遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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セルケトに関係した新規カードが発表され、(無理くりなカード回しにならないので)テンションが上っている反面、「このカード使えるならデュエルの内容変えれるよね」ってことで数話先のデュエル構成を絶賛再編中な今日このごろ


今回はデュエル開始の手前までの話になります


言い訳の裏で少年が見たもの

 時間は少し遡り、黄昏が巫神社を訪れる少し前。

 彼とどこか雰囲気の似た少年は、薄暗い細道を無警戒に歩いていた。

 後に黄昏たちへ『ただパトロール範囲を広げただけ』と理由を述べることになる彼だが、あれはその場しのぎの嘘を付いたのではなく本人的には本当にそれぐらいの認識だったりする。

 ただし幼少期をともに過ごした黄昏にはまったく信用されておらず、実際客観的に見れば『パトロール範囲を広げただけ』では当然収まってはいなかった。それが彼、日盛遊形という人物の問題点といえるだろう。

「こんにちは」

「いらっしゃ……また君か」

 馴染みの店に入るような軽い挨拶に対して、ここのマスターらしき人物から返された言葉はやや棘が見え隠れしている。

 外観は少し古びた喫茶店だが、中にはテーブルデュエルができるブースが用意されており、ここに来る人がどんな趣味を共通で持っているかは言うまでもない。

「前にも言ったが、ここは()()が心の拠り所にしている場所だ」

「だから普通に客としてお邪魔してるんですが……」

「ああ、だからタチが悪い。問題を起こしているわけじゃないし、かと言って何かの拍子に君が原因の問題が起こらないとも限らない。

 初来店時の()()も、ほんのわずかでも何かが違っていたら大惨事になっていただろう。

 『対立が生まれる』ってだけでここの安全は一気に瓦解する。それだけこの場所はデリケートなんだ」

「今のところ波風は立ててないはずだからそこをなんとか……」

「……ホントに君は遠慮してるようで引く気がないな」

 マスターが片手で頭を抱えるのを見て肩をすくめるものの、彼の言う通り帰る様子もなくカウンター席に腰を下ろす遊形。

 ……実際、彼が店に迷惑をかけたことは一度もない。たまに客同士で交わされる雑談を見ても、彼と他の客の関係は悪くないと言えよう。とはいえ、ここに来る客層を考慮するとそれだけで楽観視できないのが悩ましいところなのだ。

 察しの通り、ここはデュエリスト……特にサイコデュエリストたちが重宝している隠れ家的な場所である。

 過去にはサイコデュエリストの保護を目的として表立って活動していた『アルカディア・ムーブメント』と呼ばれる団体が存在していたのだが、総帥を始めとした幹部がサイコデュエリストを犯罪行為に加担させていたことが明るみとなり解体。

 サイコデュエリストへの印象はそのまま最悪の一途を辿ると思われたが、そうならなかったのは件のアルカディア・ムーブメントに在籍していた十六夜アキという女性を始めとして、多くの善良なサイコデュエリストによる長年の頑張りによるところが大きい。

 実際、18年前に起きた『グレムリンダウン』の際も『謂れのない言いがかりを受ける程度で済んだ』と評価したライターがいたぐらいだから世間一般の共通認識なのだろう。……当然ながら、その記事は掲載直後に相当なバッシングを受け、早々に削除されたようだが。

 ともあれ、当人たちも現状をよく知っているからこそ身の振り方には気をつけ、万が一にも問題が起きないように己を律している者が大多数を占めている。遊形がここで知り合った人から聞いた話では、現在では交流はオンライン上でのみ行うという人も少なくないらしい。

 とはいえ実際に現地で集まりたいと思う気持ちは生物共通の心理であろう。

 そういった人たちのガス抜きのため、この古びた喫茶店は存在しているのだ。

「カモフラージュも兼ねて普通の客も受け入れてはいるし、君のように噂を聞きつけて怖いもの見たさで来る客もいないわけじゃない。

 けどそういった客は何も起こらないことを『つまらない』と言って来なくなることがほとんどだ。こう何度も入り浸るのは君が初めてだよ。

 ……いやホント、何か問題が起きる前に出ていってほしいんだが」

「あははは……一応、聞くこと聞けたらもう来ないつもりではいるんですけど」

「最初にも言ったけど、どんな理由であれ仲間を売るつもりはない。それが原因でここがセキュリティに摘発されるのを避けたいからね」

「ですよね……」

 どうやらこの我慢比べはまだまだ終わりは見えないようだ。

 注文したコーヒーを啜りながら店内に置かれた雑誌をぱらぱらと捲る姿は、側からみればただ時間を潰している普通の学生にしか見えなかった。とはいえ、平日の昼前からこんなところにいる学生が普通かといえば違うかもしれないが。

