遊☆戯☆王 Xeno-N   作:駄蛇

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御無沙汰してしまいました。
まさか書くどころか修正する暇すらないほど大変になるとは思いませんでした……

何事も日ごろからコツコツするべきですね



あと、物語の都合上、主人公の名前の変更をしました
物語書く上で一番やっちゃいけないとは思ってたんですが、そちらの方が後々話が作りやすかったのでそうしました
黄昏遊利→黄昏遊糸(ゆうし)に変更します


※2月15日…いろいろと誤字脱字やプレミが多かったので前半のデュエルの流れを修正しました。最終的なライフ、手札、墓地、フィールドの枚数などに変化はないです

2022/1/5…《スキル・サクセサー》等が墓地へ送られたターンには使えないのを忘れていたのでそのつじつま合わせを行いました


すべては彼女の真意を聞くために

 翌日、黄昏は午後の授業をさぼって屋上で一人腰を下ろしていた。普通なら教師から呼び出しのアナウンスが流れるところだが、一向にその様子はない。

 理由は簡単で、黄昏一人のさぼりを咎めているほど教師陣は暇ではないのだ。

 事の発端は今朝。デュエルアカデミア・ダイス校の裏サイトなるものである書き込みが行われた。

 ――――七波葵が退学した。

 アイドルという立場上話題作りの標的にされやすいのか、根も葉もない噂が裏サイトに流されたことは過去に何度かあったのは、すでにログから確認済みだ。

 今回も同じだろう、と午前の間は物好きな数人で討論が行われている程度だった。しかし、実際に葵が欠席しているのを疑問に思った生徒が教師に尋ねたところ、その教師がうっかり口を滑らせてしまったらしい。

 裏付けの取れたこの情報は瞬く間に生徒の間で話題となり、午後の授業がままならない教室が出てきたほどだった。その上どこから聞きつけたのかアカデミアに無関係のファンからの電話も殺到する始末。

 現在、教師はその対応に追われて授業は一時中断。黄昏はその混乱に乗じて屋上まで逃げきてきたというわけだった。

「………………………………」

 デュエルパッドを操作して裏サイトを覗いてみると、秒刻みでコメントが投稿されてサーバーがダウン寸前の状態になっていた。

 内容は見る気も起きないほどひどい有様だったため黄昏はさっさとそのウィンドウを閉じて元の作業に戻った。

『アニキ、今何やってるんスか?』

「《ゴブリン》か。別に、ただ気になることを確認してるだけだ」

『気になること……ってこれ七波さんの動画じゃないっすか。もしかしてアニぐひゃ……っ?』

「バーカ、ただあいつのデュエルを見てるだけだ。それ以外に理由はねえよ」

(表情がわからないが)にやにやしている《スクラップ・ゴブリン》の頭を顎で押さえこむようにして発言を制止する黄昏は、依然と同じように両足で《スクラップ・ゴブリン》を拘束して動画に集中する。

 

『――私のフィールドにレベル7のモンスターが2体! みんな、準備はいい? せーの──っ!』

『――レベル7のモンスター2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築――!』

『さあ、みんなの声に応えてエクシーズ召喚! 大海を総べる海神よ、その姿を現しすべてを威圧せよ! 《水精鱗-ガイオアビス》』

 

 ハイレベルなデュエルを行いながらも観客への呼びかけを忘れず、観客がデュエルの傍観者ではなく、観客を含めた会場全体でデュエルを行っている葵の姿は、エンターテイナーであった。

 今見ているのは幼児を対象とした催し物に出演した際のものであるため、MCの邪魔をしない程度にデュエルの展開をわかりやすく進めている。

 また別のデュエルでは客層に応じた大胆なデュエルも行っており、状況に合わせて展開を変えるその臨機応変さが彼女の人気の秘訣なのだろう。

『やっぱりスゴイッスね。ここまで会場を巻き込んで盛り上げられるってそうそう出来ないッスよ』

「そうだな……」

『アニキ?』

 何とも歯切れの悪い返答をする黄昏に首を傾げる、絶賛拘束中の《スクラップ・ゴブリン》だが、当の本人はそんなこと気にせずおもむろに立ち上がった。

「そろそろ教室戻るか。授業は出来なくてもホームルームぐらいはするだろうから流石にバレる」

『了解ッス』

 《スクラップ・ゴブリン》姿を消したのを確認すると黄昏もデュエルパッドを制服のウエストポーチに仕舞い、教師にバレないようにそそくさとその場を後にした。

 

 ★

 

 黄昏の読み通りホームルームは存在したが、まだ電話の対応などが落ち着く見込みがないのだろう。形だけのホームルームを済ませた教師たちは再び職員室へととんぼ返りしていた。

 

「――ねえ、やっぱり七波さんって退学したのかな?」

「確か、七波さんの親ってプロデュエリストだったよね? もしかして、デュエルに対してはすごく厳しいんじゃない?」

「あ、それありえるー。あの人デュエルで絶対手抜かないし」

「少しは手加減してほしいよねー。プロの世界にいる人に私たちが敵うわけないじゃん――」

 

 夕方になっても校内では彼女の話題で持ち切りだ。

 己がうちに秘めていた鬱憤、勝手な憶測、信憑性の怪しいネットの情報、どのクラスでも思い思いに意見を通わせ賑わっている。

 そんな意識無意識混ざりあった悪意に満ちた空間を後目に廊下を歩いていると、突然の背後からの衝撃で彼の身体が微かに浮いた。寸前のところで踏ん張って事なきを得たが、あわや廊下へ顔面からダイブするところだった原因を作った人間の顔を拝んでやろうと背後に視線を回すと、見覚えのある癖っ毛の金髪が視界に映った。

