守りを固めた黄昏と、強力なモンスターで相手の戦力を着実に削いでいくジン。
出来る限りの盤面を作った黄昏だが、ゾンビ相手に籠城戦は最終的には決壊するのが定めというもの。生ける屍を操るサイコデュエリストも黄昏の盤面を崩すためにターンを開始する。
| 【ジン】 2/3200 --○△- ----- |
| 【黄昏】 1/1900 -△△△- ■■■■- |
「ボクのターン、ドロー!!
そしてメインフェイズ、まずは《 カードガンナー 》の効果を発動や。デッキトップを3枚墓地へ送って攻撃力を1500上昇!」
手札:2→3
《 カードガンナー 》
ATK:400→1900
「こりゃいいカードが落ちたわ。まずは墓地の《屍界のバンシー》を除外して効果を発動。手札・デッキから《アンデット・ワールド》を発動するで」
突如としてどこからともなく反響する女性の鳴き声。それは聞く者の悪夢を呼び覚ますように、周囲の景色が再び死霊の巣へと塗り替えてしまう。
さらにその空間に漂う魂を吸収しつつ雄叫びを上げた《 ドーハスーラ 》はその巨体を翻し、正面の邪眼でこちらを捉えた。
「アンデット族の効果が発動したから《 ドーハスーラ 》の効果発動条件は満たしたで。効果は当然モンスター除外の方を選択や。
そうやな、お前の墓地の《スクラップ・ワーム》を除外しておこうか。[バロルの邪眼]」
墓地→除外
「せっかく色々犠牲にして破壊した《アンデット・ワールド》がまた発動してしまって残念やったな。
ほらダメ押しで《馬頭鬼》を墓地から除外して効果発動や。墓地のアンデット族モンスター1体を特殊召喚できる。
墓地の《 酒呑童子 》を蘇生するで」
《カードガンナー》のコストで落ちていたモンスターがここに来て蘇生。ニュートも利用していたそのモンスター効果はデッキトップ操作かドローを選べる効果だったはず。
黄昏が《ミラーフォース》をセットしているのはジンも当然わかっている状況でこのモンスターを出すということは、今の手札に対抗手段がないのか、はたまた他の理由か……
黄昏が警戒する中、当の本人は気にした様子もなく処理を進めていく。
「《 酒呑童子 》の効果発動や。墓地のアンデット族を2体除外することで1枚ドローする。
墓地の《ピラミッド・タートル》と《ゴブリンゾンビ》を除外して1枚ドロー! そして《 ゾンビキャリア 》を通常召喚するで」
手札:3→4《/right》
皮膚が爛れ、四肢と胴体がそれぞれ別の生物で構成されているその異様さは、このデュエルで召喚されたモンスターの中でもトップクラスであろうモンスター。
「この程度のデュエルで出す必要もないねんけど、今回は特別に出血大サービスや! レベル4の《 酒呑童子 》をレベル2の《 ゾンビキャリア 》でチューニング。今ここに蘇り再び魔の軍勢を従えろ。シンクロ召喚! 冥府を統べる不滅の魔王。《 蘇りし魔王ハ・デス 》」
《left》《 ゾンビキャリア 》、《 酒呑童子 》
フィールド→墓地
感染者を歪に変質させる力によって新たな力を得た冥府の魔王。その威圧感は《 ドーハスーラ 》にも勝るとも劣らないが、ただのモンスターにしては雰囲気が異様だった。違和感を感じた黄昏はとっさに右手で前髪をかき上げ、鋭い眼光を顕にして冥府の魔王を観察する。
ジンのデッキから感じるどす黒いオーラの正体は、変質した牡牛座の象徴である《Ol-セイクリッド・グガランナ》のもの。デッキに眠っているだけだというのにその存在感はヒシヒシと伝わってくる。
その存在感に埋もれて気づきにくかったが、前髪を上げてしっかりと見据えることでその違和感を突き止めることができた。
「……
あのときは手札のカードを除外するために絶対に手札にないカードを宣言したのだと思ってたが、梓が宣言したカードが今ここで現れ、しかも
「もしかして、《 ハ・デス 》こそジンの
しかもこの気配は……蟹座の
偶然にもエヴァとのデュエルを黄昏が担当し、その後も何人かの
ただし、それだけならエヴァのデッキがジンに回収されただけとも考えられる。しかしその場合に本来のモンスターが《Ol-セイクリッド》として変質することはこれまでの経験から明白。
つまり、既存のモンスターに加護が宿っている状況というのがありえないのだ。
もちろん黄昏自身この特性もすべて把握しているわけではない。梓が隠している情報のどれかに、この事象に関するものがある可能性もあるだろう。問題は、その『何か』を黄昏が知らないために、今の状況を正確に把握することができないということだ。
下手をすれば、想定している戦力図と実際の戦力図が大きく乖離しているかもしれないのだから。
「なんやぶつぶつ言ってるようやけど、何もないならいくで!
