遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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久々のデュエル回です

途中に出てくるとあるデッキ名の由来をこの作品独自のものに改変しています


正確無比な人工天使

 葵と射手座の星の守護者(セイクリッド)のデュエルから約2週間、それまでのボレアスの動きがウソだったかのように何事もない日常を黄昏たちは過ごしていた。

 想像の域を出ないが、おそらく要因は2つ。まずあちら側の星の守護者(セイクリッド)の一人が葵に敗れたこと。そして、葵が怪我をして入院しているという情報がどこからかマスコミに漏れたことだろう。

 巫の根回しによってあくまで噂話程度に抑え込まれているが、それでも微かな可能性に賭けて主要な病院や関係各所にマスコミが張り込みを始めてしまっているのだ。

 そのせいで葵の傷はある程度回復しているものの、退院及びメディアに再び顔を出すタイイングを見計らう羽目になり、当初の予定より1週間も不自由な生活を強いられていた。

 これだけを見れば最悪の一言に尽きるが、ボレアスという組織がメディアを利用したテロリストではなく、むしろそれらを避けるような行動をしているのが幸いしたらしい。

 そのため良くも悪くもマスコミという目がボレアスの監視を担っている状況となっており、あちらも不用意に動けないのではないか、というのが巫の見解だった。

 また天宮とのデュエルで負傷者や建物への被害が発生したことで、星の守護者(セイクリッド)という非現実的な存在ではなく、『ボレアスというデュエルギャングから対象者を保護する』という名目でセキュリティの増員が受諾されたらしいとも語っていた。

 さすがに毎日付きっきりということは無理だろうが、それでも通学路の警備が強化されることは間違いないだろう。

 人間万事塞翁が馬。動きがあるごとに負傷者が出ているし楽観視はできないが、それでもつかの間の平穏が戻ったことには間違いなかった。

 そんな平和なアカデミアの一日も終わり、今は生徒が各々に行動し始めた放課後。まだ夕暮れには早いがガランとしていりる教室に男女が2人きりで膝を突き合わせていた。

「ねえ遊糸ー、アタシたちこのまま何もしなくてもいいのかなー?」

 聞いてるこちらまで気が抜けるような間延びした口調で話す金髪の少女は、向かいに座る少年に向かって言葉を投げかけた。

 対して少年は生返事だけを返してデュエルパッドの操作を続けている。

 尋ねた側も目の前に広がるカードの束をあさりながらとはいえ、まともに返事がないのはそれはそれで不満だったらしく口をとがらせてた。

 しばらくはその無言の圧力にも無視を決め込んでいたが埒が明かないと悟った黄昏は、わざとらしくため息を付くオプション付きでリリアの質問に自論を述べる。

「嵐の前の静けさなのは確かだろうな。

 とはいってもボレアスのアジトはわかんないままだし、向こうから仕掛けてこない限り出来ることなんて限られてる。気晴らしができるタイミングがあるならやっておかないとこっちの気力がもたねぇよ。

 ……それが補修の対策会だとしてもな」

「あうー、ごめんってばー」

 仕返しとばかりに付け加えられた少年の小言に今度は少女のほうがため息をこぼす。仮進級中のリリアは定期的な補修が行われているわけだが、ようやく一般科目の単位は基準値に達したらしい。残るは実技、つまりデュエルで一定の成績を修めれれば正式な進級になるわけだ。

 デュエルの成績はなにも勝敗だけがすべてではない。もちろん勝てば一定の成績は保証されるわけだが、仮に負けたとしてもデッキ構築及び戦術によっては加点が行われる。よほどの手札事故が起こらなければここで単位を落とすことはない。

 ここまでが一般的な認識だが、残念ながら彼女のデッキは装備魔法が主軸であれこそすれ、その要は彼女の『カードの精霊に好かれる』体質だ。

 故に一般的なデッキ構築は参考にならず、はたから見れば無茶苦茶な構築にならざるを得ない。そのせいで試験という形式では加点があまり望めなかった。だから彼女の不安を払拭するためにデッキの調整ならいくらでも付き合う予定の黄昏なのだが……

