今後のデュエルはこの表記方法で表示していきます
| 【甘音】 0/3550 --○○- ○ -■■■- |
| 【リリア】 3/2900 --△-- --□□□ |
「アタシのターン、ドロー!」
手札:3→4
「っ、や……っ! あ、うー……」
おそらく望んだカードが来たのだろう。目に見えてその表情が明るくなるが、その勢いに任せてプレイミスをした回数も数知れず。
言葉こそ発しないが彼女の隣で目を光らす親友により、上がったテンションのまま本能的に行動をしないように身体を縮こめた。
「えっと、まずは除外されていた《聖騎士の槍持ち》がスタンバイフェイズが戻ってくるよねー?」
除外→フィールド
「それじゃあ《聖騎士の槍持ち》の効果発動ー! このカードをリリースすることで、デッキから装備魔法を一枚手札に加えるよー。
手札に加えるのは《折れ竹光》。そしてそのまま《騎士デイ・グレファー》へ装備ー!」
フィールド→墓地
【リリア】
手札:4→5→4
《聖騎士の槍持ち》からリリアへと手渡され、《騎士デイ・グレファー》へと託されたのは武器としては役に立ちそうにない折れた竹刀。その証拠に装備したところでステータスの変動も何も起こらなかった。
しかしその装備魔法が強力な効果を発動するための呼び水であることはこの場の全員が承知している。
「続けて手札から《黄金色の竹光》を発動ー! 自分フィールドで《竹光》カードが装備されてる時カードを2枚ドロー!」
「ならそのドローに合わせて伏せていた《ドロー・ディスチャージ》を発動です。相手の効果で相手がドローした場合にそのカードを確認し、モンスターが含まれていたならその攻撃力の合計のダメージを与えた後ドローした手札を全て除外します」
「うぇ!?」
その効果は条件さえ整えば複数枚を除外できるうえバーンダメージも発生するものの、《強烈なはたき落とし》のように確実に除外できるわけでもない。下手をするとドローカードをピーピングするだけで終わる可能性もある博打にも関わらず、彼女が迷う様子もなくそのカードを発動したのはリリアの引きの強さを信じていたからだろう。このタイミングのドローであればこの状況を打開する強力なカードを引くのだ、と。
実際その読みは正しかった。唯一の救いは、引いたもう1枚がフリーチェーンの速攻魔法だったことか。
「だ、だったらその効果にチェーンして今引いた《ダブル・サイクロン》を発動ー! 自分と相手の魔法・罠カードを1枚ずつ破壊!
えっと……《大胆無敵》と《フューチャー・ヴィジョン》を破壊だよー!」
「ではもう1枚のドローカードだけ見させてもらいます。……《サンライト・ユニコーン》ですか。ではその攻撃力の1800ポイントのダメージと、そのカードを除外です」
フィールド→墓地
手札:3→5→3
ライフ:2900→1100
《大胆無敵》
フィールド→墓地
本来であれば《フューチャー・ヴィジョン》を破壊して再びフィールドに現れるはずだった霊獣はその役目を果たせずに次元の狭間へと飲み込まれてしまった。
《死なばもろとも》により《D・D・R》もデッキへ戻ってしまったため、それを再び引かない限りは帰還は絶望的だろう。
「でも、《フューチャー・ヴィジョン》がなくなったのなら心置きなく通常召喚が出来るってことだよねー!
お待たせ《 クリバンデット 》、出番だよー!」
……一応《奈落の落とし穴》等が伏せられている可能性は十分にあったのだが、運良く呼びだされたモンスターはその条件に満たない攻撃力のモンスターだった。
その少々ワイルドさが増した《クリボー》のようなモンスターは、リリアのような魔法や罠が大量に投入されたデッキでは最大限に活躍できる毛むくじゃらなマスコットだった。
ステータスは低く、甘音のモンスターを戦闘破壊できるものではない。しかしこのモンスターの真価はそこではない。ゆえにリリアはバトルフェイズすら放棄してエンドフェイズへと移行。
「そしてエンドフェイズ、このターンに召喚した《クリバンデッド》の効果を発動してリリース! デッキトップから5枚めくり、その中から魔法か罠カードを1枚手札に加えるよー!
よしっ、アタシが選ぶのは《士気高揚》! それ以外はすべて墓地へ送られるんだけど、送られたカードの中に《魔サイの戦士》があったからデッキから《魔サイの戦士》以外の悪魔族モンスターを墓地へ送るねー。
これでアタシは《サクリボー》を墓地へ送って……それから《騎士デイ・グレファー》の効果で墓地から装備魔法の《魔導師の力》を手札に加えてターンエンドだよー」
手札:3→4→5
| 【甘音】 0/3550 --○○- -■■■- |
| 【リリア】 5/1100 --△-- --□□□ |
《黄金色の竹光》で流れを変えようとしたのを阻止され、それでもなお持ち直すことができたリリアは至極ご満悦の様子。しかしその一部始終を傍観していた葵は、何やら難しい顔で顎に手を置いて考え込んでいる様子。
「けどリリア。今リリアの墓地って《妖刀竹光》が落ちてるよね?」
「え、あ、うん。そうだねー?」
「たしかあれって装備状態で他の《竹光》装備魔法をバウンスすると、装備モンスターがダイレクトアタックできるようになる効果あったと思うんだけど……
《クリバンデット》で《魔導師の力》の方を選んで、《妖刀竹光》の方をサルベージしてたら次のターンに決着付けられたんじゃ……?」
「…………………………ぁ」
開いた口が塞がらないとはまさにこういう状況を言うのだろう。リリアの混沌としたデッキは装備魔法を使う割にビートダウンをあまりしないのが特徴だ。そのため《妖刀竹光》も《折れ竹光》や《黄金色の竹光》をサーチする要因となっていたというのはわかる。複数の効果のうち、片方だけを多用しているともう片方の方が適しているとしても気づかない、というのも誰しも経験があるプレイミスだろう。
ただ、そのミスが下手すると勝敗を分けたとなるとその後悔は計り知れない。
あまりの動揺から油をさし忘れたブリキのようなぎこちない動きで甘音の方を見るも、彼女は彼女でリリアの方を見ていられないほど余裕がないらしく、肩で息をしながら自分のターンを始めようとしていた。
「私のタ……っ!」
震える指でデッキトップに手をかけ、ドローを宣言する直前、甘音は突然口を閉じてデッキトップから手を離した。まるで、デッキトップから反射的に逃げるように。その様子にリリアは首を傾げるが、その隣に立つ葵の表情は強ばり、隣の親友を庇うように無意識に半歩前へ出た。
一度経験したからこそ嫌でもわかる邪悪な気配。十中八九あのデッキトップは『あのカード』で間違いない。
「でも、もう止まれない……!
私のターン、ドローです!」
手札:0→1
「私はまず伏せていた《トロイア・インフェクト》の効果を発動です! 手札のプレート魔法1枚を相手へ見せ、その後デッキ・墓地からフィールド魔法1枚を選択して発動。その後、見せたプレート魔法も発動します。
私は手札の《ウラメノトリア》の効果を見せ、墓地の《フューチャー・ヴィジョン》と共に発動! そしてこの《トロイア・インフェクト》は発動後墓地へは送られず自分のプレート魔法のIVとなります」
手札:1→0
《ウラメノトリア》
IV:0→1
ようやく破壊できた幾何学的な模様が再びフィールドへ展開され、日が暮れて間もない夜空に本来の星とは別で淡い光を放ち始める偽りの星座たち。
それは
そんな片割れだけの発動だというのに、何か空気が変わったのは明確だった。リリアもそれを感じ取ったようで、無意識に葵の袖を掴んでいる。
「そして《ウラメノトリア》の効果です! デュエル中に1度だけ、墓地の魔法・罠カードを任意の数このカードのIVにします。
私は墓地の《融合》《運命の裏ドラ》《死なばもろとも》《次元幽閉》をIVへ。……念のため説明しますが、この効果を発動したターンは手札、もしくはフィールドの表側表示の魔法・罠カードをIVにするルール効果は使用できなくなります」
IV:1→5
「では、
《終末の騎士》を特殊召喚です」
IV:5→3
《異次元の生還者》
フィールド→墓地
《終末の騎士》
墓地→フィールド
プレート魔法のIVも最大値まで溜まり、牡羊座の《Ol-セイクリッド》が現れるかと身構えていた葵と状況を掴めていないリリア。
しかし実際に《異次元の生還者》が姿を変えたのは、このデュエルでも1度見た黒衣の騎士だった。どうやらまだ準備の方は終わっていないらしい。
「そして《終末の騎士》が特殊召喚されたことでその効果を発動です。デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送ります。
私はデッキの《亡龍の戦慄-デストルドー》を墓地へ。……そしてその《デストルドー》の効果を、発動です!