「何してんだよ、リリア」

「遊糸ー、あおいんが学校辞めたって本当なのかなー?」

 不安そうに尋ねてくる彼女の表情は、昨日の彼女とは真逆で、今にも泣きだしそうだった。

 その表情に思わずギョッとした黄昏はひとまず落ち着かせようと彼女の肩を持ち、自分から引きはがす。

「わかった、わかったから落ち着け。連絡は取ったのか?」

「連絡がつかないんだよー。電源が切られてるみたい。仕事のときは前もって電話をしちゃいけない時間教えてくれてたけど、こんなこと初めてで……」

 言葉に嗚咽が混じり始め、それに伴い周囲からの目線が集まり始める。それに顔をしかめる黄昏は丁度帰宅のために廊下を歩いていた早乙女を見つけると彼女を手招きし、事情を説明してリリアを慰めてもらうように頼んだ。

 もし昨日のように拒否されたらどうしようかと内心ひやひやしていたが、快く二つ返事で引き受けてくれた早乙女にお礼を言うと自分は教室を後にする。

 

 教室を出た黄昏は、そのままとある場所へと向かっていた。彼が教室を出た理由は2つある。まず一つ、周囲の視線が痛いほど突き刺さって居づらくなったからだ。そしてもう一つの理由は……

「失礼します」

 扉を開けると一際広い空間が広がっていた。まず目に入るのは、中央に置かれている、見ただけで高級品とわかるソファと机。そして壁には、見る者の背筋が自然と伸びるような威厳のある男性女性の写真が飾られ、本棚にはアカデミアの歴史を記した本やファイルがずらりと並んでいる。

 そして扉から見て一番奥、アカデミアを一望できる窓際にある大きな机には貫禄のある男性が一人座っていた。さらに、そのそばには白髪が混じり始めてるがガタイのいい男性が書類を抱えて佇んでいる。

 業務報告でもしていたのだろうが、黄昏は時間を改めるという面倒なことを選ばずその仰々しい空間の中へと足を踏み入れた。

「おや、お久しぶりですね黄昏君。どうかしましたか?」

「デウス校長、学校で七波の退学が噂されてるけど、それは本当なのか?」

「黄昏、お前校長になんて口を!」

「いいんですよ、考古代(こうこだい)教頭」

 デウスと呼ばれた男性は、男性の言葉を片手で制する。考古代教頭はデウス校長と黄昏を交互に見た後、喉まで出かかっていた言葉を無理やり飲み込んだ様子で黙り込んだ。

 それを横目に、デウス校長は悲しそうに呟くと、机の引き出しから封筒を取り出した。

「七波君から渡された退学届です」

「それじゃあ……!?」

「はい、理由は家庭の事情との一点張りでしたのでわかりませんが、事実です」

 残念そうに首を横に振るデウスは、しかし何かを思い出したのか、あっ、と声を上げる。

「そういえば、七海君から黄昏君に伝言を頼まれていました」

「七波が、俺に?」

「はい、『君とのデュエルが最後にできて本当に良かった』。だそうですよ」

「……………………」

 それは、昨日の屋上で葵が一人呟いた言葉だった。しかし、それを知らない黄昏は、その真意を知ることはできない。それでも、黄昏の中ではモヤモヤとしたものが確かに渦巻き始めていた。

 その正体が何なのかは、黄昏にもよくわからなかった。ただ、確実に言えることが一つだけある。

「あのやろう……勝手に勝敗決めてんじゃねえぞ」

 思わずこぼれた言葉。口に出した自分の言葉を耳にして、黄昏は改めて確信する。

 それは怒りだ。中途半端なデュエルで満足した1人のデュエリストに対する苛立ち。モヤモヤした何かとは別に湧き出すその感情は、自然と眼光を強めてデウスへと向けられる。

 そこへ釘を刺すように発言したのは、先ほど押し黙っていた考古代教頭だった。

「黄昏、お前が何を考えているのか知らないが、このアカデミアの顔を汚すようなことをするんじゃないぞ?」

 張りつめた空気が校長室を支配し始めるが、完全に飲み込まれる前にその沈黙を破るようにデウス校長が静かに口を開いた。

「これは校長と生徒ではなく、私と君という友人としての約束です」

「校長? ま、まさか本気ですか!?」

 黄昏の位置からではデウス校長が何をしているのかわからないが、考古代教頭の慌てようから何かとんでもないことをしでかそうとしているようだった。

 間もなくして、黄昏のウエストバッグに仕舞われたデュエルパッドから小さな通知音が発せられる。落としていた視線を校長の方に戻すと、デュエルパッドを見るのを促すようにしており、傍らの教頭は呆れて天を仰いでいた。

「……っ!? これってもしかして……」

「何をするのかは、あなたに任せます」

 文字の羅列からして誰かの住所。そして話の流れからそれが誰のものかは明白。完全な個人情報の悪用だった。

 校長としてなら懲戒処分ものの行為だ。しかし校長はそんなこと気に留めず、もう話すことはないと言うように仕事に戻った。……傍らでは頭を抱えて教頭が悶えているが、生憎と黄昏に彼を励ます言葉は持ち合わせていない。

 静かに一礼すると黄昏は蹴り破る勢いで校長室を飛び出す。仕事をしていたはずのデウス校長は、そんな彼の姿に孫の成長を見るかのような優しい眼差しを送る。

「青春とはいいものですね」

「あなたは少しは自重というものを知っていただきたい。もし生徒の自宅の住所がアカデミア、それも校長の手で故意に流されたと世間に漏れたら……」

「学校とは、生徒の成長をサポートする場ですよ。そして、全力でぶつかり合うデュエルには言葉では表せないものが数多くあります」

「ですが……」

「考古代教頭、半年前の黄昏君がここに来た時の顔、覚えていますか?」

「へ? あ、ああ、もちろん。まるでこの世の終わりかのような表情でしたから」

 半年前に起こった出来事を懐かしんでいるのか、デウス校長は目を瞑る。

「彼の要望により行われた、免除という名の休学。あまりにも荒い応急処置でした。それでも、彼という人間は成長していた。この半年間が、いえ、おそらく先日のデュエルが、彼にとって最も大きな成長の要因でしょう」