《 カードガンナー 》を攻撃表示へ変更してバトル! まずは《 ドーハスーラ 》で《 スクラップ・サーチャー 》を攻撃![ルイン・ボレロス]」
新たな謎が生まれたが今はそれどころではない。なぜなら、時間稼ぎ防止システムとしてデュエルディスクに搭載されているチェーンを組むかどうかの操作受付時間は5秒程度しかなく、それ以降は強制的に打ち切ることができるのだ。
公式大会であれば最低でも10秒程度待つのが暗黙のルールとなっているが、野良デュエルであればそんな温情はないに等しい。
そして、先ほど呼び出された《 蘇りし魔王ハ・デス 》の効果はアンデット族が戦闘破壊したモンスターの効果を無効化し、そのままでは墓地発動すら許さない冥府を統べる力。
《 スクラップ・サーチャー 》の無力化を避けるには、この攻撃を通すわけにはいかなかった。
「っ、この瞬間リバースカード《聖なるバリア─ミラーフォース─》発動! 相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する!!」
首にかけたバンドで前髪を固定する暇もなく、慌ててデュエルディスクを操作してセットカードを発動。
ギリギリ間に合って展開された光の壁は、《 ドーハスーラ 》の放ったレーザーを跳ね返すことで攻撃態勢をとっていた相手モンスターを一掃。……するかに思われたが、土煙が晴れたジンのフィールドには《 蘇りし魔王ハ・デス 》だけは半透明なベールを纏うことで破壊を免れていた。
「手札の速攻魔法《禁じられた聖衣》を発動させて貰ったで。モンスター1体の攻撃力を600下げる代わりに、効果対象と効果破壊に耐性を与える。
これで《 ハ・デス 》は効果では破壊されへん」
ATK:2450→1850
《 カードガンナー 》、《 ドーハスーラ 》
フィールド→墓地
「……何を企んでる?」
「流石にあからさま過ぎたか? けどあのまま全部破壊されるわけにもいかへんわな。
まあ、どっちがマシだったかはわからんやろうけど!」
言いながらジンは最後の手札を発動。それに伴い《ミラーフォース》によって散った《ドーハスーラ》の魂がそのカードへと吸収されていく。
「自分フィールドのレベル8以上のモンスターが墓地へ送られたターン、このカードは発動できる。
速攻魔法《デーモンの駆け引き》! 手札またはデッキから《 バーサーク・デッド・ドラゴン 》を特殊召喚や!!」
最上級モンスターの魂を依り代にデッキから呼び出されたのはやせ細ったドラゴン。いや、破壊された最上級モンスターの魂が龍の亡骸に宿ったことで動き出したという表現の方が正しいかもしれない。
そして、骨と皮だけしかないその腕に黄昏は見覚えがあった。
「さっき建物ぶっ壊したのも、始業式のとき俺の《スクラップ・ヘルサーペント》の突進を防いだのも、全部そいつを実体化させてたのか」
「そして今からその鬱陶しい鉄くず共をぶっ壊すモンスターでもあるで!