ライフを半分支払い……っ、フィールドの《終末の騎士》を選択。選択したモンスターのレベル分《デストルドー》のレベルを下げながら墓地から特殊召喚します![破滅疾走]」
ライフ:3550→1775
《亡龍の戦慄-デストルドー》
墓地→フィールド
レベル:7→3
再びその身を削り、呼び出される骸の龍。その効果の関係上、選択したモンスターとチューナーである《デストルドー》のレベルの合計は必ず7になる。
そしてレベル7で彼女が所有しているシンクロモンスターといえば……
「私はレベル3となった《亡龍の戦慄-デストルドー》でレベル4の《終末の騎士》をチューニング。シンクロ召喚、再び往来せよ《PSYフレームロード・Z》!」
「っ、でも今の《騎士デイ・グレファー》なら除外効果は効かない、だよねー……?」
フィールド→デッキボトム
《終末の騎士》
フィールド→墓地
空間を歪めフィールドに現れた鎧に身を包んだサイキッカー。その余りある念動力を電気に変換し周囲へ放電し続ける光景はそれが無害だとわかっていても威圧感が凄まじい。
ただしリリアの言う通り、そのモンスターが相手モンスターと共に
とはいえ、それがわからず身を削るほど目の前の女性が愚かでないだろう。それとも『デストルドー』の名の通り自ら破滅へと向かっているのか……
思惑を察しきれず怯えるリリアを慰めつつ、葵の瞳が捉える甘音が浮かべていた表情は……微笑だった。
「これが最後です。私は伏せていた《バトル・テレポーテーション》を発動です! 自分フィールドにいるサイキック族モンスターが1体だけの場合、そのサイキック族モンスターを対象に直接攻撃を可能にします。ただし、選択したモンスターはこのバトルフェイズ終了時にコントロールが相手へ移ります」
使用したのはサイキック族を対象とする限定的なカード。今までのカードの傾向からして彼女のデッキの基盤となっているのは《ゼータ・レティキュラント》を始めたとしたトークンの使用、及びその効果を恒常的に使用するための除外ギミックだ。所々でドラゴン族が出る様子はあるものの、サイキック族は《PSYフレームロード・Z》以外に出ていない。
サイキック族には除外をギミックとするモンスターも多いため、このデュエルで出ていないだけでデッキには大量に眠っているのかもしれない。
「バトルです。《PSYフレームロード・Z》でリリアさんへ直接攻撃![セプタプル・ウェーブ]」
断続的に放電を繰り返している《PSYフレームロード・Z》の放電が一層強さを増すと、その周囲が歪み始める。そしてその身に七色に輝くオーラを纏ったかと思えば姿を消し、次の瞬間にはリリアの目の前へと現れた。
纏った七色のオーラはその輝きをより一層強め、まもなくしてそれは一筋のレーザーとなって放たれる。直撃すれば敗北は必至。
しかし、主を守るべく身構えていた《騎士デイ・グレファー》は瞬間移動に反応できずその場に佇んだまま動けていない。
「──ダメージ計算時、手札の《クリボー》を捨てて効果を発動するよー! この戦闘で発生する戦闘ダメージを0へー!」
相手の攻撃が迫る中、少女を敗北から守りきったのはまた別の……というより数多のシリーズの原点とも言える毛むくじゃらなモンスターだった。ステータスは決して高いとは言えないが、その身を犠牲に主を守る献身さはどんなモンスターにも劣らない。小さな身体を目一杯に広げ、迫りくるレーザーを凌ぐことで見事に主を敗北から守りきった。
手札:5→4
「ありがとう、《クリボー》!」
消えゆく姿に目一杯の称賛を送る。そんな親友を横目に相手の動向を見逃さないと注視していた葵は、その小さな違和感に眉をひそめた。
《死なばもろとも》を発動した頃から立て続けのライフコストで苦しんでいた甘音は見ている側からも痛々しかった。それがこのターン改めて《PSYフレームロード・Z》を呼び出す辺りから、これまでの苦しみなどなくなったかのようにうっすらを笑みを浮かべているのだ。
てっきり《PSYフレームロード・Z》からの《バトル・テレポーテーション》で勝ちを確信したから笑みを浮かべたのだと思われたが、この状況になってもその表情が崩れることはない。
「というよりあれは……」
……このあたりは、良くも悪くも外面が重要になる『アイドル』という職業に就いている少女だからこそ気づいたのかもしれない。
──その笑みが、無理やり笑顔で固定されているかのように歪で無機質なものに見えてしまったのだから。
それほどまでに、先ほどまでの女性とは別人なのだ。慣れないながらも敵対者として振る舞おうと努力し、それでも人違いで闇のデュエルを始めてしまうことに謝罪をしていたような女性の影はどこにもない。今そこに立っているのは、戦うために必要なもの以外を切り捨てられた機械といってもいいだろう。
「私はバトルフェイズを終了します。何か他に処理はありますか?」
「っ!? な、ない……です」
言葉遣いなどに大きな変化はないが、聞こえてくる声はどこか平坦で冷たかった。その歪さを感じ取ったリリアは数十秒前の喜びなど消え失せ、怯えるように首を振る。
「ではこの瞬間《バトル・テレポーテーション》の効果を得ていた《PSYフレームロード・Z》のコントロールはリリアさんへと移ります」
フィールド(甘音)→フィールド(リリア)
瞬間移動でリリアの目前に迫っていた甘音のモンスターはその場で身を翻し、先程まで攻撃対象だったリリアを守るように元の主と対峙する。
厄介なモンスターだが味方となればこれほど心強いものはない。さらにこのコントロールは永続的なものであり、《PSYフレームロード・Z》の効果は帰還を特殊召喚として扱わない一時的な除外。この組み合わせであれば効果を使用したとしても帰還する際はリリアの元へと戻ってくる。
……なのだが、なにやら様子がおかしい。
「これって、リバイバル召喚の……?」
《PSYフレームロード・Z》の身体を0と1の羅列が囲い始め、その身体が違うものへと変質していく。
だが今はまだバトルフェイズ終了時であり、メインフェイズには移行し終えていない。なにより、リリアのフィールドにはプレート魔法はもちろん、エクストラデッキにリバイバルモンスターは存在しないのだ。
「先程《終末の騎士》をリバイバル召喚する際に使用した《トロイア・インフェクト》の効果です。
IVになっていたこのカードが墓地へ送られたターン中、相手フィールドに存在する元々のコントローラーが自分のモンスター1体を選択して発動。選択したモンスターをデッキへ戻し、そのモンスターと同じレベルのリバイバルモンスターをEXデッキか墓地からリバイバル召喚扱いで特殊召喚します。
《バトル・テレポーテーション》の効果により《PSYフレームロード・Z》のコントロールが移りましたのでその条件を満たしました。
……一応補足しますが、この効果に対して他のカードをチェーンすることはできません。ですので《PSYフレームロード・Z》自身の除外効果でサクリファイス・エスケープは不可能です」
『っ、まずいのが来ますです!!』
後方で待機していた《リヴァイエリア》が叫ぶと同時に、周囲の空気が一段と重くなった。これは、間違いなく仕掛けてくる……!
