早乙女からの連絡を受け、その場にいた遊形も乗せてD・ホイールを走らせた葵はアカデミアへと急いだ。
駐輪場で施錠もそこそこに『保健室にいる』という情報だけを頼りに廊下を走る。よほど切羽詰まった表情をしていたのか、道中ですれ違った生徒のことごとくが彼女の背中を怪訝そうに見送っているが、気にすることなくまっすぐ保健室へと向かうとその戸を勢いよく引き開けた。
「リリア!!」
「あっ、あおいんだー」
「…………はぇ?」
最悪の事態が脳裏をよぎっていたが、戸の向こうにいたのはいつも通り締まらない笑みを浮かべる親友の姿だった。
あまりに予想と違いすぎた光景に、間の抜けた声を出した葵はその場にへたり込んでしまった。
「あ、え……? 闇のデュエルで負け……え?」
肩で息をする彼女は酸欠気味の頭で目の前の光景を理解できてないようで、目を丸くして断片的な情報を呟いている。
そんなアイドルデュエリストらしからぬ気の抜けた姿の少女に対し、黄昏は彼女の前でかがんで背中をさすることで介抱する。それからふいに視線を上げ、廊下から覗き込むようにしていた少年と目が合うと一瞬だけ顔をしかめた。
「待って遊糸、なんで嫌そうな顔したのかな!?」
「いや別に? なんでアカデミアにいるんだよとか思ってねーし。遊形連れてきたのは話が早くて助かるなーって思っただけだし」
「絶対思ってること逆だよね? そういう表情だったよね!?」
「とりあえずそこ邪魔だから中入れ。七波は、立てるか?」
「ごめん。腰が抜けちゃって……」
あははは、と気恥ずかしそうに笑う少女。再び顔をしかめた黄昏はその場にいる面々を軽く見渡してみるが、体格的に運ぶのを頼めそうな人がいないことを理解すると小さくため息を付いた。
かと思えば迷う様子もなく、へたり込んだ少女を抱えあげるとリリアのいるベッドの近くに座らせる。突然の出来事に目を丸くして固まった葵は、次第に状況を理解して顔を赤くするもそれに気づいた者はごく少数。もちろん黄昏は気づいていない側であり、テキパキと近くにあった椅子を適当に集めて全員がベッドの周囲を囲めるように準備していた。
現在この保健室に養護教論はいない。時間帯的に朝の職員会議に参加しているらしく、リリアの看病を黄昏たちが任されている状態だ。よって、
ただその前に確認しておく必要があると判断し、まずはメガネを掛けた先輩の少女へ目を向ける。
「早乙女先輩、リリアに怪我はないってちゃんと伝えました?」
「も、もちろんです。……よね?」
予想はしていたが、言った本人が不安そうに葵へ問いかける始末。
改めて黄昏が話を整理すると、今朝リリアがその護衛共々道端で倒れているのを黄昏が発見。彼女らに外傷はなかったが、通常ならありえない雰囲気から『闇のデュエルが起こった』と断定。
倒れている護衛の方は大神に連絡して任せ、リリアの方は黄昏がアカデミアの保健室まで搬送。
運んでいる最中に鉢合わせた早乙女に依頼し、彼女から葵に事情を説明してもらうとしたのだが……
「すいません……たぶん私のほうが気が動転してちゃんと聞いてなかっただけです……」
顔を両手で覆ったまま項垂れる葵。隠せてない耳が真っ赤になっているのを見ると、よほどここに来るまでの余裕の無さ加減が恥ずかしかったのかもしれない。
「……というか!」
そしてとうとう恥ずかしさが限界値を超えたらしく、大きな声で誤魔化す力技に出たらしい。
「なんで『貴女』がここにいるのよ!?」
「あら、ようやく触れてくれたわね?」
情報量が多すぎて後回しになっていたが、遊形以上にこの場に似つかわしくない女性の存在に対して葵が指摘する。
話を振られて嬉しそうに手を振るその褐色の肌と短く切りられた銀髪に、血のように赤い瞳。服装こそ少々露出している程度の一般的なものになっているが、その程度で彼女の雰囲気が変わるわけもない。
「ああ、エヴァのことか。通学中にばったり会ったんだけど、そういやなんで外にいるんだ? 病院で会った時はベッドに括り付けられてたのに」