「お言葉ですが、それが何か?」

「昨日の七波君の表情、あれは半年前の黄昏君のそれを全く同じでした。抗いたいが、自分一人ではどうすることもできない現実を突きつけられた時の絶望の表情。おそらく、ここが彼女にとっての大きな分かれ道なんでしょう」

「だから、もう一度黄昏とデュエルをさせようと?」

「それも一つです」

「で、では他に何か?」

「先ほども言ったでしょう。青春ですよ。彼は気づいていないでしょうがね」

 はあ、と歯切れの悪い返答しか返せない教頭をしり目に、今度こそ校長は仕事を再開する。

 

 ★

 

 放課後、黄昏は校長から教えられた住所へとアカデミアから直接向かっている。そしてその後をついて来る人影が2つ。

 一人は癖っ毛のある金髪の少女、もう一人はおどおどとしている文学少女だ。

「……別について来るなとは言ってないし、こそこそしなくてもいいだろ?」

「すいません、勝手について行ってるのが悪い気がして……」

「えへへへ……なんかアタシも雰囲気的にそうした方がいいのかなーって」

 文学少女こと早乙女卯月は肩をすくめながら俯きっぱなしで、金髪の少女ことリリアは正午の落ち込んだ雰囲気はどこへやら、いつもの能天気な彼女に戻っていた。ただ、その目元には涙の痕が残っており、いつもの笑顔も痛々しく感じられた。

「で、でも、どこで七波さんの住所を知ったんですか? たしか、リリアさんも七波さんの住所知らないんですよね?」

「そうなんだよー、あおいんってばアタシが口軽いからって教えてくれないんだよね」

「ああ、納得だな」

 そんなー、と嘆くリリアをしり目に黄昏たちは歩みを進める。さすがにデウス校長に教えてもらったというのは言うべきではないだろう。うまく話をそらせたことにホッとした黄昏はそのまま会話を切り替える。

「そういえば、七波の親ってプロデュエリストって聞いたけど本当なのか?」

「え、知らないんですか!?」

「……テレビとかほとんど見ないんで」

 話題にしたのは、先ほど教室で生徒たちが話していた時の一言だ。ただ、まさか早乙女に驚かれるとは思わなかったため、黄昏はバツが悪そうに顔をそらす。

「七波さんの父親は、七波将生(まさき)さんと言って、除外を中心としたデッキを使うプロデュエリストなんですよ」

「除外、か……」

 そうこうしているうちにデュエルパッドに記された住所の元にたどり着く。有名なプロデュエリストということもあり、立派な豪邸かと思ったが、周囲の一軒家より少し敷地が広いシンプルな建物だった。

 ……といっても、今黄昏たちがいるのは坪単価が非常に高い高級住宅地。普通なら手が届くかどうかの場所に周囲より大きな家を構えている辺り、彼女とその親の実力は確かなものなのだとうかがえる。

 そのことを知っている人なら少なからず躊躇うところだろうが、生憎と黄昏は情勢に疎く、もし知っていてもそんなことに怖気づくような人間ではなかった。何の躊躇もなくインターホンを鳴らす。

 家の中でベルが鳴り響いてから数秒たらずで、インターホン越しに応対された。

『どちらさまかな?』

「七波と同じダイス校の黄昏といいます。七波葵さんのことについて聞きたいことがあってきました」

 聞こえてきたのは落ち着いた印象の中年男性の声。声だけだというのに自然と背筋が伸びる雰囲気に臆することなく淡々と、形式だった言葉で黄昏は用件を伝える。

『……そちらの方も同じかな?』

「あ、えっとアタシはあおいん……じゃなくて、葵さんの友人のリリアです! で、こっちは先輩の早乙女卯月さんです!!」

 向けられた視線にピンと背筋を伸ばし、噛みながらも自己紹介をすると、リリアはその隣で完全に委縮してしまっている早乙女の自己紹介も済ませる。

 ふむ、と視線を巡らせた男性は、何かに警戒しているようだった。

「一応言っておくと、俺たち以外に誰もついてきてないのは確認してますよ。ただ七波……葵さんの意思が聞きたいだけなんで、彼女に会わせてもらえればすぐに帰ります」

『……まあいいでしょう』

 一言呟くと、彼の方で何か操作をしたのか、インターホンの隣の扉が開き、黄昏たちは敷地内に入ることを許された。

 三人が玄関前まで行くとその扉が開かれ、中から現れた男性に出迎えられる。

 メガネをかけた知的そうな男性は三人を一瞥し、さらに本当にマスコミがいないか周囲を警戒してから3人は家の中へと招かれた。

「こちらへ」

 ただ一言、そう告げたあとは特に会話もなく男性に誘導さえた先はおそらくは客間。シンプルながら高級感の溢れる家具で統一された部屋の、向かい合うように置かれたソファーへ男性は腰かけるように促して自らも腰を落とし、一度息を吐いた。

「自己紹介が遅れましたね。私は七波将生。葵の父だ」

「「……っ!」」

 すでに容姿を知っているリリアと早乙女は玄関から緊張しっぱなしだったが、それも当然。目の前にいるのは正真正銘のプロデュエリストであり葵の父親である七波将生その人だった。

 彼が自己紹介をしたことで彼女たちはさらに背筋を伸ばし畏まるが、黄昏だけは自然体のまま会話を交わす。

「なな……葵さんの退学、あれはあいつ自身の意思ですか?」

「いや、私が強制したことだ」

「……どうしてですか?」

「きみたちには関係ないことだ」

「あいつに会わせてもらえませんか? あいつの言葉で直接聞きたい」

「必要ないことだ」

「あんたが必要ないと思っても、俺からすれば必要あるんだよ!」

 次第に口調が荒くなる黄昏と、徹底して冷静な将生。ただし黄昏も頭に血が上っているわけではなく、ただ口調だけを強めて将生に迫る。

 そんなとき、不意に客間の扉が開いた。

「お父さん、誰か来てるの?」

「あおいん!」

 青い髪はそのまま下ろされ、普段着に身を包んではいるが、間違いなくそれは七波葵だった。それを見るや否やリリアが抱き付く。

「り、リリア、どうしてここに!?