《 バーサーク・デッド・ドラゴン 》は相手モンスターすべてに攻撃をすることができる。《 スクラップ・サーチャー 》3体へ攻撃や![エンドレス・ナイトメア]」
今の黄昏の墓地にはこの状況を打開するカードは存在しない。故に亡骸の龍が暴れ狂い、黄昏の呼び出した不死鳥たちが葬られていく光景をただ見ていることしかできない。
「そのぎょうさん伏せたカードは飾りか? だったら《 ハ・デス 》でダイレクトアタック![積尸気冥界波]」
「っ、がぁ……!」
《 スクラップ・サーチャー 》×3
フィールド→墓地
【黄昏】
ライフ:1900→50
《 ハ・デス 》の攻撃力が《禁じられた聖衣》によって下がったおかげでぎりぎり黄昏のライフは持ちこたえた。
だとしても相手はサイコデュエリスト。ライフが残っているのだとしても直接受けるダメージはモンスター同士の戦闘で発生する超過ダメージとは比べ物にならず、黄昏の身体を容赦なく吹き飛ばした。
「……それでも倒れへんのかい。まあええわ。
ボクはこれでターンエンドや。そして自身の効果で《 バーサーク・デッド・ドラゴン 》は攻撃力が500下がり、《禁じられた聖衣》の効果が切れた《 ハ・デス 》の攻撃力は元に戻るで」
言いながらもジン自身予想はしていたのだろう。肩で息をしているものの膝をつく様子のない青年に対し舌打ちをするだけで、必要以上に驚きはしていない。
ATK:3500→3000
《 蘇りし魔王ハ・デス 》
ATK:1850→2450
| 【ジン】 1/3200 -○○-- ◎ ----- |
| 【黄昏】 1/50 ----- -■■■- |
自分のターンが回ったことをデュエルディスクが点灯して伝えているが、黄昏は眉をひそめるだけでなかなかドローしなかった。
ただしそれはドロー出来ないほど満身創痍であるからではなく、この状況を打開する方法が見つからず考え込んでいるからなのだが……
元より今回のデュエルの目的は相手の情報を探ることだ。そのため、最悪負けても問題ないように黄昏のデッキには《Ol-セイクリッド・リブライト》は投入されていない。
また、ただ情報を探るだけならすでにその目的も達成したと言えるだろう。
「問題は、今のままじゃこの情報が使えないってことか……」
有益な情報であることは間違いないが、その情報が《蘇りし魔王ハ・デス》から蟹座の
この情報を活かすにはもう少し精査が必要となるが、そのためにはもう少し粘って相手の手の内を出させる以外に方法はない。
では今の状況からさらに粘れるかと言われると、そのためには今の状況を打開する方法を見つけなければいけないという堂々巡り。
「あークソ、面倒だなほんとに……」
悪態をつきながら首にかけたバンドに手をかけると、思考を一度リセットさせるために黄昏は自身の前髪をかき上げて固定する。
視界が開け、今対処しなければならない状況を再確認したのであれば、次にデュエリストが行うべき行動は一つだけ。
「俺のターン、ドロー!!」
手札:1→2
「スタンバイフェイズに《ドーハスーラ》の効果を発動や。フィールドゾーンに表側表示でカードが存在する場合、スタンバイフェイズにこのモンスターは守備表示で特殊召喚できる。
再び現われろ、《 ドーハスーラ 》!!」
墓地→フィールド
フィールド魔法があれば毎ターン蘇生が出来る厄介なモンスターが蘇るが、黄昏にとってはこれは好機だった。
問題はこの状況を利用できる盤面を整えなければいけないこと。にも関わらず黄昏の手札は《スクラップ・ゴブリン》のみ。今しがたドローしたカードも《スクラップ・リサイクラー》であり、それ単体で現状を打破するようなカードではなかった。
「どちらを先にするべきか……」
手札の《スクラップ・リサイクラー》と、フィールドにセットしているカードを交互に見ながらそう呟く黄昏。その目線の先にあるセットカードの正体は《無謀な欲張り》であり、黄昏が頻繁に使用するドローソースの1枚だった。加えて、墓地には《ブレイクスルー・スキル》と《妖怪のいたずら》、デッキには《ロータリー・ブースト》も眠っている。これらの組み合わせで、最終的に2枚のドローを行うことは可能。
つまり今の状況は、『召喚権を消費して先に2枚ドロー』か、『罠カードを消費して2枚ドロー』か、そのどちらを先に発動したほうがよりいい結果にたどり着くかと予想を立てなければいけない状況だった。
一つの選択ミスでそのまま勝敗が決まりそうな状況であるからこそ、その最初の一手は黄昏を大いに悩ませていた。
