2人のデュエリストが立つその場所は、かつてサイコデュエリストを見世物にしていた賭博場跡。
サイコデュエリストたちが命の危機に晒される光景を見世物とする違法行為の巣窟だった場所が、こうしてサイコデュエリスト同士が周囲への影響を考えずに戦える安全空間として利用されるとはなんと皮肉なことか。
そして、その光景を(ぎりぎり違法ではない)改造を施した蜘蛛型ラジコンを用いて少年が覗き見ていることに、サイコデュエリストの2人は気づくことはない。
『…………』
『…………』
ここに来るまでに散々煽りあった2人は、もはや余計な会話は不要とばかりに無言でオートシャッフルが終わるのを待つ。
オートシャッフルが止まり、その空間を一瞬の静寂が包みこんだ。それを破ったのは、示し合わしたように同時に発せられた始まりの合図。
『『デュエル!』』
先行後攻は話し合いかシステムの自動選択により決定される。今回はお互いが先攻を譲らなかったため自動選択に委ねた結果、ターンプレイヤーを示すランプが付いたのは豪の方だった。
| 【豪】 5/4000 ----- ----- |
| 【御門】 5/4000 ----- ----- |
『俺のターンだな! 俺はモンスターをセット。さらにカードを1枚セットしてターンエンドだ』
「……モンスターをセット?」
カメラ越しにその光景を眺めていた遊形がそんな感想が漏れてしまうが、何もこれが悪いわけではない。
先攻1ターン目は通常ドローはできず、攻撃も行えないのだ。よほど先攻に特化したデッキでもなければこのような布陣になるのは必然と言えよう。
ただ喫茶店での会話から察せられる通り、遊形は豪と1度だけデュエルしている。当然その時にどんなデッキを使っていたのかも覚えているのだが、それ故に生じた小さな違和感に遊形は眉をひそめていた。
| 【豪】 3/4000 --▲-- --■-- |
| 【御門】 5/4000 ----- ----- |
『私のターン、ドロー』
手札:5→6
新たに加わったカードを含めた自分の手札とフィールドを交互に見つつ、眉を潜める御門。手札事故を起こして最初の一手を悩んでいるようにも見えるが、そのわりに彼の表情から焦りは感じられない。
強いて言うのならば、その表情は『困惑』。彼の中で何かが腑に落ちないから次の行動に移れないでいる、という様子が最も適しているように見受けられた。
『どうした、手札が事故ってんのか?』
『……いや、もう大丈夫だ』
豪の煽りを気にした様子もなく、小さく息を吐いた御門は徐ろに手札から2枚のカードを手に取った。
『まず1枚をフィールド魔法ゾーンへセット。そして手札から《手札抹殺》を発動。お互いに手札をすべて捨て、捨てた枚数分ドローする』
『っ!』
手札:3→0→3
手札:4→0→4
悩んだ末の手札交換。しかし、手札事故を起こしていたというのであればもっと早く判断したはず。故に他に理由があるのではと仮説を立てた遊形の読み通り、御門がドローした自分の手札のよりも先に見たのは豪の墓地ゾーン。
『《ウィンダ》と《ガスタのつむじ風》、か……
どうやら、噂は本当だったみたいだな!』
豪の墓地へ捨てられたカードは《アームズ・ホール》と《ガスタの巫女ウィンダ》と《ガスタのつむじ風》の3枚。《ガスタ》の名を記されたカードが複数落ちているのから察するに、豪のデッキは十中八九ガスタを主体としたデッキなのだろう。
また、
にも関わらず、御門は彼の墓地にガスタが落ちていることに対し、激しい怒りを顕にして豪を責め立てていた。そして、遊形は遊形で先程のターンに覚えた違和感の正体を理解した。
「……前とデッキが違う?」
遊形の記憶が正しければ、以前の豪は《ドラグニティ》のデッキを用いてたのだ。とはいえ、それだけならただ新しいデッキに切り替えただけとも考えられる。
にも関わらず、デッキが違うことに対して御門が過剰なほど怒りを顕にしているとなれば、自ずとその理由も察することができる。ただし責められている当の本人は、視線をそらして鼻で笑うだけだった。
『何言ってんのかさっぱりだな』
『ああ、お前からは説明も言い訳も不要だから気にしなくていい。
私は《ヴァンパイア・レディ》を通常召喚し、セットしていた《ヴァンパイア
赤黒く光沢のあるドレスに身を包んだ、生気の感じられない肌の女性と呼び出すとともに、発動したフィールド魔法によって瞬く間に周囲の環境が変化。薄暗い町並みが立ち並ぶと同時に、遠くにそびえ立つのはいかにもな雰囲気を纏う領主の城。
その城の持ち物が誰なのか。それを示すように、口元を隠して上品に笑う《ヴァンパイア・レディ》の瞳がより真っ赤な光を帯びていく。
ここはヴァンパイアの、ヴァンパイアによる、ヴァンパイアのための城下町。
『この効果により、フィールドのアンデット族モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ500ポイントアップ。
さらに1ターンに1度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、自分の手札・デッキから闇属性の《ヴァンパイア》モンスターを墓地へ送り、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する』
