デュエルもないのに文字数が1万余裕でオーバーしたので2話に分割しました
翌日の放課後、事情を説明したリリアと早乙女は快く了承してくれ、自身のD・ホイールが壊れた黄昏を含めた3人は梓が用意してくれた送迎車で病院へと向かった。
病院の入り口で遊形と合流すると見計らったように梓がロビーから現れ、彼女たちに誘われるがまま院内を歩く。ただ、やはり院内で巫女服というのはかなり浮いている。……はずなのだが、本人が堂々としているからなのか不思議と違和感を感じなかった。
もしくは、その隣にいる人物が予想外過ぎて気にする余裕がなかったからか。
「神崎がいるのはわかるけど……大神、あんた昨日射手座のやつに酷くやられたって話じゃなかったか?」
「それについては本当にすまんかった。あそこまで大見得を切ったオレが最初にやられるとは不甲斐ないわい」
「負けたことじゃなくて今ここに普通に立ってることについて聞いたんだが? あいつのループバーンまともに受けたんだよな? それで次の日普通に立ってるとか、あんたホントに人間か?」
「黄昏、気持ちは大変良くわかりますがここで立ち話をするために集まってもらったわけではございませんよ?」
梓にたしなめられてそれ以上の追及が出来ない黄昏。せめてもの抵抗で、彼と比較的付き合いが長そうな神崎に視線を向けると、彼は彼で両手を軽く上げて肩をすくめるだけだった。
どうやらこの大男の頑丈さに関してはあまり突っ込んではいけないらしい。
「そう驚くこともであるまい。あくまで一般人の嬢ちゃんとセキュリティのオレじゃ鍛え方が違う。それに服の下は包帯ぐるぐる巻で絶対安静な有様よ」
「絶対安静の意味を辞書で調べてこい」
「この一仕事終えたらそうさせてもらおう」
豪快ながらも茶目っ気のある笑みを浮かべる大神を見て反論する気も失せた黄昏は黙って彼の後をついていく。
途中、メインになる病棟から廊下を渡り専用のICカードが必要となる扉を超えると、院内の雰囲気が僅かに変わるのを黄昏は感じた。アイドルデュエリストとして広く認知されている七波葵の入院ということで、一般の来訪者は来れない場所を用意してくれたのかもしれない。
「あ、あの、七波さんの容体は……」
ここなら一般人に聞かれることもないと判断したらしく、ここに来るまで終始そわそわしていた早乙女が気になっていたことを尋ねる。
命に別状はないことはすでに全員に共有されているが、彼女の性格上それでも直接聞かないと安心できなかったのだろう。口には出さなかったがリリアはもちろんその場の全員が同じ気持ちだったようで、先導する巫女装束の背中へと全員の視線が集中する。
「幸い傷跡は残らないそうです。順調に回復しておりますので、1週間もすれば問題なく退院できると伺っておりますのでご心配なく」
「そ、そうなんですね。大事にならなくてよかったです」
「ええ、本当に……本当に良かった」
その言葉に張り詰めつつあった空気が緩んだが、梓の言葉には何かただならぬものを感じた。それが何なのか考える前に、目の前を歩く少女が振り返った。
「葵が退院するまでの間は収録の打ち合わせでアカデミアを休んでいることになっておりますので、皆様口裏を合わせるようどうかお願いいたします。
……特にリリアさんは」
「なんで名指しなのー!?」
「この中で一番口軽そうなだからだろ」
「そんことないもんー! ねえ、ゆうくんもそう思うよねー!?」
「…………」
「何か言ってよー!!」
目じりに涙を浮かべ、一番の理解者からフォローを貰おうとするも見事に玉砕。さらに騒いだことを廊下ですれ違った看護師から注意されるという追い打ちのおまけつき。完全に不貞腐れたリリアは早乙女に慰めてもらいながらとぼとぼと廊下を進む。
ほどなくして梓が足を止めたのはとある病室の前。
てっきり葵の病室へ向かっているのだと思っていた黄昏たち一行だが、その病室の前には報道関係者から彼女を守るガードマンにしては少し装備が物騒すぎる男たちが扉の前で待機していた。
「大神さん、お疲れさまです! あと神崎も」
「俺はついでか」
「うむご苦労。いきなりで悪いが席を外してくれんか? 見張りはオレたちが引き継ごう」
「えっと、丁度交代の時間なので我々は構いませんが……」
「すまんな。次の担当には1時間後に来るように伝えてくれ」
神崎に対する態度はかなり雑だが大神へ対応からして彼はかなり信頼されているのだろう。男たちはあまり深くは追求せず大神の提案を了承する。人払いであることは間違いないのだが、アイドルとはいえ1人の少女への見舞いにここまでするだろうか?