「毎回思うんだが、本当にただここに居座ってるだけなんだな」

「え、でも聞いても教えてくれないんじゃ……」

「いやそうなんだが……もっとこう……いやなんでもない。そういうスタンスだから追い出すに追い出せないんだし」

 早く出ていってほしいと思いながらもつい声をかけてしまうのはマスターがお人好しというのもあるだろうが、それ以上に遊形の雰囲気が独特なのが原因だろう。

 なぜなら、彼は情報収集を目的としてこの喫茶店に訪れているというのに、マスターへ愚直に質問する以外のことはしていのだから。

 これがもし黄昏であれば、時間を潰している風を装って周囲の会話に聞き耳を立てるなり、店の外から客の出入りを観察するなり手を尽くすことだろう。そして、その場合は早々にマスターから出禁を食らうことになったはずだ。

 ある意味、遊形だからこそ成り立っている情報収集方法と言える。

 さらに言えばまったくの時間の無駄というわけでもなく、この数週間の中で世間話をするような相手も少しずつ増えてきていた。

 今もそのうちの1人に話しかけられ、会話に花を咲かせる。話の内容もデッキ構築の議論が始まったかと思えば、店内で流れている音楽から派生してここ最近の流行りについて触れ、最終的には昨日見たテレビについて話すという、本当になんでもない雑談ばかりだ。

 今日も今日とて何の収穫もなく、今後に繋がるであろう関係構築だけで終わるかと思われたが、変化は突如として訪れた。

「──よぉ」

 やや乱暴に開けられた扉から入ってきたのは、見るからにガラの悪い三十代ぐらいの男性。男の来店だけで店内の雰囲気がピリついたことから、彼がこの場でどのような存在であるかは言うまでもないだろう。

 何より、遊形もその男のことはよく知っていた。

 乱暴な登場で自然と店内から視線が集まるが気にした様子もなく、遊形ただ1人を視界に収めた男は真っ直ぐ彼の元へと歩み寄っていく。

(ごう)

 ただ一言、マスターが釘を刺すように男の名前を呼ぶと、それに対して煩わしそうに、そしてわざとらしく舌打ちで返した。

「そんな睨まんでも暴力沙汰なんざおこさねぇよ」

「ならその威圧する態度からやめろ。他のお客様に迷惑だろう」

「言われなくともすぐに出るさ。用事が済んだらな」

 それ以上は受け付けないと言わんばかりに会話を打ち切り、椅子に座ったままの遊形を見下ろす豪と呼ばれた男。

 その威圧感には先ほどまで雑談を交わしていた隣の男性も目を逸らしてしまうほど。しかし少年に怯んだ様子はなく、ただ次の相手の言葉を待っているようだった。

「この前はよくも恥かかせてくれたな」

「恥って、僕がここに初めて来たときにデュエルしただけですよね?」

 この返しが煽りだと思っていないのは黄昏から悪い影響を受けてしまったからと見るべきか、されど豪も事前にマスターから釘を刺されていたため拳を握ることはなかった。

 代わりにテーブルへ乱暴に手をつきつつ、さらに眼光が鋭くなっていく。

「聞いたぜぇ。お前、()()()()()()()()なんだってな」

「……っ」

 先ほどから一切表情を崩さなかった少年の眉がかすかに動いた。言いがかりならまだしも、その発言に対して知らないフリを突き通すのは難しかったらしい。

 ジンというのが平坂ジンだと仮定することにはなるが、その同類となれば真っ先に浮かぶのはサイコデュエリスト。だがこの場所はそのサイコデュエリストが集まる隠れ家。遊形を名指しで『同類』と呼ぶのはおかしいだろう。