「毎回思うんだけど、こんな神経衰弱みたいなやり方でデッキ作っていいのー?」

 リリアの視線の先にあるのは、机の上に裏側で並べられたカード群。それらは黄昏と葵のも合わせたカードプールの中からリリアが直感で選んだカードをシャッフルしたものがセットされている。このセットされたカードからリリアがランダムに選んだカードをデッキに加えるというのが、黄昏が提案したリリア用のデッキ構築方法だった。

 なお彼らとともにデッキ調整を手伝っている葵はテストデュエルとその評価だけしかしないよう黄昏から指示されており、こんな摩訶不思議な構築方法で組まれていることは知らない。理由は彼女の助言によってリリアとデッキの相性の純度が下がる可能性を下げるためだ。

 授業で習う構築方法からかけ離れている自覚があるリリアが不安そうにするのは仕方ないだろう。

「けど実際上手く回ってるだろ?」

「だから余計に不安なんだよー。どこかで突然回らなくなっても原因分からないし、試験だと先生は外道ビート使うからさー」

「……外道ビート?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げるも、言ったリリアも黄昏の反応にキョトンとした様子。話の流れからして教師が使う試験用デッキのことを指しているのはわかるが、どうしてそんな呼び名がついたのか……

「あーいや、なんとなくわかった。

 《ライオウ》のサーチ封じと特殊召喚メタ、《霊滅術師カイクウ》の墓地除外メタ、それ以外も確実な1対1交換の効果を積んだメタビートで容赦ないからそんな名称が付いたのか」

 挙げた2体は効果もさることながら攻撃力もアタッカークラスの数値を持っている。刺さるデッキ相手ならとことん刺さるモンスターだ。

 構成としてはむしろ王道なものになるが、その堅実さで容赦なく詰めてくるため『外道』という名前が一部生徒の間で付けられたのだろう。

 とはいえ、そのような構築のデッキを試験官が用いるのは『様々な状況に対処する癖をつけさせる』という目的のためだ。

 単体で強いカードが多いものの、逆に言えば40枚近いカードがそれぞれ単体でしか機能しないということ。メタに特化しているわけでもなければビートダウンに特化しているわけでもない。それに教師のプレイングも一定ラインでセーブされているはずだ。

 だから要点を抑えて対策さえすればそこまで怖がるものではない。……まあ、どれだけ対策しても詰まるときは詰まるし、リリアのようにデッキの中に1枚しかない突破口をここぞという時に引いたりと、理屈で語れない部分があるからデュエルモンスターズは奥が深いのだが。

 ともあれ、こうなったらリリアの気が済むまで実践をするしかないか、とため息をこぼした黄昏は重い腰を上げる。

「デュエル場にいくのー?」

「テーブルデュエルでもいいけど、試験対策ならソリッドビジョンありのほうが雰囲気出るだろ?」

「それは、そうだけどー……」

 リリアが不安そうな顔をするが無理もない。空き時間があればデュエル場へ赴く生徒たちだらけなのだから、当然放課後になればいつも順番待ちの長蛇の列ができている。

 だから人混みが苦手だと口外している黄昏に合わせて3人は普段使われていない教室に集まっている。そんな黄昏が今日に限ってデュエル場へ行くことを提案したとなれば困惑しても仕方ないだろう。

 ただしその理由を答えずに歩き出したため、リリアもその後をついていく他なかった。

 普通の学校であれば校舎と体育館が渡り廊下で繋がっていることが多いが、さすがはデュエルアカデミアというべきか、渡り廊下の先にあるのは体育館ではなくデュエル場。さらに規模も本校舎と同じかそれ以上だ。

 間取りは特殊で、小規模のフィールドが敷き詰められているフロアもあれば、実際にプロが利用するような広大なフロアなど多岐にわたる。

 それぞれのフロアによって使われているソリッドビジョンの質が違うので、当然現れるモンスターのリアリティや迫力にも差が出てくる。

 プロ仕様のフィールドはいつも人気で、誰が使うかを決めるためのデュエルが先に行われるのがもはや恒例行事となっていた。

 今日も今日とてプロ仕様のフィールドは残った生徒に使われているが、いつもに比べればかなり少ない。小規模のスペースに至っては全く人の気配がなかった。

「今日は新しいパックの発売日だろ? しばらくすればデッキ調整がてら戻ってくる生徒もいるだろうけど、まだしばらくは小規模のデュエルスペースは貸切状態だろうよ」

「おおー! 遊糸さすがー!」

 そういうところもアカデミアではわりといつもの光景だった。ちなみに黄昏は事前に内容を確認しているが、今回は見送ることに決めている。リリアも発売日を忘れてたぐらいだから食指が動くカードはなかったのだろう。

