リリカル!黄金十字! ──What a beautiful nostalgia──   作:るべおら

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何も起こらない、日常。


第十話 子煩悩

 

『作り物の命は所詮作り物』

 

母さん

 

『何処へなりとも消えなさい…』

 

母さん…っ

 

『大嫌いだったのよっ!!!』

 

 

──────────っ!!!

 

 

 

* * * *

 

 

 

「…っ!はぁ…はぁ…」

 

早朝。

身体が跳ねて、目を覚ます。

…最悪の、目覚め。

 

昔…PT事件以降によく見ていた夢。

 

「…はぁ…最近は……見てなかったのにな」

 

最近は毎日が幸せで…

悪夢なんて、見ている暇が無かったから。

 

でも、違う。

今日は、見た。見てしまった。

何故だろう。

 

………なんだか、すごく…

嫌な予感がする。

 

 

 

…母さん…

 

父さん─────

 

 

* * * *

 

 

 

「その…父さん。…どうぞ…」

 

広い屋敷の、二階に位置する居間。

そこに、2つの人影がある。

1人はゆったりとしたソファに座り、何故かとても偉そうにふんぞり返っている男。

そう、この屋敷の家主であるハルトである。

 

もう1人は金色の髪をなびかせ、慈愛に満ちている紅い瞳をした少女、フェイト。

 

2人がこの屋敷で暮らし始めてからそろそろ1週間。この様子では2人暮らしはうまくいっているようだ。

何てことのない、有り触れた景色…

 

の、筈なのだが。

フェイトが『何故か』着ているメイド服なる物、それのみが一般的な風景を著しく害している。

…まぁ、これ以上なく似合ってはいるけれど。

 

 

「ん」

 

恐る恐ると、フェイトがハルトにカップを渡す。

 

過度な装飾が控えられたカップからは湯気が立ち昇り、コーヒーの芳しい香りが部屋中に漂っている。

ハルトは居間のソファに深く腰掛け、フェイトの持ってきたカップを受け取ると鼻を寄せ2回3回と香りを楽しんだ。

優雅に。

気品に。

…勿論、流し目で気付かれぬようにフェイトのメイド服姿を観察するのを忘れない。

 

ちなみにこのメイド服、リンディが引越し祝いと称して贈ってきたものである。

とある事情でメイドなど腐る程見てきたハルトだが、フェイトのこの姿には驚いた。

勿論、先に出会ったメイド達の方が動きは洗練されている…が、フェイトはそんな次元ではない。見るもの全てに癒しを与える何かがそこには存在していた。

初めてそれを見たハルト(親バカ)は、そうするのが当然のようにべた褒めをしまくったらしい。

以来、たまにだが屋敷でメイド服を着たフェイトが見られる時があるのだとか。

ほんの少しのジェネレーションギャップに肩を落としたハルトだが、フェイトならば仕方ないと無理矢理自分を納得させ、コーヒーを飲もうと手を伸ばす。

 

カップを傾け一口飲むと、目を瞬かせて一言

 

「美味い」

 

…その一言に、フェイトは安堵した様に強張っていた肩の力を抜く。

その顔にはだんだんと喜色が表れてきていて、傍目から見ても「私、嬉しいよ…」と言いたげなのがわかる。というか、口に出していた。

大変可愛らしいそのフェイトの姿に、無性に頭を撫でたくなったハルトだが、そこは意地を通してコーヒーに集中する。

 

…元々、フェイトはコーヒーを淹れるのには少し自信があったのだ。

それは、なのはの父親で喫茶店のマスターである士郎から少しだけ教わっていたためであり、そこらの下手な喫茶店よりは上手いというお墨付きも貰っている位で。

 

『ハルト先輩はコーヒーに関しては厳しいわよぉ?』

 

