遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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結末を握るのは人工遺物

 黄昏の《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》よって《移り気な仕立屋》が表側表示にされ、早乙女の戦術の一つは防がれたというのに彼女は変わらず淡々とデュエルを進めていく。

「《ハイ・キューピット》の効果でデッキから3枚墓地へ送り、レベルを3つ上昇」

 

《ハイ・キューピット》

レベル:1→4

 

 《ハイ・キューピット》による墓地肥やし。下手をするとこのターンで攻めきられることも覚悟したが、このターンで利用できるカードはなかった。

 それに落胆する様子もなく、最初からそうするつもりだったのかと錯覚するほど手早く手札のカードを切っていく。

「モンスターをセットし、カードを2枚セットしてターンエンド。この瞬間《ハイ・キューピット》のレベルは元に戻ります」

 

《ハイ・キューピット》

レベル:4→1

 

「え、どういうことー? 《ヴァイロン・シグマ》って攻撃すればデッキの装備魔法で強化できるんじゃないのー?」

「《ヴァイロン・シグマ》の装備効果は自身のフィールドに《ヴァイロン・シグマ》しかいないときにしか発動できないんだ。

 そんな状況でさらにモンスターを増やすってことは、次のターンに動くつもりですね?」

「…………」

 黄昏の問いに彼女は無言を突き通す。とはいえ、それがわかったところで黄昏の手札にそれを阻止できる手段がないのも事実だが。

 それよりも《ハイ・キューピット》で落ちたカードが不味かった。墓地へ行ったのは《ギャラクシー・サイクロン》。今の早乙女の魔法・罠ゾーンは全て埋まっており、新たに魔法カード等を発動することはできない。できれば死に札同然の《移り気な仕立て屋》で圧迫を維持したいのだが、このままでは次の早乙女のターンに除去されてしまうだろう。

 にも関わらず明確な対抗手段が手持ちにない黄昏は、徐々に自分の首が締まっていくのに眉をひそめることしかできない。

 

【黄昏】

1/3200

--△-- ●

-■---

 

【早乙女】

2/4000

-△△▲-

■□□□■

 

「俺のターン……」

 少年の長い前髪の隙間から覗く先にあるのは2枚のセットカード。先程までは彼女の底が見えず予測が難しかったが、デュエルを通じて徐々にだがわかってきた。

「早乙女さんは準備が整うまで動くことは少ないけど、準備の際に俺みたいに守りを固めるタイプじゃない。それにいざ攻撃に転じる時に防御系の伏せカードで場が圧迫されないよう、使うカードは攻撃と防御どっちにも使える類だ。

 ってことは、セットモンスターもセットカードも十中八九次のターンに攻撃に転じるための布石か……はは、七波以上に攻撃特化だわこれ」

 人は見かけによらないな、と呟きつつその視線は自身の手札へ落とされる。

 このまま《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》を守備表示にしていれば次のターンまではフィールドを圧迫できる。しかしそれだけだ。《ギャラクシー・サイクロン》が落ちてしまった今、いつまでも守りきれるとは思っていない。だからこそ黄昏は裏目に出るのだとしても動くことを決意する。

「ドロー!」

 

【黄昏】

手札:1→2

 

 新たに加わったカード。それは攻めることを決意した黄昏を後押しするかのようにこの状況を打破できる可能性を秘めていた。

「手札から速攻魔法《魔力の泉》発動。相手フィールドの表側表示の魔法・罠カードの数だけドローし、その後自分フィールドの表側表示の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てる。

 早乙女さんのフィールドには3枚、俺のフィールドには今発動した《魔力の泉》とプレート魔法の2枚、よって3枚ドローして2枚捨てる!」

 

【黄昏】

手札:1→4→2

 

 黄昏が起死回生とばかりに発動したカードはドローソースではあるが、結果としては墓地は肥えても手札が増えたわけではない。

 使うタイミングを間違えたようにも見えるが、そもそもこのカードを発動したのはドローや墓地肥やしがしたかったわけではない。《魔力の泉》を発動した際の()()()()()が目的だ。