加えて、《ヴァンパイア・レディ》は相手に戦闘ダメージを与える度にカードの種類を指定し、相手自身に指定したカードの種類をデッキから墓地へ送らせる強制効果を持っている。
つまり《ヴァンパイア・レディ》でダメージを与えるごとにフィールドの盤面をかき乱すことができるのだが……
『攻撃力が上がろうが、守備表示のモンスターを攻撃してもダメージは通らねえぞ。むしろ攻撃で戦闘破壊されれば──』
『そんなヘマを私がするわけがないだろう。
手札から装備魔法《流星の弓-シール》を発動し、《ヴァンパイア・レディ》へ装備。
これで《ヴァンパイア・レディ》は攻撃力が1000ポイント下がる代わりに、相手モンスターがいてもダイレクトアタックが可能になる」
ATK:1550→550
「バトルフェイズ。《ヴァンパイア・レディ》でダイレクトアタック。[カムバット・アーミー]』
指示を受け、その手に持った弓矢を番えた《ヴァンパイア・レディ》。とはいえ、さすがの《ヴァンパイア・レディ》も弓の扱いには明るくないらしく、その構えは覚束ない。
放たれた矢は非常に弱々しいが、彼女のそばには使い魔と思わしきコウモリが無数に控えている。放たれた矢をコウモリが器用にキャッチしたかと思えば、そのまま代わりに運搬。本来は主を守るように待ち構えたセットモンスター頭上を超え、《ヴァンパイア帝国》の効果で力を増した投擲によって豪のライフを削り取った。
ATK:550→1050
ライフ:4000→2950
『ぐ……っ、セットカードあるのに気にせず攻撃かよ』
『どうせそのカードは破壊されるの前提で伏せた《ハーピィの羽根吹雪》あたりだろ。今気にするようなものじゃない』
『っ!?』
どうやら御門の推測は正しかったようで、伏せているカードを言い当てられたことで明らかに豪の表情が引きつった。まるで見えているかのような御門の指摘は相手を煽ってる際の黄昏のよう、と遊形はディスプレイ越しに小さく声を漏らした。
「けど、御門さんは遊糸レベルに心が読めるとは思えないんだよね……」
あくまで遊形の見立てではあるが、黄昏が遊形のことをよく知っているのならばその逆も然り。遊形も黄昏のことは同じレベルで理解しているのだ。
そんな少年の感想であればおそらく事実なのだろうが、あくまで直感だ。なぜ御門が豪の手の内を見透かしているのかは現時点では断言できなかった。
『知っているだろうが、《ヴァンパイア・レディ》には相手に戦闘ダメージを与える度、私が指定したカードの種類を豪のデッキから墓地へ送らせる効果がある。[ソナー・セレクション]
私が選択するのは罠カードだ。好きなカードをデッキから墓地へ送れ』
『……なら《ガスタへの祈り》を墓地へ送る』
デッキ破壊は戦術の一つであるものの、第二の手札と言われる墓地にカードが溜まっていくのが危険なことはもはや常識。《ヴァンパイア・レディ》の効果は強制効果のため、こうしたときに相手のメリットにならない選択をできるかどうかも重要になってくる。
昨今では墓地で真価を発揮するカードは数多あるが、特にガスタには墓地から除外することで《ガスタ》魔法・罠カードをサーチする装備魔法の《ガスタへの追風》を投入している可能性もあるため、こうした選択になったのだろう。
『そしてお前のデッキからカードが墓地へ送られたから《ヴァンパイア帝国》の効果も発動だ。デッキから《ヴァンパイア》モンスターを墓地へ送り、フィールドのカード1枚を破壊する。
私はデッキから《ヴァンパイアの使い魔》を墓地へ送り、そのセットモンスターを破壊』
薄暗い町並みの影が不自然に蠢き、まるで生きているかのように影だけがセットモンスターへと殺到。
実体を得た影が触手のようにセットモンスターを拘束すると、そのまま影の中へと引きずり込んでしまった。
フィールド→墓地
『セットモンスターは《ガスタ・イグル》か。
その感じだと、私が不用意に戦闘破壊したのをトリガーに色々と次のターンに仕掛けるつもりだったか』
破壊されたモンスターは戦闘破壊を起点として後続のモンスターをデッキから呼び出せるリクルーター。様子見の布陣としては基本通りではあったものの、この読み合いは御門の方が何枚も上手であるらしい。
『メインフェイズ2、私はカードを1枚伏せてターンエンドだ。』
| 【豪】 3/2950 ----- --■-- |
| 【御門】 1/4000 --◯-- ◎ --■-- |
『俺のターン、ドロー!』
手札:3→4
『俺の考えが読まれてたのは意外だったが、俺の引き運を舐めてたな!
手札から《緊急テレポート》を発動。デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
デッキから《寡黙なるサイコプリースト》をリクルート!
更に《寡黙なるサイコプリースト》の効果。1ターンに1度、手札1枚を墓地へ送ることで墓地のサイキック族モンスター1体を除外する。
俺は手札1枚を墓地へ送り、墓地の《ガスタ・イグル》を除外!