現在敵対する相手が該当する星座は本人曰く牡羊座。羊を模したモンスターといえば《神羊樹バロメット》などが存在するが、彼女が使用していたデッキから察するに該当するのは《スケープ・ゴート》等の《牡羊トークン》だろうか。仮にもしそうだとしても、そのカードが変質するとどうなるのか全く想像がつかない。
固唾を呑んで見守っている視線の先で、放電し続ける戦士は段々とその姿を変えていく。
「レベル7の《PSYフレームロード・Z》をエクストラデッキのリバイバルモンスターへミューテーション。
竜に守られしその輝きは救済の魔の手。リバイバル召喚! 破滅を導く金色の毛皮、《 Ol-セイクリッド・ゴールデンフリース 》」
フィールド→EXデッキ
フィールドに舞い降りたのは、翼を持つ美しい金色の毛並みの獣。……いや違う。これは
今までに見た《Ol-セイクリッド》は広がろうとする宇宙空間を鎧によって拘束し、該当する星座に準じた形に固定するような容姿であった。目の前の牡羊も禍々しい輝きを放つ黄金の鎧を頭部に装備しているが、一見すると普通の羊のように感じられる。
だが目を凝らしてみると、その金色になびく羊毛の隙間が僅かにめくれており、その内部は他の《Ol-セイクリッド》と同様に宇宙空間のような漆黒の闇が渦巻いていた。つまりこの毛皮が他の《Ol-セイクリッド》の鎧に該当するのだろう。
普通に見えるからこそ異様さが際立っている守護獣は広げていた翼を折りたたみ、フィールドにその蹄を打ち鳴らした。
「そして《トロイア・インフェクト》の効果はまだ続きます。この効果でリバイバル召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを相手へ与えます。
《ゴールデンフリース》の攻撃力は本来0ですが、《ウラメノトリア》の効果により《Ol-セイクリッド》と名のつくモンスターの攻撃力は1000ポイント上昇します。よって1000ポイントのダメージです」
ATK:0→1000
ライフ:1100→100
「私はこれでターンエンドです。
補足をしておきますが、《ウラメノトリア》の効果が適応されている限り、《Ol-セイクリッド》の戦闘で発生する私へのダメージは0になります。
また、《ゴールデンフリース》の効果により自分のフィールドにドラゴン族モンスターが表側表示で居る限り、相手はドラゴン族モンスター以外を攻撃対象にはできず、効果の対象にもできませんので、お忘れなく」
| 【甘音】 0/1775 -○○-- ◉ -■-■- |
| 【リリア】 4/100 --△-- --□□□ |
なんとか危機を乗り越えたリリアだが、追い打ちをかけるようにフィールドに舞い降りた新たな《Ol-セイクリッド》の名を持つモンスター。
一見戦闘能力はないように見えるが、それ故にどんな効果を持っているのかわからなかった。
そしてそれは雰囲気が変わった甘音にも同じことが言える。
「あおいん……」
「リリア、怖いと思うけど今のリリアなら絶対に負けない。私が保証するから、いつも通りのデュエルを意識して、ね?」
未知のモンスターと相手の謎の豹変。不安要素しかないが、それを気にしていてはリリアのデュエルの精度に影響が出る。
故に葵は親友の不安を軽減するように笑って語りかけた。他ならぬ彼女自身の手が恐怖で震えているのが相手に伝わらないことを祈って。
そんな少女の祈りが功を奏したのか、多少なりともその目に力強さが戻った親友は相手をまっすぐ見据えてデッキトップへ指をかける。
「アタシのターン、ドロー!」
手札:4→5
「ええっと、まずは……」
「……………………」
「あ、うう……」
手札にあるのは潤沢な装備魔法の他に《クリバンデット》の効果で加えた《士気高揚》などだ。
この永続魔法は装備カードがモンスターに装備されるたびにライフを1000回復するカードだが、装備カードがフィールドを離れるごとに1000ポイントのダメージを受けてしまう。
基本的に考えてまずは回復してからダメージが発生するため、マイナスになることは考えられないが、現在は《ラプテノスの超魔剣》や《シンクロ・ヒーロー》がすでに装備された状態だ。
ライフがセーフティラインを超えているこの状況で発動するわけにはいかないだろう。
いかにリリアと言えどそれぐらいは理解しているのだが、隣で不安そうにしている親友の視線が痛くて肩をすくめていた。ここまでの数多のプレイミスで信用が地に落ちているため、自業自得かもしれないが……
「じゃ、じゃあ《騎士デイ・グレファー》を攻撃表示に変更してっと……たしか今の状態だと《イーバトークン》や《ゴールデンフリース》は攻撃できないんだっけ? じゃあアタシは《ビッグバン・シュート》と《魔導師の力》を《騎士デイ・グレファー》に装備ー! これで装備モンスターは貫通効果と攻撃力が400ポイント上昇して、さらに自分フィールドの魔法、罠カードの数×500ポイントアップするよー。
アタシの魔法・罠ゾーンには5枚のカードがあるから、攻撃力はさらに2500ポイントアップー!」
DEF:1600→ATK:2300→2700→5200
「バトル! 《騎士デイ・グレファー》で《ワイアーム》を攻撃ー![紫電双閃]」
「ふふ、この瞬間《ゴールデンフリース》の効果を発動です。このカード以外が攻撃対象となった相手モンスターの攻撃宣言時、このカードと攻撃宣言したモンスターを除外することでバトルフェイズを終了させます。[サーヴェイション・オルタナティブ]」
「うえぇっ!?」
フィールド→除外
フィールド→除外
《ラプテノスの超魔剣》、《魔導師の力》、
《折れ竹光》、《シンクロ・ヒーロー》、
《ビックバン・シュート》
フィールド→墓地
過剰なまでの火力を得て《ワイアーム》に向けて接近する《騎士デイ・グレファー》の前に《ゴールデンフリース》が突然立ちはだかった。
熟練の戦士は即座にそれに対応しようとするも、黄金の羊がその皮膚を風呂敷の様に展開。その内に広がる宇宙空間に《騎士デイ・グレファー》を閉じ込め、自身も次元の隙間へと消えてしまった。
ライフも崖っぷちの状況でリリアのフィールドにモンスターは0。対する甘音のフィールドには攻撃可能なモンスターが健在。
いきなりこんな崖っぷちへと転がり落ちてしまい、当然隣にいる親友からの視線は痛い。
「リリア、後で説教ね」
効果も詳しく確認せずなぜ攻撃したのか、とか。《魔導師の力》はセットカードも換算されるのだから《ビッグバン・シュート》はセット状態で残しておいて、場合によっては《ワイアーム》に装備することでデメリット効果で除去する方法を探すこともできたのではないか、とか。いつも通りのデュエルをしてと言った矢先にこれか、とか。
言いたいことは山ほどあるが今はそれどころではないため言葉を飲み込み、ただしこの後のお仕置きだけは宣言して葵は口を閉じた。
「あ、あわわわわわわわ……っ! だい、大丈夫だよ!? まだ負けてないからっ! ね、ねっ!?」
「取り込み中のところ失礼しますが、リリアさんのカードが除外されたので《イーバトークン》が新たに生まれたことはお忘れないく」
「わーん!!!!」
追い打ちで状況が悪化したことで若干涙目になる金髪少女。
「うう、頑張らないと……
呪文のように自分の鼓舞して手札のカードに目を通していくが、今の彼女の手札では通常召喚できるモンスターしかおらず、出せたとしても《フューチャー・ヴィジョン》によって一時的に除外される状況だ。
……とはいえ一応勝ち筋は見えてきている。問題は必要な手札が揃うまで……最低でも次のターンまで凌がなければならないということ。
逆に、次のターンまで凌ぐだけならモンスターをセットで出せば除外もされず、今の手札でも十分に対処できるものの、逆転は絶望的になるのだ。
選択肢はあってないようなもの。だが少女は決断しあぐねていた。……なお命の危険があるデュエルで負けるかもしれないという恐怖からではなく、次プレイミスしたら親友から鉄拳制裁でも受けるのでは、という至極日常的なプレッシャーによるものだが。
それから十秒程度悩み、やはり手段は1つしか無いと判断した少女。一見プレイミスと判断されかねない行動だが、それこそが打倒のための一手なのだと周囲に納得させられるように自信を持って。
「お願い、《 ガンバラナイト 》」
少女を守護するべく新たに馳せ参じたのは、身の丈ほどある巨大な盾を両手に携えた甲冑の騎士。その攻撃力は0であるが、リリアの逆転の一手になくてはならないキーカードである。ただ……
「……………………え?」
「あれ?」
なんとも言えない沈黙のあと、引きつった笑みを浮かべる葵。そんな親友の表現しづらい表情を見たリリアはまた何かミスをしたのかと自分の手札とフィールドを交互に確認し始めた。
そういうことではない、と葵がジェスチャーをするものの、リリアはかえって混乱してしまったらしい。そんなどこか締まらない親友に対ししばし考え込み、葵は自分が反応したことを後悔しながらも簡潔に説明しはじめた。
「いやだって、
「ん……んんっ!? いやっ、ち、ちが……っ!? そういうつもりで出したんじゃないからね!?