「このターン、私の魔法・罠カードは効果を無効化されず、破壊されない」

「そのとおり。まずは《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》を攻撃表示へ変更!」

 

《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》

DEF:2800→ATK:1600

 

「そしてバトル! 《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》で《ハイ・キューピット》を攻撃![ライボルテンペスター]」

「《ハイ・キューピット》が相手によって破壊されたのでライフが1500回復」

 

《ハイ・キューピット》

フィールド→墓地

【早乙女】

ライフ:4000→5500

 

 雄叫びを上げた獣は激しく放電を繰り返しながら小さな天使に襲いかかり、一撃で消滅させる。しかし破壊されことによりその亡骸は主のライフを癒やし、二人のライフ差はさらに開いてしまう。

 だからといって黄昏は攻めの手を緩めない。中途半端にやめればその反動はより危険度を増して自分に跳ね返ってくるのだ。

「リバースカード発動《ステイルス・リバイバル》! レベル7の《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》に《スクラップ・エリア》と《強欲な瓶》をインフェクト。墓地の《スクラップ・デスデーモン》へミューテーション。リバイバル召喚!!」

「その効果にチェーンして《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》を対象に《捲怒重来》発動」

 《捲怒重来》は相手モンスターに装備して攻守を500ポイントアップさせる罠カード。さらに装備モンスターが墓地へ送られた時にカードを1枚、発動ターンに墓地へ送れれば2枚ドローして1枚捨てる効果となる。

 そして、対象になった《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》は《ステルス・リバイバル》で素材になることが確定しており、この場合に発生する装備カードの自壊は《魔力の泉》でも阻止できない。お手本のような使用方法だった。

 

《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》、《捲怒重来》

フィールド→墓地

《スクラップ・デスデーモン》

墓地→フィールド

 

「《魔力の泉》によって《ダブル・クリッカー・ヴァイルス》がフィールドを離れても表側表示になった《移り気な仕立屋》は破壊されない」

「ですが装備カードとなっている《捲怒重来》の場合はルール効果による破壊ですので適応されます。そしてその効果で2枚ドローして1枚捨てます」

 

【早乙女】

手札:2→4→3

 

「続けて《スクラップ・デスデーモン》でセットモンスターを攻撃![デモン・スクラップ]」

 セットモンスターを次のターンに残してはいけない。ただその直感を信じて攻撃を命じた結果、残骸の悪魔の攻撃は電撃の壁に阻まれた。

「墓地の《超電磁タートル》を除外することでバトルフェイズを終了」

「……《捲怒重来》で墓地へ送ったわけですか。俺はカードをすべてセットしてターンエンド」

「遊糸もしかして今日調子悪いー?」

「リリアうるさいぞー」

 

【黄昏】

0/3200

--○--

--■■-

 

【早乙女】

3/5500

--△▲-

-□□□■

 

「私のターンドロー」

 

【早乙女】

手札:3→4

 

 あいも変わらず早乙女は表情を変えずに淡々とデュエルを進めていく。

 その様子は、黄昏の目には冷静というには少し異常に感じてしまうほどだった。

「もしかして……」

「《ヴァイロン・ペンタクロ》を反転召喚してユニオン効果で《ヴァイロン・シグマ》へ装備」

 黄昏の呟きにも反応することなく進撃準備を整えていく早乙女の視線が、一瞬だけこちらに向けられる。それが反撃の準備が整った合図であるとわかったのは、おそらく黄昏の類まれな察知能力によるものか。

「あとはこのカードで防ぎきれるかどうか……」

「墓地の《ギャラクシー・サイクロン》を除外して表側表示の《移り気な仕立屋》を破壊。

 そして伏せていた《アームズ・コール》でデッキから《ヴィシャス・クロー》をサーチしつつ《ヴァイロン・シグマ》に装備」

「……マジか」

 

