遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

38 / 47
理解不能な価値観

【ニュート】

1/700

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【黄昏】

3/3300

-○○○- ●

-■■■■

 

「まだ立つ気力は残ってるか?」

 見下されているとも取れる問いに対して中性的な少年は傷だらけの身体にムチを打ち、覚束ない足取りで再びデュエルディスクを構えた。

「まだ立てる体力はあったんだな。見た目よりはタフそうでなによりだ」

「ぐ……、余裕ぶってはいますが、敗色が濃厚なのはそちらですので……!

 僕のターン、ドロー!」

 

【ニュート】

手札:1→2

 

「…………」

 片ライフがセーフティーラインを切って満身創痍、片やデッキが尽きて残り数ターンで確実に敗北してしまう崖っぷち。

 お互いがお互いに『敗北』が脳裏を過る状況でニュートがドローしたカード。そのカードに何かを感じたのか、黄昏は無機質な瞳を少しだけ細めた。

「僕はまず《精神操作》を発動しますので! あなたのモンスター1体のコントロールをエンドフェイズまで奪います。

 奪うのは《アトミック・スクラップ・ドラゴン》。さあ、こちらへ来なさい!」

 今ドローしたカードではなく先程《ガード・ブロック》でドローしたカードを切ると、たちどころに《アトミック・スクラップ・ドラゴン》にワイヤーが絡まり、残骸の竜はその瞳を濁らせうなだれる。

 

《アトミック・スクラップ・ドラゴン》

フィールド(黄昏)→フィールド(ニュート)

 

 どんな強力な相手モンスターでも下僕にできる魔法カードによって黄昏の最高打点のモンスターはいとも簡単に奪われてしまうが、操られた状態のモンスターは攻撃することができず、その支配もこのターンが終われば解けてしまう。

 しかし、ニュートにとってはそんな制約気にする必要はない。

「必要なのは《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果ですので!

 その前に僕は墓地の《リターン・オブ・アンデット》の効果を発動! 除外されているアンデット族モンスターをデッキへ戻すことで墓地のこのカードをセットできます。

 《氷の魔妖-雪娘》をデッキへ戻し、《リターン・オブ・アンデット》をセットですので!」

「フィールドのアンデットと墓地のアンデットを入れ替える蘇生カードか。今回はただの『弾』要因だろうけど」

「ええ、《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果は僕のフィールドのカード1枚を破壊し、あなたの墓地のカードを3枚までデッキへ戻すことができますので。

 僕は《リターン・オブ・アンデット》を破壊し、あなたの墓地の《仁王立ち》、《スキル・サクセサー》、《妖怪のいたずら》をデッキへ戻します。[フラックス・キャパシタ]」

 先程黄昏が反撃の起点にした効果が今度は黄昏に牙をむく。再び周囲を光に包むほどの落雷が落ち、黄昏のデッキにカードが補充されるが、その枚数は2枚のみ。

「《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果にチェーンを組んで墓地の《仁王立ち》を除外して効果発動。このターン俺が選択したモンスターしかあんたは攻撃できない。

 俺は《スクラップ・ヘルサーペント》を選択」

 さらに《仁王立ち》は選択したモンスターがその後フィールドを離れた場合でも『選択したモンスターしか攻撃できない』という効果は残り続け、他のモンスター及び直接攻撃は制限できるという裁定となっている。

 なにより、次のターンに利用されることを防ぐためとはいえ、《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果によって尽きていた黄昏のデッキは補充されてしまった。

 さすがにこれで終わってしまうのでは無策という評価にしかならないのだが……

「墓地に闇属性モンスターが7枚以上ある場合、そのうち5枚を除外することで《終わりの始まり》は発動できますので!

 除外するのは《ゾンビキャリア》、《堕ち武者》、《ゴブリンゾンビ》、《精気を吸う骨の塔》、そして《ネクロフェイス》を除外して3枚ドロー!」

 

【ニュート】

手札:0→3

 

 重いコストながら自身も巻き込むデッキ破壊によりその条件を満たし、手札を補充するニュート。そしてその代償として除外されたうち1枚は幻影となりお互いのデッキに魔の手が伸びる。

「除外された《ネクロフェイス》の効果を発動し、お互いのデッキトップを5枚除外しますので!

 これであなたのデッキは再び0!」

 補充された直後に除外されるカードを黄昏は一瞥するのみ。その意識はニュートがドローしたカードにしか向けられていない。

星の守護者(セイクリッド)ではないあなたにこのカードを使わなければならないのは不本意ですが、僕もこんなところで負けているわけには行かないですので!! フィールド魔法《クリストフォルス・マグヌス》!!」

 その瞬間、夕焼けに照らされる街は一瞬にして生命を拒絶する漆黒の闇に包まれた。

 本能的に死の恐怖を感じさせる闇は、続いて冷たい星の輝きによって淡く照らされる。

「《ウラメノトリア》を発動し、その効果を発動しますので! 墓地のカードを可能な限りこのカードにインフェクトできます。

 インフェクトするのは墓地の《生者の書-禁断の呪術-》、《ディメンション・ウォール》、《精神操作》、《シェア・トップ》、《終わりの始まり》ですので!」

 

《ウラメノトリア》

IV:0→5

 

「これで準備は整いましたので!