「……俺は墓地の《ブレイクスルー・スキル》を除外して効果発動。《 ドーハスーラ 》の効果を無効化する」
「どうぞご自由に」
さすがのジンも墓地のカードからおおよその展開は読んでいるようで、発動されたカードに対してジンが過剰に反応することはない。
ともあれ、これによって黄昏を苦しめていた《ドーハスーラ》の邪眼は固く閉ざされる。これにより、少なくともこのターン中は《アンデットワールド》適応化に置いても黄昏は気にせず効果を発動することができるようになった。
下準備はこれで終了。あとはこの後の展開次第。
「俺はまず、《スクラップ・リサイクラー》を通常召喚し、その効果を発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから機械族モンスター1体を墓地へ送る。
俺が墓地へ送るのは《ロータリー・ブースト》だ」
自走するゴミ箱のようなモンスターによってデッキから墓地へ送られたのは、黄昏がデッキ圧縮をする際に頼りにしている、レベル1の機械族モンスター。
《スクラップ・リサイクラー》には墓地のレベル4かつ地属性かつ機械族のモンスター2体をデッキへ戻すことで1枚ドローする効果もあるが、生憎と墓地に条件を満たせるカードがなく、そもそも《アンデット・ワールド》適応下では『機械族』という条件を満たせないためこのようなチョイスになったのだろう。
「……そういや、墓地にはまだ《妖怪のいたずら》が残っとったな」
「ああ、だからまずは墓地の《妖怪のいたずら》を除外して効果を発動。フィールドの表側表示モンスター1体を対象に、そのモンスターのレベルを1下げる。
これで俺は《スクラップ・リサイクラー》のレベルを1下げる。さらに墓地の《ロータリー・ブースト》は墓地の罠カードが除外することで効果を発動する際、こいつ自身と除外する罠カードをデッキへ戻すことでカードを2枚ドローできる。
これでチェーンは組み終わった。何もないなら逆処理だ」
レベル:3→2
【黄昏】
手札:1→3
通常召喚権を消費し、新たに加わったカードは2枚。うち1枚は《荒野の大竜巻》。これも黄昏がよく使うカードの1枚だったが、残念ながら今の状況ではこのカードでどうにかすることは不可能であろう。そして、もう1枚のカードは……
「《左腕の代償》、か……」
デッキからあらゆる魔法カードを1枚サーチできる万能カード。ただしその条件はこのカード以外に手札が2枚以上ある状況でそのすべてを除外することであり、さらにそのターン魔法と罠がセットができなくなるという制約つきの、ハイリスクハイリターンな一発逆転の一枚といえる。
今の状況を打破するにはこのカードに頼らざる得ないと言ってもいいが、黄昏のその表情は苦悶に満ちていた。
「……悪い、《ゴブリン》! 俺は残りの手札をすべて除外して《左腕の代償》を発動!
デッキから通常魔法《死者蘇生》をサーチ!」
「ほう。で、どいつを呼び出すんや?」
手札:2→0→1
相棒を除外することに対して謝罪をし、その上で手札に加えたのは、蘇生条件さえ満たしていればどちらの墓地からでもモンスターを蘇生できる万能カード。
しかし煽るように尋ねるジンの言う通り、お互いの墓地はそこまで肥えていない。
蘇生できるモンスターの中で最高打点は2100の《スクラップ・ブレイカー》だが、それではジンの従えるどのモンスターにも攻撃力が及ばない。せめて《 ドーハスーラ 》を処理したいところだが、それができるモンスターもいない。
この状況を打開するには、この手札で新たなモンスターを呼び出す必要があるのだ。
「……ここからは遠慮なくいかせてもらう。俺はリバースカード《無謀な欲張り》を発動。このあとの通常ドロー2回分を封じるかわりに2枚ドローする。
さらにそのドローの中にあった《ロータリー・ブースト》の効果。このカードが罠カードの効果でドローされた場合、このカードと手札1枚を墓地へ送ることでカードを2枚ドローする」
「運がいいやつやな。それで、いいカードは引けたかいな?」
手札:1→3→1→3
「…………」
未来のドローさえも前借りすることで揃えた3枚の手札。ジンの言う通り、運良く手札に来た《ロータリー・ブースト》のお陰でさらなるデッキ圧縮ができた。それにより加わった手札たちに目を通しながら、当初組み立てていた戦術を臨機応変に組み換え最大限の成果を得られるように思考を巡らせ……そして彼の鋭い眼光がジンを捉えた。
「手札から《死者蘇生》を発動!