 もっと言えば、先ほど遊形が言ったように彼らは1度デュエルをしており、遊形がサイコデュエリストかどうかは豪本人が知っている状況なのだ。

 ならば考えられる可能性は、遊形をボレアスのメンバーと勘違いしているか、もしくは星の守護者(セイクリッド)であると知ったかのどちらかだろう。

 つまり、この男がボレアスに関わっていることは間違いない。

「こんなところに出入りしてるぐらいだ。ジンについてなんか探りを入れてるってところか?」

「待って、そもそもその『ジンと同類』ってところがよくわかってなくて……

 誰かと勘違いしてるとかでは?」

「しらばっくれてんじゃねぇよ!」

 流石に正直に肯定するわけにもいかず誤魔化してみるものの、問答無用と言わんばかりに豪に胸ぐらを掴まれさらに詰められる。

「豪!」

「うるせぇ! 御門(みかど)、てめぇも知っててこいつをここに置いてるなら同罪だから覚悟してろ。

 こそこそ嗅ぎ回ってるネズミがどうなるのか、こいつには一度痛い目を合わせやらねぇとなぁ!」

「だから荒事を起こすなと言ってるだろう!

 ここがどんな店かお前わかってるのか!?

 仮にその子に何か企みがあったとして、今この状況で何か問題を起こせば真っ先に迷惑を被るのはこの店を利用しているお客様だ。

 もしそんなことになってみろ──っ!」

「へっ、俺をここから追放するってか?

 この辺の統率を任されてるやつは言うことが違うねぇ」

 ヒートアップする2人に挟まれた遊形は目だけを動かした両者の顔を交互に見ていた。下手に会話を挟めば余計に事態をややこしくする可能性もある反面、このまま売り言葉に買い言葉を繰り返していればそれはそれで大変な事態にもなりかねない。

 そんな張り詰められた空気に対して少年できることはないかと思われたが、走馬灯のように脳裏をよぎった記憶が一つの答えを導き出した。

「えっと、マスターの名前って、御門って言うんですね」

「………………はぁ?」

 たっぷりと時間をつかい、豪の反応はそんなものだった。それほどまでに場違いで間の抜けた言葉だったのは間違いないだろう。

 彼がよく知る少女が時々かましてしまう天然発言を真似てみた結果、どうやら成功したと見ていいようだ。

「こいつそんなことすら聞いてなかったのか?」

「確かに、世間話ぐらいはしたが自己紹介をした記憶はなかったな。

 ……まあ、ここでくつろいでいるだけのお客様ならそれぐらいの関係性でも不思議ではないと思うが」

 ほんの一瞬ではあるが、ヒートアップしていた二人の意識が別のことにそれる。それだけではこの喧嘩の仲裁にはならないだろうが、御門と呼ばれたマスターは遊形の意図をくんでくれたようだ。

「それから、豪。お前、今自分がこの子に不用意に情報を与えてしまったことに気づいているか?」

「……っ!?」

「一応言われて気づく程度には冷静だったか。まあ手遅れには違いないが。

 仮に豪の言い分が正しいとしても、この子に無駄に情報を与えたことになるし、逆に無関係だとしたら変なことに巻き込まれるきっかけを作ってしまったわけだ。

 どちらにせよ、一度ジンに状況報告するしかないようだな」

「お、おいおい、いきなりそりゃねぇだろ」

「いきなり? 再三の警告も聞かずに好き勝手やってたのはそっちだろう」

 さきほどまでの売り言葉に買い言葉の応酬から一変、明確な力関係により豪が目に見えてうろたえ始める。

「な、ならこいつを黙らせればいいわけだろ?」

「……まだ荒事を起こすつもりか?

 それに今の口の滑らせようからして、他の場所でも不用意に情報を漏らしてないとも限らなくなった。

 一応釘を刺しておくが、今みたいにお前自身が気づいてない間に漏らしてる可能性もあるから、お前の意見だけではどうやっても取り返しはつかないぞ」

 慌てて取り繕う豪に対し、御門の返答には隙がなく取り付く島もない。

 その場のアドリブにしては色々と出来すぎているため、以前からこの豪という男には問題があり、なにかきっかけがあったら追及するつもりだったのかもしれない。

「だ、だったらデュエルだ! デュエルして俺が勝ったなら今回は許してくれ……っ!」

「……どこまで自分勝手なら気が済むんだ」

 呆れた様子で口元を隠すように手を置き、ため息をこぼす。ただ、遊形の座っている位置からわずかに見えるその口元は、少しだけ上がっているのが確認できた。どうやらここまでが彼の想定した返答だったらしい。