 これでリリアが納得する程度のデュエル回数は確保できるはずだ。注目を浴びたくない黄昏は極力人気の少ない場所を求めて奥の方の空間へと足を運ぶと、意外にもそこには見知った後ろ姿があった。

「あ、早乙女さん」

「え、うーちゃん!?」

 この時間帯に誰かが来るとは思わなかったのか、小規模といってもテニスコートほどのフィールドが10近く敷き詰められた空間で一人佇む少女がビクリと跳ねた。オドオドとした小動物のような印象の黒髪少女は小さな身体を更に縮こませてこちらへ振り返る。

「た、黄昏さんとリリアさんですか……」

 見知った相手とわかったからか、早乙女はズレた眼鏡を直しつつもどこかホッとした様子で息を吐いている。

 その左腕にはデュエルディスクが装着されており、数枚のカードがセットされている。ならば対戦相手がいるのかと辺りを見回すもそれらしき人影はない。となれば……

「NPCとの模擬デュエル? もしかして早乙女さんもデッキ調整中ですか?」

「え、うーちゃんも補習ー!?」

「なわけあるか」

 早乙女が反応する前に思わず黄昏のほうがつっこむ。流石にリリアもそれはないとわかっていたらしく、舌を出しながら小さく笑っていた。

「えっと、はい。少し内容を変えたので。……あ、『も』ってことは2人もですか?」

「リリアが、ですね。進級試験に向けて最終調整中なんです」

「進級……あ、なるほど」

 あまり触れないほうがいいと察したのかそれ以上は踏み込まなかったようだが、当の本人は試験に不安は抱いているものの、仮進級中であることそのものは全く気にしていない。それがリリアらしいといえばリリアらしいのだが……

 そんな能天気な少女は早乙女の気遣いに気づきもせず、目線をそらしている彼女の顔をマジマジと観察していた。遅れてそれに気づいた早乙女が困惑した様子で身構えてしまう。

「ど、どうかしました?」

「うーちゃんのデッキってどんなのかなーって」

 突拍子もないことを言い出したリリアだが、実際黄昏たちは彼女のデュエルを一度も見たことがない。学年が違うということもあるだろうが、ルール改定のときに他学年と合同で講義を開いたこともあるように、ここダイス校では定期的に他学年合同のデュエル実習が開かれている。にもかかわらず彼女のデュエルは一度も見たことがなかったのだ。

「もしかして、誰かとデュエルするのが苦手だったりします?」

「それは、えっと……」

 言葉に詰まった彼女の視線が泳ぐ。どうやら図星のようだ。

(少なくとも知識は俺よりあるし、リリアみたいなレベルで下手だから、なんてことはないだろうけど……)

「……遊糸、なんか失礼なこと考えてないー?」

「なんのことやら」

「むー!!」

 リリアの必死の抗議も虚しく、その寝癖ヘアーな頭は黄昏によって押さえ込こまれる。

「もしよければリリアのテストデュエルだけ相手してやってもらえませんか?

 俺や七波はさんざん付き合ってるので、できれば他の人とデュエルしてもらいたくて」

 などとそれっぽいことを口にするが、本音は黄昏も早乙女のデッキ内容が気になっているという方が強い。

「え、うーちゃんとデュエルできるのー!?」

「あの、えっと……」

 (黄昏の計画通りに)リリアが天真爛漫な笑顔を浮かべると、早乙女はさらに言いよどむ。押しに弱い早乙女のことだ、もう首を縦に振る以外の選択肢は彼女の中から消えてしまったことだろう。そんな人の心が微塵もない黄昏の計画通りに事が運ぶかと思ったが……

「じゃ、じゃあ、黄昏さんとなら……」

「俺と?」

「ほ、ほら、私とリリアさんって星の守護者(セイクリッド)ですよね? 星の守護者(セイクリッド)同士のデュエルは危険かもしれないって以前病室で話した際に言ってましたし、無闇にデュエルしない方がいいと思うんです」