俺はジンの墓地の《 ゾンビ・マスター 》を蘇生! さらに《 ゾンビ・マスター 》の効果を発動し、手札の《スクラップ・ゴーレム》を墓地へ送ってジンの《 ゾンビキャリア 》を蘇生!」
「はっ! なにかと思えばボクのカード頼みかい!」
「使えるものは全部使わせてもらうさ。さらにこの瞬間、墓地の《 地底王の尖兵 》の効果をチェーンして発動。このカードが墓地にある状態で自分か相手の手札からモンスターが墓地へ送られた場合、墓地のこのモンスターを特殊召喚できる!」
「あん? そんなカードいつの間に……《ロータリー・ブースト》のときか」
「何もないなら効果の処理を続けるぞ」
墓地→フィールド
事前に《ドーハスーラ》の効果を封じたおかげで、この展開を止める方法をジンは持ち合わせていない。
結果、黄昏のフィールドには《スクラップ・リサイクラー》に続いてジンの墓地から奪った《 ゾンビマスター 》と《 ゾンビキャリア 》、そして《 ドーハスーラ 》にまさるとも劣らない巨大な多脚の軟体生物が出揃った。
これで黄昏の想定通り……いや、想定以上と言える準備が整った。
「これで素材は集まった。レベル2の《 ゾンビキャリア 》で、レベル2となった《 スクラップ・リサイクラー 》とレベル4《 ゾンビマスター 》をチューニング。異なる身体が集結し、ここに破滅の魔物が誕生する。シンクロ召喚、這い上がれ《 スクラップ・ヘルサーペント 》!」
フィールド→墓地
黄昏の切り札にして、この状況を打開できるキーカード。《アンデット・ワールド》適応下により種族がアンデット族となっているが、《ドーハスーラ》の効果は予め無効にしているため、その効果を十分に発揮できる。
「……プレート魔法なしだとここまでキツいか」
目的の盤面が揃えられたものの、身体の内側が燃えるような痛みに顔をしかめる黄昏。見れば、右腕に蛇の鱗のようなものが浮かび始めていた。
最近のデュエルでは鳴りを潜めていたこの症状だが、やはりプレート魔法の存在が大きかったのかもしれない。とはいえ、今更プレート魔法が発動できるまで待つなどこのデュエルを負けようとしているに等しい。
意識が若干朦朧としてきているが、それを気力だけで持ちこたえてデュエルを進行する。
「バトルだ! まずは《 地底王の尖兵 》で《 ドーハスーラ 》を攻撃![アヴァンガード]」
フィールド→墓地
前面と背面、どちらの目を開くこともできない死霊王に一番槍が突貫し、ジンのフィールドに並ぶ3体のモンスターの内1体をフィールドから葬り去ることに成功。
守備表示のモンスターへの攻撃であるためダメージを与えることは叶わないが、この戦闘は後の展開において非常に重要な役目となる。
「続けて《 ヘルサーペント 》で《 ハ・デス 》を攻撃![ヘイト・スワロー]
そして[ルイン・レイン]! バトルステップ開始時に《 バーサーク・デッド・ドラゴン 》を破壊する!」
「……っ!」
ライフ:3200→2850
《 蘇りし魔王ハ・デス 》、《 バーサーク・デッド・ドラゴン 》
フィールド→墓地
《 地底王の尖兵 》の攻撃を皮切りに、瞬く間にジンのフィールドのモンスターは全滅。しかしフィールドに佇む残骸の大蛇はまだ暴れ足りないのか、その巨体を蠢かせて耳障りな金属音を響かせている。
「報告では聞いとったが、実際に目にするとヤバさが桁違いやな……けど──」
「これで終わり、だと思ったか?」
途切れそうな意識を繋ぎ止め、息を荒くしながらそう問いかける黄昏。青空は夕焼けに移り変わり、建物の影に彼の姿が埋もれているためわかりにくいが、右腕に浮かんだ蛇の鱗はすでに彼の首元まで侵食していた。
もうあまり時間はない。威圧的な眼光はさらに鋭くなり、むしろここまでは前座だと言わんばかりに2枚ある内の1枚の伏せカード……最初のターンから伏せていた方を発動させる。
「リバースカード《破壊神の系譜》、発動。相手の守備表示モンスターを破壊したターン、レベル8のモンスター1体はもう一度攻撃ができる。
このターンで終わらないが、攻撃しない理由にはならねーよな?」
「っ!? ……はは、マジかいな」
「《 ヘルサーペント 》、プレイヤーへ直接攻撃!![ヘイト・スワロー]」
「──っ!? ────っ!!!」
がら空きとなったジンのフィールドを突き進み、その巨大な口で相手を丸呑みせんと肉薄する破滅の魔物。
それに対して、声にならない悲鳴を上げながら全力で横に飛んだジン。普通のソリッドビジョンであればそこまでする必要はないが、黄昏の操る《スクラップ・ヘルサーペント》となれば話は別。彼はサイコデュエリストではないが、特定のモンスターだけは実体化させられる力を有しており、《ヘルサーペント》はその1枚なのだから。
ライフ:2850→50