 お父さん、これって一体……」

「昨日ぶりだな、七波」

 状況を確認しようと父親の方を見た葵は、その近くにいた黄昏にも気づき口を閉じた。

「葵、部屋に戻っていなさい」

「あ、うん」

「伝言は受け取った」

 踵を返した葵に、黄昏はその背中に問いかける。

「とりあえず返答しておくと、ふざけるな、だ」

「……………………」

「まだ決着がついてないデュエルで満足か? ドローもしてないのに負けを認めるのか? お前は、それでいいのか?」

 その場に立ち尽くす葵の背中に、容赦なく黄昏は言葉を投げつける。

「もう一つ、ネットに上がってるお前のデュエル、公式非公式合わせてたぶんほとんど見させてもらった。お前、俺のデュエルのとき全然全力出せてないだろ?

 観客を置いてけぼりにして普通にデュエルをするなんて、アイドルとしてどうなんだ? 緊張でもしたか?」

「うるさい」

「耳を塞げば俺の声は聞こえない。けど、お前自身の心の声はずっと語り掛けてるんじゃないのか?」

「うるさい! もう私のことは放っておいてよ!!」

「黄昏君、そこまでにしてくれないか?」

 葵が耳を塞ぎ怒鳴ったところで、見かねた将生が静止に入る。

「俺はあいつの本心が聞きたい。あんたに強制されて納得したのか、してないのか。アカデミアに残りたいのか、残りたくないのか」

「それを知って、君はどうするんだい?」

「アカデミアに残りたいなら俺が連れ戻す」

「君にそんな権利はないだろう?」

「まだ退学希望日まで時間がある。今日中に取り消せば問題ないだろ。校長とは少しばかり面識があるから、そこいらの融通は利くはずだ」

 なるほど、と顎に手を置いて考えるそぶりを見せた将生は、黄昏にある提案を提示する。

「なら、デュエルでそれを決めるというのはどうだろう?」

「デュエルで?」

「デュエルで君が勝てば、葵の本心を聞くことができる。もし負けた場合は……そうだな、これはまた後で決めることとしよう」

「わかった」

「た、黄昏さん、そんな即答していいんですか!? だって、将生さんのデッキは……」

「わかってる」

 早乙女の悲鳴じみた声が聞こえてくるが、黄昏はそれ以上いうことはないとでも言うかのようにデュエルパッドを取り出し、デュエルディスクへと変形させていく。

 もちろん、将生の提案が非常に危険なものだということは、黄昏もわかっている。負けたとき何を指示されるのかわからない提案には乗るべきではない。ただし、黄昏はこの提案が自分を試していると直感していた。

「どうせ、どんな条件でも受けるつもりだけどな」

「ここでデュエルするのも窮屈だろう。地下にあるデュエルスペースに移動しよう」

 

 ★

 

 地下に下ると、そこにはアカデミアのそれと匹敵する広さのデュエルスペースが備え付けられていた。

「黄昏君以外は観戦スペースに移動してもらうよ。葵、案内してあげなさい」

「うん、リリアと早乙女先輩、ですよね? こっちです」

 3人が離れていくのをしり目に、黄昏と将生はお互い距離をとる。

「では始めようか」

「いつでもどうぞ」

 

「「――デュエル!!」」

 

「先行は譲ってあげよう」

「そりゃどうも、俺のターン!」

 

【黄昏】vs【将生】

 

 

「俺はまず、手札から通常魔法《手札抹殺》発動!

 お互い手札をすべて捨てて捨てた枚数ドローする」

 

【黄昏】

手札:4→0→4

【将生】

手札:5→0→5

 

「いきなり手札交換カードか。あまりいい手札ではなかったのかい?」

「まあ、そんなところですよ。俺はさらに手札から通常魔法《スクラップ・エリア》発動!

 デッキからスクラップチューナーの《スクラップ・ビースト》をサーチする」

 

【黄昏】

手札:3→4

 

「そして、《スクラップ・ビースト》を通常召喚し、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

《スクラップ・ビースト》

☆4・地属性・獣族

ATK:1600

 

【黄昏】

2/4000

--○--  

--■--

【将生】

5/4000

-----  

-----

 

 モンスター1枚とセットカード1枚、そして墓地には墓地発動できるカードが数枚。初めのターンとしては十分の滑り出しで黄昏のターンは終了した。

「私のターンだ。ドロー!」

 

【将生】

手札…5→6

 

「学生だからといって手加減はしない。私は《ビッグ・ジョーズ》を召喚!」

 

《ビッグ・ジョーズ》

☆3・水属性・魚族

ATK:1800

 

「れ、レベル3で下級モンスターのアタッカークラスのモンスターがこんな簡単に!?」

 現れたのは顎部分を機械で強化された巨大なサメだった。その攻撃力は下級モンスターとしては十分な数値を有しており、思わずリリアが声を上げる。

「でも、確かあのモンスターは攻撃した後除外されてしまう自壊モンスターです。このまま攻撃しても返しのターンに大ダメージを食らう可能性も……」

「そう、普通ならデメリットが強くて使われることはありません。でも、お父さんのデッキならそのデメリットは気にならなくなります」

 観客席で葵がそう説明を加えている傍らで、将生が手札から2枚のカードを発動する。

「そして、手札から《魂吸収》と《次元の裂け目》を発動する」

 将生の発動した2枚のカード。そのカードに黄昏は微かに顔をしかめた。早乙女もそのカードの発動に小さく声を上げるが、リリアだけはその効果を知らないのか首を傾げるだけだった。