「なら仮にお前の条件を飲むとして、お前が勝てなかった場合はどうするんだ? そっちだけ有利な条件は不公平だろう」

「ぐ……っ、それは……その時は、ジンに話しても構わない」

「勘違いしているようだな。まずスタートラインは『ジンに報告する』だ。

 それに対して豪の要望は『報告を取りやめる』こと。つまり現時点では豪にのみデュエルするメリットがあり、私には受けるメリットがないんだ」

「………………」 

 部外者という立場でただ見てるだけの遊形ですら背筋をただし、軽口を叩くことも許されない空気に場が支配される。

 もはや豪という男に先ほどの勢いはない。何もしなくとも粛清の対象であり、それを回避するにはそれ以上に重い代償を払わなくてはいけないのだから。彼の頭の中にはすでに遊形への恨みなど気にしている余裕もないことだろう。

(もしかして、そのために……?)

 カウンター越しに立つ男性への方へ視線と向けてみるが、彼がこちらを見ることはなかった。

 そして長い間無言で視線を泳がせていた男は、同じく無言で発言を催促してくる相手の圧に負け、ゆっくりとその口を開いた。

「俺が負けたなら、これ以降この場所に来ない」

「……まあ妥協点だ。先に言っておくが、この場所じゃなければ好き勝手やっていいってわけじゃないからな。当然、そこにいる少年に関わることもな」

「わ、わかってる」

 すでに勝敗が決まったかのように力関係が浮き彫りになったが、まだデュエルは始まってすらない。

「それじゃあ場所を移そう。

 みんなすまない。今日はもう店仕舞だ。今日のお代は気分を害した迷惑料として無料にするから、すぐに帰る支度をしてくれ」

 手をたたき自分へ注目を促しながらアナウンスをする。

 これも御門の人望によるものなのか、はたまた先程の圧に皆気圧されたのか、誰も不平不満を言うこともなく退店していき、店内は御門と豪、そして遊形だけが残った。

「……君も帰ってほしいんだが」

「あ、やっぱりですか?」

「当たり前だろう。これ以上部外者をここのいざこざに巻き込むわけにはいかない」

「あはは……ですよね」

 あわよくばと思っていた遊形も、一度指摘されればそれ以上ごねることはなかった。

 遊形のアドリブで流れが変わったのは事実として、元はといえば遊形の存在がこのいざこざの原因なのだ。にも関わらず居座ろうとするのは違和感があるし、下手をすれば今の御門の優位を崩してしまう可能性すらあるのだから当然だろう。

 これ以上迷惑がかからないよう、そそくさと店を離れていく。

 ……というのが、普通の人の感性だろう。

 しかし忘れてはいけない。この日盛遊形という少年はあの黄昏遊糸と少年時代を過ごしたことがあり、なにより黄昏が自分のことを棚に上げて「信用できない」と言わしめる存在であるということを。

「集音器はあるけど、今からいい感じの屋上を探す時間はないかな。ドローン……は音で気づかれるよね。えっと……」

 人目につかない場所に隠していた自分のD・ホイールの座席部分を開け、荷物を収納するスペースに敷き詰められたケースを物色する少年。

 誰に言うでもなく独りごちるその内容から察する通り、御門と豪のやり取りを盗み見る気まんまんの少年は、数あるケースの中から一つを選びだした。

 中に収納されていたのは、手のひら大の蜘蛛のようなおもちゃ。ダイスシティだけでなく全国で一般販売されているラジコンに同じ見た目のものが存在するが、侮ることなかれ。

 いくつもの改造が施された結果、遊形の持つそれは本来よりも広範囲まで電波を受け取って操作可能で、駆動音は静かなところで耳を澄まさなければわからないほどに改良され、数歩進めればマシな気休め程度だった壁面移動能力は天井を余裕で這い回れるほどに向上。そして最初に遊形が言っていた集音器を後付け可能で、コントローラーであるデュエルパッドで盗聴できるようになっている。

 なお、そこまで魔改造していながらギリギリ違法な部品などは使われておらず、最悪このラジコン単体がセキュリティに見つかっても逮捕などはされずに没収されるだけというのがたちが悪かった。

「遊糸なら監視カメラのハッキングとかを躊躇なくやるんだろうなぁ……」

 遊形も人のことを言えないことをしているのだが、残念ながらそれを指摘するツッコミ役は今この場にはいなかった。

「って、そういえばこういう危険な状況になったら連絡するように言われてたっけ」

 慌ててデュエルパッドを操作して連絡をしようとすると、画面の端に表示されたアイコンは圏外を表していた。元々あの喫茶店の立地の問題か、電波は入らないことはないが天候など環境によって電波が不安定だったのは間違いない。