受け身を取れず地面を転がったジンをかすめるように突き進んだ大蛇は、その背後にあった建物を一撃で崩壊。数値上はきちんとダメージが通っているとはいえ、避けなければどうなっていたかは崩壊した建物を見れば容易に想像できる。
「ったく、ちっとは加減ってものを覚えろやこのアホ……」
「バトルステップ開始時、《 地底王の尖兵 》を破壊。[ルイン・レイン]」
フィールド→墓地
肩で息をしながら残りの処理を終え、バトルフェイズを終える黄昏。しかしその表情は未だに晴れない。《左腕の代償》を起点に状況は好転したものの、完全に逆転したとは言い切れないからだ。
《アンデット・ワールド》があるため次のスタンバイフェイズに《ドーハスーラ》は復活する。
守備表示での蘇生とは言え効果は使えるし、仮に新たなアンデット族の効果が発動すれば《スキル・プリズナー》等の防御手段がないこの状況では《 スクラップ・ヘルサーペント 》は確実に除去される。
手札に残った1枚は《和睦の使者》であるが、《左腕の代償》のデメリットによりセットすることはできない。
この次のターンを生き残れるかどうかは、前のターンからセットされているカード1枚に託されているのだ。
「ターンエンドだ」
| 【ジン】 1/50 ----- ◎ ----- |
| 【黄昏】 1/50 --◯-- --■-- |
「……この惨状、まるで今のお前みたいやな」
「あ?」
土埃を払いつつ立ち上がったジンがケラケラと笑いながらそんな感想を口にするものだから、黄昏は荒っぽく反応する。
「見てみぃこのフィールド。自分のモンスター含めて《 ヘルサーペント 》の効果で皆破壊されて、残っとんのは《 ヘルサーペント 》1体のみ。
一人で暴れるだけ暴れて最後は孤独。誰もお前を助けてはくれへん状況や」
「俺が救われる必要なんてあるか?」
「自己犠牲なんざ誰も誉めてくれへんで?」
「誉められたいと思ってるとでも?」
「……つくづく気に障るやつやな。まあええわ、ドロー!
そしてスタンバイフェイズ時に《 ドーハスーラ 》は守備表示で特殊召喚されるで」
手札:1→2
《 死霊王ドーハスーラ 》
墓地→フィールド
再度フィールドに顕現する悪魔だがその周囲に漂う魂の数は少なく、背面の邪眼を開けず守りの体勢で佇んでいる。復活した直後はまだ本調子ではないということなのだろう。
「さあこれで終いや! 手札から《アンデット・ネクロナイズ》を発動! 自分フィールドにレベル5以上のアンデット族がいる場合に発動が出来て、エンドフェイズまで行動制限なしで相手モンスター1体のコントロールを得る。
お前の《 スクラップ・ヘルサーペント 》を貰おうか!!」
突如として発生した炎に焼かれ始めた《 スクラップ・ヘルサーペント 》が悶え苦しみ、辺りの廃墟をなぎ倒していく。それはまるで《 ドーハスーラ 》の青い炎が《 スクラップ・ヘルサーペント 》に燃え移ったかのような光景だ。
やがて青い炎に完全に包まれた鉄くずの大蛇は、ゆっくりとした動きでその身を翻し、本来の主である黄昏と向かい合い威嚇をし始めた。
自身が信頼を置く下僕と対峙する形となった黄昏は、なおも威嚇を続ける大蛇をまっすぐ見据えたまま動かない。
「………………」
「絶望して声も出んか? 心配線でもこの一撃で終わらせたるわ。自分の切り札でトドメをさされてしまえ! バトルフェイズ、《 スクラップ・ヘルサーペント 》で──」
その宣言が有効になる直前、遠くから聞こえるサイレンの音に反応してジンは押し黙った。耳を澄ましてみると、その音がだんだんと近づいているのがわかる。
「このタイミングでセキュリティかいな。しゃあないこのデュエルはここで終いや。命拾いしたな!」
まだ音は遠いが、包囲されてからでは遅いと判断したらしく、ジンは即座にデュエルを中断。改めてサイコパワーで《ドーハスーラ》を実体化させ、足早にこの場を去っていく。残念ながら、立っているのが精一杯な黄昏には逃げる男の背中をただ眺めることしか出来なかった。
間もなくして、サイレンの音と共に現れたのは十数人のセキュリティ達。それに加え、見知った顔が駆け寄ってきた。
「……どうして七波が?」
「いきなり爆音がしてそのまま通話切られたんだよ? 誰だって心配するでしょ普通。
って、その鱗! 説明が大変だから早く隠して。ほら前髪も下ろして……もまだ誤魔化しきれないか。
……うう、仕方ないからこれも被って!」
腕の方は手をポケットにでも突っ込めばなんとかなるが、顔や首元の鱗はそう簡単には隠せない。葵がカバンから取り出したタオルを頭から被らせ、さらに葵自身がセキュリティと黄昏の間に入って誤魔化すように努める。
「七波、なんかこれ湿って……」
「ないから!! さっさと被る!