 《クリストフォルス・マグヌス》の効果でエクストラデッキのエクストラモンスター、もしくはデッキの儀式モンスターを墓地へ送ることで、自分モンスターのレベルを墓地へ送ったモンスターのレベル分変動させます。

 僕が墓地へ送るのはエクストラデッキの《有翼幻獣キマイラ》。そのレベルは6。よって僕のフィールドにいる《アトミック・スクラップ・ドラゴン》のレベルを10から4にしますので!」

 

《アトミック・スクラップ・ドラゴン》

レベル:10→4

 

 僕はレベル4となった《アトミック・スクラップ・ドラゴン》に、《シェア・トップ》と《終わりの始まり》をインフェクト。エクストラデッキのリバイバル・モンスターへミューテーション。

 歪な姿は全てを統べる頂点の証。リバイバル召喚! 狂気を運ぶ変幻自在の讃歌、《Ol(オーバーライン)-セイクリッド・アイギパーン》」

 

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》

☆4・光属性・獣族

ATK:0→1000

 

 三首を持つ竜を素材に現れる新たなOl(オーバーライン)の名を持つセイクリッドモンスターは、山羊を模した獣人であり禍々しい黄金の鎧の裏側は吸い込まれるような宇宙が広がっている。

 先のデュエルで見た《ネメアレオ》や《グガランナ》と共通の特徴を持つものの、その大きさは2メートル弱。見上げるほどの巨体だったモンスターと比べれば威圧感は幾分かマシかもしれない。ただし放たれる禍々しい雰囲気とそれに伴う恐怖に変化はない。むしろ見た目が人に近いためか増幅されている錯覚さえ感じられる。

 見た目からして対応する星の守護者(セイクリッド)は山羊座。《ネメアレオ》は大神の《ナチュル・エクストリオ》をベースにしたパーミッションであったのを考えれば、《アイギパーン》も元になったモンスターの効果に近いものだと推察できる。

「つっても、原型がなさすぎだな」

「心配しなくとも効果はすぐにわかりますので。

 《アイギパーン》の効果! 自分、または相手の墓地のモンスター1体を除外することで、このモンスターは次のターンのエンドフェイズまで除外したモンスターと同じ名前となり、同じレベルと攻守、効果を得ます。

 除外するのはこのモンスターを呼び出すために素材となった、あなたの墓地の《アトミック・スクラップ・ドラゴン》ですので![ロード・オブ・ユニバース]」

 

《アトミック・スクラップ・ドラゴン》

墓地→除外

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》=《アトミック・スクラップ・ドラゴン》

ATK:1000→3200

 

 墓地に眠る黄昏のモンスターからエネルギーを取り込み、2メートル弱の獣人はメキメキと音を立てながら肥大化。元の原型は頭部辺りに黄金の鎧の名残が残るのみで、その姿は完全に《アトミック・スクラップ・ドラゴン》へと変貌してしまった。

 攻撃力0で墓地のモンスターのステータスを完璧にコピーする能力。ベースとなったのはおそらく《ファントム・オブ・カオス》だろう。

「まー、今更わかったところで意味ないか。ちなみにそいつは戦闘ダメージは発生するのか?」

「ええ、もちろん。ですがまだ攻撃はしませんので」

 言いながらニュートは墓地へと手をのばす。

「墓地にある《アンデット・ストラグル》は《リターン・オブ・アンデット》と同様に、除外されているアンデット族をデッキへ戻すことでセットすることができますので。

 除外されている《精気を吸う骨の塔》をデッキへ戻して墓地の《アンデット・ストラグル》をセット。

 これで準備は整いましたので《アトミック・スクラップ・ドラゴン》の効果を得た《アイギパーン》の効果を発動! 僕のフィールドの《アンデット・ストラグル》を破壊しつつ、あなたの墓地の《ブレイクスルー・スキル》、《光の護符霊剣》、《ペロペロケルペロス》をデッキへ戻しますので![ローディング=フラックス・キャパシタ]」

 このターン二度目の闇を塗りつぶす光で黄昏の墓地から墓地利用の罠カード、そして墓地から除外することでフィールド除去が可能なモンスターがデッキへ戻される。

 さらに墓地には『あのモンスター』がもう一枚落ちている。ならば今戻ったカードもドローできることはないと思っていい。

 《精神操作》によって崩れ始めたとはいえ、そこからさらに黄昏の布陣をかき乱す《Ol‐セイクリッド》という存在は非常に厄介と言えよう。

「いや、だとしても《アイギパーン》の効果ってなんというか……」

 デュエル中に使用されたため効果が判明している《ネメアレオ》と、デュエル後に梓へ預けるまでの間に読んで把握した《パピルサグ》の効果を思い出しながら、黄昏は僅かな違和感に眉をひそめる。そんなことに気づかず……いや、ダメージで朦朧としていて気づく余裕もないニュートは自身の処理を進めていく。

「僕は《酒呑童子》を通常召喚しますので!」

 

《酒呑童子》

☆4・地属性・アンデット族

ATK:1500

 

「そして《酒呑童子》の効果を発動しますので! 墓地のアンデット族2体を除外することで1枚ドローできます。

 僕は墓地の《麗の魔妖-妲己》と《ネクロフェイス》を除外して1枚ドローしますので!

 さらに除外された《ネクロフェイス》の効果でお互いのデッキトップから5枚除外しますので!」

 

【ニュート】

手札:0→1

 

「バトルですので! 《アイギパーン》で《ヘルサーペント》を攻撃。[ローディング=アトミック・ハウンド・クラッシュ]

 

【黄昏】

ライフ:3300→2900

《スクラップ・ヘルサーペント》

フィールド→墓地

 

 模倣された三ツ首の竜が放つレーザーが残骸の大蛇を粉々に粉砕。しかし粉々になった残骸は新たな生命が生まれるための依代となり、別の姿へと形成されていく。

「相手によって破壊された《スクラップ・ヘルサーペント》の効果を発動。墓地のシンクロモンスター以外のスクラップ1体を特殊召喚する。

 俺は《オルトロス》を攻撃表示で蘇生」

 

《スクラップ・オルトロス》

墓地→フィールド

 