ミゼットからそう聞かされていたフェイトはそれこそ、正に今から生存確率の低い戦地に赴く戦士のような心持ちでハルトにコーヒーを振る舞ったのだ。

…以前までのフェイトだったなら、もし「不味い」と言われたら…という恐怖でコーヒーなど振る舞えはしなかったろう。

ハルトは昔のフェイトを知らない故に「うむ」と不遜な頷きを一つするのみだったが、もしここにリンディやアルフが居たのなら、成長したねフェイト…と涙の一つくらい落としても不思議ではない。

 

「ほ、本当に…?本当に美味しい?」

 

「美味い。強い苦味が絶妙だ」

 

そう言うハルトはいつもの無表情なのだが、一緒に生活しているフェイトだからこそわかる。

これは上機嫌な時の父さんだ、と。

 

それはえっと…つまり、父さんは私のコーヒーを飲んで上機嫌な訳で…

 

「え、えへへ…///」

 

つい、頬が緩んでしまう。

 

いつもフェイトはコーヒーを普通よりも少し苦めに淹れるのだが、どうやらそれがハルトはお気に召したらしい。

みんなに万人受けはしないコーヒーだと言われたこともあり最初は普通に淹れようとしたのだが、ハルトの要望は「フェイトがいつも淹れているコーヒー」とのこと。

不味いと言われたらショックもでかい…何故ならそれが自分の好みのコーヒーだから。

そんなこともあり恐々としていたフェイトだが、ハルトはこの苦めのコーヒーを美味いと言ってくれた。

それが嬉しくない筈はない。

 

フェイト自身も何時もの定位置…ソファに座っているハルトの隣…に腰掛け、コーヒーを飲む。

 

うん…何時もの味。

 

どこの家庭でもある、普通の一時。

だが特殊な出生を持つフェイトにとって、それは何にも代え難いものである。

2人は3回4回とカップを口に運んだ後、何気ない会話を交わし始めた。

 

「父さんは今日出かけるんだっけ?」

 

「ん。翠屋へ行く」

 

翠屋。

なのはの両親が営む喫茶店だ。

 

「翠屋?」

 

「リンディに呼ばれた。何やら高町夫妻に私を紹介したいらしい」

 

「桃子さん達に?」

 

「あぁ。まぁ丁度いい。お前が迷惑をかけている高町やその親には…私も会いたいと思っていた」

 

うっ…そんなに迷惑はかけて無いと思うんだけどなぁ…

それにしても翠屋で…か…

いいなぁ…私も行きたいなぁ…

 

と、そんなことを考えていると

「フェイトは何か予定があるのか?」

 

「私?…特に無い…かな」

 

悲しいことに、フェイトは本日予定など無かった。

少しだけ「父さんと過ごせるかなぁ」などと思っていたフェイトは、ハルトが出かけると聞いて項垂れてしまう。

 

「そうか」

 

そうかって…それだけ?

なんとなく不満が募るフェイト。その頬を餅のように脹れさせて…

愚痴を、一つ。

そんなフェイトを見て、ハルトは苦笑しつつ

 

「土産は買ってくる。…待ってろ」

 

そう言って、フェイトの触り心地の良い髪をひと撫で。

 

「…黒か」

 

「えっ?」

 

「いや…行ってくる」

 

「うんっ。いってらっしゃい♪」

 

笑顔で見送るフェイトだが…

この場合は哀れというべきなのだろうか。

 

フェイトは、気付かない。

 

ハルトの電子を操る能力、それに準じたスキャンの応用で、自分の黒い下着が覗かれているという事実に…

 

 

* * * *

 

 

カランカラン

 

ドアに付けている鈴が鳴る。

それは、ご多聞にもれずお客様の来店の合図である。

 

「いらっしゃいませー」

 

ほぼ条件反射で口に出すこの言葉だが、高町桃子にとってはこれはとても大切な言葉。

しっかりと相手の目を見て、を心掛けている彼女。

この店の評判が良いのも、それが一因かもしれない。

 

「いい店だな、レディ」

 

入ってきたお客様。

背の高い…士郎さんよりも高い男の人。

金の髪。赫い瞳。

身長は高いけれど…見たところ、おそらく年齢は20前後位だと思われる。

…瞳だけを見れば、倦んだ老人の様だが。

でも、ボソリと呟くような声音なのに、不思議と桃子の耳に強く残って。

それが、先程の言葉が彼の本音からの言葉だということを教えてくれる。

 

「ありがとうございます」

 

だから、こちらも笑顔で答える。

 

「リンディの紹介で来た。高町なのはの母親に会いたいのだが…」

 

リンディの紹介?と、桃子は少し疑問を持つ。ということは…魔法?関係の人かしら?