それより、ボレアスの誰かとデュエルしていたの?」
デュエルディスクを付けた黄昏の周囲の惨状から推察して尋ねられた問いに、黄昏は朦朧とした意識で一度だけ頷いた。
そんな二人のやり取りの合間に、セキュリティが手際よく周囲にバリケードテープを使って規制線を張り現場は立入禁止となる。
黄昏は重要参考人であるものの、いつ崩落が起きてもおかしくない現場で事情聴取をするのは危険と判断したのだろう。セキュリティの指示を受けた葵に誘導されて一旦安全な場所へと移動する。
ベンチに腰を下ろして一息ついたことでようやく意識が鮮明になってきた黄昏は、窓に映る自分の姿を見る。
腕の方はまだくっきりと鱗が浮かんでいるが、首元は目を凝らさないとわからないぐらいまで薄れていた。これならバレることはないだろう。
……やはり若干湿ってる気がするが、触れないほうがいい雰囲気を察してタオルを葵に返却する。
「あ、日盛君のことだけど、あのあとリリアが掛け続けたら無事連絡ついたよ。D・ホイールに乗ってたのはパトロール範囲を広げるためで、いつの間にか電波が届きにくい場所にいたから電話に出れなかったみたい。
ただ、結局そのあと厄介事に首を突っ込んでいたみたいで、今は大神さんのところで説教食らってるところだけど」
「『安全な場所にいるから心配ない』なんてメールに書いてたくせに、やっぱり無茶してたか」
「それ黄昏君が言える立場?」
「…………」
いつもの黄昏ならここからのらりくらりと言い逃れをするところだろうが、今は疲労で思考が鈍っているのか、珍しく早い段階で押し黙った。
葵としても、黄昏の言葉に対して至極当然な指摘を入れたら思ったよりクリーンヒットしただけで、疲れている相手に追い打ちをする気はない。
お互いの情報共有が終われば、あとはセキュリティの事情聴取を待つのみ。それ以外にすることもなければ話題もないと、無言の時間が異様に長く感じられた。
その空気に耐えられなくなったか、はたまた別の理由か、黄昏は不意にコインを取り出して親指で弾き、キャッチする。
突然の行動に目を丸くする葵の隣で、黄昏が行ったコイントスの結果は……裏。それを確認した黄昏は力なく笑った。
「悪い七波、ちょっとその辺歩いてくる。この鱗を消すのにちょっと息整えてくるだけだから」
「あ、ちょっと……」
葵の静止を無視し、黄昏はその場を逃げるように離れていく。
何かを察してくれたのか追ってくる様子がない葵に感謝しつつ、周囲には誰もいない場所まで歩いてきた黄昏は、壁に背中を預けてその場に座り込んだ。
意図的か無意識か、デッキもさっきの場所に置いてきたため《スクラップ・ゴブリン》の精霊も近くにいない。
ここにいるのは黄昏一人。そして……
「《Ol-セイクリッド》、か……」
ジンとデュエルする直前までデッキに投入するか悩みに悩んで、結局入れないまま懐に隠していた問題のカード。
……そしてこれは、ただ首を突っ込んでるだけの部外者である黄昏が、正式にこの抗争に加わるための参加証でもあった。
「マジで蚊帳の外だよな、俺」
脳裏によぎるのは、七波将生とのデュエル中に葵へ向けて放った言葉。あのときは
それが蓋を開けてみたらどうだろう。
戦う資格を持つもの同士の仲間割れのような争い。勝手に首を突っ込んではいるものの、黄昏はそもそもその資格すら持っていなかったのだ。
そんな部外者の黄昏だからこそ、心の何処かで《Ol-セイクリッド》のカードを求めていたものなのかもしれない。
ただ、仮に今このカードをデッキに投入したとして、状況が大きく変わることはおそらくないだろう。