偶然! 偶然だからー!!」
案の定顔を真っ赤にして両手も首も振って全力で否定する金髪少女。ただでさえ寝癖のようにくせっ毛な髪がさらにボサボサになっていく光景にクスリと笑う葵と、それを見てさらに慌てるリリア。
場の緊張感が程よく、いや必要以上にほぐれたところで、沈黙を貫いていた甘音が小さく笑う。その笑みは無理やり貼り付けた歪ななものではなく、自然に溢れたものに違いなかった。
「モンスターが通常召喚されたので《フューチャー・ビジョン》の効果を発動です。《ガンバラナイト》を次のリリアさんのスタンバイフェイズまで除外します。
さらに墓地の《ゼータ・レティキュラント》の効果で私のフィールドには《イーバトークン》が1体特殊召喚されます」
フィールド→除外
「うう……、アタシはこのままターンエンドー!!」
《ガンバラナイト》が除外されてがら空きのリリアのフィールドに対し、モンスターがフィールドを埋め尽くす勢いでトークンが生成されていく甘音のフィールド。状況は最悪ながら本人はそれどころではなく、まだ恥ずかしさで顔が赤いリリアは少々投げやりに終了を宣言する。
その瞬間、1体の《イーバトークン》の背後が不自然に歪み、その1体を包み込むように次元の狭間から黄金の羊がフィールドへ舞い戻った。
「《Ol-セイクリッド・ゴールデンフリース》が効果を発動したエンドフェイズ時、自分フィールドのモンスター1体を除外することで、除外されているこのカードはフィールドへ戻ってきます。
私は《イーバトークン》を除外して《ゴールデンフリース》を帰還です」
フィールド→消滅
《Ol-セイクリッド・ゴールデンフリース》
除外→フィールド
| 【甘音】 0/1775 -○○○- ◉ -■-■- |
| 【リリア】 2/100 ----- ----- |
「私のターン、ドローです」
手札:0→1
現在のフィールドのままあればリリアはこのターンを凌いだ上で次のターンに繋げられる確信がある。逆に言えば唯一懸念すべきはこの甘音のドローのみ。
「バトルです。《ワイアーム》でリリアさんへ直接攻撃![原始の咆哮]」
息を呑んで見守る中、彼女の並べた下僕の中でもっとも攻撃力の高い一撃がリリアへと向けられる。
明らかなオーバーキルではあるが、何をしでかすかわからないリリアへの攻撃として、攻撃力や耐性などを考慮した結果その選択に至ったのだろう。
そして当然ながら、リリアもそれを黙ってみているわけではない。
「その直接攻撃宣言時に手札の《アンクリボー》の効果を発動ー! このカードを手札から捨てて自分か相手の墓地のモンスターを特殊召喚するよー!
アタシが蘇生させるのは《終末の騎士》!」
手札:2→1
《終末の騎士》
墓地→フィールド(リリア)
新たなクリボーシリーズは額のアンクを含め全身に装飾を施された神秘的な姿。その効果はエンドフェイズまでしか効果を維持できない代わりにあらゆるモンスターを蘇生できる。
防がなければ負ける状況でリリアが墓地から呼び戻したのは、フィールドに現れた際にデッキから闇属性モンスターを墓地へ送れる万能墓地肥やしの黒騎士。
「そして《終末の騎士》の効果でデッキから墓地へ送るのは《生きる偲びのシルキィ》だよー!」
「厄介な効果を持った《クリボー》シリーズですね。ですが墓地肥やしをしてもこのターンを防ぎきらなければ意味がありません!
攻撃続行です。《ワイアーム》で《終末の騎士》を攻撃。[原始の咆哮]」
一時中断された攻撃を再開し、放たれる翼竜の咆哮。呼び出された時点で効果を使い終えた者にその攻撃に対抗する術はなく、一時的にリリアの味方をしてくれた騎士は跡形もなく粉砕させられた。
フィールド(リリア)→墓地
「続いて《ゴールデンフリース》で直接攻撃です。これで──」
ここまで幾枚もの《クリボー》シリーズで危機を凌いできたリリアだが、その最後の手札は《士気高揚》。攻撃を防ぐ防御札にはなり得なかった。
故に迫りくるモンスターの攻撃に対して、リリアの手札にはその攻撃を止めるすべはない。
そう、
「──墓地の《クリボーン》の効果を発動だよー!」
「また別の《クリボー》モンスター……っ!?」
「えっへん! 相手モンスターの攻撃宣言時に墓地の《クリボーン》を除外することで、墓地の《クリボー》と名のつくモンスターを任意の数特殊召喚できるんだよー。
みんなもう一度お願い! 《 クリボー 》、《 アンクリボー 》、そして《 サクリボー 》!
墓地→除外
《クリボー》、《アンクリボー》、《サクリボー》
墓地→フィールド
墓地へと繋がるゲートからあふれるようにフィールドに並んだ三者三様の姿の《クリボー》たち。そのステータスは決して高いものではないが、迫りくるモンスターの攻撃を凌ぐだけであれば十分だった。
「ならばその全てを破壊するまでです! まずは巻き戻し発生後に《ゴールデンフリース》で《クリボー》を戦闘破壊。
さらに伏せていた《竜巻還帰》を発動です! 除外されている自分または相手モンスター1体を特殊召喚します。
私が特殊召喚するのは《 風の天翼ミラドーラ 》。
これで残る《イーバトークン》1体と《ミラドーラ》で《アンクリボー》、《サクリボー》を戦闘破壊!」
フィールド→墓地
その宣言通り残るすべてのモンスターの総攻撃により、蘇った《クリボー》たちはことごとく葬り去られてしまう。
だがその尊い犠牲によりリリアのライフは首の皮一枚繋がっただけでなく、次のターンに必要な下準備も済ませた。
プレイミスが目立つものの、ここぞという場面ではしっかり決めるデュエルこそリリアの真骨頂。
それをこれでもかと思い知らされた甘音は、目前に迫った勝利にあと一歩届かず歯噛みする。
「……カードを1枚セットしてターンエンドです。そしてこの瞬間、《竜巻還帰》で特殊召喚したモンスターは持ち主の手札へ戻ります」
「ならそのエンドフェイズ時に《アンクリボー》の効果を発動ー! 《アンクリボー》が戦闘や効果で破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、自分のデッキか墓地から《死者蘇生》を手札に加えることができるんだよー!