 街中にあるのだから電波の届く範囲にはいるはずだが、おそらくこの周囲の建物等の条件なのだろう。かといって、今から行おうとしているのは紛いなりにも盗撮だ。人目がつくところでは行いたくない。

 仕方なく、連絡を入れるためだけに一旦電波が届きやすいところへと移動し、改めて端末を操作する。すると、鬼のように溜まっていた不在着信とメールの数々が一気に通知され始めてしまった。

「うわ……あー、やっぱ遊糸には隠し事できないか。リリアや七波さんからもすごいきてる。

 とりあえず遊糸に伝えておけば全員に伝わるよね」

 今から御門たちを探し直し、どこでどんな話をするのかなどを確認する必要があるのだ。全員に連絡して事情を説明している暇はない。

 一番手っ取り早く済みそうな相手として黄昏へと連絡を入れようとしたところ、なんとも運が悪く通話中とアナウンスが流れてしまい連絡を取ることができなかった。続いて葵へとかけると、同じく通話中。おそらくこの2人が何かしらの連絡を取っているのだろう。

 最後の候補として残ったリリアの電話番号をじっと見つめる遊形。

「……ごめんリリア」

 今の状況を説明し、ある程度納得してくれそうなのは黄昏と葵ぐらい。リリアなら絶対に止めようとするだろう。それが普通の感性なのだから。しかし、今はそれを丁寧に説明している暇はない。

 ひとまず黄昏へ自分は安全な場所にいることをメールで伝え、足早に電波の届かない路地裏へと戻っていった。

 

「……見つけた」

 手早く準備と整え、D・ホイールに背中を預けて腰を下ろし、魔改造された蜘蛛型ラジコンを操作すること約数分。見覚えのある後ろ姿を見つけた遊形は小さく声を漏らした。

『お、おい。ただデュエルをするってだけなのにどこに行くつもりだ?』

 集音器も問題なく機能しており、イヤホン越しに聞こえる声は非常に鮮明だ。

 会話の途中からになるが、豪の言葉から察するに遊形を追い出したあと店を出てどこかへ向かっている様子。

『サイコデュエリスト同士の傷つけ合いを見世物にした賭博デュエル。豪も聞いたことぐらいはあるだろう?』

 不意に御門が口にした不穏な内容は、豪だけでなく盗み聞きしている遊形も思わず息を飲む。

『そりゃ、こういう体質ならなおさらな。

 まさか……っ、い、いや確かセキュリティが全部潰したはずだろ?』

『もちろん軒並み摘発されたさ。私の知る限り、あれ以降この街で行われている噂はない。それもこれも、数年前にあった建物崩落事故から生還した人の発言でそれが明るみになったのが原因だが……まあ、それは今はいいか。

 今向かっているのはそんな賭博場の跡地だ』

『セキュリティの見回りとか大丈夫なのかよ?』

『1年間前ぐらいまでは来てたな。そういう廃墟には無法者が集まりやすいから、その予防のために。

 何より、私がサイコデュエリストってことはあの店を出す際にセキュリティにも伝わってるから、当時は私の店にも定期的に視察が来てたよ』

 言いながらわざとらしくため息をつくのは、それだけ当時セキュリティの監視の目が厳しかったのだろう。

 大神のように荒れくれ者に対し寛大な対応をする人がいないわけではないが、大半のセキュリティからすれば犯罪予備軍と認識されているサイコデュエリストへのあたりは厳しかったのかもしれない。

『まあそんな対応をされたのも1年程度だったか。あそこも人手不足とまではいかなくても、来るかもわからない無法者のためにいつまでも一箇所の監視をする余裕はないだろうからな。