「む……」

 思わぬ返しに今度は黄昏が言葉に詰まる。別に自分がデュエルしても彼女のデッキはわかるのだから問題ない。ただ、予想以上にごもっともな返しをされたことが、まるで彼女に言い負かされたようで若干悔しさが残ったのだ。

 だとしてもそんな理由でデュエルを断るなど論外。早乙女の提案を黄昏が了承すると、口を尖らせるリリアをなだめながら二人は離れたところで向かい合う。

「俺が無理やり頼んだデュエルですし、先攻後攻は決めてもらっていいですよ」

「じゃあ、後攻で……」

 デッキのオートシャッフルも終わり、先行後攻も決定した。リリアも不貞腐れながらだが大人しく観戦スペースまで離れてくれた。そうして準備が整った2人は息を合わせて宣言する。

 

「「デュエル」」

 

【黄昏】

 

 お互いにカードを5枚ドローし、先攻の黄昏はその5枚からどう動くか戦術を練る。

「とはいっても、俺の戦術は早乙女先輩にはバレてるんだよな」

 手札には戦闘破壊耐性を持つ《スクラップ・ゴブリン》と、セット状態で破壊されることで効果を発動できる《荒野の大竜巻》。あとは《スクラップ・エリア》、《ステルス・リバイバル》、《バックドア》だ。

 お互い初対面で初デュエルという状況であれば、様子見で《スクラップ・ゴブリン》と《荒野の大竜巻》をセットして相手の反応をうかがうところだが、残念ながら今回は早乙女が一方的に黄昏の戦術を知っている状態。

 後攻を選ぶということはビートダウン系の可能性が高いが、黄昏のデッキでセットが効果的に働くするモンスターが高確率で《スクラップ・ゴブリン》であることも知られている。

 おそらく彼女の性格上、セットカードも不用意に破壊してくることはないだろう。

「なら逆に伏せカードを増やす。俺はモンスターをセットし、カードを3枚セットしてターンエンドです」

「相変わらずのセットカードの数ですね」

 

【黄昏】

1/4000

--▲--

-■■■-

【早乙女】

5/4000

-----

-----

 

 自分のターンが回って来たのを確認した早乙女は一呼吸を置き……纏う空気が一変した。

「私のターンドロー」

 

【早乙女】

手札:5→6

 

「モンスターをセットしてターンエンド」

「……ん?」

「えぇっ!?」

 

【黄昏】

1/4000

--▲--

-■■■-

【早乙女】

5/4000

--▲--

-----

 

 自分のデュエルディスクが点滅してターンが回ってきたことを知らせているが、黄昏と観戦スペースにいたリリアはあまりにあっさりした行動に唖然とする。

 別にそういう戦略ということもあるし、黄昏が守りに徹しているから攻める準備を念入りにする方向に移ったのかもしれない。

 ただし、テキパキと、抑揚のない声で、作業のようにカードを切り効果処理を行っていくその姿は普段のオドオドとした早乙女とは正反対。ドロー前の一呼吸でここまでスイッチが切り替わったことに黄昏は驚いたというより興味深いと言った様子で観察していたため、その判断になるまで時間がかかった。

「考えてても拉致があかないか。俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札:1→2

 

 手札に加わったのは《強欲な瓶》。残る手札の《スクラップ・エリア》含め、今この状況で攻めに転じれるようなものではない。

「……カードを1枚セットしてターンエンド」

「遊糸もそれだけー?」

「うっさい。動かないのだって戦術なんだからリリアもちゃんと見て勉強しろ」

「むー!!」

 動きのないデュエルに退屈してきたのかリリアが不満そうにブーイングするが黄昏は黄昏で適当に流す。実際手札が悪いと言っても悪すぎるというわけではない。ただし相手が動いてこそ動き始める手札だったため、早乙女が動かない限りは膠着状態になってしまうのだ。

 

【黄昏】

1/4000

--▲--

■■■■-

【早乙女】

5/4000

--▲--

-----

 

「私のターンドロー」

 

【早乙女】

手札:5→6

 

 変わらず淡々とカードを引き、そのうちの1枚へ手をのばす。

「私は手札から《ヴァイロン・キューブ》を通常召喚し、《シャインエンジェル》を反転召喚」

 