《移り気な仕立屋》

フィールド→墓地

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1800→2100

 

 装備魔法によって攻撃力が僅かながら上昇するが、《ヴィシャス・クロー》の真髄はそこではない。このカードを装備したモンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに《ヴィシャス・クロー》をバウンスすることができ、その際に相手への600ポイントのダメージ、戦闘したモンスター以外を1体破壊する、などの厄介な効果を有している。

 無意識に黄昏はセットカードの1枚に視線を落とす。

 早乙女としては《スクラップ・デスデーモン》を破壊するために装備したのかもしれないが、奇しくもその装備魔法は黄昏の戦術を一つ崩す起点になり得た。

「《ヴァイロン・シグマ》の表示形式を変更し、バトルフェイズへ移行します」

 

《ヴァイロン・シグマ》

DEF:1000→ATK:2100

 

「バトルフェイズ開始時にリバースカード発動《ギブ&テイク》! 墓地の《スクラップ・ゴブリン》を早乙女さんのフィールドへ特殊召喚して俺のフィールドの《スクラップ・デスデーモン》のレベルを《スクラップ・ゴブリン》のレベル分上昇させる!」

 

《スクラップ・ゴブリン》

墓地→フィールド(早乙女)

《スクラップ・デスデーモン》

レベル:7→10

 

「なるほど、そういう方法で《ヴァイロン・シグマ》の効果を封じますか」

 感心した様子ではあるが早乙女に驚いた様子はない。

 実際、《ヴィシャス・クロ―》の効果をフル活用すればこのままなら黄昏のライフは削り切られてしまうのだから。

「改めてバトル。《ヴァイロン・シグマ》で《スクラップ・デスデーモン》を攻撃」

「リバースカード発動《ダメージ・ダイエット》! このターン受けるダメージを半分にする!」

 これが黄昏の最後のセットカード。これで耐えれるかどうか、強いては勝敗が決まることに繋がるだろう。

 浮遊する人工天使は禍々しいオーラを纏い、装備した双剣を構えて残骸の悪魔へ迫る。されど天使の攻撃は悪魔の腕に阻まれ、逆に吹き飛ばされた。

 

【早乙女】

ライフ:5500→4900

 

「戦闘破壊される代わりに《ヴィシャス・クロー》を手札へ戻し、《スクラップ・ゴブリン》を破壊、そして相手へ600ポイントのダメージを与え、相手フィールドへ《イービル・ト-クン》を特殊召喚」

「けど、そのバーンダメージは《ダメージ・ダイエット》で半減する」

 反射ダメージを受け、吹き飛ばされた《ヴァイロン・シグマ》はその身に纏った禍々しいオーラを身代わりにすることで破壊を免れつつ、フィールドとライフに爪痕を残す。最後にそのオーラの残骸が悪魔の姿を形作り、黄昏のフィールドに舞い降りた。

 

《ヴィシャス・クロー》

フィールド→手札

【早乙女】

手札:4→5

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:2100→1800

《スクラップ・ゴブリン》

フィールド(早乙女)→墓地

【黄昏】

ライフ:3200→2900

 

 ダメージを受けつつも早乙女のフィールドは黄昏の目論見を掻い潜って再び《ヴァイロン・シグマ》のみが君臨する状況へ逆戻り。そしてこれで彼女の攻撃が終わるわけがない。

「手札の速攻魔法《旗鼓堂々》を発動して墓地の《閃光の双剣-トライス》を再び《ヴァイロン・シグマ》に装備」

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1800→1300

 

「これでもう一度攻撃可能になった《ヴァイロン・シグマ》で《イービル・トークン》を攻撃。

 攻撃宣言時に《ヴァイロン・シグマ》の効果でデッキから《魔導師の力》を装備」

 早乙女のフィールドにただ一体君臨する天使は再び虚空から取り出した装備魔法を纏いその力を増す。纏ったその装備魔法は自分フィールドの魔法・罠カードの数×500ポイント攻守を上昇させる。