 

「はい。私がなのはの母ですけど…」

 

桃子が軽い気持ちでそう言った瞬間…

 

「─────は?」

 

その男の人は、何故かその場で固まってしまった。

その表情は道端の石ころが宝石にでも化けたかのような反応で。

 

「高町桃子です。失礼ですが…貴方は?」

 

「…あ、あぁ…こちらこそ失礼した、ミセス。私はハルスタッド・ローゼンクロイツ。此方でよく世話になっている、フェイト・T・ハラオウンの父親だ」

 

「─────はい?」

 

その言葉に、今度は桃子が固まった。

 

フェイトちゃんの父親?いやだって…え?

若過ぎないかしら…?

 

「…」

 

「…」

 

お互いがお互いを信じられないと言うように見つめ合う。

 

…ちなみに、その見つめ合いは遅れてきたリンディが来るまで続いていたらしい。

 

…そんな桃子と見つめ合っているハルトを士郎がカウンターからずっと睨みつけていたのだが…

殺気に満ちたそれを、ハルトはまるで気づいていないかのようにスルーしていた。

 

何者だ…?

 

これが、ハルトの桃子を除く高町一家3人の感想だった。

 

 

* * * *

 

 

「驚いたな…まさか貴方が子持ちの母とは。美しい上に若い。ミセス・モモコはまさに青空の様な女性だ」

 

口にするだけで死にたくなるようなキザなセリフを平気な顔でのたまうハルト。

 

「あら。もう、調子がいいんですから…」

 

「ウフフ…ハルトさんは感性が一昔前なのよね」

 

…考えようによっては少し失礼なリンディの発言も、残念ながら事実である。

ハルトが育ったのは、異世界ではあるが地球の20世紀…

地球上での純粋な計算でも優に100を超えている。我々のお爺ちゃん世代ということだ。

(ハルトは様々な異世界、未来、過去を練り歩いているため、単純に年齢計算はできないが)

 

「…美味いな。このスイーツは君が?」

 

「ええ。昔パティシエをしていまして」

 

「道理で。特にこのシュークリームは絶品だ」

 

「あら。ありがとうございます」

 

「でも桃子のシュークリームも絶品だけど、士郎さんのコーヒーがあるとまた違うわよね」

 

「士郎さんは私の自慢の旦那様ですから♪」

 

「確かに。本当に美味いな、このコーヒーは。やはり本職ともなると違う…その上私が飲んできたコーヒーの中でも美味い。素晴らしい店だ」

 

「ハルトさんは色々な国に行ったことが?」

 

「地球だけでも五周はしたな」

 

「本当ですかっ!?それじゃあ後でスイーツの詳しい感想を頂いても?」

 

「構わん」

 

「やった♪」

 

などなど。

保護者同士の談笑が展開されるここ、翠屋。

周りの客のほぼ全員が3人に視線を向けている。

まぁ全員が子持ち、その癖に見た目はまだ大学生で通じるような美男美女達が談笑していたら、一目見ずにはいられないのもわかるというもの。

 

「ミセス・モモコは…」

 

「桃子、でいいですよ」

 

「…わかった。ならばモモコも敬語じゃなくていいぞ。私達は親同士…それに、私だけ不敬というのも肩身が狭くてな」

 

「了解♪」

 

「それで、モモコは何処でパティシエの修行を?」

 

「主にフランスとイタリアかしら?」

 

「成る程フランスか…マルセイユ洋上学園都市にもこれほどのスイーツは無かったが」

 

「え?」

 

「すまない。此方の話だ」

 