ってことでデッキから《死者蘇生》をサーチ!」
《風の天翼ミラドーラ》
フィールド→手札
【甘音】
手札:0→1
手札:1→2
| 【甘音】 1/1775 -○○○- ◉ -■-■- |
| 【リリア】 2/100 ----- ----- |
「…………ふぃ」
計4体ものモンスターからの猛攻をしのぎきり、自分のターンが回ってきたことを確認したリリアはまだ決着はついていないにも関わらず安堵のため息をついた。
縫い付けられたように動けなかった足も、緊張のレベルが下がったのかガクガクと震え始め、危うく倒れるところを葵に支えられる。
「リリア!?」
「えへへ、ちょっと足に力が入らなくなっちゃってねー。このまま支えてもらっててもいいー?」
「それぐらいなら任せて。それ以外は大丈夫?」
「もちっ! それじゃあアタシのターン──」
おそらくこれが彼女の最後のドローフェイズ。目的のカードが来るかどうかはわからないが、黄昏や葵が協力してくれたこのデッキなら心配いらない。そう確信を持っているリリアは全体重を葵に託してデッキトップのカードを引き抜いた。
「──ドロー!!」
手札:2→3
引いたカードは……《貪欲の壺》。必要なキーカードそのものではないが、それを引き寄せるチャンスが増えたと捉えれば十分すぎる引きだろう。
「それじゃあまずはスタンバイフェイズ、《フューチャー・ヴィジョン》で除外されていた《ガンバラナイト》が戻ってくる、だよねー!」
《ガンバラナイト》
除外→フィールド
次元の狭間から再びフィールドに降り立った騎士。しかしそれでもリリアのフィールドには甘音のモンスターを戦闘破壊できるモンスターはいない。だがそれでいい。
逆転の一手は、これから引き込めばいいのだから!
「アタシはまず《貪欲な壺》を発動ー! 自分の墓地からモンスター5体をデッキに戻して2枚ドローするよー。
戻すのは《魔サイの戦士》、《クリボー》、《アンクリボー》、《クリバンデット》、《聖騎士の槍持ち》だよー。そして、ドロー!!」
手札:2→4
この後の結果に大きく影響を与える重要なドロー。引き込んだ2枚のカードを恐る恐る確認し、その2枚が意味する未来を理解した瞬間、隠しようもないほどの笑みが彼女からこぼれた。
「そして《士気高揚》を発動して、続いて《死者蘇生》も発動だよー! おいで《サクリボー》!!」
《サクリボー》
墓地→フィールド
「そして墓地の《生きる偲びのシルキィ》の効果を……って、あーっ!?」
「な、なにどうしたの!?」
意気揚々と効果を発動しようとしていた少女がいきなり叫ぶものだから、隣で彼女を支えていた葵も思わず視線を向ける。
「どどど、どうしよう……
《生きる偲びのシルキィ》の効果で《サクリボー》と相手のモンスターを裏守備表示にして墓地から特殊召喚するつもりだったんだけど、トークンって裏守備表示にできない、よね? 《ワイアーム》は効果を受けないし、《ゴールデンフリース》は今の状態じゃ効果の対象にできないし……
これじゃあ呼び出せないよぉ……」
「…………」
こうして葵が頭を抱えるのは今日で何度目だろうか。このデュエル中、今までのリリアからは想像できないほど考えられた戦術がいくつも見られたため、今回もてっきりそれを理解したうえでカードを選択したのだとばかり思っていたがそうではなかったらしい。
これをアドバイスを取るべきか、審判への裁定の確認と取るべきか、非常に悩ましいが今は非常事態だ。そう自分に言い聞かせ葵はリリアに言い聞かせるようにゆっくりと状況を整理し始めた。
「まず《生きる偲びのシルキィ》の効果についてだけど、効果発動までに必要な条件は『このカードが墓地に存在して』、『自分と相手フィールドに裏守備表示にできるモンスターがいて』、『それらを対象に取る』ことの3つだよ。ここまではいい?」
そこに関してはすぐさま首を縦にふることにまず一安心。
「それじゃあ次だね。効果を受けないっていうのは、効果を処理するときに初めて適応される効果なの。つまり効果を受けないからといって効果の対象にはできるんだよ。
ただし、そもそもその効果を適応できない場合……今回の場合ならルールとして裏守備表示が存在しないトークンだったり、効果の対象にならない《ゴールデンフリース》は《生きる偲びのシルキィ》の効果で対象に取ることはできないから注意ね」
「つまり、《ワイアーム》が相手なら効果が使える……?」
「そういうこと」
「よ、よかったぁ……」
「やっぱり今度勉強会が必要だね」
「あ、うぅ……」
このデュエルだけで見てもすでに数回の処理関係のプレイミスをしたリリアにその言葉を拒否する権利は存在しない。
仮にこの場を切り抜けたとしても彼女の苦難はまだまだ続きそうなのは確かだだろう。
そして、それらは敵ながら律儀に待ってくれていた甘音とのデュエルをまず終わらせてから考えるべきことだ。
「じ、じゃあ改めて墓地の《生きる偲びのシルキィ》の効果発動だよー!
《サクリボー》と《ワイアーム》を対象に効果を発動して、対象にしたモンスターを裏守備表示にしながら《 生きる偲びのシルキィ 》を墓地から特殊召喚するよー!」
DEF:300→セット
《生きる偲びのシルキィ》
墓地→フィールド
葵から教わった通り《ワイアーム》を裏守備表示にすることは叶わなかったが、無事《生きる偲びのシルキィ》を蘇生することには成功。これでリリアのフィールドには合計3体のモンスターが並ぶものの、そのステータスは《ワイアーム》や《ゴールデンフリース》を打倒しうるものではない。
チューナーと非チューナーの組み合わせにもなっているが、残念ながらリリアのデッキにシンクロモンスターは入っていない。
ならばどうするか? 答えは簡単。
「アタシは《生きる偲びのシルキィ》とセット状態の《サクリボー》をリリースして《 ギルフォード・ザ・レジェンド 》をアドバンス召喚だよー!
それから、《生きる偲びのシルキィ》が自身の効果で特殊召喚されてる場合、フィールドを離れる場合は除外されるからねー」
「なら《ゼータ・レティキュラント》の効果で《イーバトークン》が生成されます」
フィールド→墓地
《生きる偲びのシルキィ》
フィールド→除外
二体の生贄を糧にフィールドに現れた屈強な戦士。特殊召喚ができず、効果も非常に限定的。されど重いコストに見合った効果は今この瞬間に限り、リリアを勝利へ導くのに必要なキーカードだ。
「《ギルフォード・ザ・レジェンド》は召喚に成功した時、自分の墓地の装備魔法を任意の枚数、正しい対象のモンスター1体に装備することができるよー!」
「っ、墓地には十分な装備魔法。それにその中には《魔導師の力》も……」
「そのとおり!! それじゃあ《ギルフォード・ザ・レジェンド》の効果を発動するよー!