 ジンに依頼されて私も見回りはしているが、そうじゃなければこんな廃墟気にも留めなかったさ』

 つまり、と前置きをしながら御門が立ち止まったのは周囲の建物と遜色ない廃ビルの一角。その裏口のドアに鍵を差し込んで回し、そのロックを外す。

『誰にも迷惑をかけずにサイコデュエリスト同士が戦うのに最高の立地条件というわけだ』

 開けられたドアをくぐっていく御門たちにならって蜘蛛型のおもちゃを滑り込ませ、内部の状況を探る。建物の中でも操作や盗撮は可能であったのは幸いか。

 中は埃が舞い、使われなくなってしばらく経っているのがカメラ越しの遊形にも容易に察せられる。

 だが、カメラを回転させて全方位確認してみるも、どう見てもそこは普通のビルの受付フロア。とても違法賭博デュエルが行われていた場所には見えなかった。

 それは豪も同じことを思っていたようで、怪訝そうに御門の方を見ていた。対する御門は、その視線に言葉を返す代わりにとある方向を指さしている。

『仮にも違法賭博だぞ。こんなわかりやすいところに用意するわけないだろ』

 言いながら『スタッフオンリー』の注意書きが貼られた扉の奥へと進み、更衣室だったと思われる仕切られた空間の壁をゆっくりと押し込んだ。

『……こんなあからさまな隠し通路も大概だろ』

『本来であれば、偶然開かないように2段階認証にでもなっていたのかもな。どちらにせよ、今はこうしてただのカラクリ屋敷状態なわけだが』

 そんなやりとりをしながら、隠し通路の先にあった階段を下っていく二人。御門がデュエルパッドのライト機能で足元を照らさなければ全く見えない暗闇の中を、蜘蛛型のおもちゃもその光を頼りに続いていく。

「暗視機能とかもつけてても……いや流石にマズイか」

 当然そんものをつけてしまえばセキュリティから言い逃れができないが、今の時点で十分説教を食らうレベルであることを遊形は自覚していない。

 体感でショッピングモールなどの地下2階ぐらいの位置まで下っていったかと思えば、突如として足元を照らしていたライトの照らす先が見えなくなった。つまりそれは、光の反射が見えないほど空間が広がったということであり……

『着いたぞ』

 短くそう告げた直後、煌々とした照明が辺り一帯を顕にさせた。

 まず目を引くのは中央に設置された、テニスコートぐらいの大きさはあるデュエルフィールド。その周囲に楕円状に設置された観客席は、百人程度なら余裕で収容できる規模だった。天井の何箇所からコードの先が垂れているのは、元々はカメラか何かを取り付けていた名残か。

 これだけを見ればプロ仕様のデュエル会場とも考えられるが、問題は中央の天井。デュエルフィールドを覆うように円状にくり抜かれた溝は、今はもう存在しない鉄格子を格納しておく場所。何のためにそんなものがあったのかは、考えるまでもないだろう。

『……噂には聞いていたが、本当に見世物にするための場所だったわけかよ。

 つか、なんで電気がつくんだよ。上の階は全然だったのによ』

『電力の消費で怪しまれないよう、別ルートで調達しているんだろう。それがなぜ今も使えているのかは……まあやぶ蛇か』

『けっ、お偉いさん同士でずぶずぶってわけか』

 吐き捨てるようにあからさまに機嫌を悪くする豪。御門の方も、豪ほどではないが表情は険しい。もしかすると、ここで行われていた光景を想像しているのかもしれない。

『ほとぼりが冷めたら、ここも最初からなかったように潰されるだろうな。まあ、今の私たちにはデュエルができる空間として役に立てばどうでもいいだろう。さっさと始めるぞ』

『本当にデュエルなんだな。こんなところに連れてくるもんだから、伏兵でも用意して袋叩きにでもされるのかと思ったぜ』

『さっきまで怯えていたのが、随分口が回るようになったじゃないか』

『…………』

『別に場所はどこでも良かったが、お前のデュエルは周囲のことを気にしなさすぎるからな。近隣住民に通報されて勝敗が有耶無耶になるのを避けたかっただけだ』

 お互いに煽り合い、二人(と一機)しかいない、がらんとした空間がピリピリと張り詰めていく。

『有耶無耶にする? 冗談じゃねえ!

 お前のブチのめすこの瞬間をずっと待ってたんだからな! 今までの俺と思うなよ!』

『……始めるぞ』

 

『『デュエル!』』




ガラの悪いキャラってオラオラ系しか書けなくてもっとレパートリーがほしいところ……
やりすぎると陰湿すぎてそれはそれで不快感のほうが強くなる気もしますが

デュエルの構成そのものは終わっていますが、その間に挟む会話などを編集中なので、次回は再び1ヶ月後を予定しています。(そこからは本当の未定……)
どうか気長にお待ち下さい。
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