さらにコストで墓地へ送った《ガスタ・グリフ》の効果だ! こいつは手札から墓地へ送られた場合、デッキから《ガスタ》モンスター1体を特殊召喚できる。
この効果でデッキから《ガスタ・ガルド》をリクルートだ!』
手札:3→2
「……揃った」
手本のようなカード回しにより、フィールドに揃ったのはチューナーを含むレベル3のモンスターが2体。ランク3のエクシーズへと移行する選択肢もあるだろうが、ここまでに使われた豪のカードの傾向からして、呼び出されるモンスターは決まっているも同然だった。
『俺はレベル3の《ガスタ・ガルド》で、レベル3の《寡黙なるサイコプリースト》をチューニング! 大番狂わせの神風を引き起こせ! シンクロ召喚、《ダイガスタ・スフィアード》』
フィールド→墓地
『──そのシンクロ召喚成功時、伏せていた《奈落の落とし穴》を発動。攻撃力1500以上のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたとき、そのモンスターを破壊して除外する。
《ダイガスタ・スフィアード》にはご退場願おう』
『な…………ん…………っ!?』
満を持してと言わんばかりに呼び出された、ガスタの切り札。戦闘ダメージ反射という強力な効果を持ち、ガスタのリクルート効果と組み合わせることで一気に相手のライフを削り切るコンボは初見殺しの一言に尽きる。だからこそ、よく知る相手からすれば真っ先に対策されるのも事実だった。
御門も例に漏れず対策は万全で、フィールドに降り立った巫女はその真価を発揮することなく次元の狭間へと飲み込まれ始めた。
『……だ、だが召喚に成功したのは間違いねぇ。まずは《寡黙なるサイコプリースト》の効果だ。このカードがフィールド上から離れた時、自身の効果で墓地から除外していたモンスター1体を特殊召喚する。
この効果で《ガスタ・イグル》を帰還させる。さらにそれにチェーンして《ダイガスタ・スフィアード》の効果だ!
こいつがシンクロ召喚に成功した時、墓地の《ガスタ》カード1枚を対象に手札に加える事ができる。
俺は《ガスタへの祈り》をサルベージする!』
『ならチェーンの逆処理だ。よかったな、フィールドががら空きにならなくて』
『ちっ!』
フィールド→除外
《ガスタ・イグル》
除外→フィールド
【豪】
手札:2→3
必殺の切り札が次元の狭間へと消えていくのを、豪はなす術なく見送るしかない。どうにか後続を準備できたものの、次の手がすぐに出せるほど手札は潤沢ではなかった。
『か、カードを1枚セットしてターンエンドだ』
| 【豪】 2/2950 -△--- -■■-- |
| 【御門】 1/4000 --◯-- ◎ ----- |
『《ガスタの祈り》をセットか。あれは墓地の《ガスタ》モンスター2体をデッキに戻すことで墓地の《ガスタ》モンスター1体を蘇生させるんだったな。
今のままでは墓地リソースを減らして壁を作るぐらいにしか使えないだろうが……まあ今の私には気にする必要はないか。
私のターン、ドロー』
手札:1→2
『……それにしても』
手札のカードへ目を通し、回し方を考えているのかと思えば、不意に御門はあからさまなため息をついた。
『豪、お前はまるで表面的な回し方しか理解していないな。いや、表面的な回し方すら未熟としか言いようがない』
『あん?』
『さっきのターン、《ダイガスタ・スフィアード》が除外されたからって怖気付いて《ガスタ・イグル》を守備表示で壁要因にしたな?
まったく、ガスタの本領をなんだと思っている。伏せカードの心配もないんだから、あそこは攻撃表示で蘇生して自爆特攻で後続を呼ぶのがセオリーだろう。たかが850程度のダメージに何を怯えているんだか。
自爆特攻さえしていれば、《ガスタの神裔ピリカ》をリクルートしてから《ガスタ・ガルド》を再度蘇生して新しい《ダイガスタ・スフィアード》を呼び出すこともできたし、攻撃力1100以上のモンスターを呼び出せば簡単に《ヴァンパイア・レディ》を戦闘破壊することもできた。
それに《ヴァンパイア・レディ》の効果とそれをトリガーとして発動する《ヴァンパイア帝国》はダメージ計算後に発動することになるから戦闘破壊よりも前に効果が発動するが、戦闘破壊が確定しているモンスターはフィールドにいるカードとして扱えないため対象に取れない。
つまりダメージステップ終了時に処理される戦闘破壊時に発動する《ガスタ・イグル》の効果は問題なく発動できるし、リクルートしてきたモンスターを《ヴァンパイア帝国》の効果で破壊されることもない。
むしろ 《ヴァンパイア・レディ》のデッキ破壊効果も《ヴァンパイア帝国》の破壊効果も共に強制効果だから、私のフィールドをかき回すこともできた。《ヴァンパイア帝国》の破壊効果は1ターンに1度だからそれ以降は安全に展開できるしな。
……本当に呆れてため息すら出ないぞ。さっきのターンでどれだけの勝ち筋を取りこぼしたんだ?』
『…………』
ダメ出しとともに提示される、豪がメリットとなるカード展開ルートの数々。まだデュエルの最中だというのにここまで指摘が入るなど、もはやこのデュエルは『決闘』などではなく、御門が教師役となった『授業』にまで成り下がっていた。
