探くんはいつも突然お節介を焼く。
通りすがりに、
道に迷っている人に、
パーキングエリアにあるドライバーに。
でも僕だけは知っている。
そのお節介が実は皆んなを守っているのだという事を。
本当のヒーローとは事件すら起こさずに水際でそれを防ぐ存在なのだと僕は思う。

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探(さぐる)くんは町を守っている

ヤバいやつに出くわした。

今日こそは計画を成功させてやると息巻いていた俺はもういない。

今は一刻も早く、この鞄のブツを処分して、元の平穏な生活に戻りたいと家路を急いだ。

 

はじめは偶然だと思った。

それほど電車は混んでいない。

なのに、ピッタリと隣の席に座られる。

これが美女なら俺も歓迎なのだが、相手は男子高校生くらい。

俺にそっちの趣味はねえ。

それに、今日の俺は重大なる使命で頭がいっぱいなのだ。

あまり気を散らされたくない。

俺は座っていた席を横にズレ30センチくらい間隔をとった。

「ご旅行ですか?」

せっかく空けた間隔を詰めながらその高校生は話しかけてきた。

無碍にするのも悪目立ちしてしまう、

そう考えた俺は、面倒臭えと思いながらも、

「ん?ああ…」

と曖昧に頷く。

「そうなんですね。お荷物の感じから一泊ですか?」

明らかに気のない返事をする俺にさらに話しかけてくる。

「止めろ!目立っちまうだろうが!」

と怒鳴りつけたかったが、そんな事をすれば

それこそ目立ってしまう。

「まあ…な。仕事だ、仕事。」

怒りを抑えて極力素っ気なく聞こえるように答える。

「仕事…ですか。スーツでも無いし、この路線でこの時間…、

 あっ!今夜シティーホールで行われるライブですか!

 アイドルグループの『ノーマーク』!

 えっ!おじさん!会場の関係者の方ですか?」

俺はドキッとした。

素っ気ない態度にも構わずズケズケと踏み込んでくるこの少年のコミュ力の高さにでは無い。

少年が、私の目的地をピタリと当てたからだ。

「っ!こ、こらっ!声が大きい」

人に聞かれては計画に支障が生じるかもしれないと、少年を静止する。

せっかくコンサートに潜り込む為にスタッフジャンパーや偽の通行証を準備したのに、関係者に見られたら潜入が難しくなってしまう。

そんな俺の様子を気にするでもなく、話を続ける。

「そういやあのグループのセンターの人、この前熱愛報道出てましたね」

それを聞いて、思わず俺は、

「ああ!散々ファンに支えられてきた癖に裏切りやがって!」

声を荒らげてしまう。

しまったと思ったが、後の祭り。

他の乗客も何事か?と訝しげにこちらを見ている。

しかし、少年は何事もないように軽い調子で、

「そうですよねー。そう言って怒ってるファンの人もいるらしいですね。

 いやあ、アイドルの人も大変ですよねー」

と、笑っている。

周りの乗客も争い事が起こった訳ではないと分かり、

興味を無くしたのか、スマホを見たり、雑談をしたりと

それぞれの日常に戻っている。

俺は少しホッとしつつも、これ以上、このガキに関わっては命取りだと思い、席を立とうとするが。そんな俺を知ってか知らずか、少年が、

「でも、そういうファンが暴走するとしたら、どんな方法ですかね?」

と何やら思案し出す。

そのセリフに俺は動けなくなる。

今動けば、逆に疑われてしまう。

そんなプレッシャーがあった。

真っ白になる頭の中にガタン、ゴトンと電車の振動だけが響く。

既に俺の背中は冷や汗でびっしょりになっていた。

「…あ、まあどうだろうな。逆上するファンなんてバカだから、

 ナイフで切りつけたりするんじゃないか?」

震えそうになる声をなんとか抑えて、なんでもない雑談のように、

努めて答える。

しかし、少年は、一度俺が大事そうに抱える鞄を見ると、

「…爆弾だね」

そう断定した。

俺は脳天から稲妻を受けた様な衝撃を感じ、愕然とする。

このガキはこのカバンの中のアレを知っているのか?