「《酒呑童子》の攻撃力は1500。《ブレイカー》はもちろん《オルトロス》にも届かない。そもそも《仁王立ち》の効果で《ヘルサーペント》以外への攻撃はできないけどな。

 いくら《ネクロフェイス》の効果を発動するためとはいえ、その攻撃力のモンスターを立たせてたら次の俺のターンにあんたのライフを削り切ることもできると思うんだが?」

「心配いりませんので。《アイギパーン》が効果を発動したターンのエンドフェイズ時、コピーしたモンスターの攻撃力以下の自分モンスターはすべて墓地へ送られます。

 このターンにコピーしたのは攻撃力3200の《アトミック・スクラップ・ドラゴン》。《酒呑童子》はこのまま墓地へ送られますので。

 さらに先程のターンに除外した《背護衛》の効果により、このターンのエンドフェイズ時に手札に戻しますので。これで僕はターンエンドです」

 

《酒呑童子》

フィールド→墓地

【ニュート】

手札:1→2

 

【ニュート】

2/700

--○-- ◉

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【黄昏】

3/2900

--○○- ●

-■■■■

 

「俺のターン、ドロー……はスキップされる1ターン目だな」

 やはり自分のターンが回ってきてドローができないという状況には違和感があるらしい。前髪で顔が隠れ気味の少年は口をへの字に歪め、手持ち無沙汰となった右手を適当に振りながらフィールドに目を向ける。

 ニュートの墓地は魔妖モンスターや《終わりの始まり》などによってことごとく除外され、墓地からの奇襲を警戒するようなカードは残っていない。

 となれば必然的に注目するのはフィールドに佇む《アトミック・スクラップ・ドラゴン》……の姿を模倣する《アイギパーン》になる。

 先程のターン、《アイギパーン》のデメリットで《酒呑童子》がフィールドを離れたが、それは《ヘルサーペント》のような仲間にも牙をむく破壊効果ではなく、《アイギパーン》の存在から逃げるように《酒呑童子》自ら命を絶ったようにも見えた。

 雰囲気を含めて他のモンスターと一線を画する存在に黄昏が向ける視線は鋭くなるが、今はまだその時ではないと自分に言い聞かせるように呼吸を整える。

「墓地の《ネクロ・ディフェンダー》を除外して効果を発動。自分フィールドのモンスター1体を対象に、次のターンまで戦闘破壊耐性とそのモンスターによって発生する自分への戦闘ダメージを0にする。

 俺は《オルトロス》を対象にこの効果を発動。これでターンエンドだ」

「この瞬間《アイギパーン》のコピーももとに戻りますので」

 

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》

ATK:3200→ATK:1000

 

【ニュート】

2/700

--○-- ◉

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【黄昏】

3/2900

--○○- ●

-■■■■

 

「僕のターン、ドロー」

 

【ニュート】

手札:2→3

 

 ドローしたカードに目を通し、ニュートは選択肢が増えたことにホッとしつつも未だその表情は暗い。

 ドローしたのは《闇の誘惑》。カードを2枚ドローしてその後闇属性モンスターを除外する手札交換魔法。今ならコスト要因の《背護衛》もいるため実質ノーコストなドローソースなのだが、問題はニュートのデッキ枚数だ。

 黄昏のデッキは当然デッキ破壊で削れているが、《土蜘蛛》、《ボルテック・バイコーン》、《ネクロフェイス》でニュートのデッキも20枚近く墓地送りまたは除外されている。

 加えて何度もサーチやドローをした結果、ニュートのデッキ枚数も残り数枚。ここでさらにドローするなら黄昏のデッキ切れの前にニュートの方がデッキ切れを起こしてもおかしくない状況だった。

 残る手札は《背護衛》と《異次元からの埋葬》。ニュートの勝利条件はライフを削りきる他に、黄昏がカードをドローするその時まで自分のライフを守りぬくこと。懸念材料は《ブレイカー》と《オルトロス》。先程のターンでレベル10のシンクロをしなかったということは彼のデッキにはないのだろう。であればステータス的には問題ないが《オルトロス》は現在戦闘破壊耐性を付与されており、処理するなら効果破壊しかない。

 ただし墓地と除外含めてモンスターを効果破壊できそうなのは《アイギパーン》で彼の《スクラップ・ヘルサーペント》をコピーするぐらい。加えて《ヘルサーペント》で《オルトロス》を破壊することは『スクラップカードで破壊された』という条件を満たしてしまうことになる。

 墓地には未だ《スクラップ・サーチャー》や《スクラップ・ゴーレム》などに加えてチューナーも十二分に残っている。

 下手な行動は逆にニュート自身の首を絞めることになるのは明白だった。

「僕は……」

 状況を把握し、計算し、それでも結論には時間がかかる。自分の判断に後悔はないかを自問自答し、ニュートはようやく動き出す。

「僕は《闇の誘惑》を発動しますので! カードを2枚ドローし、その後闇属性モンスターである《背護衛》を手札から除外!