どれほど豪のプライドが傷つけられたか想像できないが、御門の指摘のすべてが反論の余地もない事実のため、言い返すことができない。
そして、ここまでの御門の反応やデッキ構成に見合わない豪のプレイングスキルを見れば、御門が怒鳴っていた理由も遊形でさえ確信を持つことができた。
『他人のデッキを奪って、自分が強くなったと勘違いしたか? はっきり言って、お前の実力ではそのデッキの力は半分も引き出せていないだろうな』
『う、うるせぇんだよ! ようは最後に勝ちゃいいだろ勝ちゃ!』
『それができないって言ってるんだがな……
まあいい、このままバトルだ。《ヴァンパイア・レディ》でダイレクトアタック。[カムバッド・アーミー]』
再度弓矢を番え、その照準はプレイヤーである豪へと向けられている。
『……ああ、そういえば《ハーピィの羽根吹雪》はどうする? 一応《ヴァンパイア・レディ》の効果を無効にできるが』
『ちっ、何も発動するカードはねぇよ』
『なら再開だ。そしてダメージ計算時、《ヴァンパイア帝国》の効果によって《ヴァンパイア・レディ》の攻撃力は500ポイントアップする』
優先権をお互いに放棄し、《ヴァンパイア・レディ》の攻撃が再開。
先ほどと同じようにコウモリが運搬して投擲した矢が、豪の身体とライフを着実に削っていく。
ATK:550→1050
ライフ:2950→1900
『そして相手にダメージを与えたので《ヴァンパイア・レディ》の効果。カードの種類を選択し、相手にその種類のカードをデッキから墓地へ送らせる。[ソナー・セレクション]
私が選ぶのはさっきと同じく罠カードだ。』
『……《ゴッドバードアタック》を墓地へ送る』
『結構。続いてお前のデッキからカードが墓地へ送られたから《ヴァンパイア帝国》の効果も発動だ。デッキから《ヴァンパイア》モンスターを墓地へ送り、フィールドのカード1枚を破壊する。
私はデッキから《ヴァンパイアの眷属》を墓地へ送り、《ガスト・イグル》を破壊』
フィールド→墓地
再び街の影へと飲み込まれていく緑の小鳥。もはやそのような段取りなのかと錯覚するほど、豪の目論見はことごとく御門に筒抜けだった。
『メインフェイズ2、墓地の《ヴァンパイアの使い魔》の効果発動。自分の手札かフィールドから《ヴァンパイア》カードを1枚墓地へ送ることで、墓地のこのカードを特殊召喚できる。
私は《ヴァンパイア帝国》を墓地へ送り、《ヴァンパイアの使い魔》を蘇生する』
『《ヴァンパイア帝国》を破壊だぁ!? 御門、一体何考えてやがる!?』
『それを考えて戦術を練り直すのがデュエリストだろう?
続けるぞ。《ヴァンパイアの使い魔》は特殊召喚に成功した時、ライフを500払うことでデッキから同名モンスター以外の《ヴァンパイア》モンスターを手札に加えることができる。
私はライフを払い、《ヴァンパイア・フロイライン》をサーチする』
フィールド→墓地
《ヴァンパイアの使い魔》
墓地→フィールド
【御門】
ライフ:4000→3500
手札:2→3
ピシッ、とまるでガラスにヒビが入るような音が響いたかと思えば、眼前に広がっているヴァンパイアの城下町の世界が砕かれた。世界が崩壊した直後、周囲は僅かな間だけ白に塗りつぶされ、次の瞬間には元の閑散とした廃デュエル場の風景へと逆戻り。
本来以上の力を宿していた《ヴァンパイア・レディ》の方はその力を失い、その姿は自爆特攻を想定した《ガスト》モンスターでも倒せそうなほど弱々しい。
代わりにフィールドに表れたのは小さなコウモリのようなモンスター1体と、手札に加わった別の同胞1体のみ。その代償はあまりにも大きいように感じられた。
だというのに、御門の立ち振舞に変化はない。これも彼の想定した行動であり、自分の勝利は揺るがないと確信しているようだった。
『私はカードを1枚伏せてターンエンドだ』
| 【豪】 1/1900 ----- -■■-- |
| 【御門】 2/3500 --◯△- --□■- |
ターンが変わり、豪のドローフェイズになったことをデュエルディスクが示す。しかしその手はなかなか動かなかった。
実際、先程のターンのラストに不可解な動きをしていたとはいえ、依然として御門が優位なことに変わりないのだ。
仮に豪が伏せているカードに《ハーピィの羽根吹雪》があった場合、あのカードの制圧力は非常に強力で1ターンの間御門の動きを封じることさえ可能となる。
しかしその発動条件は自分の場に風属性かつ鳥獣族のモンスターがいること。先程のタイミングで御門が《ヴァンパイアの使い魔》の効果を使用したのは、確実にその効果を使用できる瞬間を狙っていたからと見て間違いない。
であれば、本命は《ヴァンパイアの使い魔》によってサーチされた《ヴァンパイア・フロイライン》だろう。
「たしか、《ヴァンパイア・フロイライン》ってモンスターの攻撃宣言時に守備表示で特殊召喚する効果があるんだっけ。
もしかして、《ハーピィの羽根吹雪》の発動を誘ってる?」
画面越しに眺めている遊形も仮説はいくらでも立てられるが、その思惑は本人にしかわからない。
どちらにせよ、豪は再びモンスターを呼び出し、反撃の準備を整えなければいけないことに変わりはない。