 早乙女の場には《魔導師の力》を含めて《メテオ・ストライク》、《閃光の双剣-トライス》、《ヴァイロン・ペンタクロ》、《ラプテノスの超魔剣》の5枚。よって《ヴァイロン・シグマ》の攻撃力は……

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1300→3800

【黄昏】

ライフ:2900→2250

《イービル・トークン》

フィールド→消滅

 

 《イービル・トークン》の攻撃力も上級モンスタークラスのものだったが、ワンキルに迫る攻撃力によって一撃で粉砕。《ダメージ・ダイエット》で半減させても十分すぎるダメージで黄昏のライフを大きく削った。

 さらに《ヴァイロン・シグマ》に装着された《ヴァイロン・ペンタクロ》の腕から照射された光が4つの正四面体を形成。

「《ヴァイロン・ペンタクロ》の効果で《スクラップ・デスデーモン》を破壊」

 正四面体は残骸の悪魔の周囲を飛び交い、五胞体を作り出すように結合。内部にいた悪魔は万力に押しつぶされるようにして粉砕された。

 

《スクラップ・デスデーモン》

フィールド→墓地

 

 攻撃力3800のモンスターに狙われる状況で黄昏を守るモンスターは一掃。さらに相手は《メテオ・ストライク》によって貫通効果を持っているため下手な壁モンスターも意味をなさない。

「だったらその攻撃力を下げるまで! 自分フィールドのカードが魔法カードの効果で破壊された時、墓地の《誘爆》を除外して効果を発動。相手フィールドのカードを1枚破壊。

 《魔導師の力》を破壊する!」

 

《魔導師の力》

フィールド→墓地

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:3800→1300

 

「さらに墓地に《ロータリー・ブースト》が存在し、自分の罠カードが効果を発動するために墓地から除外された場合、除外された罠カードと《ロータリー・ブースト》をデッキへ戻すことでデッキトップからカードを2枚墓地へ送る!」

 《スクラップ・デスデーモン》を破壊した余波を利用する形で黄昏は反撃に出る。残念ながら《ラプテノスの超魔剣》により、攻撃表示の《ヴァイロン・シグマ》そのものは効果対象に選ぶことができなかったが、それでも新たなカードを墓地へ送ることが出来た。

 墓地へ送られたのは自分のターンに除外することで攻撃力を上昇させることができる《スキル・サクセサー》。そして……

「今墓地へ送られた《絶対王バック・ジャック》の効果。デッキトップ3枚の順番を入れ替える。

 ……俺は《無謀な欲張り》、《おろかな埋葬》、《死者蘇生》の順番で戻す」

 序盤に回しきれなかった代わりなのか、次々とドローソース及び展開の要が確約されていく。次のターンで少なくとも盤上を覆せる可能性が出てきた。

 しかしここまで処理を行ってから黄昏は自分の行いを後悔する。

 次のターンへの布石として行った一連の行動。見方を変えれば早乙女の魔法・罠ゾーンに空きを作ってしまったとも言える。まだ相手の手札が残っている状態で行うべきではなかったのだ。

 しかし嘆いてももう遅い。空いてしまったフィールドを利用し、早乙女は追撃の手筈を整え始めているのだから。

「手札の速攻魔法《コンビネーション・アタック》で装備カードの《ヴァイロン・ペンタクロ》を特殊召喚することで《ヴァイロン・シグマ》はもう一度攻撃可能」

 

《ヴァイロン・ペンタクロ》

魔法&罠ゾーン→モンスターゾーン

 

 《ヴァイロン・シグマ》に装着されていた装備が分離。再び《ヴァイロン・ペンタクロ》としての形に変形したそれはがら空きとなった黄昏のフィールドを突き進む。

「《ヴァイロン・ペンタクロ》で直接攻撃」

「っ!?」

 

【黄昏】

ライフ:2250→2000

 