 この瞬間《背護衛》は次のターンのエンドフェイズ時に手札に加わりますので!」

 

【ニュート】

手札:2→4→3

 

 悩み抜いた上でその『誘惑』に乗ったニュート。新たに加わった手札を見るが、その表情は晴れない。残念ながらこの状況を完全に覆すほどの手段が得られなかったらしい。

 それでもニュートは動くことを決意する。

 黄昏の手札は《キラースネーク》を含めた3枚。セットカードに関しては、先程のターンに動かなかったということは、《リビングデッドの呼び声》のような蘇生カードや攻撃反応系のカードはセットされてない可能性が高いと考えたらしい。

「僕は《異次元からの埋葬》で除外されている《超電磁タートル》、《ゾンビキャリア》、《シノビネクロ》を墓地へ戻しますので」

「なるほどな」

 ニュートの処理に対して黄昏は一言だけ返す。除外された覚えのないカードも見受けられるが《ネクロフェイス》の効果で除外されていたのだろう。

 これだけを見れば防御を固めるだけのようにも見えるが、ニュートの目論見はそうではない。……そして、黄昏がそれを考慮して言葉を返したことも理解できた。

「そして《アイギパーン》の効果を発動しますので。自分か相手の墓地のモンスターを除外してそのステータスをすべてコピーします。

 除外するのは先程墓地へ戻した《シノビネクロ》。除外してそのステータスをコピーしますので。[ロード・オブ・ユニバース]

 そして墓地から除外された《シノビネクロ》は自分フィールドへ特殊召喚できますので!

 さらにこの瞬間、フィールド上ですでに《シノビネクロ》になっている《アイギパーン》の効果を発動! フィールドにアンデット族が墓地から特殊召喚に成功した時、カードを1枚ドローしてから1枚捨てます!

 ……何もないのでしたら続けて墓地の《ゾンビキャリア》の効果も発動しますので。手札1枚をデッキトップへ送り、蘇生!」

 

《シノビネクロ》

墓地→除外→フィールド

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》=《シノビネクロ》

ATK:0→800

《ゾンビキャリア》

墓地→フィールド

【ニュート】

手札:2→3→2→1

 

 立て続けに呼び出されたモンスターはその全てが攻守共に1000にも満たないステータスであり、すでに効果も使い果たしておりバニラ同然。

 だからこそ、ここまでの蘇生は本命を呼び出すための下準備であることは容易に想像できた。

「そして墓地の《九尾の狐》の効果! 自分フィールドのモンスター2体をリリースすることで墓地のこのカードは特殊召喚できます!

 《シノビネクロ》と《ゾンビキャリア》をリリースして墓地から《九尾の狐》を蘇生! 自身の効果で蘇生していた《シノビネクロ》と《ゾンビキャリア》はそれぞれ除外されます」

 

《シノビネクロ》、《ゾンビキャリア》

フィールド→除外

《九尾の狐》

☆6・炎属性・アンデット族

ATK:2200

 

「これで最後、《月の書》を発動して《スクラップ・ブレイカー》を裏守備表示へ変更しますので!!」

 

《スクラップ・ブレイカー》

ATK:2100→セット

 

「バトル! 《九尾の狐》で《スクラップ・ブレイカー》を攻撃![天忌雨]」

 舞い始めた《九尾の狐》の動きに従って周囲に無数の狐火が発生、狐火は一度上空へ放たれるとさらに分裂。文字通り雨となった炎は《スクラップ・ブレイカー》を貫き、その衝撃は黄昏にまで襲いかかる。

「っ!?」

「墓地から蘇生した《九尾の狐》は貫通効果を持っていますので。《ブレイカー》の守備力は0。よって2200の貫通ダメージを受けてもらいますので!!」

 

【黄昏】

ライフ:2900→700

 

「だが、まだライフは残ってるし問題ない」

 ニュートと同程度の大ダメージを受けて身体に軽いやけどを負ったにも関わらず、黄昏は悠然と佇んでいる。

「……本当に、頑丈という言葉で片付けて良いのかわからない耐久度ですので。《シノビネクロ》をコピーした《アイギパーン》を守備表示にして僕はターンエンドです。

 《アイギパーン》がコピーしたのは攻撃力800の《シノビネクロ》なので、《九尾の狐》はこのままフィールドに残りますので。

 それから、除外されていた《背護衛》を自身の効果で手札に加えます」

 

【ニュート】

手札:0→1

 

【ニュート】

1/700

-○△-- ◉

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【黄昏】

3/700

---○- ●

-■■■■

 

「俺のターン、2回目のドロースキップだ。にしても残念だったな。《アイギパーン》が効果使用後も《Ol-セイクリッド》の名前を維持できていたなら攻撃力を1000ポイント上昇させる効果も適応されて、俺のライフは尽きていたのにな」

「どちらにしても次のあなたのターンが来れば終わりですので」

「……俺はこのままターンエンドだ」

「ならこの瞬間《アイギパーン》のコピーは解かれます」

 

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》

ATK:800→ATK:1000

 

【ニュート】

1/700

-○△-- ◉

-----

【黄昏】

3/700

---○- ●

-■■■■

 

「僕のターン、ドロー!」

 

【ニュート】

手札:1→2

 

「僕はこのままターンエンドですので。これで終わ──」

「──エンドフェイズ時にリバースカード《荒野の大竜巻》発動。フィールドの表側表示の魔法&罠カードを1枚破壊する」

 ニュートの勝利宣言にも等しいターン終了宣言に割り込むように黄昏がセットカードを発動。

 しかし発動したカードはこの状況を打開するカードとは言いづらかった。

「今更そのようなカードに何の意味がありますので! たとえそれで《ウラメノトリア》を破壊するつもりでもプレート魔法はIVを消費すれば破壊を防げます!」

「忘れてねーよ。むしろあんたこそ忘れてねーか? プレート魔法はIVを消費すれば破壊を防げるが、それは強制効果じゃない。

 そして、フィールドを離れるプレート魔法はデッキに戻る」

「っ、ということは破壊するのは……」

「俺の《罠解卓上》だ。IVはあるがそれは使用せずに破壊。そして破壊されたプレート魔法はデッキに戻る」

 

《罠解卓上》

フィールド→デッキ

 

【ニュート】

2/700

-○△-- ◉

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【黄昏】

3/700

---○-

-■■■-

 

「さて、それじゃあ俺のターン、ドロー」

 

【黄昏】

手札:3→4

 