「篠原って行方不明者の情報提供で協力したから仮釈放、っていうのが建前でジンをおびき寄せる餌役ね。自由に動いていいとは言われているけれど、このチョーカーはGPS付きなうえ外そうとしたりその他諸々変な行動取れば電流が流れる特別仕様。
ほんと、乙女の身体を何だと思ってるのかしらね?」
「直接マーカー焼き付けられないだけまだマシかもな」
「どっちもどっちよ」
一応セキュリティに手綱を握られた状態ではあるらしい。だが
デュエルディスクやデッキを取り上げられたままでは何もできないから、餌にかかれば儲けもの、ぐらいの考えなのかもしれない。
「待って、病院で会ったってどういうこと!?」
「……七波、もしかして巫から何も聞いてないのか?」
キョトンとする黄昏に注目しすぎて気づかなかったが、よく見ればその場の全員から黄昏と同じかもしくは哀れみを含んだ眼差しを向けられていた。
「え、なにこれ? 私泣いてもいい?」
「えっと、七波さんが入院中に一度だけ、残ってる
た、たぶん七波さんはその時療養中でしたので、気を遣って黙ってたんだと思いますよ? その後に言うタイミングがなかっただけで」
「どうでもいいけど八つ当たりは巫になー」
気を利かせた早乙女のフォローを台無しにする黄昏の言葉だが、むしろヘイトが自分に向くような言い方は彼なりの気遣いだろうか?
「そうだね、この怒りは黄昏君と梓にぶつけるとして、そもそもどうして黄昏君が第一発見者なの?」
ジトーとした眼差しを向けられ少年は肩をすくめた。
これは始業式のときに一度彼の住んでいる場所へ迎えに行ったことがある葵だからこそ知ることだが、黄昏の通学路とリリアが倒れていた場所はどうやっても交わらないのだ。
ただし彼の表情からしてこの質問が来るのは予想していたらしい。
「闇のデュエルの感覚があったんだ」
「闇のデュエルの、感覚?」
「赤い鎖で繋がれたときに作られる結界の気配だよ。あいつらが使うフィールド魔法とプレート魔法の気配に比べればかなり薄いけど、こうも何度も闇のデュエルをしてれば多少の察知はな。
駆けつけた頃にはもう相手はいなくなってたけど」
「一応言っておくけれど、その子がデュエルの気配を察知する前からあたしは合流してたから」
「それにエヴァじゃリリアには勝てねーだろうし」
当然そんなことを言えばエヴァからも睨まれるがその程度で黄昏が怯むわけもなく、全員に見えるようにヒラヒラと揺らして見せるのはリリアのデュエルパッド。
「問題のデュエルがこれだ。デュエルログを確認したらしっかり今朝のデュエルも記録されていた。
そこから相手が誰なのか、
言いながらテキパキと近くにあったプロジェクターと接続し、スクリーンに画面を映し出す。
自分の手札とそれぞれのフィールドだけが表示された簡易的な画面は、棋譜のようにデュエルの開始から終わりまでの動きを確認できるものだ。
「俺もログだけは確認したけど、リリアが目覚ます前だったからな。
リリア、今から再生する中でログでは伝わりにくいその場の空気とかを適宜説明してもらってもいいか?」
「まかされたー」
相も変わらず締まりのない返事だが、今更ツッコむのは野暮だろう。
全員がの心の準備が整ったのを確認した後、リリアの説明と共に今日の出来事が再生される。
★
激闘を制した翌日、通学路を一人歩くリリアは寝不足気味であった。
昨日の送迎中に疲れて寝てしまったのはいいが、いざ帰宅するとデュエルの光景を思い出し気分が高揚して眠れなかったのが原因だ。争い事には無縁な彼女も紛いなりにもデュエリストということなのだろう。
しかし、今日に限ってはその寝不足が祟った。
「……ほえ?」
突然、リリアのそばを歩いていた護衛のセキュリティ二人が倒れてしまう。
寝ぼけた頭では状況が理解できず、倒れた二人を呆然と眺めるリリア。
この場に黄昏がいたらすぐさま駆け寄り、呼吸はあること。さらに不思議な力で眠らされていることに気づけただろうが、残念ながらリリア一人ではそこまでを瞬時に分析できるほどこういった非常事態には慣れていなかった。