墓地の《魔導師の力》、《ビックバン・シュート》を──」
「念の為ですが、《フューチャー・ヴィジョン》によって《ギルフォード・ザ・レジェンド》は除外され、《イーバトークン》が生成されます」
「えへへ、説明ありがとう。でも大丈夫、装備させるのは《ガンバラナイト》だよー! さらに《士気高揚》の効果でライフを2000回復ー!」
ATK:0→1900
【リリア】
ライフ:100→2100
《ギルフォード・ザ・レジェンド》
フィールド→除外
墓地から装備魔法を引き上げ、そのすべてを《ガンバラナイト》へ託した《ギルフォード・ザ・レジェンド》は次元の狭間へと飲み込まれていく。
だが装備させたのは2枚のみ。《魔導師の力》を装備してあるのだから《ラプテノスの超魔剣》や《折れ竹光》でさえも攻撃力上昇の要因になるし、何よりそうしなければ《始祖竜ワイアーム》の攻撃力を超えることができない。
さすがのリリアとてこのタイミングでプレイミスすることはないだろう。
「……なるほど、その手札のカードを発動させるのですね」
「ふっふっふー、残念だけど違うよー」
言いながらドヤ顔でデッキトップに指をかけるリリア。
「《ギルフォード・ザ・レジェンド》を召喚する時にリリースされた《サクリボー》の効果で、1枚ドロー!!」
手札:1→2
勢いよくドローしたカードを確認し、すでに緩んでいた表情がさらに拍車をかけていく。
「ドローしたのは《レプティレス・アンガー》だよー!!」
リリアが高らかに掲げたそのカードは装備モンスターの攻撃力を800ポイント上昇させ、種族を爬虫類族へ変更する装備魔法だった。
「それを《ガンバラナイト》へ装備すれば攻撃力は3200です。《ワイアーム》でも容易に手出しはできない数値になりますね」
「ところがどっこい、これを装備させるのは《始祖竜ワイアーム》なんだよねー!
それから最後の手札1枚もセットして、これで魔法・罠カードゾーンは5枚になったから《魔導師の力》を装備してる《ガンバラナイト》の攻撃力はさらに上昇! それに装備魔法が増えたから《士気高揚》の効果でライフも1000ポイント回復するねー」
種族:ドラゴン族→爬虫類族
ATK:2700→3500
《ガンバラナイト》
ATK:1900→2900
【リリア】
ライフ:2100→3100
「…………え?」
自身が従える翼竜の攻撃力が上昇した光景に理解が追いつかず、ウェーブヘアを僅かに揺らした女性はぽかんと口を開けたまま動かなくなった。
《ビッグバン・シュート》がフィールドを離れた時に装備モンスターが除外されるのを利用するように、デメリット効果を利用するために相手モンスターへ装備する戦術は存在する。
《レプティレス・アンガー》も破壊されたときにフィールドのモンスターの攻撃力を800下げる効果はあれど、今その効果が使える様子はない。このままでは《始祖竜ワイアーム》の攻撃力を800上げて種族を爬虫類族に変えるだけに終わってしまう。
「いえ、種族を変える? ……っ、なるほどそういうことですか」
「えっへん、どうだー! これでフィールドからドラゴン族がいなくなったから《ゴールデンフリース》を攻撃対象にできるし、《ゴールデンフリース》を攻撃するわけだから除外する効果も使えないよねー?
ってことでバトル──」
「ならメインフェイズ終了時、私は伏せていた《活路への希望》を発動です。相手よりライフが1000以上少ない場合、ライフを1000支払うことで相手とのライフ差2000に付き1枚ドローします。
ライフコストを支払ったことでライフ差は2325ポイント。よって1枚ドローです。
……私はさらに墓地の《ハイレート・ドロー》の効果を発動です。自分モンスターを1体破壊し、墓地のこのカードをセットします。
《イーバトークン》1体を破壊」
ライフ:1775→775
手札:1→2
《イーバトークン》
フィールド→消滅
《活路への希望》のドローで一瞬表情が曇ったということは、この状況を打開するカードは来なかったのだろう。しかしその後モンスター1体を犠牲にセットしたのはさらなるドロー加速のカードだ。ただし《ハイレート・ドロー》にはセットした直後に発動出来るような効果はない。次のターンへの布石とも受け取れるが、それはつまり今の状況でもこのターンを凌ぐ算段があるという意味でもある。
そして彼女のフィールドに存在するこのターン発動可能な伏せカードは1枚。下手をするとまた返り討ちになるかもしれないのだが、残念ながらリリアにそこまで予測する力はなかったらしい。
「改めてバトルだよー! 《ガンバラナイト》で《ゴールデンフリース》を攻撃ー![ガンバラッシュ]」
「その攻撃宣言時に伏せていた《立ちはだかる強敵》を発動です! 自分モンスター1体を選択し、攻撃対象をそのモンスターのみに制限しつつ相手の攻撃表示モンスター全員の攻撃を強制します。
全員といっても今のリリアさんのフィールドには《ガンバラナイト》しかいませんが、その攻撃対象を《ワイアーム》へ変更します」
その宣言に応じるように、そして《ゴールデンフリース》を守るように《ガンバラナイト》の前へと立ちはだかる巨大な翼竜。
攻撃力は《ワイアーム》の方が上で、このままでは《ガンバラナイト》が返り討ちになってしまう。早急に対処しなければいけないのだが、リリアはオロオロと視線を泳がせて助けを求めるように葵の方を見ている。
「……心配しなくても大丈夫だよ。《ゴールデンフリース》の除外効果は『攻撃宣言時』に『自分以外のモンスターを攻撃対象にした』時に発動する効果だからね。《立ちはだかる強敵》の処理が適応された時点で『攻撃宣言時』ってタイミングはすでに逃してるよ」
「な、なるほどー?」
イマイチ効果処理を理解しきれていないようだが、自分が思ってるような処理にはならないということだけは察して何度か頷いているようだった。
「それより、このままじゃ《ガンバラナイト》がやられちゃうよ」
「それに関しては問題なし! 戦闘ダメージは受けちゃうけど、自分モンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに墓地の《サクリボー》を除外することができるからねー!
これで《ガンバラナイト》の戦闘破壊は阻止するよー!」
ライフ:3100→2500
騎士の持つ巨大な盾で翼竜を倒すことはできず返り討ちに合うが、墓地から現れた《サクリボー》の幻影が騎士の身代わりとなることでフィールドに留まることには成功。反射ダメージに関しては受けるしかなかったが、闇のデュエルによる本物の衝撃だけは《リヴァイエリア》が即座に展開した結界によってリリアまでは届かせない。
結果として甘音の対応力によりダメージを受けたのはリリアの方だったが、この一連の攻防で戦況はリリアの方へと僅かに傾き始めたことをこの場の全員が感じていた。
ここまで肩を貸してくれていた葵からいつの間にか自立し、まっすぐと相手を見据えるリリアの姿がそれを物語っている。
「アタシはこれでターンエンドだよー」
| 【甘音】 2/775 ○○○○- ◉ -■--- |
| 【リリア】 0/2500 --○-- □□■□□ |
「さきほどの最後のドロー。何を引くかリリアさんはわかっていたのですか?」
デュエルディスクがドローを促す点滅をしているのを無視してまで質問したのは先程のプレイングについて。
このデュエルでリリアは驚異的という表現以外で説明できない引きの強さを何度も見せていたが、デュエルそのものはドローしたカードを確認してからその場その場で戦術を組んでいくという一般的なもの。
だが先程の最後のターンはまるで《レプティレス・アンガー》が来るのをわかっていたとしか思えない行動だった。
天音が疑問に思うのも当然だが、問われたリリアは困ったように笑いながら頬をかいていた。
「ううん、わかってなかったよー?