 2ターンぶりのドロー。回避不可能と思われた黄昏の敗北だったが、彼の奇策により補充されたカードによってこのターンを無事に迎えることに成功。決着は持ち越しとなった。

「つっても特にできることはないんだけどな。俺は再び《罠解卓上》発動してターンエンドだ」

 

【ニュート】

2/700

-○△-- ◉

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【黄昏】

3/700

---○- ●

-■■■-

 

「僕のターン……」

 

【ニュート】

手札:2→3

 

 カードを引くその手は重く、少年の表情は暗い。

 優位なのは確実にニュートなのだが、彼のデッキも残り3枚となった。唯一の救いは、デッキに1枚だけ投入した《貪欲な壺》が未だ手札、墓地、除外のどこにもないということ。

 すぐさまデッキ切れになる可能性が減ったのは確かだが、次の問題はこのままターンを重ねて黄昏のデッキ切れを待つだけで勝てるのかどうか雲行きが怪しくなってきたことだろう。

(もしあのセットカードたちがさらなる延命用のカードだった場合、ビートダウンでの決着も視野に入れなければ……

 あちらのライフはあと700。《九尾の狐》で《スクラップ・オルトロス》で攻撃して《アイギパーン》で攻撃すればそれで終わりますので)

 しかしあの伏せカードの数は無視できない。あちらのライフが700で空前の灯火なのなら、ニュートもそれは同じ。

 彼らはよく似ている。相手をこと細やかに分析して慎重にことを進めようとする部分など特にだ。ただしその分野では黄昏のほうが一枚上手なようで、今のところニュートが翻弄されている状態ではあるが……

 とどのつまり、『自分ならこうする』の最悪のパターンを相手が目論んでいても何らおかしくないということでもある。

 考えれば考えるほど思考の沼に足を取られて身動きが取れない少年。攻撃をして今このターンで決着をつけるのか。それとも……

「か、カードを1枚セットしてターンエンドですので」

「ならそのエンドフェイズ時にリバースカード《ギブ&テイク》を発動。

 墓地の《ヨーウィー》を守備表示で相手フィールドに特殊召喚する」

「また爬虫類族モンスター……」

 

《ヨーウィー》

星3・地属性・爬虫類族

DEF:500

 

 ニュートのフィールドに姿を表したのは、トカゲの頭と胴体、ヘビの尻尾、6本のゴキブリのような虫の脚というおぞましい合成獣。

 恐ろしさなら遊形のエースモンスターである《聖獣セルケト》といい勝負をしているかもしれないが、異なる生物の要素を無理やりつなぎ合わせた生理的な嫌悪感ならこのモンスターはトップクラスだろう。

 そしてこのモンスターをわざわざニュートのフィールドへ送り込んだ意味といえば……

「このモンスターの効果を発動する場合、俺はこのターン1度しか特殊召喚できないし、こいつの効果はデュエル中に1度だけしか発動できない。

 そしてその効果は、相手の次のドローフェイズをスキップさせる」

「相手のドローフェイズ、ということは……」

 

【ニュート】

2/700

-○△△- ◉

--■--

【黄昏】

3/700

---○- ●

-■■--

 

「俺のターン、《ヨーウィー》の効果でドローフェイズをスキップだ。さて、決着はまだ持ち越しだな。

 カードを2枚セットしてターンエンド」

「く……っ!!」

 

【ニュート】

2/700

-○△△- ◉

--■--

【黄昏】

1/700

---○- ●

-■■■■

 

 デッキ0の状態ですでに4度敗北(デッキ切れ)を回避して持ちこたえているのは異常という他ない。

 それ以上に異様なのは、黄昏がこの崖っぷちの中リラックスしているようにしか見えないことだ。どれか1つでもミスをすれば負けるという崖っぷちであるにも関わらず非常に自然体で、むしろ楽しんでいる節さえある。

 それがなぜなのか、それが理解できないが故にニュートは今の自分の立場が有利なのか不利なのか把握しかねていた。

 たった1枚、されど1枚。そのゴールまでは果てしなく遠い。絶体絶命な状況である黄昏の方がケラケラと笑い、有利なはずのニュートの方が精神をすり減らして今にも倒れてしまいそうだ。

「僕の、ターン……」

 

【ニュート】

手札:2→3

 

 手札に加わったカードは《増殖する悪意》。今はもう用済みなデッキ破壊要因のモンスターだった。

「僕はこれでターン──」

 そうして今までと同じように終了宣言をする直前、ニュートの脳裏にある1つの可能性が浮かぶ。

 ここまで奇策ともいえる方法で生きながらえている黄昏だが、なぜこのような回りくどい方法をとっているのだろうか……?

 すでに彼のデッキは尽き、ただ待っているだけでは新たなカードが増えることは万が一にもあり得ない。どれだけ粘ってターンを重ねようと彼の状況はジリ貧になる他なく、決着をつけられるならすでにつけているはずなのだから。

 ただ、ここで見方を変えてみよう。彼の状況はこれ以上変わらない。ならば今この状況で変わっているのはどこだろうか、と。答えは簡単だ。

「僕の手札とデッキ……?」

 仮にここまでの悪あがきが『負けないため』ではなく『勝つため』だった場合どうなるか?

 ニュートのデッキは残り2枚。そして手札には《背護衛》を含めた通常召喚可能なモンスターが3枚。どう足掻いても手札2枚は残ってしまう。

 もし黄昏が伏せてあるカードの1枚が《手札抹殺》だとしたら? 彼の手札に握られた《キラースネーク》は下級モンスターであるため彼が手札0にするのも難しくない。もし次のターンも黄昏が生きながらえたのならばデッキ切れで負けるのはニュートの方だ。

「今しか、ない……」

 2度あることは3度ある。ターンを重ねるだけで勝てる見込みが少なくなってきたのなら、次の一手を考えなければ足元をすくわれる。

「負けるわけには、いかないので!」

「……へぇ」

「僕は《アイギパーン》を守備表示から攻撃表示へ変更。そして効果を発動!