「もし仮にあの伏せカードの内1枚が《ガスタへの祈り》だとして、呼び出した後の展開を考えるなら選択肢は攻撃力200の《ガスト・イグル》か攻撃力500の《ガスタ・ガルド》のどちらか。
リクルート候補が多くなるのは《ガスタ・イグル》の方だけど……」
遊形が画面越しに注目するのはさきほど御門が伏せたセットカード。
あれがもしコンバットトリックで1900以上の反射ダメージを与えられるようなカードであれば、豪は自爆特攻を仕掛けた時点で負け。仮に《聖なるバリア-ミラーフォース》のような破壊系のカードであった場合、《ガスタ・ガルド》ならリカバリーが効くが《ガスタ・イグル》なら豪は再びフィールドをがら空きにさせられる危険性がある。
この賭けに勝てるかどうかが、このデュエルの勝敗を分けると思っていいだろう。
『俺のターン……ドロー!』
手札:1→2
意を決してデッキトップのカードを引き抜き、何を引き込んだのかを確認した豪は……獰猛な笑みを浮かべていた。
『俺は手札から《ガスタの神裔ピリカ》を通常召喚し、その効果を発動! このカードが召喚、特殊召喚に成功した時、墓地の風属性チューナー1体を対象に、守備表示で特殊召喚できる。
俺は墓地の《ガスタ・ガルド》を蘇生だ!」
墓地→フィールド
フィールドに表れた小さな少女は、身の丈ほどはある杖を振り、墓地から同胞を蘇らせる。
これにより再度揃ったモンスターのレベルの合計は6。御門の伏せたカードが1枚あることを含めて、3ターン目とほぼ同じ状況ながら、豪は今度こそ成功すると信じて疑わない様子。
『いいカードを引いたみたいだな?』
『余裕でいられるのも今のうちだ!
俺はレベル3の《ガスタ・ガルド》で、レベル3の《ガスタの神裔ピリカ》をチューニング! もう一度出てこい、《ダイガスタ・スフィアード》!』
1度目は表れたと同時に奈落のそこへと突き落とされた風の巫女。曰く、神にも等しき存在に力を認められた風の民である彼女は、今度こそフィールドに降臨することに成功した。
『そして《ダイガスタ・スフィアード》の効果! 墓地の《ガスタ》カード1枚を対象に手札へ加える。
俺が加えるのは《ガスタのつむじ風》だ。
さらにセットしていた《ガスタへの祈り》も発動! 墓地の《ガスタ》モンスター2体をデッキへ戻し、墓地から《ガスタ》モンスター1体を特殊召喚する。
《ピリカ》と《イグル》をデッキへ戻し、《ガスタ・ガルド》を蘇生!』
手札:1→2
《ガスタ・ガルド》
墓地→フィールド
『これで準備は整った。バトルだ! 《ガスタ・ガルド》で《ヴァンパイア・レディ》を攻撃──』
『その瞬間、手札の《ヴァンパイア・フロイライン》の効果を発動。モンスターの攻撃宣言時にこのカードを手札から特殊召喚する』
『確かライフを消費してその分アンデット族の攻撃力を補強するモンスターだったな。別にどうでもいいが徹底的にやらせてもらう! セットしていた《ハーピィの羽根吹雪》を発動! フィールドに風属性・鳥獣族がいる場合に発動でき、このターンの相手モンスターの発動した効果を無効化させる!
これで《ヴァンパイア・フロイライン》の特殊召喚は無効だ!』
風など吹くはずがない地下深くのデュエル場に、突如として吹き荒れる突風。その発生源である豪のフィールドだけがその影響を受けないようになっているが、御門側では絶えず続く突風によりモンスターの行動が制限されてしまう。
フィールドだけでなく、墓地や手札、さらにデッキからであろうと、『モンスター効果の発動』という重要な項目が制限された今、御門が行える行為のほとんどは防がれてしまったと言っても過言ではない。
しかし……
『なら私は伏せていた《戦線復帰》を発動する』
『……は?』
『モンスター効果は無効にされても罠カードは問題ないだろう? このカードは墓地のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚するものだ。
これで私は墓地の《ノーブル・ド・ノワール》を守備表示で蘇生する』
墓地→フィールド
突風が吹き荒れる中、墓地から蘇ったモンスターはヴァンパイアを連想させる、生気の感じられない肌をした高貴な男。
攻撃力は《ダイガスタ・スフィアード》と同じく2000だが、守備表示で呼び出されているためステータスによる牽制にはならない。なにより攻撃力が高いことは、《ダイガスタ・スフィアード》がいるこの状況ではむしろデメリットでしかない。
『なんでこんなモンスターを? って顔だな。慌てなくとも説明する。
このモンスターはフィールドに存在する限り、相手モンスターの攻撃対象を私が選べるようになる効果を持っているんだ。
……一応補足しておくが、この効果は永続効果。つまり効果の発動という段階を踏まず、条件を満たした瞬間に効果の適応が行われるもの。だから《ハーピィの羽根吹雪》で無効化されない』
『それがどうした。まあモンスターが増えたから戦闘は巻き戻しになるか。
だったら再度《ガスタ・ガルド》で……』
気だるげに手順を踏み、再度攻撃宣言をしようとした豪の言葉が詰まる。御門が呼び出した新たな吸血鬼モンスターの効果の真意が、ようやくわかったのだろう。
『考えたところでもう手遅れだ。最後のその手札も、この状況を変えるようなものではないんだろう?