……でもね、前にニュート君とデュエルした時に遊糸に言われたんだー。望むカードがデッキに入ってるなら、絶対に引ける。アタシ
それにあの状況から逆転するには《レプティレス・アンガー》を引くしかなったし、そうなったらデッキを信じて引く以外にないよねー」
「デッキを信じる、ですか……」
ふと甘音は自分のデッキに視線を落とす。
このデッキを使うに至った過程は決して褒められるようなものではない。元の自分のデッキからカードを何枚か投入したのも、自分が使いやすくするためという名目だったがシナジーなどは薄かった。本当はこの罪悪感を少しでも誤魔化そうとしていたのだろう。
だが、だからといって適当にデッキを組んだわけではない。彼女なりの覚悟がこのデッキには注がれているのだ。
「私のターン、ドローです。……あっ」
手札:2→3
だからこそ、今引いた『このカード』は、デッキから甘音へ向けたメッセージなのかもしれない。……それが復讐に手を染めてしまった者への罰なのか、それとも覚悟を決めた女性の最後の後押しをする救いの手なのかは、彼女の受け取り方次第だろうが。
歪な笑みを浮かべていたその表情は、正気に戻ったと言えば聞こえはいいが自責の念に落ち潰されそうになっているのを誤魔化せなくなったと捉えれば果たしてどちらが幸せだっただろうか。
「いきます……まずは手札の《取捨蘇生》を発動です。自分の墓地から3体モンスターを選択し、相手が選んだモンスターのみを特殊召喚し、残りを全て除外します。
私が選ぶのは《ジャンク・シンクロン》と《ダンディ・ホワイトライオン》と《異次元の生還者》です。お好きなモンスターをどうぞ」
「じ、じゃあ《異次元の生還者》で……」
墓地→フィールド
《ジャンク・シンクロン》、《ダンディ・ホワイトライオン》
墓地→除外
選ばれたのはチューナー及び、トークン生成要因及び、除外時に即時帰還するモンスター。
この中でどのモンスターが安全かと言えば一目瞭然。誘導されているのがひしひしと伝わってくるが、かと言ってそれに逆らったところでいい未来は訪れないだろう。
「続けてレベル4の《異次元の生還者》に魔法カードの《運命の裏ドラ》と罠カードの《次元幽閉》をインフェクト。墓地のレベル4モンスターへミューテーション。
《終末の騎士》を蘇生します」
IV:3→1
《異次元の生還者》
フィールド→墓地
《終末の騎士》
墓地→フィールド
モンスターの姿が代わり、再三フィールドに現れる黒衣の騎士。持ち主の甘音はもちろん、間借りしただけのリリアであってもその効果に助けられるほど汎用性があり、このモンスターが現れるとそれだけでだけで戦術の選択肢が増えていくことだろう。ただし、今の甘音が目指すゴールに必要なカードはすべて手札に揃っている。あと必要なのは、手札コスト要因のみ。
「《終末の騎士》の効果でデッキから墓地へ送るのは《トリック・デーモン》です。そして《トリック・デーモン》は墓地へ送られた場合、デッキから《デーモン》カードを1枚て手札に加えることができます。
私は《ナイトメア・デーモンズ》をサーチ。さらに伏せていた《ハイレート・ドロー》も発動です! 《イーバトークン》2体を破壊し、1枚ドロー。そして自身の効果で墓地からセットした《ハイレート・ドロー》はこのまま除外されます」
手札:2→3→4
《イーバトークン》
フィールド→消滅
「そして手札の《ブーギートラップ》を発動です。手札2枚を捨て、墓地の罠カード1枚をセットします。
この効果でセットするのは《竜巻帰回》です。そしてこの効果でセットした罠カードはこのターンに発動可能ですので、そのまま発動!
除外されている《ジャンク・シンクロン》を帰還です」
手札:4→2
《ジャンク・シンクロン》
除外→フィールド
使われたカードから察するに、このターンが始まった時点でここに揃うモンスターは最初から決まっていたらしい。ただ、それらモンスターたちは決して低いステータスというわけではないが、立ちはだかるのが《ガンバラナイト》となると話は別。
このモンスターは攻撃対象に選択された場合に守備表示になる効果を持っている。そして装備魔法で魔改造されたその守備力は脅威の4300。神でさえ不用意には攻撃できないほどの堅牢さを身に着けている状況だ。それを打破するための布陣が今の甘音のフィールドなのだが、これだけでは不十分。
《ガンバラナイト》の守備表示にする効果は任意のため、戦闘ダメージを受けないとはいえ攻撃力が劣る《ゴールデンフリース》で自爆特攻したところで文字通りの無駄死に終わる。
だからまず最初に攻撃する役割は《ワイアーム》にしかできず、そうすると反射ダメージは避けられない。そして想定されるダメージは800。残りライフ775ではコンボを決める前に甘音の方が保たないのだ。
それを回避できる方法こそ、このターンの通常ドローで引いたカードに他ならない。
にも関わらず発動を躊躇っているのは、《死なばもろとも》や《亡龍の戦慄-デストルドー》のような重いライフコストがあるわけではない。むしろ今の彼女ならそういうカードの方こそ迷わず使えただろう。
だが、次のターンには《フューチャー・ビジョン》で除外されていた《ギルフォード・ザ・レジェンド》がリリアのフィールドに戻ってくるのだ。それだけでなく、彼女の引きの強さがあればドローの際にトドメの一手を引いてもおかしくはない。
「もう迷ってはいられない……っ!!」
幸いリリアのフィールドには《士気高揚》がある。《ガンバラナイト》を破壊した時点でその装備魔法が墓地へ送られ2000ダメージ。
《ゴールデンフリース》の直接攻撃が通ればそれで決着。仮に何かで止められようとも墓地にはレベル7のモンスターが複数落ちているため、《ワイアーム》を素材にリバイバル召喚すれば《レプティレス・アンガー》も墓地へ遅れるため合計3000ダメージで決着。
どう転ぼうとも《ガンバラナイト》さえ処理できれば勝てる。ならば攻めるタイミングはここしかない。
それをわかっているからこそ、苦悶の表情を浮かべながらも甘音は歯を食いしばり、手札のカードを乱暴にデュエルディスクへと叩きつけた。
「私はっ! 《スマイル・ワールド》を発動です! フィールドのモンスターの数×100ポイント、全モンスターの攻撃力をアップさせます!
フィールドには5体のモンスター。よって全モンスターの攻撃力が500ポイントアップです!」
ATK:1000→1500
《始祖竜ワイアーム》
ATK:3500→4000
《ジャンク・シンクロン》
ATK:1300→1800
《終末の騎士》
ATK:1400→1900
ATK:2900→3400
それは、復讐で染まったこの汚れた手で使ってはいけないと思いながらも、ついぞデッキから抜くことができなかったカード。無機質だった表情がこのカードを引いてから再び苦悶に満ちているのは、それだけ彼女の心に影響を与えているということ。もしかすると、本来は心の拠り所だったのかもしれない。
ソリッドビジョンにより辺りに浮遊し始めた無数のスマイルマーク。それに伴いフィールドのモンスターの表情もデフォルメされた笑顔に変化する。……若干シュールな光景だが、彼女の雰囲気も合わされば敵味方関係なく和ませてくれるカードなのだろう。ただし普通の状況であれば、だが。
今にも倒れそうなほど顔色を悪くして歯を食いしばる今の表情は痛々しく、笑顔とはかけ離れている。敵討ちという彼女の性格では酷な行いの最中であり、おそらく闇のデュエルの影響でさらに精神的苦痛を受けている状況だ。この力押しのようなプレイングなのは、肉体的にも精神的にも彼女には余裕がないのかもしれない。
「レベル3の《ジャンク・シンクロン》でレベル4の《終末の騎士》をチューニング。肥大化した怒りは無抵抗な者を葬る狂乱の刃。シンクロ召喚! 荒れ狂え《 ジャンク・バーサーカー 》」
フィールド→墓地
その身に怒りを体現するかのように戦斧を振り回す機神兵は守備表示モンスターを攻撃する場合に限りダメージ計算を行う前に破壊することが可能。これこそ神にも匹敵する堅牢さを打破するための甘音の最後の一手。ただしその力を使用するためにはもう一度だけ自分が傷つく必要がある。
「バトルです! 《始祖竜ワイアーム》で《ガンバラナイト》を攻撃![原始の咆哮]」
その吠えるような攻撃宣言は、助けを求める悲痛の叫びにも聞こえたことだろう。
故にリリアは心を鬼にする。それが目の前の女性を救う手段だと信じて。
「攻撃対象になった《ガンバラナイト》の効果で自身を守備表示に変更ー!」
《ガンバラナイト》
ATK:3400→DEF:4300
「ええ、想定内です! そしてその反射ダメージは300ですのでまだ耐えられます。
この後《ジャンク・バーサーカー》で攻撃すれば──」
「ううん、この戦闘で決着だよー! 私は伏せていた《力の集約》を発動ー! モンスター1体を対象に、フィールド上のすべての装備魔法を装備させるよー!