 小さなダメージ。しかし防ぐ手立ても反撃の手段もない今はそれだけでも立派な脅威だ。そして第二撃はすぐそこに迫る。

「手札から《モンスター回収》を発動して《ヴァイロン・ペンタクロ》と手札すべてをデッキへ戻して2枚ドロー」

 

《ヴァイロン・ペンタクロ》

フィールド→デッキ

【早乙女】

手札:2→0→2

 

「……っ!?」

 ドローしたカードを確認した直後、わずかだが少女の表情が揺らいだ。その程度であればどんなデュエリストにも起こり得るものだったが、ここまで機械のように正確で無駄のない戦術を行ってきた姿と比べれば明確な変化だった。

「このカードは……もしかして、黄昏さんも……」

 手札を黄昏を交互に見比べるその様子から動揺しているのは明らかであり、眼鏡の奥の瞳からは僅かながら敵意のようなものまでにじみ出ていた。

「わ、私は《盆回し》を発動し、私のフィールドに《ユニオン格納庫》を、黄昏さんのフィールドへ《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》をそれぞれセット。

 そして《ヴァイロン・シグマ》で直接攻撃。この瞬間デッキから《魔導師の力》を《ヴァイロン・シグマ》へ装備します」

 戦術の質は変わらないが、纏う雰囲気が明らかに変わった。デュエル開始前のオドオドとした様子に戻りつつある早乙女は最後の手札をチラチラと確認しながらやや覚束ない手付きで処理を進めていく。

 彼女のフィールドには《魔導師の力》、《閃光の双剣-トライス》、《メテオ・ストライク》、《ラプテノスの超魔剣》に加えてフィールド魔法がセットされたことで再び攻守が2500上昇。

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:1300→3800

 

 だがそれでも足りない。黄昏ライフは残り2000だが、《ダメージ・ダイエット》によりダメージは半減。この攻撃を受けてもライフはギリギリ100残る。

 わずかに希望が持てたかに見えたが、黄昏の表情は晴れない。前髪の隙間から覗く瞳は、早乙女の最後の手札から何かを感じ取っているらしい。

「早乙女先輩」

「は、はいっ!?」

「ここまで来たんですから、手加減はなしですよ?」

 その言葉が自分の首を締めるのだとしても、言わずにはいられなかった。……そもそも、このデュエルは早乙女卯月という少女がどんなデッキを使うのかを知るために始めたもの。下手に手加減されるよりは全力を見たかったのだ。

 黄昏の言葉を彼女がどう受け取ったのかはわからないが、少し間が空いたものの何かを決心したらしい。

「で、では行きます!! 私は手札から速攻魔法《アーティファクト・ムーブメント》を発動! 《閃光の双剣-トライス》を破壊してデッキから《アーティファクト-モラルタ》をセット!」

「なるほど、先輩のデッキはヴァイロンとアーティファクトの混合デッキか」

 ここまで淡々と処理を進めていた早乙女のデュエルが一変、この最後の一手のみ彼女は感情的に荒々しくカードの処理を行っていく。

「《閃光の双剣-トライス》が破壊されても《アーティファクト-モラルタ》がセットされたので《魔導師の力》による上昇値は変わらず2500です。

 でも《閃光の双剣-トライス》による攻撃力のダウンがなくなるので──」

 

《ヴァイロン・シグマ》

ATK:3800→4300

【黄昏】

ATK:2000→0

 

「……ははは、マジかー」

 ダメージ半減をもろともせず、真正面からライフを削りに来た早乙女のパワープレイを称えるかのごとく、デュエル終了のブザーがデュエル場に鳴り響いた。

 

 