そうだな……《奈落の落とし穴》を警戒し、それを突破できると判断して《ダイガスタ・スフィアード》を呼び出したとなると……戦闘と効果による破壊耐性をつけられる速攻魔法の《ピアニッシモ》といったところか』
『う……、ぐ……』
どこまでも御門の手の内であることを突きつけられ、豪は次の言葉が出てこない。とはいえそれで状況が改善することもなく、すでに決定したレールを走る以外に方法はなかった。
『クソがっ! 《ガスト・ガルド》で《ヴァンパイア・レディ》へ攻撃!』
『《ノーブル・ド・ノワール》の効果を適応し、その攻撃対象を《ノーブル・ド・ノワール》へ変更する。[バット・チャフ]』
《ノーブル・ド・ノワール》が呼び出した無数のコウモリの群れが《ガスタ・ガルド》の目標を撹乱し、本来とは違う攻撃対象である《ノーブル・ドノワール》自身へと誘導。
生気を感じられない男性貴族は、迫りくる小鳥の特攻をまるで虫を払うかのように軽く手を払うだけで跳ね除けてみせた。
『《ノーブル・ド・ノワール》の守備力は《ガスト・ガルド》の攻撃力よりも上。
普通なら俺が反射ダメージを受けるところだが、この瞬間《ダイガスタ・スフィアード》の効果発動。自分フィールドの《ガスタ》モンスターの戦闘で受ける自分のダメージは相手が受ける! [スーサイド・インパクト]』
ライフ:3500→2600
それに伴い発生した衝撃は、《ダイガスタ・スフィアード》の振るう杖によって風向きが切り替わり御門へと襲いかかる。
しかしそのダメージ対して御門は何も言葉を返さず、ただ顔をわずかにしかめるだけだ。
『守備表示の《ノーブル・ド・ノワール》に自爆特攻しても《ガスタ・ガルド》は破壊されない。これで後続を呼ぶことはできなくなったな』
『うるせぇ黙ってろ! 続けて《ダイガスタ・スフィアード》で《ノーブル・ド・ノワール》を攻撃!』
『ならば再度攻撃対象は私が選ばせてもらう。《ヴァンパイアの使い魔》へ攻撃対象を変更だ。[バット・チャフ]
そして《ヴァンパイアの使い魔》は自身の効果で蘇生している場合、墓地へ送られる代わりに除外される』
フィールド→除外
再度攻撃を誘導し、風の巫女の攻撃が直撃したのはひ弱なコウモリ風のモンスター。
本来であれば戦闘破壊は戦況を優位にする行為であるはずなのに、今回ばかりはそのセオリーは適応されない。自爆特攻に次ぐ自爆特攻により御門のライフを削りきっていたであろう必殺の布陣は、たった1体のモンスターの効果によって大きく狂わされてしまった。
多少なりともダメージを与えられたものの、御門の布陣を崩さない限り豪の戦術はすべて空回りしてしまうことだろう。
『はぁ……コンボが不発を判断した時点で、《ダイガスタ・スフィアード》のコンボを諦めていればよかっただろうに。
私の記憶が正しければ、そのデッキには《ハイパーサイコガンナー》が入れられていた気がするのだが?』
またも指摘される戦術ミスに、豪はもはや何も言葉を返せない。その手札にあるカードも、すでに御門に看破された《ピアニッシモ》。戦闘破壊と効果破壊に耐性を付与する代わりに攻撃力が100になるデメリットは、《ダイガスタ・スフィアード》の効果と組み合わせれば強力なダメージソースとなる速攻魔法だが、おそらくこのカードが日の目を見ることはないのだろう。
それでも伏せる以外に選択肢はなく、豪はその1枚をセットしてターンを終了した。
| 【豪】 0/1900 -◯-◯- ---■- |
| 【御門】 2/2600 -△◯-- ----- |
『私のターン、ドロー』
『……ちっ』
手札:2→3
勝利のピースを引き込むというよりも、ただデッキトップを確認するような軽い動作。もはや勝敗は決まったと言わんばかりの態度に豪が舌打ちするものの、はたから見れば負け犬の遠吠えにしか見えないだろう。
『使うやつが未熟とは言え、デッキがデッキだから警戒していたが……
色々と下準備をしていたのは過剰だったみたいだな』
手札および墓地のカードを確認し、そんなことを呟く御門。
実際、《ヴァンパイア帝国》の効果で墓地へ送った《ヴァンパイアの眷属》はデッキから《ヴァンパイア》魔法・罠カードをサーチできるモンスターであるし、最初の《手札抹殺》で墓地へ送られていた《アンデット・ネクロナイズ》は除外されているアンデット族モンスターをデッキへ戻すことで墓地からフィールドにセットできる効果を持つ、コントロール奪取系の通常魔法だ。
つまり、相手の展開によってまだまだ化ける余裕がある布陣なのだ。
そんな盤面を整えつつ、今しがたドローしたカードを見た御門は眉をひそめて小さく息を吐いた。
『あいつ相手にここまでする必要があるかは疑問だが、まあいい。多少はやりすぎなくらいが丁度いいだろう。
私はまず手札から《アンデット・ワールド》を発動。効果を説明する必要はないな?