そこで思い出したのが昨日の梓の言葉。
黄昏が死闘を繰り広げた
「そんじゃ俺と大神のおっさんが見張ってってから気兼ねなく喋ってこい」
その結論が出る前に、神崎によって病室の戸が開かれた。
中の風景から真っ先に連想したのは牢獄。明かりこそ一般の病室同様に灯っているが、窓があるはずの箇所は鉄扉で厳重に施錠され、外の風景は一切確認することができない。
そして何より、ベッドの四方の足に手錠で四肢を繋がれた患者という状況が普通の病室とは一線を画していた。
「──あら、何日ぶりかしらね?」
「エヴァ……」
サイコデュエリストで構成されたボレアスのメンバーでありながらサイコデュエリストではない、蟹座の
黄昏が辛くも勝利を収めることができた相手が、ベッドの上で拘束されたまま妖艶な笑みを浮かべていた。
★
見張りを請け負った大神と神崎を残して中へ入ると、病室の戸が閉められて廊下側からガシャンッという重い施錠音が響いた。
万が一拘束が解けた場合に備え、梓、リリア、早乙女の3人には少しベッドから離れた場所を位置取ってもらい、黄昏たち5人は褐色の少女が拘束されたベッドを囲むように腰を下ろす。
その状況でまず第一声を発したのはエヴァの方だった。
「
「貴女の知っている情報をすべて聞き出そうと思いまして」
「喋ると思ってる?」
「言葉にする必要はないでございますよ。質問に対する貴女の反応を『視』ればおおよそのことはわかりますから」
「……趣味悪いわね」
「心からの言葉ありがとうございます」
早速ピリピリとした空気が流れ、こういう場に慣れていないリリアと早乙女は視線を泳がせてどこか落ち着かない様子。
「巫、空気がピリついてきてるぞ」
「これは失礼いたしました。では尋問もとい質問を始めましょうか」
黄昏に戒められて形だけの謝罪こそすれ、あまり反省した様子のない梓は一度椅子へ座り、改めてエヴァと向き合った。
「まず最初に、ボレアスついて貴女の知っていることを話していただけませんか?」
初っ端から確信に迫るような質問が交わされ、エヴァは気だるげに首を傾げる。
「ボレアスについて、ねぇ。それ、射手座の
「噂話がお好きなのでございますね。確かにこの病院にはいますが、残念ながら現在意識不明のため面会出来る状態ではありません。もし意識が戻ったとしても面会できる人間は限られていますが。
なので、ないよりはマシ程度にあなたに尋ねているのでございますよ? たとえば、他の
「……なるほどね。けれどお生憎様。そういった情報は何も聞いてないのよね」
一見仲間の情報を売る気がないだけのようにも見えるが、梓はその態度を見て予想通りという様子でため息を吐いた。
「あら、その様子だとあたしがこう返答するのはわかってた感じかしら? まあでしょうね。さっきの口ぶりからして判断できるのは虚言か本音かの二択でしょうし?」
「おおよそは。ただ、貴女はサイコデュエリストではないようでございましたから」
言いながら少女はどこからともなくバインダーを取り出し、そこへ綴じられた資料をめくり始める。
「それ、あたしの個人情報?」
「今回の質問の際に利用できるものがあるかと思いお借りしました。
ただ、あまり有益な情報はありませんでしたね。エヴァ・テイム、23歳。……なるほど、あの地域の生まれでございますか」
「え?」
ベッドに拘束された彼女のプロフィールを読み上げていく最中、間の抜けた声を出したのは病室に入ってからは一言も発していなかったリリア。ただ、おそらく声を出さなかっただけで驚いたのは彼女だけではないかもしれない。
「と、年上……?」
「なに、そんなにあたしって童顔?」
呟きながら首をかしげる少女、もとい女性の反応にその場のほぼ全員が絶句した。そして当の本人は無意識に顔を触ろうとしているのか、ベッドと繋がる鎖をジャラジャラと鳴らしている。
確かに醸し出す雰囲気からは年上のようなものを感じてはいたが、150cmに満たない身長のうえにやや童顔な彼女がまさか年上はおろか成人済みとは思ってもみなかったのだろう。