 2人のデュエルが終わったことでデュエルフィールド全体を包んでいたピリピリとした緊張感が薄らいでいく。

 デュエルの終盤には戻りつつあったが、デュエル終了のブザーがスイッチなのか開始直後の機械のように冷徹な雰囲気はその名残すら見当たらない。

「にしても、まさかあの状況からごり押されるとはな……」

「だ、大丈夫でしたか?」

 デュエルディスクをケースに収納して駆け寄ってくる早乙女がそんなことを問いかける。ソリッドビジョンで現れるモンスターはただの投影ではあるが、その精巧な映像が災いしてモンスターの攻撃に腰を抜かしてしまう場合や、攻撃による爆音で耳鳴りを起こすなどして体調不良を訴えるデュエリストも少なくはない。

 それを危惧しての問いなのだろうが、アカデミアへ入学してくるのは良くも悪くもデュエルバカな生徒ばかりだ。基本的に耐性があると考えていい。

 それは早乙女もよく知っているはずなのに反射的に尋ねてしまっているのは相手に気を遣いすぎているからか。そして他人とのデュエルを避けているような傾向があり、それらを踏まえて導き出される答えは……

「デュエル中雰囲気が変わりましたけど、それがデュエルを避けてる理由だったりします?」

「ゔ……」

 ……ただ聞いただけなのに少女は再び小動物のようにビクビクと怯えてしまった。おそらく図星なのだろうが、怯える彼女にどう次の言葉を投げかければよいかわからず黄昏も沈黙してしまう。

「あー、うーちゃんをイジメちゃダメだんだよー!」

 そんな空気を知ってか知らずか、観戦スペースから駆け寄るくせっ毛金髪ヘアーな少女は聞いてるこちらまで気が抜けそうな声を投げかけてきた。

「虐めてねーよ。てか、こてんぱんにされたのは俺の方だし」

 最後のターンに反射ダメージはあったがそれさえ早乙女の戦術によるもの。結局、黄昏はさっきのデュエルでただの一度も早乙女のライフを能動的に削ることはできなかった。

 黄昏の戦術を予め知っていたからと言って、あそこまでの完封勝利はそうそう出来るものではない。やはり黄昏の思っていたとおり、彼女のデュエルタクティクスはかなりのものであった。

「うーちゃん強いんだねー!」

「あ、いや、私は……」

 まるで飼い主に懐く子犬のように抱きつくリリアに早乙女はただただ困惑する。人懐っこいのは知っているが、早乙女に対しては少々距離が近すぎる気もしないではない。まあ、ソレに関しては黄昏の関与する問題ではないが……

「でも、うーちゃんってデュエル中はまた別人みたいだったねー」

「や、やっぱり、気味が悪いですよね」

「カッコよかったよー! ……って、え?」

「え?」

 お互いがお互いに違った感想を抱いていたことに驚いて顔を見合わせる。

「だ、だってあんな冷たいデュエルされたら怖いですよね?」

「そうかなー? なんかこう、無駄がない動き? みたいなのがカッコいいと思うんだけどなー」

 リリアとは無縁だからな、という言葉が喉まで出たが辛うじて飲み込んだ。何かを察知したらしいリリアが一瞬こちらを見るが、どうやら上手く誤魔化せたらしい。すぐに早乙女の方へ向き直る。

「やっぱり、アタシもうーちゃんとデュエルしてみたいなー!」

 キラキラと純粋な眼差しでデュエルを提案するリリア。なぜリリアではなく黄昏がデュエルしたのか、その理由をもう忘れているらしい。

「いやリリア、さっきも言ってたとおり星の守護者(セイクリッド)同士のデュエルは……」

「思い出したんだけど、あおいんとテストデュエルをするときはいつも星の守護者(セイクリッド)のデッキで対応してもらってるよー?