さらにその隙をついてあの赤い鎖が彼女の腕に巻き付いていたらしく、すでにデュエルディスクの展開まで終えている。
ソリッドビジョンを触るがごとくすり抜ける赤い鎖だが、デュエルディスクごと動かせば干渉は可能らしい。デュエルディスクが装着された左腕を動かしながら鎖を視線で追っていくと、そこにいたのは黒いローブでいかにもな雰囲気を放っている怪しい人物。
通学時間にも関わらず人通りが少ないのが幸いと言うべきか、その服装はかなり異様だった。ただ、日常からかけ離れた服装だというのに何故かこちらに『そういうものだ』と思わせる堂々さがあった。
「えっと、ボレアスの人ー?」
「…………」
警戒心の薄い彼女らしい問いだが、尋ねても当然返答が返ってくるわけでもなし。
代わりに、デュエルの準備が整ったことで二人の逃げ場を奪う結界が展開。今回周囲に現れたのは……白いカーテンだろうか?
どこから吊るされているのか、上を見てもその果てが見えない不思議な布が四方を囲み、人魂のように小さな火が規則的に並んでいる。
昨日の甘音の十字架よりも弱そうな結界にも関わらず、それが放つ圧は今まで経験したものの中でダントツに重かった。まるで、誰かの葬式でもしているかのような……
「え、えっと、先攻後攻どっちがいいー?」
「…………」
居心地の悪さから逃げるようにローブを被った怪しい人物に話しかけるが、相手は未だだんまりを決め込んでいる。
代わりに反応したのはリリアのデュエルディスク。
「これって、アナウンス機能の承認?」
両者の了承が必要になるが、失声症などが原因で宣言等が困難な人でもデュエルができる機能として内蔵されたシステムの通知音だった。
これを起動するということは相手は声を出せないのか、それとも声を出したくないのだろう。さらに特殊なプロテクトが施されているようで、あちらの名前などは一切こちらには公開されていない。
ここまで徹底しているということは、友好的なコミュニケーションを取るのは難しそうだった。
「あうー……じゃあ、始めるよー?」
その問いに頷いているのはローブを被っていてもわかった。ひとまず意思疎通を取る気はあるようでホッとしたリリアは、倒れている二人がデュエルの巻き添えを食わないように位置取りを調整した後、いつもどおりに宣言する。
「デュエル!!」
【リリア】VS【UNKNOWN】
先行後攻の打ち合わせはできなかったが、リリアのデュエルディスクが彼女のターンであることを主張していることから彼女が先攻でいいようだ。
「じゃあまずは《士気高揚》を発動するよー!!」
真っ先に発動したのはコンボの起点になるカードでもあるが、純粋に彼女のお気に入りの1枚でもある。なお、今の彼女の手札ではこのタイミングで発動しても特に意味はない。
つい数時間前に考えなしのカードプレイングで何度もピンチに陥っていたのだが、どうやら全然反省していないらしい。
「さらに《 鉄の騎士ギア・フリード 》を通常召喚だよー」
漆黒の鎧で堅牢に守られた騎士は、己に装備されたカードを無条件で破壊してしまう孤高の騎士。
一見彼女のデッキとは相性が悪いようにも感じるが、このカードも彼女のコンボになくてはならないキーカードだ。加えて言えば、彼女の手札には《ビッグバンガール》もある。
あと数手で必殺のループコンボが完成する状況でアタッカーとしても十分なステータスを持つモンスターを召喚し、出だしは上々なリリアはそのままターンを終えた。
| 【リリア】 3/4000 --○-- --□-- |
| 【UNKNOWN】 5/4000 ----- ----- |
『ターンを始めます。
ドローフェイズ、カードをドローします』
手札:5→6
『ドローフェイズを終了します。スタンバイフェイズへ移ります。スタンバイフェイズを終了します。
メインフェイズへ移行します』
無機質な音声と共に処理を行っていくローブを被ったデュエリスト。チェーンを組むものがないか適宜表示される確認画面をリリアが処理するのを待ってから、ローブを被ったデュエリストはカードを3枚セットする。