そう言ってハルトはコーヒーのカップを傾け、一口。

 

「…フェイトが今朝淹れたコーヒーに何処と無くだが似ているな」

 

「あぁ、フェイトちゃんは士郎さんにコーヒーを教えて貰っていたのよ?」

 

「ほぅ、そうか。士郎殿には後で私からも礼を言わねば」

 

そしてハルトが士郎に視線を向けたその時に

 

「ハルトさんっ!フェイトさんにコーヒー淹れてもらったの!?」

 

何故かリンディが焦ったように問いかけてきた。

 

「何故驚く…」

 

「ずるいっ!私なんて淹れてってお願いしても恥ずかしがって淹れてくれなかったのに!」

 

「実に美味かった。あれの淹れるコーヒーは私に合っていて」

 

「うぅ…」

 

…いい年した女性の反応とは思えないが、リンディならば許される…特権だ。

 

そこで、クスクスという笑い声が桃子の方から聞こえる。

 

「どうしたの?桃子」

 

「いや…仲良いなぁと思って♪2人とも夫婦みたいよ?」

 

「なっ…何言ってるの桃子っ!」

 

「まぁ…同じ(フェイト)を持つ間柄ではあるがな」

 

「ふふっ…♪リンディ可愛いわよ♪」

 

「桃子っ!!」

 

 

 

 

 

「見て!このなのはっ!可愛いでしょ♪」

 

1時間後、談笑していた3人は趣向を変えてアルバムを囲んでいた。

 

「あら…5歳くらいかしら?可愛いわね…」

 

「愛らしいな」

 

「でしょ♪この頃のなのはずっとこの帽子被っててね…」

 

アルバムに映っているのは、どうやら高町なのはその人の子供の頃の写真らしい。

 

「ん、これはフェイトか。9歳の頃会ったというからそれぐらいか?」

 

「そうね。この頃のなのはったらずっとフェイトちゃんフェイトちゃ「にゃぁぁぁっ!!!お母さん何してるのっ!!!???」…あら、なのは?」

 

桃子のセリフを遮って此方に駆け寄ってきたのは、当の本人である高町なのは。

その後ろにはフェイトもいる。

 

「フェイト。来たのか」

 

「うん、父さん。…邪魔、だったかな?」

 

「お前が邪魔な筈は無い。私の隣に座れ」

 

「うんっ♪」

 

「フェイトさんったら…本当に甘甘ね。少し私は寂しいわ…」

 

そんなことを言っている間に、もう一方のなのはは桃子からアルバムを取り上げようと奮闘していた。

 

「もうっ///!やめてよっ!」

 

「酷いわなのは!今から私達はちょっとした子供自慢大会をする予定だったのよ?」

 

「なにっ///!それっ///!」

 

周りのお客の迷惑になるのではないか…

否。周りのお客は全員が微笑ましげに見るのみで大した問題ではない。

 

「父さん達。アルバム見てなにしてたの?」

 

「別にどうもしない…が、強いて言うなら先程桃子が言っていたように子供自慢といったところか」

 

「子供自慢?」

 

「そうよ。ほら見てー♪このクロノ可愛いでしょ?」

 

そう言ってリンディが取り出したのは通信端末…地球でいう大きめの携帯の様なものだ。

流石にここでモニターを出すわけにはいかないので、写真を端末に表示して見せる。

 

「本当だ。クロノちっちゃいね」

 

「7歳程か?…それにしては大人びているが」

 

「えぇ…この頃からしっかりして手間のかからない子だったわ」

 

「あ、こっちはエイミィと映ってる。…この頃から仲良かったんだね」

 

等々、クロノとエイミィの小さい頃の写真で盛り上がる3人…

桃子となのはの喧嘩…というかじゃれ合いも終わったらしく2人も此方に加わる。

 

「…と、これはフェイトか?」

 

「あぅ…///」

 

「そうね。聖祥に転入してすぐかしら」

 

「流石フェイトだ。天使の如く愛らしい」

 

「ちょっ///!?父さんっ!?」

 