何か言わなきゃマズいと口をパクパクするが何も言葉が出てこない。

そんな俺を尻目に、

「僕だったら、爆弾でアイドルもそんなのをいまだに応援している奴らも一緒に吹っ飛ばしてやりますよ」

と笑っている。

「なんだよ、見かけによらず過激なやつだな」

と、俺も笑う。笑いながらも心臓はバクバクだ。

なんだ例え話かよ!と安心しながらも少年がどこまで分かっているのか、分かってて何故怖がりもせずに話しかけてくるのか、少年が不気味で仕方が無かった。

少年は笑いながら、なおも続ける。

「ランウェイステージの先頭に例のアイドルが来た時に観客もろともドカーンですね」

もう間違いねえ。

こいつは知ってやがる。

俺が仕掛けようとしている場所すら言い当てやがった。

もうダメだ計画はご破算だ。

俺は、次の駅に着くや否や

「あ、いけねえ。忘れ物をしちまった。取りに帰らなきゃいけねぇや。

 それじゃあ、ここであばよ」

と逃げる様に電車を降りた。

 

駅に着くと、激しく脈打つ心臓と冷や汗がおさまるまで、

しばらく茫然と、ホームのベンチで休んでから家路を急ぐ。

今、このカバンの中にあるアレ、爆弾を早く処分しよう。

俺に爆弾魔なんて大それた事出来る訳が無かったのだ。

急にカバンの中身が見つかる恐怖が頭を支配する。

見つかる訳がない。

と頭で考えてもあの少年の何もかも見透かした目を思い出し震える。

とりあえず家に。

家に帰ろう。 駅を出ようとしたその時、

遠くて駅員が俺を指差しながら仲間と近づいてくる。

「いたぞ!」

声が聞こえた訳では、そう言っている事は分かった。

その様子から彼らがはじめから私を探していた事は察しがついた。

あのガキだ。

やっぱりあのガキは、俺の計画に気付いてやがった。

根拠はなかったがそう悟った。

俺は計画の露呈と俺の挑戦が終わった事をなんとなく察した。

駅員が警官を伴って近づいてくる。

俺は観念してその場にへたり込んだ。

 

探くんの凄さを僕は知っている。

爆弾を持ち歩いていた不審人物を警察が捕まえたニュースを見て、

僕は改めて探くんの昨日の異様な行動の意味が分かった。

こういう事は初めてではない。

いつも探くんのおかげで事件が事件になる事もなく終わっている。

だから、誰も気づかないのだろう。

あの時もそうだ。

僕たちが学校から家に向かって歩いていると、

とあるカップルを物陰から睨みつけている女性がいた。

何故かカバンの中に片手を突っ込んでいた。

それを見るや否や、探くんは大きな声で思い出話のように話を僕に話しかけた、

「大学生に彼女とられたけど、今となっては良い思い出だよ。

 初めて二人で行った遊園地で一緒にはしゃいだ事、

 プレゼント選ぶのに半日かかった事とか、

 全部、良い思い出さ。今じゃ感謝しかないよ」

と大きな声で。通りすがりに物陰の女性にも聞こえるくらい。

僕は、

「えっ?探くん彼女いた事ないじゃん」

対応としたが、探くんは人差し指を口に当ててそれを止める。

次の瞬間、

「うわああぁぁー!」

突然、怪しい女が泣き出す。

「辛いですよね。でもおねえさん綺麗だから、大丈夫ですの」

いつの間にか女性の側に寄り添っていた探くんが女性を慰める。

その後、その場でそのおねえさんの愚痴を小一時間聞かされる事になったが、その頃にはおねえさんは何やらスッキリした顔になっていた。

帰り際、おねえさんの鞄の中に包丁のようなものチラッと見えてヒヤッとしたのを覚えている。

 

他にも、パーキングエリアで男性にブラックコーヒーを突然プレゼントしたり、

道を教えてくれと少女に声をかける乗用車の男に「代わりに僕が」と道を教えてあげたりと、

突然、急に探くんは余計なお世話をしたがるが、多分それも誰かを救っていたに違いない。

よくテレビアニメやドラマでヒーローが格好良く事件の真相を暴いて活躍する場面が流れるが、本当にすごい奴は事件すら起こさせずに、未然に被害も出さず、危険があった事すらも誰一人気付かせない。

そういう存在なんだと思う。

そんな事を考えていると、テレビでは次のニュースを流していた。

ニュースでは自衛隊の訓練に抗議する人々が映し出されていた。

そんな奴等に批判されている自衛隊の皆さんと探くんが僕の頭の中で重なる。

「報われないよな…」

僕はそっと呟いた。


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