張り詰めた空気が緩んだといえば聞こえは良いが、なんとも表現しづらい空気になったという方が正しい。梓の咳払いで無理やり空気を切り替えなければ、一体どうなっていたかわからなかった。
「貴女が蟹座の
ですので何か秘密があると思っていたのですが、どうやら買いかぶり過ぎていたようでございますね」
「わざとだってわかっていても癪に障る言い方ね。別にいいけれど。
あたしがあいつから聞かされた情報といえば……セイクリッドをすべて『赤い鎖』の繋がったデュエルで倒してその力を奪い、世界を滅亡させるって大まかな流れぐらいね。
それぐらいはそっちでも掴んでるのでしょう?」
世界を滅亡というのはヴェルズの侵攻を手引きすることなのだろうというのが梓の予想だ。ただ彼女の口にした『赤い鎖』という単語には一度も触れていない。
黄昏は梓の方を向くも、彼女も静かに首を横に振るのみ。
「その『赤い鎖』というものの正体を説明していただいても?」
「てっきりもう知ってるものだと思ったのだけれど? あたしのデュエルディスクはもう調べたのでしょう?」
「ええ、こちらに」
言いながら梓が取り出したのはエヴァが使用していたデュエルディスク。ただし万が一に備えてか彼女のデッキは装填されていない。
そのままデュエルディスクを操作していると、メインデッキとエクストラデッキ、そして墓地のどこでもない部分が展開された。
「このように、デュエルモンスターズのカードを1枚、デッキやエクストラデッキとは別に格納できる箇所がありましたが、それが関係しているのでしょうか?」
「カードは入っていなかったのかしら?」
「ええ、私も分析に立ち会いましたがすでに何も入っていませんでした」
あらそう、と意外そうに目を丸くしたエヴァ。しばらく明後日の方向に視線を向け、再び視線を戻すと再び妖艶な笑みを浮かべて口を開く。
「すでに予想はついているようだし、答え合わせぐらいはしてあげる。
ボレアスの中でも
「それが、俺たちとデュエルする時にあんたらが使ったあの赤い鎖か?」
「そういうこと。あたしは細工済みのを渡されて使い方を教わっただけだから、どんなカードなのかは知らないけれどね。
あたしが教えてもらった機能は3つ。
1つ目は、あの鎖は触れられず、繋がれると強制的にデュエルが始まり、サレンダーができないこと。
2つ目は、そのデュエルは中と外どちらからも干渉できない結界が張られること。どんな結界が張られるかは人それぞれみたいだけれど。
……ってそういえば、君あの鎖に触れられるし結界の中に入ってこれたわよね? あたしが聞いてた情報って嘘だったのかしら?」
ジトーっと訝しげに黄昏を覗き込むエヴァ。黄昏も黄昏で「こっちが聞きたい」と言わんばかりに肩をすくめるだけだ。
「彼も色々と規格外な存在ですので、その機能が通用するとは限らない、ということでしょう」
「まあそんな感じはしたけれど……まあいいわ。
そして最後に3つ目、鎖で繋がれたデュエルで負けた
「吸収? デュエルで勝てば相手の戦力を削げるとは射手座の
「そうなんじゃない? 射手座の子とは面識ないからどういうニュアンスでそれを言ったのかまでは保証できないけれど。
それぞれのデッキの象徴になっているカードが変質する、ってあたしは聞かされたわね。実際にどうなるかを見てないからなんとも言えないけれど」
記念すべき一回目を君に邪魔されたからね、と付け足したエヴァ。その際に両手を無意識に上げてようとしたのか、ベッドと両腕を繋ぐ鎖が再度ジャラジャラと軋む。
梓の様子を見るに、ここまでエヴァは嘘を言ってはないらしい。
エヴァの説明から連想するのは、昨日の梓に渡した《Ol-セイクリッド》という名を宿したカードたち。
そのうち《Ol-セイクリッド・ネメレオ》は大神の《ナチュル・エクストリオ》に似た雰囲気を……獅子座のセイクリッドの加護を受けているように黄昏は感じていた。
もしエヴァの言うことが正しいのであればあれは正真正銘《ナチュル・エクストリオ》だったカードが変質したものであり、《パピルサグ》は《ジャンク・アーチャー》が変質したものだ。