共に暮らしている以上、ハルトのこのストレート過ぎる物言いを必然的に多く受けるフェイトだが…

慣れずに今でも初々しい反応を見せてくれることを、ハルトは大変気に入っている。

 

「もう…。父さん達はなんでいきなり子供自慢なんか?」

 

「いきなりではないぞ。私達はそれぞれに自慢の子供がいることだし…必然といえる」

 

「じ、自慢の子供って…///」

 

大変に微笑ましい、この光景。

だがそれを面白くなさそうに見つめる者がいた……勿論、リンディである。

 

「…でも、ハルトさんとフェイトさんは髪の色とか瞳の色は似てるけど、顔立ちはあまり似てないわよね?…目元は少し面影あるけど」

 

手元のコーヒーをシルバーでかき混ぜつつ、リンディが問う。

……内心、なんとかして2人の会話に入りたい気持ちで一杯の提督。大した腹芸である。

 

「それはそうだろう。フェイトは私ではなくプレシア似だからな」

 

「…!プレシア母さんと…?」

 

「あぁ。お前は幼い頃のプレシアにそっくりだ」

 

「そ、そうなんだ…」

 

その時のフェイトの胸中は誰にも分かる筈は無いだろうが…それでも、その表情からは確かな喜びが見て取れる。

…フェイトの様子にハルトは内心で舌を巻いていた。

…全く、なんて優しい子だ。

 

ハルトは、ここ1週間でミゼットの手引きにより過去の事件…PT事件の全貌をある程度把握していた。

その当時、心の壊れたプレシアがフェイトに対してどの様な仕打ちをしたか、など。

…そのプレシアに対して、フェイトは未だに確かな愛情を向けている…

これ程心の綺麗な子はそういない。

 

「ハルトさんはプレシアさんといつ位に会ったの?」

 

いつの間にやら会話に参加していた高町なのはな興味本位でハルトに尋ねる。

 

「ん…今から50年以上前だ。次元犯罪者によって壊滅させられた街の、廃墟になった教会で死にかけていた5歳のあれを拾った。…生存者はプレシア一人だったな」

 

 

「「「……」」」

 

 

少しだけ垣間見た、プレシアの過去。

壊滅させられた、都市。

 

「苦労したよ。プレシアは最初目が見えなくてな、私を漁りの犯罪者だと思って怯えていたんだ」

 

「目が…見えなかったの?」

 

そういえば、ミゼットさんが御伽話と称した話にそんな事を言っていた気がする。

 

「失明の場合にもよるけど、目を治療するのは簡単な事ではないでしょう?どうやってプレシアさんは視力を?」

 

「私が治療した。…大抵の怪我、欠損も治せるが、私が最も得意なのは眼の治療だ。光を与えればいいだけだからな」

 

…念のために言うと、勿論そんな簡単にはいかないし、光を与えるという御伽噺にも思える表現はイマイチ今の魔導師には理解できない。

…当然だが、一般人の桃子は蚊帳の外である。

 

「えっ…光を与えるというのは?そういう術式の治療法があるということですか?」

 

「否。…君達には今一つ理解が出来んだろうな。君達が行使する力は科学とも言える故に」

 

一呼吸。

 

「だが、私は違う。…ローゼンクロイツの名を持つ私が言うのも笑止だが、私の魔法は正しく魔法であり、科学ではなく御伽の類だ」

 

 

…当然、彼の言うことの半分も理解できない一同。

魔法関係者であるはずのなのはも、桃子と共にほえーっとしている。

わからなすぎて考えることを放棄したらしい。

 

とはいえ、貴重な話だったのは事実。

 

…そして、この場で言う話ではない事もまた、事実である…

 

士郎の淹れたコーヒーは、いつの間にか冷たくなってしまっていた…

 

 

* * * *

 

 

「父さん」

 

「ん?」

 

夜、屋敷の居間で寛いでいる2人。

外は既に太陽が沈み、淡い月の光が地表に降り注いでいる。

 

「…私、父さんの話聞きたいな」

 

「…」

 