 あなたの墓地の《スクラップ・ヘルサーペント》を除外しそのカードに成り代わります。[ロード・オブ・ユニバース]」

 

《スクラップ・ヘルサーペント》

墓地→除外

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》=《スクラップ・ヘルサーペント》

ATK:1000→2800

 

「バトルですので! 《スクラップ・ヘルサーペント》で《スクラップ・オルトロス》を攻撃──」

「リバースカード《聖なるバリア-ミラーフォース-》発動。

 相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する」

「──あ」

 

《Ol-セイクリッド・アイギパーン》、《九尾の狐》

フィールド→墓地

《狐トークン》

☆2・炎属性・アンデット族

DEF:500

 

 そのカードはデュエリストであれば誰しも警戒するメジャーな反撃札。黄昏のフィールドを守るように現れた半透明なシールドは受けた攻撃を反射し、攻撃した側であるニュートのフィールドを崩壊させる。

 幸いにもがら空きにはならなかったが、残っているのは低ステータスかつバニラ同然の《ヨーウィー》1体と、《九尾の狐》の効果によりフィールドに出現した《狐トークン》2体。数は揃っているがそのステータスは心もとなかった。

 すり減った精神は間違った思考を招きかねない。だからこそ常に冷静で客観的な思考で盤面を読まなければならない。 ロックデッキやデッキ破壊等の特殊なデッキをメインで使うからこそ肝に銘じていたことだが、気づいたときにはもう遅い。

 未だ黄昏が何を企んでいるのか見えてこないが、取り返しの付かないミスをするよう誘い込まれたのはニュートにもわかった。こうなってしまえばどうやってそのミスを最小限に抑えるか考えるしかないのだが……

「ぼ、僕はセットしていた《天地返し》を発動ですので! デッキボトムのカードを手札に加え、その後デッキのカード1枚をデッキボトムへ移動させます!

 ……っ!?」

 

【ニュート】

手札:3→4

 

 少年のデッキは残り2枚。うち1枚はデッキを補充できる《貪欲な壺》であり、もう1枚も一応は延命処置と言える1枚だった。

 そうして彼の手札に加わったカードは……

「手札から《貪欲な壺》を発動ですので!

 墓地の《童妖 茶壺》、《赤鬼》、《酒吞童子》、《霊道士チャンシー》、《ゾンビマスター》をデッキへ戻して2枚ドロー!」

 

【ニュート】

手札:3→5

 

「そして墓地の《九尾の狐》の効果発動ですので! フィールド上の自分モンスター2体……《狐トークン》2体をリリースして墓地のこのカードを蘇生!

 さらに《ゾンビマスター》を通常召喚!」

 

《狐トークン》

フィールド→消滅

《九尾の狐》

墓地→フィールド

《ゾンビ・マスター》

☆4・闇属性・アンデット族

ATK:1800

 

 自身の分身を糧として再びフィールドへと舞い戻った九尾と共にフィールドへと現れたのは下級アンデットを統べるネクロマンサー。《アンデット・ワールド》こそ発動していないため組成できそうなモンスターはニュートの墓地にしか眠っていないだろうが、ほぼすべてのデッキを墓地へ送った今の状態であればこのモンスターの本領を発揮できるというもの。

「そして《ゾンビ・マスター》の効果! 手札のモンスターカードを墓地へ送ることで、自分か相手の墓地からレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚できます。

 手札の《増殖する悪意》を墓地へ送り、墓地の《轍の魔妖-俥夫》を蘇生!」

 

【ニュート】

手札:4→3

《轍の魔妖-俥夫》

☆3・地属性・アンデット族

DEF:400

 

 数多のアンデットの中からニュートが選んだモンスターは人力車を押す亡霊。そのステータスこそ下級モンスターのものだが、《魔妖》というカテゴリであればこのモンスターはその人力車を用いてさらなる援軍を呼ぶことが可能。

「さらに蘇生した《轍の魔妖-俥夫》の効果も発動ですので! このカードが召喚、特殊召喚に成功した場合、墓地の同名モンスター以外の魔妖モンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚できます。

 墓地の《麗の魔妖-妖狐》を蘇生!」

 

《麗の魔妖-妖狐》

墓地→フィールド

 

 人力車から現れしは彼のデッキの中での最高打点。効果を無効化されているため蘇生時の効果こそ使えないが、このモンスターが破壊されても次の魔妖シンクロモンスターへと姿を変えてフィールドへと君臨し続ける。その生存力は《スクラップ・ヘルサーペント》の前ではなす術なく蹂躙させられたが、逆に言えばあれほどの猛攻がなければ突破できない強固な布陣といえよう。

 そしてドローした2枚のうちもう1枚が……

「モンスターをセットし、《光の護封剣》を発動してターンエンドですので!」

 闇を照らす光が彼の周囲を守るように出現。これにてニュートの手札は1枚のみ。《貪欲な壺》により補充され、今のデッキ枚数は3枚。

 たとえ彼の想定通りに黄昏が《手札抹殺》を発動しても耐えられるようになった。

 ……つまり、だ。悩んで悩み抜いた結果、彼が取った選択肢は『逃げ』だったということになる。

 どうやら、相手の間合いに一歩踏み込んだ結果ミスをした少年に……その判断ミスで心が折れてしまった少年に、更にもう一歩危険地帯へ踏み込むという思考はできなかったらしい。