《ヴァイロン・キューブ》

☆3・光属性・機械族

ATK:800

《シャインエンジェル》

☆4・光属性・天使族

セット→ATK:1400

 

 今度はセットだけで終わることはなくフィールドの状況が変わっていく。

 ……ただ、そのことにいつも以上に関心していたせいで、フィールドにキューブ状の機械モンスターが召喚された意味を考えるのが遅れてしまう。

「早乙女さんのデッキは《ヴァイロン》か。

 ……ん? 《ヴァイロン》でレベル7のシンクロってたしか……あれ、これやばくね?」

『あ、アニキ、なんか嫌な予感が……』

 表情を引きつらせる黄昏の背後に半透明で現れたのは彼の精霊カード。現在フィールドにセットされている《スクラップ・ゴブリン》も何かを感じ取ったらしく、その身体をビクビクと震わせながら主の背中に隠れてフィールドを見守っている。

 そして残念ながら、彼らの不安は現実のものとなる。

「レベル3の《ヴァイロン・キューブ》でレベル4の《シャインエンジェル》をチューニング。シンクロ召喚、影に潜みし監視者《ヴァイロン・シグマ》」

 

《ヴァイロン・キューブ》、《シャインエンジェル》

フィールド→墓地

《ヴァイロン・シグマ》

☆7・光属性・天使族

ATK:1800

 

 顕現したのは神々しくも空虚な人工物。されどこちらを見下ろすように浮遊するその姿はまるで本物の天使のようで、意志のない機械であるはずの瞳からは相手を見定めるような圧を感じる。

 だがその瞳に捉えられた1人と1体はそれどころではなかった。

『ア、アニキこれヤバいっすよー!!』

「あー、うん。もうこうなったらあの手札に装備カードが充実してないことを信じるしかないな」

 目の前のモンスターの効果をよく知る彼らはこの後どのような未来が待ち構えているのか容易に想像できた。だというのに手札にはその未来を防ぐ手立てがなく、己の運のなさに天を仰ぎ祈ることしかできない。

 だが、天を仰げばそこにいるのは早乙女が呼び出したモンスターであり、そのモンスターのシンクロ素材となったのは《ヴァイロン・キューブ》である。

「《ヴァイロン・キューブ》がシンクロ素材として墓地へ送られたことで、私はデッキから装備魔法《メテオ・ストライク》をサーチ。

 そして《ヴァイロン・シグマ》へ装備」

「……まあこういう流れになるよな、そりゃ」

『できれば《ビックバン・シュート》の方がよかったッスー!!』

 装備されたのはステータスを増減させるものではない。だが今の黄昏たちにはこれ以上にないほど効果的な『貫通効果』を付与する装備魔法である。

 《スクラップ・ゴブリン》の悲痛の叫びが空しく消えていく中、死の宣告にも等しい早乙女のバトルフェイズへ移行する。

「私は《ヴァイロン・シグマ》でセットモンスターを攻撃。

 その攻撃宣言時に《ヴァイロン・シグマ》の効果を発動。デッキから装備魔法の《閃光の双剣-トライス》を装備。

 効果により《ヴァイロン・シグマ》の攻撃力は500ポイントダウン」

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1800→1300

 

 攻撃宣言と共に虚空から双剣を取り出した《ヴァイロン・シグマ》はその攻撃力を低下させるが、それでもセットモンスターである《スクラップ・ゴブリン》の守備力は余裕で上回る。そして《閃光の双剣-トライス》によって装備モンスターは2回攻撃が可能となる。

「泣きたくなるほど基本に忠実な選択だ……」

「セットモンスターは……やっぱり《スクラップ・ゴブリン》ですね。ならば貫通ダメージは受けてもらいます」

 

【黄昏】

ライフ:4000→3200

 

 《ヴァイロン・シグマ》の放つ光弾に耐える《スクラップ・ゴブリン》だったが、《メテオ・ストライク》による貫通効果は適応される。よってその小さな身体では防ぎきれなかったダメージが主のライフを削る。

「っと、序盤から結構削られたな」

「続けて《ヴァイロン・シグマ》で《スクラップ・ゴブリン》を攻撃。この瞬間デッキから《ラプテノスの超魔剣》を──」

「流石に二回目はお断りいただきたいのでリバースカード発動《荒野の大竜巻》!