「…プレシア母さんの、話とか」

 

俯きがちにフェイトが言う。その瞳には微かな期待と…

微かな、恐れ。

 

「いずれ、話す時が来るだろう」

 

返事は、それ。

手元のワインを傾けて、嚥下する音が居間に響く。

 

「…そっか」

 

残念そうに顔を背けるフェイトだが…ハルトは気付いていた。

フェイトのその表情に、確かな安心があった事を。

ホッとした、フェイトの心を。

 

「じゃあ!父さんの話をしてよ!」

 

顔を上げて、突然明るく言い放つ。

 

「私の?」

 

「うんっ!例えば…この前のシグナムとの模擬戦とか!」

 

「あぁ…あの美しい夜天の騎士か。強かったな」

 

「…父さんは、あの時全力だったの?なんだか余裕そうに見えたけど…」

 

「全力ではない、と言っておこう。全力なんて出したら相手が死ぬ。…まぁ、速度は本気だったがな」

 

「そうなんだ…一度でいいから父さんの本気、見てみたいなぁ…」

 

ボソリ、と呟いたフェイトの言葉に

 

「その内時が来るさ。…嫌でもな」

 

「…え?」

 

「いや、何でもない…」

 

フェイトは一瞬だが確かに感じた。嫌でも来ると言ったハルトが…明らかな殺気を持っていた事を。

 

「それに、私は今全力など到底出せん。黄金十字の担い手が目覚めていないからな」

 

「黄金十字?」

 

聞きなれない単語だ。黄金十字…うん。

 

「黄金十字は私に輝きを与えてくれる物。輝きを持つ者が祈る祭壇。…まぁ、魔導師のイメージだと召喚道具が一番近い。輝光王たる私を呼び出すための物だから」

 

うん。わからないかな。

 

「へぇ…その黄金十字っていう物があれば、父さんの本気が見れるって事?」

 

「いや。無理だ」

 

「なんでっ!?」

 

「それはそうだろう…私が全力など出したら」

 

不遜な声。瞳。

まるで、自分より強い者などこの世に存在しないと言い張っているような…

そんな、越え。

 

「宇宙が砕けてしまうからな」

 

 

 

 

 

「父さん。…その、お願いがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「その…体術を教えて欲しいんだ」

 

「何故?」

 

「…強くなりたいから。強くなって…沢山の人を護りたいから」

 

「…ん。わかった」

 

「本当っ!?」

 

「あぁ」

 

「ありがとうっ!」

 

 

 

 

 

…勿論、いいだろう。

 

お前には、強くなってもらわなければならないから。

 

…これから来る黒に負けぬ様に。

 

なぁ……

 

気付いているのだろう?

 

輝きを嘲笑する影なるモノよ。

 

美しきを食らう醜い鱗よ。

 

…私は、帰ってきたぞ。

 

 

─────故に。

 

 

今度こそ、決着を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ローゼンクロイツ』

 

『支配を嘲笑せし薔薇十字』

 

『愛を尊ぶ黄金十字』

 

『輝き纏し裏切りの魔人』

 

『イースの偉大なる種族、その末裔』

 

『いや、北欧の光の神と言うべきか』

 

『─────やはり、生きていた』

 

『我が、天敵』

 

『まずは、ほんの腕試し』

 

『せいぜい足掻け。輝光王』

 

『憐れなりし輝光王』

 

 

 

『貴様の救いは、届かない』

 

 

 

 

影が─────動く。

 

 

 

 

鱗が─────蠢く。

 

 

静かに。

そして、柔らかに。

 

 

決戦の日は、決して遠くはないだろう。

 

 

 

 

 




思った以上にハルトが枯れてた。
どうしよう…この人ちゃんとモテモテ主人公になれるの?不安しかないんですけど。

次は早目の更新で。
…そろそろエリオ出てこないかなぁ…

≪鱗≫
完全にオリジナルキャラクター。
諸悪の元凶で、正体は不明。


さて、目覚めていない黄金十字とは何なのでしょうかねー…
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