 というか、そうするように言ったの遊糸だしー」

「……そういえばそうだったな」

 あの提案をして2ヶ月が経とうとしている今、すでに数え切れないほどのテストデュエルをこなしているはずだが、彼女らの加護になんらかの変化があったようには感じられない。

 そもそも、『七波が受けている加護が弱まっている』という情報の判断材料となるのは射手座の星の守護者(セイクリッド)の言葉のみ。病室でのエヴァの話を信じるならば、加護を失うのは赤い鎖を用いたデュエルに限られるはず。

 黄昏も加護の気配のようなものは感じ取れるが、残念ながら黄昏が初めて七波の星の守護者(セイクリッド)のデッキを見たのはジンとのデュエルを終えた後だ。変化したのかどうか判断することはできない。

 立て続けに不可思議な出来事に直面したせいで、少し神経質になりすぎていたのかもしれない。

 まさかリリアにまで言い負かされる時が来るとは、と割とショックを受けた黄昏だがそのポーカーフェイスは崩さない。だが言い負かされたのは事実であり、ソレに関してリリアがドヤ顔をしてきたのでとりあえずその額にデコピンだけはかましておく。

 さすがに怒ったリリアが奇声を上げて飛びかかってくるが、彼女の運動神経では黄昏を捕らえることはできず数分足らずで息を切らしてへたり込んでしまった。

 しかしそこは切り替えの早いリリア。即座に標的を早乙女に戻して飛びついた。

「ということで、デュエルしようよデュエルー!!」

「あぅ、その、えっと……」

 一度は機転を利かせて断れた早乙女だが、根は押しに弱いことには変わりない。悪意のない純粋なおねだりを断る方法を持ち合わせていない早乙女は、リリアの猛烈なアプローチに対して目が回るのではと心配になるほど視線を巡らせて……

「ご、ごめんなさい……っ!!」

 耳まで真っ赤にした少女は抱きついているリリアを振りほどいて全力疾走。以外にも運動神経の良かった早乙女はそのままデュエル場を風の様に去ってしまった。

「フラれたな」

「むー、遊糸のイジワルー……」

「自覚はあるからその評価は甘んじて受けとくか」

 頬を膨らまして不貞腐れるリリアの恨み節も黄昏はどこ吹く風で受け流す。そんな他愛もないやり取りをしていたら、不意にリリアが何かを思い出したように声を上げた。

「そういえばさー、遊糸さっきのデュエルでなんだか強引に手札交換をしてなかったー?」

「……というと?」

「あれ、違う? なんだか何かを避けてるように見えたんだけどー……」

「気のせいだろ。強引に手札交換してたのは確かだけど、ただドロー運に恵まれなかったからだからな」

 むー、と首を捻る金髪少女はどうにも納得がいっていない様子。されど自分の感覚以外に証拠がないため、この話題はそれ以上は広がらずに自然消滅すると、次第に廊下の方が騒がしくなっていく。どうやら新パックを購入した生徒たちが戻ってきたらしい。

「予想より早かったな。騒がしくなると思うけど、今からでもテストデュエルするか?」

「んー、今日はもういいかなー」

 少し悩んだ素振りをするものの、リリアは思ったよりあっさりと首を横に振った。先程まで不安が払拭できるまでデュエルをする意気込みだったため、その予想外の返答に黄昏は目を丸くしている。

「遊糸、人が多いところでデュエルしたくないんでしょー?」

「……悪いな」

 どうやら気を遣わせてしまったらしい。申し訳無さそうに黄昏が目を伏せると、気にしてないということをオーバーに表現するために胸を張ったリリアが得意げに語る。

「えへへー。さっきのデュエル見てて勉強になったから、先にデッキ調整しておきたいっていうのもあるんだけどねー」

「……………………勉強になった?」

「さてはその顔は信じてないなー!?」

「いや、だって……なあ?」

「むー!」

 などと戯れているとチラホラと黄昏たちがいるデュエル場に他の生徒が入ってきたため、入れ替わるように二人はその場を離れる。

 しばらくして校門前に護衛役のセキュリティが到着すると、2人は別れて各々の帰路へとついた。




ゴリ押しこそ正義()

ビートダウンは気をつけないと4000ライフぐらい一瞬で削ってしまいますね
どんどん火力が上がっていく様は見てて楽しいですが
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