 それを見かねた葵がそれぞれのカードの効果を説明する。

「《魂吸収》はカードが除外される度にプレイヤーのライフを500回復する永続魔法。そして《次元の裂け目》は、墓地へ送られるモンスターを代わりに除外する永続魔法だよ。

 ……あと、黄昏君の使っている《スクラップ》は破壊されたあと“墓地へ送られる”ことが効果の発動条件だね」

「えっと、それって遊糸のデッキは……」

「《次元の裂け目》がある限り、ほぼ完全に機能しないね」

 事の重大さを理解したリリアが慌てだすが、葵は違う部分が気になっており、リリアたちにそのことを尋ねる。

「黄昏君って、もしかしてお父さんが何のデッキなのか知らなかったんですか?」

「あ、はい。来る途中に質問してきたので、最低でも今日まで将生さんがどんなデッキを使うのかは知らなかったはずですよ」

「……ちなみにそれ聞いてデッキを組みなおしてました?」

「わ、私たちが知る限りない、と思います。ここに来る途中も来てからも、彼がデッキを触っているところは見てませんし……」

 それを聞いた葵は眩暈が起こったかと錯覚するほどぐらりと視界が揺れた。スクラップは墓地利用を多用するデッキのため、モンスター、特にチューナーが1体が除外されるだけでも動きが鈍るときもあるほど除外に弱い。

 スクラップを組むにあたってある程度対策は組んでいるだろうが、除外に特化したデッキとデュエルするなら、さらにデッキを組み直すべきだろう。元々除外に強いデッキ構築の可能性もあったが、少なくとも葵とデュエルした時はそのような組み方ではなかった。

「あの、七波さんは将生さんとデュエルしたことあるんですか?」

「最近の勝率だと4割ぐらいですね。ただ、黄昏君のデッキと私のデッキじゃ動かし方が全然違うのであまり参考にならないと思いますし、たぶんこれより低いと思います」

 ゆえに、一体何を考えているのだろうか、と思ってしまうほど彼の行動が理解できない。葵の目の前で、二人のデュエルはバトルフェイズへと突入していた。

「さあバトルだ!《ビッグ・ジョーズ》で《スクラップ・ビースト》を攻撃。[ビッグマウス]!」

 《ビッグ・ジョーズ》はその巨体をうねらせ《スクラップ・ビースト》を食い千切らんと接近する。その大あごが《スクラップ・ビースト》を襲う直前、黄昏がリバースカードを発動する。

「リバースカード《スキル・サクセサー》発動!

 《スクラップ・ビースト》の攻撃力を400ポイントアップさせる。反撃だ《ビースト》!!」

 

《スクラップ・ビースト》

ATK:1600→2000

 

 《スクラップ・ビースト》はその体にオーラをまとわせ、迫りくる《ビッグ・ジョーズ》を引き裂いて返り討ちにした。

「く……っ! だが、《次元の裂け目》により《ビッグ・ジョーズ》は墓地ではなく除外される。さらに《魂吸収》により私のライフは500回復」

 

《ビッグ・ジョーズ》

フィールド→除外

【将生】

ライフ:4000→3800→4300

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

【黄昏】

2/4000

--○--  

-----

【将生】

3/4300

-----  

--□□-

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札…2→3

 

 将生のフィールドにはモンスターも伏せカードもなく、そして墓地にも活用できそうなカードはない。仮にもプロがこんなガラ空きなフィールドを作るとは思えない。

 可能性があるとすれば一種のハンデのつもりなのか、本当に手札事故を起こしているだけなのか……。どちらにせよ、この状況を有効活用しないと勝機はないかもしれない。

「一気に削る! 俺は《スクラップ・シャーク》召喚」

 

《スクラップ・シャーク》

☆4・地属性・魚族

ATK:2100

 

 デメリットが厳しいが下級《スクラップ》モンスターの中ではトップクラスの攻撃力を持つモンスター。

 今のフィールドであればそのデメリットが発動するリスクも低い。

「バトルフェイズ、《ビースト》、《シャーク》でプレイヤーをダイレクトアタック!!」

 

【将生】

ライフ…4300→600

 

 2体のモンスターが将生を襲いライフを一気に削る。しかし追撃はできず今できるのはここまでだ。

 除外デッキで《魂吸収》が存在するこの状況、ライフは削り切るまで一切の安心できないため、ここまで有利になっても黄昏の表情は固いままだ。

 ましてや今からそのライフを回復させてしまうと思うと気が重いのだろう。

「そしてメインフェイズ2、俺はレベル4の《スクラップ・ビースト》でレベル4の《スクラップ・シャーク》をチューニング。

 異なる身体が集結し、ここに破滅の魔物が誕生する。シンクロ召喚、這い上がれ《スクラップ・ヘルサーペント》!」

 

《スクラップ・シャーク》、《スクラップ・ビースト》

フィールド→除外

《ヘルサーペント》

☆8・地属性・爬虫類族

ATK:2800

 

 早速その姿を現した敵を威嚇するように口を開く、黄昏の要のなる残骸の僕。しかしその召喚に対して黄昏は苦い顔を、将生は小さく微笑む。

 

【将生】

ライフ:600→1600

 

「え、なんで将生さんのライフが」

「これが除外デッキに入っている《魂吸収》の本領だよ。特にシンクロ召喚の場合はカードが墓地に送られやすいから、黄昏君のようなタイプは相手のライフが回復すること覚悟でカードを回していかないといけない。

 もたもたしていると、場がそろう頃には取り返しのつかないほど回復されるよ」

 葵の言葉が耳に痛い黄昏は眉をひそめるが、そこにさらに将生が追い打ちをかけてくる。

「さっそくそのモンスターを出すのは、得策ではないのではないかな?」

「削れるときに一気にライフ削らないといけないのも事実だろ。

 かと言って、この環境下で《シャーク》のデメリットはデメリットとして以外働かないし、長居させておくよりさっさと活用しておくべきだからな。

 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

【黄昏】

1/4000

--○--  

-■---

【将生】

3/1600

-----  

--□□-

 

