの、すぐにいつもの全てを見通しているかのような笑みを取り戻していた。

「《Ol(オーバーライン)-セイクリッド》、ですか。黄昏、遊形さん、明日の放課後に他の星の守護者(セイクリッド)の皆さんをこの病院へ集めていただけませんか?」

 彼女がこのカードから何を『視た』のかわからないが、星の守護者(セイクリッド)を集めるということはやはり危険なカードなのだろう。

「集めるのはいいけど、七波も大神のおっさんもまだ安静にしておかないとダメだろ? 別に神社でもいいんじゃ?」

「もう一人の星の守護者(セイクリッド)からの事情聴取も兼ねておりますので。黄昏もよく知る、貴方と死闘を繰り広げた星の守護者(セイクリッド)が」

「……まさか」

 しばし思考を巡らせ、導き出した答えに眉をひそめる姿を見た梓は、ただ無言で小さく微笑んだ。




改めてここまでの話を見返してみると、主人公よりヒロイン兼ライバルの七波の方が大怪我してるきがしますね
主人公が頑丈すぎるのもありますけど

まあ歴代の作品も主人公よりライバルや相棒的なキャラの方(主にジャック)がボロボロになるの多かった気もしますが
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