『メインフェイズを終了します。
ターンを終了します』
「えっ、モンスターとか出さないのー!?」
後攻を選んだのでてっきりビートダウンなのだと想定していたリリアは思わず声を上げる。
操作ミスしてしまったのかと思いこのシステムでのみ許されている所謂『待った』の機能で一度相手へ処理を戻すものの、即座に相手は終了を宣言してしまった。
どうやらこれで本当にターンは終了らしい。
| 【リリア】 3/4000 --○-- --□-- |
| 【UNKNOWN】 3/4000 ----- -■■■- |
「えっと、じゃあアタシのターン、ドロー!」
手札:3→4
困惑しつつもそれが相手の戦術なのだと考え直し、自分の手札に目を通す。
今ドローしたのは《ダブル・サイクロン》。お互いのフィールドの魔法&罠カードを1枚づつ破壊するカードであり、こちらもキーカードが揃う順番によってはコンボに必要なカードだった。
今相手のフィールドには3枚の伏せカードがあるが、このカードで除去するにはデメリットも無視できない。墓地へ送られればデッキトップへ戻る装備魔法である《執念の剣》は手札にあるが、これを使ってもデッキトップをロックしてしまうだけ。《サンライト・ユニコーン》等で回収する事ができないなら2:1交換するには相手の伏せが多すぎた。
「とりあえず、《ビッグバンガール》は温存したようがいいよねー……?
よし、じゃあバトル! 《ギア・フリード》で直接攻撃だよー![アイアン・スラッシュ]」
深く考えても相手の伏せカードの予測はできないと判断したリリアはとりあえず動くことを選択。
漆黒の騎士ががら空きのフィールドを駆け抜けて相手プレイヤーへと肉薄する。
『《鉄の騎士 ギア・フリード》のダメージ計算時にリバースカードを発動します。
《ライジング・エナジー》、発動。発動コストとして手札を1枚を捨てて、フィールドの表側表示モンスター1体を選択。選択したモンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせます』
やはりリリアの攻撃に対して伏せていたカードを発動させた相手だが、攻撃力を下げるならまだしも上げる対象は今このフィールドでは1体しか存在していない。
「ってことは……」
ATK:1800→3300
手札:3→2
ライフ:4000→700
その手に握る剣を振り下ろす直前、相手の発動したカードによって力が増幅された《鉄の騎士ギア・フリード》。
相手も最初から想定してた一振りをデュエルディスクで受け止めるが、闇のデュエルで3000を超える一撃は色々と規格外な黄昏でも無傷では防げない威力を有している。
ローブの人物が彼を超える規格外だった、ということはなく、受け止めたデュエルディスクごと身体は地面へ叩きつけられ、数回バウンドしながら後方へと吹き飛ばされた。
「だ、だだだ、大丈夫ー!?」
ここまでに2回闇のデュエルを経験した彼女だが、実体化した衝撃がどれほどのものかを実際に見たのがこれが初めて。想像以上に危険な光景に少女は目に見えて動揺している。
ソリッドビジョンの迫力に尻もちをついたり、あまりの『音』の破壊力に少々後ろへ下がったりするデュエリストとは次元が違っているのだから仕方ないかもしれないが。
『ダメージステップ終了時にリバースカードを発動します』
そんなリリアの心配もよそに、無機質な電子音が新たな伏せカードの発動を宣言する。
『《ヘル・テンペスト》、発動。3000以上の戦闘ダメージを受けたときに発動。お互いのデッキ、墓地からモンスターをすべて除外します』
「うぇっ!?」
発動されたのは、条件が厳しく下手すれば敗北の危険すらあるが、発動してしまえばそれだけで勝敗が決まってもおかしくないカードだった。
幸いにもリリアのデッキは60枚。そのうち半分は魔法、罠カードであり、一般的なデッキ構成と比べると被害は少ないはず。しかし相手が《ヘル・テンペスト》特化の構築を行っている場合、危険なのはむしろここからと言っても過言ではない。