「私のターンだ、ドロー!」

 

【将生】

手札…3→4

 

「私は《エアジャチ》を召喚」

 

《エアジャチ》

☆3・風属性・海竜族

ATK:1400

 

 腹ビレが発達して鳥のように宙に浮くほどになったシャチが将生のフィールドに舞い降りる。

「手札の海竜族・魚族・水族どれかを除外して除去を行うモンスターか……」

「その通り。私は手札の『スカイオニヒトクイエイ』を除外して《スクラップ・ヘルサーペント》を破壊する。早速で悪いがご退場願おう」

「もちろんお断りだ。リバースカード《攻撃の無敵化》発動! ダメージ無効か戦闘・効果破壊耐性のどちらかを選択できる。

 俺は破壊耐性を《ヘルサーペント》に対して発動!」

 《エアジャチ》がその大きな口を開けて放つ咆哮は、あらゆるものを破壊する衝撃波るとなり《スクラップ・ヘルサーペント》を襲う。しかし《スクラップ・ヘルサーペント》の目の前に光の壁がその咆哮を阻む。

 

【将生】

手札:3→2

ライフ…1600→2100

 

「ふむ、まあ予想はしていたが防いだか。なら私は《一時休戦》を発動! お互いカードをドローし、君のターンのエンドフェイズまですべてのダメージを0にする。

 私はこれでターンエンドだ」

 

【黄昏】

手札:1→2

【将生】

手札:1→2

 

【黄昏】

2/4000

--○--  

-----

【将生】

2/2100

--○--  

--□□-

 

「俺のターン、ドロー……」

 

【黄昏】

手札:2→3

 

「……なんか、遊糸の表情が暗いねー」

 リリアの言う通り、攻撃力は上回っているモンスターがいるのに、黄昏の表情は曇ったままだ。するとそれを説明するためか将生は今の状況を再確認する。

「《スクラップ・ヘルサーペント》の効果は葵からも聞いている。その効果は確かに強力だ。魔法・罠および攻撃反応型の効果に対応できないのは《スクラップ・ドラゴン》に劣るが、状況によってはこのモンスターがいれば敵モンスターを一掃できることができる。

 しかし、その効果は自軍の首も絞める。そうだろ?」

「ああ、《ヘルサーペント》の効果は強制効果。そしてその効果が適応されるバトルステップ時、フィールドのモンスターがこいつだけなら自壊する」

「それだけではない。その効果故に相手のモンスターが1体、もしくはいない場合にスクラップモンスターで攻撃した場合、その効果は自分のモンスターに牙をむく。

 つまり、今の状況で《ヘルサーペント》が攻撃すれば《エアジャチ》を破壊することはできるが、《一時休戦》の効果でダメージは入らないうえ、《ヘルサーペント》は自壊、もし他のスクラップを身代りにしたとしても合計2体のモンスターが除外され、私のライフは1000ポイント回復する。君からすれば踏んだり蹴ったりだな」

「ちっ、効果だけ聞いてそこまでわかるのかよ」

「これでもプロデュエリストを名乗るものだ。特定の国にしかないカードなどの対策はすぐに立てないといけないからこれぐらいは基本スキルだ」

 バツが悪そうに顔をしかめる黄昏は手札を一瞥し、そのすべてをセットしてターンを終了した。

 

【黄昏】

0/4000

--○--  

-■■■-

【将生】

2/2100

--○--  

--□□-

 

「私のターンだ、ドロー!」

 

【将生】

手札:2→3

 

「来ないなら私から動くまでだがね! 私は《エアジャチ》のモンスター効果発動!

 手札の《エア・サーキュレーター》を除外して《ヘルサーペント》を破壊する」

「させねえよ! リバースカード《スキル・プリズナー》を発動! モンスター1体を選択し、そのモンスターを対象に取る効果を無効にする。

 俺は《ヘルサーペント》を選択する。よって《エアジャチ》の効果を無効!」

 再び放たれかけた《エアジャチ》の咆哮は、さっきとは別の見えない壁によって防がれ黄昏のエースモンスターを守り抜く。

 

【将生】

手札:3→2

ライフ:2100→2600

 

「ふむ、なら《エアジャチ》を守備表示にしてターンエンドだ」

「俺はそのエンドフェイズにリバースカード《破滅へのクイック・ドロー》発動!

 お互いのプレイヤーはドローするときに手札が0の場合、ドロー時にもう1枚カードをドローすることが出来る」

「なるほど、手札をすべて伏せたのはそのためか」

 

【黄昏】

0/4000

--○--  

-□-■-

【将生】

2/2600

--△--  

--□□-

 

「俺のターン、ドロー! さらに《破滅へのクイック・ドロー》の効果で1枚ドロー」

 

【黄昏】

手札:0→1→2

 

 自分のライフが削れるリスクを負いながらも引き込んだ2枚の手札。すでに伏せてあるカードと組み合わせることでひとまず相手の布陣を崩す算段を立てることができた。

 ただしそのタイミングはよく考えなければならない。黄昏はポーカーフェイスのままフィールド、手札、墓地のカードを確認し、どんなプレイングをすればいいのかを頭の中で入念にシミュレートする。

 そこへ運命の悪戯か勝利の女神の試練か、追い打ちをかけるように状況が変化する。

 目を凝らさなければ気づけない程度のものだが、神崎のデュエルの時のように《スクラップ・ヘルサーペント》にノイズが走り始めたのだ。

 止める手段はあるにはあるにはあるが、そのためには今すぐにでも動く必要がある。

「……なりふり構ってられないか。

 俺はカードを1枚セットし、《命削りの宝札》を発動! 手札が3枚になるようにドローする」

 

【黄昏】

手札:0→3

 