続けて《ゾンビキャリア》を通常召喚』
『っ、そのカードは……っ!?』
寂れたデュエル場跡が再び風景を上書きされ、髑髏の散乱する地獄絵図に空間が塗りつぶされた。そんな、あらゆるモンスターがアンデット族へと塗り替えられるこのフィールド上に表れたのはアンデット族のチューナーモンスター。
この場の2人やそれを盗み見ている遊形は知るよしもないだろうが、偶然にも今この瞬間別の場所でデュエルをする黄昏たちのフィールドにも呼び出されているはずのそのゾンビウイルスの保菌者は、とはいえ何の変哲もないよく知られたモンスターの1体だ。
にも関わらず、豪の焦り方は少し様子がおかしかった。まるで、そのカードによって展開される盤面が恐ろしいのではなく、そのカードそのものに怯えているかのようで……
だが、御門が相手のことを気にする素振りは一切ない。
『私はレベル2の《ゾンビキャリア》で、レベル4の《ヴァンパイア・レディ》をチューニング。腐ちてなお振りかざすその威光に陰りなし。シンクロ召喚! 屍を統べて治める竜《デスカイザー・ドラゴン》』
フィールド→墓地
黒く大きな翼は朽ち始め、その皮膚も歪な形にデコボコな有り様。《
「…………」
《蘇りし魔王ハ・デス》同様にアンデット族として生まれ変わったそのモンスターは、映像越しに見てる遊形でさえ緊張で喉を鳴らしてしまうほどの圧があった。当然、豪もそのプレッシャーに気圧されて無意識に一歩後退りしている。
『何もないなら続けるぞ。《デスカイザー・ドラゴン》は特殊召喚成功時、相手墓地のアンデット族モンスター1体を対象に自分のフィールドに攻撃表示で特殊召喚することができる。
本来お前のデッキにアンデット族は存在しないが、《アンデット・ワールド》適応化なら問題ない。よって私はお前の墓地の《寡黙なるサイコプリースト》を私のフィールドへ蘇生する。[ライジング・デッド]』
墓地→フィールド
『……な、何をするかと思えば!
《寡黙なるサイコプリースト》が効果対象にしてるのはサイキック族だ。今の状況じゃ……』
『誰がそのまま使うと言った? 私は続けてレベル6の《デスカイザー・ドラゴン》と、《寡黙なるサイコプリースト》で、オーバーレイ!』
『は、はぁっ!? レベルが全然違うのにエクシーズ召喚なんかできるわけ──』
『今から呼び出すモンスターならそれが可能だ。元々のコントローラーが相手であるモンスターを素材としてエクシーズ召喚する場合、そのモンスターのレベルを6として扱える効果があるからな。
よって、《寡黙なるサイコプリースト》はレベル6として扱える。その2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! 異なる種族の交わりにより生まれし、高潔なる混血種! 《交血鬼─ヴァンパイア・シェリダン》』
屍の竜とサイキッカー。異なる種族、異なるレベルのモンスターを素材として表れたそのモンスターは、《ヴァンパイア》の名を持ちながらも他の《ヴァンパイア》とは放つ雰囲気が全く違っていた。
多少色白とはいえ、その肌の血色は一般的なそれと遜色ない。汚れなどないと言わんばかりの白を貴重とした燕尾服に、高貴さを表すような金色の刺繍。しかし、羽織っている黒いマントの襟は異様に高く、物語で語れる吸血鬼のイメージを象徴しているかのよう。さらに白の燕尾服の一部が赤く染まっているのは、その身に流れる種族の意思が滲み出していることを暗喩しているようだった。
放つプレッシャーの圧は先程の《デスカイザー・ドラゴン》と比べれば一段と劣っているものの、この場面で呼び出したということはこのモンスターが御門の切り札なのだろう。
『御門……お前、ジンからもらったカードを素材にするとか正気か!?』
『何の問題が? 確かにジンから《デスカイザー・ドラゴン》を譲り受けはしたし、このカードを出すことを前提として回りやすいように調整はしたが、私のデッキの主軸は《ヴァンパイア》モンスターだ。
よりよい盤面を作るためならジンのカードであっても利用するのは当然だろう?』
2人の会話は何か重要な内容が含まれているのは間違いないが、今遊形が持つ情報だけではその結論まではたどり着けなかった。現時点で確実に言えることは、豪と御門でカードに対する認識に違いがあり、それ故に豪は御門に敵わなかったのだということぐらい。
『ここまできて会話で余計な時間を使うつもりもない。まだ《ダイガスタ・スフィアード》の効果で耐えれると思っているかもしれないが、さっさと現実を見てもらおう。
《ヴァンパイア・シェリダン》の効果を発動。このモンスターの
《ダイガスタ・スフィアード》を墓地へ送らせてもらう。[クロス・オブ・ブラッディ]』
エクソシストが祈る時のような十字を切る動作とともに、《ダイガスタ・スフィアード》の足元に幾何学的な紋章が出現。まるで灰になって崩れ落ちるかのように、《ダイガスタ・スフィアード》を跡形もなく消滅してみせた。
フィールド→墓地
これにより御門の勝利は確定したが、最後のダメ押しとして《ヴァンパイア・シェリダン》が残る1つのORUも消費し、さらなる効果を発動し始めた。