 いつかは訪れるであろう『安全な勝利』という誘惑に負けた少年はフィールドに盾となるモンスターを固め、光の剣に囲まれた安全地帯に逃げ込んでしまった。

「──やっぱ、あんたはそう決断するよな」

 予想通りと言うような、どこかがっかりしたような声色で黄昏は小さく呟いた。

「エンドフェイズ、リバースカード《バックドア》を発動。墓地の《荒野の大竜巻》、《リビングデッドの呼び声》、《スクラップ・エリア》、《貪欲な壺》、《サイクロン》をIVにする」

 

《罠解卓上》

IV:0→5

 

「さらに手札1枚を捨ててリバースカード《ブービートラップE》を発動。墓地の永続罠をセットする。

 これにより墓地の《破滅へのクイック・ドロー》をセット。そしてこの効果でセットしたカードは即座に発動できるから発動」

 

【黄昏】

手札:1→0

 

 エンドフェイズという後戻りのできないフェイズに立て続けに発動して処理されていく黄昏のセットカードたち。

 これが勝敗を決める最後のフェイズだとニュートも理解しているが、この状況で《破滅へのクイック・ドロー》を発動するなど、ニュートにはいまいち理解できない処理を黄昏は進めていく。

「そしてこれが最後。リバースカード《ステルス・リバイバル》でリバイバル召喚を行う。

 俺はレベル4の《スクラップ・オルトロス》に、《荒野の大竜巻》と《サイクロン》をインフェクト。エクストラデッキのリバイバル・モンスターへミューテーション。

 すべての道を繋げる中心点が、今ここにフィールドをかき乱す化身となる。リバイバル召喚。とぐろを巻く輪廻の渦、《ハブ・リスク》」

 

《ハブ・リスク》

☆4・地属性・爬虫類族

ATK:0→2100

 

 双頭の獣が姿を変え、現れるのは口の中が車輪のようになっている異型の大蛇。攻撃力はリバイバル召喚時にフィールドにある表側表示のカードの数×300となり、アタッカーとして十分な数値を得た。

 ただし、今このタイミングで《ハブ・リスク》を出したところでお互いの魔法&罠カードを入れ替えるぐらいしか行えることはない。

「一体何を考えて……?」

「まだピンときてないみたいだが、これが最後の処理だ。《ハブ・リスク》はエンドフェイズ時に自分と相手の魔法&罠ゾーンにある表側表示のカードを入れ替えることができる。

 俺のフィールドには《破滅へのクイック・ドロー》、あんたのフィールドには《光の護封剣》。この2枚を入れ替えさせてもらう。[エクストラ・プリアンブル]」

 

《破滅へのクイック・ドロー》

フィールド(黄昏)→フィールド(ニュート)

《光の護封剣》

フィールド(ニュート)→フィールド(黄昏)

 

 《ハブ・リスク》が天を仰ぐとその首から骨のようなものの一部が突き抜け、黄昏の《破滅へのクイック・ドロー》とニュートの《光の護封剣》に突き刺さる。

 そして口内で車輪が高速回転し、突き刺さったカードの位置が入れ替わった。

 コントロールが変わったことで《光の護封剣》が守る対象はニュートから黄昏に変わったが、もはやそんなことに意味はない。

「……まさか」

「ようやく気づいたか? 《破滅へのクイック・ドロー》はその維持コストとして発動しているプレイヤーは自身のエンドフェイズ時に700払わないといけない。

 さて、今この状況はどっちが発動したプレイヤーってことになるんだろうな?」

 ケラケラと笑う黄昏を前にして、ニュートにできることは何もない。

「あ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛──っ!!!!」

 無理やり払わされたライフコストは闇のデュエルの影響下では自分の命と言い換えても言い過ぎではない。

 ライフが残る処理であれば多少身体から力が抜ける程度の感覚だが、この処理でライフが0となれば話は別。系統としては貧血のような全身から力が抜ける感覚だが、危険度はその比ではない。

 気力で持ちこたえることすらできず、ただ断末魔の如く声を出すのが精一杯だった少年はその場に崩れ落ちた。

 

【ニュート】

ライフ:700→0

 

 

 デュエル終了のブザーが鳴り終わり、それに伴い周囲を囲んでいた炎の壁もいつの間にか消滅していた。

 にも関わらず空が未だに暗いままだったが、時刻はすでに19時を回ろうとしている。デュエル中に夕焼けから夜空へと移り変わっていたらしい。

「……やっぱ星の守護者(セイクリッド)じゃないから、《Ol-セイクリッド》も俺のデッキには移動しないか」

 すでにエヴァとの戦いでそれは証明されているが、もしやと思いデッキを確認するも思惑通りにはいかなかった。

「何故……ですので……っ!」

 弱々しく、しかし怒りを含んだ声が黄昏に投げかけられる。見れば、満身創痍で身体も動かせない少年が、首だけをこちらへ向けて睨んでいた。

「デッキが0になった時点で《ミラーフォース》を伏せていたのなら、発動できるタイミングはもっと前のターンでもあったはず!

 それにさっきの布陣なら《リビングデッドの呼び声》でモンスターの蘇生、もし《ジャンク・コレクター》を蘇生すれば墓地の他の罠カードも利用できてもっと安全策を取れていたはずですので!