「ふむ、このターン特殊召喚できないというデメリットはあるが、それでも手札が3枚増えることはメリットとして大きい。次のターンに持ち越すわけか」

 将生の推察は半分正解で半分不正解。黄昏が欲しいものは手札よりもこのデッキに眠る1枚のカードだけだ。

 そして今回は運が良かったらしく、その1枚を見事引き当てることに成功。

「俺は手札からプレート魔法《電脳基盤》発動!」

「全地域のアカデミア生徒に配布された新しいカードか。効果のシナジーが噛み合ってないのを見るに、まだ調整中のようだね」

「一応機械族も入ってるからそのまま入れてるだけだ。俺のデッキに相性がいいカードが手に入ればその時入れ替えるさ」

 そう返答する黄昏だが、その意識は別の所に向いていた。

(《ヘルサーペント》の様子が安定している。このカード、本当にエラーの抑制につながってるんだな)

「……どうしたのかな?」

「いや、何でもない。

 俺は残る手札2枚を《電脳基盤》にインフェクトする」

 

《電脳基盤》

IV:0→2

 

「これで俺はターンエンド。

 エンドフェイズ、《破滅へのクイック・ドロー》の維持コストとして700ポイント払う。

 あと《命削りの宝札》のデメリットで手札をすべて捨てる必要があるが、手札0のためその必要はない」

「お手本通りの対応だね」

「そりゃどうも」

 

【黄昏】

ライフ:4000→3300

 

【黄昏】

0/3300

--○-- ●

-□■■-

【将生】

2/2600

--△--  

--□□-

 

「私のターンだ!」

 

【将生】

手札:2→3

 

「その表情、どうやら突破口を見つけたようだな。ならその前に私はライフを回復しておくとしよう!

 《エアジャチ》のモンスター効果、手札の《エア・サーキュレーター》を除外して《ヘルサーペント》を破壊する!」

「なら墓地の《スキル・プリズナー》の効果! 墓地のこのカードを除外し、もう一度効果を発動する。対象は同じく《ヘルサーペント》。これで《エアジャチ》の効果を無効!」

「だが、これでもう《スキル・プリズナー》は使えないうえ、《魂吸収》により私のライフはさらに回復する!

 私はこのままターンエンドだ」

 

《スキル・プリズナー》

墓地→除外

【将生】

手札:3→2

ライフ:2600→3600

 

【黄昏】

0/3300

--○-- ●

-□■■-

【将生】

2/3600

--△--  

--□□-

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札:0→1→2

 

 直前のターンに想定外の処理を挟む必要こそあったが、準備はすべて整った。相手のフィールドにセットカードはなし。手札誘発の可能性は残るが動くなら今しかないだろう。

「俺はまず《破滅へのクイック・ドロー》を《電脳基盤》にインフェクトする」

 

《破滅へのクイック・ドロー》

フィールド→IV

《電脳基盤》

IV:2→3

 

「《破滅へのクイック・ドロー》はフィールドを離れたときにプレイヤーにダメージを与えるデメリットがあるが……なるほど、インフェクト・ヴァイルスにはそれを防ぐ役割もあるのか」

「そういうことだ。あんたのその布陣、ここで崩し切ってやるよ!」

「ほう、やれるものならやってみたまえ!」

「なら遠慮なく。俺はリバースカード《マジック・ディフレクター》発動! このターンフィールドのあらゆる魔法カードの効果を無効にする!」

「ほう、だがそれは一時的な対策にしかならないぞ?」

「それで十分だ。これで準備はすべて整った! バトルフェイズ、《ヘルサーペント》で《エアジャチ》を攻撃。[ヘイト・スワロー]」

「しかし、バトルステップ時にフィールドにいるのは《スクラップ・ヘルサーペント》1体のみ。これで君の主力モンスターも自壊する」

 蜷局を巻いていた《スクラップ・ヘルサーペント》の巨体が、目にも留まらぬ速さで加速すると《エアジャチ》を丸呑みにする。

 しかし、その後自身の意思に関係なく鱗が上空へと射出されると、ターゲットを発見できなかった鱗は射出した元へ破滅の雨を降らせる。

 

《エアジャチ》

フィールド→墓地

《ヘルサーペント》

フィールド→墓地

 

 フィールドからモンスターがいなくなり、将生より黄昏の方が被害がひどいように見えるが、黄昏の表情は意味深な笑みを崩していない。そして、もう一枚のリバースカードを発動する。

「自分フィールドのスクラップが破壊され、墓地へ送られたとき、このカードを発動できる。

 リバースカード《スクラップ・クラッシュ》発動! フィールド上の表側表示の魔法・罠カードをすべて破壊する。そして《電脳基盤》はIVの《破滅へのクイック・ドロー》を取り除いて破壊を免れる!」

 破壊された《スクラップ・ヘルサーペント》の破片は再び上空へと舞い上がり、表側表示になっている魔法・罠すべてに等しく降り注いだ。その中で《電脳基盤》だけがIVを消費することで破片の雨を持ちこたえる。

 

《魂吸収》

フィールド→墓地

《次元の裂け目》

フィールド→墓地

《電脳基盤》

IV:3→2

 

 さらに、自壊といえどそれは《スクラップ》の効果で破壊されたということ。ゆえに余った破片からスクラップの不死鳥が生まれて黄昏のフィールドへと舞い降りる。

「スクラップが破壊されたことで墓地の《スクラップ・サーチャー》は蘇生する。

 カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

《スクラップ・サーチャー》

☆1・地属性・鳥獣族

DEF:300

墓地→フィールド

 

 

【黄昏】

1/3300

--△-- ●

--■--

【将生】

2/3600

-----  

-----

 

「私のターンだ!」

 

【将生】

手札:2→3

 

「驚いたよ、まさかあの布陣をこうも見事に一掃してしまうとは」

「嘘つけ。全然驚いてるようにみえねえぞ」

「ふむ、まあ葵と互角に渡り合える実力の持ち主だ。ここまでは予想していたよ。

 私は《サイバー・ヴァリー》を召喚してターンを終了する」

 