『続けて《ヴァンパイア・シェリダン》のもう一つの効果だ。1ターンに1度、フィールド上のモンスターが効果もしくは戦闘で墓地へ送られた場合、ORUを1つ消費することでそのモンスターを1体守備表示で自分フィールドへ特殊召喚できる。
《ダイガスタ・スフィアード》を私のフィールドへ蘇生。[コントラクト・サーヴァンプ]』
墓地→フィールド
『な、に……っ!?』
『これで《ピアニッシモ》で足掻くことも無駄になったな。つづいて《ノーブル・ド・ノワール》を攻撃表示へ変更だ』
DEF1400→ATK:2000
「バトルだ。《ノーブル・ド・ノワール》《ガスタ・ガルド》を攻撃。
そしてその攻撃宣言時、手札の《ヴァンパイア・フロイライン》を特殊召喚できる」
手札:1→0
アンデット族の攻撃に反応し、御門の手札から呼び出されたのは生気の感じられないほど真っ白な肌をするご令嬢。煩わしそうに傘で顔を隠そうとしているのは争い事から避けようとしているからか。
しかし彼女は主の血を……プレイヤーのライフを吸い取ることで同族であるアンデット族の攻撃力を一時的に上昇させられるサポート特化の能力を保有している。
仮に豪が《ピアニッシモ》で元々の攻撃力を下げたところで、ライフを代償として攻撃力を上げることでその弱体化を回避することが可能なのだ。豪からすればもはや手詰まな状況と言って過言ではなく、《ノーブル・ド・ノワール》が《ガスタ・ガルド》を食い殺している光景を前にしても伏せたカードを発動する素振りすら見せなかった。
『ぐ……っ!』
ライフ:1900→400
『さて、次で終わりだが《ピアニッシモ》で抵抗したいなら好きにしていいぞ。したところで意味はないが。《ヴァンパイア・シェリダン》でダイレクトアタック。[キン・スレイヤー]』
攻撃命令を下された《ヴァンパイア・シェリダン》が最初に行ったのは口笛。ただしそれで何かを呼び出すということもなく、その甲高い音は髑髏だらけの空間に静かに溶けていく。続いて《ヴァンパイア・シェリダン》は自身の指先を噛み、その傷口から滴り落ちる血を己の力で片手剣へと形作る。
一連の所作はあくまで優雅で、まるで何かの儀式でも行うかのよう。攻撃対象である豪に近づく足取りも緩やかで、しかし一度その手に握る片手剣を振りかぶると、一息に数度切り刻んでみせた。
『が、あ゛あ゛……っ!!』
直接攻撃に伴うダメージはモンスター同士の戦闘で発生する超過ダメージとは一線を画すもの。ただ、御門のサイコパワーは射手座だった一矢レベルの規格外でないのが不幸中の幸いか。どれだけ鋭そうな刃物でも、カッターナイフで切られたような薄皮一枚程度で済んでいた。
それでも全身を切り刻まれ、激痛で絶叫する豪の結末を語るように、いつの間にかフィールド魔法の映像がなくなった空虚な空間に無慈悲なブザーが引き渡った。
《left》【豪】
ライフ:1900→0
気の毒なほど一方的なデュエルが終わり、敗者である豪がその場に崩れ落ちる。薄皮一枚であるため命に別状はない可能性が高いが、全身を切り刻まれた激痛は想像を絶するもののはず。
画面越しにでも残国なその光景に対し、遊形は眉をひそめて視線を画面から外す。
「あらあら、意外とやんちゃと思ったけれどそういうのには慣れてないのね」
「っ!?」
やや上……位置的に背後にあるD-ホイールの座席ぐらいから聞こえる声に反射的に振り返る。そこにはいつの間にか、蠱惑的な笑みを浮かべる童顔な女性がこちらを見下ろしていた。
「え、エヴァ……さん?」
「ワタシのことをさん付けする子はたぶん君ぐらいじゃないかしら? あ、でもあのリリアって子はさん付けしそうね」
引きつった笑みを浮かべながらどうにか絞り出した声に対し、こちらを見下ろす褐色の女性は遊形のD-ホイールの座席に頬杖を付いてカラカラと笑う。
身長は遊形どころかリリアよりも低いにも関わらずその褐色肌の女性から醸し出される雰囲気に大人びた様子があるのは、見た目に反して彼女が遊形よりも年上なのはもちろんそれ相応の経験を積んできたからこそか。
エヴァ・テイム。サイコデュエリストではないにも関わらず、ボレアスの一員……なにより蟹座の
「えっと……いつからそこに?」
「それはそこまで重要ではないでしょう? ここに君がいるのはあの熊みたいな大男のセキュリティに伝えてあるから、説教を長引かしたくないならそれを隠した方がいいんじゃないかしら?」
「っ!?」
言われて慌ててデュエルパッドのアプリを閉じる遊形の一部始終を微笑ましそうに観察するエヴァ。それからしばらくして、彼女の言う通りその場に現れた大神により、遊形は有無を言わせず連行されることとなった。
タイトル的に《デスカイザー・ドラゴン》がメインでデュエル構成してたんですが、どう考えても《ヴァンパイア・シェリダン》に進化させたほうがマシじゃね? ってことでこんな感じになりました。
今回は今ストックしてる中で一番あからさまな実力差があるデュエルになるように構成しました。
デュエル構成をする際、プレイヤーの実力差をどうやって表現すればいいかは永遠の課題ですね。