「スクラップのままじゃ……いや、デッキの問題じゃない。俺がその力を引き出せてないだけだ。
俺が一番力を引き出せるのは……いや、けど……」
考えるだけでこめかみがズキズキと痛むような気がして、それを振り払うように首を横に振りながら息を吐く。
「覚悟決めるしかねーか……」
小さく消え入りそうな声で漏れた言葉は誰にも届かず、夕焼けの廃墟の中へ溶けていった。
★
静止も虚しくその場を離れていった黄昏に対し、葵はため息をつくが追いかけることはしなかった。
『追いかけなくていいのです?』
「悔しいけど、今の私じゃ何もできないよ」
一人残されて手持ち無沙汰になった葵は視線を泳がせていると、黄昏がさっきまで座っていた場所に彼のデュエルディスクが放置されているのに気付いた。
中にはデッキもセットされたままで、カードを置くフィールドも展開されたまま。デュエルが中断されたため、デュエルディスクをパッド形態に戻すかどうかの確認画面が表示されたまま放置されている様子だった。
デュエリストの命とも言えるデッキとデュエルディスクを置いていくなど、それを気にしないほど思いつめていることなのだろう。
そんな彼の心境は重々承知のうえで、どのようなデュエルだったのか気になるかと問われれば……やはり気になってしまうのがデュエリストの性だろう。一応この場にいない少年に謝りながら、葵はデュエルディスクをパッド形態へ戻しつつ、その端末を操作してログを確認し始めた。
「……やっぱり、あいつとだったんだ」
予想はできていても、対戦相手の欄に記された『平坂ジン』という名前を実際に目の当たりにすると、自然と少女の表情はこわばった。
彼女も一度デュエルしたことがあるが、まるで歯が立たなかったのを今でも覚えている。黄昏も相当な実力者であるが、やはり終始ジンの優勢でデュエルが進められており、最後の最後で《スクラップ・ヘルサーペント》によって五分五分にもつれ込んだといった様子だった。
そして、ジンのターン中に決着が付く前に終わっていることから、ここで葵たちが到着したのだろう。
あのまま進んでいたとすれば、おそらく勝敗を決めるのは黄昏が最後に伏せたカードだったはずだ。
「《運命の分かれ道》、か……」
お互いにコイントスを行い、表ならライフを2000ポイント回復。裏なら2000ポイントのダメージを受けるギャンブルカードだ。
『なんだか、意味深なカードなのです』
「そうだね……」
《エリア》の言う通りこれがデュエルの勝敗『だけ』を決めるカードだったとは思えず、葵は得も言われぬ胸騒ぎを感じていた。
『お願いがあるッス』
「わっ!? って《スクラップ・ゴブリン》? そりゃそうだよね。これ黄昏君のデッキなんだし」
突然現れた半透明の精霊は、その残骸で構築された表情が変わることはないものの、声色から真剣であることは葵にもわかった。
『もし、もしもアニキが一人で背負い込もうとしたら、止めてほしいんス! ……ああでも! できればそれでもアニキを怒らないでほしいッス。
アニキがこういうときに暴走しちゃうのにはちゃんと理由があるんス。アニキは昔──』
身振り手振りで必死に何かを伝えようとする黄昏の小さな相棒の姿に、やさしく微笑んで葵は人差し指を自分の口に置いた。
「全部言わなくても大丈夫だよ。その辺りは黄昏君本人から聞くべきだと思うし。黄昏君が言いたくないのならなおさらね。
それに何が理由だったとしても今まで何度も助けられたんだから、そろそろ私の番だと思ってる。約束するから安心して」
元々はジンが別の
次回はデュエルなしで、その次が会話含めてデュエル内容を修正中なので、次回投稿はしばらく時間があくと思います