 いや、それ以前に手札にIV要因のカードと《ステルス・リバイバル》があったなら、追撃で適当なリバイバルモンスターや墓地のモンスターを蘇生すれば勝負は決まっていたはずですので!!」

 考えれば考えるほど不可解なプレイングを行った黄昏に対し、それらの疑問だけは問いたださなければいけないという強い信念を感じる言葉に、冷たい目をしていた黄昏は目をつぶり一呼吸をおいた。

「少し試してみたくなった」

「ため、す?」

「実力やデッキの相性その他諸々を加味したとして、今回のデュエルは俺の方が勝つ可能性が高かった。

 そんな状況でOl(オーバーライン)-セイクリッドっつうイレギュラーが現れるとどこまで戦況が変化するのか、今後のことを考えれば確認しておくに越したことはないだろ?」

 事実、フィールドのモンスターを一掃された直後にOl-セイクリッド及びそれに関連したカードによって黄昏の布陣は切り崩されてしまった。

 黄昏のデッキが『破壊』を主な起動条件にしている《スクラップ》だからこそあれで済んだものの、もし他の……リリアのデッキが相手だった場合はどんな状況になっていたかわからない。とはいえ……

「もしそれでこのデュエル負けていたらどうするつもりだったので?

 多少は頑丈なようですが、当然命の危険もあったはず」

「俺が勝ったところで星の守護者(セイクリッド)の加護は奪えないからな。なら俺の役割は拘束できるレベルで相手を疲弊させつつ勝つか、相手の情報を得ること。まあそれが無理なら最悪は時間稼ぎだな。

 適材適所ってやつだよ。あんただって、変装技術があるからそれを活かせる動きをしてるだろ?」

 勝敗よりも敵情視察を目的とする、という言葉だけであればそれも一つの戦略ととれるかもしれないが、彼らの行っていたデュエルは命の危険すらある闇のデュエルだ。

 例えるならば目の前で時限爆弾のカウントが刻一刻と迫る中、爆弾処理をそっちのけで爆弾の入手ルートや犯人の思惑などを考えるようなもの。加えて自分が死ぬつもりはなく、されど死んでしまえばその時はその時という潔さまである。

 自己犠牲という言葉も生ぬるい。

「……狂ってる」

 一般的な思考回路からあまりにもかけ離れたそれを、ニュートはその言葉以外で彼を表現する言葉を持ち合わせていなかった。

 対する少年も自覚はあるようで、その言葉に否定も肯定もせず肩をすくめていた。

「さて、動けないようならこのままセキュリティに突き出して、知ってる情報洗いざらい吐いてもらうか」

 言いながら黄昏が懐から取り出したのはセキュリティが利用している手錠。当然彼の私物ではなく、以前の天宮が死にものぐるいで抵抗してきた経験から学び神埼から(勝手に)拝借していたものだ。

 しかしそれを阻止するように、彼の死角から巨大な火球が飛来し少年の身体を包み込んだ。

「──ナイス《ゴブリン》」

『事前にわかっていたとしても心臓に悪いッス!』

「毎回無茶してもらって悪いな。ゆっくり休んでくれ」

 黄昏に直撃したと思われた火球だが、実際はその直前に割って入った相棒がその小さな身体で火球を防ぎきっていた。

 だが相棒は己の効果によってバラバラに分解してしまい姿を消してしまう。

「……そう驚くなって。デュエルする前に篠原がいるかどうか聞いただろ?

 あのときの反応で待機してるのはわかってたから、おびき出すためにわざと隙を見せてただけだ」

 目を見開いて絶句する少年に状況を説明しつつ己の端末を操作。そして一度目のコール音で繋がった通話相手に向けて状況を伝える。

「俺がいる場所から6時の方向で、距離は300m。たぶん1階にしかテナントが入ってないボロビルだろ、位置的に。

 そんじゃ、残骸になってたD・ホイールの回収手続きをしてくれた借りは返したぞ、()()

 相手から返答はなく、即座に切られるが、一際大きなモーメントの回転が遠くから響き渡った。後は彼らの問題だ。

「さて、これであんたの懐刀はいなくなった。改めて色々質問といこうか。さっき俺に打ち込まれた《黒炎弾》が闇のデュエルのように実体化してたことに関しても──あん?」

 疲弊して動けない少年のもとに歩み寄ろうとした直前、光の剣が二人を隔てるように現れた。

 それに伴い黄昏の動きが『ニュートに近づこうとする』という行動のみ制限するように不可思議な圧力が加わる。

 腕を動かすことすらできない満身創痍な少年は何も出来ていない。とすれば考えられるのは周囲に彼の部下が控えていたということ。

 見た目や効果からして、今サイコパワーで実体化させているのは十中八九《光の護封剣》で間違いない。

 デュエルを申し出ず、されどサイコパワーで攻撃もせず時間稼ぎに専念しているのは、今のまま挑んでも黄昏は倒せないと判断したからか。そしてこの安全地帯が解けるまでに十分な人数を揃えようとしているのだろう。

「この程度ならどうとでもなるけど……」

 相手は複数人のサイコデュエリストであるにも関わらず、それを気に留めた様子もなく黄昏は目の前のニュートでも背後の神崎たちでもない方角へと顔を向ける。

 その長い前髪の隙間から覗く目を細め、小さく舌打ちをすると、その手に持っていた手錠を懐に戻す。

「あんたに構ってる暇はなさそうだ」

 そう告げると黄昏は踵を返し、早々にその場をあとにした。

 足音がこの場から遠のいていくにつれ、周囲を重く支配していた重圧が軽くなっていくのがわかる。

「本当に、化け物ですので……」

 蛇に睨まれた蛙状態から開放され、安堵のため息と共に少年はたまらずそんな言葉を呟いた。




これにてVSニュート戦終了です

わりと無茶苦茶なカード選びをしてると思いますが、デッキ破壊に対する対応として普通とは違った対処をする異常性を描けたかなーと、結構気にっているデュエルです

次回も引き続きデュエル回になる予定です


※2023/12/31
アンケートは39話にて大きく描写を変えたものに対してものです。
1つの話にまとめて表示するのは無理そうなので、急遽ここへ移動させてきました。
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