《サイバー・ヴァリー》

☆1・光属性・機械族

ATK:0

 

「《サイバー・ヴァリー》か……」

 将生が召喚したのは機械族のモンスターだった。効果を考えれば投入されていてもなんら不自然ではないが、その光景に焦っている人物が一人だけいた。

「《サイバー・ヴァリー》って、お父さんまさかそのデッキ!?」

「あ、あおいんどうしたの?」

「そ、そうですよ。あのモンスターがどうかしたんですか?」

 何をそんなに慌てているのかわからず、リリアと早乙女は思わず何事かと尋ねる。

「あれ、お父さんのメインデッキだ。私でも1度も勝ったことがないやつだよ」

「え、でもさっき……」

「手加減してもらって、何枚かカードを抜いてもらってたんだよ。《サイバー・ヴァリー》もその1枚。それに……」

 葵の脳裏に一枚のカードがよぎる。そのカードが発動されたとき、おそらく黄昏の勝利はない。

 

【黄昏】

1/3300

--△-- ●

--■--

【将生】

2/3600

--○--  

-----

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札:1→2

 

「……カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

【黄昏】

1/3300

--△-- ●

--■■-

【将生】

2/3600

--○--  

-----

 

「ふむ、この状況を打破するカードがないと見た。私のターンだ!」

 

【将生】

手札:2→3

 

「私は通常魔法《機械複製術》を発動! 攻撃力500以下の機械族モンスターと同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚できる。

 《サイバー・ヴァリー》をデッキから2体特殊召喚!」

 

《サイバー・ヴァリー》×2

デッキ→フィールド

 

 フィールドにさらに2体の《サイバー・ヴァリー》が現れた。実質戦闘破壊されないモンスターが3体も並んだことに流石に黄昏の表情も曇り始める。が、将生のデッキはさらに回り始める。

「私は《サイバー・ヴァリー》の3番目の効果を発動! 手札の《異次元の偵察機》と共に除外して墓地の《魂吸収》をデッキトップへ置く」

 

《サイバー・ヴァリー》

フィールド→除外

《異次元の偵察機》

手札→除外

【将生】

手札:2→1

 

「ああー、せっかく遊糸が破壊したのに……これじゃあ次のターンにまた発動されちゃうよー」

「ううん、このターンに発動されるよ、たぶん」

「その通り。次のターンを待つ必要はない。私は《サイバー・ヴァリー》の第2の効果でもう1体の《サイバー・ヴァリー》を除外して2枚ドローする!」

 

《サイバー・ヴァリー》×2

フィールド→除外

【将生】

手札:1→3

 

「そして手札に加わった《魂吸収》を再び発動!

 さらにカードを1枚セットしてターンエンドだ。この瞬間、除外されていた《異次元の偵察機》は攻撃表示で帰還する」

 

《異次元の偵察機》

除外→フィールド

 

【黄昏】

1/3300

--△-- ●

--■■-

【将生】

1/3600

--○--  

--□■-

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【黄昏】

手札:1→2

 

 カードを手札に加えながら、見据えるのは将生の伏せカード。《魂吸収》を発動したということは、つまりその類のカードの可能性が高い。

(パッと浮かぶのもなら《次元幽閉》、《奈落の落とし穴》、あとは『あのカード』か)

 思い浮かぶカードはどれもこれも非常に危険なカードだ。特に『あのカード』が発動されれば黄昏のデッキはほぼ完全に機能停止に陥る。

「考えてもこのままじゃジリ貧だし、やるしかねーか。俺は《スクラップ・サーチャー》をリリースして《スクラップ・ブレイカー》アドバンス召喚」

 

《スクラップ・サーチャー》

フィールド→墓地

 

「特殊召喚モンスターをアドバンス召喚か、何か考えてもあるのかな?」

「それはこっちのセリフだ。下手に効果使ったら無効にされて破壊、なんて馬鹿したくないからな。

 バトル、《ブレイカー》で《異次元の偵察機》を攻撃。[スクラップ・プレス]!」

 《スクラップ・ブレイカー》の腕が《異次元の偵察機》を叩き潰す。しかしそのボディを完全に破壊しきる前にその背後の空間に亀裂が走り、《異次元の偵察機》は異次元の狭間へと送られてしまった。

 

《異次元の偵察機》

フィールド→除外

【将生】

ライフ:3600→2300→2800

 

「《異次元の偵察機》が墓地ではなく除外……」

 黄昏の視線は将生のフィールド、もっと詳しく言うなら伏せカードだったものに向けられる。

「《マクロコスモス》。よりにもよって一番伏せてほしくなかったカードかよ……っ!」

「《スクラップ・ブレイカー》の攻撃宣言時に発動させてもらった。これで《異次元の偵察機》は不死身の壁となった! さあ、どうする?」

「……ターンエンド」

 ターンエンドを宣言した黄昏の目の前で、《異次元の偵察機》が帰還する。

 

《異次元の偵察機》

除外→フィールド

 

【黄昏】

1/3300

--○-- ●

--■■-

【将生】

1/2800

--○--  

--□□-

 

 《マクロコスモス》がある限り、モンスターはもちろん魔法・罠カードさえも除外される。この瞬間、黄昏の得意芸だった墓地発動の罠のストックは最初の数ターンで落とした数枚しか使用できなくなった。

 それでも黄昏の表情が絶望に染まることはない。誰にも気づかないほどの微かな笑みを浮かべると、黄昏は小さく舌なめずりをする。獲物を狩るために、なにより、葵の本音を聞き出すために……




除外相手にスクラップで挑むなんて無茶やったんや……
デュエル構成考えるだけで2週間かかるとは思いませんでした

ピークは越えたんですがまだ1週間ほど予定が詰まっているので、また日曜日の更新になりそうです
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