そして、『吸収』という単語から連想するに、一人の人間にセイクリッドの加護が集約されることもあり得る。
それをジンが目論んでいると仮定すると……
「これ、すでにジンの目論見通りに進んでないか?」
勝っても負けても
仮に、変質したカードを所有することで欠けた分を掛け持ちできるのだとしても、それが正常な状態を言えるとは思えない。
「一層護衛を強化したほうがよさそうだね」
遊形の言葉に梓や黄昏も頷く。今後セキュリティのサポートをどこまで受けられるか定かではないが、状況がこれ以上悪化しないよう対策を立てざるを得ない。
敵の情報を得て有利に動くつもりが、残念ながら有効な手立ては浮かばず、荒事に縁のないリリアや早乙女には不安を与えるだけとなってしまった。
「あ、あの……」
ここまで沈黙を貫いていた早乙女が恐る恐ると言った様子で挙手し、一言一言確かめるようにして質問を投げかける。
「ボレアスに協力するということは、あなたも同じ様に世界の滅亡を望んでいるんですか?」
小動物のようにおどおどし、質問相手と目を合わせられない少女。そんな少女の質問を受けたエヴァは、興味なさそうに全身を脱力させながら答えた。
「別に? あたしはもうこの世界に思い入れなんてないから、世界が滅亡しようがどうなろうが興味はないわ」
「では、なぜ貴女はボレアスに協力を?」
「それに関してはこの場では言えないわね」
「……ご自分の立場を理解していますでしょうか?」
「あたし情報を読んだならわかると思うけれど?
ボレアスに協力してる経緯を話すなら、あたしの身の上話も最低限必要になってくるわ。あたしの幼少期、ちょっとそこの女の子二人には刺激が強いと思わない?」
「……ではどうしろと?」
「そうねぇ、遊糸だったかしら? そこの子だけがこの場に残るのであれば問われた質問にすべて正直に答えると誓ってもいいわ」
仰向けのままこちらに意味深な笑みを浮かべる妖艶な少女に対し、その笑みを向けられた本人は苦虫を嚙み潰したように表情を歪めた。
その表情が逆にお気に召したのか、エヴァはより艶めかしく笑う。
「どうかしら? 今の私の発言に嘘偽りがないのはわかるのでしょう?
それにこの子なら私の言葉に惑わされることなく、ただ淡々と必要なことを引き出せると思うわよ?」
「…………」
全く表情を変えず至って平然を装っている梓だが、おそらく今にも怒り狂いそうであるに違いない。
今にも目の前の無抵抗な病人に手を出すのではと身構える黄昏をよそに梓は数秒間沈黙を貫き、やがてため息をつきながら病室に備えられたメモ帳に何かを記し始めた。
「では黄昏、申し訳ありませんがこちらに記した項目についての返答をメモしていただけますか?」
「あいよ」
そう言い残すと梓は病室の戸を数回ノックして廊下で待機している大神に合図を送る。ほどなくして開かれた戸から黄昏を除く全員を退室させると、彼女だけが思い出したようにこちらへ踵を返し、黄昏に耳打ちをする。
「……あんた、マジか」
「どうするかは貴方におまかせします。我々は病室の外で待機していますので、ごゆっくり」
最後に退室した梓が一礼し、戸を閉めた。
「何か伝言かしら?」
「その鎖、壁についた操作盤にコマンド打ったら電流が走るんだと。そのコマンドを教えられた」
「……あの子相手を煽る割に煽り耐性なさすぎじゃないかしら?」
「自分で実行しなかっただけ分別はついてると思いたいな」
「君にコマンド教えたら意味ないでしょう、それ」
すでに病室を後にした巫女の一連の動作は苛立ちを感じさせない自然なものだったが、どうやらかなりご立腹のようだ。
だが彼女が激怒しているという事実より、それほどまでの感情を完全にコントロールしているという底の見えなさに、鎖に繋がれた女性は小さく身震いしていた。
エヴァの性格、これを投稿し始めた頃から自分の性癖に変化があって当初と若干変わってきた気がしますね
どっちも好きですが書きやすさだと今のほうが楽ですw
次の更新は4月中を目指して調整中です