『《ヘル・テンペスト》の効果処理後、新たなカードの効果を発動します』
その無機質な宣言を耳にし、金髪少女は思わず表情を強張らせた。
『《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します。
さらにチェーンしてモンスターの効果を発動します。《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します。
さらにチェーンしてモンスターの効果を発動します。《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します』
無情にも同じ文言で説明された3枚のカード。昨日黄昏が対峙したニュートも使用していたが、除外系のデッキ破壊ではこれ以上にないほど猛威を振るうパワーカードだ。
合計15枚のカードが追加で除外されたことでリリアのデッキは2ターン目にして11枚となってしまった。
むしろこれだけのカードを除外されてなおまだ11枚残っているのを喜ぶべきか? いや──
「逆にこれはチャンスだよー!」
半端なデッキ破壊が相手の墓地を肥やしてしまうのと同様に、今のリリアの手札であればむしろこれは準備が整ったと言える。
「メインフェイズ2に移って、手札の《D・D・R》を発動だよー! 手札1枚を捨てて除外されているモンスター1体を特殊召喚してこのカードを装備ー!
アタシは手札の《執念の剣》をコストに、除外された《暗黒魔族ギルファー・デーモン》を帰還するよー!」
除外ゾーンから呼び出すのはこの場に必要な最後のキーカード。これによりリリアのループコンボが完成する──
『《D・D・R》の効果に対してチェーン発動します』
その直前、無慈悲なアナウンスによって阻まれた。
『発動するのは《魔宮の賄賂》。相手の魔法&罠カードの発動を無効にして破壊。その後相手はカードを1枚ドローします』
「あう……」
手札:3→2→3
次元の狭間は強制的に閉じられ、リリアの必殺のループコンボは防がれた。
墓地へ送られた《執念の剣》はその効果でデッキトップに戻るが、その前に《魔宮の賄賂》の処理が挟まり、ドローしたカードは《サンダー・ブレイク》。
相手のライフは残り僅かだが、彼女の手札に装備魔法のない今はたとえ《ビッグバンガール》を召喚してもバーンダメージは望めない。
「モンスターとカードをセットしてターンエンドだよー……」
しかしリリアは諦めず守りを固める。
デッキは大きく削られたがそれは相手も同じ。むしろリリアよりも被害は甚大だ。
見れば、残るデッキは1枚のみ。次のターンさえ凌ぎきれば相手のデッキ切れを狙うことだってできる。ループコンボの完成は絶たれたが、まだ勝ち筋が消えたわけでない。
| 【リリア】 1/4000 -▲○-- -■□-- |
| 【UNKNOWN】 2/700 ----- ----- |
「────」
「へ……?」
いま一瞬、相手が何かを呟いた様に聞こえたのだが、残念だがそれを聞き取ることはできなかった。
代わりに無機質な音声が淡々と処理を進めていく。
『ターンを始めます。
ドローフェイズ、カードをドローします。ドローフェイズを終了します。
スタンバイフェイズへ移ります。スタンバイフェイズを終了します。
メインフェイズへ移行します。』
手札:2→3
デッキのカードを引ききり、空になった相手のデュエルディスク。次にドロー処理が行われると敗北。
対するリリアはライフは4000でありデッキも11枚。
このまま終わるとは思えないが、何を企んでいるのかわからないためリリアは固唾を呑んで見守っている。
ローブを被った人物は引いたカードを確認し、そのまま静止。時間にすると十数秒の間だが動きのなかった相手はやはり一言も発さず、されど何かを決心したように手札のカードを切った。