 表側表示の《閃光の双剣-トライス》を破壊!」

 半ばやけくそで発動した罠カードで《閃光の双剣-トライス》を破壊する黄昏。

 しかしながら、相手の戦術を崩せたというのに黄昏の表情は暗く、早乙女の表情にも変化はない。

「これで二回攻撃されて致命傷になるのは避けられる。けど……」

「はい、攻撃力は元に戻りますし、すでに《ヴァイロン・シグマ》の攻撃宣言は終わっています。

 改めて私はデッキの《ラプテノスの超魔剣》を《ヴァイロン・シグマ》へ装備」

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1300→1800

 

「遊糸、どうしてそのタイミングで《トライス》を破壊したのー?」

「……まー、言ってみれば何を優先するかの問題だな。

 《トライス》装備直後だと攻撃力が戻るからダメージが増えるし、ダメージを抑えてから破壊するとなるとこのタイミングしかない。

 正直、俺自身どっちが正解かわかってないけど、今回はダメージを少しでも受けないほうがいいと思ってこのタイミングを選んだってわけ」

 もちろん装備魔法を増やされるのも危険だしな、と付け足しつつ黄昏は早乙女の方へ向き直る。

「メインフェイズ2、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

【黄昏】

1/3200

--△--

■■---

【早乙女】

4/4000

--○--

-■□□-

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札:1→2

 

 新たに加わったカードを見た黄昏は数秒間だけ黙り込み、そして伏せたカードへ手をのばす。

「俺はリバースカード発動《強欲な瓶》。その効果でカードを1枚ドロー!」

 

【黄昏】

手札:2→3

 

「ドローしたのは《ロータリー・ブースト》。罠カードの効果でドローされたこのカードは手札もう1枚と墓地へ送ることでカードを2枚ドローできる。

 俺は《スクラップ・エリア》と一緒に捨てて2枚ドロー」

 純粋火力が低めな黄昏のデッキの場合、《ヴァイロン・シグマ》はそれ単体で黄昏のライフを削りきってしまうほどの脅威を持っている。ドロー運に恵まれないながらもどうにかデッキを回し、天井付近で浮遊する人工天使を引きずり下ろす手段を手繰り寄せていく。

 

【黄昏】

手札:3→1→3

 

「そして俺は手札から《スクラップ・スコール》を発動。

 デッキから《スクラップ・キマイラ》を墓地へ送ってから1枚ドロー。その後《スクラップ・ゴブリン》を破壊!

 さらに《スクラップ》カードで破壊された《ゴブリン》の効果でさっき墓地へ送った《スクラップ・キマイラ》をサルベージ!!」

 

《スクラップ・ゴブリン》

フィールド→墓地

【黄昏】

手札:2→3→4

 

 スクラップデッキの起爆剤とも言えるカードを利用し、シンクロ召喚への準備を整える黄昏。

「そして《スクラップ・キマイラ》を通常召喚! 通常召喚に成功した《スクラップ・キマイラ》の効果発動。墓地の《スクラップ》チューナー1体を蘇生する。

 戻ってこい《スクラップ・ゴブリン》![リバイバル・ハウリング]」

 

《スクラップ・キマイラ》

☆4・地属性・獣族

ATK:1700

《スクラップ・ゴブリン》

墓地→フィールド

 

 これでひとまず小休止。ここまでの処理でどこかを止められていれば黄昏としてはサレンダー以外に手段がなかったが、幸い早乙女が伏せカードや手札誘発で阻害してくるようなことはなかった。

 かと言ってあれがブラフとは考えにくい。どこまで動けばあの伏せカードが起動するのか、再度黄昏は探り探りでフィールドを回していく。

「俺はレベル4《スクラップ・キマイラ》をレベル3《スクラップ・ゴブリン》でチューニング。

 異なる身体が結合し、やがて地獄の悪魔へと変貌する。シンクロ召喚、凶変せよ《スクラップ・デスデーモン》!」

 

《スクラップ・ゴブリン》、《スクラップ・キマイラ》

フィールド→墓地

《スクラップ・デスデーモン》

☆7・地属性・悪魔族

ATK:2700

 