《ガンバラナイト》に装備してあった《魔導師の力》、《ビックバン・シュート》をすべて《ワイアーム》へ装備し直して、装備魔法が装備し直されたから《士気高揚》の効果でライフを2000回復ー!」
ATK:4000→6900→6400
DEF:4300→1800
【リリア】
ライフ:2500→4500
《力の集約》が効果処理を終え、リリアの魔法&罠ゾーンに残ったカードは4枚。《ワイアーム》の攻撃力が500ポイント下がったが、それでも攻撃力だけなら神を容易に超える力を得た翼竜はその雄叫びだけであらゆるものを委縮させる。
「…………」
どう見ても絶体絶命のピンチだが、それを後ろから眺めることしかできない葵に慌てた様子はなく、むしろキョトンとした様子でリリアのプレイングを眺めていた。
「リリア、いつそんなコンボを思いついたの?」
「ふっふっふ……アタシだって勉強してるんだよー?」
「遊形の入れ知恵だろ」
かっこよく決めてるリリアに水を差すように割り込んできたのは少年の声だった。
葵たちが振り向くと、そこにいたのは今まさにこの結界の中へと足を踏み入れた、長い前髪で表情を隠した銀髪の少年。
「黄昏君! って、なんかすごく簡単にここに入ってこなかった!?」
つい数十分前に二人を庇って闇のデュエルを始めた彼がここにいるということは、ニュートとの戦いは無事勝ったのだろう。それはいいのだが、葵が《リヴァイエリア》の力でなんとか侵入したこの空間にさも当然のように現れたのは流石に指摘せざるを得なかった。
「そう言われても俺も困る。
俺も最初は《スクラップ・ヘルサーペント》でぶっ壊そうとしたんだけど、いざあの十字架に触れたら草をかき分ける感じで隙間が作れたんだ」
言いながら少年が指差した先を見ると、修復されつつあるものの十字架の一部が不自然に折れ曲がっていた。
これまでデュエルを仕掛けてきた
「むー……」
そんな二人の会話を不満そうに頬をふくらませる少女。
急な来訪者で話がそれたが、現在バトルステップの処理の真っ最中だ。それを止められたのが不服なのだろう。
「……自分で考えたもん」
と思われたが、単純に自分のコンボにケチを付けられたのが気に食わなかっただけらしい。
なんとも彼女らしいが、残念ながら相手が黄昏では分が悪かった。
「正確には、遊形に裁定やら他に同じコンボが出来るカードやらを諸々教えてもらった後、ほとんど答えが出てる状態で『自分で考えた』、だろ?」
「うぐっ、どうしてそれを……」
「前に俺と早乙女先輩がデュエルした時点では理解してなかったの、気づいてるからな?」
命の危険が迫っているというのに彼らの会話は緊張感がなさすぎる。その異常ともいえる光景に、完全に蚊帳の外となった甘音は表情に焦りが見え始める。
「な、なぜそんなに平然としていられるんです!? この貫通ダメージでリリアさんのライフは0になってしまうだけでなく、それだけのダメージを闇のデュエルで受けてしまうんですよ!?」
確かに闇のデュエルで4600もの戦闘ダメージなど生身で受けたらどうなるかなど想像したくもない。いくらカードの精霊に防いでもらってとしても無傷とはいかないだろう。
とはいえ、所詮敵でしかないこちらの身を心配するのは少々お人好しが過ぎる、と黄昏は初対面ながらも肩をすくめた。
「まあこの裁定はちょっと忘れがちだからな。リリア、教えてやれ」
「えっへん! 《ビックバン・シュート》みたいな装備魔法による貫通ダメージは『装備魔法を発動したプレイヤーから見た相手へ』与えるダメージなんだよー!」
「なん……っ!?」
「そういうこと。補修常習犯のリリアに知識で負けてたらいろいろマズいんじゃないか?」
「……むー、なんか納得いかない!」
相手を煽っているようでそれ以上に自分が弄られていることに気づいたリリアが再び口を尖らせる。しかし黄昏はそれを見て笑うのみで反省などする様子もない。
からかわれてご機嫌斜めになってしまったリリアは拗ねてデュエルフィールドの方へ向き直ってしまった。
「じゃあ気を取り直して、やっちゃえ……あれ、この場合って《ワイアーム》?」
「「どっちでもいいよ」」
「なら《ガンバラナイト》で! やっちゃえー!」
主たるリリアに身ぐるみをすべて外されながらも盾を構える健気な《ガンバラナイト》だが、残念ながらその守備力では大幅に強化された《ワイアーム》には敵わずあっけなく爆散。
しかしその爆風はリリアではなく甘音へと襲い掛かる。
「あ、でもこれじゃあ甘音さんが……っ!!」
「それは任せろ」
残りライフ775ポイントの甘音のライフを削るには過剰すぎるダメージが実体化すれば命の危険すらあったが、直前で残骸の大蛇が出現して彼女を守る壁になる。
まもなくしてその巨体に即死級のダメージが襲いかかり、至る所がへしゃげて見るも無惨な姿へと変わり果てながらもその役目を全うした。
「《エリア》、そっちは任せる!」
『は、はいなのです!』
今までの闇のデュエルであればこれで終わっていただろうが、今回はダメージが大きすぎたらしい。
防いでなお吹き荒れる乱気流は闇のデュエル開始時に展開された結界にヒビをいれ、《スクラップ・ヘルサーペント》の巨体を吹き飛ばしてしまうほどの威力。
そして、それほどの威力であれば成人女性一人を浮かせることぐらい造作もない。
「────っ」
「危ね……っ!?」
だがそれを予測して駆け出していた黄昏が甘音の身体を抱きかかえると、そのまま飛び込むようにして地面に伏せる。
吹き荒れる風に叩かれ数メートル地面を転がる羽目にはなったが、あのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられるのと比べれば許容範囲だろう。甘音はあまりの衝撃に気を失ったようだが、呼吸はしているし地面を転がった際の擦り傷以外に外傷は見えない。
葵とリリアの方も《リヴァイエリア》の結界が間に合ったお陰で事なきを得たようだ。
そうして全員の無事が確認できたところで、デュエル終了を告げるブザーが路地裏に鳴り響いた。
ライフ:775→0
これにてリリアと甘音のデュエルは終了です
今回は意図的なプレイミスをリリアにさせるために何度かデュエルの流れを再編集した影響で、いつも以上に無茶な構成になった気がします
甘音のデッキも元々はもっとサイキック族が出てくるデッキ構成だったのですが、デュエル構成の再構築の際にドラゴン族が多くなってしまったので《バトル・テレポーテーション》とかは不自然なことに……
(いっそのことオリカを作ろうか悩みましたが、今後利用できないその場限りな気がしたので見送りました)
ただ、色々苦労した分お気に入りのデュエルになりました
オリカも増えてきたので、どこかのタイミングで一覧のページを作る予定です
……これ更新後に気づきましたけど《ジャンク・バーサーカー》の効果で墓地の《ジャンク・シンクロン》除外して《ガンバラナイト》の攻撃力下げつつ殴ってれば甘音の方が勝ってましたね