『手札から《大欲の壺》、発動。自分及び相手の除外されている3枚のモンスターを対象に発動。選択したモンスターを持ち主のデッキへ戻し、その後1枚ドローします。
選択するのは、《ネクロフェイス》、《ネクロフェイス》、《ネクロフェイス》の3枚。選んだ3枚をデッキへ戻し、1枚ドローします』
除外→デッキ
【UNKNOWN】
手札:2→3
『手札から《異次元の指名者》、発動。カード名を1つ宣言し、相手の手札を確認。宣言したカードが相手の手札にある場合はそのカードを1枚除外、宣言したカードがない場合は自分の手札をランダムで1枚除外します。
宣言するカード名は《蘇りし魔王ハ・デス》、です』
無機質に宣言されたのはリリアがデッキに投入した覚えなどないカード。そもそも、宣言されたカードはシンクロモンスターだ。もし投入したとしてもリリアの手札に存在することなどありえなかった。
それもそもはず。相手の目的はリリアの手札破壊ではないのだから。
『相手の手札に宣言したカードがなかったため、自分の手札を1枚除外します』
手札:2→1
相手の手札は2枚。そして《大欲の壺》で手札に加わったのは100%《ネクロフェイス》。おそらくターンの始めに長考していたのは引いたカードを処理する方法がなく、最後の最後がギャンブルになることを避けられなかったからだろう。
デュエルディスクによって自動的に選ばれたカードを、相手は何も言わずに手札から取り除く。
──そして、再び無機質に放たれた通知音により、このデュエルの勝敗は決した。
『《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します。
《ネクロフェイス》の効果処理後、新たなカードの効果を発動します。
《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します。
さらにチェーンしてモンスターの効果を発動します。《ネクロフェイス》の、効果発動。このカードが除外された時、お互いのデッキトップから5枚カードを除外します』
つい先程も聞いた無情なデッキ破壊。
計15枚のデッキ破壊により相手のデッキはもちろん、11枚のデッキが残っていたリリアもその魔の手から逃れる術はなかった。
お互いにデッキは0。されどこのデュエルモンスターズのルールにおいてデッキが0になっただけでは敗北はしない。
『メインフェイズを終了します。
ターンを終了します』
| 【リリア】 1/4000 -▲○-- -■□-- |
| 【UNKNOWN】 1/700 ----- ----- |
故に相手のターンが終了し、リリアのターンが回ってきた。しかし……
「あう……」
何かしらの制約や効果がない場合、ドローフェイズでのドローは必須の行動。そしてデュエルモンスターズではデッキからカードをドローできなかったときに敗北が決定する。
場のモンスターの数、ライフ差。全てにおいて優位に立っていたリリアだが、ただの一度も攻撃されることなく彼女はこのデュエルに敗北してしまった。
デュエル終了のブザーが虚しく鳴り響く中、二人のデュエリストを繋いでいた赤い鎖や周囲の白いカーテンが霧散。
重苦しい空気がなくなったが、代わりにリリアは自分の中からエネルギーが吸い取られるような感覚と共に意識が遠のいていく。
不自然なほど人の往来がない通学路に助けてくれる人は見当たらず、力尽きた彼女はその場に倒れ込んだ。
アナウンス機能は紙で行うデュエルと、マスターデュエル等のアプリ上のデュエルが混ざったようなもので、ターン宣言や効果発動等で声が必要なときだけ画面を操作するイメージです
プロデュエリストって職業があったり色んな人がデュエルをする世界ならこういう機能もあるよねって感じで描写してみました
他作品だと歓声などで宣言を聞き逃すのを防止するため、お互いにインカムをしてる、みたいな描写をしている人もいましたし、こういう「デュエルが当たり前の世界」ならではの描写は考えていて楽しいですね