 雄叫びを上げる悪魔の召喚に対しても、早乙女はただこちらをまっすぐ見据えるのみ。一抹の不安は残るがこれで反撃の準備は整った。

「バトル!」

「バトルフェイズに移行したことで《ラプテノスの超魔剣》の効果を発動。

 装備モンスターの表示形式を変更して手札からモンスターを1体特殊召喚。

 《ヴァイロン・シグマ》を守備表示にし、手札から《ハイ・キューピット》を守備表示で特殊召喚」

 

【早乙女】

手札:4→3

《ハイ・キューピット》

☆1・光属性・天使族

DEF:600

 

 黄昏の宣言に対し早乙女が流れるように処理を行った結果、フィールドに現れた新たな天使族モンスター。そして《ラプテノスの超魔剣》は表示形式によりその効果が変化する装備カードである。

「《ラプテノスの超魔剣》を装備したモンスターが守備表示のとき、戦闘では破壊されない。

 《ハイ・キューピット》は1ターンに最高3枚の墓地肥やしができるモンスター。俺が破壊したら1500回復されるとはいえ、墓地肥やしされるぐらいなら戦闘破壊しておきたいけど……」

 《スクラップ・デスデーモン》で攻撃宣言せずに黄昏は急に黙り込む。

 その視線の先にあるのは1枚のセットカード。

 今の手札で彼女のセットカードを除去する方法はない。

 いや、あるにはあるが、そのためには手札を必要以上に消費してしまい立て直しが難しくなる。であればここは攻撃するかしないかの2択なのだが……

 現在相手のフィールドには戦闘破壊耐性はあったとしても守備力の低いモンスターのみ。

 《スクラップ・デスデーモン》ならば確実に葬れるが、今相手をしているデッキはヴァイロン……つまりは装備ビートだ。セットカードが黄昏の想定するカードだった場合、黄昏は一転してピンチに陥る。いや、攻撃しなくてもピンチに陥る可能性が残っている。

「直感に賭けるしかない、か」

 小さく呟いた黄昏はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行することを宣言。そして手札のカードを切る。

「手札から《電脳基盤》発動し、リバースカード発動《バックドア》。

 墓地の《スクラップ・スコール》《スクラップ・エリア》《強欲な瓶》《荒野の大竜巻》の4枚をインフェクトする」

 

《電脳基盤》

IV:0→4

 

「レベル7の《スクラップ・デスデーモン》に《スクラップ・スコール》と《荒野の大竜巻》をインフェクト。エクストラデッキのリバイバル・モンスターへミューテーション。否応なくフィールドを照らす力を示せ。リバイバル召喚! 電子を操作する象徴、《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》」

 

《スクラップ・デスデーモン》

フィールド→墓地

《電脳基盤》

IV:4→2

《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》

星7・地属性・雷族

DEF:2800

 

 残骸の悪魔が姿を変え、唸り声を上げるのは獣のように姿勢を低くしたアンドロイド。しかしその体勢は守りに徹しており、浮遊する人工天使を襲う様子はない。

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

【黄昏】

1/3200

--△-- ●

-■---

【早乙女】

3/4000

-△△--

-■□□-

 

「私のターンドロー」

 

【早乙女】

手札:3→4

 

「メインフェイズ1に《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》の効果を発動! 相手ターンに1度、相手のセットカードを1枚表側表示にする。

 早乙女さんのそのセットカードを表側表示へ。[ラフリー・オープン]」

 《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》のカタカタという唸り声に共鳴するように早乙女のセットしたカードが震えだし、表側表示へと反転させる。

「セットされてたカードは……《移り気な仕立て屋》。嫌らしい戦術考えてますね」

 そして黄昏が想定したカードでもある。あのまま攻撃していればどうなっていたか……早乙女の戦術の容赦の無さに黄昏は背筋に冷たいものを感じた。

 対する早乙女は企みが失敗に終わったにも関わらず、顔色一つ変えることはない。戦術もそうだが、何より彼女の『底』が黄昏にはまったく見えなかった。

 どうやら、目の前のデュエリストの認識を改めざるを得ないらしい。

 この相手は、気を緩めたら一瞬でこちらの首を狩る実力者なのだ、と。

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